冨塚優氏×星野佳路氏×溝畑宏氏「観光立国」 

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観光こそ、地方にとって最大のビジネスコンテンツ(溝畑)

御立:本セッションのタイトルは、もとは「観光立国/地域活性化」というものでした。観光立国の裏側には、これまでは基本的に工業化で走り続けてきた日本において、これから地域、そして農業をどのようにしていくのかという話があります。そうした点については、ようやく経済成長にたしかなプラスとなるような芽が少しずつ出てきており、そして広がりはじめている。

残念ながら、これは何も日本だけが頑張ったからではありません。日本の周り、特にアジアの成長が大きく寄与しています。1950年には地球上の人口は25億人ぐらいでした。当時の識字率は約50%で、読み書きそろばんができて、工場の労働者になれる人が12億〜15億人ぐらいいました。ところが2000年には全人口が60億人を超え、識字率は約85%になりました。驚くべきことに、アフリカなどすべて合計すると、初等教育を受けている人口が50億人強になります。この状況はメーカーにとっては悲惨です。工場労働者として安い賃金でものをつくることのできる人口、特に組み立てができる人口が、世界中で3〜4倍に膨れあがりました。さらに資本が自由化され、その気になればどこででも造ることが可能になったため、工業製品のデフレ化がはじまりました。そして工場勤めの人々はどんどん中流化して、海外旅行をするようになったのです。

新興国の中でも特にそういった動きを見せているのがアジアです。のちほど星野さんからもお話をしていただけると思いますが、実はすでに、数字の上でもインパクトが出ています。私の会社はパートナーシップ制をとっており、世界中に600人のパートナーの仲間がいます。そのうち約20人が毎年日本を訪れます。仕事ではなく、日本に来て、ご飯を食べて帰るのです。はじめのうちは、東京や京都から入るのですが、今はほとんどが地方に行っています。また、最初のうちはヨーロッパ人が多かったのですが、今一番多いのはアジア人です。長い人では2週間ほど日本に滞在します。これはほんの一例ですが、かなりのインパクトが出てきているのではないかと思っていますし、そうした話が今日のテーマになるのかなと思っています。

今日は皆さんとご一緒に、三つのことを議論していきたいと思っております。まずはパネルを中心に二つ、そして残りは皆さんとご一緒に一つ。一つ目は現状認識について話したいと思います。先ほど申しあげたように、実は足元5年ぐらいで、世の中は非常に変わってきています。今の状況を、改めて一緒に確認させていただければと思います。二つ目として、この先でもう一段ステージを上げるには、さまざまなチャレンジがあるのも事実です。人口や規制、言葉の問題など、いろいろあります。そのあたりについて少し議論を重ねたうえで、三つ目はできるだけ皆さんとインタラクティブに、「チャンスがあって物事も変わっているのだから、やりようはある」ということを議論したいと思います。最後には、何かぶち壊さなければいけないものがあるとき、私たちは一緒に何ができるのかという具体論を話せればと思います。

まず現状について話していきましょう。いつもは先に自己紹介をお願いするのですが、今日は話の中でしていただきたいと思います。まずは溝畑長官にお願いします。ご存じの方も多いと思いますが、溝畑さんは元自治省のお役人だったとは思えない行動力で、失礼な言い方ですみません(会場笑)、公務員を辞めて大分トリニータを日本一のクラブにされました。実際に地方に行ってモノを起こし、なんとかしてしまうという力量を買われて、観光庁の長官になられたわけです。実は長官になられる直前から、政策的な部分にも関わっておられます。インバウンド、つまり海外から入ってくる観光客をきちんと迎えるために、数値目標を設定してきっちり追いかけていこうとされています。このあたりについて個人の想いも含めて、観光政策の今についてお話しいただけますでしょうか。

溝畑:自己紹介を兼ねますと、私の父は京大で数学をやっていたのですが、子供の頃より父から、「お前が目指すのは京都のような小さいところではなく、世界だ。世界の舞台で日本を変えろ」と言われていました。父は数学を通して世界を変えようとしていたので、私自身も当時から、常にグローバルな視点を染み込まされていたのです。さらに子供の頃にフランスとイタリアで3年間過ごしたため、その時の想いが自分の中に強烈に残っており、それがこの国の目指すべき姿とも重なっています。まずはそれらが自分自身のスタート地点としてあります。ヨーロッパで過ごした3年間を通じて、地域への誇り、文化、ユーモア、明るさ、楽しさ、そういったものについて大きな影響を受けました。実は今でも続けているのですが、道を歩いていて外国の方を見かけたら必ず挨拶するようにしています。これはイタリアのピサにいた一年が影響しています。「外国人が来たら必ず笑顔で握手をしなさい」「ピサが好きだということを必ず言いなさい」と、小学校の先生に毎日言われておりました。ですから今でもこれを実行しています。観光庁でも皆にこれをしてもらおうとしているのですが、私以外の職員はまだなかなかできず、足元もまだまだというところではあります。

また、日本のあるべき姿については、親にいつも「競争に勝て」と言われていました。「勝って、勝って、勝ちまくれ」と。勝たなければ良い仕事にも良い人にも出会えない。だから競争をして勝つ。「じっとしているよりも、ぶつかっていけ。失敗しても命は落とさん。お父ちゃんは毎日毎日チャレンジや。それでやがて成功する。諦めないことや」。そういうことを言われていました。東大にいたときも、坂本龍馬の生き方に強く共鳴していまして、「34までに自分は天下を獲るんや」と思っていました。実はテレビ局や商社の内定も取っていたのですが、現佐賀県知事の古川康さんに国家公務員試験の後にお会いした際、「地方を元気にすることが、日本を元気にするんや」「お前は『東京大好きだ』と顔に書いてある」と言われまして。さらに、「六本木で毎晩飲むのが好きやろう。俺も好きや。しかしそれを一歩越えて、地方に光を灯すのがお前の仕事や。俺と一緒に仕事せんか」と言われました。それがきっかけで私は急に「日本を元気にする」という分野へ入ることになったのです。本当は六本木やロンドン、ニューヨークで明るく楽しくフィーバーするはずだったのに、苦行僧の生活がはじまったという訳です(笑)。

当時の私が強く考えていたのは、霞ヶ関で法律をつくって偉そうにするよりも、まず現場で結果を残そう、ということでした。そんな気持ちで人口120万の大分に入り、まず大分から日本を変えていこうと考えました。大分では自分の留学経験から、立命館アジア太平洋大学の設立担当になり、「テーマはアジアのハーバードだ」と言いながら、ひたすら全国の大学に営業をしました。100ぐらいの大学を回りましたね。

