金柿秀幸氏×川連一豊氏×古川健介氏「Next Generation Ventureの潮流」 

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学生時代に起業、“けんすう”の通り名でも著名

高宮慎一氏(以下、敬称略):おはようございます。グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮と申します。グロービス・グループのベンチャーキャピタル部門でコンシューマインターネット関連の投資をしています。

本セッションのテーマは「Next Generation Ventureの潮流」です。年齢的には、やや、Next Generationではない感じの方にもお越しいただいていますが(会場笑)。それはさておきまして、現在の起業ではさまざまなアプローチが生まれていますが、本日はまずお三方にご自身がどのように起業されたかを伺っていきたいと思います。そのなかで、どういった起業分野が今は伸びているか、あるいはベンチャー起業家として成功していくために必要となるマインドセットのような部分を共通項として探していかれればと考えています。

3社ともに現在、非常に伸びている有望企業ですから、皆さんに是非そのエキスを吸収していただきたいとも思っています。そしてどんどん起業していただき、日本を元気にしていただき、さらにグロービス・キャピタル・パートナーズにもどんどん来ていただけたらと(会場笑)。

お三方にお話を伺う前に、まずは会場の皆さんに聞いてみたい点があります。このなかで起業してみたい、もしくはすでに起業しているという方はどれぐらいいらっしゃいますか。(会場挙手)おお、さすがにベンチャーのセッションだけあってほとんど、でしょうか。すごいですね。こんなに起業していただいたら、我々ベンチャーキャピタルとしても非常に嬉しいなと思います(会場笑)。では、自分で起業するという形でなくともベンチャーで働いてみたいと考えている方はどれぐらいいらっしゃいますか。(会場挙手)わかりました。その方々はぜひ本セッション後にこちらの社長陣と名刺交換して、我々の投資先となる優良企業の成長に貢献していただきたいと思います(会場笑)。

では早速ディスカッションに移りましょう。まずはお三方からそれぞれ自己紹介とともにご自身の会社概要についても簡単にご紹介いただきたいと思います。ではロケットスタートの古川さんからお願いします。ロケットスタートは現在、『nanapi』というサイトを運営しています。7分で読める手軽なライフレシピというかHOW TOのようなサービスです。現在、大変な勢いで伸びているインターネットメディアになります。

古川健介氏(以下、敬称略):こんにちは。ロケットスタートの古川と申します。ロケットスタートという会社名は間違われやすいんですね。ロケットスターとかポケットスタートとかよく言われたりするので(会場笑)、名前だけも覚えて帰ってください。今日はまずは僕自身がやってきたことを紹介したほうが分かりやすいかと思いますので、学生時代にどんなことをしていたかというところから話をはじめさせてください。

僕は『MILKCAFE』というサイトを19歳ぐらいのときに立ちあげました。ご存知の方はいらっしゃいますか?(挙手ほとんどなし)あ、すみません。少し悲しい感じになってしまいました(会場笑)。これは学生向けに情報交換を行う掲示板です。今でもかなり活況なのですが、受験生や大学生が交流するサイトですね。ただ、学校の(裏)サイトという言葉がはじめて出た時期に取りあげられたサイトでして、割と悪いイメージがあるサイトになってしまっています(会場笑)。いわゆるユーザー発信型メディアということでCGM(Consumer Generated Media)と言われたりしています。ユーザーさんが書き込みをすることで成り立つサイトとして、はじめて手掛けたのがこちらのサイトでした。

これは匿名掲示板で『2ちゃんねる』などと似たような仕組みでしたからトラブルがたくさんありました。ユーザーの書き込み内容が問題になりがちだったんですね。よく警察から連絡が来て怒られたりしていまして(会場笑)。全国各地の弁護士さんから100通ぐらい内容証明をいただいたり、訴えられて裁判所に毎週通ったりもしていました(会場笑)。

今でもそうなのですが、匿名性が主体となるサイトでは書き込みを巡るトラブルが頻繁に発生します。で、それを自分で管理しているとコストが膨大になる。裁判所へ行くにもお金は発生しますから、「これは大変だなあ」と思っていました。ですから次のサイトをやろうと思って、次は『したらば』という掲示板をはじめました。こちらをご存知の方は…(会場挙手)あ、そこそこいらっしゃいますね。これは2ちゃんねる型の掲示板がレンタルできるサービスです。2ちゃんねるは有名だと思いますが、2ちゃんねるはそもそもしたらばのプログラムでつくられていたりするんです。ですから内容はほとんど同じで、当時はレンタル掲示板のなかで国内2位ぐらいでした。MILKCAFEとの違いは自分たちで管理せず、それぞれの掲示板のユーザーに管理者になっていただいたという点です。権限と義務を渡すことで管理コストを下げようと考えたわけです。

当時はこれを会社としてやっていたのですが、3人ぐらいで大きなサービスに育てることができました。ただ、アクセス数があまりに増え過ぎて管理に限界が見えたというか、ビジネスとして回せなくなってしまったんですね。そんなときに堀江(貴文:ライブドア元代表取締役社長CEO)さん…、最近収監されてしまいましたが、堀江さんからご連絡がありました。それで「売って欲しい」とのことでしたので、僕たちとしても収益を他で稼げるような大きなポータルに組み込まることで生き残るという選択したというわけです。これが大学3年生ぐらいのときにやっていたビジネスですね。

で、結論から言うとどちらのサイトも成功しそうな兆しはあったのですが、最終的にうまくできなかった。ですからそれを反省点として、次は大きな会社で働きながらビジネスとしてきちんと成り立つCGMというか、コミュニティサービスをつくりたいと思った次第です。それでリクルートという会社に入社しました。リクルートではCGMサイトやクチコミサイトを7つぐらいつくりながら、3年間修行しました。そのあと2009年6月に退社して、そしてロケットスタートにコミットしたという形です。

その後、2009年9月1日に、先ほどご紹介いただいたnanapiというサービスをリリースして、現在はその運営をしています。nanapiはいわゆるHOW TOを集めて共有するインターネットメディアです。たとえば「Tシャツを長持ちさせる方法」ですとか、暮らしのなかにある知恵のようなものをユーザーの皆さんに投稿していただくシステムで、それで収益をあげていくというビジネスモデルで展開しています。

高宮:古川さん、ありがとうございます。古川さんは本当に起業ネイティブという感じですよね。学生時代に起業して、ネットでも“けんすう”の通り名でとても有名です。で、そんな起業ネイティブのようなけんすうさんに対して、次は「大人」という資産を活かして勝負している(笑)川連さんにSAVAWAYをご紹介いただきたいと思います。SAVAWAYはECのプラットフォームをつくっている会社ですね。急成長しているEC市場のなかでもとりわけ、何千社というお客さんを抱えながら大変な勢いで伸びている会社になります。では川連さん、よろしくお願いします。

