三菱ケミカル・小林喜光氏×衆議院議員・西村康稔氏×ロート製薬・山田邦雄氏「新興国ビジネスの理想と現実」 

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欧米中心から、多極化へ——消費者、資本の流れは変化した(程)

程:皆さま今日はよろしくお願いいたします。本セッションでは新興国がテーマとなりますが、実際には欧米中心から多極化していく世界の変化についても我々は認識する必要があるのではないかと考えております。「多極化ではなく無極化ではないか」というとらえ方もありますが、いずれにせよ大きなトレンドとして新しい消費者が誕生しており、資本の流れも大きく変わってきています。米国がどんどんお金を刷って、世界に新しいお金の潮流が生まれていますよね。そして、そのお金の向かう先で資源やサステナビリティの問題も同時に発生しており、我々はこれも解決していかなければいけないと考えています。

最近では新興国でも様々なイノベーションが生まれています。たとえば新興国でつくった部品が逆に先進国へ入ってきたりしています。リバースイノベーションということで品質もしっかりしており、コストは先進国がつくったものの4分の1とか5分の1、そんな実態もある訳です。あるいは人材の問題ですね。後ほど議論にもなると思いますが、優秀な人材をうまく採用し、どのように育てながら、リーダーにしていくか、そんなことも重要になってきているのではないかと思っております。いずれにしても現在はエジプトの方で様々政変も起きています。高い変動性、ボラティリティの時代になっていると言えるのではないでしょうか。

世界における所得別の人口ピラミッドを見てみますと、まず世界人口は来年には70億人に達すると言われています。その中でピラミッドのボトムが40億人強です。一方、年間所得3000ドル以上となる新興中流階級も大きく増えています。インドネシアなどはその典型例ですね。

また国別の人口構成を見てみますと、日本の平均年齢は42歳、インドは25歳で中国は32歳です。ピラミッドとしてはインドが非常にきれいな形をしている一方で、中国は早晩、日本のようにいびつなピラミッドになっていくということが現状では見えています。また、中国にフォーカスしますと、ミドルクラスが非常に大きな家計消費のエンジンになっていくということも明らかです。一人当たりGDPの伸び率についても中国がトップで、これから2010年から2030年までに2.27倍になるとされています。ただ、気になるのはその中国でも生産人口が今後はマイナスになっていくという点ですね。生産人口がこれから増えるのは、インド、インドネシア、メキシコ、ブラジルなどです。サウジアラビアも人口そのものは少ないのですが、生産人口が増えていくとされています。

こうした情勢の中で、今日は3人の方々にパネリストとして参加していただくこととなりました。まず小林さんにはBtoBという視点で新興国ビジネスにおける勘所などについてお伺いしたいと思っています。また、山田さんにはBtoCの部分について、アフリカにも進出されているとのことですので、そういった視点を中心にお話しいただきたいと考えております。そして、西村さんにはそれらをすべて含め、全体的に政府が果たす役割、そんな視座からお話しいただけたらと思っています。

まずは、自己紹介を兼ねて一人4〜5分ほど、現在、どういった形で新興国と関係を持っていらっしゃるかという部分からお話しください。それでは小林さんから、お願いいたします。

新興国ビジネスでは、ノウハウをいかにお金に換えていくかが重要(小林

小林:よろしくお願いいたします。まず簡単なご紹介として、どういった新興国ビジネスを展開しているかをお話ししたいと思います。三菱ケミカルホールディングスは持ち株会社です。その下でオペレーションしている事業会社が、三菱化学、田辺三菱製薬、三菱樹脂、そして三菱レイヨンの4社になります。4社を合わせて今期は売上高が3兆2000億円、営業利益が2000億円強になると予測しています。海外での売上比率は現地で生産しているものに輸出分を加えて33%、国内の従業員比率は77%で、現在は海外に1万人強の従業員がいます。私自身は研究開発の出身で石油化学の触媒を専門としておりました。その後光ディスクの研究に10年間携わった後、光ディスクとハードディスクの事業を担当し、CTOを経て、4年前、社長に就任いたしました。

当グループが現在、新興国でどんなビジネスをしているかについてお話しします。最近では代表的なものとして7つありますが、一つはポリエチレンテレフタレートの原料になりますテレフタル酸で、グローバルに展開し、4000億円程度の売上があります。本事業については2009年に本社機能をシンガポールに持っていき、国内の松山工場は昨年12月にクローズしました。円高等々含めて、いろいろありますので、手遅れならないうちにクローズしようということです。現在、主力は15年前に進出を検討し始めたインド、そして3年前に生産を始めた中国です。

次に記録メディアで、B to Cです。記録メディアに関しては、日本での生産を一切止めて、2000年初頭から台湾とインドに製造を委託しています。当時、業界では「どうして台湾とインドに技術を出すのか」というお話もありました。しかし、自分たちがしなくてもいずれ誰かがしてしまうだろうと考え、国内での製造は早期に打ち切り、研究開発、さらにはブランディングと言いますかマーケティングだけを日本、あるいはグローバルに欧州や米国ですることにしました。製造そのものからは一切撤退して、シンガポールに研究開発の試作工場を持つというビジネスモデルに変えています。

自動車部品用途については、お客様の近くでものをつくろうという原則に基づいて、ポリプロピレンコンパウンドをアメリカやタイ、それから、中国とインドでつくっています。次にポリカーボネートは、もともとは日本と韓国で始めたのですが、今年の6月に中国で生産を開始します。シノペックという非常に大きな中国企業と50:50の出資比率で合弁会社を設立いたしました。さらにポリエステルフイルムですが、もとは日本と米国、そしてドイツで生産していたものを十数年前にインドネシアでも生産を始めました。加えて2013年に250億の投資をして、中国へ持って行きます。

それから、三菱レイヨンがルーサイトという欧米の会社を買収しています。これについては「万遍なくグローバルな展開」を目指して、現在は中国とサウジアラビアで、原料と立地も踏まえつつ準備をしているところです。この他には製薬があります。製薬会社は皆、海外での売上高が50%以上という状況ですが、田辺三菱製薬はそれが6.9%しかありません。ですから、インドのジェネリックを含めて今後に向けた大きな課題だと考えています。