それからイタリアでサッカーを見たときも、「これは日本を変えるぞ」と思いました。サッカーは地方で見ることが出来ますからね。人口40万のベローナとユベントスが戦っているのを観ながら、「大分の人口も44万や。やってやれないことはない」と思いました。それで、ワールドカップを大分に誘致して、そこから意識を変えていこうと考えたのです。そのあとで残された大きな仕事が、残ったスタジアムの利活用でした。そこで思い描いたのもまた、子供の頃に見たイタリアの風景でした。週末になると皆が地元のサッカーチームを応援に行き、「ピッサ! ピッサ!」と叫び、老若男女が一つになる、そんな風景です。「絶対にこれを大分でやる。Jリーグのチームをつくろう」と決心しました。ところが、地方では何をやるにしても、99.9%、身の丈論を持ち出されます。「無理だ、出来ない」と。地方における課題の一つとして、ヒーローを育てるだけの包容力がないということもあります。おじいちゃんやおばあちゃんが、褒める前にまず妬んでしまうんですね。そこを突き破る何かがいると思いまして、「皆で力を合わせましょう。力を合わせて、とにかく大都市と戦うんや」と話し続けていました。野球では地元のチームが頑張っても日本一にはまずなれませんが、サッカーチームなら徐々に上にいけるわけですよね。県リーグ、九州リーグとどんどん昇格していって、「これはまさに天下獲りだな」と思いました。

このように私は地域を元気して自立させる手段の一つとして、まずプロサッカーチームに情熱を注ごうと思いました。そこで「日本一になるんや」と毎日吼え続け、それこそ1日50社100人に「応援しよう」と声をかけて営業を行い、お金を集めていきました。監督、コーチ、選手、スタッフにも常に、「日本一になろう」と言い続けていました。そしてついに、2008年、大分トリニータがナビスコカップで日本一となったのです。しかし、調子に乗り過ぎて次の年はJ2に落ちてしまいまして(会場笑)。それでここはひとつ、自分が責任をとって辞めようと思ったのです。

ただ、やはり人生七転び八起きです。そうして次に何をやろうかなといろいろ考えていたのですが、「日本を元気にする」という私のライフワークにフィットする「観光」を通して、日本を元気にしていくことになりました。観光は、まさにオールジャパンで日本を元気にするものです。ローカルである都市がグローバルな競争に立ち向かい、その過程で自主性や主体性を持つという意味において、私は観光こそ地方にとって最大のビジネスコンテンツだと思っています。そして観光はすべての分野に波及していきます。それぞれの地域で、すべての産業で、国民全員が参加出来ます。そして何よりも大切な地域の誇り、そして日本の誇りが再生されるので、グローバルな舞台に日本全体でチャレンジする突破口になります。星野さんはまさにその急先鋒ですよね。星野さんのように地域でやっておられる方はたくさんいます。私はこの領域で国をあげて戦っていけば、十分、世界のトップに行けると思っております。

そうは言ってみても、私自身の人生はいつも七転び八起きで失敗だらけです。「なんかよう生きとるな」という人間ですので、今日は今後に向けて、皆さんからご意見をいただくことで勉強の場にしたいと思っております。よろしくお願い致します。

御立:観光庁長官のような方にお話を伺うと、たいてい、まず政策の話が出てくるものですが、想いのほうが先に出てきますね(会場笑)。大変ポジティブなお話でしたが、政策のほうに若干触れますと、インバウンドの数値目標は、2019年までに2500万人でしたでしょうか。

溝畑:政策には基本的に4つのテーマがあり、インバウンドの数値目標はそのうちの一つです。政策テーマの一つ目は観光を日本の基幹産業とし、これを国民運動として定着させることです。「平成の開国」と言われておりますが、本当の意味で国民の目線を上げていくような意識改革を目指しています。二つ目は、一点目を実現するうえで大きな突破口となる、2019年までに訪日外国人数2500万人を達成するというものです。現在、日本はグローバル化と言っているものの、他のアジア諸国と比べると、国際競争への参入はまだまだ少ない状態です。韓国、シンガポール、タイ、マレーシアといった国の後塵を拝しています。持てるポテンシャルを最大限発揮して、国際マーケットで日本が大きなシェアを獲得していく、それが国内観光の底上げにも繋がります。そして三つ目が、日本の魅力ある観光コンテンツを掘り起こし、ブランド化していくことです。日本には素晴らしい観光資源がたくさんあります。よく言われるのは、文化観光、産業観光エコツーリズム、グリーンツーリズムですが、これらに加えてスポーツや医療、お祭りや神楽、さらには森林。最近はファッションもそうですね。こういった日本の魅力をコンテンツとしてブランド化し、再生します。国民の英知を結集してさまざまなコンテンツをつくっていきたいのです。

最後の四つ目は、星野さんも取り組んでおられますが、休暇を増やすことです。現在の日本において、1年間365日のうち、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆休みを合わせると24日になりますが、旅行消費の40%がこの24日で消費されています。いかに休暇というものが一斉集中型かということです。このことでさまざまな弊害が出てきます。渋滞、コスト高、受け入れ側のサービスの質低下、環境負荷など。ヨーロッパでは休暇は見事なまでに地域ブロック別になっていて、地域ごとに休暇の時期がずれています。学校の休みも分散させ、親も一緒に休んでいます。

変更案では、日本全体を5ブロックに分けて、休暇の山を平準化させます。春と秋の祝日15日のうち、6日を3日ずつ分散させるのです。これで観光の潜在的な需要を呼び起こすことができます。「旅行には行きたいけれど、渋滞で疲れるから止めようかな」という状態から、皆が混雑などを気にせずに休暇を楽しめるようになる。今、日本では有給取得率が47%です。「有給の取得率を上げよう」といった話はかれこれ30年もされてきましたが、一向に状況は改善されていません。だからこそ、この“休暇改革”を通して、観光立国に向けた一つの大きな風を吹かせたいのです。私は今これを一所懸命、皆さんに説明しています。当然反対する人もいて、銀行は決済システムの関係で別々に休めないと言いますし、他にも全国展開している企業であれば、「他が動いていると、在庫や連絡調整の問題があって休めない」と言います。しかしそれでも、メリットを生かしながらデメリットを最小化して、ひとつの大きな風を起こしたいのです。

以上四つを実現することで、最終的には日本が元気になればと思っています。明るく元気になれば、お金も回ります。イタリア国民のように悩まない。もう‘Que sera sera’です(会場笑)。

ネットの登場が、旅行代理店の体質を一変させようとしている(星野)

御立:次は星野さん。以前G1にいらした前原誠司さんのご縁もあって、G1サミットのメンバーが何人か入った国土交通省の成長戦略会議というものがありました。その中の大きな柱が、休日分散化と観光立国への動きでしたよね。仕掛け人は星野さんでしたが、成長戦略会議の件を踏まえて最近の状況を教えていただけますでしょうか。

星野:やはり大きな変化が起こっていることはお伝えしたいと思います。一つは、溝畑さんが長官になって観光政策が明るくなりました。内容が特に変わったわけではないのですが(会場笑)。溝畑さんは理屈で説得するのではなく、お願いしていくという印象で、見ているとそれが何かしら効いているように感じます。休日分散化については、私も2004年に始まった小泉内閣における観光立国推進戦略会議から言い続けてきました。議事録に残すのが大事だと思っていたので、どんな話題においても休日分散化を説いていました。「愛知博をどうしたらいいか」というときに「休日分散化すべきだ」と(笑)。今は溝畑さんが全国を廻り、デメリットを否定せずにただただお願いをしている。これが大変効果的ですし、全体が明るくなりました。

