鎌田由美子氏×木内博一氏×新名孝至氏 地域が主役 〜元気づけるために私たちができること 

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パネリスト:
鎌田由美子 東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 地域活性化部門 部長
木内博一 農事組合法人和郷園 代表理事
新名孝至 株式会社ジェイ・ウィル・パートナーズ パートナー

ファシリテーター:
木村尚敬 株式会社経営共創基盤 パートナー/マネージングディレクター グロービス経営大学院教員

木村尚敬氏(以下、敬称略):皆さんこんにちは。本セッションのテーマは、地域をどのように活性化していくかというお話です。現在、日本の地方は少子高齢化に伴う人口減少や産業空洞化といったさまざまな構造的問題を抱えています。そのなかにあって、皆さんが目指している創造と変革を地域でどのように巻き起こしていくか。これが本セッションの大きなテーマになると考えております。

地域の活性化を経済的な側面で考えると、内需を掘り起こすとか、事業を新しくつくるとか、外需を狙うといったことが考えられます。壇上の御三方は、事業家、起業家、あるいは投資家としていろいろな形で地域の活性化に取り組み、活躍されていますから、非常に面白い話を聞くことができると思います。それではまずご自身の自己紹介から、お一人ずつ簡単にお願いできればと思います。鎌田さんからお願いします。

モノを介在として人が結ばれていく環境をつくる(鎌田)

鎌田由美子氏(以下、敬称略):皆さんこんにちは。JR東日本の鎌田と申します。JR東日本は鉄道会社であり、売上の6割強は鉄道収入、そして30数%が生活サービス事業収入となっております。今日は私どもが約3年前に立ちあげた「地域再発見プロジェクト」についてお話をさせて頂きます。ここで言う地域とは地方のことです。地域には観光資源や農業をはじめ、工芸、人材、文化など、さまざまな価値が眠っています。首都圏に暮らす人々の多くも地方から来ておられますよね。一方の首都圏は地方にとってもマーケットになっています。私たちはそういった関係のなかで、モノを介在として人が結ばれていくようにしたいと考えています。人の力、あるいは個人の力は非常に大きいものですが、組織の力も使うことによって、一人ではできないいろいろな力も相乗効果として発揮されると考えています。

JR東日本のエリアには約1700の駅があります。2010年度の乗車人員上位100駅を見ると、地方の駅で上位100内に入っているのは57位の仙台駅だけです。首都圏にお住まいの方ですとイメージできるかと思いますが、56位は南武線の登戸駅、58位が原宿駅です。登戸と原宿のあいだに仙台駅が入ってきているんですね。首都圏というのはそれほど巨大なマーケットであり、人が密集しているということです。

私たちはいろいろなエリアで再建案件を含めたいくつかの取り組みを進めて参りました。今日はその一部をご紹介します。まず越後湯沢から。実はまもなく、第3期のリニューアルを致します。これまでのリニューアルでは、新幹線の改札から小さな商業施設までの距離が大変長かったのを改装致し、地元産でないものもたくさん売っていたのをすべて地元産に入れ替えました。また、トイレのバリアフリー化や駅の待合室も地元観光案内所を4カ国語表記で中央に設置し、レストスペースと小さなカフェ、書店を融合させた空間としています。

次は青森駅の「A-FACTORY」です。こちらは新幹線の開業に合わせて「新幹線以外にも何かやって欲しい」という地元からの要望を受け、青森市のまちづくり構想の一環としてできました。青森県産りんごのシードル工房と地元の様々な食材が楽しめるマルシェの複合施設です。加工の専門家ではない私たちがシードルをつくったのは、6次産業化を目指していたためです。1次の生産、2次の加工、そして3次の販売、私どもはどちらかというと3次の販路を中心とする会社です。しかしそこから2次に入り込んでいきました。

ご存知のように青森県は日本一のりんご産地であり、青森で生産されるりんごの8割は生食用、残りの2割は加工用です。加工用りんごの用途の大半はリンゴジュースです。道の駅で一升瓶のりんごジュースが500円で売られているのを見たとき、「これでは地元にお金が落ちない」と私は思いました。そこでりんごを絞ってジュースにするだけでなく、お酒にする、あるいはその成分を使って美容製品や医薬製品にしていけば、地元に落ちるお金が2桁も3桁も大きくなります。実際にそういった製品化に結びつくような研究成果はほとんどの地方が地元の研究機関などで持っているんですね。

「A-FACTORY」ではシードルを原料とするアップルブランデーまでつくっていきたいと思っています。今年中にはすべてのシリーズができると思いますが、現時点ではまずシードルをつくりました。また、シードルの製造過程がわかる「見える工房」としています。県から借りた土地に建てた施設を観光名所にしたいと思いました。

先ほど、青森産のりんごの8割が生食用と申しましたが、1個300〜400円のりんごをつくるのに地元の人々は大変な丹精を込めておられます。しかしそれでも傷がついてしまったり、日焼けしてしまったりするりんごは出ます。その日焼けしたようなりんごがこの施設では、一つひとつ、目の前を流れていってシードルに加工されていきます。私たちは、子どもたちがそういった工程を見ることのできる工房をつくりたいと考えました。そして同時にこの施設は1つの雇用の場にもなっています。

一方で、先ほど1700の駅と申しあげました通り、私たちには首都圏に多数の駅を持っている強みもあります。そこで被災地支援を含めた産直市などもかなりの数、展開しています。また、物産と同時に「さまざまな情報発信の場を常設したい」ということで、今年の1月、「のもの」というショップを上野駅につくりました。30坪ほどの小さなお店ですが、地方の県職員の方や地銀の行員さんに販売に立って頂き、地元の言葉で販売して頂いています。

木村:ありがとうございました。では続きまして木内さん、お願い致します。

「未利用資源の活用」「地域の人的資源のネットワーク化」「ビジネスモデルのアジアでの融合」(木内)

木内博一氏(以下、敬称略):和郷園の木内です。よろしくお願い致します。私は農家の長男に生まれまして、今でも千葉で農業をやっております。私は地域の再生というか、もともと地方に住んでおりますので、その地域にできることとして農業に取り組んでおります。特に農業のなかでも園芸農業というジャンルに取り組んで参りました。

まず、我々の取り組みにおけるキーワードとして地域資源…、我々は未利用資源と呼んでおりますが、この活用が挙げられます。農業といってもいろいろあるのですが、畜産農家と我々野菜農家の連帯です。先ほど鎌田さんも仰っていましたが、野菜農家では規格外のものもかなり出てきます。実はそれが、恐らく20年ほど前に需給バランスが逆転して以来、モノ余りの状態をつくっていました。供給過剰ですから未利用資源、つまり規格外のものはタダ同然の価格に近づき、収益にまったく転換されていなかった。

