加治慶光氏×楠本修二郎氏×吉川稔氏「Cool Japan 〜改めて世界に発信すべき日本のクリエイティビィティ〜」 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

クールジャパンは10兆円の新規需要をつくろうという政府の成長戦略(梅澤)

梅澤:本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。「クールジャパン」というテーマ自体は説明の必要はないと思うのですが、実はクールビズと間違えられて「震災後はスーパークールジャパンですね」なんて言われたことがあります(会場笑)。それを聞いた私は「クールジャパンを今までの5倍ぐらい頑張れ、ということかな」なんて思ったのですが、よくよく聞いてみたらクールビズのことだった(笑)。今日は、そのあたりの誤解を解くための解説を少しした後で、ディスカッションに入っていきたいと思います。

日本経済の成長戦略としてのクールジャパンの流れを振り返ってみましょう。皆さんご存じの通り、民主党政権が発足し2010年に入ると、政府で成長戦略の検討作業が始まりました。その結果、2010年6月には経済産業省から『産業構造ビジョン2010』が発表されます。他省庁で策定された成長戦略と『産業構造ビジョン』を統合する形でまとめられたのが、昨年夏に発表された『新成長戦略』です。

『産業構造ビジョン2010』においては、「インフラ輸出」や「クールジャパン」などの重点分野について、A.T. カーニーが戦略策定の支援をしました。特にクールジャパンについての私自身の関わりは深く、一昨年から「日本文化産業を成長産業に」と社会に発信をしてきた経緯があります。

クールジャパンの対象となる主要な領域は、ファッション、食、メディア・コンテンツなどです。日本のソフトパワーを世界に発信しながら、関連する商材を海外へ売っていくことが主眼となります。さらに、日本のさまざまなソフトパワーの発信は、観光旅行先としての日本の魅力を高めることにもつながります。クールジャパンを契機に、インバウンド観光の成長も狙っています。

経済産業省は、5つの重点分野(インフラ関連/システム輸出、環境・エネルギー課題解決産業、文化産業立国、医療・介護・健康・子育てサービス、先端分野)全体で、2020年までに80兆円の追加需要を生み出す目標を掲げています。クールジャパン分野の具体的な検討作業は、昨年末に設立した『クールジャパン官民有識者会議』を舞台に本格化し、今年の5月に有識者会議の提言を出しました。今日お越しいただいているお三方も、有識者会議のメンバーです。

この提言は、ファッション、食、メディア・コンテンツにインバウンド観光を加えて現在4.5兆円規模の産業を、2020年時点で12兆円から17兆円に成長させるという目標に沿って書かれています。つまりクールジャパン領域で、10兆円規模の新規需要をつくるという大きな目標です。経済産業大臣の海江田万里さん(当時)が主催する有識者会議には、資生堂名誉会長の福原義春座長を始めとする民間人20人が参加しています。文化産業やソフトパワーと言うと相当広い分野にまたがるため、当然ながら多くの省庁が絡みます。

過去にも、コンテンツ産業の海外展開、農産物の輸出促進、日本の対外発信力の強化など、個別テーマを主管する省庁主導で、さまざまな取り組みが行われてきました。しかし、それぞれ議論の中身は正しく取り組みの方向性も間違っていないにもかかわらず、中々結果につながっていなかった。その一つの要因は、取り組みがばらばらで、日本全体のブランド戦略や成長戦略として統合されていなかったことにあります。その反省に立って、今回は事務局の経済産業省に加えて、食で農林水産省、コンテンツで総務省、対外発信で外務省、インバウンド観光で観光庁、文化資産で文化庁、知財で内閣府と、関連省庁が一堂に会しました。そこで、20人の民間委員と担当省庁の幹部が平場で議論する形で進めてきました。

それでは、パネリストのお三方をご紹介します。まず吉川さんは、ファッション分野を引っ張っていただくというミッションで、有識者会議に参加して頂きました。今年の春まで、リステアホールディングスで副社長兼CFOを務めていた方です。『RESTIR』と言えば女性の方はご存じかと思います。以前に「日本で最も顧客単価が高いショップです」とご紹介したら、「いやいや、世界一です」と言われました(会場笑)。六本木のミッドタウンに、基幹店である超高級セレクトショップが入っています。

私もショップには何度かお邪魔していますが、『RESTIR』はラグジュアリーブランドを中心に世界の最先端ブランドを扱っていて、残念ながらそこに、日本のブランドが入る余地はほとんどないのが現実です。とにかく世界で一番ホットなもの、あるいはクールなものをセレクトし、独特の雰囲気を持つ店舗空間に編集している。そこに日本のみならずアジアの富裕層がどんどん来ているわけです。

吉川さんご自身は、去年から上海に本拠を移しています。最初はリステアホールディングスとして、上海マーケットへの進出を検討されていたと聞いていますが、現在はオーブというご自分の会社の代表として、国内外のさまざまなブランドの、アジア市場開拓に関するプロデュースやコンサルティングの仕事をされています。

楠本さんは、以前にもあすか会議に登壇されているのでご存じの方は多いと思いますが、カフェ・カンパニーの創業者兼代表取締役社長です。一番有名なところですと『WIRED CAFE』があります。カフェのほか、実にさまざまな業態の直営店をお持ちで、50店舗を開発、運営されています。カフェというとシンプルに聞こえますが、カフェ・カンパニーの場合は、お菓子、お茶、スポーツなど、さまざまな分野とのコラボレーションにも取り組まれています。最近はJA全農とのコラボレーションもありますね。

フットワークが軽く、食関連やライフスタイル全般で、守備範囲も広い方です。だからこそ、いろいろな企画が楠本さんのところに飛び込んでくる訳です。面白いと思ったらご自身でプロデュースを行うと同時に、会社のマネジメントもされている。大変懐の深い方です。

楠本さんとは2年前のG1サミットで、クールジャパンのポテンシャルについて、初めて議論をさせていただきました。そして1年前に、政府と一緒に成長戦略の初期的な検討を始めたときに、いの一番に飛んでいって「ぜひ一緒にやってくださいと」お願いした次第です。それ以来の同志です。

加治さんは、その経歴を詳しく説明していくと軽く10分を超えてしまうほど豊富なキャリアの持ち主です。もともと映画会社でマーケティングを統括され、そのあと日産自動車で高級車、GT-Rなどのスポーツカー、電気自動車のプロジェクトでマーケティングを担当されました。また、東京オリンピックの招致委員会でも働いておられたので、「世界に対する日本のマーケティング」という意味でもエキスパートです。

年初から内閣官房に加わり、内閣広報室参事官として活躍されています。マーケティング全般で、これだけ広く深い知見をお持ちの方が内閣の広報担当になったということで、「クールジャパンのプロジェクトにぜひ加わってください」と経済産業省と一緒に依頼に行きました。有識者会議の検討にも2月から参加頂いています。

そんなわけで、ファッションの専門家である吉川さん、食やライフスタイル全般を幅広く手掛けている楠本さん、そしてメディア・コンテンツや自動車のマーケティングを手掛けられ、現在は国家コミュニケーション戦略の陣頭指揮を執っている加治さん、そのお三方で議論を進めていきたいと思います。

ユニクロ、コム・デ・ギャルソン、A BATHING APE…海外で注目される日本発ブランド(吉川)

梅澤:世界から“Cool”と評価されるものはいろいろあると思いますが、それぞれの分野で特にポテンシャルが高いものは何かを、最初にお伺いしたいと思います。吉川さん、ファッション分野ではどんなものに注目をしたらよいでしょうか?

