オリックス 取締役兼代表執行役会長・グループCEO 宮内義彦氏 −時代を切り開くリーダーに求められるもの(後編) 

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堀:さて、少し話は変わりますが、もうひとつお伺いしたい点がありました。宮内さんご自身は財界のお立場から、日本をよくするためにさまざまな活動をしていらっしゃるといます。そのひとつが規制改革会議でのご活躍でもあったと思うのですが、恐らくグロービスもその恩恵で大学院になったのではないかなと(笑)。小泉内閣のときに構造改革特区というものがはじまって、そこで規制改革の一環として株式会社でも大学院になることができるようになりました。そういった改革を竹中(平蔵氏:慶應義塾大学教授グローバルセキュリティ研究所所長)さんなどとともに推進していらしたわけですよね。

残念ながら小泉改革のあと、いわゆる小泉-竹中路線は否定される雰囲気になりました。市場原理に偏り過ぎたといった批判が今でもあると思います。しかし財界人として立派であった…、と私がいうのもおかしいのですが、拝見していると本当に大変な批判を受けながらも進めておられ、素晴らしいご活躍であったと感じています。そこで政治家ではなく財界人のお立場として、ご自身のご経験も絡めてお聞かせいただきたいのですが、現在の日本をよくするためにはどのような変革が最も効果的だと思われますか?

1%の数人の心ある、力のある人が動けば日本は変わる

宮内:非常に大きく重要な問題提起だと思います。一企業の責任者として「こうあって欲しい」と思うだけでなく、社会人としても「やはり避けては通れないだろう」と思うことはたくさんあります。まあ、最終的には教育問題に行き着くというのがいつもの議論なのですが。ただし経済に限って申しあげますと、堀さんがおっしゃったように日本の構造改革は小泉内閣とともに止まってしまいました。市場原理や競争が大変ネガティブに受け取られているという現状は、日本経済にとってやはり一番の悲劇だと思います。

もっと果敢に挑戦して、競い合い、そして選ばれていくという経済活動をしなければいけないんです。しかし現在は皆を平等にして国が割り当てるような政治になっており、いうならば経済の質をどんどん落としています。私はやはり5年前の政策にたち返り、もう一度構造改革を進めるべきだと思っています。大きな市場を生み出し、そのなかで企業が互いに競い合う。独占も許すべきではありません。電力の自由化については規制改革会議でも取りあげましたが、テーマとして議論することもできないほど強い政治的圧力がかかります。それが非常に残念でした。

ガラパゴスと言われている情報通信分野についても同様です。NTT分割などの政策を我々の会議で提言したのですが、まったく聞いてもらえませんでした。あれを聞いてくれていたら、恐らく今のような状態にはなっていなかったと思います。それ自体も残念で仕方がないのですが、今はさらに悪化していますよね。そういう政策が悪であるかのような言われ方をされている。本当に嘆かわしい状況ですが、とにかく今はそんな時代ではないと認識すべきだと思います。

このほか政治問題についても少しお話ししますと、やはりイロハのイは1票の格差問題ですね。1対3で違憲状態なんていう判決を…、私は日本の最高裁判所がまったく機能していないと感じます。民主主義の原則はひとり1票であって、それ以外の判断なんて有り得ません。たとえば鳥取県に住んでいたら3倍になるのかと考えれば、こんなばかな話はないはずなのですが。本当の意味で民主主義をつくりあげるために、やはりもう一度国をつくり直さなければといけないと私は思います。

また、義務教育の現場についても改善していくべき部分はあります。現在は大阪府や市が国歌斉唱に関する条例を定めたりしていますが、それよりも先に考えなければいけない点があると思っています。教育現場ではあちこちで「平等にするべき」ですとか「平和が大事」と教えていますよね。それ自体は実に麗しい話なのですが、社会はそうなっていません。世界はそうなっていないんですね。競って勝たないといけない。学校では世の中とまったく違うことを教えているわけです。そういう意味で、やはり初等中等教育の基礎理念から変えていかなければいけないのではないかなと考えています。

堀:宮内さんご自身はそういた規制改革会議のような、一貫して規制を改革していこうとする部門に財界トップとして関与してこられたわけですよね。そこでの成功体験、あるいは「これが残念だったな」というお話、さらにはその方法論についてもう少しお伺いしてよろしいでしょうか。政治家ではない財界の人間に何ができるのかという点を私自身も学びたいと思っています。今度もそういった分野へ果敢に挑戦していく人は出てくると思いますが、彼らにアドバイスがございましたらぜひお伺いしたいと思います。

