国際金融市場から見たアベノミクス 

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「日本株を買っているのは新顔の外国人投資家。日本の機関投資家はまだ入っていない」(高野)

水野弘道氏(以下、敬称略):「アベノミクスについて金融視点から話をして欲しい」とのことで設定された本分科会だが、このテーマはたとえば経済学論争的な角度等、さまざまな視点から議論出来る。ただ、本セッションでは基本的に「市場参加者が何を考えているか」という視点で議論したい。経済学が役に立たないという意味ではないが、市場は経済学者の言う通りに動かない。経済学上「AかBのどちらが正しいか」という議論はあっても、その結果どちらかに100%“張る”投資家はいない。仮に、たとえば私と高野さんがまったく違う意見でそれぞれ異なる対象に100%投資しても、相場としては50:50になる。現実はどちらか一つが“正しい”理論に収れんするというようなものではないのだ。従って会場の皆さまにも、「市場にはこういう考え方をもった人々が混在しているのだな」という感じを持っていただければと思う。(01:30)

まずは現状について伺っていこう。安倍政権の誕生前からほぼ5カ月間、株価は上昇し続けており、円安にもなってきた。ただ、実際にはまだ口先介入しかしておらず、それでもマーケットが動いているという状態だ。では誰が買っているのか。その辺については日銀や東証が発表している資料を読めば分かるが、無論、日本人、外国人、機関投資家等、色々な人が買っている。ただし今までの上げ相場というと、外国人が一気に買うことで上がっていくが、日本人が乗ってこないので3カ月ほど経つと利食いで売って終わりと。その繰り返しだった。では今回、どんなプレイヤーが買っているだろう。(04:33)

Jesper Koll氏(以下、敬称略):最近は外国人投資家のあいだでも日本が大きなテーマとなり、約3カ月間で4兆円ほどの日本株が買われている。ただ、当社での数字を見る限りまだアンダーウェイトだ。グローバルファンドのベンチマークを見ると日本株のウェイトは本来11%前後だが、現在は平均で全ポートフォリオの8%前後。直近2〜3カ月で6%から8%へ上昇したが、それでもまだ中立ではない。(05:44)

では投資家は何を待っているのか。マクロ政策への期待からマーケット全体では株価が上昇している。これは良かった。ただ、今後は収益性を本当に高められるかが課題になる。たしかに円安だけでも良い影響はある。当社の試算によれば、およそ10%の円安で東証1部上場企業の収益は12%増になる。従って今後1年間で、日本企業の収益は約50%増となる可能性もあるだろう。しかし本当にそうなるかはまだ分からない。次の大きなポイントは本決算になる。企業の2013年度企画とその業績予想を投資家は待っている。まだバイイング・パワーはあるということだ。(06:32)

水野:日本の投資家はどうだろう。今はまだニュートラルなのだろうか。(07:56)

Koll:これが面白くて、日本人投資家と食事をしていても人事の話ばかりしている(会場笑)。外国人投資家は今のところ(日銀)総裁は誰でもいいと思っている。現在候補に挙がっている方々のなかでも「この人は駄目」という人はいない。それよりも‘Show me the fact.’。いずれにせよ外国人と日本の個人投資家はすごく動いているが、今のところ日本人の機関投資家は参加していない。(08:02)

水野:高野さんはいかがだろうか。(09:01)

高野真氏(以下、敬称略):今回はああいった形で“超”量的金融緩和を決めて動いていくことになった。それで昨今はアベノミクスの是非について、あるいは「量的金融緩和は効くのか否か」、「金融緩和が為替に効くのか否か」といった議論がかなりなされている。しかしマーケットをずっと見ている立場としては、そのような議論自体に違和感を持つ。そもそも「お金をばんばんと出せば基本的に株価は上がるし円安にもなるでしょう」というのが我々の常識だ。日米の株価を見ていても、債券の動きを見ていても、世界のマーケットから見れば今の動きは正しいということだと思う。先週、カリフォルニアのグローバル本社で同僚に「アベノミクス、どう思う?」と聞いてみたが、「オールポジティブだ。悪いことはないだろう」と言っていた。韓国やドイツが通貨戦争への懸念のようなことを言ってはいるが、彼らは長らく自国の為替安で喜んでいた訳で、日本に文句を言う権利もないと。基本的に皆がポジティブだと思う。(09:04)

で、水野さんのご質問にお答えすると、今の動きは外国人が主導しているというのがまずひとつ。それと、日本市場、特に日本株に慣れた人であればあるほど日本株が嫌になっており、「絶対に投資をしたくない」と思っている。損をした人ばかりだ。ということは、今まで損をしていない人が入ってきている。これも大きな特徴だと思う。明らかに外国人だ。しかも比較的最近の人だろう。彼らがどこを見ているかというと、いわゆる経済合理性。「日本は世界第4位の貿易国だから円安になれば株価は上がるだろう」といった、極めてシンプルなロジックで入ってきていると思う。(10:38)