吉川:まずはどなたもご存知のユニクロについて少しお話をさせてください。ファッションには、もちろんクリエイティビティの高さという視点があるでしょうから、ユニクロについては「低価格戦略では?」と捉えている方は多いかもしれません。『RESTIR』は価格的にはユニクロと反対ですが、ファッション業界で働く人間の見立てですと、ユニクロのグローバル戦略では抜群によいんですよね。ちなみにミッドタウンにはユニクロの本部もあって、よく「日本で一番高いところと一番安いところが同じビルにいる」なんて言われるのですが(会場笑)。

実のところ私は昔から、世間はまだどちらかというと安売りというイメージで見ていた頃からユニクロに注目してました。イギリスで少し苦戦していたこともありましたが、何年か前にユニクロはニューヨークのSOHOに展開していき、その店舗づくりにおけるクリエイティビティは本当に素晴らしいと思います。その頃からユニクロはマーケティング手法が一気に変わっていきました。私たちは世界で最も尖ったファッション領域として展開していましたが、それでも当時から「ユニクロが海外で最も高い評価を受けるな」と強く感じていました。

ほかには、私は現在上海に住んでいますが、やはり海外での知名度や注目度で言えばコム・デ・ギャルソンは素晴らしいですよね。以前はデザイナーズブランドですとかDCブランドと言われていたコム・デ・ギャルソンを筆頭としたいくつかの特徴的なブランドは、やはり海外でも本当に高い評価を受けていると感じています。ただ、知名度と売上規模はそれほど関係していないという実情もあります。ファッション業界では「規模が大きくならないほうがよい」という認識をしている方もいます。クリエイティビティが高いと言われている領域のマーケットでとれる売上規模というのは、実は非常に小さいという現実があります。一方であまり批判してもいけませんが、日本のアパレル業界における上位会社で、海外に名が知られているところはほとんどないと思っています。国内では大きなシェアを占めているブランドでも、海外における知名度という点では非常に厳しい部分があります。

このほかですと『A BATHING APE』というブランド。こちらはつい先日、香港のセレクトショップであるI.Tという会社に買収されてしまいました。『A BATHING APE』はもともと日本のブランドで、海外でも大変な人気でした。たとえばパリには『colette』というものすごく尖ったセレクトショップがありますが、その1階でフィーチャーされていたんです。恐らく多くの人は『A BATHING APE』を日本のブランドというよりもニューヨークのブランドか何かのようにイメージしていたと思います。それが今は現実に買収されて、海外、香港のブランドになってしまいました。恐らく今後、『A BATHING APE』は中国の市場で相当大きくなっていくのではないかなと思います。

次に大変マニアックなところですが『The Reality Show』というファッション誌を紹介します。この雑誌ではモデルの一部は冨永愛さんといったプロを起用していますが、基本的にはすべて素人さんです。街のお兄ちゃんやお姉ちゃんたちがモデルとしてすごく尖った服を着ている。ブランドというよりむしろ、メディアとして世界へ一気に発信してされていった媒体です。ファッション業界の尖った方々から日本人のクリエイティビティや編集力が非常に高く評価されています。ちなみにこちらに出演した元素人のモデルは『The Reality Show』で知られた後、軒並み世界トップのモデルエージェンシーと契約することになりました。そんなふうにして日本のメジャーを走らず、ストリートからいきなり世界トップへ駆けあがったというような例は最近特に多いですね。面白いのは、日本のストリートコンテンツが世界で最も尖った領域と突然ミックスしたところです。それまで日本のストリートファッションは、「SHIBUYA 109」に代表される10代を中心とした若い世代が引っ張っていたのですが、この例のように今はいきなり世界とつながるようになったわけです。

ひょっとしたら、プロダクトのブランド力に加えて編集の巧さがクールジャパンの強みでもあるのかなと、私自身強く感じています。そういう意味でもユニクロはコラボの仕方がうまいですよね。価格帯が安いものとすごく尖ったものをくっつけている。マスマーケットと、良いのか悪いのかわからないような尖ったものをうまくくっつけるのが最近の流れです。逆に言えば、こういったものしか注目されていないという意味でもあると思いますが。とりあえずはこのあたりで。

海外の日本食の10%しか日本人が経営していないのはもったいないこと(楠本)

梅澤:ありがとうございます。では次に楠本さん、食の分野では何が世界で注目されているかを教えてください。

楠本:私自身はカフェを通して、食とアートのコラボ、食と音楽のコラボ、あるいはファッションやスポーツとの連動などをたくさん手がけているのですが、今日は食に絞ってお話をしたいと思います。

日本の食が世界から注目を浴びている背景には、1にも2にもスターシェフの豪華絢爛さがあります。ミシュランがひとつのスタンダードとなっている食世界で正確な数字を把握しておりませんが、日本のスターシェフは三つ星だけでもフランスの倍ほどいるでしょうか。とにかく食の国日本は、3.11の前までは今後の輸出品目として最も伸びていく領域と言われておりました。

具体的に何がすごいのかといえば、まずは寿司です。アメリカではマドンナがマクロビオティックとともに健康的で強い女性の魅力的なイメージを定着させて以来、日本人の女性については綺麗で健康的というイメージが非常に強くなっていました。それから日本は長寿の国でもあると。そういったイメージからマクロビが大流行したんですね。ローフードも同様です。生のものを食べる文化として寿司が世界を席巻しているのは言うまでもありません。それから、焼き鳥、懐石、天ぷら、そして最近では炉端焼きと、さまざまなジャンルの和食を世界のセレブリティが食するようになった。これが人気を博している理由の一つです。

昭和の時代、日本人は海外のさまざまな文化を採り入れて、それを自分たちのものにしてきました。食の分野はファッションとともに最も進んだジャンルの一つではないかと思っています。今や世界で最もおいしいと言われているフレンチやイタリアンは日本で食べることができますよね。また、皆さんもシンガポールや香港に行かれたことがあればわかると思いますが、よく「日式洋食」と書いた看板を見かけますよね。これはつまり、もともとは欧米の料理であったものが日本のコンテンツとして認知されているということです。海外でチェーン展開されている日本食の例もあります。たとえばUKをはじめアジアやアメリカには日本にない『YO! Sushi』などの寿司チェーンもひしめいています。イギリスの『YO! Sushi』は韓国の方が経営しています。

