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三本目の矢 安倍政権が目指す成長戦略とは

投稿日:2013/04/04更新日:2019/04/09

「戦略立案よりも、具体的な実行プランの策定や遂行が課題」(秋山)

柳川 範之氏(以下、敬称略):本分科会ではアベノミクスの大きな鍵となる“3本目の矢”すなわち成長戦略について議論していきたい。まず自己紹介も兼ね、御三方には成長戦略のポイントとしてお考えになっていることを伺っていこう。(00:26)

秋山咲恵氏(以下、敬称略):今日の自分の登壇は、安倍内閣でスタートした産業競争力会議の民間メンバーを拝命しているためと認識している。従って同会議の内容を皆さまと可能なかぎり共有させていただきたい。また、本分科会に限らずG1サミット3日間のなかで、皆さまからたくさんのインプットを私自身がいただき、それを持ち帰ることが出来たらとも考えている。(01:31)

私自身は10年ほど前に小泉内閣で初めて、当時の政府税制調査会に最年少メンバーとして参加させていただいた。以降、細々とではあるが入れ替わり立ち替わり、経済産業省や政府の各種委員会に参加している。それで今回は産業競争力会議という話になったのだが、私としてはその間ずっと、強く感じてきたフラストレーションがある。(02:13)

たとえば今回のテーマについても登壇者の方々を見れば、異論噴出で喧々諤々の議論になるというより、「やはりそうだよね」という流れになると思う。やるべきことや問題は比較的はっきりしている。しかしその現状を打破することがなかなか出来ない。日本が直面している問題はそのあたりではないか。全体会で竹中(平蔵・慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)先生が仰っていた通り、現在もなかなかに悪戦苦闘している状況だ。(02:48)

全体の枠組みを一応整理すると、マクロに関しては経済財政諮問会議が、ミクロに関しては日本経済再生本部が置かれ、そこで閣僚の方々を中心にいわば基本設計のようなことをしていただいている。産業競争力会議ではその基本設計に基づき、どちらかというと詳細な設計レベルの議論を行う。そこで安倍総理が議長、甘利(明・内閣府特命担当大臣)さんが担当大臣を務め、そのなかで関係閣僚と民間メンバーが戦略をつくりあげていく形だ。(03:29)

ただ、そこで民間メンバーが色々と提案するにしても、担当大臣には大臣としての思いがおありになるし、総理としてもやはり成長戦略でブレークスルーを起こしたいという強い気持ちを持っていらっしゃる。そのなかで最善のシナリオを考えていく必要がある。私たちが直面している現実の壁はむしろその部分だ。戦略自体は議論でいくらでも詰めることは出来るが、そこでいかに実行可能性を担保していくかが今は重要な段階になっている。(04:28)

今日は平(・将明 衆議院議員)先生も登壇されているので、逆にその辺について伺いたいところでもある。周囲からは「どんどん直球を投げろ」と耳打ちされるが(会場笑)、私もまだ勝手がよく分かっていない。言われるまま「えい」と投げると、竹中先生が全体会でご指摘していたように「秋山さんは、えらいことを言うなあ」というような感じになってしまう(笑)。とにかく出来る限り、微力ながらもブレークスルーやイノベーションを起こしていきたい。(05:21)

柳川:具体的にはどのあたりで悪戦苦闘するのだろうか。(06:02)

秋山:たとえばあるとき、議論の叩き台として事務局からいただいた資料に「ターゲティングポリシー」というキーワードが入っていたことがある。で、その具体的な内容はのちほど議論するという流れだった。しかしそれは、ともすると「特定の業界や分野へ集中的にお金をつけるのか? ばらまきに繋がるのでは?」とも読めるキーワードだった訳だ。(06:09)

そこでほとんどの民間メンバーから「特定の分野にお金を出すとモラルハザードにも繋がる。過去にそれで成功したことがあるのか?」という疑問が噴出した。「大事なのはいかにして自由な競争環境を整備していくかだ。これまで規制などによって新規参入が実現しづらかった分野、あるいは活力ある経済活動が生まれていなかった分野に道をつけるほうが重要ではないか」という意見が異口同音に出てきた。TPPの問題も同じだが、とにかくその辺を政策に反映させていくことが今後の課題だと思う。(06:55)

柳川:そのあたりはまたのちほど掘り下げてみよう。では次に平さん。(07:47)

「通商問題、規制改革など第3の矢は政治的ハードルが相対的に高いのは間違いない」(平)