では日本人はどうか。そもそも日本人は日経平均3万9000円台から下がり続けてきたこの15〜20年で痛めつけられてきたから、ちょっとやそっとでは動かない。ただ、それを差し引いても今回のエネルギーはすごいと思う。特に株式市場。私は1987年から証券会社のリサーチ部門にいるが、そのなかでもあまり見たことがないほどだ。株価は日々のランダム・ウォークになると言われているが、たとえば野村證券株は14日連続で上がっていった。確率として大変珍しいことが起きている。そこで「おや?」と思う日本人がやはり出てくる。(11:28)

長らく痛めつけられてきた日本人がそのエネルギーを確信したらどうなるのか。たとえば年金運用資産の割合を見ても、かつて日本株は約4割だったものが今は15%前後まで下がってきている。外国人投資家もKollさんが仰っていた通りで基本的に日本株をアンダーにしている。そのゆり戻しが相当ある筈だ。従っていわゆる3本の矢が政策としてきちんと続くのであれば、今のエネルギーは今後、日本人投資家に繋がっていく可能性がある。ただ、これだけ大きなエネルギーであればその期待が剥げ落ちた際の反動も大きい。そのぶんリスクも大きい相場になっていると言えるのではないか。(12:24)

水野:Jesperの言うアンダーウェイトとは、全世界のポートフォリオに占める日本株の“通常あるべき割合”に対してアンダーウェイトという話だと思う。この場合、何をもとにアロケーションを決める投資家が多いのだろう。(13:09)

Koll:「MSCI EAFE INDEX」や「MSC WORLD INDEX」等、色々あるが、各国の時価総額で見た世界の全株式市場に占める日本株比率という形で考える。(13:43)

水野:私は(ロンドン証券取引所がある)シティにいるが、あちらでは日本株のアナリストがこの10年間でほぼ皆無となった。投資家にとってアナリストのいないアセットクラスというのは大変難しい。すべて自分で調べないといけないからだ。その意味ではアナリストがいなくなったこともかなりのインパクトがあったと思う。で、先ほど高野さんは、「今入ってきている海外投資家は経験がない」と仰っていたが、彼らが見るポイントはご指摘の通りマクロ経済の単純なロジックと…、あとは割安感か。彼らから見て現在の日本株は割安だろうか、割高だろうか。(14:04)

高野:割安だと思う。皆さんは株価が大変上がったように感じているかもしれないが、そもそも上がっていない。下がり過ぎていただけだ。日本をリードする野村証券のPBR(株価純資産倍率)は一時0.4倍まで落ちており、今はそれが0.8倍まで戻ったに過ぎない。大変なアセットを持っているソニーでさえ一時は0.4倍になっていた。要するにこれまで異常に下がったことへのゆり戻しだ。逆に言えば今後も上がるためには成長がなければいけない。要はファンダメンタルズの改善だが、そこはまた色々と問われてくると思う。(14:56)

Koll:私が会う投資家たちは「まあ、普通です」と言っている。エレクトロニクス等、たしかに下がり過ぎたセクターはある。ただ、日本の場合は現在のPER(株価収益率)も平均で13〜14倍ぐらい。これ、先進国では概ね普通だ。大変な割安感ということも言えないのだが、高いとも言えないと思う。だからこそマクロ政策で「デフレ脱却だ。日銀にプレッシャーをかけよう」という動きになっている。今後2〜3カ月で本当に収益性が上がっていくのかという部分の透明性が出てこないと外国人の投資は続かないと思う。(15:59)

水野:基本的に、為替介入を含めた金融政策が効くか効かないかという議論はナンセンスだ。重要なのはどれほどの期間効くのかと、副作用がどれほどあるのか。この二つだけがポイントであり、「効くか否か」であれば効くに決まっている。で、今はお二方から、アンダーウェイトであるし、割安感もあるというか、少なくとも高くはないという話があった。ただ、それらは投資の世界で言う「バリュープレイ」だ。割安感で買って、上がるとすぐに売ってしまう。それを長期的な成長とするために戦略が必要という話なのだと思う。(17:08)

「インフレ率2%に向けた金融緩和。まずは日銀が国債、リスク資産を買い増していくことになる」(翁)