浜松をベースに「大人」の資産を活かして勝負

川連一豊氏(以下、敬称略):SAVAWAYの川連一豊です。48歳です(会場笑)。浜松で生まれ浜松で育ち、最近は週の4日ぐらいが東京で、3日ぐらいを浜松で過ごしております。そろばん2級で書道6段です。家が書道家で、幼少のときから書道を習っていたんですね。で、学生時代に好きだった女の子が音楽をやっていたので「一緒にエレクトーンを習う」と言ってエレクトーンを習いはじめたのですが、やっているうちに僕のほうがのめり込んでしまった。それで彼女をほっぽり投げてエレクトーンばかりをやるようになりました。で、キーボードが大好きになってヤマハの世界大会に出場することもできたという(会場笑)。

社会人になってからは…、まあ色々ありました。インターネットについては1989年前後からやっていたのですが、そのときにリストラされて、次にソフトプレンという会社に入りました。そこで低反発枕という商品を企画して売っていたら倍々で伸びていきました。それで楽天からも賞をいただいています。独立のきっかけはその商品ですね。また、『ネットショップで年商1億をつくる究極のおもてなし法』という著書も出しています。これはECというかネットのおもてなしということについて書いた本ですが、本を出すとブランド化につながるので皆さんも出版の話があったらぜひ乗っていただいたらいいかなと思います(笑)。

それで現在のSAVAWAYですが、2800社の取引先があります。こちらでやっているのはネットショップの多店舗展開サポートですね。8年前に立ちあげたのですが、当時は多店舗展開サポートをやっているところがありませんでした。当社はそこで売上をつくるという展開にして、今は非常に伸びている状態です。もうひとつが「ECモールレイヤー」というもので、モールが簡単に出来ますよというサービスですね。こちらの話を持って行くと超大手さんも大変乗り気になるというすごいアイテムになっています。

SAVAWAYのミッションは日本のネットショップをすべて黒字化させることです。流通額は単純にシステムの流通額を足したものであれば5年間で約300倍に成長しました。去年の流通総額が688億でして、2011年4月は月間100億を超えています。ですからサーバー投資は結構大変なことになっています。主要取引先ですが、スタートアップ当初は地元浜松のお菓子屋さんや牛肉屋さんといった店舗が多かったのですが、最近はマルイ、パルコほか、大手さんも一緒にやろうと言ってくれまして、さまざまな取引先と仕事をしています。

社員は現在90名で、オフィスは東京と浜松と大阪にあります。色々と部署をつくったり組織変更をしたりしていますが、今は企画、システム、ショップマネジメント、営業、サポートの5部門に分かれています。組織変更が最近かなり頻繁にやっていまして、1カ月に1回はやっています。組織変更をして1週間ぐらい経つとまた変更したくなるという(会場笑)。以上です。

娘の出生を機に絵本とネットの世界へ

高宮:ありがとうございます。次は『絵本ナビ』の金柿さんにお願いします。絵本ナビは絵本の情報サイトですが、お父さんお母さんからがっちり支持されていて、子どもたちに良い本を紹介しながら収益もあげているという、非常にうまいサービスを展開しておられます。

金柿秀幸氏(以下、敬称略):絵本ナビの金柿です。僕自身はもともと絵本とまったく関係のない、富士銀行系のシンクタンクである富士総合研究所(現・みずほ情報総研 以下、富士総研)で仕事をしていました。そこで8年ほどシステムエンジニアをやっておりまして、最後の1年は経営企画に従事しました。そして約10年前になりますが、娘が生まれるタイミングで「子どもが生まれるので辞めます」と言って退社して、絵本ナビをはじめたという経緯です。

ですから今年で10周年記念です。会社は渋谷区の大山町です。駅で言うと代々木上原というところですね。経営陣はビジネス系として比較的ばりばりやっているメンバーで、グロービス・キャピタル・パートナーズからも3名ほど来ていただいています。仮屋薗(聡一:グロービス・キャピタル・パートナーズのパートナー)さんなどはかなり著名ですから、「グリーを手掛けたベンチャーキャピタリストが今最も注目している絵本ベンチャー」みたいなキャッチコピーにしたら、学生がものすごい勢いでインターンの応募をしてきまして(会場笑)、これはいいなと(笑)。

現在はインターンを含めて従業員25名ほどの体制で展開しています。女優の紺野美沙子さんも絵本ナビのユーザーで、本サービスのファンということだったんですね。それで先月会社にお招きしたりもしました。そんな感じで、ネットベンチャーとしてはほんわかした雰囲気でやっている会社です。

僕自身は社業の傍ら全国を巡って絵本のおはなし会というのをやっています。もう7年以上続いている取り組みで、4000人ぐらいの子どもたちとお話をしてきました。絵本を読んでいると子どもたちと心が通じ合うんですね。おはなし会でも読む前の私は単なる「知らないおじさん」なのですが、絵本を読んでいると寄ってきてよじ登ってきたりする。僕たちはこういう時間を「幸せな時間」と呼んでいます。企業としてもそんな幸せな時間を応援する生活ナビゲーションカンパニーになろうという理念を掲げています。

そして、その企業理念や企業文化にフォーカスしながらレバレッジをかけていく経営をしています。何がレバレッジかというと、お取引先の出版社、絵本を買ってくださったり、レビューを書いてくださる利用者、絵本作家の方々・・・そういった方々に小さい会社ではありますが「絵本ナビっていいよね」と言っていただく。すると、それが元になって大手企業との提携も決まっていったりする、というようなことです。

絵本ナビについてもう少しご説明しますが、絵本の紹介と販売をする参加型絵本情報サイトと僕たちは呼んでいます。日本の絵本出版社約60社とパートナー契約を結び、日本で最も詳しい絵本情報を掲載しています。「次の絵本は何にしよう」と考えているお母さん方が情報を得るためにサイトを訪れるわけです。そこで「この絵本は良かったよ」とか、「これは良いと言っているけれどあんまり面白くなかったよ」とか、要はレビュー、クチコミを書き込んでいってくれます。その利用者数が月間60万人ほどいるのですが、その60万人に対して広告プロモーションをしていくことが事業としてひとつの柱になっています。そしてもうひとつの柱はその60万人に絵本と絵本から発生したキャラクターグッズなどの物販を行うというものになります。

基本的な収益構造がどうなっているかというと、先ほどのサイト情報編集ですね。色々な情報を載せていきます。そのことでサイトの価値があがり、それを見るために、利用者はどんどんサイトへアクセスしてくる。アクセスが増えて書き込みが増えるとまたサイトの価値があがる。そうするとまた利用者が集まるということで、このサイクルを大きくしていくことで物販と広告の収益もどんどん大きくなるという形です。ものすごくシンプルなモデルですが、これを大きくしていきたいと考えています。そこで利用者数が50万人や100万人、あるいは150万人になっても情報編集のコストはそれほど変わらないので、一旦ブレークイーブンしたあとは高い収益性を維持できるというモデルですね。皆さんもぜひ一度、ご覧いただければと思います。