畜産廃棄物の糞尿も同様です。日本の食料自給率が低い背景には畜産の餌が9割を輸入に頼っているということもあります。畜産は肉や乳製品といったいろいろな製品に変わります。要するにお金を払って海外から餌を買っているのに、家畜の糞尿は基本的には廃棄物にされていました。農業が分野ごとにどんどん専門化していき、そのなかで化学肥料が出てきたこともあり、目の前にある資源が活用されなくなっていったわけです。こういったものの活用を、我々は未利用資源の活用と呼んでおります。

このほか、現在は地域資源のネットワーク化にも取り組んでいます。これは一言で表現すると人の資源です。我々は都内まで1時間少しの場所で事業を営んでいます。そこで農村に有利な人の資源と、そして都会のソフト的な人材資源をうまく融合させていこうというのが、地域資源のネットワーク化とバリューの拡大になります。

そして最後がグローバルな融合です。細かく言えばいろいろありますが、日本の生産、流通、そして販売に至るビジネスモデルは、特に開発途上国であるアジア地域においてまだまた新しいジャンルなんですね。ですからそれらのモデルは、特に食文化が近いアジア地域ではうまく融合できるのではないかと考えて事業に取り組んでおります。

具体的には畜産と耕種農業の連帯に向けた組織化や特別栽培になります。また、モノ余りですから付加価値を乗せたブランディングや流通も重要ですね。コールドチェーン(生鮮食品や冷凍食品などを産地から消費地まで低温・冷蔵・冷凍状態を保って流通させる仕組み)などもこれに含まれます。野菜農業ですから基本的には鮮度というものをしっかり出していく。それらを科学的に検証するトレースの仕組みづくりにも取り組んできました。リサイクルも重要で、畜産農家から出た廃棄物を土壌に還元していきます。さらに言えば、我々の食品工場から出た、加工でも使い切れない野菜の残渣も再度未利用資源として循環していくという取り組みを行なっております。

特に農業では篤農家と呼ばれる方々がいらっしゃいますが、日本では篤農家からどのようにして技術を習得するか、それがまったくデジタル化されていません。それを我々は科学的にシステム化およびデジタル化していこうと考えています。そのなかのひとつとして、ブランディングを行ってきちんと科学的に安全性や品質を証明する仕組み…、トレーサビリティと言いますが、我々はこれを日本で最初に行ったと思っています。また、畑からはじまり畑に返ってくるようなループを描く資源循環の仕組みも100%確立しております。

一方、加工分野に関してですが、私たちの取り組みはよく6次化と言われております。我々の地域はとかく第1次産業が主体となっておりますが、日本の一次産品産出額はおよそ8.5兆円と言われております。それに加えて輸入があり、実際に素材として使われるのが恐らく1兆円強。ですから10兆円前後ということですね。それに対して1億2000万人の国民が払っているのは(外食・小売といったサービスへの対価などを含め)100兆円におよぶわけです。そうしますと、地域または農村を産業化しようということであれば、素材に付加価値を乗せることももちろん大切ですが、実は川中・川下の仕組みを農村に持ってくることも雇用に繋がったりするわけです。そこで新たな知恵をつくり出して、ありとあらゆる販売チャネルの拡大などに繋げていきたいと考えています。

昨今、スーパーマーケットなどでは「生鮮三品」ではなく「生鮮四品」と言われるようになっています。野菜、肉、魚、そして惣菜という意味ですが、なかでも現在、最も伸びているのは圧倒的に惣菜です。惣菜のなかでも圧倒的に野菜が伸びています。ただし野菜は単価が安いので、坪単価が高い都内のスーパーマーケットなどではビジネスも成立しづらい。我々はそこに着眼しております。一言で表現すれば“惣菜プラモデル”。惣菜を誰でもつくることができるプラモデルのような仕組みづくりを行いました。それが加工事業で規格外の野菜を使うことにも繋がっています。

また、我々は農産物に自分たちで定価をつけていきました。農産物の価格はこれまで市場によって決定されていたのですが、自分たちの農産物に関して再生産原価をきちんと弾き出したうえで定価をつけていったのです。自分たちの農産物販売で定価を主張する以上、それを割り引いて売るというのは基本的にナンセンスですよね。ですから定価で売っていくために冷凍の加工施設などをつくり、需給バランスをすべてコントロールしています。現在、我々は40数品目の野菜をつくっていますが、そのなかでも特にリスクが高い品目に関しては、加工事業まで考慮した作付計画というか事業計画を練っています。

その一方で現在、日本にある我々の環境事業部でつくりあげた技術をタイのパートナー事業にも波及させています。安全性などに関して重装備が必要とされる日本国内ではプラントも小さいですが、タイでは簡単なものでも発電能力にして1000キロワットを実現しています。この電力を日本円にして…、1〜2億円ぐらい売っているのかな? このプラントはパームヤシの廃棄液を原料にしていて、今まではそれが環境汚染の原因でしたが、それらをすべてエネルギーに転換したうえで純粋な水にしています。乾季にはその水をパーム農園で撒くことができるという、完全なゼロエミッションの仕組みに変えていきました。

これからの兼業農家では、「農業」は主語ではなくなる(木内)

「THE FARM (ザ・ファーム)」というものもご紹介させてください。一見すると観光農園ですがまったく違い、どちらかというと、ありとあらゆる異業種との連帯を目指した施設です。これからの兼業農家では農業が主語になるわけでなく、むしろ、たとえば美容室が主語になる兼業農業など、主語を変えてしまおうと考えています。それによって農業がもっと都市生活者や異業種で働く方々のなかに入り込みやすくなるという提案であり、事業です。今はこの「ザ・ファーム」を農村側につくり、都市側にはたとえば「ザ・ファーム・カフェ」ですとか、そういった仕組みの出先機関をつくっていきたいと考えています。

最後になりますがもうひとつ。我々の6次化に関して、「和郷園というのは“一人6次化”をやっている」とよく言われます(笑)。それならば事業をやりながら学校も運営していきましょうということで、昨年から「アグリスクール和郷校」というものもはじめています。こちらはかなり好評ですね。このような学校づくりにもしっかり取り組んでいきたいと今は考えております(会場拍手)。

木村:ありがとうございました。和郷園は本当に最新の技術を導入された先進的農業スタイルを実践していらっしゃるなと…、皆さんも思いませんか? こういった先進的スタイルを実践している農家の方々というのは、実際には今の日本にどれほどの割合でいらっしゃるのでしょうか。