水野:で、今は日銀にプレッシャーをかけながら「インフレをやれ」と…、俗っぽい言い方をすれば「札を刷れ」という話になっているが、今のところは口先介入だ。では日銀がこれから実際に何をするのか。翁さんから見て日銀が出来ることと出来ないことを、どちらかと言えば法制上でなく技術的観点で伺ってみたい。現在はその選択肢も少なくなってきているのがつらいところだが、アベノミクスで日銀が求められていることの実現可能性を、実現出来るとしたらそのタイムスパンも併せてお聞かせ願えないだろうか。(17:59)

翁百合氏(以下、敬称略):インフレ率2%に向けて今後は強力な金融緩和をやっていくという話になると思うが、結局、何かを買わないとお金は出て行かない。買うものとしてはまず国債だ。これまでは3年物等の短いものを買ってきているが、それを大量に買い増すという選択肢がある。また、ETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)といったリスク資産も今まで購入してきているが、これをさらに買い増していく選択肢もある。(19:11)

ただ、日銀法には日本銀行の損失補填を誰かが契約して…、誰かというのは財政当局のことだが、それを補填するといった条項が、旧日銀法にはあったのだが今はない。従ってリスク資産を買い増していくのであれば、その辺でどのように連携していくかが鍵になるかなと思う。リーマンショック後、FRBと政府はTALF(ターム物資産担保証券貸出制度)という共同プログラムでMBS(住宅ローン担保証券)を大量購入した。同様に日銀も、自己資本という枠を超えたリスク資産の大量購入という話になるなら連携について考える必要がある。日本銀行当座預金はかなり増えてきた。成長戦略や財政の機動的発動という方向性がある以上、ただ単に当座預金残高を積みあげるだけでなく、それを外に出して収益性の高い投資機会に結び付けていく。今回はそういったことを政府との強力な連携で進めていく必要があると思う。(19:56)

もちろん外債購入という選択肢も今までと同様にあるが、今は円の水準もかなり変わってきているし、「それをやる必要が今どれほどあるのかな」という感じはする。そもそもそれが出来るのかという部分で言えば、そこでは通貨外交上の深い議論もある。いずれにせよ「何を買っていくか」という部分でシンプルに言うと、まず国債、そしてリスク資産をどれほど積み上げていくのか。そのあたりだと考えている。(21:40)

水野:アベノミクスの金融政策を批判する方々からは、「いくら日銀がやってもお金は市場に出て行かないし、リスク資産に回らない。何故なら投資機会がないからだ」といった声が多いと思う。日銀が買うとすると…、特にそれがリスクのあるものでないとすれば、基本的には国債だろう。ただ、短いものを買っていくと短期のお金は出ていくが、それを実際にリスク資産へ廻すような形で銀行等が動いていくだろうか。(22:20)

高野:「お金を刷っても流動性には繋がらない。信用乗数はさらに低下するだろう」という、いわゆる反リフレ派の方々のお話自体は正しいと思う。ではどうやって流動性を確保し、より実体に近いところへ流していくのか。一番手っ取り早いのは財政だ。財政出動で確実に実体経済へお金が流れていく。(22:56)

あるいは日銀によるリスク資産の買い増しだが、これは翁さんの仰っていた通りだ。日銀は上場企業。国が51%か55%かの株式を持っており、残りを民間が持っている。従って普通の会社と同様、バランスシートを超えたリスクをとることは出来ない。そのための制度をつくらなければいけない。それでFRBはTALFをやった。要するに、現在のアベノミクスによるフレームワークであれば、もう1アクションないとこれ以上のものを買う必要はないし、買えないという話になると思う。当然、為替介入して円安効果で企業収益を改善させ、実体経済を良くしていくチャネルもある。ただ、これは国家間の問題にもなるだけに日本だけの事情でやるには限界がある。(23:27)

それともうひとつ。日本国債の日本人保有率は94%前後で、その大部分は金融機関だ。特に銀行は、ここへきて急速に保有する債券の種類をより短く、3年以内のものにしてきている。銀行が残存3年以内の国債を買うことで、金融機関が持っているアセットアロケーション上、日銀が買ってくることになるのでスペースが空く。そこで金融機関が逆に株を買っていく。実は今、そういうことが起きている。では銀行や生命保険会社がそういう投資に移ってきた結果として、何が起こるか。日銀がリスク資産を買わなくとも、効果としては同じという訳だ。こういったいくつかのチャネルを通じて、実は反リフレ派が言っていることとは少し違う形で流動性が広がってくるのではないかと思う。(24:41)

Koll:アベノミクスは海外からそのリーダーシップを評価されている。2%のインフレ目標を掲げて「デフレから脱却しましょう」と。今は日銀の独立性という話にも焦点が当たっているが、重要なのは国家プロジェクトとして財政と金融、そして規制緩和をコーディネートする視点だ。リーダーシップに関して言えば、今回はおよそ300議席を取ったので、あとは今年の参院選でなんとか過半数を取っていく。この点は非常に大事だと感じる。(26:05)