新興国のビジネスという話に戻ります。のちほど議論にもなるかと思いますが、やはり許認可の部分で非常に時間と労力がかかりますから、それをいかにうまく進めるかがポイントになると思います。ちなみに安価で良質な労働力という点をポイントに挙げる方は多いと思うのですが、現在は意外なことに建設費などが非常に上がってきている状況があるため、我々としては、むしろ石油化学であれば大きなコンビナートに立地できるといったコストメリットの方が大きいのではないかと感じています。あとは、やはりどのようにコラボしていくかという点、そして知財とロイヤリティです。日本では一般的な議論として「標準的な部分で知財を押さえたら事業もうまく進む」という見方が多いと思います。しかし私も担当したことのある光ディスクなどではもうフェイク品が半分以上になって、これがどうやっても抑えられません。ですから知財を押さえるよりもノウハウをいかにお金に換えていくかが重要になるのではないかと思います。商品寿命が短くなっているということもあり、今はなかなかのんびり標準化や知財、あるいは特許について時間と労力をかけるフェーズでもないだろうと思っています。とりあえず私からは以上です。

程:ありがとうございます。では西村さん、お願いいたします。

政府の果たす役割、事業をすすめるスピード感が課題となる(西村)

西村:西村です。もともと経済産業省に14年在籍し、ベンチャー支援や資源エネルギーを担当していました。また、環境ではCO2に関連した気候変動問題に関して、最初の段階から交渉などをしていた経験もあります。その頃から様々な海外案件を手掛けていたのですが、米国留学時代は南米やアフリカを一人で廻ったりもしており、そのとき以来、新興国に魅せられています。

現在はインド、アフリカ、ペルー、ボリビアで、各国の議員連盟の事務局長などもしています。去年と一昨年は選挙が続いたのでなかなか行けなかったのですが、通常は年間60日ぐらい海外に行っています。去年もインドに3回、中国に3回、そしてアフリカと中東も廻ってきました。どの国もいろいろと変化が激しく、人とのつながりも重要ですから、海外には定期的に行くよう心がけています。

私が最近取り組んでいる事案としてはインドとの交渉があります。インドには中国から通信機器がものすごい勢いで輸出されています。当然、需要があるからですね。ところが、その機器の中に盗聴器が仕掛けられていたりスパイウェアが入っていたりしました。インド側が怒って、中国からの輸出を禁止し、様々な規制をかけますと、日本メーカーのものも規制に引っかかってしまい、日本からも輸出できなくなるということになりました。それでインド側のIT担当大臣と直接交渉などをしています。

そういった交渉の席で思うのですが、日本メーカーも、「今は輸出という形ですが将来はインドでつくります」ぐらいのことを言えばいいんですよね。ところが大手メーカーの方はなかなかそこまでの口上が使えないので、インド側に「そんなことを言うのなら中国と一緒で、どうせ輸出が増えるのだから」と言われてしまいます。日本は悪いこともしていないのに「規制するぞ」と言われてしまうのです。

あとはボリビアでのリチウム開発です。ウユニ湖というところが世界最大の埋蔵量を有し、これについてはボリビア大統領と3回ほど交渉しました。現在ではまとまったのですが、当初は日本から2つの商社が行って、両者ともに「開発を許可してくれ」と争っていました。先方としても「日本政府がどちらか決めてくれ」ということになりますよね。ところが政府としてはどちらかの商社に肩入れをするというのができません。同じようなことは原子力でも電力でも起きています。日本から何社も行ってばらばらに競争するのです。モンゴルでも同様のケースがありました。

ボリビアの場合は二つの商社が集まってコンソーシアムをつくることになったのでよかったのですが、モンゴルでは結局、ばらばらで入札することになりそうです。海外でインフラなどのビジネスをとるのであれば政府が中心になるべきときが必ず出てきます。日本の強みは民間の魅力でもありますから、政府があまり前にしゃしゃり出るなという側面はもちろんあるでしょう。しかし国家資本主義的な政策で戦っている他国に対抗する必要は現実問題としてあるため、やはり政府が出て行かなければいけない場面はあります。こうした部分の仕組みをどうつくるかが、大きな課題だと思います。

それから途上国、特に中国とインドでは様々なM&Aの話もあがりますが、そこで日本企業の判断が遅いと感じるときはありますね。なかなかリスクをとってくれず、少々逡巡している間に他の欧米企業が入ってきたりします。この問題については個別名をあげるのは控えます。もちろん政府あるいは我々にスピード感がないということはあるでしょう。ただ、企業の方にもスピード感がありません。これからは官民ともにどうやってスピードを上げていくかが焦点となります。ネットの時代でもありますし、早いもの勝ちの世界になっている以上、この点をどうするかが非常に大きな課題だと思います。

そして最後になりますが、やはり私もTPPはやらなければいけないと考えております。自民党内でも様々な議論がありますし、民主党政権の中でも議論はあると思います。しかしこれは絶対にやらなければいけない。農業体制は別途に構築を考えるにしても、進めるべきです。一番重要なのは先進国が入ることです。米国もオーストラリアも日本もシンガポールも入るのです。「そこで先進国のルールを作りましょう」というのは、釈迦に説法だと思いますが、とにかくそこで投資を保護し、知財を保護し、貿易の手続きやビザに関するルールをつくっていくのです。こうした先進国にとって当たり前となるルールをつくって、それを中国・ロシア・韓国・インドなどに遵守するよう突きつけていかなければいけないのだと思います。日本が入らないということはもうあり得ません。

消費財を中心にして日常生活を楽しむ日本の文化を、アジアにも展開する(山田)

程:ありがとうございます。それでは山田さん、お願いできますでしょうか。

山田:ロート製薬の山田です。お2人のお話に比べるとずいぶん等身大の話になり、「どこに接点があるのか」ということで少しこの先を心配しております(笑)。まずは当社の事例という形で少々お話をさせてください。

ロート製薬と言えばだいたいはご存知の通り、鳩が飛ぶCMとか、『クイズダービー』というテレビ番組で知られている会社です(会場笑)。この点では日本国民の皆さまも99%ぐらいがご存知で非常に知名度は高いのですが、当社は今年で創業110年の企業です。ただ、そのうちの90年ぐらいは本当にドメスティックな状態が続いていました。いわゆる古い産業の保守的な、実際には製薬業界の中で見ると保守的ではなかったのですが、まとめて表現すると「非常に普通の会社」でした。