ちなみに、全世界で3万軒とも4万軒とも、最近では5万軒とも言われる日本食レストランのうち、日本人が経営しているのはわずか10%にすぎません。ほとんどは主に韓国や中国人による経営ですね。あるいは現地の人が現地の解釈で和食を普及させているという店です。日本の食文化が一定の広がりが見せるドライバになっているわけですから、それ自体はよいことだと私は思っています。日本の調理方法を守らずに海外で軒を構えるのはけしからん、ということでもないと思います。ただ、現状で10%しか日本人がやっていないということは、逆に言えば日本で食産業従事者が海外で成長していける大きな可能性があるということです。

ヨーロッパでは『Wagamama』というチェーンもあります。行かれたことのある方はいらっしゃいますか? ロンドンやパリで…、もう、無茶苦茶まずいんですよ(会場笑)。ええ。ものすごくまずいです(笑)。とてもとても…、会場に関係者の方がいらしていたら本当に申し訳ありません。でもねえ、本当に我慢出来ないんですよ僕は(会場笑)。ただ『Wagamama』についてはご覧になると分かりますが、内装やペーパーといったクリエイティブがよいんですね。まあ現地の人たちは“わがまま”の意味も恐らくはご存じないと思いますが、いずれにせよ見栄えは少し格好いい。オペレーションもTシャツを着てクールにやっていたりして。実際のところ、あまり意味はないのですが、そういうパフォーマンス的な部分もうけているということです。ここ5年間ぐらいで一気に100店舗ぐらいに増えています。それほど成長性が高いマーケットということです。

それから、ラーメンは言うまでもありません。たとえば今は『味千ラーメン』というラーメン屋が中国を席巻しているのですが、こちは熊本の味千というラーメン屋が香港のベンチャー起業家と組んで展開しているチェーンです。現在の時価総額は数百億円ぐらいでしょうか、とにかくものすごい人気です。アジアではすでにラーメンが日本のコンテンツになっている。最近ではアメリカでも急速に広がっており、恐らくは寿司の市場と同規模になるのではないかと言われています。

そして先ほどお話しした洋食。最近はインドの方々もやっと「日本のカレーもカレーなんだ」と認めてきたようでして(会場笑)。インド人の方が「うめーじゃねーか、これなんていう料理だ」「カレーです」「…」と(会場笑)。「えー!?」みたいな話が昔はあったのですが、最近はなにやら「日式カレー」ということでインドの方も認知してくださっているということで、こちらも素晴らしいことだと思います。

梅澤:ちなみに同僚のインド人を六本木の『モティ』に連れて行ったら「The World’s Best Indian Restaurant!」と言っていました(会場笑)。

楠本:実際、『モティ』のクオリティは本当に高いですよね。あとはやはり山崎製パンはアジアでは最高級ブランドです。僕の友人も『ブレッドトーク』というパン屋さんのチェーンを中国で展開しているのですが、彼は「本当に日本のパンに学びたい」と言っています。日本のパン独特の柔らかいもちもちっとした食感がアジアでも大いにうけるのではないかと。山崎製パンさんは本当にアジアを席巻している状態です。

このほかにもランダムにご紹介しますと『サッポロポテト』や『かっぱえびせん』。カップラーメンも広く普及していますね。また、日本産ワインや日本酒といったアルコール類も非常に高い人気を誇っています。コシヒカリや和牛という言葉もグローバルスタンダードというか英語になってきました。彼らは和牛を‘Wagyu’と呼びます。そのように言葉として普及すると一般家庭にまで入ってきますから、クールジャパンというか日本の食文化が大きく世界に普及するきっかけになると思います。

ちなみにスペインのバルセロナから2時間ほどの場所に『エル・ブジ』という、1年先まで予約が取れないと言われる世界的な超人気レストランがあります(2011年7月30日に閉店)。そこのフェラン・アドリア料理長という料理界随一のグルメも日本食が大好きで「ゆずがすごい」とおっしゃっていたそうです。で、フェランさんが「ゆず」と言ったら皆が「ゆずは最高」と言い出すようになったという(会場笑)。

実は10年ほど前、すでに日本の農家や農林水産省の方々が大変な努力をしてゆずやポン酢を海外へ売り込もうとしていたんですね。でも当時は「いやいや、俺たちにもレモンがあるから」と話にならなかった。懸命に「レモンとゆずは違うんです」と言い続けても通じなかったんです。ところがフェランさんが好きと言ったら皆が「ゆず」と言い出して…、まあ食というものがいかに世の中の空気で受け取られ方が変わるかがよくわかる話です。ファッションにも似たようなところがあると思いますが。

このあたりは「どのよう海外へ打って出ていくのか」について、やはり文脈が必要になる事例として私は考えています。どんなふうにストーリーと絡めて伝えていくのか。ストーリーとともにファンを増やしていくようなアプローチがとても重要になるのかなと思います。農業の分野でも日本には、バイオマスを使ったコンポスト技術があります。こちらも輸出面では成長性の高い分野だと思っています。

食の周辺分野に潜む巨大マーケットでも戦おう(楠本)

楠本:さらに、最近は少々ワケのわからない感じのものも海外にいろいろと進出している状態ですね。回転寿司のコンベアを開発した金沢市の石野製作所という企業が一気に成長していったストーリーは皆さまもご存じと思いますが、“第二のコンベア企業”を目指してユニークなものが生まれています。

たとえば自動焼き鳥機。これはただただ廻っている機械ですね。ぐるっと廻っているあいだに焼けます。「いやいや、手で焼けばいいじゃないですか」と言われるかもしれません。しかも、機械があるのに最後の仕上げは人力なんです(会場笑)。しかしこれがシンガポールでバカ売れしていて、「自動焼き鳥機付き焼き鳥」なんて漢字で書かれた看板を出したお店があちこちにあるそうです。それと、自動チャーハン炒め機なんていうのもありますね。そんなふうにしてさまざま技術が開発されています。日本の製造メーカーも「食とともに海外へ出るんだ」という確信を持って取り組まれているようです。

また、学びの分野も成長性が大変高い領域です。服部栄養専門学校や辻調理師専門学校は言うまでもありません。ほかにも『東京すしアカデミー』という学校が新宿にあり、ここでは海外の方も寿司の握り方を学べます。現在は生徒の90数%が外国人だそうで、日本で寿司を習って帰国すると給料が倍になるとのことです。このような海外への広がりを考えると、学びの分野もまた大きな可能性を持つと思います。これをきちんとレバレッジにして、日本国内の観光にもつなげるというアプローチも有効なのではないかと思っています。