宮内:私たちは華々しい成果を挙げることができなかったと自覚していますが、いずれにしても当時の活動を通して感じたことはあります。日本の中枢で非常に大きな影響力を持っている人間というのは、実はほんの握りだということを発見したのです。少しでも物事を動かそうという段階では、ほんの数人の心ある、そして力のある人さえ動いてくれたら、あとの99%を引きずっていても物事が動くと感じました。

典型的なのは小泉元総理や竹中さんのような方々ですね。当時はたとえば官僚のブレーンも数えるほどしかいませんでしたし、本当に一部の方々が体を張って進めていたと思います。ですからそのような力のある人をどのように見つけていくかがポイントになります。ひとりでは何もできないなんてまったくの嘘だと思いますね。大切なのは志を持って「やるんだ」という強い気持ちを持つことと、そして本当に志をともにする仲間をつくること。国を動かすという状況に限らず、さまざまな状況がそうして生まれた少数でも動かせるのではないかと考えています。

それからもうひとつ。素晴らしいことを考え、思いつき、発言するというのは重要です。しかし「これだけよいことを言っているのだから、皆わかってくれるだろう」と思っていたら大間違いです。そんなことはまったくありません。言い続けて、訴え続ける。これが大切なんです。私は規制改革会議の議長を12年ほどやりましたが、同じことを5年ぐらい言い続けてもまだ動かないということはありました。

ただ、日本人もばかではありません。3年も同じことを言い続けていると、相手も私の顔を見ただけで私の言うことがわかってくるわけです(会場笑)。で、そのうち「これだけ言うんだから何かあるぞ」と。「君の言うこと、その通りだな」と言いながら、少しだけであっても動いてくれるようになるわけです。ですから何かを動かそうと思ったら、しつこくやり続けないと駄目なんです。よいことを一回言ったところで何の役にも立ちません。日本はそういう社会ですから。

堀:少数の人によって動かされていくというお話ですが、これは逆に言えば中枢の人間に改革マインドがなければ動きようがないということでもあるわけですよね。

宮内:おっしゃる通りですね。

堀:逆に言えば、総理大臣がいて、ブレーンがいて、そして行政を動かすような力を持った人が数人いる組織ができれば、これは可能性があると。

宮内:そう思います。現在はどこに訴えたらよいのか、あるいは誰に何を訴えたらよいのかすら、わからない状況ですから。

堀:私はダボス会議に何度か参加させてもらい、海外の政治家やリーダーに会う機会も数多くあったのですが、ふと「そういえば日本のトップリーダーに会ったことないな」と思ったことがあったんですね。それであるとき中曽根康弘さんにお会いしに行きました。中曽根さんのお話を伺っているうちに、ひとつ思ったことあります。

彼は小泉さんと並んで、戦後最も長く総理大臣を務めた政治家のひとりですが、それでもやはりできなかったことが結構あるとおっしゃっていました。「最高権力者であってもできないことがそれほどあるのか」と感じたのですが、同時に「できないことがあったのは一方で世論が後押ししてくれなかったからではないか」とも思いました。数人の力ある人々が動いたとしても、もし世論が徹底的に敵となってしまった場合、政治力の使いようによってはなかなか実現できないこともあるのではないかと。ですからそこをサポートしていく役割も必要な気がしております。中枢に大変な改革マインドを持った人がいて、一方で世論を動かせるリーダーがいるような形。後者のような役割を持つリーダーが、宮内さんをはじめとした財界や学会の方々と同じような価値観を持ち、立ち上がって発言していくことも重要なのではないかと感じるのですが、その点はいかがお考えですか?