絵本ナビの売りのひとつは、サイト上で絵本を全ページ読めるサービスです。小さいお子さんを連れたお母さん方にとっては本屋さんでゆっくり絵本を選ぶということ自体が大変なんですね。それがすごく満たされない欲求としてありました。ですからサイトで一回だけあれば全て読めますというプロモーションをしています。これは昨年にトライアルを行った時点で、参加作品は売上が4倍になったという実績があります。本サービスは現在340作品ぐらいを対象としていますが、今後は1000作品、あるいは5000作品までもっていくというのが今の方針です。これで消費者というか、お父さんやお母さんたちの購買行動ががらっと変わるだろうという仮説を持っています。

また、基本的にはインターネットでの事業ですが、そのほかにリアルな事業も展開しています。たとえば我々は百貨店ともコラボしているんですね。最近ではJR大阪で5月にオープンした三越伊勢丹とのコラボ。これは壁面全部を絵本ライブラリーにして、サイトと連動して年齢別の作品ピックアップとユーザーレビューをつけていくというものです。これを伊勢丹、赤ちゃん本舗、あるいはローソンといった企業と連携して行っています。このほか、三菱東京UFJ銀行は全国で1000店舗ぐらいの支店を持っているのですが、そのロビーに置いてある絵本はすべて絵本ナビが入れています。そんなところです。

高宮:ありがとうございます。我が家でも毎月絵本ナビのスタッフが選んだ絵本が送られてくるサービスを使っているのですが、子どもがもう楽しみにしていまして。

金柿:本当ですか? ありがとうございます。毎月お子さんの年齢に合わせて選んだ絵本を2冊ずつお届けするというサービスをやっているんです。

「無敵モード」「慎重派」「最悪タイミング」…起業の時期はさまざま

高宮:さて、先ほど皆さんにお伺いしたところ、ほとんどの方が現在起業を計画されているか、起業したいということでした。ですから登壇者の皆さんにぜひお伺いしたいのは、一体どんな思いに突き動かされて起業へと踏み切ったのかという点です。踏み切るまでには色々な経緯があったと思いますが、それらをどのようにしてひとつひとつ整理しながら起業していったのか。そんなところをお聞きしたいと思いました。それではまず川連さんお願いします。

川連:僕はネットショップの店長をやっているとき、ネット上のイベントをやったんですね。イベントは100店舗ぐらいの店長さんと行ったのですが、そのときに売上も上がるし、利益も上がるし、非常に面白いし、エンドユーザーさんもすごく盛りあがっていたと。それで「これは自分にとって天職に近いな」と感じました。それがSAVAWAYをつくった原点です。もともと僕は20代の頃から起業するつもりでいたのですが、やりたい仕事がそれまでは見つからなかったんですね。それで転職を考えたりもしていたのですが、42歳にしてようやく「これだ」というのが見つかったということになりまして。

高宮:20歳ぐらいから色々な仕事をしつつ起業のチャンスを伺いながらネットショップの店長をやっていらしたと。そのうえで「これなら勝てる」という折り合いをある程度つけられる形で起業されたということですね。

川連:そうです。僕はどちらかというと慎重派ですから。大胆にやろうとは思っているのですが、やはり自分の生活は最低限維持していないとアイディアも枯渇してしまうというか、小さくなってしまうかなと感じていたんです。ですから起業の際はとても慎重にやっていきました。できるだけ自腹で東京に行ったり大阪に行ったりして、自分なりのネットワークなども前々から一生懸命つくっていましたし。

高宮:我々ベンチャーキャピタルとしても会社そのものがうまく回るだけでなく、起業家ご自身の生活がきちんと回るということが担保されないと安心して投資できないという側面はありますね。ですから今お話しいただいたような着実な大人の起業にはすごく投資しやすいと改めて感じました。金柿さんはいかがでしょうか。

金柿:僕は学生時代から「いつか自分の考えた商品やサービスを世に問いたい」という思いがありました。ちょうど学生時代に父親が小売グループ…、今のイオンですが、関連事業の立ちあげをやっていたんですね。で、レッドロブスターやミニストップといった新しいものが立ちあがっていくのを横で見ていた。そこで「新しいサービスが世に出て皆が使うようになるというのはすごいことだなぁ」と熱を受けていました。

ただ、実際のところ学生時代は何もできなかったので、まずシステムエンジニアになろうと。そこから9年間経ちました。そのあいだ、ずっと起業したいという思いを持っていたのですが、最後に背中を押したのは子どもが生まれたということです。「もしこのタイミングで独立しなかったら人生守りに入ってしまうんだろうな」と感じたんですね。

あとになって起業に良いタイミングというのは2つあると思うようになりました。ひとつは20代です。僕は“無敵”と呼んでいるのですが、もう寝なくても食べなくても死なないような時期ってあるじゃないですか。そういう時代に、もう徹夜続きでもがんがんやっていく。これは最高だと思います。もうひとつは川連さんのようにある程度ノウハウやネットワーク、あるいはお客さんを確保した時点で満を持して独立するというタイミング。この2つだと思います。一番やってはいけないのがそのあいだで、子どもが出来たタイミング(会場笑)、これは最悪です(笑)。

ただ、当時は三木谷(浩史:楽天代表取締役会長兼社長)さんの講演を聞きに行って、そこで「死ぬときに『ああすれば良かった』と思うことが最大のリスクだ」という言葉に、“びびびっ”と来てしまいまして。それでとりあえず「辞めます」と辞表を提出しました(会場笑)。そこから半年間はハローワークに通って自主育児休業のようにしながらやっていましたね。退職後半年でようやく本事業が立ちあがるという経緯でした。

そういう意味では川連さんと対照的かもしれませんが、エモーションが先に立ったような起業でした。「当時の僕には三種の神器が揃っていた」とよく言っているのですが、それは「こみ上げる情熱」と、「過度の楽観主義」と、そして「根拠のない自信」(会場笑)。この3つが揃ったんです。もう無敵ですよね(笑)。それで「独立しちゃった!」みたいな。

高宮:大変強い思いに突き動かされる形で起業されたわけですが、そのときに個人の生活や家族の方とはどのような折り合いをつけられたのですか?

金柿:かなり厳しい質問なのですが(会場笑)、そういう意味では子どもが生まれたので家族の生活はとにかく守るという思いはもちろんありました。ただ、そうは言っても財政的にとても厳しかったというのはあります。スタートアップ当時はアスクルで『どん兵衛 きつねうどん』のでかいパックを買って、1日3食のうち2食はそれを食べているという感じでしたから(笑)。でも、楽しかった。

高宮:思いさえあればある程度の物理的な苦労は越えられるものなのでしょうか。

金柿:あとから振り返ると乗り越えることができていたんだなという感じがします。

高宮:ではそういう思いで起業された金柿さんに対して、比較的“無敵”モードで起業された、けんすうさんはいかがでしょうか。

古川:僕は大学生のときに一度、そして27歳のときにもう一度、起業しているのですが、もともとは「一度きりの人生なのであまりリスクはとらず安全にいきたい」という気持ちがあったんですね。それで大企業にも入りましたが、結果的には大企業にずっといるほうがリスクは高いと強く感じたんです。というのも成長のスピードがぜんぜん違う。大学時代にベンチャーをやってきたときと比べて違っていたんですね。がつがつ成長している感じがしませんでした。で、恐らくこういう環境のほうが人生に対してのリスクは大きいなと思いました。

先ほどの金柿さんのお話と同じですね。なにかこう…、やらずに後悔したり「これができたはずなのにやれなかった」というほうが悲しかったりしますから、「これはもう少し全力を出したい」ということで起業したという感じです。実際、20代なら生活のお金もあまりかからないですし、日本で餓死したという人もあまり聞いたことはないですし、ですから「まあ、死にやしないだろう」ぐらい気持ちではじめたという。

高宮:「リスクを取らないことがリスク」ということですが、このあたり、川連さんと金柿さんも同じような感覚はお持ちですか?