平将明氏(以下、敬称略):「大胆な金融緩和」、「機動的な財政出動」、そして「民間の投資を呼び込む成長戦略」という矢のうち、金融緩和について言えば政府と日銀がどういったコミットメントをするかといった話になる。政治家としても日銀を叩くのは一番気が楽だ。悪く言っても選挙区で怒られることはなく、関係団体が自民党本部に怒鳴り込んでくることもない。それでご承知の通り、協定を結んで目標が達成されるまで緩和をするという話になった。財政出動についても同じ。文句を言いに来る人は基本的におらず、政治の側が決めたらすぐに出来てしまう。(07:52)

一番難しいのは3本目の矢だ。成長戦略となれば民間の方々がその気にならなければいけないし、世界から見ても「あ、日本は行けそうだ」と思って貰えるようにしなければいけない。それで実際に投資が生まれて成果に繋がるのだと思う。では成長戦略が何かという話になれば、基本的には通商問題と規制改革を避けて通れないだろう。ただ、通商問題は政治的に大変センシティブなマターだ。なかなか歯切れの良いことが言えない。(09:46)

規制改革については、労働分野、医療などの社会保障分野、そして農業分野が俎上にあがってくるだろう。で、こちらも…、私の場合は自分の選挙区に農地がないので気楽だが(会場笑)、ほかの政治家には色々ある。「医師会の反発が怖い」、「農業票を失うのが怖い」ということで思い切った議論がしづらい部分はある。その意味でもこちらが腹を括ってしまえばすぐに出来る第1・第2の矢と違い、第3の矢は政治的ハードルが高い。(10:35)

だから皆さまからすると「第3の矢と言っている割には本筋を避けているよね」と感じる状況かもしれない。ただ、安倍総理のすごいところは、一方で「国土強靭化で200兆だ」と言うような人を入れつつ、もう一方で竹中先生のような方を入れている点だ。また、そこでブレークスルーを起こすためにスタートさせた装置がまさに産業競争力会議であり規制改革会議でもあると思う。(11:15)

だからなおさら、第1・第2の矢を力強く飛ばしたあと、決着をつけようとして3本目の矢で弓を引いたらボキッと折れてしまったなんていう頼りない政策になってはいけない。経産省でも「一番大事なのは3本目の矢だ。それをよく自覚してください」という話をしている。そういうマインドの部分でもまだまだ道半ばなので、やはりこれから修羅場というか正念場が来るのだろう。(11:57)

柳川:「やはり3本目がきっちり飛ばなければ」と、多くの人々が感じていると思うので、その辺もあとで伺いたい。ではフェルドマンさん。(12:53)

「アベノミクスを成功に導く“7つの苛立ち”と“腹話術”」(フェルドマン)

ロバート・アラン・フェルドマン氏(以下、敬称略):今日は40年以上日本と関わり、日本に恋している外国人のひとりとしてお話しする。まずはイノベーションをどのように起こしていくかという観点でお話ししたい。そもそも「イノベーションには7つの段階がある」と、よく言われる。で、その第一段階は“苛立ち”だ。何か不満を持つことで「なんとかしなくては」という気持ちになるのがイノベーションの原点。だから今日の目的も苛立ちを起こすということになる(笑)。私はアベノミクス…、この言葉は好きではないが、アベノミクスが成功するためには7つの苛立ちが必要だと思う。(13:15)

1番目はやはりデフレ脱却。そのために日銀が、あるいは新総裁となる人物が何をしていくのかがポイントだ。2番目は民間設備投資を呼び起こす税制改革、そして3番目は全体会でもご提案した通り海外留学の促進になる。海外留学生をもっと増やさなければ世界で日本のネットワークをつくれない。で、4番目が現在の人口構造に見合った合理的インセンティブのある社会保障制度の導入だ。具体的には「個人負担率を何割にするか」という高齢者医療の話になる。今は1割だが、これを年々「年齢マイナスX」というルールにしてはどうか。たとえばX=30なら60歳の人は3割を払う。90歳の方なら6割だ。(14:17)

5番目は民主主義の質を改善すること。一票の格差是正は不可欠だ。もっと長い目で将来のことを考える民主主義が必要だと考えている。そして6番目が農業革命。改革ではなく「革命」だ。現在の既得権益を根本的に潰さない限り地方活性化はあり得ない。で、最後の7番目。最近は我々のお金が中近東に行ってしまい、国内のことが出来なくなってきている。それが国内に残るようなエネルギーインフラ醸成やイノベーションを起こすべきだ。すでに震災から2年が経っている。そろそろそういった政策を本格的に動かしていく必要がある。(15:41)

これらを実行するうえで鍵となることも話しておきたい。キーワードは「腹話術」。これまでの経済財政諮問会議等を見ていると、「これをやりたい」と言う民間議員の提案に大臣の方々は大抵反対している。理由は色々ある。ただ、そこで総理大臣が「やりなさい」と言えば話は進んでいた。だから総理は自身がやって欲しいことを民間議員に言って貰う。そこで改めて判断し、GOサインを出すという腹話術で上手くいくのではないかと思う。(16:49)