木内:0.1%ぐらいですね。

木村:0.1%ぐらい…、やはりまだまだほとんどの方が家内工業というか、そのような感じで。

木内:ひとつはやはり食産業そのものがデフレ化しているということです。ですから川上や川中、あるいは川下で、やはりきちっとした提携ができない。3つのうちのどの部分が利益をとるのかという話になるので、川上としてはバリューを上げないと、なかなか難しい。

木村:ありがとうございました。では引き続きまして新名さん、お願い致します。

「日本のお金」で、「日本の企業を再生」させる(新名)

新名孝至氏(以下、敬称略):はじめまして、新名(しんめい)です。私は卒業後、かつての日本興業銀行(以下、興銀)に入社致しました。主に長期資金を企業に供給することを通して、国内の産業復興やその後の産業育成・再編に貢献してきた銀行です。当時から、「銀行として産業を興して育てていくのだ」という、そういう社風を持った銀行でした。私自身はその「興銀のDNA」を今でも受け継いで仕事をしていると思っております。

1994年からは、興銀で住専(住宅金融専門会社)の担当になりました。住専というと、皆さんのなかにはご存じない方もいらっしゃるでしょう。1996年、公的資金の注入を巡り国会が荒れに荒れ、その国会は「住専国会」とも呼ばれて大きな社会問題ともなりました。その後、住専処理のために設立されたRCC(整理回収機構)に出向しました。そこで、当時大変有名だった弁護士出身の社長と3年間一緒に仕事をしました。

興銀に戻ったあと外資系証券会社に転職して、日本の銀行が抱える不良債権先を再生するという仕事をしました。皆さん当時は、「日本人が日本企業を再生した結果生まれるリターンなのに、なぜそれがほとんど外国に流れてしまうのか?」と、日本人として忸怩たる思いを感じておりました。そこで、「日本でお金を集めてファンドを立ち上げよう」という考えに至ったわけです。そこで、10年前にジェイ・ウィル・パートナーズというファンド運営会社を立ち上げました。ちなみに社名の「ジェイ」はJapanの「J」です。「ジェイ(J)」と「ウィル(Will)」で、意訳すれば「大和魂」ということになります。

我々は、この10年間合計で約2500億円のお金を集めました。投資家は、主に年金基金をはじめとした機関投資家や金融機関など、すべて日本の投資家です。まさに、「日本のお金」で、「日本の中堅中小企業の再生や成長」に投資し、「リターンは日本の投資家に返す」ということをこれまで続けてきております。

これまで、病院、老人ホーム、温泉旅館、バス会社、銀行、ハウスメーカー、マンションデベロッパー等々…、取り組んだ案件は100件以上に及んでいます。10年間で100件ですから、ざっと毎月1件のペースですね。相当に忙しくて、「プライベートな時間」はもちろん、「家族」と「健康」までも切り売りして仕事をしているという(会場笑)、そういう状態です。

ファンドは「繋ぎ役」(新名)

一般に、企業の再生のために必要なことは、大きく「財務リストラ」と「事業リストラ」の二つです。「財務リストラ」はファンドが中心となって実施します。しかし「事業リストラ」の方は、その事業に精通した「事業パートナー」と組んで実施しています。そのようにして、「財務リストラ」と「事業リストラ」の両輪を一体化して強力に推し進めることで、企業の再生を行っていきます。

我々が手掛けた再生案件の中で、「介護付き有料老人ホーム」の事例をご紹介致します。相談があった当時、30数施設の老人ホームを持つその会社は資金繰りに窮しており、入居者約2000人と従業員約2000人がまさに路頭に迷う寸前の状態でした。そこで我々は、経営者を入れ替え、増資などで新規資金を供給して立て直しを図り、余計な子会社はすべて売却した後、その会社を大手同業者に売却しました。実はこの案件ですごく印象的な場面に出会いました。売却決定時の施設長会議で「会社を大手同業者の○○社に売却することになりました」という話をしたら、皆が喜んで大拍手が起こったんです。これまでは会社が潰れそうで、「いつどうなるか分からない状態だったのに、よくぞここまで…」と。「今まではファンドに疑心暗鬼だったが、サービスもよくなって施設もよくしてくれた。そして今度は大手の傘下になって、これでもう安心だ」と口々に喜び合っていました。

その様子を見た私には二つの想いがありました。一つは「皆さんにこんなに喜んで貰えてよかった。再生ファンド冥利に尽きる」という想い。もう一つは「我々の手を離れることでこんなに喜ばれるのか。かなり一所懸命やってきたんだが・・・。」という想い(会場笑)。ファンドというのは所詮「繋ぎ役」です。地方で経営が厳しくなった会社のご相談を受け、立て直し、最後は安心できる形にする。そういうことをこれまで続けてきてきました。以上です。(会場拍手)。

木村:ありがとうございました。そういえば別セッションで水野(弘道氏:コラーキャピタル [英国] パートナー)さんが「日本にはリスクマネーの出し手がいない」といったお話をしていらっしゃいましたよね。そんな日本でこれだけのお金を調達したというお話に、近い業界の人間として非常に興味を覚えました。お金集めの極意のようなものが何かありましたら個人的に教えていただけると助かるのですが(会場笑)。

新名:(笑)これといって極意というものはないです。最近もある年金基金を訪ねて、「どうかよろしくお願いします」と言うと、「おたくに似た名前の会社に随分損をさせられた」と(会場笑)。金融の世界では、「信用」のあるところに「お金」が流れます。要するに「信用される人にお金が集まる」ということです。当然、信用していただくためには日々の行動が大切ですし、その結果として数字も欠かせません。その「日々の地道な積み重ね」こそが、「お金」を集める秘訣ではないかと思います。

日本は農業他におけるさまざまな優位性に気づいていない(鎌田)

木村:なるほど、ありがとうございます。今日は御三方にいくつかの質問事項をご用意致しました。一つ目は、地方だからこそできるビジネスはどういったものか、特に都市と地方の役割分担についてです。基本的に事業という視点で考えると、比較優位をいかにつくるのかという点が重要ですが、皆さんはどのようにしてそれらを構築してかれているのか、ぜひお伺いしたいと思います。

これまでの日本では都市部の大きなメーカーが地方に工場を建て、そこで生産を展開するという大きな流れがありました。そこには都市部に対して人件費含めた安い要素コストという比較優位がありました。しかしモノづくりのグローバル化が進む中、要素コストのみの戦いになると中国やベトナム、あるいはミャンマーといった地域との競争になり、比較優位がどんどん薄れていきます。その他の問題もあいまって、工場が海外に出ていってしまう。これは大きな産業構造の変化という流れで言えば、防ぎようのない部分ではあるかと思います。

そういった流れも考えたうえで皆さんのお話に共通していたのが、やはり「地方にある資源をいかに有効活用するか」でした。新名さんの例でも「日本のお金を上手く使って」という部分があったかと思います。では地方の役割、あるいは地方だからできることというのは何か。さらに言えば、そのときに中央が分担すべき役割は何か、コメントをいただけたらと思います。