宮内:その通りだと思いますね。そこでもうひとつ感じるのですが、たとえば日本では毎年のように総理大臣が代わりますよね。よその国に比べて情けないとたしかに思うのですが、このことをすべて「日本の政治家が駄目だから」と考えてしまうのは少々短絡的でもあるように思います。先ほど申しましたように、現在の社会、憲法、そして社会システムは1945年の敗戦時にできたものです。「軍の独走で再びあのような戦争になるのは嫌だ」ということで、今の憲法は権力を分散しました。誰にも大きな権力を与えない。ご存知の通り、内閣総理大臣は大臣会議長なんですね。内閣総理大臣としては何も力がないんです。「お前、規制改革しろ」と言ったところで、担当大臣が「嫌です」と言えばそれでピリオドになってしまいます。

そのとき内閣総理大臣にできることは「お前、辞めろ」と大臣に言うことだけです。だから「俺の言うことをきくよな?」というふうにしなければいけなくなるわけですね。権力を与えていないんです。そればかりか、たまたま内閣総理大臣になってもすぐクビにできるシステムをつくってしまっている。つまり日本では政治のソーシャルシステム自体、総理大臣が長く務められないようになっているということです。ですから余計に劣化しているのではないかと思いますね。

日本にろくな政治家がいないという話は、半分は本当ですが、半分は嘘だと私は感じます。中曽根さんなどは二期でもやっていれば大変な功績を残したと思いますが、そもそも彼が5年総理大臣を続けるのにどれだけ苦労したか。2年という自民党の総裁任期を2回続け、さらにプラス1年続けるために彼がどれだけ妥協に妥協を重ねていったかと考えますと、やはり彼の想いの何分の1しかできなかったのではないかと思います。

堀:たしかに、小泉さんにもあともう少しやっていただけたらという思いはありました。私がMBAのなかで最も勉強になったと感じたのは、組織行動学やパワーあるいは影響力に関することでした。人を動かすということを、いわば科学的に学べたことが大きな財産になったと思っています。特にハーバードはそういったパワーや影響力に関する研究が大変進んでいます。グロービスでも最近は、組織を引っ張っていくためにどのようなフレームワークやリーダーシップが必要になるかを学べるコースをつくっています。また、コミュニケーションのコースも新しくつくっていて、どんな媒体を使ってどんなメッセージを発信し、そしてどういうコミュニケーションを武器として活用するかという方法論を学んでもらおうと思っています。これらを組み合せることで、はじめてリーダーシップが発揮できるようになると思っているためです。複雑多様な組織を理解するとともに、どのような影響力を持って権力あるいはパワーを発揮していくのか。そしてそれをどのようにコミュニケーションのなかで培い、どういったリーダーシップを養うか。こういったことが今後は一段と重要になっていくという気がしています。

今、私はダボス会議のグローバル・アジェンダ・カウンシルという会議に入っていて、そこで次世代のリーダーはどうあるべきかという研究をしています。たとえば地球環境問題、フリートレード、ユーロ問題…、世界にはさまざまな問題はなんら解決されていないなかで、リーダーはどうあるべきかという話になっています。「もしかしたら今認識されているリーダーシップのスタイルがそもそも古くて、新しい形が必要なのかもしれない」といったことを考えています。よくよく考えてみると国際化の流れは日本にも押し寄せていますし、グローバリゼーションによって社会はどんどん複雑多様化しています。

その一方ではソーシャルメディアを中心にしてものすごい数の人々が世界に向けて情報を発信できるようになってきました。もちろんその情報をモバイル機器等ですぐに得ることもできます。そんな状況でジェネレーションギャップも発生しています。あるいはマルチステークホルダーという考え方もさらに大切になってきました。地球環境問題やユーロ問題は一国で決められないため、さまざまな国が入らなければいけません。そういったマルチステークホルダーが大切になる状況で、どのようなリーダーシップをとっていくかは世界全体の問題になっていています。そこでは恐らく、先ほど宮内さんがおっしゃっていたように根源的な自分の立ち位置、つまり縦軸と横軸を理解しながら自分のアイデンティティと使命感を持つことが大切になると思いました。自分がやるべきこと、志、そしてコミュニケーション能力を持ちながら、いかにして多くの人の引っ張っていくかという考え方が大切になると思います。

日本は生産と分配の問題が一緒に語られてしまう

堀:さて、ではそろそろ会場とのやりとりに入りたいと思います。皆さま自身が宮内さんのお話から感じとり、そして自分なりに考えた「あるべき姿」や、あるいは「もっとこういうことを聞いてみたい」というご質問でも結構です。いかがでしょうか。