当社で国際化の動きが始まったきっかけは、ある米国企業の買収です。我々は現在、「メンソレータム」という塗り薬やいろいろなハンドクリームを取り扱っておりますが、これはもともと、米国企業の製品でした。それまでも様々なライセンスなどは扱っていたのですが、この会社を買わざるを得なくなったというのが大きなきっかけです。当時は年商の半分近くというような大きな金額です。買ってはみたものの、どのように経営したらよいかがまったくわからなかったのです。買ってから「ずいぶんなものを買っちゃったなあ」と(会場笑)。それで売上も年々下がっていくし、人材も流出するし、当時は国際的な人材もいなかったので、「もうどうするんや」という状態になっていたのが1989年とか1990年の頃です。国内がバブルの絶頂期だった時期ですね。それで「なんとかしなければいかん」というのがまず一つありました。

もう一つは国際情勢です。その頃は冷戦が終わって中国が改革開放を言い出した時期です。ベトナムもドイモイ政策と言っていましたし、「何か世界が変わるぞ」という予感はありました。ただ、その一方で国際市場を見ていますと日本車と日本の電機製品は溢れているのですが、日本の消費財なんて一つもないですよね。これも情けないし、「なんとかならないかな」と。「それならうちでやってみたらいいじゃないか」ということも国際化のきっかけになりました。

一つ幸いだったことがあります。どういうことかと言うと、買収したメンソレータムの会社は規模こそ小さいのですが、世界中に拠点がたくさんありました。たとえば南アフリカにも会社がありました。それにアジアでは香港を中心に長年やっていましたので、「そういうところでもう少し何かやろうよ」と。そんな流れで広げていったということです。

ですから「日本が停滞するから海外へ」というアプローチではなかったし、ある意味でものすごく立派なビジネスプランがあったわけでもないのです。話が少し逸れますが、当社の場合はいわゆる中長期計画がありません。そういう堅苦しいのは嫌いなので(会場笑)。とにかく「数字を達成するぞ」とか、そういうのはまったくありません。なんとなく皆で「こっちへ行こう」みたいな感じですね。海外進出もそんなふうに始めました。

ただ一つ、手応えを感じていたことがあります。当時は‘Japan as No.1’なんて言われていたぐらいですよね。やはり日本という国を考えてみると、消費文化が非常に発達していました。これは元をたどれば米国の消費文化が日本に入ってきて、日本なりのアレンジをしながら大変盛んになっていったということです。消費をすることが国民にとって一番の楽しみであったわけですね。それで、ポリティカルなものには興味がないけれども、消費財を中心にして日常生活を楽しむ文化はきちんと醸成されていて、それが日本の大きな魅力でもあると思っていました。ですからそれを大きな「網」でアジアに持っていこうと、戦略としてはそういったところがありました。

まずは中国ですが、香港のスタッフが中山というところに進出しました。私たちの場合、「向こうは向こう、日本は日本」ということで、早い段階で現地に工場をつくり生産を行いました。当然ですが、マーケティングや販売もすべて現地で行っています。一方でベトナムに拠点はなかったのですが、社内で30過ぎぐらいの人材が一人、「やりたい」と手を挙げましたので、「それならあんた行って、会社をつくってきて」と。彼がイチから人を集めながら10年ぐらいかけて、今では超優良企業になっています。その他にもインドネシアやタイにいくつか拠点を設けています。

ですから香港ルートで中国本土へ行ったことと、ベトナムというのが当社では二つの核になります。そして「少し遅れたかな」と言いつつ、昨年、インドに出ていったところです。「ついでにバングラデシュも行っとこうか?」ということで(会場笑)、そちらでも少し始めたという状況ですね。

のちほど話すことがなくなってもいけないのでこの辺にしておきたいところですが(会場笑)、あと一つだけお話します。我々として「ここが面白かったな」と感じているのは、立ち上げ当初、中心となってくれたスタッフが30歳代前半ぐらいというケースが非常に多かったです。香港でトップをやっているのは女性ですが、彼女も立ち上げ当時は34〜35歳ぐらいだったと思います。そんな風にして30代半ばのエネルギーある人が頑張ってくれたわけです。政府の支援も何もない状況で、何も分からないけれども、とにかく現地でこつこつとやってきました。そうしていたらだんだんと芽が出てきたということですね。

それから、可能な限り独自でやっています。パートナー企業と組まなければといけないというような向きもありますし、当初はインドネシアでパートナーシップを組んでいました。ただ、実際のところこういったパートナーとの関係づくりというのは非常に難しいのです。それならば、許されるのであれば独自で行こうという方針でした。やるのであれば最初から現地で工場を建て、自分たちでつくって現地へ売っていこうとしました。

また、これは必ずしもすべての会社に当てはまることではないのですが、当社ではスタッフが非常に長く勤めてくれています。香港でもベトナムも立ち上げ当初は3人程度で事務所をやっており、たとえばその一人がマーケティングの責任者になっているとか、そういう展開ですね。ですから企業へのコミットというのはとても強かったと言えます。当然ながら文化が違うわけですし、若干の人材流動性はありました。しかしそれでも、大きな意味では日本的価値観というものがあった。私たちが大切だと思うことを理解して、同じようにやってくれる人たちというのは現地にもたくさんいました。ですから結果としてはやはり共通の文化と言いますか、それぞれの会社が持つ「味」のような部分を出していければいいのかなと思っています。私からのお話はそんなところになります。

BRICS、MENA、VISTA、地域のビジネス戦略ではどのような優先順位をつけるか(程)

程:一人4〜5分ぐらいでというお話でしたが、皆さまにそのルールを破っていただきましたので、それぞれキャッチアップしていきたいと思います(笑)。最初のテーマで前提として考えたいのは、各戦略に優先順位をつけないといけないのではないかと思える点です。最近では南アフリカの大文字‘S’をつけてBRICS、アフリカや中近東といったMENA。あとはベトナムやトルコやアルゼンチンといったVISTAなど、こういった地域のビジネス戦略ではどのような優先順位をつけていくべきなのでしょうか。事業規模や事業領域も違いますから小林さんのところと山田さんのところでは視点も異なってくるとは思いますが、リソースをかける優先順位などについて何かお考えがありましたらそれぞれお聞かせ願えないでしょうか。