鎌田:明確にマーケットが存在している都心と、人はいるけれども消費地でなく生産地としての役割を持っている地方という状況の違いはたしかにあると思っています。先ほどご覧いただきました地方と都心に関する数字も物語っている通り、やはり地方はどんどん過疎化しています。これは東日本大震災以前からずっと続いていたことです。りんごの事例でもわかりますが、やはりお金が落ちなければ後継者がなくなります。ですからそのあたりの循環を改善するのに多くの課題があると考えています。

プロである木内さんの横で申しあげるのも恐縮ですが、たとえば日本の農産物生産額ランキングは世界5位で、これは30年間変わっておりません。しかし、どれだけの人が日本の農業が持つ強さを認識しているのか。スーパーマーケットで売られている商品だけでなく、種や肥料、あるいは農機具など、農業を取り巻くさまざまな環境を見ても日本では大きな優位性を持っているにもかからわらず、です。

たとえば農業以外でも文化や工芸の部分で同様の強さがあるわけです。Cool Japanに代表されるようなアニメやマンガといったいろいろな価値が世界に飛び出しています。そのような部分をこれからの日本がどのようにして強化していくのか。私は、まずは付加価値を乗せることが重要になると思っています。モノだけではなく付加価値を乗せ、そこに若い方々に雇用の場として目を向けていただく。そうすれば、もしかすると東京からもっと人が地方へ進むようになるかもしれません。私は農業などでその流れが少しずつ生まれつつあると感じていますし、それは非常に重要であると思うのです。

ほかに忘れてはいけないのが、今回のテーマにもなっている「地元が主人公」という部分に関する話だと思います。「地域活性化に必要なのは、よそ者、馬鹿者、若者である」とはよく言われることですが、これ、私も実感として抱いております。まずは地元が主人公であり、そのうえで外の視点をどのように活用していくのかがとても大きいと感じます。

木村:ありがとうございます。農業のお話も出てきましたが、木内さんはいかがお考えですか?

木内:はい。地方だからこそできるビジネスという点に関して言えば、やはりその地方が持つ自然条件であると、私はシンプルに考えております。先ほど鎌田さんからもありました通り、日本が世界第5位の農業大国であることを皆さん、あまりご存知ありません。もうひとつ加えますと、実は日本ほど四季がはっきりしている国もないわけです。四季がはっきりしているということは、多種多様な食材を育む環境があるということです。加えて日本では水も安定的に供給されています。こういった条件は、農業を行う環境として、あるいは多様な農商品や農食品を生み出す環境として世界で最も恵まれていると、私は感じております。全世界を見てきたわけではないのですが、主要なところを見てきた限りではそのように感じます。

またそれらを産業化したときにどうなるのかという点も重要だと思っています。「世界は食料危機になって飢餓に陥る」とはよく言われますが、私の感覚では技術、特に生産技術がかなりのイノベーションを起こしていますから、世界中で食料は余っていると思うんですね。そういったこともありますので、穀物生産に代表されるようなアメリカ型パワーゲームというか、資金を大量に投入して生産効率を高めたうえでデフレ化によって売っていくといったような領域に、日本はあまり進むべきではないのかなとも考えています。

むしろまったく逆の方向にある尖った部分、ある一定の高所得者層など向けの少し贅沢な商品への需要に、生産から加工さらには企画まで入っていくことができたら面白いと思っています。そのうえで都市部と地方の役割分担について申しあげれば、地方は製造のところでしっかり取り組む。そして都市部はやはり圧倒的に頭脳、生産、加工、あるいは企画を、情報をもとにコーディーネートしていく頭脳になる。その点でコンビネーションやコラボレーションをいかに起こせるかが鍵になると思っています。

木村:ありがとうございました。新名さんはいかがでしょうか。いろいろな産業や業種、切り口で地方との関わっておられると思いますが、そのあたりを含めまして都市部と地方の役割分担に関するご意見をいただけないでしょうか。

「中央」で集めたお金で「地方」の事業を再生し、雇用を守ることから(新名)

新名:まず我々は、「地方だから」「都市だから」ということを考慮して再生案件に取り組んでいる訳ではありません。「都市部」の案件も「地方」の案件も、どちらも同様に取り組みます。ただ、「都市部」と「地方」で圧倒的に違うのは、「人材が豊富にいるか否か」という部分です。これは単なる人口の問題ではありません。例えば、「地方」で企業に投資する際、ターンアラウンドマネージャーとして社長を送り込む場合、その地方で適任者を探すのはかなり難しい。でも、東京や大阪にはいます。しかしながら、そういった人材を「都市部」から「地方」の会社に送り込もうとすると、「地方」というだけでものすごくハードルが上がります。それで、「ヒトがいない、モノがない、カネがない」という状態になってしまう。

お金に関して、「地方」にはなかなかお金が流れませんから、我々が「中央」でお金を集めて「地方」へ仲介することができたらよいな、と考えています。たとえば年金基金やメガバンクのお金を「地方」に再分配し、それによって「地方」の活性化を図るのです。

ただ、「地方」の活性化といっても、今のところ私どもの力では、一地域をまとめて活性化させることまではできません。鎌田さんにはできると思いますが・・・。ですから私どもとしては、「中央」で集めたお金を「地方」へ流し、そこで一企業の再生を図ることで雇用も守っていく。それを重ねていくことによって、地域が少しずつでも活性化すればよいという想いを持っています。そういう意味で、我々ファンドは、「都市部」と「地方」の両者を繋ぐ存在として、一定の意義があると考えています。

木村:ありがとうございます。基本はヒト、モノ、カネというところですね。地域にあるリソースとしてヒトやモノを生かしつつ、お金のほうは都市から上手く循環させていくという感じでしょうか。

新名:まさにそういうことだと考えています。

木村:ありがとうございました。では次に地方でビジネスを進める際の留意点や諸問題への対応策といった部分についてもお伺いしたいと思います。このあたりについて鎌田さんはいかがでしょうか。

鎌田:新名さんからもご指摘がありましたが、地方の人材不足と完全なイコールではないものの、やはり知識も少なかったりします。たとえば農作物に関して、「どのような育て方をしなければいけないか」ですとか「どんな栄養素があるか」といった領域については、大変よくご存知です。

ただ、それをたとえば加工品として売ろうとしたときに問題が起こります。道の駅では売れるけれども、東京で取り扱えない商品は意外に多いのです。一例として消費期限や賞味期限の表記があります。混在は珍しいことではないのです。アレルギー表示、添加物も同様です。コンタミネーションもひとつの工場でもアレルギー表示が必須なものとそうでないものは分かれてきます。アレルギー表示に関してどこまで裁量権があり、どこまで必須となっているのかを知っているか疑問に思う商品は少なくありません。

