渡辺喜美氏×竹中平蔵氏×福山哲郎氏「次代に引継ぎ、変革し、新たに創るもの‐I」 

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ベンチャー政党が世間の常識を覆し急成長、ここに日本政治の閉塞感がある(渡辺)

渡辺:みんなの党代表の渡辺喜美であります。堀さんから「ぜひG1サミットに来て欲しい」と言われまして、プログラムを見たらトップバッターになっておりました。大変光栄でございます。G1サミットにおける精神のひとつに「批判よりも提案を」ということがありますので、今日は菅(直人:内閣総理大臣:当時)さんの批判はあまりせずにですね(会場笑)、褒め殺しに徹していきたいと思う訳でございます。

日頃菅さんの批判ばかりしている人間なものですから本当に苦労します。今日は菅さんを激賞したいと思います。「渡辺は少し頭がおかしくなったんじゃないか?」と言われるかもしれませんが、別におかしくなってはおりませんのでご安心ください。

『The Economist』誌の2月5日号でございますが、こちらに「菅直人首相はここ数十年間で最も大胆な改革を日本に提案している」とあります。なるほど。「菅氏が前任者たちに続いて歴史の塵と消えるかと思われたちょうどその時、彼はこの20年間の経済停滞期に試されたどんな政策よりも急進的な改革をまとめ上げた」…、前任者というのは過去何年間かの総理大臣ですね。菅首相の改革案は‘The agenda’と表現されています。‘The agenda is almost recklessly ambitious.’無謀と言えるほど野心的であると。なるほどこういう評価があるのなら、なぜ日本人がこの評価を受け入れないのか。それは、菅総理の言っていることがだいたい3カ月ごとに変わってしまうからです。最近は2週間ごとに変わってしまう。結局、ここに最大の問題があります。

私が自民党を離党したのは今から2年前です。当時の自民党は三百数議席…、今の民主党と同じぐらいの議席を持っていました。しかし残念ながら、自民党ではこの国の政策にイノベーションを起こすのは無理だと考えました。そこで意を決し、リスクをとって離党しました。当時、「渡辺はこれで終わりだ」と随分言われたものです。日干しになるだろうと。で、2年経ちましたが日干しになっていませんよね。たったひとりで行動しはじめたら、たとえば浅尾慶一郎さんが民主党のシャドウ・キャビネットにおける防衛大臣を辞めてみんなの党に参加してくれました。今では自民党からも民主党からも脱藩組が出てきています。脱藩官僚も集まってきました。

みんなの党とほかの新党との最大の違いは何かというと、国会の垣根のなかでつくった政党ではないということです。我々は草の根国民運動をやって参りました。私と江田憲司さんとふたりで北海道から九州まで、もう全国を旅して歩いた。それが草の根の国民運動であり、アジェンダは「脱官僚、地域主権、生活重視」です。当時の民主党が掲げていた話とほぼ同じようなものです。その結果として出来たのがみんなの党です。自慢ではありませんがお金はありませんでした。組織もない。支援団体もない。それなのに何故たくさんの候補者が出せるのか。簡単なことです。草の根運動に参加した人たちが自前で候補者を擁立していったからです。去年は44名もの候補者を出すことが出来ました。47都道府県と補欠選挙がひとつありましたので、47プラス1ということで“AKB48作戦”というのをやって(会場笑)。まあ4名ほど足りませんでしたが(笑)、しかしそれでも44名もの候補者が集まったということです。

こういうベンチャー政党が世間の常識を覆して急成長する。これが今の日本における政治の特徴でありますし、逆に言えば日本の政治がぶちあたっている閉塞状況そのものであるということです。先週も愛知県知事選と名古屋市長選で、大村秀章さんと河村たかしさんの連合軍が大勝利を収めました。実際のところ、私たちは大村さん河村さんとは一線を画したのでありますが、あの大勝利は自民党と民主党に対する政党不信です。日本ではエジプトのような大衆運動というのはなかなか起きませんので。恐らくこういう形でマグマが噴出したということなのでしょう。