もう一つの変化として、観光産業は需要が伸びているということが挙げられます。そして日本で、今後10年間にこれだけ成長が見込まれる業界は少ないと思います。需要が安定していて、リーマンショック後も全く減らなかった。外国からのインバウンドの数はむしろ増え、2010年は過去最高を記録しました。2009年はインフルエンザの影響で少し下がりましたが、毎年過去最高を更新しているような状態です。ですから、まず観光需要は伸びているということを皆さんに知っていただきたいと思います。

さらに、現在は旅行代理店業界でも大きな変化が起きています。私の父の時代はJTBと電話番があれば集客出来ましたが、それが大きく変わりつつあります。その原因となったのが『じゃらんnet(以下、じゃらん)』と『楽天トラベル』だと私は思っています。のちほど冨塚さんからご説明いただければと思いますが、この10年で日本の国内旅行手配の37%を、ネットが一気に取ってしまいました。そのために大手代理店が皆赤字に追い込まれています。重要な点は、このことによって古い体質の代理店が急に「顧客満足度」と言い出して、変革を試みようとしていることです。5年ほど前にその話を聞いたときには少し驚きましたけれども、要はそれほど業界が変わってきているということです。旅行業界は需要の伸びとネットの普及により、業界側での変革も進んでいるのです。

御立:足元の春節はどういった状況でしょうか。

星野:インバウンドについて言えば、たとえば3年前から、旧正月の需要に本格的な波が来たと感じています。我々は軽井沢で『星のや』という施設を経営しています。インバウンドに最も力を入れている全77室の施設ですが、毎日、外国人の個人客で埋まっている状態です。旧正月3日間の滞在に占める外国人の割合は80%以上です。トマムにあるスキーリゾートも、シーズンを通して15%前後がインバウンドですが、旧正月では6割を超えます。「本格的に始まったな」という感じです。1991年、私が社長に就任した頃は、軽井沢で2月は一旦旅館を閉めていました。閉めて社員に休みを与えたほうが、赤字幅も縮小できたからです。それが今は、2月と言えば正月と同じぐらいのピークになりつつあります。恐らく全国で同様の状況だと思います。

いずれ日本では、50〜60%の宿泊予約がネット経由になる(冨塚)

御立:ありがとうございます。では次は冨塚さんにお願いしたいと思います。まず『じゃらん』をはじめとしたネットが業界を変えていったという部分についてお話しいただけませんか。リクルートは紙媒体で『ホットペッパー』なども持っておられますから、ネットが一気に出てきて苦労された部分も多いと思います。しかし、『じゃらん』の場合は早々とネットに変更して、うまくシェアを維持したモデルですよね。最近は中国でのマーケティングにも相当力を入れておられるようですね。

冨塚:では簡単な自己紹介を含めて、お話をさせてください。リクルートの冨塚と申します。私はリクルートで求人の仕事を16年間していまして、『じゃらん』の仕事は7年担当しています。私が『じゃらん』に移ったのは2004年です。求人事業では最後の3年、『リクナビ』という求人情報サイトの責任者をやっていましたから、紙からネットへの推移というものは当時から強く感じていました。ただ、『リクナビ』は広告モデルです。採用する側の企業からお金をいただきサイトを運営し、学生にネットを使ってもらう。ここでのネットへの移行は、「紙の広告割合を減らしてネット広告を増やす」という、いわばスイッチでした。しかし旅行を担当することとなり、『じゃらん』では、「紙はそのままで、ネット広告の売上だけ伸ばせ」と、無茶なお題が与えられたわけです。

現在、日本の観光マーケットを人泊数で見ると、年間2億9000万人泊になります。赤ん坊も含めて国民一人あたり年間2.3回弱、宿泊しているという計算です。先ほど星野さんのお話にもありましたが、私が担当についた当初は、旅行の予約のほとんどは旅行代理店経由でした。それで私達が直接、宿泊施設に足を運ぶと、「何とかして欲しい」と言われたものです。どういうことかと言うと、たとえば代理店で予約したお客さんが旅行へ行った先で何かトラブルがあり、代理店がクレームを受けるとしますよね。するとその宿泊施設の人間は代理店の東京本社に呼びつけられて、「土下座をしろ」と怒られ、「もう二度とこんな失敗はしません」と言わされるのだそうです。「そういうことにもう耐えられない」と仰っていました。部屋を預かるだけ預かっておいて、2週間前に売れなかったら突然返却される。「彼ら(代理店)は何もリスクをとらず、我々だけが大変なリスクを負うことになる」と。「だからこのモデルから脱却したいので、なんとか頑張って欲しい」という声を数多くいただいていました。

2004年当時の『じゃらん』は年間228万人泊でしたが、今年は恐らく3月期で5257万人泊になります。『じゃらん』だけでマーケット全体の13%を占めることになります。現在、日本で宿泊施設の集客のお手伝いを最も行っているのは『じゃらん』になります。皆さんからすると「え? JTBじゃないの?」と思われるかもしれません。ほかには『楽天トラベル』『一休.com』といったサイト、そして星野さんのところのように自前のウェブサイトで集客している施設分を合わせると、現在はマーケット全体の37%がネット集客となっている状態です。ちなみにアメリカではすでに69%がネットによる集客になっております。日本もいずれは55〜60%に到達するのではないかと考えています。

私が担当している6年間だけで宿泊人数が23倍もの伸びを見せており、これは単に乗り換えが起こっているということです。代理店で予約していたものがネットに変わっているだけで、国内のみのマーケット全体で見ると、実は2006年度から2010年度で6%落ちています。ですから今後は、パイ全体を増やすために何をしていくべきかを考えることが大切なのかなと思っています。ネット分をさらに伸ばして外国からの集客を目指すとなると、実は規制の問題もかなりボトルネットになってきます。ですからそのあたりも含めて今後は考えたいと思っています。

日本もようやくヨーロッパ並みに、航空料金が下がりつつある(御立)

御立:ありがとうございました。個性豊かな方ばかりで、自己紹介を伺うだけでもいろいろと勉強になります。ではここでさらに、司会の立場としてあと二つほどアジェンダを加えてみたいと思います。

まずは観光と雇用についてです。観光は地方の雇用に大きな影響を及ぼします。需要がある以上、すべての地域で伸びるというわけにはいかなくても、うまくやる地域は伸びていく。ただし、現行システムの下では、観光産業は季節雇用が多くなります。だからこそ、休暇分散化で需要を平準化する必要があるわけで、それで従業員は正社員雇用されるようになります。実はそういったメリットも見据えながら、星野さんや溝畑さんは休暇分散化を押しているということですよね。

それから冨塚さんのお話にもあったように、ネット化で流通コストが下がっているものの、飛行機代が高くコストが下がらないという問題があります。しかし、こちらも状況が徐々に変わりはじめています。先だって全日空が格安航空会社(LCC)をつくると発表しました。恐らく来年には十数機で、関西国際空港を中心にアジアからの観光客が安価で日本の地方に行けるようになるでしょう。全日空がどうするかは分かりませんが、私の推測では高速バス料金プラス1000円程度の水準に料金設定するのではないかと思っています。