そのあたりがきちんとできていないと、そもそも市場に出せない場合があるのです。本当に小さな知識かもしれませんが、どこに聞けばよいのかすらわからず、結局、そのために販路を拡げることができていないケースがたくさんあります。また、マーケットにおける自分たちの立ち位置と言いますか、「どれほどのレベルで商品をつくっているのか」あるいは「東京のお客さまにはどういった商品が好まれるのか」などを知ることも難しい。商品は同じでもポーションが違う場合もありますし、たとえば漬物などでもジップロックが付いているか付いていないかで売上がまったく変わることもあります。

私は、そういった小さなことの積み重ねが大きな機会損失に繋がっている気がしています。その意味でも、都市部と地方でもっと人の行き来をさせる必要があると感じます。行政や企業でさまざまな部門がもっと動き出すべきです。「東京だ」、「いや地方だ」という話でなく、いろいろなところが流れていく、廻ってくると状況も随分変わる側面があると思っています。

同時に、先ほど「地元が主役」というお話を致しました通り、やはり地方が自ら動き出さないところには何も生まれてこないと思います。会場の皆さんがご自身の意志であすか会議に参加しておられるのと同じです。もちろん地方でも「地元のために何かをしたい」、「地元のものをこういうふうにしたい」といった想いがあるところには必ず人が惹きつけられて、繋がっていきます。そういうところでは必ず動きになってくる気がしています。

木村:ありがとうございました。木内さんはこのあたり、いかがですか?

地方というムラ社会では、役割を明確にし、小さな成功を積み重ねることが重要(木内)

木内:これは農業というか食の部分に限った感想なのですが、よく言えば地方には「いい人が多い」という話になります。ただ、少し言い方を変えると保守層が多いんですね。ですから都会の人々…、たとえば皆さんのように、ギラギラになって一所懸命に「成長しよう」と考えている方々から見ると、少し人種が違うと感じる部分はあると思います。

また、言い方は悪いのですが「ムラ社会の罠」とでも言うのでしょうか。地域で情報を共有するため、あるいは地域の人々にスキルアップをして貰うため、いろいろな情報や指導を先陣きって…、一言で表現すればリーダーシップをとって公開していこうとするとどうなるか。都会では隣に住んでいる人が誰かすらわからないということもあるかと思いますが、村はすべて繋がっています。それでムラ社会における保守層のあらぬところから邪魔が入り、何をするにも非常に時間がかかってしまうこともある。ムラにいる私から見ますと、そのようなリスクはあるのだろうなと思います。

そういった問題への対応策として、やはりパートナーの役割を明確にすることが重要になると思います。役割を明確にしながら、とにかく小さくてもいいので成功モデルをつくっていく。そしてその成功を、役割分担した人々で共有していく、言ってみれば共同組合のような形ですね。やはりそういった手法がムラでは一番やりやすいのかなと感じています。

あともう一つ。私自身はよく「農業ってなんだろう」と考えるのですが、我々としては農業でなく食材製造業をやっているのだと考えています。食材製造業と考えていくと、実はその製造手段が多種多様に変化していることもわかるわけですね。しかし日本の農業では現在、その製造手段が農業機械メーカーやJAグループといった限られたところからしか提供されておりません。私はある意味、そのあたりに成長が止まっている原因があると思っています。

裏を返せば、だからこそ、そこにとてつもないビジネスチャンスがあるとも思います。私は食材製造業に携わっているので常に製造のあり方そのものに、それまで考えてもいなかったような他産業の技術を融合しながらイノベーションを起こし、生産性を高めていく。あるいは供給できないときに供給できる仕組みをつくりだす。我々はそういったことをやっております。

したがって地域でビジネスを行っていくうえで一番のファクターになっているのはやはり技術革新です。また、マーケットがわかっていなければ技術革新の正しい方向性も決められませんし、最短距離で最大利益を得ることもできません。ですから強いて言えば、私たちは常にそのような部分を念頭に置いていることが対応策でしょうか。

木村:ありがとうございました。新名さんはいかがでしょうか。

新名:ファンドは「お金」と「論理」だけという印象があるかと思います。ただし、地方の中堅中小企業では、「論理」だけを優先していては、企業の再生が上手くいかなかったりもします。「人」であったり、「しがらみ」であったり、そういう「論理」だけで割り切れないものがポイントだったりします。ですから、我々もそのあたりには相当注意を払います。もちろん、そうは言っても「論理」は優先させなければいけませんし、我々が投資しているお金は投資家のお金ですから、きちんと投資家に説明できなければなりません。それでも、「人」の要素をはじめとした「論理」ではない部分に、ディールの成功または失敗の要因が、かなり深く絡んでくる訳です。そういうところが、地方の中堅中小企業の再生の難しさなのかなと感じています。

奇策よりも、ちょっとした気づきを与えることが再生のきっかけに(木村)

木村:ありがとうございます。実は私どもの会社も地方の会社支援を数多く行っておりまして、たとえばグループ会社として4社のバス会社を運営しています。そこで、少しビジネス・スクール的な質問になってしまうのですが、もし皆さんが明日からそういったバス会社の社長になったらどのようなことをなさいますか? 実際、結構難しいですよね。過疎化で人口が減っていくなか、どのように売上を増やし、コストを下げるのかという議論になりますので。

ちなみに私は「経営の解像度を高める」という点がひとつ重要と考えています。何を言っているかといいますと、昔から続いている会社というのは割と…、ストレートに言ってしまうとかなり大雑把な経営になっているんですよね。例えばバス会社であれば、簡単に言えば「儲かっている路線に特化して、儲かっていない路線を止めたらいいじゃないか」という話になると思うのですが、それがなかなかわからない。

たとえば皆さんはバスに乗るとき、お金を入れますよね。東京ですとSuicaなどがあるものの、地方ではまだお金を料金箱に投入しているケースも多いそうです。そうなると、総額管理はできるにせよ、個々の乗り降りまでの把握はかなり困難で、誰がどこで乗り降りしているか、どの路線が一番儲かっているのか、といった情報を見える化するのが非常に難しいらしいのです。ですからビジネスひとつにおいて、商行為ひとつにおいて、まずは取引がどうなっているかがきちんと見えるようにする。そのような経営の解像度向上という作業が、伝統的事業をやっていくうえで実は大きな鍵になるのかなと考えております。その点、どなたかコメントがございましたらお聞かせいただけないでしょうか。