秋山:第一回目の産業競争力会議で民間議員メンバーが意見を述べた直後ぐらいに、総理が関係閣僚の方々を集めていらした。で、そこで個別具体的に、たとえば先ほど仰ったようなエネルギー問題についても「政策をゼロベースで見直し、エネルギー効率を高めてコストを下げるような政策を考えなさい」といった宿題を各大臣に出している。各大臣はそれを省庁に持ち帰って色々な提案をつくったのち、それをまた会議に持ってきてくださっている。そこで我々が再び意見を述べることで総理へのフィードバックとなり、総理からまた大臣に直接支持が出るというサイクルだ。この辺は腹話術のようなやり方で、恐らく今まではあまりなかった流れだと思うが、(平氏を見て)どうだろうか。(17:43)

平:小泉政権では民間議員が出したペーパーを中心に議論が行われ、最後に総理が決断をする流れが多かった。今回も恐らく各省庁にすぐ話が降り、「次回までに答えを持って来るように」という流れだと思うので、スピード感は出てきていると思う。安倍政権はまだ発足して40日ほどだが、とにかく最初の段階でマクロ経済の司令塔をきちんとつくった点が非常に良かった。前政権ではなかったことだ。そのうえで金融政策と財政政策、そして成長戦略を一緒にやっていくという形にしている点が肝だと思う。(19:04)

それと、やはり大きな改革を目指すのなら腰を落ち着けて何年かかけるのでなく、政権発足時の勢いとともにある程度の方向性を出すべきだと思う。現在考えられる最良のタイミングは二つ。ひとつは今だ。で、二つ目は参院選に勝った直後だ。勝てるかどうかは分からないが。もちろん今出来ることは今やるべきだが、規制改革などのセンシティブな部分はもしかしたら参議院後、ねじれもなく安倍総理が安定的に政治プロセスを構築出来るタイミングがベストかもしれない。その辺については官邸も色々考えていると思う。(19:52)

「モメンタムを活かすべきとも思う。民間の声を動力にする仕掛けなら安心」(柳川)

柳川:参院選まで規制改革や通商政策が手付かずで、その後突然進められるようになるかというとあまりそういう感じもしない。勢いがある今のうちにある程度踏み込んでおかないと難しいのではないかという気もするが。(20:56)

平:野党時代はTPP反対派も多く、賛成の声を挙げている議員は河野太郎さんや小泉進次郎さんを入れても10人前後だったと思う。ただし野党時代は…、これは政府と関係ない立場でお話をさせていただくが、自民党にも若い方や都市部の方が少なく、地方のお歳を召した方々の比率が高い状態だった。しかし今回は300近い議席をいただき、都市部の人も若い人も戻ってきた。だいぶ空気は違ってきたと思う。今もTPP反対派は多いが、「せめて交渉には参加しないとはじまらないのでは?」とい感じている人たちは多いと思う。近々そういうグループで議論をはじめるとも聞いている。そこで党として改めて議論し、ある時期には結論を得て、そして総理が判断をする流れになるのだろう。(21:41)

柳川:平さんはご自身を非主流派と仰っているが、政務官の立場にいらっしゃるのも事実だ。平さんがそういうポストに就いていること自体、政権の覚悟なのかなとは思う。なかなか表立って主張しにくいときはあるので、そういうときは腹話術ということで、「表では反対と言いつつ、裏では賛成側の人に強く言って貰う」と。産業競争力会議等がそういった高度な仕掛けを可能にする舞台装置になっているなら、安心して見ていられる部分はある。(23:40)

平:小泉さんも別セッションで言っていたが、要するに勝負どころを間違えてはいけないのだと思う。威勢の良いことを言っていればいい訳ではないし、それで党の足を引っ張ってもいけない。「それなら今は裏で何をやっているの?」というと、申し訳ないがやっているか否かも含めてお話出来ない部分ではある。ただ、産業競争力会議や規制改革会議のメンバーを見ていただく限り、いわゆる古い自民党的な守りの政策でもないことはお分かりいただけると思う。(24:52)

柳川:秋山さんとしてはどの辺が勝負どころだとお考えだろうか。(25:38)

秋山:竹中先生が仰っていたことだが、とにかく競争力を高めて経済を活性化するという大前提を忘れてはならないと思う。活動主体である企業がいかにして自由競争のなかで切磋琢磨し、良い商品やサービスを提供していけるか。今はそれを阻害していると思われる規制や制度がたくさんある。また、昔は有効に機能していたが今は制度疲労を起こしてしまっているようなもの…、労働法制や働き方にまつわる各種税制もそれにあたるのだろう。(25:49)