国土交通省には今まで、航空運賃や新幹線・特急の料金は下げてはいけないという雰囲気がありました。しかし、それもなくなりつつあります。こうなると破壊的なコストモデルが出ますので、恐らくは高速バス料金プラス1000円程度の水準になります。ヨーロッパではこうした料金設定で国内の需要が3割近く伸びています。そして近隣からの需要も25%程度は伸びます。これだけで相当量の旅客が増えてコストは下がるように見えます。ただ、先ほどから皆さんが仰っているように、今後へ向けたチャレンジが色々とあることは確かです。そのあたりについてまず冨塚さんに伺いましょう。規制の問題について、事例や、「これはなんとかしなければいけない」といったお話があればお願い致します。

『じゃらん』は規制のために「旅行会社」にはなり得ない(冨塚)

冨塚:挙げ出すと1時間ぐらいかかってきりがないのですが(笑)、たとえば『じゃらん』の場合、旅行会社とはうたっていません。皆さんからすれば「旅行の仕事をやっていて、旅行会社じゃないの?」と思われるかもしれませんが、『じゃらん』はあくまでも“場貸しモデル”です。我々は「プラットフォーム」という言い方をしています。

これには理由があります。たとえば皆さんが宿泊施設を『じゃらん』で予約をしたとします。そして実際に泊まってお金を払われる。この場合、契約は皆さんと宿泊施設さんで交わされるものになります。旅行代理店の場合、皆さんが旅行代理店にお金を払い、旅行代理店から宿泊施設にお金がいく流れです。しかし我々の場合は予約のための場を貸しているだけですから、「何かトラブルがあったときは、皆さんと宿泊施設とで解決してください」という言い方をせざるを得なくなります。もちろんトラブルは起こりますし、「私は『じゃらん』を見て行ったのだから、『じゃらん』にも責任があるはず」と言われることはあります。我々もなんとかしたいのですが、現状ではなんとも出来ません。

それは、最近の『じゃらん』では当日の宿泊予約がとても増えていることが理由の一つです。たとえば軽井沢でショッピングをしていて「このまま泊まりたいな」と思って、ケータイ版の『じゃらん』で空き部屋を探して泊まる、そのようなパターンです。こういったケースで旅行会社としての行法を守ろうとすると、予約が来たら「この予約で間違いないですか」という書面を自宅郵送しなくてはならない、ということになります。こんなばかな話、ないですよね。「この規制はどうにかならないんですか?」と問い合わせると、「たしかにおかしいのはわかっているけれども、ちょっとね…」などと言われます。だったら紙ではなくメールでもよいのではないか、と考えるわけですが、そうなると今度は逆に「それを確実に受け取ったという証明をください」といったやりとりが生まれてしまいます。規制にはこのような困ったところがあります。

御立:星野さんはいかがでしょう。言いたいことが相当ありそうですが。

星野:規制の問題はきりがなくて、言い出すと本当にたくさん出てきます。厳密に言うとこれは規制ではありませんが、我々が小淵沢で運営している『リゾナーレ』という施設には混浴露天風呂があります。これをやろうとして申請を出すと、ダメだと言われるのです。どこの保健所も許してくれないんですよ。でも、よくよく条文を読んでみると、どこにひっかかるのかよくわかりません。それで役所と半年以上喧嘩した挙げ句、「まあ、やってしまおう」ということで始めたのですが、実際には法律違反ではないので、何も言われませんでした。このように本来の規制以外での習慣的な「指導」も、我々の業界では非常に多いのです。

また、溝畑さんたちに今頑張っていただいて改正される方向ですが、通訳案内士の規制もあります。私たちはエコツーリズムやガイド業務のようなこともやっており、「浅間山に鳥を観に行くツアー」などを開催しています。ところが、同じ内容を外国のお客様に英語で説明する場合、我々はやってはいけないというのです。通訳案内士という資格を持った人が英語で喋らなくてはいけないという決まりだからです。通訳案内士の方を軽井沢で探すのは大変で、やっと長野市ぐらいで見つけてお願いすると「山に登りたくない」と言われて(会場笑)。さらにその通訳案内士は鳥のことも知らなかった。今はこうした規制は改正の方向で、溝畑さんにご尽力いただいています。

さらには、地方自治体が運営している温泉やスキー場なども多くは民営圧迫になっているとも思いますし、実際に止めたいという自治体は多いものです。税金を投入しても全く儲かっていないので止めたいと。しかし、止めた場合は「原状回復義務」というものが生じます。「森に戻せ」ということです。これは、続けるも地獄、止めるも地獄ですよね。だから止めることができません。私は規制緩和委員会で「原状回復義務の緩和措置をしたほうがよい」と言いました。そのほうが経済的にもプラスになりますし、誰がやっても急には原状回復出来ないのですから。しかしこの改正はなかなか進んでいません。

このような感じで、言い出すと本当にきりがありません。そもそもこれまでの観光産業は「国内から海外へ」という枠組みでいろいろなことが決められていました。ですがこれからは、「海外から日本へ」という時代ですから、やはりすべてにおいて一度は見直す必要があると感じています。

「観光」は「地域づくり」とは異なり、ビジネスである(溝畑)

御立:ありがとうございます。では溝畑さんにお伺いします。個々の問題については、言い続けると変わるものもあるようですが、全般的にはいかがでしょうか。今までの仕組み全体が辻褄の合わないものになってきていて、それに対応するには観光庁だけで決めることはできませんし、国交省だけでも無理ですよね。他の省庁も絡んできて、大変手間がかかると思いますが、官のお立場として、この点についてはどのようにお考えですか?

溝畑:一つの例として申しあげますと、私は就任後、2010年7月に、中国人の個人ビザに関する要件緩和を行いました。中国人の個人ビザが発給出来るようになったのは2000年で、団体ツアー向けだったのですが、やはり治安の維持という面がありますから、非常にタイトな要件で、その後要件緩和はなかなか進みませんでした。当然、外務省、法務省、警察省、それぞれの立場があります。しかし私どもの立場としては、外務省ともコミュニケーションを図ってきちんと治安維持を担保しながら、スピード感と“顧客のニーズ”という観点から要件緩和しようと判断しました。

また、先ほどお話のあった通訳案内士についても、これは「総合特区法案」というものの中で進めるようになります。我々としては「規制緩和を進めていきたい。進めないといけない」という立場で、関係省庁を集めているところです。「原状回復」についても同様で、たしかに地方自治法の公有財産すべてに原状回復義務があるのは非常に厳しいですよね。これ以外にも都市公園、国立公園、国有林といったものも我々観光の側から見ると、「もっと弾力的に使えないのかな」と思えてしまいます。たとえば「皇居の周りをライトアップ出来ないか」といったご要望もあるかもしれません。私はどちらかといえばそれらを実現していきたいと思うタイプですから、出来る限り、やれるところから一つひとつクリアしていきたいと思っています。