新名:我々もバス事業の再生の経験がありますので、本当にその通りだと感じています。これまで、いろいろな企業の再生に関わって、経営管理が全くできていない会社があまりに多いことに驚きます。例えば、これまでマンションデベロッパー数社の立て直しを行ってきました。ところが、当初、これらの会社では、「このマンション一棟でいくら儲かったか」といった基本的な経営管理が全くできていませんでした。

もちろん、マンションの着工前や土地仕入れの時には、「土地をいくらで仕入れて、いくらの請負代金で建て、最後はいくらで売る」というシミュレーションはしています。しかし、最後、「結果はどうだったか」ということを全く管理していないんです。要するに、請負代金も資材もマーケットに連動していてその都度契約していきます。ですから、経営管理としては「トータルの損益はどうだったか」を把握する必要がある訳ですが、それができていない。我々は再生の過程で、それをきちんと把握できるようにし、「だからこれ以上の値引きは駄目なんです」、「この日までにきちんと売らなければいけないんです」といったことを事細かく指導してきました。

そうすれば普通に再生していきます。ですから、再生案件において、再生手法そのものはあまり難しくはないと思っています。我々がやっていることは、「悪い会社」を「普通の会社」に戻すだけだからです。「普通の会社」を「エクセレントカンパニー」にしたり、ものすごい「成長企業」にするというのは非常に大変なことです。例えて言うなら、『がんばれベアーズ』に登場するような「弱小チーム」を、「普通に野球ができるチーム」にしていくのが我々の仕事なんです。けれども、その「弱小チーム」を、甲子園に出場できるような「強豪チーム」することは、極めて難しい話だと思っています。

鎌田:私も同感です。「地方というのは大変だ」とはよく言われますよね。しかし実は私、3年半ほど前まで「駅ナカ」の開発をやっておりまして、当時はむしろ東京のほうが疲弊しているのではないかと思っていたこともありました。そのあたり、実際のところ「やはりマーケットとしてたくさんのお店があるから飽和状態にある」と見るべきなのかどうか…、恐らく皆さんの頭のなかにはいろいろな考えがおありだと思います。「いや、ニッチな市場ではまだまだ満たされていないものがある」と考えていらっしゃる方もいるわけですね。そのあたりをどのように考えるかが、マーケットをつくることができるかどうかの肝だと思います。その意味で、自分自身がマーケットに対して何を打ち出せるのか。また、一人ではなくて仲間たちとともに、いかにしてビジネスの相乗効果を発揮させていくのか。そういった部分の考え方によってまったく違った結果になるような気がします。

木村:そうですね。結局ところ奇策のようなものはなく、「ちょっとした気付きを与える」、「あるいは当たり前のことを当たり前にやる」というあたりが、実は一番重要なのかもしれません。今日、御三方がポイントとして何度か言及していらしたのは、「地方の人たちが主役である」という点でした。どのようにして地方の方々に気付きを与え、主役として主体的に動いて貰うのかが鍵だということですね。では逆に、そういった熱い志を皆さんはどのようにして持ち続けていらしたのでしょうか。ご自身の志と申しますか、原動力となる想いのようなものを、最後にお伺いできたらと思っています。では、今度は新名さんから伺っていきましょうか。

「中央」の案件には人が集まるが、「地方」には目が行かない。だから自分がやりたい(新名)

新名:そうですね…、まあ熱いかどうかは別として、「志」は持っています。私は日本という国が大好きです。日本が好きで、そして今まさにその日本が苦しんでいる。日本の金融機能がおかしくなっている中、「この国に金融面でなんらかの貢献をしたい」と思っています。それが「日本のお金でファンドをつくろう」という想いになりました。本セッションのテーマと離れてしまうお話かもしれませんが、私としてはそこがまずベースとしてあります。

その上で、「地方」へ目を向けたのには理由があります。外資系企業で再生の仕事をやっていた当時わかったことですが、「大きな案件」や「中央の案件」にはプレーヤーがたくさん集まるんですね。そこでいろいろな知恵などが生まれ、様々な再生手法も駆使されてきました。しかし、ふと「地方」に目を向けると、案件が「小さい」こともあり誰も積極的に取り組んでくれない。「それならば、自分が『地方』の『小さい』案件にも、きちんと同じような手法や知恵を注入したい」と考えました。そうしたことで「地方」の企業が活性化し、我々がファンドとしてもきちんとリターンをあげられ、それによって「地方」の雇用も守れる。

それで走り続けて10年。気が付いたら、「今までおよそ100件の再生をやってきました」という状態です。そういう意味では、「一つ一つ、あるいは一人一人のご相談に一所懸命対応することで、皆さんの喜んだ顔を見ることが嬉しい」という気持ちはあります。先ほどお話した老人ホームの件も同じですね。そこで、おじいちゃんやおばあちゃんの喜ぶ顔や、従業員の方々の明るい表情を見ることができるとやはり嬉しいです。「お役に立てて良かった」と。一方で、これまで投資家から巨額のお金をお預かりしている訳ですから、相応の責任も感じています。その責任をきちんと守り、投資家の皆さんにきちんとしたリターンと意義をお渡しでき、そして「地方」の方々に喜んでいただけるなら、「これは素晴らしい仕事だ」と思いながら今は取り組んでいます。

木村:ありがとうございました。では木内さん、お願い致します。

農業を年収1億円プレーヤーを雇うことのできる産業にしたい(木内)

木内:私は、農業を他産業以上にきちんとした人材が入ってくるような魅力的職業にしたいという気持ちがあります。私は農業製品をつくるための技術開発、製造企画のプロデュース、そして流通における販売企画のプロデュースを一元化した、一言で表現するならば総合的な食商社をつくりたいと思っています。たとえば金融であれば年収1億円プレーヤーといったお話もよく耳にしますよね。農業を、少し大きな話ですが、年収1億円を払えるようなプレーヤーを雇うことのできる産業にしたいんです。これが私の考えるビジネスの目指すところです。それによって日本の農業や食産業にいろいろな意味で波及効果が出てくると思いますし。また、そういったことをアジアなどの海外に転換できるような事業をしていきたいというのが、想いとしてあります。

結果としてそれが地域の…、もちろん地方が舞台になりますから、地方の活性化にも繋がっていくのだろうと思います。あまり大きなことは言えませんが、そんなふうにして自分にできることを、可能な限り短い時間で、自分が描いた成功のモデルに無駄なく繋げていく。私が現在抱いている想いというのはそのいったものになります。

木村:ありがとうございました。では最後に鎌田さん、お願い致します。

アイデアに大差はない、大切なのは波風を恐れずにどれほど行動できるかということ(鎌田)