産業競争力会議でも「そこは変えないとね」と言ってはいるが、やはりハードルは高い。政治側だけで片付けることも出来ず、産業界や労働界もそういった従来のやり方を是としている限りなかなか前には進めない。業界や事業の再編が求められるケースもあるだろう。また、今よりも働き方の選択肢を増やすほうが、特に就労人口が減っている環境であれば企業としても個人としても良いに決まっている。そういった合理性の追求はG1メンバーであれば当然のように感じると思うが、これがなかなか進まない。そこでどう切り込んでいくか。我々がペーパーにやるべきことを書いて解決するのであればもう100年前に解決している訳であって、この辺については私としても「こういうやり方が良い」と確信を持って言える手段が実はない状態だ。ただ、それこそ「3本の矢なら折れない」という例え通り、会議でも重要な部分については出来る限り民間メンバーで声を揃えて総理に進言していきたいと思っている。(26:47)

柳川:フェルドマンさんはいかがだろうか。(28:23)

フェルドマン:腹話術はメディア戦略でも使えると思う。その辺について、先日読んだ『ニューヨーク・タイムズ』にヒントが載っていた。David Brooksという同紙コラムニストが、「既得権益を持ち、自分たちが得をするよう色々と工夫を凝らす貴族たちに君子は勝てない」と書いていた。国民が反乱を起こして君主を潰す確率より、むしろ貴族が君主を潰す確率のほうが高いそうだ。そこで君子はどうするべきなのかというと、国民に訴える。「国民と何らかの繋がりをつくり、小大名たちに潰されないようにすべきだ」と彼は書いていた。(28:26)

では現在の貴族や小大名は誰か。農業政策であれば農協だ。先日金沢に行って驚いた。小松空港から金沢市内への道中でちらちらと自民党のポスターを見かけたのだが、ある建物の前には100枚以上のポスターが貼ってあった。JA本部だ。あれほど法律に守られて補助金を貰っているのに政治活動をしている。酷い。民間会社がそんなことをやったらアウトだ。やはり皆と同じルールでやるという形にしない限り、小大名がいつまでも勝ってしまう。そのあたりを含めて、メディアを利用した腹話術を考えていくべきだと思う。(29:40)

「経済合理性が働かない箇所で規制緩和を進めることが難しい」(秋山)

柳川:メディア以外はどうだろうか。たとえば私を含めて壇上4人の意見はそれほど変わらないが、これだけ皆が主張しながら実現はしていない。これ、実はかなりの国民が「規制改革や通商政策はそれほど重要ではない」と思っているという話ではないだろうか。たとえば規制改革や労働法制の改革を行うと短期的には困る人も数多く出てくる。だから「1本目と2本目の矢だけで進めたほうが良いのでは?」というマインドが支配的である気もする。逆に言えばそこが本質的に変わらない限り改革は難しいと思えるが、どうだろう。(30:50)

フェルドマン:私はそう思っていない。私の息子は日本国籍を持っている。それで彼が二十歳のときに選挙委員会から通知が初めて来たので行くかどうかを聞いてみたら、「行く訳ないだろ」と(会場笑)。「自分たちの意見は反映されない。時間の無駄だ」と言う。その通りだ。だから「もし親父が1票で君が10票投じることが出来たら?」と聞くと、「それなら行く」と。要するに自分の投票行動で成果が出ると思えるような形になっていない訳だ。今の日本の民主主義は…、アメリカも同様だと思うが、国民の声を正しく反映していない。何故かと言えば既得権益に乗っ取られているから。だからこそ現在の憲法47条、すなわち国会が選挙制度を決めるという、このどう見ても酷いとしか思えない利益相反を改正する必要がある。(31:54)

柳川:既得権益の打破という点で平さんはどうお考えだろうか。(33:24)

平:たとえば農業改革であれば、フェルドマンさんが考える処方箋は土地の流動化と株式会社の新規参入になるのだと思うし、私もそれは正しいと考えている。ただ、JAとそれに繋がるすべての農家を敵に回すのも、政治の進め方としてはあまり現実的ではない。JAに参加しながらも、現状について「おかしいんじゃないか?」と感じている人はいる。そういう人たちに、「やはり輸出に舵を切ったほうが良いのでは?」と思わせるのも大事だ。(33:41)

日本の農業は生産性を高めなければいけないとよく言われるが、私としては現在も十分に付加価値があると思っている。分母に価格、分子に品質があるとすれば、価格が高くとも品質が高いのであれば価値は高い。価値が高いのなら国際競争力もあるだろう。私は政治家になる前、大田市場で野菜の仲卸をしていたのだが、いつもそこで「世界のどの一流ホテルでも日本で食べているほどおいしい果物が出てきたことはない」と感じていた。(34:27)