こうした課題にあたって私が早急にすべきだと思うのは、「観光」と「地域づくり」で違う点をはっきり皆に意識してもらうということです。両方とも根っこにあるのが地域づくりという点では同じです。地域の個性を呼び起こし、皆でそれを盛り上げていくことに変わりはありません。ただ、その中でも観光と地域づくりの違いは、観光はビジネスだということです。ビジネスはきちんと採算をとらなければいけない。それならば地域が追求していくべきは、星野さんが今まさにやられているように、良いサービスを提供するということです。良いサービスを提供すれば、顧客は必ずリピーターになる、これをベースに持つべきです。

そのためには、宿泊施設だけでは不十分です。自治体の行政、そしてまちづくりから、すべて一緒にやらないといけません。お客さんがその地に一歩足を踏み入れた瞬間から、どんな風景が、どんな人が、どんな生活風景が目に映るのか。映画やドラマと一緒です。そこで顧客がどのような思い出を手にしていくのか。そんな視点を持ちながら、国際競争の中で顧客サービスの質を上げていかなくてはいけないのです。これは規制云々といった問題よりもさらに深い問題ですが、そのような意識を地域こそ持たなくてはいけません。あくまでもユーザーが先であって、サプライヤーの論理ではないのです。先日、石川にある老舗旅館『加賀屋』の小田さんが「台湾に日本の旅館を輸出しました」と仰っていました。実は日本の顧客サービスは世界トップレベルにあります。私としてはその点をサービス産業に関わるすべての方に意識を持っていただき、さらに磨きをかけてほしいと思っています。

宿泊事業の最大の問題は「生産性の低さ」にある(星野)

御立:ありがとうございます。観光産業は「産業政策を前向きにやろう」と言っている数少ない業種でもあるので、規制緩和は力強く進めていかなければいけないと思っています。実際、内閣には観光立国推進本部ができており、ビザの要件緩和についても最後は首相に話を上げて落としていただくということができました。それで警察庁にも受け入れていただけました。皆さんが声をあげていくと、少しずつではありますが進むということですね。

さて、次は今までの話以外のチャレンジがあれば、お話を伺いたいと思います。観光産業は国際競争の渦中にあり、特にこれからアジアの中流階級が増大するのは明らかなので、世界の国々が「その人たちをどうやって取り込むか」を考えています。諸外国が日本より先に考え、戦略を立ててお金を投入している状況で、私たちはこれから何をしなければいけないのでしょうか。星野さん、いかがでしょうか。

星野:国の政策を別にすれば、業界の努力不足という面も大きいと私は思っています。休日分散や規制緩和を政府にお願いしてはいますが、もともとは我々の努力不足が一番の原因であるとも思うのです。宿泊事業が抱える問題は、「生産性」です。日本の観光業界は年間2億9000万人が泊まるというインパクトを持っています。それは約22兆円の市場で、さらに年々インバウンドが増えています。つまり、問題は需要ではないのです。十分にある需要から利益をあげる力が我々業界にないということが、実は最大の問題です。つまり、売上よりむしろ利益率の問題であり、それは突き詰めれば生産性です。ですから生産性を上げるための仕組みが我々の業界にとって一番重要なのです。そのため星野リゾートは90年代からずっと、生産性を上げる仕組みづくりに向けて努力してきました。

ただその一方で、政府にはやはり生産性を上げるための環境を整えていただきたいと思っています。それが先ほどの休日分散です。私は「100日の黒字と265日の赤字」と言っているのですが、この割合は、日本の宿泊観光産業において誰が経営してもあまり変わりません。結局、休みの日が集中している現在は、全体で見れば生産性が低くなり、なかなか黒字に出来ないという実情があります。制度のほうに話が戻って申し訳ないのですが、私は休日が平準化することで生産性が上がる環境ができると思っています。そこでやっと本当の意味でフェアな競争ができるようになります。ここでいう「フェア」とは、頑張る人のところへお客さんが行く状態のことです。今は頑張っても頑張らなくてもゴールデンウィークになれば人がたくさん来て、そのあとは来なくなる、という状態で、これでは頑張っている施設が必ずしもフェアに報われていません。現在、休日の分散化は政府の重要検討項目に入れていただいて本当に感謝しているのですが、この政策は生産性の大変革に繋がると考えています。そのうえで経営者が他の業界と同様にしっかりと利益を出す体質をつくっていくのです。競争環境さえ整えていただければ、さまざまな努力で結果を出す経営者が次々と出てくると思います。

御立:ありがとうございます。生産性という言葉が出ましたが、産業の生産性は、コストを分母にし、価値を分子にした関係で表わすことができますよね。生産性をよくするために気にするべきことは、コストだけではないし、価値だけでもない。しかし観光に関する議論においてはしばしば、「ブランドづくりを頑張りましょう」という価値の面だけになったり、「コストを切り下げましょう」となったり、どちらか一方の議論になりがちな印象があります。コストと価値の両面を見て経営する人が増えなければいけないでしょう。そんな中で私が思うのは、『じゃらん』が果たしてきた役割は、たとえば全国の小さい旅館にベストプラクティスを持っていったということではないでしょうか。「どこへ行っても露天風呂付き個室ができた」とか文句を言う人はいますが。しかし、少なくとも「こういう風にやれば商売はうまくいく」ということを全国に広めたのではないかと思います。そういったことを含めた旅行業の経営に関するお話、あるいはそれ以外の話でも結構ですが、冨塚さんにお願いしたいと思います。

眠っている資産をバラして売れば、生産性は上がる(冨塚)

冨塚:部屋付き露天風呂についてですが、じゃらんの営業があるとき、「露天風呂に鍵をつけてください」と旅館にお願いしたのがきっかけになっています。宿の女将さんに「彼女を連れていらっしゃいよ」と言われて行ったときに、「露天風呂に入りたいんですけど、誰か入ってきちゃうと困るので鍵をかけてもらえませんかね?」と言ったそうです。同時に「これは売れるんじゃないか?」とひらめき、鍵付き露天風呂の時間貸しをその旅館に提案しそうです。そこで宿泊施設が宿泊客に無料で開放していた露天風呂を40分で区切って2000円で貸したところ、夜中から朝まで予約がひっきりなしに入りました。そこで次の展開として、それをプランにして売り出すことになりました。

今まで宿泊施設は部屋を売っているだけでした。2万円の部屋に何人で来ても食事を除けば2万円としていたものを、『じゃらん』では、すべて切り分け、一人あたりのプランに変えていきました。さらにそのプランに付加価値を付けました。たとえば60分のエステを付ける。単純に60分だけのばら売りをするよりは安い料金ですが、セットにして買ってもらうことで、旅館が得るトータルの金額をきちんと増やそうというものです。そうして、いかにしてお客様一人からいただく金額を増やしていくかを考えて、現地の営業と宿泊施設の経営者とで話をしながらプランを拡大していきました。旅行会社のプランと決定的に違うのは、我々は実物を見ているという点です。旅行会社の方々は東京の本社でプランをつくりますが、私たちは宿泊施設それぞれにあるハードやソフトそれぞれの魅力の「因子」を見ていきます。そうすると「この宿泊施設はこのおもてなしが素晴らしい」など、宿泊施設ごとで微妙に違う側面が見えてくるので、それをピックアップしてプランに盛り込むのです。