小林:どちらかと言うとコモディティはインドと中国、そして油はアサウジアラビアということになると思いますね。ただ、光ディスクなどの消費財や製薬系はまた状況も違ってくるとは思います。こちらはまさに万遍なくという感じですね。

ちなみに経済理論では、「距離が近いほど経済が活性化する」という考え方があるそうです。その意味では日本の近くにこれほど大きな近隣アジアのマーケットが広がっているわけですよね。日本はせいぜい1億ですが、近場には十数億もの市場がある。これは活用せざるを得ないですよね。ですからやはり距離の近いところから攻めていくのです。当然、韓国や台湾も今まで通りやっていきますから、優先順位としてはそんなところになると思います。

程:山田さんはいかがでしょうか。戦略的にはやっていないということでしたが、実際にはすごく考えていらっしゃるのではないですか?

山田:私たちの場合はやはり消費財ですから、その国の方々がどんなものに関心があり、どんなものを求めているか。これについては考慮しなければいけませんよね。そういう意味ではアジア人としての共通点を持っているのではないかと思います。それがビジネスでも非常に効いたと思いますね。ですから今までは優先すべき地域として、明らかに東と南のアジアがありました。

ただ、それだけでもないわけです。我々の場合は規模の経済というよりも、どちらかと言うとイチから種を撒く方向でやってきましたから、今後はもう少し種をたくさん撒こうかなということで、インドにも出ているわけですね。アフリカも南アフリカから出発して、今後はもう少しまん中の方へ出たいなと思っています。種をたくさん撒いて、そして良質な土壌に当たって花が咲いていくのであればそれが成果と言えますし、だめなものはだめで、「ちょっと放っておこうか」という感じです。これからもどんどんグローバル化で垣根は下がっていく。それならとにかく小さくてもよいから、トライはたくさんしたほうがよいのではないかなと我々は思っています。もちろん事業内容にもよってきますが、とりあえずコンシューマ領域では「小さく出て面で広げていく」といったアプローチが1つには考えられるのではないかなという気がしています。

程:ありがとうございます。恐らくは国としてもいろいろと優先順位をつけなければいけませんよね。距離的には遠いアフリカやブラジルへのアプローチもあると思いますが、その辺は政治家としてのお立場でどういった優先順位で付き合っていけばよいか、西村さんのお考えを少しお聞かせいただけないでしょうか。

西村:業種によってもターゲットによっても違いますから一概には言えないと思いますが、小林さんのお話にあった通り、アジアとの近さは将来に向けた成長力の源泉になりますよね。ですから、まずなんと言ってもアジアの成長を取り込むというアプローチは欠かせなくなると思います。

その際は誰も行っていないところへ行くことで強みにするという考え方があると思います。インドのコルカタにも三菱化学さんとスズキさんぐらいしかいなかった時期がありました。スズキの鈴木修会長は全取締役が反対したにも関わらずインドに行くと決断されましたが、結果として現在は5割のシェアをインド国内で持ち続けておられます。そんなふうにして誰も行かないときに行くのは大事なことで、いかにリスクをとることができるかだと思います。

バングラデシュについては山田さんからもお話をいただきましたが、ユニクロも現地で委託工場を動かしていますよね。彼らも誰も行かなかった時代に行っています。今ではもう繊維業界がバングラデシュブームみたいなことになって、東レさんまで現地に工場をつくりました。そういう意味でも最初に行くリスクをとることでハイリターンが生まれるケースは必ずあると思います。

あと、中国については国としてのリスクがよく指摘されますが、経済関係で言えば日本との相互依存は非常に深い。経済制裁のようなことをお互いにやり続けることはあり得ないと思います。レアアースについては日本への輸出を止めましたが、結局のところ、中国からレアアースを輸入し、それで日本の中小企業が微細加工を行って研磨剤などをつくるわけです。そして今度は部品を中国のパソコン工場や自動車工場に日本から輸出しますので、レアアースが止まれば日本からの部品輸出も止まる。結局、中国の工場が止まってしまうことになります。尖閣で事件があってからは私もたびたび中国へ説明に行きました。政府もやっていると思いますが、これはもう相互依存ですからすべてを止めるということはなかなかないでしょう。他のアジア諸国とも同様の相互関係が築かれつつあります。

他方、「もう少し遠い国に目を向けてくれたらもっとチャンスがあるなあ」と思うのは中南米ですよね。メキシコだけでASEAN10カ国分の経済規模があります。ブラジルを含めて南米には直行便も出ていないし距離もありますが、親日的な国家が多いですし資源もあります。日本とは安定的な関係をつくっていけるというところに目を向け、そこで新しい市場を開発していくということは非常に大事だと思っています。

グローバルで戦ってなんぼで、国内シェアは微々たるもの。公正取引委員会はマインドを変えてほしい(小林)

程:ありがとうございます。ではここで少し話を変えてみましょう。先ほど少し出ましたが、国の役割について。企業として何をやって欲しいか。また、国として企業にこういうことを期待する。そういった両者の思いとしては現状で多少の齟齬もあるように思えますが、まずは山田さんのからお聞かせください。国に何を期待していますか? あまりなさそうな気もしますが(会場笑)。

山田:今のところはないと言えばないのですが(会場笑)、たとえば当社であれば現時点で小さなオペレーションが南米にあります。南米はやはり今までのアジア方式では難しい面もあります。M&Aといったことも考えないといけないだろうとか、アジアで成功していた方法がこれからも通用するとは限らない。そこで我々の自助努力にプラスして日本国としての動きがあれば、これはもうマイナスには絶対ならないと思います。

たとえば社員が行くにしても、そもそも「ラテンで暮らしやすいか」とか「子どもを育てることができるか」と、いろいろ不安なことがあります。そこはハードルになるのではないでしょうか。一企業による草の根努力でどうにかできる領域でもないですし、仮に「子どもたちに日本の教育を受けさせたい」ということであれば、これはすべての日本企業で共通の願いになるでしょうから。そういった面で少し変わって欲しいという要望はあります。