ただ、だからといって農家の方に「中東や香港で売ってきてください」と言っても難しい。それなら、たとえば24時間化された羽田空港と、その隣にある大田市場という日本中の高付加価値農産物が集まる中核市場を輸出拠点にするというやり方もある。で、静岡のメロン農家には今まで通り大田市場へ出して貰い、そのうえで「上海にあるデパートのほうが高く買ってくれるのならそちらに売ろう」と。(35:08)

今、農家の方々は「量が出せない」「単価が下がる」という問題に直面し、それで規模も縮小してしまっている。儲からないから投資もしないし跡継ぎもいない。それで「補助金をくれ」という連鎖になってしまった。しかし、日本で今までと同様に丹精を込めて農作物をつくり、それでアジアの需要を取り込んで単価を上げることも出来るなら、「ちょっとビニールハウスをひとつ増やしてみるか」という話にもなるだろう。そうなれば、「うちはなんだか儲かっているようだから」ということで子どもが跡を継いでいく。そのなかで「やはり農業は輸出だな」という話にも持っていけるのではないか。(35:47)

そこで一番のボトルネックになるのはやはり通商だ。だからこそ、たとえば今は中国にリンゴしか売ることが出来ないが、苺やメロンも売ることが出来るようにしていく。大規模化によるコスト削減等はその次でも良いと思う。とにかくそういった現実的目詰まりを段階ごとに取り除かないと民間は入ってこないので、その辺を省庁横断的に進める必要がある。(36:41)

柳川:安倍政権はこれまでのところ、1本目2本目についてはかなりの猛ダッシュでやってきた。だからそれと同様のスピード感で3本目も一挙にドラスティックにやって欲しいという期待感はあると思う。その期待も込みで現在の株高にもなっているように感じる。(37:27)

平:政府もその辺は分かっていると思う。大事なのはどのタイミングでトップダウンの決断を下すか。そのタイミングは頭に描いていると思う。(38:21)

柳川:その辺について、秋山さんはどうお考えだろうか。(38:57)

秋山:平さんが仰っていた通り、経済合理性がある程度実感出来るものを見せていけば出来ることも増えると思う。ただ、現時点で壁となっている規制絡みの問題には、経済合理性と直結しないものも多い。どちらかというと企業活動を行う環境やインフラが、「こうじゃないと困るね」という部分であり、そこ辺でどう切り込めるのかが課題になる。(39:00)

たとえば全体会でも論じられた「景色を変えていく」というテーマに関して言えば、当然、女性がもっと社会で活躍すべきという話が出てくる。ただ、そのときに総論賛成でも各論で動かない部分が出てくる。そこを打破するため、たとえば意思決定をするセクションに女性を一定比率入れていくといった対策をとらない限り、各論反対の状態からイノベーティブに進化することは出来ないと思う。その意味でも今後はアファーマティブ・アクション的な政策が矢のひとつとして重要になると感じる。(39:53)

「変化したあとの絵姿が共有されていない、そして細かいところで勝つスキルがない」(柳川)

フェルドマン:意思決定という部分は本当に大事だと思う。特に何かを決める際、その背景にあるインセンティブを考える必要がある。私が言っているような農業改革はある意味、地方議員に「政治的に死ね」と言っているようなものだ。そう言われて死ぬ人間はいない。だから、死ななくとも正しいことが出来るようなインセンティブ。クリスマスが好きな七面鳥をつくる(会場笑)。その意味でもやはり一票の格差是正は最重要課題だと思う。地域独占でない農業流通も不可欠だが、何故メロンを海外に出せないかというとJAを通さなければ村八分になるからだ。JAはやりたがらない。そこで、「JAが他と同じような条件で競争をすると皆が得するよ」といった説得が必要になると思う。(41:04)

平:JAの問題より、通商問題で何が入れられるか入れられないかというほうが大きいように思う。海外へ特産品を売ろうとして失敗している産地や県は多いが、果物は腐る。20フィートコンテナで「ぼこっ」と持ってこられても向こうは困る訳だ。また、季節が限られている農産物の商売では固定費の問題も出てくる。そこで、たとえば四季のなかで南から北へ産地が移っていくに伴い、季節ごとのおいしい果物をすべて出せるようにしてあげるといった施策が重要になるのだと思う。その意味でもどこかに流通機能を集積したうえで、調整機能を持たせないとこのビジネスは上手くいかないと思っている(42:50)