川連:それはものすごく感じますね。本当にもったいないですよ。人生1回しかないのにリスクを取らずに生きていくなんて。起業している今は本当に面白いです。毎日毎日がとても楽しい。本当に色々なことが起きますけれども。

金柿:僕は子どもが出来たということがターニングポイントになっています。「子どもに胸を張っていられるような生き方がしたい」という思いがあったんですね。それは、ずっと会社に務めるという姿ではなく、リスクをとって自らチャレンジしていくという姿でした。「それが面白いんだよ」と、子どもたちに示していきたいと思って。

よく言っているのですが、今の子どもたちってあまり大人になりたくないと思っているんですよ。おままごとでも一番人気のある役柄は犬だったりする(会場笑)。いや本当に(笑)。赤ちゃんか犬かどっちか(会場笑)。世話をして貰えるからです。やはり子どもたちは毎日大人の顔を見ているんですね。そこで電車に乗り込む大人たちの顔が輝いているかというと、輝いていないんですよ。でも僕は「大人ってものすごく大変だけどすごく面白いぜ」と言えるような大人になりたい。それを周りの人たちにも言っていきたいという気持ちがあります。そういう意味では大きな船に乗ったままだったとしても、大人として輝いていればいいんです。けれども、そうじゃない道もあるよということで僕は起業して…、それで今は楽しくやっていますね。

ロスタイムで2点ビハインド、でも終わってはいない

高宮:ありがとうございます。では、その一方で起業後に苦労したことやチャレンジしたことにはどういったものがありましたでしょうか。

金柿:当社であれば4つのステージがありました。最初はスタートアップの時期です。これ、しんどかった時期ですね。そのあと3年目ぐらいにベネッセコーポレーションをはじめ株主が一気に入った山のステージがやってきました。で、その資金を使い果たしてリーマンショックが来るという谷の時代がありまして、そのあと単月黒字化しつつグロービスから資金が入るという4つのステージです。

谷の時代は本当に大変でしたね。普通の感覚で見るともうアウトな状況です。とにかくお金がない。キャッシュショートのような状態です。ただ、そんなプレッシャーがかかった局面でいかに最善を尽くせるかがひとつの大きなチャレンジになっていたと思います。経費を切り詰め、売上を伸ばし、利益率を高めながら黒字化まで持っていく。それを組織全体でやらなくてはいけないわけです。ですからいかに自分の心を強く持って、かつ組織も強くしていくか。当時はサッカーの試合なら「ロスタイムで2点ビハインド」。そんなメタファーがしっくりくる状況でした(会場笑)。

このたとえを言うと皆さん微妙な顔をされますよね。でも、本当に厳しいけれど、まだ終わりじゃないんです。それなら何をやらなくてはいけないのか。そういう思考になると、無駄な動きが一切なくなっていく。そんなことを愚直に繰り返していくと組織にも強さが身に付きます。その経験を、今度は山となったときに活かしながら力強く成長していけば良いわけです。そんなことをやっていました。危険なエピソードはたくさんあるんですが、具体的には…「あすか会議はTwitter中継がOK」ということですから、ちょっと(会場笑)。

高宮:ちなみにロスタイムで2点ビハインドという当時の状況を、具体的にはどのように克服されたんですか?

金柿:掘り下げますね(笑)。たとえば銀行、社会保険事務所といったところに色々と払えなくなってしまう。要は来月お金がなくなりますというステージですね。そのときに、払わなくてはいけないものとなんとか相談できるものを切り分けながらストーリーを描いていったんです。浮上のストーリーというか、絵を描いたうえで具体的に何をやっていけば良いかというところにまですべて落とし込む。そしてその絵を持ってすべての関係各位をまわり、皆さんにご承諾をいただけるようにしました。

もちろん皆さん最初は怒りますよ。でも、本気で信念を持って「これをやり遂げるんだ」という意識があり、自らも身を切って、それを毎月きちんと報告していった。すると続けているうち、当社のファンになってくれていったんですよ。「頑張ってくださいね!」なんて言ってくれるようになりました。社員のほうも少しずつそういうモードになっていきました。それですごく良いサイクルに入ったと思います。

そういった局面を通して得るものは、僕はベンチャー経営者にとって大きな財産になると感じています。ストレス耐性というか、プレッシャーがかかった局面でいかにベストを尽くすことができるかというのはすごく重要な要素だなと思いますね。それが会社としての強さにもなると思いますから。

高宮:社長が諦めないというのは本当に重要だと思います。僕が担当していたある投資先でも本当にキャッシュがなくなったというか、財務諸表で言えばキャッシュがマイナスという状況に陥ったところがあるんです。普通はそこでアウトだと思いますよね。ところがベンチャーの現場ではキャッシュがなくなっても金柿さんのように色々な関係者と会って話をしたり、将来像をお話ししながら具体的な再生プランに落とし込んでいくなかで実際にターンアラウンドするケースはあると思います。

金柿:そうですね。もうやりたくはないですけれども(会場笑)。

高宮::チャレンジというか苦労という点ですと、川連さんはいかがでしょうか。

川連:もちろんお金の苦しみはありましたが、幸いにして当社は初日から受注をいただいたり初月で150万ほどの売上をひとりで…、まあかみさんと二人ですが、稼ぐことができたりしていたんです。先ほどあらかじめネットワークをつくっていたというお話をしましたが、お客さまが仲間になってくれたんですね。お客さま10人ほどが「川連が独立するなら絶対に応援するよ」と言って、1人につき5社ずつ紹介してくれるという話になりました。それで非常に良い感じで廻るようになりました。

最初に静岡銀行(以下、静銀)からお金を借りたんです。かみさんには「お金は絶対に借りるな」と言われていたのですが。で、資本金300万の出資振込を頼む際には「かなりしっかりしたものになったな」というような事業計画書をつくってもっていきました。それからしばらくして静銀の支店長さんから電話があって「川連さん今から印鑑を持って来てよ」と言われたんです。それで実印と個人印を持って行くと「川連さん、ここに押してください」と言われまして、まあ何かよく分かりませんが押しましたら、それが実は3000万の融資だったんですね。事業計画と、僕のこの…、誠実そうなたたずまい(会場笑)。これは特権だなと思っているのですが(笑)、冗談はさておき、それだけで3000万を融資していただけました。税理士さんも「無駄遣いしちゃだめだよ」なんて言いながら。