会場:本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。お話を伺って少し思い出したことがあります。数年前のテレビ番組で、あるテーマについて討論がされておりました。小泉さんと竹中さんの路線がいわゆるアメリカ型の社会、つまり皆が常に競争していかなければいけない社会を目指していた一方で、今後はヨーロッパ型、つまり「急ぎたい人は急げば良いけれども、ゆっくり生きたい人はゆっくり生きればいい」という安定的でかつ精神的に充実した社会をつくることも必要ではないかという話でした。この点についてはどのようにお考えでしょうか。

宮内:その討論自体は存じあげないのですが、私は昨今のさまざまな議論を聞いているなかで、少し混同している部分があるのではないかと感じています。経済問題として考えると、「生産」と「分配」が一緒に議論されていると感じるんですね。市場経済、競争、そして優勝劣敗は生産の部分です。市場経済の原理は、たとえば皆がきゅうりを売りに来ている野菜市場で、「一番安いきゅうりが売れる」「初物のきゅうりが高く売れる」、あるいは「よそよりも新鮮なものが売れる」といった話になります。ここでは買う人が経済的かつ合理的人間として、自分にとってより価値があるものに財布を開く、それが市場経済です。すべての経済取引において、よりよいものが選ばれていくもので、それは「隣のきゅうりをぶっ潰して俺が勝つ」というものではないわけです。なんとか買ってくださいと言って財布を開いてもらわないと勝てない。だからこそ、よりバリューの高いものが社会に流通していき、バリューのないものは売れない。すべての経済取引がそのような原則で行われる以上、より価値のあるものが循環していきますからパイ全体が大きくなります。逆に市場経済でない限り、経済全体のパイは大きくなりません。

統制経済では政府が「給料を何日までに払いなさい」「1本100円のきゅうりを100本つくりなさい」といった命令を出します。政府は同時に「きゅうりの規格は長さ何十センチで、太さは何センチです」と決めるわけですね。こうなると生産する側は許される限りサボって、許される限りの楽をしながら規格ギリギリのものをつくる方法を考えます。うまくいけば規格を誤魔化しても政府が買い取ってくれる。それが共産主義であり社会主義だったわけです。しかしそれが70年の歴史を通じ、もうもたないとわかってしまった。完全に市場原理が勝った。今や北朝鮮とキューバを除き世界のすべてが市場原理で動いています。この状況で統制経済とともに進んでも勝てるはずがありません。これが生産の理論です。生産ではよりよいものが選ばれて全体のパイが大きくなっていく。ここについてNOと言ってしまう議論は、私には理解不可能なものです。

そこでもうひとつの「分配」という考え方が出てきます。でき上がったものをどう分けるかということですね。ですから市場経済にしたらアメリカのような社会ができるなんて、これはもうとんでもない話です。市場経済であればアメリカと競い合うような国力ができるという話ですから。分配の力はすべて政治が持っています。政治には徴税能力とそれを配分する能力がある。そこで政治が自分の思うように分配すればよいだけの話です。ですから政治家が市場経済反対というのであれば、これは自分に分配に関する政策能力がないと言っているだけの話です。社会が満足するような分配をすればよいわけで、アメリカ型分配もあれば、公平な分配もある。もっとも、完全にフラットな分配にすれば今度は生産が落ちていくと思いますから、生産がある程度あがっていくよう市場経済を中心に分配を考えるということです。たとえばアメリカの共和党による累進課税反対は、ひとつにはそういう考え方に基づいているわけです。とにかく日本では分配論と生産論が一緒くたにされてしまっていると感じます。

解雇規定をつくり、正規・非正規労働者の階層をなくすべき

会場:私の会社はサービス関連企業ですのでメーカーとは状況が違うのかもしれませんが、今後の少子高齢化について、CEOのお立場としての意見を伺いしたいと思っております。現在は年金問題もあって雇用延長が大きなテーマになっていると感じています。そのなかで、たとえばホワイトカラーで定年後の5年間は本人にとっても楽しくないだろうと思いますし、会社としても使いにくいという問題はあると思います。こういった問題、今後各社でより大きな問題となっていくように思うのですが、ご意見があればお聞かせいただけないでしょうか。

宮内:少子高齢化によって労働人口は大変切迫していきますから、その流れの中でやはりお年寄りも活用しなければいけないという社会になってくると思います。それからもうひとつ、女性をもっと活用しなければいけない。その次には海外からの人材をどうするかという社会問題も出てくるのだろうと思っています。