それと、私もJAについてはあまり詳しくないのだが、その地域にいる農家が必ず地域のJAに入らなければいけないというのが、まさに今フェルドマンさんが仰っていた構造的問題に繋がっていると思う。そうであれば、たとえば高付加価値の農産物で輸出を志向する農家のためのJAであるとか、そういった機能別JAのようなものをつくっても良いと思う。(43:54)

あと、女性の活用に関しては自民党でも2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする公約を掲げた。その第一歩として、自民党三役のうち二人を女性にしている。組閣でも同様に、当選1回の女性参議院議員や私と同期の女性衆議院議員を登用しており、この辺は「まず我が党からはじめましょう」と。その辺、一番変わらないと思われていた自民党も変わってきた。とにかく女性を機能的な役割に就いて貰うというのは本当に重要だと思う。(44:24)

柳川:今日は大きな課題が少なくとも二つほど出てきたと思う。ひとつは、「ああ、こんな風に変わるのか」という景色が十分共有されていないというか、ビビッドに見えてこない点だ。それをもう少し具体化しないと本格的に動かすエンジンにならないのではないかというのがひとつ。(45:52)

そして2点目。これは皆さんもご存知だと思うが、規制改革の話になると細かいところで負けてしまう。農業改革ひとつとっても細かいところでたくさんの理屈がある。秋山さんたちのご活躍は必須だが、加えて現場で戦う人々が、細かいところで抵抗する官僚や業界団体に勝てるスキルを持たないと難しいのではないか。それらをすべて凌駕するほどの政治的パワーも大事だが、いずれにしても細かい部分は不可欠だと感じる。(46:37)

平:3本目の矢どのように飛ばすか。安倍総理が力を持っているときにやるのか、あるいはそれをやることによって逆に力となるのか…、いずれにせよ最良のタイミングを見つけて一気に進めないと駄目だ。その意味でも3本目の矢の進め方は1本目・2本目と少し異質になる点をご理解いただきたい。景色が変わるようにするのは本当に重要だと私も思うし、その意味でも期待をして待っていただければと思うが、やはりそれは参院選前後になると思う。(48:06)

秋山:柳川先生にご指摘いただいた2点について、産業競争力会議でぜひトライしたいと思っていることがある。これは民間経営者の感覚なら当たり前の話だが、フレームワークをつくりたい。「どんな国にしたいのか」、「どんな改革をやりたいのか」というビジョンをまずつくり、それを政策目標とする。で、それが達成具合を判断するKPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)を設け、数値化していく。その際は出来る限りグローバルに、海外から見ても「ああ、日本はこれだけ良くなったね」と評価出来るようなKPIとしたい。そしてそれを達成するための具体的政策や規制改革という風にブレイクダウンしていく。もし細かいところで技術的にすり抜けられたとしても、KPIで改善に繋がっていなければ「駄目だね」となるよう、きちんとフィードバックがかかるようにしてビビッドさを生み出していきたい。(48:47)

フェルドマン:金融政策についても4点ほど提案させて欲しい。まずは「どの指数を消費者物価に使うか」。現在は総合指数を使っているが、これではエネルギー価格が上がると「あ、インフレだ」という話になってしまう。これはおかしい。エネルギー価格が上がると賃金が下がる。だから賃金に近い物価指数を使うことがひとつのポイントだと考えている。そして二つ目は「毎年1%」という形ではない物価水準の目標設定だ。今は「今年は1%を目標にしましたが失敗しました。来年頑張ります」と言うだけで、失敗の積み重ねが許されてしまっている。この状態ではデフレ脱却と言っても誰も信じない。これまでの失敗を自動的に容認するやり方を止め、物価水準を目標にすべきだ。(50:34)

そして3番目。金融政策を決定する際、実際の物価水準と物価目標の乖離によって金融政策におけるアクセルの踏み方を決める。マネーサプライルールの導入だ。で、4番目は日銀総裁が金融政策以外の発言をすること。「金融政策だけでは駄目だ」と言い続けてはいるが、では具体的に何をすべきかについてほとんど発言していない。これは業績アップに貢献していないという意味だ。少し調べてみたのだが、退職金を決める方程式にゼロから2におよぶ業績乗数というものがある。基本給の何割か数字に、その業績乗数を掛ける。そこで今申しあげたようなことを業績乗数の基準とする。「そういうことをやっていなければ乗数はゼロ。その人に退職金を払いませんよ」という形にしてはどうか。(51:47)

「世界基準を取りに行くか、準ずる。規制体系の選択はこの二択にすればいい」(梅澤)

柳川:この辺で会場からも質問を、いくつかまとめて受けていこう。(52:59)