ここからが重要で、「誰に来てもらうと喜んでもらえて、良い評価をいただけるのか」というお客様のターゲットを明確にしていく必要があります。「うちはこんなに良いものを持っています」といくら言ったところで、それを喜んでもらえない人が来ても互いに意味がありません。まずはどんな人に来てもらうか考えます。たとえば「20代の女性にターゲットにしよう」というお話はよく聞きますが、同じ20代女性でも、自宅住まいで同い年の彼氏がいる年収200万の女性と、青山にある家賃20万のマンションに40歳の彼と住んでいる外資系企業勤めの女性では、求めているものが全く違います。ですから「こういう人なら、宿泊施設の魅力とマッチして喜んでもらえそう」というところまでイメージを明確にしてプランをつくり上げます。結果として、そんな作業をしていた宿泊施設はどんどん単価を上げていけることになりました。しかも、お客様がリピーターになってくれたのです。リピートしていただければ、プラスアルファの売上となります。生産性を上げるという意味では、このようにしてリピーターを確保してプラスアルファの売上を得ることは非常に大事になると思います。

さらに生産性を上げるための方法に、平日の稼働を上げることがあります。休日に稼動率をいくら上げても限りがあるので、あとは平日をどうしていくのかを考えるのです。私は深夜の時間帯にどのようなアプローチするかを、今後はもっと考えていくべきだと思っています。平日の夜の空いている時間をどのように使ってもらうか。映画に行く代わりに宿泊施設に来てもらえるのか、空いている時間の獲得競争です。そこで我々は、「こういう理由があるからやっぱりここに行かなきゃ」というお客様にとってのエクスキューズ(宿泊施設に来る理由)になる何かをつくっていこうとしています。

たとえばドラマの舞台になっている場所は、一時的にではあっても客足が伸びます。お客様にどのようにしてそうしたエクスキューズを提供していくのかに知恵を絞ります。「平日でお得だから行こう」というのは、一番多いパターンですが、そこにプラスアルファをどんどんつけていきます。今年から始めたものに、日帰りで2食提供する(0泊2食)プランがあります。泊まれない人に無理矢理泊まってくれと言っても無理ですから、日帰りで新しいプランができないかと考えました。従来の日帰りは、温泉に入ったあと少しばかり食事処にてご飯でも楽しんだら帰るというもので、単価も2000〜3000円です。いずれにせよ平日の部屋は空いているのですから、我々は、昼食を愉しんでいただき、お風呂に入ったあとは部屋に入って布団でごろごろしていただけるようなプランにしました。時間は特に制限を設けず、夕食も食べていただきます。すると0泊2食になるわけです。値段は1泊2食の八掛けにすれば売れます。こうして空いている資産に付加価値を乗せてプラン化し、生産性を上げている宿泊施設は増えてきています。我々はこういったお手伝いをして新しい需要を創造していきたいと思っています。

御立:今のお話は、つまりマーケティングですよね。この手の話を地方の方にすると、「こちらにはマーケティングを考える人材がいないから簡単にはできません」と言われることがあります。しかし今のお話で面白いのは、『じゃらん』が地方の宿のマーケティングをある意味で代行したり、手助けしたりしている点です。それで「お互いにパイを大きくしましょう」という考え方ですよね。

星野さんは、傾いてしまった施設の再建を頼まれることが多いとお聞きしております。そこで生産性の向上を含めた経営の立て直しを行い、プラスに持っていく。すると今度は日本全体で規模があるのでトータルでは儲かるようになるのだと思います。そうしたことを続けるには、やはりあらゆる局面で観光業界や省庁にしつこく話をしていく必要があるでしょう。先ほど星野さんが仰っていましたが、「とにかくよろしくお願いします」といった感じで押し切っていくべき場面もあるということですよね。そう考えていくと“タマ”は色々と出てきているように思うのですが、国としてはやはりそこをスピードアップさせていきたい。ですから御三方から会場の皆さんに向けて、「一緒にこういうことを考えてくれませんか?」「こういうことを手助けしてくれませんか?」など、それぞれ一言ずつ手短にメッセージをいただいてから、会場のご質問やご意見を頂戴したいと思います。

すべてのサービス産業は観光とつながることでビジネスチャンスを見いだせる(溝畑)

溝畑:観光というものの意味を考えるうえで、私としてはまず、皆さん一人ひとりが旅に参加するということを考えていただきたいと思います。私自身も人生における大きな発見を旅路で経験してきました。夢と出会ったのも旅です。「最近の日本人は海外に出なくなった」と言われています。そういった日本人の悩ましい内向き思考を、旅に出るという一つのポジティブアクションに変えていただきたいと思います。とにかく外へ出て行って遊び、英気を養い、そして何よりも絆をつくっていく。私は、旅は絆をつくるものだと思っています。家族との、地域との、そして若い頃は異性との…、失礼しました(笑)。インターネット社会とは言いますが、人間にとってインターネットはあくまでも手法であり、ベースはアナログなのです。ですから本物に出会って感動する。そして泥臭く海外に出て行って勝負をする。何より皆さん自身がそんな旅を経験してください。

二つ目に、私たちは最近、吉本興業、プロ野球、さらにはTOKYO GIRLS COLLECTIONとコラボレーションしています。すべてのエンターテインメントおよびサービス産業の方々と組んで、各地域にある日本の魅力あるコンテンツを提案いただきたいと思っているからです。今後はそれらを商品化していきたいと思っています。たとえば小さな話ですが、今はスポーツについて一所懸命考えているところです。本来、スポーツは「観る」「する」「支える」など、さまざまな形で楽しめるものですよね。ところがスポーツをしている人と「観光」という世界には、大きな距離があります。たとえば私自身は先日、「奄美桜マラソン」を走ったのですが、当地の旅館やホテルはお客様が気軽にジョギングするための靴もジョギング用スーツもレンタルしていませんでした。でも、「ここでマラソンを体験してみたい」という人の気持ちに対してきちんとサービスが提供されていて、しかもそこに宿泊施設があったらどうでしょうか。そのようにして顧客サービスに少しでも付加価値を乗せていけば、もっとコンテンツの幅が広がっていきます。

皆さんが関わるあらゆる分野において、観光とつながる新しいビジネスコンテンツを提案していただきたいと思っています。それは皆さんにとってもプラスとなり、観光とはWIN-WINの関係となるはずです。地域や海外に広がっていくという点で、すべてのサービス産業は観光とタイアップすることで大きなビジネスチャンスが生まれる。こういう意識をぜひ持ってください。それで精神的にも経済的にもハッピーになり、何年か後に「ああ、溝畑はええことを言うてた」と思っていただけたら幸いです。そして最後にもうひとつ。目線を上げてください。批判は止めてアクションを、です。課題やら問題やらを挙げるのは誰にだって出来ます。ですからもうアクションあるのみということで、ぜひ今後ともよろしくお願い致します。

休日分散は、財政支出なしで内需拡大できる方法(星野)

星野:溝畑さんが来てから本当にいろいろと動き出しています。芽には出ていたのですが、長官がそこを一気に広げていった。ですから私は本当に感謝しています。私から皆さんへのお願いは二つ。私はこれまでずっと、飛行機代をせめて世界並みにして欲しいということ、そして休日分散化の二つだけを提言していました。で、飛行機料金については、LCCでは今は実現しそうな方向で動いています。これはすごいことです。