鎌田:やはり仕事である以上、どのような職種でも辛いことはあると思います。ただ迷った時、自分が戻ってくることのできる原点を持っているかが大変重要ではないかと考えています。「何のためにこの仕事をやっているのか」「その先に何があるのか」を最初にきっちりつくっていると、ブレないんですね。たとえば大企業にお勤めの方々であれば仕事をしているなかでさまざまな社内調整に追われることがありますよね。セクションが違えば考え方も違いますから。しかし「会社をよくしたい」という思いは皆、一緒なんです。

私がビジネスを通して感じていることの一つですが、社外は定性論でいけると思っています。「こういうものをやりたい」ですとか「地元とともにこういう想いでやりたい」ということで進むことができる。ところが社内では定量論でなければ通じません。「駅ナカ」を変えるときもそうでした。「駅をこうしたい」と言いますが、その想いは皆持っているわけですが手法が違う。ですから定量論でないと社内ではなかなか話が通らない側面がありました。ただ、それをずっと繰り返していくうち、「本当にこのやり方でいいのだろうか? 本当にこれをやろうとしていたのだろうか」と、迷うときが出てきます。そのとき原点に戻って「何のために?」「その先に何が?」といったことが分かる状態であれば、決してブレないと思うんですね。

それともう一つ。同じ時代に生き、同じ空気感を吸って、同じものを見ている以上、アイディア自体は多くの人が同じようなものを浮かべているのではないかと思います。ただ、私はその分かれ目が「行動」に表れると思っているんですね。何かをやろうとすれば必ず波風が立ちます。その波風を厭わずに行動できるかどうか。壇上の御二方もさまざまな辛い思いをしながら結果を出してこられた方です。大切なのは、辛い思いをしながらもご自身の想いを成し遂げるため、波風を恐れずにどれほど行動できるのかという部分だと思っています。それ次第で巻き込むことのできるものも変わってくるのではないでしょうか。

私は23年間同じ会社に勤めておりますが、これまで「駅が交通としての機能だけでなく、地域の人々がさまざまな使い方をする場所に変えていくことができたら」という想いを持っておりました。たとえば保育園などです。現在、JR東日本は59の子育て関連施設があり、そのうち49が保育園です。そういった施設があると、例えば、鉄道のペーパークラフト教室を開くと駅長がマナー教室を開いてくれたりするんです。今はそこに地方の方々も積極的に参加してくださっています。そのような流れのなかで、鉄道のファンとなってくださる方々も増えていくのではないかと思っています。地方路線はどこも厳しい状態です。しかし地元の人たちが地域の路線を大事に思い、「一緒にやっていこう」となってくだされば、今までとは違う地元との新しい関係もできるのではないかと考えております。

木村:ありがとうございました。ではそろそろQ&Aの時間としていきます。いかがでしょうか。

現在のプロジェクトがたとえなくなっても、回る仕組みをつくりたい(鎌田)

会場:鎌田さんに質問をさせていただきます。私は現在、公務員をしております。地方をもう一度元気づけて発展させていくためには「いろいろな主体が協力しなければいけない」というお話があったかと思います。この点、自分で申しあげるのもおかしいのですが行政というのは実際にはなかなか動いてくれません(会場笑)。そこで、実際に行政サイドも含めてプロジェクトが上手く進んだ事例、秘訣があればお伺いできればと思います。

鎌田:ありがとうございます。行政に動いていただくのは必須だと思っております。先ほどは越後湯沢と青森の事例をご紹介しましたが、たとえば越後湯沢では町長をはじめ商工会議所や地元旅館組合の皆さんもプロジェクトに入ってくださったんですね。青森の事例も同様に、県庁の方々をはじめ、とにかくいろいろな方面の方に入っていただき場所を決め、生産者の方々を紹介いただきました。

そういったなかで強く感じるのが、世代によって考え方が異なる点です。上の世代が悪いという意味ではありません。私どもも国鉄からのスタートなので、上の世代はそのイメージもあって「JRが何かしてくれるのではないか」と思われてしまう。そうなってしまった瞬間に、もうにっちもさっちもいかなくなってしまいます。逆に30代後半ぐらいの方々は自身のお子さまたちも成長してきて、「本当にこの子たちの代に街の温泉街を残せるのか」など、いろいろと不安を抱いておられます。そのなかで「JRと一緒にできるのであれば自分たちはこれができます。JRは何ができますか?」となる。そこで一緒に動き、「こういうことであれば相乗効果を発揮できる」というような提案がどんどん出てくるんです。そこまで動き出せば、ある程度は大丈夫です。

ですから最初はそのあたりについてかなりお話しします。「私たちはずっといるわけはないですよ」と最初から申しあげています。実際、綺麗ごとではなく私もサラリーマンですから、10年後に同じ仕事をやっている保証はありません。「だからこそ私がいなくなっても部下がいなくなっても、あるいは現在のプロジェクトがなくなっても、10年後に今仕掛けているものがきちんと回っていくものをどうすれば一緒につくれますか?」という考え方を共有することが重要になる気がしています。

行政の方に関して言えば、熱い方とクールな方が両方いらっしゃるんですよね。ですから行政のなかでも違う部署で熱い方を探してみるというのが、意外と手っ取り早いときもあります(笑)。あまり答えになっていなかったら恐縮なのですが。

木村:ありがとうございます。では次の方、いきましょうか。

会場:地方の建設会社で働いております。「地方に経営できる人がいない」というお話について、「たしかにそうだなあ」ということと同時に、「でもこれはチャンスだなあ」ということを感じました。地方で経営ができる人材を育てるために、もしくは東京から来て貰うために、具体的にはどのよなアイデアが考えられるのでしょうか。「うちではこのようにやっているよ」といった例があれば、お伺いしたいと思います。

木村:地方での人材育成というお話ですね。では木内さんと新名さんにそれぞれ伺ってみましょう。

木内:私どもは現在、東京にも事務所を持っております。実際のところ、人は磨けば光るはずなんです。ただ、こういう言い方もどうかとは思うのですが、我々が思っているほどの成長スピードを見せてくれるか、あるいは磨くのにかけたコストのぶんだけ光を発してくれるか、となるとどうも…。人を差別するような言い方になってしまうので恐縮なのですが、たしかにそのあたりでは地方と都市部に温度差があると感じています。ですから我々は今のところ、東京で採用して千葉に送り込むという考え方でやっております。

新名:我々は「地方で人材育成をしている」という訳ではなく、「地方の案件に、都市部から経営者をヘッドハントして連れていく」という形をとっています。ただ、大切なのはそこからです。我々の手掛けたいくつかの案件でも、既存の経営幹部が正しく経営の教育を受けておらず、所謂「素晴らしい部長」はたくさんいるのに、「素晴らしい経営者」がいなかった。そこで我々は大都市から経営者を送り込み、内部の人々を教育していきました。その結果、「企業」が良くなり、「地域」も良くなったという流れだと思います。