水野:ひとつ面白いなと思うのが、今は株と債券はどちらも上がっているという点だ。常識的に言うと株が上がるのなら金利が上がるので債券は下がる傾向なのだが、今は両方が上がっている。この状態、高野さんはお金の流れという観点でどのように見ているだろうか。(27:34)

高野:債券の運用者が、巷で言われているような「財政拡大による急速な債券暴落」の可能性はないと見ているのがひとつ。それともう一点。テクニカルな話になるが、2%のインフレというのは、はっきり言ってすぐには到達出来ない。もっと言えば、ほぼ「到達出来ないのでは?」というレベルだ。ということは極端に言えば、それまで金融緩和を続けていく。つまりそれまで債券を買っていくという話になる。(28:05)

水野:実際にはデフレ圧力になるという。(28:33)

高野:デフレが続く。で、具体的にどのぐらいかかるかは分からないが、先ほどの申しあげたチャネルを通じて流動性が供給出来れば、たとえば円安になれば輸入物価が上がり、どこかの段階で少しずつ(金利も)上がっていく。そうすると…、我々はこれを「時間軸が延びた」と表現しているのだが、金融緩和の期間が延びていく。たとえば1年だったものが3年ぐらいに延びる。で、そこの残存までの債券はどんどん買われるであろうことから、「そこは金利が低いでしょ」と。一方で、将来的にインフレとなるのであればその部分の債券は上がっていくというのが現在の状況ではないか。その意味では、(株と債券の両方が上がっているというのは)それほど整合性がない話でもないと思う。(28:34)

水野:債券の価格を考えるときはイールドと、もうひとつ、デフォルトのリスクが頭にあるものだと思う。日本の財政悪化に伴って債券の価格が上がらない状態であれば、「コーポレートジャパンのデフォルトリスクは?」という疑念が生まれる。ただ、その疑念からプライスインしている債券の投資家はいないのではないかと私は思っている。「日本の財政はこのままいくと危ないよ。急に金利が上がるよ」と、皆が言っている訳だが。(29:29)

高野:過去にハイパーインフレを起こした国は、その前に金融緩和と財政拡大を同時に行なっている。その意味では現状もその脈絡にも沿っているし、それで嫌がっている人たちはいる。ただ、もしそうだとするなら、これまでもその辺のリスクはプライスインされていた筈だ。しかし実際にはされていない。その理由が日本にあるのだと思う。(30:18)

理由のひとつは、やはり21年間連続で対外純資産No.1であるという点だ。今は円安効果もあり、恐らく300兆ぐらいの対外純資産があると思う。そしてもうひとつは日本の為替に対する信任。「日本はそんなにおかしい真似はしないだろう」という信頼感だ。財政拡大による暴落という話はよく言われていることだが、財政拡大によって国債を発行し、仮に公共投資へ10兆円投入したとすると、基本的にはその10兆円に見合ったリターンが本来は得られる。もしそこで価値がゼロのものをつくっていけば、たしかに毎年10兆円ずつ債務が拡大していった結果として300兆円の対外純資産もいつかはなくなるだろう。ただ、それでも30年はかかる。だから仮に暴落するとしても大変な時間がかかるし、その前に何かが起こるだろう。その何かとは、今のデフレ状況がインフレとなって、「これ、ちょっとまずいな」と思うターニングポイントだ。そこで初めてご指摘のような議論が出てくるのだと思う。(30:46)

水野:その文脈だと、先ほどJesperが指摘した通り、現政権にはリーダーシップがあり、インフレを起こす意思もある。ちなみにインフレーションというカタカナ表現にはどうも「物価が上がって良くない」といったニュアンスも含まれるが、英語では0%より大きいのなら‘inflation’だ。ポジティブな意味での「インフレーションレート0.01%」というのも言葉として正しい。従ってインフレという言葉をそれほど恐れる必要もないと思うが、とは言え、そのリーダーシップが行き過ぎると「危険もあるのかな」と。今はそれで色々な人が心配しているのだと思う。で、少し日銀の議論に戻りたい。現在は日銀の独立性もひとつの焦点になっている。現在のように政治が強いリーダーシップをとっていったとき、日銀としてはどの部分で独立性を維持すべきだろうか。(33:40)

「TPPや規制緩和など実態経済を加速させる第3の矢が続かなければ上げ相場は続かない」(Koll)