で、そうこうしていたらまた電話がかかってきて、「もう一回印鑑を持ってきて」と言われたものですからもう一度行きました。そうしたら「もう3000万融資しておくから」と言われまして、最終的に6000万が通帳にある状態になったんです。スタート時点で確実に売上をあげていたし、融資も6000万を2%で借りることができた、ということで、資金面については本当に良い状態でスタートできたと感謝しています。

むしろ苦労したのは人材のほうですね。浜松のベンチャーにわざわざ面接に来る人なんていないですから。でも仕事はものすごく忙しくて部屋はぐちゃぐちゃになる。もうマンションを借りて事務所をつくらないと間に合わない状態だったんですが新しい事務所でネット回線をつなぐにも1カ月はかかるとか、「電話工事には時間がかかります」とか言われて、もう仕事は来るけれども人がいないという状態になりました。ですから来る人来る人とりあえず採用という感じで当初はやっていた。そうしたらですね、それで入社してきた方が社内で派閥をつくりはじめたんですよ。しかもそのあと入ってきた方が、先に派閥をつくった方とさらに対立したりして(会場笑)、もう社内をぐちゃぐちゃされました。

高宮:それはどんな風に解決したんですか?

川連:これはもう社内では解決できなくて、結果的にはその方々の都合で退社していったのと同時に解決したという感じです。本当に大変でした。懇親会ひとつとっても2次会の振り分けで派閥争いになるなんていう(会場笑)、そんな状態でしたから、いちいちコミュニケーションがとりづらいんですね。

高宮:その後の組織のあり方や採用基準にも影響を与えそうですね、そうなると。

川連:はい。もうどれだけ苦しくても採用は目茶苦茶厳しくしようと思いました。それで東大の入試問題を入れた数学テストに、国語テストと発想力テスト、さらにアンケートも4枚とるようにしました。加えて「SAVAWAYの文化というのはこういうものです」ということを採用時から伝えていく形にしたんですね。性格テストもやるようになりました。そして数学なら何点以上といったラインを設けて、「もうこれ以下の人は絶対に採用しない」と決めました。本当に厳しくしました。これがすごく効きました。

高宮:一緒に仕事をしていくメンバーに妥協しないというのは重要ですね。会社の思いや組織の力が薄まってしまうのを防ぐためにも、入り口をきちんとすることは大事だと思います。

川連:そうなんです。今はもう最初の段階で「やるなら世界一になるからね」という発言をしています。すると「そうか、浜松から世界に行くのか」という感じになりますし。ですから覚悟を持って入社してきてくれるという感じです。すごくありがたいですよね。

高宮:入社後のマネジメントに関してはどのようなことをやっておられるのですか?

川連:ECで大事なことは本にも載っていないことが多いんです。ですから毎朝勉強会をやっています。そのほかにも勉強や研修については、資格取得を含めてかなり積極的に色々やっている状態です。

高宮:特にスタートアップのベンチャーは採用で苦労すると言いますが、そこは本当に財産というか、“人財”という考え方が不可欠な訳ですよね。

川連:本当に“人財”ですよね。良い方が入ってくるだけで本当にぐっと伸びますから。

意思決定をするためにはインプットが必要

高宮:けんすうさんはいかがですか? 起業で経験された苦労というと、どんなことがありましたでしょうか。

古川:そうですね。当社の社員はやらなければいけないことをきちんとやることには長けていたのですが、逆にサプライズがないというか…、「もっとクレイジーになれ」というようなことを取締役会などではよく言われていました。結局、はじめのうちは自分を世界に合わせようといった意識でやっていたんです。でも、実際にベンチャーをやるのであれば世界を自分に合わせるぐらいで考えないと大きなことができないと思うんですね。その辺の意識を変えていくのに一番苦労しました。

高宮:けんすうさんは若いのですがすごく堅実で“カイゼンの鬼”というか、すごく積み上げ型ですよね。しかしエンジェルで入られた方は非常に大きなビジョンを持って将来志向でぐいぐい引っ張っていくようなタイプで。そういうチームのなかでは、引っ張っていく人と着実に形にしていく人との役割分担が重要になるように思えますが。

古川:そうですね。自分の意識をがらりと変えなければいけないという部分については、頭で理解していてもなかなか実行できないんです。ですから投資を入れてから特に数カ月ぐらいはその辺の意識改革にすごく時間を費やしました。仲間ともそういったことをディスカッションしたりしていましたし。ただ、実際にはそこが一番ぶつかり合うポイントにもなるので、苦労は多かったですね。

高宮:けんすうさんのほうからストレッチをしていくような形だったんですか? それともチームとしての役割分担という形で割り切りをしていたんでしょうか。

古川:僕としては、やはりそこで社長がビジョンとして「こうしたい」というものを持っていたほうがチームも付いてくるものなんだなと思うようになりました。ですから皆で考えようといよりは、「俺はこうしたいんだ」という形にしていきました。

高宮:そういったお話を伺うと、起業そのものがご自身の成長にもつながっていったように感じます。

古川:そうですね。その部分は本当に感じています。

高宮:川連さんはいかがですか? 起業されたことで、ご自身が「成長したな」と実感されるような瞬間はありましたでしょうか。

川連:起業で一番良いのは意思決定のスピードを自分でコントロールできるところなんですね。超高速で意思決定ができる。しかも自分の責任でできる。ただ、意思決定をするためにはどうしてもインプットを増やさないといけない。ですから僕としてはとにかく知識を貯めるようにしていきました。経済学、経営学、コンサル、法律、ときには哲学の本も読んで勉強しまくっていました。ですからそういった知識はものすごく蓄積できたと思っています。毎日のように色々な問題が発生しますから、それを解決するにあたって、同時に知識も貯まっていくという感じでした。

高宮:たしかに判断に迷っているという状態には、「その判断に必要な情報が足りていない」というパターンがあったりするんですよね。それならばまず動き廻って色々な人に会い、情報を仕入れる。起業の意思決定一つをとっても、そのうえで本当にいけるか、判断してみるのが良いのではないかと思います。金柿さんはいかがでしょう。これまでを振り返って、どんなところが起業家として成長されたと自覚していらっしゃいますか?