ただそれ以前に、現在は日本の労働市場そのものがめちゃくちゃに歪んでいると感じています。正規労働者、つまり正社員となった途端にクビは切られなくなり、給料はずっと上がり続けるようになるわけですよね。それで定年までだらだらやっていけますと。その一方で正社員にならない場合は、今度は非正規としていつクビを切られるかもわからないという話になり、問題にもなっています。これは規制改革とも関連する話ですが、やはり働き方は多様であるべきだと思います。ですから正規も非正規も認めて、もっと広い働き方を認めるべきではないかと思います。

また、正規労働者は出来が悪くてもクビにできません。裁判の判例があるだけで解雇規定はありませんから。その結果、労働者のなかに正規労働と非正規労働というまったく異なる二つの階層ができてしまった。正規労働が解雇できないという現在の状況が続く限り、企業は正規労働を増やしません。なるべく非正規を使いたいと考え続けます。ですから私としては解雇規定をつくり、この二つの階層をひとつにすべきだと思っています。そして正規になれば60にまで給料が上がり続けるといったばかなことは止める。同一労働同一賃金という考え方に基づいて、仮に60歳から65歳までは一気に落ちていくとしても、働きに応じた賃金を出すべきです。もらう方も「それでいいんだ」という社会にしなければいけないと思いますね。

勉強するのに、会社に頼るなんておやめなさい

会場:人材育成という観点でお伺いしたい点がございます。私自身も会社でミドルリーダーとして、家庭では父親として育成や教育をしているのですが、なかなか難しいことも多いと感じております。宮内さんが実際に事業で、たとえば企業で後継者を決める際に考えられたことや、家庭で子どもと接する際に心がけておられたことなど、具体的なエピソードがあればご教授いただけないでしょうか。

宮内:私は人材育成にあまり熱心ではないのではないかなと反省しているのですが、誤解を恐れずに申しあげますと企業が社員を教育するというのは、実はナンセンスだと思っているんですね。企業というのは従業員にインプットする場所ではなく、従業員の能力をアウトプットしてもらう場所ですから。そこを間違って「企業が教育してくれないので嫌だ」なんて言う人がいるのは僕には理解不可能です(会場笑)。自分で勉強するしかないと思います。

自分で勉強する。企業に頼るなんていう気持ちがよくないんですね。勉強は自分のためですから自分でする以外にないと思います。ですから私自身、会社では教育に大変不熱心でした。「自分で勉強しろー!」と叫びたい気持ちです(笑)。現在は我が社にもいろいろと研修制度もあります。語学学校に行かせたり留学させたりして、私としては「まあ、ふざけているなあ」なんて思うのですが(会場笑)、ここは世の習いについていくしか仕方がないですよね。ただ、個人としては会社に教育まで頼るなんておやめになっていただきたいと思います。勉強は自分でやる。誰にも頼らない。ですから子どもの教育でもそのようになさったらよいと思います。「人に頼らず自分でやるんだぞ」と言って聞かせるような教育でよいのではないでしょうか。

会場:今日のお話の中では企業の役割、企業と社会の関係について宮内さんのお考えを伺うことができました。それから個人の立ち位置についてもお話しいただいたわけですが、その中間にある組織の立ち位置についても併せてご見解を伺えたらと思います。少し漠とした質問になってしまいますが、今後の日本にとってどういった組織のあり方が考えられるものなのか。また、その組織をどのように運営すべきかという点について、お話しをいただければと思っております。

宮内:ものすごく揺れ動いている現在の世界に対し、日本の組織制度は本当に柔軟性を欠いていると思います。法律も同様ですね。いわゆる大陸法というのは、何か物事が動いたあとに法律ができる。そのため常に後付け後付けになっているから制度も遅れていくのだと思います。ですから日本をもっとフレキシブルな社会にすべきではないかと私は考えています。

皆さまご存知ないかもしれませんが、昔は法科万能という言葉がありました。法律を勉強している人間が万能かつ社会のリーダーだといわれていたんです。その名残がまだあるのかもしれません。日本の法科に関していえば、私は万能でないどころか弊害ばかり起こしていると感じています。法律通りにやれば社会は動くと思い込んだ人ばかりが、社会の上に行って日本のシステムをつくってきたのではないかと思います。