さらに今考えると、『料理の鉄人』というテレビ番組は非常によいアプローチをとっていたと思います。海外でも『Iron Chef』というタイトルで放送されていて、世界中で人気番組でした。『料理の鉄人』のようにエンタテインメントをはじめとして他の要素を絡めていくのは一つのポイントではないでしょうか。それで「海外へ打って出よう」という日本人の母集団が増えてくれたら、クールジャパンとしてもますます戦っていけるようになると思います。

そして最後になりますが「うま味」という、この独特な日本語の表現とともに広がっていく感覚について。「うま味」という4番目で終わらない5番目の味があるということで「五味」と表現される感性があります。もちろんこれは日本料理だけのものではありません。ただ、やはり昆布だしやかつおだしにおけるアミノ酸の抽出といったうま味成分に関する技術において、日本人は圧倒的に優れています。このあたりも世界で勝てるポイントにしていけるのではないかと。たとえば自然のうま味でソースをつくっているアリアケジャパンという会社があります。恐らくご存じの方は少ないと思いますが、本当にすごい会社です。世界中のソースをつくっていて、味の最も大きな決め手になる部分を担うということで、一部で「食のインテル」なんて呼ばれているようです(会場笑)。とりあえず、私からは以上になります。

日本にこれから必要なのは、「付加価値の高い産業」(加治)

梅澤:ありがとうございました。では続いて加治さんにお願いします。政府広報という立場でお考えのことを含め、クールジャパンの可能性をどのように見ているか、お聞かせください。

加治:よろしくお願い致します。最初に申しあげておきたいのですが、さきほどのセッションでサラリーマンの方が一名だけであったように、今回登壇するパネリストのなかで私が唯一の国家公務員でございます。ちなみに私はできるだけ主義主張が寄り添うような職場で働きたいなと常に思っています。これからオリンピックの話、日産のゼロ・エミッション戦略に関する話、そして国の話を致しますが、どれも公式見解だと思っていただいて結構です(会場笑)。

まず、オリンピック招致の前から私が感じていた問題意識をお話ししたいのですが、それはGT-Rという車との出会いから生まれます。私たち日産自動車は2007年10月24日、東京モーターショーでGT-Rという車を発表しました。この車は本当にすごい車で、価格は800万円なのですが世界一速い。そしてデザインはポルシェにもフェラーリにも似ておらず、そういった車種と並ぶと日本が薫る、そんな車です。GT-Rを見ていただくと、これはもうロボットですね、ガンダムなんです。それでありながら、たとえば竹の柱があるような場所がすごく似合って、和が薫る。もちろん最高のハイテクを駆使していて、しかもそれが800万円で購入できるというものでした。

そのようなすごいGT-Rですが、発表当時の自動車業界は不遇の時期で、東京モーターショーは日産ブースを除いて、ほとんどのブースで前回モーターショーより来場者が減少していました。欧米メーカーの役員も東京モーターショーに来ていない。その一方で、GT-Rの周りにはインドや中国の技術者がたくさん集まって技術を学ぼうとしていました。そのときに私が思ったのは、これからは中国やインドがものづくりの力を急速に伸ばしてくるなということでした。そうなると日本の産業はどうなるのか。自動車産業では日本の就労可能人口のうちおよそ8%にあたる450万人以上が働いています。そんな産業が競争力を失ってしまったらどうなるのかと思ったのが、問題意識の出発点でした。

そこでいろいろと考えた末に、「もっと付加価値の高い産業を日本につくらなければいけない」と私は考えるようになりました。それで2007年当時自動車関連では「電気自動車と太陽光発電の二つなら、日本も世界で戦い続けていけるのではないか」と思っていました。しかしリーダーシップが非常に育ちにくい国でそういった産業構造そのものを、果たして変えていけるのだろうかと、そんな悩みも持っていました。そんな折にたまたまオリンピック招致の話を伺ったんです。

もともとオリンピック招致は「2016年に何か目標を設定しよう」ということから始まりました。大きな目標を設定するのが不慣れな日本人でも、夏休みの宿題のように「2016年にオリンピックが来るからそれまでは皆で頑張ろうよ」とすれば、一所懸命働くのではないか、そこで日本人の素晴らしい力が世界に発信出来るのではないかと、石原慎太郎都知事が思われたわけです。そしてその動きに電気自動車と太陽光発電も入っていくという流れでした。これは大変素晴らしいことではないかと私は思いました。ですからそこで何かお手伝いしようと決めたわけです。

結果として、オリンピック招致は実現しなかったのですが、私自身はそのあと日産に戻って電気自動車の世界導入にかかわることになりました。ちなみに、電気自動車の開発にGOサインが下ったその日が、実は2007年10月でした。先ほど申しあげたGT-Rが世界中の自動車メーカーを驚愕させたそのとき、ルノーと日産は電気自動車の開発にGOサインを出したということです。そして翌2008年に日産は中期計画で「ルノーとともに電気自動車を含むいわゆるゼロエミッションでリーダーになる」と宣言しました。まあ、フォルクスワーゲンの社長やトヨタ自動車の社長は「まだ早い」と感じていたと思います。当時の日産は「ハイブリッドで出遅れたから少し焦っているんだね」といった評価でした。

しかしその一方で着々と開発は進んでいきました。そもそもバッテリーに関する素晴らしい技術があった。電気自動車ではバッテリーが非常に重要ですから、当然そのバッテリーを電気自動車に載せました。そして、ルノーとともに「複数車種をラインナップで出そう」ということでスタートしたのですが、じきに自動車をつくったぐらいで電気自動車の時代は来ないよねという話になりました。そこで「この素晴らしいバッテリーを再利用する会社をつくろう」ということになり、住友商事とともにバッテリーを再利用する会社をつくりました。

そのうちにさらに、「バッテリーは、充電出来ないといけない」ということで、今度は「CHAdeMO」という急速充電方法の規格を東京電力や三菱自動車とつくって、それを世界中に普及させようと考えました。それで充電にも詳しくなったため、今度は思い切って充電器もつくることにしました。そうこうしているうち、「このバッテリーを自宅などで蓄電池として再利用できないだろうか」ということになりました。現在、震災をうけて大変話題になっている使い方ですね。そこでスマートグリッドの研究もパナソニックや東芝と始めています。しかしそれらすべてやっていくためには、政府と話さなればいけないということで、アメリカ、UK、ポルトガル、そしてフランスの政府とも話をしました。

日産ではゴーンさんが先般、2016年までに150万台の電気自動車をつくることを発表しています。日本の自動車需要は現在340〜450万台ですが、2016年には世界中で150万台の電気自動車が走っているようにするという計画です。そのためには日本だけでつくっていても仕方がありません。アメリカ、ポルトガル、UK、そしてフランスにもバッテリー工場や自動車組み立て工場をつくっていくことになりました。このために日産とルノーは5000億円の投資を決めましたが、こうしたことができるのはゴーンさんを含めたマネジメント陣の若い力と度胸なのだと思います。しかし、それを実現したのは日本の技術です。我々はこの分野を国家の新成長戦略に入れてもらおうと思い、政府の国家戦略室へプレゼンテーションに行きました。それが去年の6月です。私自身はその延長線上として政府で仕事をすることになったわけです。