金柿:とにかく計り知れない成長があると思っています。また、今が人生で一番の成長期だと思っています。なぜかというと大きく2つあって、ひとつは川連さんが仰っていたことですが、すべての権限と責任が自分にあるという意識です。他のセッションでライフネット生命の岩瀬(大輔:ライフネット生命副社長)さんも仰っていましたよね。経営者をやっていると他の何かのせいにすることがなくなるんです。「部長が悪い」とか「国が悪い」とか、そういうことを一切言わなくなります。もう雨が降っても自分のせいだという風に思うことができる。そういう状態になってはじめて完全にOSが入れ替わるんです。マインドセットが変わる。そのマインドセットで1日1日を過ごしていくと本当に学びが多くなると感じています。

もうひとつは経営者に限りませんが、ベンチャーということで言うとイノベーションのダイナミズムという波のなかに身を置いているという意識です。ものすごくスピードが早くて、半年後にどうなっているかが誰も予測出来なかったりするわけです。そういうダイナミズムのなかにいると、たとえば先月は堀(義人:グロービス・グループ代表)さんに事業のプレゼンをしたのですが、その3日前に新しいアイディアが出てきたりとかするんです。それで3日後にプレゼンを行い、では1カ月でプロトタイプをつくって評価を見ましょうなんていうことになったりするわけで。

そんなスピード感を持っているので、社員にも「1時間あれば世の中を変えるアイディアが出せる」と僕は言っています。これまでもそういう風にしてきたし、それを実行してインプリメントすることはあります。1時間もあればアイディアが出てきて、1カ月もあれば画期的なサービスが出せるかもしれないという、そんな意識が自分をものすごく成長させてくれているという気がします。

高宮:成功している経営者の方を見ていると成長に対するものすごい飢餓感がありますよね。常に成長したいんだという気持ちを持っている点は本当に共通項だと思います。

では今後についてですが、3年後なり5年後に事業をどうしていきたいかをお聞かせください。たとえば組織をどうしていきたいか、さらに言えばそのとき自分はどうありたいと思っているかについて、それぞれお聞きしたいと思います。金柿さんはいかがでしょう。中長期的な視点になりますが。

金柿:今、絵本ナビは絵本というものをキーにしながらお父さんや母さんにユーザーとなっていただいていますが、これを子育て全般に広げていきたいと思っています。子どもが生まれたら絵本ナビが提供している各種サービスを必ず使えるようにと。幸せな時間は絵本だけでなく学ぶ時間にもあるし、ご飯を食べる時間にもあるし、旅行している時間にもあるよね、ということですね。そんな風にして、子どもに関して何か知りたいことや得られない満足があれば、まず絵本ナビのサイトにいくと。そんな状態にもっていきたいと思っています。

一方で組織としては、ベンチャーマインド、起業家精神をビルトインした組織をつくって育てていきたいと考えています。自分自身のことで言うと、本当はその途中でもっと得意な人にバトンタッチするのだろうなという意識もあります。ただし、このセリフは評判が悪いんですよね。「無責任じゃないか」と。今の日本ではそういう反応になります。ただ、人にはそれぞれ得意不得意があって、ゼロから1をつくるのが得意な人、1を10にするのが得意な人、あるいは10を100にするのが得意な人、それぞれいると思うんです。恐らくは皆さんもゼロから1をつくるのが得意なのか、1を10にするのが得意なのか、それぞれ異なる適性を持っていると思います。

そういう意味で、僕自身はゼロから1をつくり、1を10にするぐらいまではかなり得意なんだなと今では自覚しています。実際に大企業から独立したとき、木造アパートの6畳部屋で机とパソコンだけがあるというオフィスだったのですが、そのときはもう最高に嬉しかったんですよ。「来た〜」って。ですから僕自身にはシリアルアントレプレナー的な要素があるのかなと思っています。スタートアップに憧れるところがあるんですね。

高宮:素晴らしいですね。自分の子どものように育てていった会社ですと、ときにはそこにしがみついてしまうパターンもあると思いますが、やはり優秀な経営者の方は「自分は何が得意で何をしたいのか」をきちんと知っているという印象があります。では、けんすうさんはいかがでしょう。3年後または5年後について。

古川:まずサービスについてですが、現在のインターネット情報というのはかなり“ゴミ”が多くて、それが増え続けているという危機感があります。ですから誰かが何かの行動しようと思ったとき、「インターネットで探す」と「nanapiで探す」が同じぐらいの重みを持つようなサービス規模にしていくのが目標ですね。

一方で組織としては意思決定を行うプラットフォームの場にしたいと思っています。一般に社長が意思決定を行うことが多いですが、必ずしも全てが社長の得意分野というわけではありませんから。それぞれの分野で得意な人が適切に意思決定を行える場にしたいと思っています。

高宮:スケールする組織にするため、仕組みできちんとカバーするということですね。

古川:はい。リクルートはかなりそれに近い仕組みを持っていました。江副(浩正:リクルート創業者)さんが捕まった年でも最高益を出したりしていましたから。逆に江副さんが出てくると、だいたいうまくいかないので「ちょっと黙っていてください」と言われるような(会場笑)。それが場として成り立っているので社長がどんなに入れ替わっていてもリクルートは成長し続けるんです。そういった仕組みをつくったのが江副さんのすごいところだと思いますし、僕もそんな形を目指しています。

高宮:社長の究極的なミッションは自分がいなくても回る会社組織をつくり、次に社長となる人を育てることだと言いますよね。

古川:そうですね。

高宮:ありがとうございます。では川連さんの5年後はいかがでしょう。

川連:僕は遊ぶのがすごく苦手でして…、遊べないんですよね。僕と飲みに行ったりすると「つまらん」とよく言われるものですから(笑)。自分自身も仕事をしていたほうが楽しいので、恐らくはずっと死ぬまで仕事をしていると思います。

SAVAWAYについて言えば、とにかく日本のネットショップをすべて黒字化させたいという目標があります。楽天やamazonは世界に打って出ていますが、そのたびに痛みを伴う店舗さんが必ず現れます。その痛みを和らげるために、僕たちのプラットフォームを供給し続けたいと常に思っています。

ECが10年後あるいは30年後にどうなるのかを先読みしながら、常に新しい地平を切り拓いていきたいという思いもあります。先日はサンディエゴで『IRC 2011』というカンファレンスに参加したのですが、たとえばアメリカですでに導入されているようなことを日本で採り入れたらどうなるかとか、そういったことは常に考えています。

いずれにせよ僕たちとしては痛みを和らげるソリューションを提供し続けていくことで、「水道をひねったらSAVAWAY」みたいな感じで、気が付いたらSAVAWAYがそこにあるような感じにしたいと思っています。

高宮:まさに水道哲学ですね。ちなみにその時点におけるご自身の立ち位置について、あるいは何をしていたいかといった思いはありますか?