そうでなく社会の動きに応じて制度を変えていけるような、フレキシブルで、もう少し経営的感覚を持った人が日本の社会づくりをしなければいけないと思います。そういう意味で言うと、また本の話になりますが、日経新聞の記者で三宅伸吾さんが『Googleの脳みそ』という本を書いておられました。読む値打ちはあると思います。Googleがなぜここまで大きくなったかをひとつの寓話として捉えつつ、社会の変革について書いているんですね。そこから日本の欠点も見えてくるような内容でした。最近読んだ本のなかでは特に面白いと感じた本です。

堀:ちなみに私が最近凄いと感じているのは商社です。宮内さんも私も商社出身ですが、私が住友商事にいた頃は純利益が年間400億前後でした。ちょうどバブル全盛期の頃ですね。それが今は2500億です。その8割がトレード以外の事業収入なんです。で、「それは資源じゃないか?」と思うところですよね?しかし住商は銅の一件で3000億も吹き飛んでしまったことがありましたから、地下資源に対する投資も遅れていて、実際には資源が占める割合は3分の1しかありません。つまりこの20年のあいだにものすごい勢いで構造転換を行っていたわけです。アメリカ、ヨーロッパ、アジアに投資をして、今はほとんどが事業収益で上がってくる状態です。総合商社全体で見てみても、海外からの配当金は年間1兆3000億円前後にまでのぼっている状態です。

現在はそういった分野も日本にはありますので、恐らくは変化に抵抗してあまり伸びていない分野と、変化しながら積極的に投資をして成長している分野の両方があるのかなと思っています。彼らの動きを細かく見てみると結構失敗をしているんですよね。ただ、失敗をしながらもそれ以上に成功している。成長分野に早い段階で果敢に参入し、人材も徹底的も投入して、リスクを恐れずにどんどん挑戦しています。そのなかで生まれた利益をさらに再投資へとまわして、今度はノウハウを蓄積していく、そうしたモデルができあがっています。今まで投資事業会社は海外にたくさんありましたが、そのほとんどが投資銀行的なアプローチでした。それに対して商社的な現場の力や商流とともに、商品知識の豊富な人間が現場に入って実際に事業を行うというモデルが日本には結構あるわけです。ですから分野によっては変化への対応力も生まれていると感じます。今度、こうした分野でもっと研究していけばさらによい結果が生まれるのではないかと思っています。そういう会社はやはり熱心に教育投資をしているんですね。恐らく総合商社から事業会社に変わっていくという段階で、人間的あるいは能力的な変更が必要となり、変化に対応しているためではないかと思います。

女性を労働力として活用するために国がすべきこと

会場:日本では女性のグローバルリーダーがまだ少ないと思うのですが、女性がなぜ出ることができないか、あるいは出ていないのかという点について何かご意見があればお伺いしたいと思います。個人的にはもともとの社会制度に足をとられている部分と、あとはやはり女性自身が社会制度に少し洗脳されている部分の両方があるのではないかと感じております。また先ほど「女性がもう少し出ないといけない」といったお話もありましたが、宮内さんご自身が足元で何か取り組まれていることあれば、教えていただきたいと思います。

宮内:日本のように人口が減少している国で最も活用されていない資源が女性のパワーなんですよね。私としては、日本の成長は女性の力をフル活用できるかどうかにかかっているとも思っています。私どもの会社は、男女雇用機会均等法ができる遥か以前から総合職で女性を採用しています。ただ、そこからなかなか上にきてくれていないという現状はあります。一部の女性にはなにかこう…、会社を辞める理由ができてしまうんですね。結婚したら、子供ができたら、夫が転勤したら、海外に行きたいからと辞める。男は辞めたらアウトだから辞めません。そういう意味では、もう少し女性にも自覚があって欲しいなとは思います。

それからもうひとつ。企業や社会がもっと理解をしなければいけない部分があると思います。欧米から学んでいない。保育園ひとつ、なかなかつくれない。私が規制改革会議にいたときも保育園の認可制を変革してもっと窓口を広くしようということは議論していました。それでもう大議論をやって6〜7年経ちますが、まったく動いていません。