程:小林さんはいかがでしょうか。

小林:直接的には関係ないのですが、やはり公正取引委員会のマインドをまず切り替えていただきたい。グローバルで戦ってなんぼであって、国内のシェアなんて微々たるものです。新日本製鉄さんと住友金属工業さんの合併というエポックもありましたので、これを機に今後はだいぶ変わっていくのではないかと期待しています。それが一つですね。

あとは国際分業における標準化などについて、産官学含めた形でもう少しオープンに交渉できるような場を積極的につくってもらいたいと感じています。武器輸出の件もそうですが、たとえばカーボンファイバーは、ある一定程度の国以外には出していけないという状況ですが、我々が出さなくても台湾勢なり欧州勢が出してしまうわけです。ですから、そういう面を踏まえてもう少しオープンにしていただければと思います。国として自分で自分に足枷をはめて動けなくしているのではないかという部分がかなりあるような気がしています。

程:西村さん、たくさんありましたがいかがでしょうか。公取、産官学のオープンネス、あとは武器輸出の件ですとかはどうでしょうか。

西村:はい。まずは公取ですが、日本の公取にも大変問題がありますね。今回のことをきっかけに法律改正ということで我々自民党からも独禁法の改正案を提出したいと考えています。もう1つの問題は、この間パナソニックが三洋電機を買収したことに関係しています。そのときに中国の公取が、ハイブリッド車に使うニッケル水素電池を問題にしてきました。パナと三洋のシェアを合わせると市場の独占につながると言うのです。これも非常に大きな問題になりました。要するに世界の中でのハーモナイゼーションができていない。米国も欧州もこの買収について何も文句を言ってこなかったのに中国の公取だけがニッケル水素を売れと言ってきたのです。「なぜこれに従わなければいけないのか」というのはありましたが、いかんせん中国で商売ができなくなりますので、結果的にはパナソニックとしてもニッケル水素電池事業は中国の企業へ売ることになりました。

そんなこともありましたので、とにかく日本国内における公取の体質、あるいは独禁法の問題については国際的にハーモナイゼーションさせないといけません。そして新興国にもルールをきちんと守らせないといけないのです。

あとは様々な規制についてですが、まず武器輸出三原則については自民党の中でもいろいろな経緯があって、過去にはできませんでしたが、現在は「やろう」と決めています。今日は田嶋(要・衆議院議員)さんもいらしていますが、ぜひやりたいと思っています。

もうひとつ、現在、新興国でのビジネスで課題になっていることがあります。たとえばインドには韓国のポスコがやっと出ることになりましたが、これについては何年も何年も州政府とやり合ってきました。国同士で合意していても州政府の権限が非常に強いのです。我々としては両方と交渉してはいますが、こういうところをさらにサポートしていかなければいけないと考えています。国同士で合意したからと言ってスムーズに進むわけではないケースもかなりあるということです。この辺については大きな課題であると認識しています。

新幹線については日本のどの企業も応札しないですね。これは大変な議論になる部分ですが、日本は部品や機材を入れるのは得意ですよね。多少は価格で負けても他国にない技術で勝負できるからです。ただ、最近は「何年か運営もしてくれ」と言われる。また、その事業に対して出資して欲しいとも言われます。韓国がアブダビでとった原子力発電事業も60年間保障してくれと言われています。これはなかなかきつい。現在、実は韓国もこの問題について先方と揉めています。場合によっては「できないのではないか?」となっていて、水面下では今、激しいやりとりをしています。

そういったリスクを含めてどこまでとっていくかという議論の中で、今は政府も可能な範囲で応援しようということになっています。たとえばJBIC(Japan Bank for International Cooperation)の出資など、新しいスタイルで保証していく仕組みを考えています。韓国のように60年間も政府が保証するのは無理かもしれませんし、新幹線の運営まで日本企業でやってくれと言うのはなかなか難しいことです。ただ、リスクをとって前に進みやすくなる環境は、政府として、今は野党ですから政府としてというのは変ですが(笑)、我々としてもそういう部分はやりたいと思っています。

日本という特殊事情の中で形成されたルールは海外に行くとまったく通用しない(山田)

程:ありがとうございます。ところで、現在の新興国ビジネスでは現地のコンペティターもかなり成長してきていて、競争も激しくなっているように思います。山田さんのところであれば、そういったところと組むのか、あるいは戦うのか、どうやってうまく利用していけばよいかという視点で考えるといかがでしょう。

山田:我々の例で言えば、今のところ一番のライバルは欧米企業ですね。「どうしてこれほど小さなマーケットにすばしっこく入ってくるのか」というぐらい動きが速いですから。こちらが少々走っているつもりでも先に待ち構えていてもぶつかってしまうというようなことはよくあります。もちろん地元企業もある意味では力をつけてきています。ただ、そちらとの競争がメインになっていくというケースは今のところ、我々が関連している分野ではあまり発生していない状況ですね。

少し話が戻りますが、やはり私たちがやっている医薬品や化粧品というのは規制が非常にたくさんあります。ですから規制との戦いが水面下ではかなりあります。他の分野と同じですが、日本という特殊事情の中で形成されたルールへの対応というのは海外に行くとまったく通用せず、ダブルスタンダードやトリプルスタンダードぐらいになってしまいます。

今日は後藤(玄利・ケンコーコム代表取締役社長)さんもいらしていますが、薬事法の改正などについても日本特有の事情に関する法律改正になるのでしょうか。その辺の事情はわからなくもないのですが、あまりにもこういう考え方ばかりだと海外では難しくなります。「少なくとも日本ではこんなふうにやっています」という説明はできても、「日本のこのシステムは素晴らしいから皆さまもやりましょう」とはなかなか言えません。「どうしてそんなにややこしいのですか?」と聞かれると説明できなくなってしまうのです。やはりこれは日本の民主主義ということで、「地方の声に耳を傾けながら」というプロセスでしか法律もできないのかもしれません。ただ、少なくともアジア全体で考えたときにどんなシステムがよいかというアプローチを少し入れて欲しいと思いますね。