会場(藤野純一・国立環境研究所 社会環境システムセンター主任研究員):成長戦略を国際競争力に繋げていく、そのストーリーを補足していただきたいと感じた。私はマレーシアのジョホールバルで進められている「イスカンダルマレーシア」という都市計画のお手伝いもしている。たとえば自治体の方々にもそういったアジア都市の現場、あるいはニューヨークやロンドンといった高度な都市マネジメントシステムが構築されたところへ行き、協働で街をつくるレッスンをしたうえでそれを日本に持って帰ってきて、地域に導入できるようにして欲しい。規制緩和以外にもそういった大胆なことをやらないと日本は変わらない気がする。(53:25)

会場(梅澤高明・A.T.カーニー株式会社 日本代表 グローバル取締役会メンバー):規制に関しては産業競争力の観点から「二択のどちらかにします」と決めてしまってはどうか。まず世界基準になり得る規制体系を国内で徹底的に選択し、併せてそれらで世界基準を獲りにいく。他方、「これは世界基準にならないな」という分野では、基本的には現行あるいは5〜10年後に世界基準とそうなりそうなところへ100%合わせる。日本企業は規制体系に適合する能力が大変高い。こうすることで製造業だけではなくサービス業を含めたさまざまな産業で、基本的には国内でつくりあげた事業モデルを世界でそのまま適合出来ることになる。産業競争力強化にも極めて早道ではないかと思う。(55:36)

会場(木村尚敬・経営共創基盤(IGPI)パートナー/マネージングディレクター):3本目の矢に関しては企業側もだいぶ前向きになっているが、一方では健全な新陳代謝も必要だ。その辺は企業経営者としてもなかなか思い切れない部分であるし、そこを完全にフォローする政策もないように感じる。この辺は空気が支配している部分も大きいのだと思う。そこで、国内での足し算だけでなく、引き算もきっちりやりきるという議論の空気を上手く醸成する。そんなアジェンダをぜひ議論に入れていただきたいと感じた。(57:44)

会場(中村誠司・中央電力株式会社 代表取締役):日本ではエネルギーに関して大変な議論が起きているにも関わらず、エネルギーベンチャーでイノベーションが起きていない。しかし同分野に興味を持つ学生は大変増えているので、大企業の方々ばかりでなく彼らにも働きかけて欲しい。学生にライセンス提供をしたり、各種勉強会に呼んだりするのも良いだろう。とにかくこの20〜30年、各省庁は海外で色々なエネルギー事業を仕掛けており、今はあちこちで大きな利益を上げている。海外の大型案件以外でも、世界に出せばいくらでも事業化出来るようなスモールビジネスのモデルは国内にたくさんある。それらを、「これを持って世界に打って出ろ」と言って若い世代に託してはどうか。(58:53)

秋山:競争力会議としては「国際先端テスト」をKPIとして使っていこうという話をしている。また、規制改革会議でも日本のポジションを上げるような改革という形で議論を進めていると理解している。ただ、二択というのは私も今初めて伺って素晴らしいアイディアだと感じた。

「ストーリーが見えづらい」というご指摘もその通りだ。私も自身の事業で海外の現場を色々目にして、「日本もこうすれば良いのに」と感じる機会は数多くあった。ただ、実はそういった点を含めて政府の会議では本当に有意義な議論がなされている。で、それが報告書になった時点でだいぶ角が取れて(会場笑)、実行性が担保されない状態になってしまう。実行出来るものは実行するが、場合によってはお蔵入りになって議論だけが10年間繰り返されるようなケースもまだまだある。とはいえ、少なくともどこかの省庁まで降りた話ならば大臣が「やろう」と言えば出来ることもたくさんあるだろう。そこで政治的にリスクを負わずに実行出来るよう周囲でサポートしていくことも重要だと思う。(01:03:49)

平:以前、「九州と四国の経済人と議論して来い」と言われて行ってきたことがあるのだが、そこで出てきたのはどちらも経団連の方と商工会議所の方で、要望は皆同じだった。「これ、意味ないよね」と。そこはそこで議論するが、それとは別に、ご指摘にあった通り、若い世代、創業間もない方々、女性、あるいは新しくその地域に根付いて起業した方であるとか、そういった方々ともお話をする必要があると強く感じた。エネルギーについても今後はもっと色々な方々がビジネスを行える環境にしなければいけない。梅澤さんのご提案にももちろん賛成だ。いずれにせよ今は「3本の矢に関して覚悟が見られない」と、厳しいご指摘を受ける向きはあると思うが、理解して欲しいところもある。現在のような自民党の議員構成にあっても安倍総理は産業競争力会議や規制改革会議を設け、現在のようなメンバーを揃えた。それならば、あとはどこでどう決断するのか。その辺は期待していただきたい。(01:05:15)