政府に入って思ったのは、先ほど梅澤さんも仰っていた通り、政府の人たちは本当に素晴らしい仕事を一所懸命やろうとしているということです。クールジャパンの試みについても政府が初めてひとつになって打ち出していこうということで、現在は着々と準備を進めています。普段は議論だけで終わってしまうのですが、今回はそれを実行しようとしている。これは恐らく、梅澤さん、楠本さん、そして吉川さんのお力の賜物でもあると思います。とにかく「進めようじゃないか」ということで、政府もかなり頑張っています。ですから皆さん、日本に心から自信を持ってくださいというのが、私からのメッセージです。

「掛け合わせ」「編集力」こそが、クールジャパンの源泉(楠本、吉川)

梅澤:ありがとうございました。ここまで聞いただけで大変な広がりがあって、すべてクールジャパンと言ってよいのかどうかも議論がわかれるところだと思います。ではここで、お三方へシンプルな問いかけです。ご自身の考える「クールジャパンのエッセンス」をどう表現されますか?まず楠本さん、いかがでしょう。

楠本:二つあります。ひとつは「マドンナからレディ・ガガへ」ということです(会場笑)。

梅澤:わかんないです(会場笑)。

楠本:わかんないですか(笑)。つまりですね、マドンナはものすごく強い女性の象徴ということなんです。しかし一方のレディ・ガガはどうか。ポストマドンナ的なことも言われていますが、実は彼女が震災後の日本に見せたのは非常に強烈な母性だったと思うんですよ。つまり、なにかこう…、森羅万象から感じとることのできる力というか、そういった母性のようなものが実は日本の強さというか、クールまたはクリエイティビティの源泉ではないかなと私は思っています。

それからもう一つ、要するに掛け算ですね。日本人は掛け算が得意だと私は思っています。洋食と和食を掛ける。ファッションと食を掛ける。音楽のクリエイターでもありファッションのクリエイターでもあるような個人の能力があって、しかもその掛け合わせが出来る人がたくさんいると思っています。ただ、会社や国がそうなっていない。縦割りなんです。非常にもったいないですよね。食の分野では「7人8脚」と表現しますが、農業、食品加工業、外食、シェフ…、さらにはクリエイターまで含めてひとつのチームをつくって掛け合わせをして、さらに食だけではなくファッションなども含めてやっていく。ルイ・ヴィトンがモエ ヘネシーと合併し、ファッション、ジュエリー、香水、化粧品、ワインなどの複数の事業分野でブランド展開するような掛け合わせを、企業または国としてやっていけば、掛け算が強みになるのではないかと思います。

梅澤:おっしゃる意味が良くわかりました。吉川さんはどのように表現しますか?

吉川:先ほども少し言いかけたのですが、恐らくは「編集力」の部分が強みになるのかなと思います。音楽で言えばアーティストとしてゼロからつくるというよりDJ的なところです。ファッションについても同様で、これほど多種多様なセレクトショップがひしめきあっているマーケットはほぼ日本だけと言っていいでしょう。

編集力のポイントになるのは、恐らく自分とは異なる文化をリスペクトするというか、認める感性だと私は思います。これはファッションだけでなく、クールジャパン全体で言えることだと思います。とにかく異なる文化を認めるというその感性が異なるものを採り入れる力にもなっていると思うんですよね。そして採り入れたのちどうするか。先ほど楠本さんのお話にもあったカレーやラーメンも、源流はよそにあったものですよね。まずはそのなかにあるよさを認める。そしてそこから、ファッション業界ならばセレクトショップで少し“ずらす”ようなスタイルをとります。ずらす幅がすごく大きくなるとまったく異なるものになってしまうし、そのまま転用すると単なるコピーになる。だから少し“ずらす”。そのセンスが重要なポイントかなと思います。

日本はその次にある課題に直面していると思います。異質なものを認めて採り入れて“ずらし”たら、もう一度外へ出すということです。これこそがクールジャパンに求められていることなのです。オリジナリティがあって“ずらし”のセンスから生まれたその価値で、今後は大きなマーケットを取らなくてはなりません。ただ、日本は今そこで壁にぶつかっている。いずれにせよ強みというのは“ずらし”の部分だと思います。

梅澤:なるほど。加治さんはいかがでしょうか。

加治:私は大丈夫です。お二人の仰る通りだと思います。

梅澤:それにしても「編集力」というのはまさにその通りですよね。音楽の領域でも、日本のアーティストで、世界市場で最も競争力があるのはDJですよね。そう考えるとたしかに、ゼロから何かを生み出すというよりは、さまざまな要素をうまくミックスし新しい価値を生み出すプロセスやセンスに、日本の強みがあるような気がします。

吉川:ですよね。たとえばファッション業界で働くことを目指している日本の若い子に将来希望する職種を訊いてみると、最も人気があるのはバイヤーです。もう一つがスタイリスト。スタイリストはまさに編集ですよね。つまり彼らの志向として「オリジナリティの高いものをつくりたい」というよりも「よいものを学んでそれを少し“ずらし”たい」というのがあるのです。それ自体が良いか悪いかという点ついては別の議論もあるとは思いますが、とにかくそんな志向があるということです。

震災後こそ、元気な日本をクールジャパンと絡めて発信すべき(加治)

梅澤:もうひとつ皆さんに質問したいのですが、3.11を受けて国のムードはずいぶん変わったのかもしれません。食産業も大きな打撃を受けましたし、現在は少しずつ戻ってきてはいますが、インバウンド観光も数ヶ月のあいだ鳴かず飛ばずの状態でした。そんな中で、クールジャパンと絡めて考えなければいけないこと、シフトしなければいけないこと、あるいは3.11以降の世界における日本の役割について、お考えはありますか。楠本さんはいかがでしょう。

楠本:私は大きな流れは変わっていないと思っています。変わっていないというか、「そっちに行こうよ」という方向性そのものは震災前からあったように思います。グローバルスタンダードの価値観ばかりを追いかけるのではなく、日本人らしいほうに‘Shift’する。その鍵になるものの一つが日本人らしく世界のさまざまなコンテンツを編集していく能力だと。ものづくりについても同じことが言えると思います。日本のよさを経済価値に置き換えることができたら、それがいわゆる「経世済民」になると思います。経済の語源ですよね。日本に元来備わっていたサスティナビリティに少し戻ろうよ、というメッセージが震災前、リーマンショック以降かもしれませんがあったのではないかと思います。

とにかく私たちは3.11からの復興を将来のプラスにつなげる動きにしなければいけないですし、震災は結果的には日本人を本来の流れに戻していく強烈な転換点になったのかなと思います。もっとモノをつくろう、編集していこう、あるいはクリエイティビティを生かそうといった日本の進むべき道は、実は源流として震災前からあった。その方向で私たちを覚醒させるような出来事となったのが3.11でもあった気がします。

梅澤:加治さんはいかがでしょう。政府広報として国内外でいろいろと試行錯誤されているかと思いますが、日本再生に向けた海外への発信のなかで、クールジャパンが果たす役割として考えている点はありますか?