川連:そうですね…、まあ今は優秀な人が次々と入ってきてくれているので、そういう人たちに経営を任せたいという気持ちはあります。一方で色々なところに投資をはじめるのかもしれないですね。その辺の具体的イメージというのはまだないのですが。

サラリーマンとして出世するほうがはるかに大変

高宮:5年後について聞かれたとき、自分がどうなっていたいかではなく「事業をこうしていたい」とか「世の中に対してこういうことを実現したい」という、そんな思いが先立つというのも素晴らしい経営者の資質なのかなと思います。

では最後にお三方へお伺い致します。会場の皆さんに対するメッセージ、あるいは「こんな人材、求めています」というのがあればぜひお願いできないでしょうか。では金柿さんから。いかがでしょう。

金柿:当社というか、僕は常々自身の成長について「子どもがライバル」という言い方をしています。赤ちゃんから小学生ぐらいまでの子どもって、ものすごい勢いで成長するんですよ。3日間見ていないあいだにいきなり立ちあがったりして、とにかく次々と新しいことができるようになっていきます。日々失敗しても繰り返しチャレンジして、できるようになっていくんですよね。その一方で「大人はどうだ?」と。大人は子どもに負けないぐらい頑張っているのかということを、僕はいつも自分自身に問うています。

企業内であろうと独立しようと、大事なのは起業家精神だと思っています。起業家精神というのはいわば既存の仕組みを変えることであり、やり方を変えることであり、新しいものを生み出すことだと思っているんですね。それを我々一人ひとりが社内におけるそれぞれの立場で、もしくは独立して起業家の立場でやっていくことで、日本全体ひいては世界全体の意識が大きく変わっていくのではないかと考えています。

周りが大人ばかりですと、なんとなく「俺はあいつに比べて頑張っているよな」なんて思ってしまうのですが、子どもと比べるとまったく頑張っていないですよ、大人は。そんな話をこのあいだ僕は中学3年の女の子たちにしてきました。「起業家精神が大事だよ」と。そうしたらものすごく刺さっていましたね(会場笑)。「分かりました。起業家精神、頑張ります!」なんて言って。ですから大人も子どもに負けないよう頑張って欲しいなという思いでいます。それで子どもたちに「あ、大人って面白そうだな。早く大人になりたいな」と思われるようになって欲しいというのがトータルなメッセージです。

それから仕事のことで言うと、ひとつ言いたいのは仕事って選ぶことができるということです。皆さんも現在やっておられる仕事はあると思いますが、実は仕事って変えることができるんですよね。特に東京では。地方に行って「仕事は変えられます」というとすごく怒られるんですよ。「変えられるわけないじゃないですか」って。でも東京なら絶対に変えることが出来ます。

アップルのスティーブ・ジョブズが、当時ペプシコにいたジョン・スカリーに言ったスカウトの言葉ってご存知ですか? 「君はこのまま一生、砂糖水を売り続けるのか、それとも世界を変えるのか」と。そういう問いがありましたけれども、皆さんもこのままずっと今の仕事をやっていくのか、それとも何か変革にチャレンジしていくのか、一度考えてみていただくのは良いかなという風に思います。

ベンチャーには経営者だけでなく経営チームが必要です。事業を進めていく幹部が必要なんです。ですから今日は絵本ナビを含め「なんだかあいつら面白いな」と感じた方がいらっしゃいましたら、ぜひ応募していただければと願っております。頑張りましょう。

高宮:ありがとうございます。では川連さん。

川連:インターネットのサービスということで考えると、これからまだまだ成長するなと思っています。サンディエゴで色々聞いてきた話もそうでした。Facebookの方々やeBayの方々によるお話を聞いてきたのですが、本当にこれからだと思います。

僕は色々なところで話をするのですが、たとえばヤフーが検索サービスを出してきたとき、後追いで幾つもの検索サイトが立ち上がりました。そしてその多くがヤフーのポータルサイトを成功モデルとして真似しました。検索窓が上部にあって、カテゴリー別のメニューがあって、そしてニュースがあるというスタイルです。ところがそこに登場してきたグーグルは、検索窓ひとつだけというサービスで勝敗をひっくり返していったわけです。もちろんその背後には膨大な情報を持っていたわけですが、入口はたったひとつしかないサイトでした。皆がヤフーを目指して走っていたのにゴールまでのコースが変わってしまったんです。それでヤフーの真似をしてきた会社は「どうしよう」となりました。しかし今はFacebookが…、もちろんグーグル自体は残っていくと僕は思っていますが、今度はFacebookが出てきた。これでまたゴールまでのコースが変わったわけです。

ですから…、きっとまだまだあるんですよね。ただ、僕も起業家として色々とやりたいと思いますし「あれもこれも」というほどですが、実際のところ「ひとりで出来ることはひとつなんだな」とも感じます。そうすると、色々な方が起業してそういった新しいビジネスを立ちあげていかないと、日本だけでなく世界的にも良いサービスが生まれていかないのではないかと思います。だからこそ立ちあがってくれる人を見たいなと感じるわけでして。

僕が考える起業のタイミングは「これが天職だな」と思った瞬間なのですが、そこにはWHYとHOWとWHATがあったんです。何をやるか、どうすべきか、そしてなぜやるか。ただ、多くの人は、その中の何をやるかというWHATばかりを見ているように感じます。でも重要なのは、やはりWHYなんですよ。なぜやるのか。それが分かったタイミングが起業するタイミングだと僕は考えています。その思いに共感していった人々がベンチャー起業には集まってくるのだろうなと思っています。

まあ、SAVAWAYも人手不足ですから(笑)。慎重派で真面目そうな会社ですが、社内では皆、結構がりがりやっています。ですから経営チームとしてやりたいなと思ってくださるような方がいらっしゃいましたら、ぜひのちほど名刺交換をしていただけたら嬉しいなと思います。ありがとうございました。

高宮:ありがとうございます。ではけんすうさん。

古川:起業前には色々と悩むことも多かったりしますが、やってみると、その悩みはだいたい1カ月ぐらいでほぼ全て解決するというのが僕の実感です。それは結局のところ、悩んでいる時間がコストであったりするということですよね。ですからもし「起業しようかな」と思いつつ悩んでいる方がいらっしゃいましたら、すぐにやられたほうが良いかなと思います。

一番のマイナスは、時間が経ってしまってできることのほうが少なくなるリスクでもあるんですよね。それ以外のリスクというのは、実はほとんどないんです。僕の周りにも起業家はたくさんいますが、食えなくなったり家族が離れたりというケースは一度も見たことがありません。それは恐らく稀なんです。だいたいにおいて、サラリーマンとして出世するよりも起業家として成功していくほうが難易度は低いと僕は思っているほどですから。サラリーマンとして難易度が高いところで戦っていくよりは起業したほうが良いのではないかなと、最近はつくづく感じています。

起業家仲間と話をしていても同じことを感じます。実際、賢い人はほとんどがサラリーマンとして戦っていて、起業してくる人はかなり少数派なんです。「だから俺たちって多少レベルが低くても戦えているんだよね」なんていう話になるときもありますが、本当にその通りだと思います。サラリーマンとして出世して、年収をあげていくほうがはるかに大変です。ですから現在会社勤めが出来ている人であれば、経営者としてはほとんど成功すると思っています。つまり、なるべくさっさとやったほうが良いのかな(会場笑)という気持ちがあります。

「来る者は拒み去る者は追わぬ」覚悟も必要

高宮:ありがとうございました。いい感じで皆さんの起業熱がさらに盛りあがったところで(会場笑)Q&Aに移りたいと思います。ご質問のある方はいらっしゃいますか?