程:小林さんはこの点、いかがでしょうか。

小林:インダストリーで状況は違うと思いますが、とにかく量とお金で勝負するようなところでは、たとえばサウジアラビアのSABIC、インドのリライアンス、あるいは中国のシノペックなど、と勝負するよりは、一緒にやっていくという形で入っていくしかないと思います。たとえば私が1980年代後半から94〜95年までやっていた光ディスク事業では、90年にインドと台湾に生産委託をしました。「この色素を使ってこのプロセスでこうやればつくれますよ」と。クリーンルームの管理から教育していきました。それで比較的低コストのままつくってもらい、研究開発やグローバルなセールスマーケティングの方は自社でやるというモデルにしたわけです。

当初はクリーンルームの管理から始まって、「これはもう5〜6年かかるかな」と思っていたのですが、実際にはたった1年でほとんど追いついてしまった。「まだ小学生だから大学を卒業するまでに10年かかるのではないか」というのが2〜3年で完璧に追いついているのです。こうなると、日本としては常に一歩先を行かざるを得なくなります。太陽電池だって台湾やインドは日本よりはるかにスピード感を持ってやっています。のんびり構えたまま、「日本のものづくりが立派」なんて言っていられたのは大昔の話です。ここは相当に切り替えないと極めて危険な状況になるのではないかと思います。それならどうすればよいのかとなれば、やはりR&Dをベースに新しくイノベーティブなことを常にやっていく以外にはないと、そんな宿命を持っているのだと感じます。

新興国で成功するには、ある程度リスクをかけて社長自らが飛び込んでいく姿勢が必要(西村)

程:ありがとうございます。ではフロアに行く前にもうひとつだけ。新興国に進出して成功する秘訣はいくつかあるかと思うのですが、一つだけ、失敗したがゆえに分かった施策というのがありましたら教えていただけないでしょうか。何らかの失敗から学べるものがあると思うのですがいかがでしょうか。

山田:始めの出会いが悪いとうまく行きませんね。やはり組む相手というものがあって、最初に始めるときの人間で失敗してしまうと修正にも非常に時間がかかってしまいます。最初が肝心かなということです。どこまで組んでいくのか、あるいは誰がやるのかということについて少し失敗をすると、かなり後々まで「あれが引いてしまったな」と思われることが、振り返るといくつかあります。

西村:個別の事例はいろいろとあると思いますが、中小企業で言えば中途半端な気持ちで出て行くケースが最も失敗につながりやすいのではないかと思います。「親企業が行くから」ということでなんとなくそこを頼っていった結果、親企業からの仕事もだんだん減ってくるとか、あるいは為替が大きく変動したので行った意味がなくなったとか。様々な事情はあるものの、やはりある程度は本気でリスクをとって人材もそちらに傾けることが必要です。国内が10割で海外がゼロだったところを、8対2や7対3のリソース配分にするとか、それぐらいの勢いで海外へ行かなければなりません。国内雇用はその分減るのでそれはまた別の対応が必要になります。いずれにせよ新興国で成功するのであれば、ある程度リスクをかけて社長自らが飛び込んでいくような姿勢が一番大事になるのではないかと思います。

小林:やはり国よってパーソナリティが相当に異なってきますが、それで痛い目を見たことはあります。国ごとに対応を変化させていく必要はあると思います。一番大事なのは、こちらも言いたいことを言いながら、それでも信頼してもらうということに尽きるのかなと思います。そういったマインドは重要です。

程:国ごとでの対応というのは具体的にはどうようなアプローチになるのでしょうか。小林さんご自身はグローバルにご活躍されていますが、会社としてはどうでしょうか。たとえば上だけ分かっていても下が分からないことはあるかとは思います。

小林:最終的には、たとえば契約の問題であれば総務ですとか、各自プロフェッショナルがいますからそこを関所にするしかないと思います。逆にその部分さえ踏まえれば、あとはそれぞれの事業で担当者の腕次第になると思いますね。形式上のボードメンバーでOKとかNGとか言う話をしても、そんなことを基本的には分かっていない人が決めていたりしますから(会場笑)。

各国でどうお金を集め、どうやって日本に持ってくるのか、仕組みを最適化したい(小林)

程:ありがとうございます。ではそろそろフロアの皆さんにお話を振っていきたいと思います。今回は「どのように優先順位をつけるか」というお話、国に何を期待するかというお話、さらには成功の秘訣といったお話と、主に3点を核に議論を展開していきました。ただ、今日はファイナンス領域での視点が少し足りなかったかなとも感じております。ですから金融業界の方がもしいらっしゃいましたらご質問やコメントをお願いしたいと思っています。

会場:M&Aの会社をやっております。私は新興国を含めたグローバル展開として、米国の会社を3年前に対等合併で入れた後、そこをプラットフォームとしていろいろなところに展開しようと思っておりました。ところがこれにかなり失敗しております。やはり先ほどの親日や反日といったファクターというのも影響してくると感じました。ですから現在は新興国について国ごとに切り替えて進めております。

金融の視点で言えば、これはなかなかグローバル化していかなかったところです。私自身はM&Aのアドバイザリーとして非常勤でスペシフィックなところをやっておりますが、現在は米国の仲間を入れて、インドのコタックという同国最大の投資銀行と提携しつつ、アフリカやロシアをカバーするということをしております。

また、新興国ビジネスに関するコメントですが、やはり魅力はインドにおけるスズキさんのようにまだまだNo.1になる可能性が十分にあるというところだと思います。たとえば世界の大企業、山田さんもやられておりますが、P&Gのような大きなところを相手にしても、新興国で戦うのならまだチャンスがあるというのは大変な魅力ではないでしょうか。そこで大事なのは、いかにスピード感を持ってできるかということと、やはり理解力になるかと思います。他のセッションでもよく語られていることですが、やはり日本人のよいところである感性や感度といったものでこそ可能になるビジネスはあると思います。

小林:今のお話とも絡むことですが、個人的に昨日のディスカッションで発言させていただいたことがやはり重要になると思っています。私が大事だと考えているのは、各国でどのようにファイナンスをして、どこにお金を集め、どうやって日本にお金を持ってくるのかという仕組みを最適化することです。今はそれをどの企業でもCFOレベルの方が見よう見まねで個別にやっていますが、それをグローバルオペレーション全体の中でどのようにまとめるのか。日本ではそういった動きが少し遅れているのかなという感じはしています。

日本のソフトパワーはどのぐらいの武器になり得るのか(会場)