加治:クールジャパンというのは、もともとあった日本の強いところを見直して、それを外に向けて積極的に出していこうという流れだと思います。そのなかで、今は少しだめなところがずいぶん出てきてしまっているというか、だめな塊とよい塊がある状態だと思います。ですからよい塊の発信をより加速させなければいけない。政府としてもクールジャパンと絡めながら、積極的に「日本は元気だ」ということを一刻でも早く世界へ発信していこうという動きになっています。

先日の有識者会議でも申しあげましたが、日本に対する世界の視線は震災の前と後でまったく違ってきています。今年1月に出席したダボス会議ではインドや中国がすごく目立っていて、日本の話はときどき出てくる程度でした。しかし3.11後の国際社会は「リスクとどのように向き合っていくのか」という点で、日本の動きに本当に大きな興味を持っています。もちろん国民の誠実な振る舞いに対しても非常に大きな尊敬と畏怖の念を抱いていました。しかしながら、その状況は長く続きません。だからこそ我々も何らかのきちんとした成果を一刻も早く世界へ示さなければいけないということです。政府内でもそういったコンセンサスがあります。

クリエイティビティだけでなく、「どう売り込むか」を考えること(吉川)

梅澤:わかりました。では、先ほどの吉川さんの問題提起に焦点を移しましょう。先ほど言われていたのは、認めて「採り入れ」、そして「ずらす」まではよいけれども、そのあとがうまくいっていないとのことでしたよね。このあたりについて、もう少しご説明いただけますか?

吉川:はい。どうアウトプットするかという話ですね。これは僕がずっとファッションビジネスを見て感じていた点です。クリエイティビティが高いかどうかということは、実はファッションビジネスの世界では、少し言葉は悪いのですが、どうでもいい話です。ファッションは個性ですから。どのクリエイティビティが高くてどのクリエイティビティが低いかではなく、結局はお客さまも多種多様で選んでいるものです。むしろ、アウトプットが同様に大切なのです。ところが日本のファッション界は「クリエイティビティがよいかどうか」とか、「クリエイティビティをどのように高めるか」という話だけで終わってしまっています。しかしアウトプットの段階ではマネジメントの話になる。良いか悪いかという議論でなく、自分たちが良いと信じたものをどのように世界市場へ売り込んで浸透させるか。それを考えていくのが大事なのです。

結論から言えば、これは経営者とお金の問題になると私は考えています。お金というのは、大きなお金を使って大きな市場を取りにいくという経営者による意思決定です。その点でさらに突っ込んで厳しく言えば、日本のファッションもしくはアパレル関連企業のなかで、私から見れば、9割ぐらいは「なくなってもよいな」と思えるような会社があるんですね。「9割ならばほとんどじゃないか」と驚かれるかと思います。これをさらに詳しく説明しますと、日本のファッションビジネスで問題のある企業は2つに分類出来ると思います。一つは儲かっていてキャッシュが手元にあったり、資金調達力はあったりするけれども、ものすごくロウギアの経営をしている企業。もう一つは新興企業ですね。自分たちが好きで信じている道をものすごいトップギアで走るけれども、いかんせんエンジンが小さいためにいつも止まってしまう。財務が悪化してしまい、あるところで途絶えてしまう企業です。

しかし本来であれば資金を使える会社が、もっと大胆な海外戦略をとらなければいけない。一方で財務に負担がある会社は思い切って再編をかけるということになるのですが、このスピードが遅いのです。いつも先延ばしにするからグローバル競争のなかでは遅れてしまうと思っています。阪神・淡路大震災の時期と重なりますが、私はもともと神戸でファッションビジネスをしていました。その頃すでに、関西や神戸だけでやっていても絶対に無理で「全国や世界市場に打って出ていかないと勝てない」と感じていました。

梅澤:『神戸コレクション』などをご担当されていましたよね。

吉川:そうです。地域ブランドではだめだと思いました。ですから3.11についても楠本さんが仰っていた通りで、もともとわかっていたことがさらに強く認識されたという話だと感じています。恐らく90年代に入ってから「攻めるところは攻める」といったマネジメントの力強い動きにおいて、日本は世界に遅れてしまったと思うのです。私は「20年ぐらい遅れている」と思っているので、すごく焦っています。

韓国では、分野横断的に国家戦略としてクールコリアを推し進めている(楠本)

梅澤:楠本さんはいかがでしょうか。何が課題で、これからどうしていくべきかという点は、食産業も同様ですか?

楠本:第二次大戦前まで日本人の人口は7000万人前後でした。それがわずか50年間のあいだで倍近くに膨れあがったわけです。それは中流階級が倍増したことで、世界に類をみないほど潤沢な内需マーケットが出来あがったということです。サービス産業は日本の全産業に占める割合にして70%台にまで膨れあがり、ほとんど内需に頼って伸びてきました。では、その内需がガタピシしてきたなかで、どのように海外へ打って出ていくべきなのか。潤沢な内需があったぶん衣食住のいわゆるライフスタイル産業は順調に伸びて、世界的にもそのクオリティは高い筈です。しかし今後は戦略を切り替えていかなければいけない。それならば具体的にどのように切り替えていけばよいのか。

今まではものすごい勢いで内需が伸びてきたぶん、私たちも衣食住の分野で伸びてきました。結果として、日本の外食で言えばオンリーワンの業態で年商1000億なんていう会社もたくさん出てきました。しかし、たとえばマキシムグループという香港島だけで事業を展開している会社は客単価にして100円から1万円オーバーまで、とにかく多様な業種をカバーしています。すべてが連動しているんです。日本だけなんですよ、衣食住産業の一業態で大きく伸ばすことが出来ていたのは。ただ、今はそれも行き詰まってきた。ではどうすればよいかということですよね。

まず、それぞれの業態でそれぞれの強みやノウハウを持った会社は衣食住関連にもたくさんあります。であれば、それらをつなげたうえでひとつのライフスタイルとして売っていくという視点が不可欠になると思います。しかし、その戦略を国家として描くことができていないのが一番の問題だと思います。それは先ほど吉川さんが仰っていた経営者の問題でもあると思います。内需から外への切り替えを崖っぷちに立ってやっていくようなリーダーが育つかどうかにかかっていると思います。