要するに日本は社会のいろいろな部分で既得権益をつくってしまっているんです。実際のところ、今の日本の保育園は素晴らしいんですよ。国が援助をして、立派な設備で立派な先生で、素晴らしい保育をしている。これは間違いありません。ところがその一方で保育所に入れない待機児童が何十万人もいます。ですから問題はこの素晴らしい保育園をなんとかするのではなく、入れない児童をなんとかするということです。それならば民間の保育所をもっと参入させたらよいという話をするのですが、そうすると「民間は現在の保育所に比べて設備をつくらない」とか「値段が高過ぎる」とか、しまいには「保育所には台所がないといけない」とか、もう本当にばかばかしい議論がたくさん出てくるんです。

要は既得権益を持っている人々が現在の素晴らしいものを変えたくないと。彼らは児童の方を見ないわけです。待機児童を減らすための議論が大きな声になっていません。ですから「うちの子どもには保育所もないから、私、やっぱり働くのを辞める」というような形になって終わってしまう。そんなふうにめちゃくちゃな状態になっているわけですから、とにかく現在の保育園が持っている高い基準を少し低くして民間参入をどんどんさせる。そうしたら女性の社会進出も増えると思います。

そういった例がたくさんありますし、それからもっと極端なことを言えば日本の戸籍制度が持つ問題もあると思います。嫡子とか非嫡子とか戸籍を見たらわかるとか、そんなばかなことをしているから、要するに法的あるいは社会的に認められた夫婦しか子どもをつくってはいけないという社会になってしまう。それはそれで立派なことですが、本当に世の中の動きに沿っているのかどうか。フランスはそういう点にこだわらず出生率を上げていますし、スカンジナビアの国々なんて片親がすごく多いわけですよ。ですから日本の社会制度にも原因はあると思います。

ですから打つ手はたくさんございます。今の女性の就業率はM型になっていますよね。Mのグラフで右側はパートタイマーが多くなるんですね。子どもに手がかからなくなってから再び勤めはじめているという状態です。結局、グラフ左側で正規として入社し、出産などとともに辞めたのち、今度はパートタイマーになっている。これは社会的に大変な損だと思います。この問題について政治がもうまったく対応できていないので、やるべきことはたくさんあると思います。

会場:先ほどの市場経済と分配のお話、大変感動致しました。その点についてもう若干お伺いしたい点がございます。産業革命から約200年、明治維新から約150年が過ぎて、そろそろ国単位で競争や分配をするのではなく、アジアで共同体としての市場経済を運営し、そのなかで分配をしていく。そんな時代がもうそこまで来ているか、あるいはそのような状態になるまでだいぶ時間がかかるものか。そのあたりについて宮内さんのご見解をお伺いしたいと思います。

宮内:どのレベルでおっしゃっているか定かではないのですが、もうすでに来ているのではないでしょうか。今日は主に日本のお話をしましたが、企業にはそもそも国境がありませんから。日本は国境で閉じ込められておりますが、企業の大部分はすでにアジアの成長を自分たちのテリトリーというか、フロンティアと思って活動をはじめています。実際に日本企業がどこかへ出ていった先でものすごい差別をされたということもないわけですよね。ほとんど平等にできつつあるという現状自体、すでに世界が国境のない経済活動にどんどん近づいているということだと思います。

結局のところ、日本企業と世界の企業とは競うしかないと思うんですね。ですから日本人が経営する企業ではあるけれども世界で通用する経営という、これまでにないチャレンジングな領域に日本の経営者は今後挑戦していかなければならない。世界のどこへ行っても人々が喜んで働いてくれるような企業経営をしていくというチャレンジですね。しかし、基本的な部分では日本企業としてのアイデンティティをきちんと持ち、そのうえで大きなテリトリーを舞台に事業活動を進めていく企業経営、これは輸出市場に限った話ではなく、サービス産業を見渡してみれば世界へ出る値打ちのある日本企業は山のようにあると思います。ですから、今後はそういう時代が来ると感じています。

先般貿易赤字ということで各種メディアでは大きく報道されておりますが、経常収支では黒字なんですね。その黒字幅も非常に大きいということは、日本がすでに投資したものでずいぶん回収しており、サービスの対価も得ているということです。新聞などを読んでいるとメーカーあるいは輸出産業の話ばかりが目につきます。しかし実態はそれをはるかに超えている。ですから単一市場のつもりでやっている企業は増えていると思います。