翁:真に問われるのは将来の引き締め時だと思う。かつてはドイツでハイパーインフレの反省からブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)に高い独立性を付与するという選択を、ドイツ国民が行った。やはり現在のようなデフレ時ではなく平時、つまり中央銀行の金融政策が十分な金融安定化効果を持つとき、彼らの判断で景気過熱を避けることを念頭に置く必要がある。少し遠い話だが、そのときは政府も巨大な債務を抱え、債務者として「金利を引き上げて欲しくない」と考える。しかしインフレ抑制のためには金利を引き上げなければならないと。そんなときに中央銀行が独立性を持った判断が出来る余地は残しておくべきだと思う。(34:13)

もちろん現在のようなデフレ局面でマネタイゼーションを避けるというのは前提としてある。現時点ですでに新規発行分と同じぐらいの国債を買っているので、たとえば今後の財政出動時、「日本銀行が自動的に買うのだ」というような発想はしない。そこは政府でも慎重に、日銀と連携しながら、成長に向けてデフレを脱却するための議論をしていく必要があると思う。(35:40)

Koll:独立性の話を少し超えたところで「市場のどこにリスクがあるか」という話をしたい。私は国債よりも為替に大きなリスクがあると思う。為替は一方通行だ。日本ではこれまで世界最大の債権国だったが、今は債務国になってしまったという大きな分岐点があった。国際収支は悪化している。また、本当にインフレになると名目金利はゼロに近い状態となり、実質金利はマイナスとなる。これも大きな分岐点だ。この二つで円安方向ということだ。(36:50)

それともう一点。仮に105円まで円安になったとして、安倍総理は取材に対して「いや、円安にし過ぎた」と言うだろうか?(会場笑) 先週、アメリカの有力なスペキュレーターと話をしたのだが、彼は「150〜160円でもおかしくはない」と考えていた。この辺についてはアメリカのことも少し考えなければいけないと思う。当社の銘柄を見ていても、やはり米国経済は大変強い。当社CEOのJames Dimonは年末までFRBは利上げを行うと予想をしていた。それが当たるかどうかは別だが、世界のサイクルで見ると機関投資家は新しい年度のスタートに伴って日本株よりも外債や外株を買っていく可能性もある。そうなると思っていたよりも早く円安がスパイラル的に進むリスクはあると思う。(37:52)

水野:円安が続くと株価が変わらなくても損をするから、外国の投資家は買い続けられない。そのリスクを彼らは見ているというご指摘かと思う。そうなると日本の投資家へのバトン引き継ぎはいつかという話も出てくる。(39:07)

Jesper:そこで大事なのが冒頭でお話しした通り収益の透明性だ。それと、新しい年度となったときに日本人機関投資家のアセットアロケーションがどうなっているか。日本株に投資しないと恐らく赤信号になってしまう。さらに言えば本業、つまり日本企業のものづくりだ。大企業が成長に向けた投資をどこで行うのか。今はほぼ国外だが、その流れが続いてしまうと危険だ。これから半年間に「成長投資を国内で」という戦略が出てくるべきだと思う。(39:52)

水野:高野さんは日銀の独立性についてどうお考えだろうか。(41:04)

高野:非常に重要だと思う。先ほどの「暴落の可能性は低い」という話も、日銀の独立性がある程度担保あるいは補強されてのことだ。インフレとデフレは違う。誰が言っていたか忘れたが、「インフレとデフレは非対称」であり、デフレ解消にはアコードが必要。金融政策・財政政策なしに解消は出来ない。日銀がETFを買うというのも一種の財政政策みたいなものだ。(41:23)

しかしインフレ時はインフレファイティングになる。で、これは選挙では不興を買うだけに政治家と日銀で同じ目標にならない。だからこそ翁さんのお話通り、特にインフレ時は日銀の独立性が重要になる。問題は今よりも強い主導権を政府に持たせてそののちインフレとなったとき、再び独立性を戻すことが出来るか否か。恐らく出来ないだろう。また、今は日銀がある程度の独立性を持っているというものの、現実問題、2%のCPI(消費者物価指数)セッティングも政府から暗黙の要請があってやっていることは明らかだ。わざわざ日銀法を改正せずともデフレ時のアコードはすでに十分出来ている。それを現段階で特にいじる必要もないのではないかと思う。(42:01)

翁:日銀に関する議論で、「手段については独立性を担保すべき」という声がある。それは平時ならば正当な考え方だ。ただ、ゼロ金利政策でデフレーションというような状況下、要するに「非伝統的金融政策に踏み込まなければやっていけない」という段階では別だ。政府が何か後ろ盾になって必要な措置を講じなければいけないと考えている。(43:06)