それはたとえば温泉旅館でも同じです。温泉旅館の従業員全員を東京から連れてくることができるのかと言えば、そんなことは無理な訳です。トップ一人、あるいは経営幹部数人、それくらいの人数しか連れていくことはできません。ですから連れていった先で人材を育てています。

木村:地方企業の支援もしている私の経験からすると、地方の方々は方向が定まれば愚直にともいえる姿勢でお仕事をされるというところがあります。やはり現場力は大変高いと思うんですね。大事なのは何をすべきか・どこを目指すかという点です。現在の経営は、その難易度・複雑度が格段に上がっていますので、なかなか簡単には意思決定ができないのが現状だと思います。ですから最初は経営の意思決定を上手くサポートしてあげた後、その方向のもとでどのように進めていくかを一緒になってやっていく。そして少しずつバトンを渡していくというのがよいのかなと感じます。そこはやはりステップで考えていかなければといけないと思います。最初からすべてをこなせるスーパーマンのような人は出てこないと思いますから。

会場:地方に行った先では価値観の衝突もかなり発生すると思うのですが、その辺で何かリアルストーリーがあればお伺いしたいと思います。私自身も東京から地方に引っ越してきて、「何もないことはすごい価値だな」と思っておりました。しかしそれを言うと、元々地方にいた方々は「は? 何を言ってるんだ?」という感じになります。ですからそういった価値に対する考え方をどのように、あるいは誰に伝えていけばよいのか、なかなか伝わり切らない部分があると悩んでおりました。よそ者がアドバイスをすると言っても、やはりぶつかり合いになってしまう。そもそも誰が意思決定権を持っているのかわからない状況もあります。「よそ者が変えていく」といったお話については「まあ、そうなんだろうな」と思うのですが、そのあたりで実際には上手くいかない点も恐らくあったのではないかと思います。そのあたりのリアルストーリーを、もし可能であればお伺いしたいと思っております。

同じものを違った見方をできる、それがよそ者の強み(木内)

木村:わかりました。では最後に御三方からそれぞれ、皆さんへのメッセージを含めてお願いできますでしょうか。では鎌田さんから。

鎌田:本当に仰る通りだと思います。実際、意思決定権が誰にあるのか。有力者や長が多過ぎて、あちらもこちらも立てようとすると絶対に上手くいかなくなります。私は、最初に自分たちがやりたいものもきっちり持っていなければ駄目だと考えています。そのためには、先ほど申しあげた通り「何のためにやるのか」、「その先には何があるのか」という想いも必要になります。「これなら地元の人と共有できる」という、そういった信念は絶対に必要です。

私たちはそれに基づくパーツの部分として、たとえば青森であればシードルというひとつのアイテムをつくっていったという流れになります。地元の方々にも喜んでいただき、地元との競合も起きません。私としては可能であれば地元でもっとシードルをつくっていただき、「シードル街道」として観光名所をつくりたい。現在は10万本しか生産できない工場ではありますが、もっとたくさんのシードルができるようになったら東京から人を連れてくることができる観光名所にしたいと思っています。

ですからこうした夢を地元の皆さんに語りました。すると県庁や市町村、あるいは商工会議所や旅館組合といったいろいろな組織の長である方々にあれこれと言われたこともあります。ただ、そのときは、「私が提案していることについてはいかがでしょうか」と逆に伺います。「こちらに対するご意見を教えて貰えませんか?」あるいは「こちらについて、アドバイスをください」と言うんですね。ちょっとした話題転換、というわけでもないのですが、そういうことは何度かありました。すみません、少しお話がずれてしまったかもしれませんが。

木村:ありがとうございます。では木内さん、お願い致します。

木内:「よそ者が村を変える」と言うのは、それは同じものを違った見方ができるという意味なんですね。違った角度からものを見ることができる。従ってコミュニティのなかで整合性をとっていくのであれば、やはりそこに案内人をつくるべきだと思います。田舎で皆さんを導いてくれる、あるいはサポートしてくれるよい案内人を探すことに尽きると思います。それが外れてしまうと時間がかかりますし、損もしてしまいます。ですからその辺を慎重に見極める作業が大切になるのではないでしょうか。

木内:ありがとうございます。では新名さん。

新名:皆さんへ最後にメッセージを添えたいのですが、皆さんのように高度な経営教育を受けてこられた方々なら、活躍できる場は至る所に山ほどあると思っています。もちろん、再生の現場でもいくらでも活躍して頂けると思います。ただし、皆さんには再生の仕事には関わらないことを強くお薦めします(会場笑)。再生の仕事は本当に大変です。それよりは白いキャンバスに自分で絵を描く。例えば、ベンチャービジネスを立ち上げるとといった仕事のほうが随分と楽しいですし、ラクとは言いませんが、やりがいも大きいのではないかなと思います。

ただ、再生の仕事は、ベンチャーに比べれば、関係者もすごく多いんです。既存の従業員の方々もいれば、既存の顧客も取引先もいます。だから、いろいろな調整も含めてすごく大変です。でも、そんな中で再生に成功したときの達成感は、これはもう相当なものです。その達成感を感じたいために私はこの仕事をやっているんです。私は、再生の仕事というのは、恐らく世の中にある最も難しい仕事の内の一つだと思っています。ただし、別セッションで伺いました樋口(泰行氏:マイクロソフト 代表執行役兼COO)さんのお話にもありましたが、「二つの選択肢で迷ったときには、苦しい方の道を選ぶ」タイプの方であれば、ぜひ我々にコンタクトしてきてください。いくらでも皆さんが活躍できる案件はありますので。以上です。

木村:ありがとうございます。では私からも最後にひとつ。本セッションのタイトルは「地域が主役」ということになっておりますが、主役となる地域の人々にもある程度の覚悟が必要なのかなと私は考えております。というのも、地方に限らず現在の日本は大きな産業構造の転換期にあって、やはり創造と変革が必要なタイミングにあると思うんですね。創造と変革とは、とりもなおさず今までのやり方をゼロから見直すことであり、その過程の中で割を食う人は少なからず出てきます。新名さんのお言葉にもありました、そういった「本当に大変な仕事」について真の覚悟を、地方の人もそれに携わる都市部の方々も持たなければいけない。そうでないと、結局は元の状態に戻ってしまうと思うんですね。本会場へお集まりになった皆さんも「どうやって日本を活性化していくか」ということについて熱い想いをお持ちでいらっしゃると思います。ですからそのような皆さんとこれからも力を合わせ、日本再生に向けて一緒に頑張っていけたらいいなと思います。ではこのあたりで本セッションを終わらせていただきたいと思います。本日は誠にありがとうございました(会場拍手)。

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