また、ターゲティングポリシーに関して言うと企業が基礎研究になかなかお金を入れることが出来ていない状況もあると思っている。だからそのぶんiPS細胞等、今後伸びそうな分野にある程度ターゲットを絞りつつ、ロードマップをつくってターゲティングしていかないと民間も投資しにくいのではないかなと。この辺、旧来のターゲティングポリシーとは違うと私は理解している。補助金の議論も重要だ。この辺については経済官庁である経産省がどこかで、「今まで投じた補助金でどのような効果があったか」を数字に落として検証するべきだろう。あと、新陳代謝というのはたしかに難しい話だ。経産省の成長戦略でも産業構造の転換を経て潰れそうになってしまった分野に手を差し伸べる政策がかなり手厚く入っている。これは政治の宿命と言えば宿命だが、そこでどう割り切っていくかについては覚悟も求められる部分もあると思う。(01:06:57)

「自分が主体で手を動かす体制を作らないと、結局、別のところで政策が決まってしまう」(竹中)

フェルドマン:「空気」というのは大事なポイントだ。これは私の専門外ではあるが、やはり尖閣問題が改革出来るような環境をつくっている部分があるのではないか。「日本の国力ないし経済力を高めなければこの問題の解決もない」という、その覚悟は広げていくべきではないかと思う。(01:08:38)

それとエネルギー問題については本当にご指摘の通りだ。私としてはそこで若い人々に参加して貰うための危機感が鍵になると思う。これまでの20年間、世界で使用されているプライマリエネルギーは、人口、生活水準、エネルギー効率等すべて換算すると年率1.5%で伸びてきた。現在世界で使われているプライマリエネルギーは原油換算すると年間1千億バレル。これを毎年1.5%で伸ばしていくと、50年後には同7.4兆バレルとなる。原油、通常のガス、シェールガス、石炭、これらすべて足しても世界の埋蔵量は現在7兆バレルしかない。大変な話だ。文明が終わってしまう。そんな危機感とともに「新しいエネルギー事業や省エネ技術を広げていくことが文明を救う最大の仕事だ」と認識して働いて貰う。そうすれば…、我々も年金を貰えるのかなと(会場笑)。(01:09:26)

柳川:最後に竹中先生からもお話しいただこう。(01:11:05)

竹中:問題の本質は秋山さんが仰っていた通り、我々が何を言っても別のところで政策が決まってしまう点だ。そこに尽きる。二択のアイディア、新陳代謝を促す空気、若者に機会を与える着想…、皆、素晴らしいと思う。そしてそういう議論をいくらでも聞いたうえで、事務局は「分かりました。鋭意努力して取り纏めます」と言ってすべて引き取っていく。で、そのあと「いやあ、この辺が上手くいきませんで」、「この点で大臣が納得しませんで」と言い出す。しかも「若者に関しては補助金と基金をつくります」と…、要するに天下りをする(会場笑)。そんな流れを通じて、民間議員は単なる陳情団になってしまう。(01:11:17)

だから…、実は始終喧嘩出来る訳でもないので、私は今このバトルにおける最大のポイントとして考えていることがある。この点については秋山さんとも色々話しているが、「事務局のなかに我々を入れろ」と。そうしたら次に何を議論するか、あるいは誰を呼んでくるかというアジェンダも設定出来る。とにかくそれをやらない限り、いくら議論しても、引き取られて終わり。その点は以前から意識していたので向こうにも伝えており、最初の会議では「一度その方向で検討します」という返答も貰っていた。ただ、まだ実現していない。だから先日も改めて言ったのだが、またNGという押し戻しがメールで来ていた。信じられないでしょ? 今はそんなバトルが繰り広げられている。(01:12:32)

そこで、たとえばひとつのやり方として、平さんに担当政務官となっていただき、「私が報告書を書く」と言っていただいたら良いと思う。実は小泉政権で不良債権処理が出来たのは、報告書を私が自分で書いたからだ。郵政民営化の際も納得出来るまですべて自分で法律を書いた。そんな風にして自身が主体とならない限り、良いアイディアは出るものの、気が付いてみると役所が少し焼け太りしていただけという結果になってしまう。その一線を乗り越えられるかどうか。そこを越えないまま「入り口で立ち止まらずにどんどん中身の議論をしていきましょう」という形になってしまうと、もう絶対に駄目。“なんちゃって成長戦略”にしかならない。だからそこは我々も頑張らなければいけない。ぜひ平さんにも支えていただきたいと思う(会場拍手)。(01:13:20)

柳川:さまざまな議論を通し、成長戦略に関する議論の舞台裏もだいぶ見えてきたと思う。引き続きアベノミクスに大きな期待をしながら、本分科会を終了したい。ありがとうございました(会場拍手)。

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