水野:インフレとデフレを一緒くたに議論してしまう方は多いが、ハイパーインフレはあってもハイパーデフレなるものは絶対に起きない。両者は裏表の現象ではない。で、私は以前からインフレターゲットで進めるほうが良いと考えていたが、一方でそのリスクを政府とともに管理する形も考えるべきだと思っている。高野さんのご指摘は、その部分で「今の日銀法を残しておけば良いのではないか」という意味だと理解している。(43:46)

高野:それと先ほど翁さんが仰っていた通り、ある程度リスク資産を買えるような仕組みも具体的に考えておかなければいけないと思う。(44:43)

水野:インフレというのは政府が債券を返すにあたって大変手っ取り早い方法で、紀元前4世紀の古代ギリシアでも行われていた。どうしても政府側にはそのモチベーションが出てくる。そこを制御しながらどうするかが重要なのだと思う。で、Jesperの懸念によれば、早ければ4月あたりで株価が腰折れするのではないかと。ではG1らしく「株価を維持するためにどうするか」という話もしよう。公共投資や成長戦略の面でどんなアクションをとると日本の投資家が入って来て、さらに海外投資家も引き続き入ってくるだろうか。(44:55)

高野:選挙に勝つ。これだけだ。なんでも良いからとにかく選挙に勝り、マジョリティを取ることではじまる部分が大きいと思う。(46:03)

Koll:おっしゃるとおりで、日本では5年間で首相が6人代わり、財務相は7人代わった。あり得ない。まずはきちんとリーダーシップが継続されていく必要がある。それともう一点。目の前の課題として外国人にも分かり易いのがTPPだ。とにかくサプライサイド・エコノミックス。日本の投資家や企業家に新たな投資と成長のチャンスがもたらされなければいけない。TPPはその意味でシンボリックだ。それとエネルギー政策。国内生産コストがどこまでも上がっているような現状は正さなければいけない。(46:14)

翁:やはり「第3の矢」が大事だと思う。財政の一部は長期的成長に結びつくと思うが、需要の先食いとなる側面もある。このままだと2014年度は一気に落ちる可能性もあるだろう。従って、外需を取り込んでいくという明確な成長の方向性を示す必要がある。TPPや規制改革等、サプライサイドの構造改革を着実にやっていくという方向感が見えてくることは非常に重要だ。(47:22)

Koll:もうひとつ。日本の経営者は株価が上がるとすぐに増資をするが、これは需給関係を考えると少しおかしい。今後、収益が3〜4割増、あるいは5割増になった段階で配当を上げる。あるいは自社株買いを行う。やはりガバナンスの面で株主から信頼される施策も必要ではないか。(48:14)

水野:たしかに国や日銀だけがやっていても駄目で、市場参加者が何かのテーマを見つけて買っていかないと株は絶対に上がらない。そこで今度は財政についても伺ってみよう。日本では財政の話になると盛り上がるが、海外の投資家が日本の財政政策に興味を持っているという印象は受けない。ただ、行き過ぎた財政出動でいきなり財政破綻するかというと、先ほどのお話通り、そういう懸念を持っている訳でもないようだ。この辺はニュートラルという印象を私は受けているが、実際にはどうだろう。(49:10)

高野:今年の公共投資は5.6兆〜5.7兆円前後で、その押し上げ効果は1%ぐらいと見ているが、実際に今年執行出来るのはその6〜7割前後だ。はっきり言って少ない。そのうえ、もし来年やらなければ来年度はマイナスになるから反動も大きい。それであまり期待していないというのがひとつ。また、なんだかんだ言ってこれだけの財政赤字を抱えていると財政も出動しづらい。ツールとして効果的ではないなと感じる。ただ、たとえば90年代には財政を相当出動させ、それで株価が一時的に上がっていたのも事実だ。日本的に言えば株式市場はそれを認めているということだと思う。(50:10)

翁:長期金利がすぐに跳ね上がる状況でないのはよく分かる。ただ、目下の財政状況や公的債務残高を考えると、やはりサスティナビリティは疑われてしまう状況だ。従って今回…、6月に出ると思うが、財政健全化の方向感を市場にしっかり示す必要がある。財政再建も日本の大きな課題であり、それを経済成長と両立させていかないと中長期的に相当厳しいことは皆が分かっている。そこはぜひ政府からもメッセージを出して欲しい。(51:10)

Koll:たしかに厳しい財政状況だが、ひとつ押さえておかなければいけない点がある。長期金利が少々上がるのは、実は良いことだ。日本のメーカーは円安で随分儲かるようになってきたが、国内で一番大事な産業はやはり金融であり、銀行だ。銀行のマージンはこの1年間で下がった。もちろん政策責任者は(財政健全化について)考えるべきだが、民間としては金利上昇がマイナス効果だけをもたらす訳ではなく、プラス効果もある。だからそれほど大事という訳でも、うーん…、「少々‘irresponsible’でも良いのでは?」と(会場笑)。(52:09)