それともう一つ。これはクールコリアの例を添えたほうが恐らくはわかりやすいと思います。韓国はサムソンがリーダーシップをとって、少々乱暴な言い方をすれば、たとえば韓流ドラマをただで世界にばらまいたんです。それでアジア中に韓流が広がった。でも「結果的にホームエレクトロニクスが売れたらいいや」と考えています。すべてが連動しているわけです。昨年は李明博大統領が「食を伸ばすぞ」と、鶴の一声で食分野に18億円弱の予算をつけていますが、そういう強力なリーダーシップが韓国にはあるんです。衣食住だけでなく家電の領域さえすべて連動した国家戦略を持っているからこそ、クールコリアは強いのだと思います。シンガポールもしかりですね。

梅澤:今度は、その連動した大戦略を、我々がやらなければいけないということですね。

日本文化を下の世代に残していく教育は可能か(会場)

梅澤:ではこのあたりで、会場との対話の時間に移りたいと思います。ご質問がある方は挙手をお願いします。

会場:私は学生時代、建築学科に在籍しておりました。伊東豊雄さんの事務所で勉強していたのですが、デザインや感性の話になるとどうしても日本文化に意識が行ってしまいます。たとえば建築文化では「間(ま)」と言われる、たとえば縁側のような内と外のあいだが存在します。そんな曖昧さが、「日本文化ははっきりしない」と国際社会からも言われる理由です。しかしはっきりしないのが日本人であり、それがある意味では強みにもつながるのではないかと考えています。そういった文化的コンテクストのなかで育まれてきたクールジャパンの強みや感性は、私たちのような若い世代にも培われているのか、あるいはこれからも培われていくものなのか。私たちが日本文化を強みにしていくためにも、教育制度を含め下の世代に文化を残していく仕組みづくりが非常に重要と思っているのですが、この点についてどうお考えでしょうか。

会場:国家戦略としてのシナリオがまだない状況とはいえ、文化はそこに存在する日本的空間や経済活動を支える各種インフラのなかではじめて機能し得るものだと感じます。アジアをはじめとした世界へサービス業として展開していくとき、特にサービス要素の比重が高いものをどのようなステップで売ろうとイメージされているかをお伺いしたいと思います。

会場:クールジャパンの枠組みのなかで広告代理店に求めているものがあれば教えてください。

梅澤:ここまで3点、ご質問をいただきました。ひとつ目は、日本文化を次世代に伝えていく教育の必要性についての問題提起ですね。ふたつ目は、そもそも日本的経営の中で培われてきたサービス業をどのように海外展開していくか。そして3つ目は広告代理店に求める役割です。

楠本:では手短に。まず教育の問題は本当に仰る通りだと思います。まさに「間」とか、曖昧さが日本文化の鍵ですよね。で、そういった要素にはなんというか、よい面も悪い面もありますが、そこは「よいほうに変えましょう」ということだと思います。たとえば神道と仏教で合作にして、しかも12月24日には「メリークリスマス」と言ってしまうような日本だからこそ、「間」の文化も持てるのかなと感じています。ですから国家として歴史観をがちがちに固めるのでなく、文化のたおやかさやというかゆるやかさ、そういったものを伝える教育が必要になると感じています。

ただ、食の教育に関して言えば具体的に食の経営大学院の構想を実は進めているところです。これは現在、経済産業省と農林水産省とともに進めているものですが、アメリカにCIA(The Culinary Institute Of America)という“食のハーバード”と言われる学校があり、私はその日本版を絶対につくるべきだとクールジャパンの会議でも提案しています。「ファッションでもそんな学び舎が必要だよね」という話はありますね。

サービス産業はご指摘の通り大変難しいです。「これが日本のおもてなしだから」といってそのまま海外に移植して勝てるものではありません。ある意味サービスというのは最も現地化すべき要素かもしれないと思います。ただその一方で、日本における最高級のおもてなしを、これまた世界の超高級セレブが集まるような場所でもっと展開すればよいのにとも思うんですよね。そのようなフラッグシップがないから日本のおもてなしが世界に伝わらないという側面があるのではないかと。ですから、フラッグシップとなる場所を京都なり北海道にきちんとつくっていく。そのなかでおもてなしのスタンダードをつくり、それを世界に提示していくことが重要だと思っています。

加治:少し伺って良いですか? たとえばアマンリゾートやリッツカールトンのサービスは世界的にきちんと均一化されていますが、あれはどんな風にやっているんですか。そういった教育などが出来ているホテルがあれば、そこに学べるというか、逆に我々が彼らに期待するものというアプローチで日本のおもてなしをつくり込んでいけると思います。

梅澤:実は、サービスマネジメントやサービス業の戦略は、日本の経営教育ではないがしろにされてきたテーマだと思います。加治さんと同じような問題意識で、5年ほど前にサービスマネジメントの大家と言われている学者数人にお会いしたところ、全員准教授か助教授なんですよ。しかも当時は全員40歳ぐらいでした。それより上の世代の高名な先生方は、ほとんどが製造業の研究をしてきた人たちです。過去長いこと、サービス業の質を上げていくということに対して、アテンションが当ってこなかったんだと思います。

楠本:アメリカだとコーネル大学ですとか、そういったところが引っ張っていますよね。

加治:あとですね、その件で言うと自動車のデザインというは実は説明できるんです。つまり日産の各車で採用されたデザインについて、外国のクリエイターは言語化する作業から逃げない。「抽象的だから」ということで逃げずにきちんと説明出来るんです。「この線はこういう理由でこうなっている」と。それができなければ皆にデザインの必然性を説明できないわけですから。そんな中で、日本的な車のデザインというのを言語化し多様性あるマネジメントに説明しようという努力が行われました。そのアプローチと比べると隣の韓国における車のデザインは、「いかに世界で求められる車をうまくつくるか」というアプローチで開発されている。結果として日本の車はぎりぎり日本の文化を残すことができているんですね。

ですから先ほどのご質問に私からもお答えすると、デザインやクリエイティビティというものはある程度は言語化できるから、それを教育するような仕組みをつくっていかなければいけないということです。日産はそういう人たちのためにインターンシップを実施したり、デザインセンターでデザインを英語で教えたり、ということも始めています。もしかしたらファッションや食でも同じようなことはできるかもしれませんよね。

楠本:おっしゃる通りで、食も結局のところ、そういった言語化の努力をしてきていないだけなんですよね。「親方の背中を見て育て」と。たとえばそれがフレンチであれば、レシピをばっちりつくります。だからこそフランスは結果的にグローバルスタンダード戦略ができているという話でもあると思うのですが。

梅澤:ちなみにフランスの三ッ星レストランって、日本人のシェフが随分と活躍していますよね。

楠本:そうです。メインシェフがフランス人であったとしても、星を持っているレストランであればだいたい二〜三番手か、少なくとも四番手以内に日本人がいます。それほどクリエイティビティが素晴らしいわけです。そうした世界中に散らばっている叡智をきちんと国として結集させる。そして、この暗黙知を“見える化”してシステム化していく。これは本当に重要だと思います。