田嶋要氏(衆議院議員):衆議院議員をやっております。先ほど親日的というキーワードがありましたが、私もフィリピンに5年ほどいたときに感じたことがあります。事業をやっていた時代、あるフィリピンの方からこんなことを言われました。「日本人はフィリピン人と同じトイレを使う。しかし欧米のマネジメントはトイレが分かれていたりする」と。「本当は廊下で皆とタバコふかすことで一番大事なコミュニケーションができたりするのに」と、そんなことを言われました。ですから私もその親日的かどうかといったところは大変重要な要素ではないかと感じております。

あと、これは質問になりますが、日本のソフトパワーというものはどのぐらいの武器になり得るのかという点についてご見解をお伺いしたいと思っております。先ほど、「常に一歩先へ行かざるを得ない」とのお話もありましたが、「ここは本質的に絶対負けないところだ」というようなソフトパワーとしてお感じになっているところがあればぜひお聞かせください。

山田長光氏(侘び数寄道家元):第1回目のG1で感じたことになりますが、当時は日本経済がリーマンショックのあとで非常に落ち込んでおり、それに対して皆さまが「中国に進出しよう」という話を盛んにしていらしていたことについて、私自身は違和感を持っていました。何かこう…、ものを見ているというか。私は産業の人間ではまったくないのでそう思うのですが、「行った先には人間がいる」という視点を大事にすべきであると強く考えております。

私は昨年、中国へ行きました。少数民族の方々がいる貴州省の山奥に行ったりするツアーに参加しました。そこでモン族という少数民族の衣装などが好きで買い求めたりしていました。彼らに聞いたのですが、「今はどこに行っても20〜30代ぐらいの若い子がいない」と。なぜかというと、皆、出稼ぎに行ってしまっているからです。モン族は小さいときから刺繍をするのが伝統になっているのですが、「今の若い人間は欧米的価値観ばかり身に付けているからそういうことをやらないんだよ」と言っていました。

日本を含めてアジアで伝統が壊れてきているという部分に非常に危機感を持っています。私はお茶というものを仕事にしておりますが、歴史を振り返ってみると、東南アジアに日本が進出したのは実は15世紀〜16世紀で、堺の商人がアジア中に行っています。ベトナムにもタイにも行っています。ですからそれと同じように、日本がアジアへ進出していくという中でもし可能であれば「日本人というのはあなたの国の文化を大事にする」ということを実践して欲しいのです。今までの暮らしというのをきちんと尊重しながら現在の暮らしとの融合も図りつつ進出し、相手の文化を破壊しない、そんなアプローチで進出することによって親日的な感情を抱いていただけるということができないものかと考えておりました。これについてはいかがお考えでしょうか。

後藤玄利氏(ケンコーコム株式会社 代表取締役社長):私は消費財のEコマースをやっていますのでその観点で見てみますと、たとえば米国の方では米国、カナダ、そしてメキシコでクロスボーダーにモノが飛び交っています。一方、EUを見てみるとこれもやはり各国のクロスボーダーで、猛烈な勢いでモノが飛び交っています。また一方でアジアを見てみると、非常に伸びている地域ということで多くのチャンスがあって、しかも日本製品にはコンシューマ関連を始めとして非常によいものあるから、これをもっと売っていきたいと強く思うわけです。

しかし、先ほど山田さんが言われたように様々な規制が足枷になっています。高い輸送費もその一つです。それでアジアの方に、なかなかものを飛ばしていくことができません。その一方でたとえばシンガポールは「アジアのハブになる」という明確な国家戦略を持ち、自分たちを中心にモノを流していこうとしています。そんな状況でも日本がアジアに攻めていこうというのであれば、やはり流通のハブになる必要があると強く思っておりますし、またそう願っています。この点についてはどのようにお考えでしょうか。

秋山咲恵氏(株式会社サキコーポレーション 代表取締役社長):半導体関連の装置メーカーを経営しております。本セッションのタイトルが「新興国ビジネスの理想と現実」ということですので、私としては相手国である新興国の立場になってみる必要があるのかなと感じました。新興国ビジネスの理想系を考えてみると、恐らく皆が日本のように豊かになりたいという気持ちもあると思っています。モノを売るという部分だけではなく、相手国側の経済発展の仕組みを含めてサポートするような関係をつくっていくことはできないか。昨日のセッションでも言われていた「日本は長期的取り組みができるんだよ」、あるいは「ぎすぎすしないでやれるんだよ」という部分の方向感を日本は出せるのではないかと思っています。そしてその構想部分に、国の役割みたいなものが出てくるのではないでしょうか。こういったアプローチについてご意見をお聞かせいただきたいと思いました。

会場:中国についてですが、いろいろな人に聞いてみるとやはり急に規制を変えたりして、「もうとんでもない」と言われます。その根幹にあるのは一党独裁であるため、WTOに加盟しているけれどもなかなかルールを守らないといった心配事もあるようです。これは尖閣の問題にもつながると感じたのですが、この辺の懸念についてはどのようにとらえていらっしゃいますか。

程:ありがとうございます。いろいろなソフトパワーのお話については山田さんと秋山さんのコメントにも通じるところかと思うのですが、今後、日本としてどういうポジショニングをしていくか。時間の関係がありますのですべてにはお答えできないかもしれないのですが、皆さま、それぞれいかがでしょうか。

嫌いな部分を自分たちで解決しない限り、大きな顔をして海外にはやはりいけない(山田)

小林:「経済活動というものがほとんどMBA的手法で解決できる」というのは、リーマンショック前まではずいぶん言われておりましたね。それを補完するものとしてマネジメントオブテクノロジーというものもあります。しかし最近は私としても、もうものづくりというよりトータルなことづくりが重要になるのではないかと強く感じています。また、いかに持続性を持った社会にするか、あるいは「マネジメントオブサステナビリティ」など、こういった軸がないと結果として地球は破壊されてしまうのだろうと感じています。

今の中国やインドを始めとした新興国にも、環境や資源エネルギーについてサステナブルな戦略を織り込んだ接し方を、少なくともケミカルインダストリーとしては迫っていかないと、リスペクトもされないでしょう。それはたしかに理想であって「結局は儲けてなんぼと言う」なんていう発想もあるでしょうが、やはりそういう文化や日本独特なよさもしたたかに伝達すべきことだと思っています。なかなか難しい問題ではありますが。これは最終的に外へ出て行った日本人一人ひとりに問われる命題であって、マネジメントでどうこうという話でもないと思います。そう考えると小さいときからの教育だって大事ですよね。日本人としての魅力ということで、もっと自信を持ってやっていけるように育てていったらよいのではないかと思います。