水野:(笑)実は私もその辺に同感だ。昨日の全体会で竹中(平蔵・慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)先生から「ダボス会議でIMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルドさんが“最もリスクがあるのは日本だ”と言っていた」という話を聞いて…、私は「ラガルトさん、あなたは誰に言っているのですか?」と(会場笑)。この6年間で6兆円も出した出資者に対して「君、もっとお金をセーブしたほうがいいよ」って(笑)。まあ、レスポンシビリティは持たなければいけないし、最後の楔として日銀の独立性も効果がある。ただ、現在はそのリスクを考えている市場参加者は恐らくいないのかなと、御三方のお話を伺ってそう感じた。(53:16)

あと、私としては「財政出動が第2の矢、成長戦略が第3の矢」という風に別れている時点で「財政は成長に貢献しない」と聞こえてしまうのだが(笑)、いずれにせよ参院選までは数カ月ある。Jesperからは「ひょっとしたら4月にリスクが顕在化するかもしれない」という話も出た。では今後4カ月を乗り切るために安倍政権が示すことの出来る成長へのポジティブなメッセージがあるとすれば、TPP参加と規制緩和以外に何があるだろうか。(54:06)

「課題は企業や投資家など日本人のビヘイビアがどう変わるかに尽きる」(水野)

Koll:法人税率の引き下げだと思う。もっと言えば、投資家と企業のための抜本的税制改革という話になる。(55:16)

高野:8月までさほど時間もないので、今のままベースマネーを拡大させ、金融政策で日銀が出来ることをやっていくというのがひとつ。で、「これからこういう風にやります」という方向性を明確に出しつつ8月までの時間を‘buy-time’していくのが良いのではないか。私もTPPは絶対にやるべきだと思うが、今の段階で中途半端に言ってしまうと鳩山由紀夫さんのような形になってしまう可能性もあるので(会場笑)やめたほうが良いと思う。(55:36)

翁:タイミングは難しいところだが、まず経済連携協定の積極化。また、「あ、第3の柱についても前向きなのだな」となるような象徴的規制緩和が何か出来ると良いかなと思う。当然、法人税率引き下げも重要だ。今回も設備投資減税等、研究開発関係ではかなりの税制措置をとろうとしている。立地条件を良くしていくというのは税制における大きなテーマのひとつだと思う。(56:16)

高野:あと、あまり現政権で議論されていないが非常に重要だと思うことがある。2012年度は貿易赤字になった。これはかなり大きいし、今後も続く。しかし経常収支は未だプラスだ。何故なら海外投資で挙がってくるインカムが非常に多いから。このインカムをきちんと挙げていく努力も大切だ。それともう一点。日本はイギリス型に近づいているが、これは国の運命だ。成長性が低下して、どんどん成熟していく。しかし人間が50から60歳になるのと同様、成熟していくなかである程度のストックが溜まっていく。外への投資額はイギリスも非常に大きく、そこから挙がってくる所得収支も大きいが、同時に対外収支も大きい。数字で見るとGDPに対するネットでの所得支出は両国とも3%前後だが、グロスでは日本の対外投資がGDPのほぼ0.5%、そして所得収支、つまり外からあがってくるインカムの比率は同3.6%前後だ。イギリスはこれがそれぞれおよそ13%と16%になる。つまり対外投資がものすごく多い。同様に日本も外からのインフラ投資をもっと受けられるようになれば、日本人として誰も痛みを伴わず、大きなプラスにもなると思う。(57:04)

翁:もうひとつ。円安水準がこれほど続いていくと燃料価格等色々上昇し、個人消費が圧迫されていく可能性がある。従って中長期的に90〜95円といった水準が維持されるためには、やはり輸出企業が…、すでに外に出ていて難しい面はあるが、雇用を増やし、賃金も上げていく。そういった施策で円安メリットを経済全体に均てんさせる必要があると思う。(58:45)

Koll:今は政治にリーダーシップと意思と目標があり、非常にハッピーな状態だ。ただ、やはり成長戦略は今後の2〜3カ月で示していく必要がある。で、その成長に向けた投資先は国内であって欲しい。グローバル競争は非常に激しいし、政策当局には‘You don't have much time’と言いたい。選挙のことは選挙のことで色々あるとは思うが、それは内側のガラパゴスな議論だ。(59:39)

水野:ではこの辺でフロアから質問等を受けていこう。(01:00:39)