休日分散化も本当にあと半歩のところまで来ています。ただ政府は、春と秋にゴールデンウィークとシルバーウィークをそれぞれつくり、そのどちらかを5地域に分けて分散するという案で妥協を迫ってきています。春を諦めて秋だけ5ブロックということになるかもしれません。ブロックについて、私は当初「もっと多くすべきだ」と言っていたのですが、5ブロックで妥協していました。ところがそれが3ブロックになろうとしています。どんどん効果が薄れていく方向にシフトしているんですね。ですから「3ブロックは絶対にだめです」と申しあげているのですが、反対の方がいらして。反対の理由で本当に納得できるものはあまりないんです。変化が嫌だという程度ですから、すべて克服できるものだと思っています。

この政策の実施のメリットは余りにも大きいものです。観光産業にとどまらず、財政出動なしで内需拡大を実現できる政策です。ですからぜひ皆さんにも声を挙げてほしいと思っています。ある旅行代理店の社長にも「声を挙げてください」とお願いしたら、「これは自分が20年前に言っていた案だ」と言ってくれまして、それ以降は声を挙げてくれていませんが(笑)。とにかく細かい反対はあるかもしれませんが、これはやるべきなんです。この件については大阪府の橋下徹知事からも、「今の日本、賛否があるならやってみてから考えて、ダメだったらそのときに戻せばいいじゃないですか」と言っていただきました。そんな風にして影響力のある方々に言っていただくのが私としては一番ありがたいことですので、ぜひよろしくお願い致します。

ぜひ「月曜午前中休み」取得の普及を(冨塚)

冨塚:私からは三つあります。一つ目は、月曜日の午前中に休むことを許してあげて欲しいということです。これが可能になると日曜泊が出来るんですよ。日曜日はかなり宿泊施設が空いていますし、安くなってもいます。月曜日は朝からいないとまずいという意識が日本人にはありますが、「午後一からでもいいじゃないか」と。この意識普及へのお力添えをお願いしたいですね。

星野:たしかに「NO残業デー」というのはありますが、「月曜午前中休み」というのはないですよね。

冨塚:そうなんです。これはずいぶん違いますよ。ちなみにうちはこんな事業をしていますから、「有休は100%取りましょう」と言っています。「泊まった宿泊施設でこんな体験してきましたが、こういうところをもっと改善したほうがよいと思います」といったレポートを出したら5000円をあげるという制度を実施したこともあります。そうしたところ休暇取得率が97%になりました。その前年は33%ですから相当な効果です。このようなことも皆さんにはぜひやっていただければと思います。

二つ目ですが、外国人のご友人を日本に連れてきていただき、ぜひ一緒に観光してみてください。これをすると、彼らが求めているものが日本人とは全く異なるという事実に皆さん自身がお気づきになると思います。私には韓国人の友人がおりまして、その友人の知り合いが日本に来たときに、「どこに行きたいですか?」と尋ねたところ、「五反田」と言うんです。「え? なんで五反田なんですか?」と聞くと、「友達の若い女の子たちが日本に何度も来ているんだけど、新宿や渋谷は飽きていたらしい。でも五反田にはおいしい回転寿司があるというからそこに行きたい」と言う。「寿司だったらもっとおいしいところがあるよ」と伝えてみたのですが、「いやいやそこに行きたいんです」と(会場笑)。ですから一緒に行ってみないと気が付かないことがあるのだと思います。そういう体感をしていただければ、恐らくは海外向けに伝えたいことも変わってくると思いますので。

三つ目は、ご自身がどこかで泊られた際、不具合を感じたならばそれを直接ご指摘いただき、黙って帰らないでいただきたいと思っています。結果的にはサイレントクレーマーのようになってしまうケースもあるとは思いますが、お支払いした後で結構ですので、「もう少しこういうところをこうしたほうが良いと思う」と一言を添えていただければ、宿泊施設の方々も「ありがとうございます」となります。「良かったです」と言って帰ったあと、口コミサイトなどに「ここが悪かった」と書かれると、「ああ、なぜあの場で言ってくれなかったのか」と悲しい気持ちになり、モチベーションも落ちてしまいます。ちょっとしたことですが、こういった作業もひとえに日本のおもてなしを底上げしていくために個人レベルで出来ることだと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。

御立:ありがとうございます。では私からも締めの言葉として一つ。本気で観光に取り組んで地域を活性化すると、こんどは地域間競争をせざるを得なくなります。これを是としていかないと活力は出ないと私は思っています。あえてこんなことを申し上げるのは、さまざまなことにチャレンジしながら最終的に国際競争で勝つには、それぞれに深みと独自性がなければいけないと思うからです。やはり観光は文化の総合体験ですから、深くないと勝てない。フランスやイタリアの文化は深いですよね。また、私自身、アメリカ旅行でも本当に面白かったのは片田舎に行ってまったく違う一面を目にしたときでした。「アメリカって一種類じゃないな」と深みを感じました。では、深みを出すためにはどのような努力が必要でしょうか。昨夕のディナータイムでも「日本のワインで一所懸命やっていく」というお話がありました。実はあれも、国内で作り手同士や地域同士が競争をするから良いものがどんどん出て深みも増していくというものです。そんな風にして深いものをつくり続けないと、一過性の「良かったね」で終わってしまうのではないかと感じております。さて、ここからはぜひ皆さんからも活発なご意見やご指摘を頂戴したいと思います。

IR(Integrated Resort)としての総合的な都市開発を(溝畑)

会場: Twitterで届いた質問をさせてください。シンガポールやマカオではカジノが観光資源の一つになっていますが、カジノを誘致するメリットとデメリットについては、どのようにお考えでしょうか。

星野:成長戦略会議のなかでも議論にはなっていましたが、街中にこれだけたくさんカジノがある国ですから(笑)、私としては別段、観光地にカジノをつくってはいけないというルールにする必要はないと思います。懸念されていることがきちんとカバーできるような要件をつくったうえで、「これらをクリアできたらやってもいいですよ」という規制緩和はすべきだと思います。

ただ、カジノさえやれば観光客が大勢来るようになると思っている方もいますよね。私はそんなに甘くないと思っています。ソウルの郊外にもカジノができましたが、うまくいっていませんよね。つくるのであればスケールメリットが効くように、カジノ以外のファミリー向け施設を含めたエンターテインメント・タウンにしなければ難しいでしょう。そういう全体を見渡したコンセプトを実現出来るのかどうかが重要です。またカジノをつくるのであれば、マカオと本気で戦うだけの資本を呼び込み、投資できるかどうかということも大切です。バブル期に制定された総合保養地域整備法のように「施設をこれだけつくれば人も来続けるだろう」というような取り組みは危険だと思います。