西村:順不同に気がつくままお答えします。秋山さんのお話と関係しますが、日本のODAと中国のODAで決定的に違うのは、日本がアジアに円借款でインフラづくりの支援をしていったという点ですね。道路をつくったり空港をつくったりするにあたって、貸しとするから相手は返さないといけないため、自立心も芽生えるし、かつ産業のインフラづくりですから生活基盤がよくなっていくことで、きちんと返してくれるサイクルができあがります。

でも中国はそんなことお構いなしでどんどんお金を出し、アフリカで大統領府をつくったりします。大統領府をつくっても国民の生活は良くならない。しかもその事業に中国人を投入するから、現地で生きる人々の技能も上がりません。そんな状態でアフリカが「日本を選ぶか、中国を選ぶか」となると、目先ではお金が儲かるし、大統領のポケットにいくら入るかもしれないということで中国がよいとなる訳ですね。しかしよくよく考えてみると仕事は増えないしインフラだって発達しませんから、やはり日本のやり方の方がよいのではないかと思います。長い目で見るとそうなりますよね。

ただ、円借款というのも最貧国にはできませんし、インドやベトナムだってそこから卒業していくわけですから、今後は使える国も少なくなっていきます。ですからやはり民間を組み合わせないといけない。今まで通り日本の良さは出していくべきですが、その思想の範囲内で具体的なスタイルは変えていかなければならないと感じています。繰り返しになりますが、もちろん技術移転をしてその国のヒューマンリソースの価値を高めていこうという意味での日本のよさについては、私も自信を持ってよいと思っています。

あと1点だけ手短にお話しします。技術基準に関しては日本が厳し過ぎます。EUからもさんざん、「技術基準を緩くしてくれ」と言われています。その辺についてはいろいろとやってはいますが、とにかく非常に高いレベルの技術を持っているから厳しい基準があるのです。しかし、これを途上国に当てはめるときはもう少し水準を下げていってもよいのではないかと思います。製薬も承認に時間がかかり過ぎますよね。こちらについても取り組んでいますが、もっと早くしなければいけない。そこで相互認証の枠組みをアジアの中で構築させていくことが大事だと私も考えています。

最後に中国ですが、たしかに様々なリスクはあります。ただ、中国内部で国際協調派と強硬派の意見がぶつかり合っています。この1年半で中国外交はほとんど失敗しています。コペンハーゲンの環境問題で、南沙諸島で、尖閣で、そしてノーベル賞でと、もうこの1年半で彼らの外交はほとんど失敗していますから、それに対する反省も内部では出てきています。ただ、他方で「別にいいじゃないか」と流れもあります。「中国だけですべてできるから、日本企業も日本の技術もいらない」という声も出てきています。ここで我々は上手に国際協調派を応援していかないといけません。国際協調派は日本から応援されていることが発覚した瞬間に失脚しますから難しいのですが。こういった外交は恐らく民主党もできないと思いますのでぜひ自民党政権ということでやらせていただきたい(会場笑)。

山田:たくさん課題がありますのでうまくお答えできるかどうか分かりませんが、今回のG1ではオープニングでみんなの党の渡辺喜美さんが地域主権というか小さな政府というお話をされておりましたよね。ですから私も「小さい政府にするべきなのか、あるいは大きい政府のままで行くのか」というところずっと考えておりました。我々自身もそこについて本当の意味ではわかっていないのかもしれません。小さな政府と言うものの、一方では「国や政治のリーダーシップ」とか言っているわけで、やはりどこかで大きな政府と言うか、いわゆるお上を頼りにする気持ちが日本人にはまだかなり強いのかなと思っています。もちろん大局的に考えれば自助努力でやっていくという形になります。

その他に、これからの途上国における日本の役割や希望についてですが、やはり小林さんが言われたソフトパワーというか人間としてのバランス感覚や魅力が日本人は豊かであると思っています。たとえば当社香港の中国人のスタッフは、ある意味で非常に日本的な価値をわかってくれています。たとえばこちらが指示をしたわけでもないのに地域の小学校へ寄付をしたり、こちら考えている以上の社会貢献活動をすることもあります。彼らだってもちろん豊かになりたい。しかしそれと同時に、やはり国を発展させて皆を豊かにしていくという役割の、その一角を自分たちが担っていることが仕事をする上で最大のモチベーションになっているということもよく分かっているわけですね。そういう意味では何ら躊躇なく、我々が考えていることをもっと伝えていくというのが正しい方向だと思っています。

ただ、肝心の日本の良さについて日本人自身が分かっていない。どうも日本人としての誇りがある一方で、自分たちでも嫌いな部分がその倍ぐらいあったりするということになります(笑)。そう感じるのであればなおさら、情けない部分や嫌いな部分を自分たちで解決しない限り、大きな顔をして海外にはやはりいけないですよね。身分にとらわれるとか、お上志向とか、縄張りの問題とか、いじめの問題とかをやはり自分たちで解決しない限り、やはり途上国でのリーダーシップというのもうまく発揮できないのではないかなと。そんなことを感じます。

程:ありがとうございます。あっという間に時間が来てしまいました。基本的に新興国がいつか先進国になるまでには時間がたくさんあるので、現在は本当にスタート地点だと思います。

また今日のセッションを通じて、どちらかと言うとビジネスチャンスよりもさらに大事であると思えるようなお話もたくさん出てきました。山田さんや秋山さんのお話であったように、やはり向こうの国の立場になって「どのように豊かな国になりたいのか。どんな文化を守りたいのか」といったコミュニケーションをとるということが大切ですね。そういった部分を感じとることのできる能力、つまり日本が数千年の歴史において培った良さを出していくことによって、単なるビジネスチャンスがもっと大きなソーシャルチャンスになってくるのではないかなと感じました。今日は皆さま、本当にありがとうございました。パネリストの3人の方々にもう一度盛大な拍手をお願いいたします(会場拍手)。

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