会場(有泉池秋・日本銀行政策委員会室企画役):まずインフレターゲティングは日本銀行としてこれから何の遠慮もなくしっかりやっていくので、安心して欲しい。それともう一点。大きなバブル崩壊を二度と起こさないことが重要なのだと思うが、そのためにはハイパーインフレよりも「これから出てくるお金が正しく使われるか否か」のほうが重要ではないか。馬鹿げた使い方はしないという点を企業や投資家の方々がどのように担保していくか。日本銀行はその辺についてマクロ・プルーデンスということで「チェックをかけよう」、「規制をかけよう」という方向でも動いているが、規制に継ぐ規制となるとそれも不幸だ。自ら成熟した市場にしていくという点も、G1サミットに集まっていらっしゃるクレバーな方々にはご認識いただきたいと思う。(01:04:05)

会場(正直知哉・ピムコジャパンリミテッド マネージング・ディレクター):最終的なポイントは家計や企業がインフレ期待に転換するか否かに尽きる。そうでないと日銀がいくら円安にしてCPIを上げたところで「私の賃金は上がらないじゃないか」という話になってしまう。実質賃金はどんどんマイナスになり、政策担当者の方々に対して怒りを持つようにもなるだろう。そうなると絶対にどこかで限界が来る。そうならないため、そもそも日本企業のビヘイビアが一連の政策で変わらなければいけない筈だが、そうなるだろうか。(01:06:59)

水野:翁さんのお話にもあった通り、基本的に今何が問題になっているかと言えば、日本の投資家や企業、つまり日本人のビヘイビアがどう変わるかに尽きる気がする。震災後に日本株を買った外国人がそれを売ったことで、最近は「安倍バブルで儲かるのでハゲタカだけ」と言う向きもあるが、日本の会社は買っていなかったのだから儲かる訳はない。有泉さんのご指摘も、「日本人投資家がプルーデントに投資出来るよう変われるか」という話だと思う。企業に限る必要はないが、最終的には日本人がビヘイビアを変えることが出来るかという観点に収れんしてきたと感じた。最後に一言ずつお願いしたい。(01:10:43)

Koll:たとえば2〜3日前、ローソン社長の新浪剛史さんは3%のベースアップを発表した。何故か。労働組合が云々という話もあるが、根本的には20〜30代の若い社員たちが家族をつくるため、彼ら自身が「これから賃金を伸ばそう」と決めた訳だ。この辺は経団連にも役割があると私は思う。人は他人の背中を見て動くところがある。その意味で新浪さんは素晴らしいことをしたと思う。ぜひ他社も同様のことをして欲しい。少なくとも収益は3〜4割増になって、お金は増える。政策面でも賃金ベースアップは10%の特別減税ということになった。だからこそ今がチャンスだ。リーダーシップを発揮すればなでしこジャパンのような勝利を掴むことが出来ると思う。(01:11:38)

高野:ビヘイビアという観点でひとつ。1989年に『BusinessWeek』の‘Is the stock market dead?’といったタイトルの記事を読んだことを覚えている。当時のアメリカは大変景気が悪く、株もまったく上がっていなかった。しかし15年が経ち、今は皆ハッピーになっている。あのときの冷えていたマインドが立ち上がっていった訳だ。もちろん大変な時間はかかったが、ともかくもそのマインドは続いた。日本でも1989年の株価ピークからずっと下がってきている。だから今後…、20年とは言わないが少なくとも5年、恐らく7〜8年ぐらいは株式市場が堅固に動いていかないと投資家マインドは戻らないと思う。(01:13:07)

翁:企業が変わっていかなければいけない。先ほども強調したが、今は為替水準が変わって輸出企業がかなりの収益を得ている一方、国民生活のほうは厳しくなる方向だ。やはり収益を雇用拡大や賃金上昇の方向に繋げていくという良い循環をつくる必要がある。当然、自分たち自身も透明性と収益性を高める努力を今こそやっていく。有泉さんのご指摘にあった金融システムの安定も、過剰流動性の状況下では重要な論点だ。それは日銀のひとつの目的でもある。プルーデントな投資家を育てるという観点で市場をきちんとチェックしていくことも大事な役目だろう。投資家としても…、皆がそのように振舞うのもなかなか難しいとは思うが、プルーデントに振舞っていく必要がある。とにかくそのようにして全体で良い方向に進んでいって欲しい。(01:13:56)

水野:今日は本当に面白い話を伺えた。今は外国人が主導しているが、やはり最終的には日本人がどうするかという話なのだろう。日本は内部留保と給与がほぼ反比例して動くという珍しい国だった。これだけの内部留保を積んだ企業が今後さらに儲け、それをどうやって還していくのかという。そういった企業側の責任を含めて全体で盛りあげていきたいと思う。本日はご清聴ありがとうございました(会場拍手)。(01:15:44)

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