溝畑:星野さんが仰っている通り、カジノを前面に出すのは日本人の国民性から言っても難しいのではないかと思います。国土交通省の成長戦略において私が可能性を感じているのは、「IR(Integrated Resort)」の考え方です。シンガポールのリー・クアンユーは元々環境に厳しい方で、カジノを非常に嫌っていました。ただ、中国のセレブ層などに対するアプローチで国際競争力を高めようという政策の中で、息子さんがある程度のハードルを設けてカジノ設置を進めていったという経緯があります。これもIRの一つです。ホテル、アミューズメント・エンターテインメント施設、ショッピングモール、コンベンション施設等が統合された巨大施設をつくり、その中で全体の5%未満の部分にカジノがある、そのようなものです。「総合的に考えれば国際観光に資する」ということで、2箇所ほど開発しました。その効果がどれほどなのかは検証する必要があると思います。

星野さんも参加されている国土交通省の成長戦略でも、こういったIRの一環として、各国のカジノの出来・不出来を検討していこうとしています。現在ではその動きを受けて国会議員が議連をつくり、具体的な法案を議員立法という形で検討しています。こうした動きには、実は観光庁のみならず、警察庁や文部科学省、あるいは厚生労働省も絡んできます。私たちと彼らががっちりとスクラムを組んで政治的に前へ進めば、スポーツ振興くじと同様、可能性はあると思います。ただ、いずれにせよカジノを全面的に出すのは国民感情から言っても難しい。あくまでIRの一部といった形がふさわしいでしょう。

会場:本日は国内で質を上げていこうといった話が多かったと思いますが、外側に向けた政策についてはいかがでしょうか。‘Yokoso! JAPAN’、‘Japan. Endless Discovery.’など、キャッチコピーもいろいろと変わっているようですが、インバウンドを増やすという課題に対して、現在、観光庁でどのような取り組みをされているかについてお伺いしたいと思います。

溝畑:プロモーションの面で言いますと、実は、日本はこれまで、韓国やシンガポールに比べてほとんど予算がついていませんでした。しかし星野さんや前原さんの頑張りもありまして、2010年度には初めてまともな広告予算がつきました。現在、我々が徹底的に取り組んでいるのは中国・韓国・香港・台湾の4市場でのテレビ・新聞広告、インターネット、ブログ、そしてTwitterを使ったプロモーションです。実際のところ、その効果もあって韓国からの訪日者数は2009年の159万人から2010年には244万人に増えました。プロモーションはマーケットリサーチをやりながら、非常にきめ細かくやりました。

二つ目にプロモーションの一元化も試みています。これまでは在外公館や国際交流団体がばらばらにプロモーションをいたのを、国としてまとめるようにしました。三つ目は、政府だけでなく、地方自治体や民間も一つになって効果的なプロモーションをするよう取り組んでいます。たとえば四国へ人を呼びたい場合に、徳島・香川・愛媛・高知がばらばらにプロモーションしていたら、場合によっては受け手側が「もういいかげんにしてくれ」と思うかもしれません。地方でのプロモーション手法を改善していくということです。

四つ目は受け入れ体制です。ここが日本は本当に遅れておりまして、今改善を試みています。最近私は、これを「観光のICT化」という言い方をしています。たとえば日本の国際空港では今までLANが有料でしたのでこれをまず無料化します。また、ホテルの放送や表示板といったもののバリアフリー化も行います。こういう部分で少なくとも20箇所で国際基準を満たすものにしていくことにしています。まとめますと、我々が今取り組んでいるのは、プロモーションの質向上と受け入れ体制の拡充です。あと最後にお願いしたいのは、これから皆さん、外国の方を見つけたら必ず挨拶してください。国民運動にしましょう(会場笑)。

星野:日本にいると、韓国や中国から訪日する観光客数はとても順調に伸びているように見えます。もちろん長官を含めて一所懸命取り組んでいらっしゃる方々のおかげであり、プロモーションの効果もあります。ただ、数字をよく見てみると、過去5年間で韓国から外国に行っている人の数自体が劇的に伸びているのです。実は韓国の旅行者は日本に来た数よりも中国へ行った数のほうが多かったのです。また、中国での外国旅行の人気渡航先についても、日本は昨年、ニュージーランドに逆転されています。結局、日本から見ている限りは順調に増えていると感じられる数も、シェア争いでは負けているのです。たとえばソウルから上海への渡航者数がどうしてこれほど増えたのか。これは韓国と中国がオープンスカイ協定(2国間の航空路線や便数、運賃、空港の発着枠の設定を航空会社が原則自由に設定できるようにする政府間協定。航空会社が発着枠を各空港と直接交渉し、需要に応じ柔軟に路線を開設できる)を結んでいるからです。世界の外国旅行需要がここ10年のあいだに7億人から9.3億人へと急激に伸びているために、政策や我々の頑張りがいまひとつであっても順調に増えていると感じられるだけであって、我々は決してシェア争いに勝っているわけではない。この点を意識する必要があると思います。

冨塚:私たちとしては日本だけでなく、香港や台湾を含め、観光客を送る国を増やすことで最終的に訪日者数も増やすという考え方にならざるを得ない現状があります。日本だけに送ろうとすると実際には収益が上がりませんから。ですから国としても、周辺国への旅行を含めた実送客を増やすというところに、コストを移行させる方向もとりまぜていったほうが良いのではないかと思っています。

会場:観光と言わず英語の‘tourism’で捉えると、たとえば留学生や就労者もインバウンドということになりますよね。楽しむための旅行だけで捉えず、‘tourism’本来の観点から行うことでトータルなパフォーマンスがもっと上がるのではないかと思っています。ですから文部科学省による留学生受け入れ政策、厚生労働省による海外の医療従事者受け入れ政策、こういう政策と共通の枠組みで投資を行い、コストを下がる必要があると思います。「観光」という日本語があまり良くないのか、‘tourism’と言えば、そのあたりもなんとなく一緒に考えることができるのですが。

会場: 1月から首相官邸で日本のブランドをつくっていくための仕事をしております。日本の魅力や強み、あるいは思想を世界に伝えていくといった国際広報のミッションとしてブランドをつくろうとしています。これに関連して、クール・ジャパン?セッションにて非常に良いなと感じるコンセプトが提案されていました。それは戦略的な“メッカ”をつくるというものです。たとえば伊勢神宮で農産物の販売会をしてみる。直島はアートやデザインのメッカに、またTOKYO GIRLS COLLECTIONはすでにアジアでのファッションのメッカになっているかもしれません。意図してメッカのような場所をつくることを、観光庁や星野さん、あるいは民間の方々と一緒にやっていきたいと思っております。省庁横断的に集約することも大変有効だと思いますので、ぜひご検討いただきたいと思います。

御立:皆さん、ありがとうございました。会場からもご自身のさまざまな立場で「こういうことをやってみてはどうか」という提言をいただけたのは大変な収穫だと感じます。私自身、星野さんとご一緒に仕事をさせていただいくなかで「え、こんなに変わっているの?」とか、「こんなことがあるんだ」と、知っているようで意外と知らないと気づかされるのが観光分野でもあります。ですから今後もぜひ「何か一緒にやろう」ということで、本セッション以外の場でも皆さまとご一緒にできる機会があれば、ともに頑張っていきたいと思っております。今日は長時間、本当にありがとうございました。(会場拍手)

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