人生で一番貴重なのは、若いときの時間

会場:日本としてのアイデンティティ、そして世界で経営しなければいけないというお話に興味があります。実際にオリックスは世界で経営されていると思いますが、海外に進出し、その後運営していくにあたって意識すべき点がありましたらお聞かせいただけないでしょうか。

宮内:私どものところでは日本人が現地でやらなければいけないとは思っていないんです。たとえば現在は当社利益の約10数%がアメリカであがっていますが、そこでオペレーションを担当している人材は、金融ということもあって皆ウォール・ストリートタイプというか、そういう人材ばかりです。合計で1500人ほど働いていると思います。で、日本人駐在員はそこではたしか7名だったと思います。日本人は向こうでやっていることをきちんと理解して、ガバナンスを効かせる。そういう役割を担っています。ウォール・ストリート並の金融市場で日本人に頑張れといっても恐らく間違えてしまうだろうという感じがしていますし。まあ私どもは金融ですから、やはり金融が一番発達した国での仕事はそのようにしているというわけです。

ただ、アジア新興国でもそのレベルの経営者をすぐに見つけることができるというわけではありません。ですから3年から5年、あるいは10年かけて育てていきます。ものすごい時間と労力をかけつつ、それまではなんとか日本人で頑張るという形です。全体で見ると半分ぐらいの国では現地の人間がヘッドを務めている状態です。もちろんそのアプローチは常に変遷していくと思いますが、まずは日本人が頑張って現地を変えていく。そして最後はガバナンスを効かせるだけの舞台にしていきます。それがメーカーでない我々のやり方ではないかと思っています。確定したやり方ではありませんが、試行錯誤を重ねつつやっています。

堀:宮内さん、どうもありがとうございました。今回は課題図書をご紹介いただきながら、個人の立ち位置を探るということで、まずは縦軸の歴史と横軸の文明についてお話をいただきました。一方で日本人としてどのようなアイデンティティを持ち、何をすべきなのか、さらに学びとはどういったものなのかについてもご教授いただけたと思います。今度に向けて国をどうやってよくしていくのかというお話もありました。規制改革会議では6年間同じことをおっしゃっていらしたとのことで(笑)、言い続けることが重要だというお話はとても印象的でした。私などはどちらかというと言い続ける前に飽きてしまう方かもしれませんが、やはりそれでは駄目なんですね。もう何度も何度も言い続ける。できるまで言い続けるのが重要ということですね。

そして日本的よさを持ちつつ、さらにそれを深めつつ、しかし一方で海外でも発信できるコミュニケーション能力を高めていく。たしかに海外では、いわゆる普通のグローバル人間というのであればあまり価値がないんですよね。皆と一緒ですから。日本人として世界とグローバリゼーションをシェアしながら、自分自身がどのような見方をするかが非常に重要であるということだと思います。恐らく宮内さんがどのように考えるのか、私がどのように考えるのかという見方はそれぞれあって、それをまた違う視点から発信することで新しい価値も生まれてくると思います。

今日はそういった宮内さんの根幹を形成する歴史観や文明に関するご見解を伺えた点でも大変印象的でした。オリックスという会社を大きくして世界でご活躍しながらも、同時にパブリックマインドを持って世界あるいは日本で発言力を高めていらっしゃる。今日のお話を伺っていても本当にさまざまな面でご造詣が深いのだなと改めて感じました次第です。よろしければ最後に一言だけ、今日お集まりになった次のリーダーたちに対して、何かメッセージがあればお願いしたいと思っております。

宮内:はい。やはり若いというのは素晴らしいことなんですね。これに勝てるものはないと思います。私から申しあげたいことは、とにかく若い日の一日一日を絶対に無駄にしないこと。人生で何が貴重かというと、やはり時間なんですね。時間ほど貴重なものはございません。そして若い時代の時間ほど貴重なものもございません。歳をとってからの時間に比べて、もう何十倍も貴重な時間を皆さまは過ごしておられる。ぜひその自覚を持っていただければと思います。別に勉強ばかりしろという意味ではございません。面白いこともたくさんあると思いますし、とにかく若者としてよき生活を送っていただきたいと願っております。

堀:ありがとうございます。今日はその貴重なお時間を使いながらお越しくださいましたことに心より感謝しながら、皆さまとともに盛大な拍手で送らせていただきたいと思います。宮内さん、本日は誠にありがとうございました(会場拍手)。

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