クールジャパンの枠組みの中で、広告代理店に期待するものは(会場)

梅澤:あと、広告代理店の役割についてはいかがでしょうか。

吉川:広告代理店に求めるもの…、すみません、ないです(会場笑)。なぜかというと私としてはどちらかと言えばパブリシティを中心に口コミマーケットでどう仕掛けるかを考えていますので。ですからファッションビジネスにおける代理店さんの役割を私としてはまだ見い出せていません。

梅澤:私もひとつ。日本の広告代理店の海外市場における努力不足で、日系消費財メーカーの海外展開が遅れた面はあると思います。海外のメガエージェンシーは、グローバル消費財メーカーの世界展開において重要なパートナーとなっているケースが多いです。でも日本の代理店は、少なくとも今まではそれができていなかった。

今から消費財メーカーが海外に出ていくとどうなるか。新興国攻略の戦略を立てた経験がない。市場のデータもない。チャネルとのコネクションもない。どんなクリエイティブが“刺さる”か、という知見ももちろんない。ないないづくしなんです。広告代理店がしっかり知見を蓄積していれば、メーカーにとってのスタートラインがある程度高くなるのですが、代理店も頼りないのですべてがゼロスタートになる。事業はサブスケールなうえにレイトカマーで、しかもすべて自分でやらなければいけないのが、日本の消費財メーカーの海外展開、特に新興国展開における実情です。ですから広告代理店に対しては、もう相当に遅いとは言うものの、今からでもよいので海外展開を本気でやってくださいと言いたいです。

吉川:そういったパートナーシップで言うと、ファッションであればモノをつくるところに総合商社を中心とした専門商社があって、ここがすごく機能していたから国内でアパレル産業が育ってきたという面があります。ただし海外展開、特に「中国へ」という話になると、商社の力は非常に弱くてインフラもないので乗っていけない。ですからそこは広告代理店の課題と似ているように思います。そのふたつが内向きのマーケットに特化してしまっているんです。商社の場合は「よいしょ」と腰を上げたとしてもマーケットでどう戦うかという小売の戦略で少々出遅れている感があると思います。

あと、先ほどのサービスについてですが、難しいとは思う反面、可能であるとも私は思っています。マニュアル化と仕組み化は絶対に必要ですが、サービスは概ね国の文化よりも各個企業体の考え方によってくると思いますので。マニュアル化の前に「こういう局面となったときにはどんな基準で物事を判断するか」といったポイントですね。日本企業はそこが少し弱いと私は感じています。ですからそこはリーダーシップが必要になるのかなと。これは決してワンマン経営にしてこうとかそういう話ではないのですが(笑)、サービスではそういった個別の企業で解決できるポイントがあると思います。

梅澤:ではそろそろ時間も迫ってきましたので、加治さんにもう一度、政府としてのグランドデザインについてお話しいただけないでしょうか。

加治:つい2週間ほど前、国際的な広告代理店の方にお願いしてアジアにおける風評被害への対策についてアクションを起こしています。それは恐らく今年の夏には具体的動きになりますので、そこは政府としてもものすごいスピードで進めている状況であることをご理解ください。またクールジャパンについてもすでに大変優秀なクリエイティブディレクターにアポイントをとってどんどん進んでいます。とにかく今後もさまざまな省庁の役割をとりまとめて、梅澤さんのグループとも連携しながら進めていきたいと思っています。

あと、先ほどのご質問で「戦略がない」といったお話がありましたけれども、政府の『新成長戦略』を読まれた方はこのなかでどれぐらいいらっしゃいますか?(挙手少なめ) もう少し読んでいただけるとよいですよね。国家戦略室が苦労してつくったものですから。そこでグリーンイノベーションやライフイノベーションといった戦略も示してあります。問題はそこではなく、それを実行する人が足りないということなんですよ。

梅澤:あるいはそれを実行できる組織がないと。

加治:そうですね。国際広報室は去年の8月、官房副長官の非常に大きな情熱でつくられたのですが「そこに入る人材が政府にはなかなかいない」ということで、私は一般公募で入りました。皆さまにはそういった意味で豊田佐吉の「障子を開けよ、外は広いぞ」という言葉通り、ぜひとも外に打って出ていただきたいと思います。

梅澤:ありがとうございます。では楠本さんからも、最後にひと言お願いします。

楠本:実はオイシックスの高島さんと二人で社団法人をつくりました。3.11をうけて「民間で出来ることからはじめよう」ということで設立した団体です。これは生産者と企業側のマッチングを行う場所というか、プラットフォームをつくろうというものです。先ほど7人8脚と申しましたが、生産者はつくるひとですよね。その生産者に売る仕事で頑張れと言っても、それは無理なんです。生産を一所懸命やっている方々に対応し、我々は売るための知恵を結集していく。それによって中間搾取的なものを薄くしながら、得意技を生かしたところで国内消費を促し、同時に海外でのブランディングも促す。そういったことができると思っています。

今回設立した社団法人は「東北からそういったプラットフォームをつくろう」というものですが、実はこれは日本全体の問題でもあります。東北地方を一つの文脈としながらも、九州でも中国・四国地方でも沖縄でも地域ブランドをつくっていく。そんなプラットフォームに関する一つの事例になればいいなと思いながらはじめています。

梅澤:ありがとうございました。このセッションを通じて、いろいろと重要な論点が出てきました。最後におさらいとして3点、我々チームが今後進めていきたいと思っているポイントを申しあげます。

1点目は、カテゴリーの一つひとつが個々に頑張るのではなく、つなげて束になり、ライフスタイル全体として発信していくこと。それで結果的に商材が売れていき、先ほど議論した大きな展開シナリオも見えてくるのかなと思います。2点目は、クールジャパンの発信力を高めるためにも、国内に魅力的な集積をつくることです。国内のクリエイター、それから海外のクリエイターが集まり、一緒になってコンテンツの質を高めていくR&D拠点ですね。世界に対してフラッグシップとなるようなものを、つくっていきたいと思います。そして3点目は吉川さんから指摘のあった、経営と資金の問題です。特に、海外展開をリードできる経営人材の不足は、文化産業全般に共通する課題だと思います。ちなみにこの点については、日本経済のセッションでコラーキャピタルの水野弘道さんが仰っていた「人材の流動化」がカギになるかも知れません。

具体的には、少々乱暴かもしれませんが、自動車や電機産業でグローバル化の先頭に立ってきた経営人材の何割かが、文化産業へ移ってもらえればと思います。そのような人材流動化を通じて、彼らの持っているグローバル化のノウハウ、オペレーションの形式知化ノウハウを文化産業に取り込めないか、という問題提起です。そんなことを実現できるような仕掛けも考えたいと、今日のセッションを聞きながら改めて思った次第です。

それでは改めて、パネリストのお三方に盛大な拍手をお願い致します。本当にありがとうございました(会場拍手)。

名言

PAGE
TOP