会場:金柿さんにストレス耐性ということについてお聞きします。たとえば心技体というものがあって、心としては自分の思いが、そして技としては日々インプットしながら実践することで身につくものがあると思います。ただ、それを支えるには一にも二にも体力が必要になると感じておりました。そういった意味からもストレスに耐えて高いパフォーマンスを出し続ける体をキープするため、20代の無敵の時期ではないけれども自身で出来ることとして、何か気をつけるべきことがありましたら教えていただけないでしょうか。

金柿:正直に言うとですね、4年ほど前は今より13kgほど太っていたんです。当時は今より2リットルのペットボトル6本ぶんぐらいの体重があったということです(会場笑)。そうするとやはり動きが遅くなってしまうんですよね、色々な面で(会場笑)。走れないし、どうも汗をかくし、なんとなく何か食べたら「まいうー」とか言わなくちゃいけないようなキャラになったり(会場笑)。別に太っていたらいけないという意味ではないですよ? キャラクターですから。ただ、適切なコンディションを保っていなければご質問にあったストレス耐性といったものは確かに育てにくいように思います。ですから継続的に何か成し遂げつつ成長していくことを考えると、やはり体のコンディションづくりは大事だと思います。僕も食事には相当気をつけていますね。

会場:僕も起業家として会社を経営していますが、先ほどのお話にありましたゼロから1、1から10、あるいは10から100といった考え方が好きではありません。それならば自分がゼロから1000までやってやればいいと思っていますので。たしかに自分はまだそこまで至っていません。しかし経営者として自分が成長していけば見えないところもどんどん見えてくるし、会社と一緒に自分が成長していけると思っているんですね。同じようにゼロから1の従業員、1から10の従業員、10から100の従業員はいると思うのですが、僕は出来るだけ最初のメンバーを最後まで連れていきたいと思っています。

ただ、経営者の上昇したいという思いと現場ではギャップが出てくるところもあり、去っていくメンバーも出てきます。そこでどうしたら皆を出来るだけ最後まで…、「まあ切ればいいじゃないか」という考え方はあるかもしれませんが、僕は引っ張っていきたいので、どうやったら引っ張っていけるかをアドバイスいただければと思いました。

川連:引っ張っていく…のを僕は止めました。疲れました(会場笑)。リアカーに50名ぐらいまでは乗せたつもりでいるのですが、無理だと思ったんですね。それは成長の痛みであって、去っていく人は自然に辞めていくと思っています。僕はそれを追いかけないことにしました。ある方からは「ベンチャー起業なら3回転ぐらいはするよ」と言われていますね。当社に関して言えば離職率は低いと思うのですが、まあそのくらいは覚悟していたほうが良いのかなと。「この人は絶対」という風に思っていると、逆にその人が裏切ったりとかするので。今の気持ちはそういう感じですね。「去る者は拒ま…」、あ、逆か、「来る者は拒んで去る者は追わない」という(会場笑)。

金柿:僕の場合は創業時メンバーをいかに引きあげていくかという点について、やはり2〜3年はものすごく悩んでいました。結局、発信し続けるというか、今日お話しした「子どもがライバルだ」といったことを繰り返し伝えていくのは大事だと思います。しかしそこに対応する気もないという方であれば、それは辛いので辞めていってしまうかなという気がします。幸いにして、今のところ当社の創業メンバーはひとりも辞めていないんですよね。それで「いまだに毎日社長から暑苦しいメッセージが来る」と言っています(笑)。ただし、その思いだけではだめだと思うので、今年からグロービスのスクールにも次々と送り込んで勉強して貰っています。恐らく川連さんもそうだと思うのですが、単純に「ついてこい」と言っても無理で、学ぶ機会というか、学ぶことが出来る仕組みをつくっていくのが鍵になるのかなと感じています。

あと1点。1年ほど前にうまくいかなかったことがありまして、それは「結局、社長はどこに行きたいのか分からない」という話だったんです。自分ではどんどん成長しているとか「みんな来い」と言っているけれども、そもそもどこに行きたいのかが分からないと。それはすごく反省しました。で、社員が増えてくれば個別に話をする時間なども限られてきますから、社内ブログや社内Twitterで皆とface to face以外で話をする機会をつくっています。また、四半期に一度は必ず全社員と面談をしています。一方で日々の発信は社内SNSなどを使うと。そんな風にしながら、なおかつ教育プログラムということでグロービスに通って貰ったりして、色々とやっているところです。ただしこれは相当に大変でして、もうすぐ川連さんの境地に至るかもしれません(会場笑)。

川連:人に育てて貰うというのは良いと思いますよ。宣伝ではないですが、我々もグロービスに人を送っていまして、これをやると卒業時点ですごく良い感じになって戻ってきますからありがたいです(会場笑)。

金柿:いいですよね。

川連:いいですね、非常に(会場笑)。

高宮:では最後にもうひとつだけご質問を募りたいと思います。いかがでしょうか。

会場:私は現在、商社でベンチャーキャピタルの事業をやっております。金柿さんに質問させていただきたいのですが、やはり大企業に務めていますと起業したいと思ってもなかなか吹っ切ることができない部分がありまして、お三方のように吹っ切ることが出来る方をとても羨ましく感じておりました。特に金柿さんは富士総研に務めておられたと伺っております。そこで起業のきっかけは子どもが生まれたことと仰っていましたが、実はそれほどシンプルではないのかなという風に感じました。大企業に務めておられたときにどのようなことを考えておられたのか。もともとベンチャーをやりたいと思っておられたのかどうかですとか、大企業に務めておられたときのことをもう少しお聞かせください。

金柿:僕は富士総研に9年間在籍していました。今日はそこの後輩も来ているのですが、基本的には「いずれ独立したい」という思いがあったんです。ただし、20代の頃はとにかく目の前にある自分のハードルを徹底的にこなして、自分の限界がどれぐらいなのかをひたすら試していた。システムエンジニアリングの大規模プロジェクトと言えばご存知の方も多いと思いますが、もう本当に大変なんです。毎日朝から深夜までの仕事で、休日出勤も当たり前、体を壊す人も多く、すごい環境でしたね。

ただ、僕はそれでもいきいきとやっていたし、そこをしのいで成果を出していこうと思っていました。これは若いうちなのか、年とってからなのか、どちらでも良いのですが、一度は仕事を徹底的に突き詰める局面がないとやはり成長しないのではないかという風に僕は考えています。実際、富士総研時代も同期で賢い人たちはすぐにコンサルなどに転職したり起業したりしていたのですが、僕はあえて「俺は絶対にやれるんだ」という自信を持つことができるまで突き詰めていたという感覚があります。

で、その9年間で何かをやりきった感があったんですね。経営企画までやって会社全体を見ることもできるようになりました。その時点で情熱や自信が降って湧いてきたというわけなんです。「もうここしかないな」と。そう思ったときに出るというのが、恐らく良いパターンではないかなと思います。

高宮:ありがとうございました。話は尽きないと思いますが、場合によってはこのあと個別に履歴書を持って(会場笑)各社長と色々お話をしてみていただければと思います。それでは金柿さん、川連さん、けんすうさん、今日は本当にありがとうございました(会場拍手)。ちなみにけんすうさんは昨日ご結婚されたタイミングでして、そんな中わざわざ来てくださいました。どうか皆さま、再度盛大な拍手をお願いいたします(会場拍手)

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