「官僚のレトリック」と「民間の発想」がわかる裏方を持てるかどうかが政権のカギ(渡辺)

なぜ政権交代がうまくいかなかったのか。この反省をぜひ民主党の皆さんにしていただきたいと思います。今から2年前…、政権交代の前でしたが、私と江田憲司の二人で当時の鳩山代表と菅代表代行のお二人にレクチャーをしたことがあります。政権をとったらどうするべきなのかということを、です。で、結果として我々のアドバイスはまったく受け入れて貰えませんでした。私たちがレクチャーしたのは簡単なことです。「総理官邸に入るとき、あるいは大臣が大臣室に入るときに、裏方のブレーン・部隊を引き連れて入ってください」と。この部隊は官僚のレトリックが分かる人。そして官僚の知恵だけでなくもっと柔軟な、端的に言えば民間の発想も分かる人。そういう裏方部隊が必要ですとお話ししましたが、これがまるで出来ていませんでした。真っ先にやるべきことは国家戦略局をつくることであり、内閣人事局をつくることだったんです。つまり官僚を使いこなす前に官僚を選ぶという鉄則がまったく出来ていなかった。これが民主党の失敗を生み出した最大の本質です。

私は大臣であったときに総理官邸と喧嘩をしながら公務員制度改革を行いました。誰とは言いませんが某官房長官に羽交い絞めにされたこともあります(会場笑)。まあ、ご親戚がいると困るので名前は出しませんが。ただ、そういう状況でも改革を進めることは結果として出来ました。何故でしょうか。私には裏方の部隊・ブレーンがついていた。実名で申しあげますと高橋洋一(嘉悦大学教授)さん。竹中平蔵さんが大臣をやられていた当時のブレーンでもあった方です。また、まだ現役ですが今や絶滅希少種と言われている古賀茂明(経済産業省官房付)さん。それから、もう脱藩してしまいましたが今は政策工房という小さなシンクタンクをやっている原英史君。こういう部隊・ブレーンを私は持っていたから、官僚のレトリックはすべて分かりました。官僚のなかには筋金入りの改革派がいるということも分かりました。

当時、我々は国家公務員制度改革事務局をつくるにあたって全員にヒアリングを行いました。すると驚くべき結果が出た。課長以上と課長補佐以下とで明確に方向性が分かれていたんです。課長補佐以下は大臣と問題認識を等しく共有していました。「あ、霞ヶ関にもこういうきちんとした人たちがいるんだ」ということが私にはよく分かりました。では何が大事なのか。身分制をいかに止めるかということです。今は官と民のあいだに垣根というものが厳然として存在しています。これを、取っ払う。そして若手の官僚と民間人が官と民とのあいだを行ったり来たり出来るような仕組みをつくろうと考えました。身分制が続くかぎり、結局は官僚統制中央集権というピラミッドそのものも永遠に続くことになるからです。

堺屋太一さんがよく言われていることですが、明治維新はなぜ起きたのか。黒船が来たから起きたのではありません。庶民が気付いたからです。「お侍さんってたいしたことないんじゃない?」、「士農工商っていう身分制度はおかしいんじゃない?」と。その瞬間から明治維新が始まりました。そういうことに日本国民はもう気付いている。民主党が政権をとったのもまさにその流れに則っていた筈。今はそれが進んでいない。何故か。政権交代だけでは日本の政治が良くならないからです。

そこでみんなの党が何を言ってきているのかというと、「政権交代プラス政界再編」です。政党に魂が入っていない。政党中心の政治改革を小沢一郎さんたちがやりました。ところがその政党に何をなすべきかという魂が入っていないから、もうブレにブレまくる。この20年近くの政局あるいは政界再編の明確な対立軸は、「小沢一郎が好きか嫌いか」だけ。相変わらずそうでしょ? こんなことで日本の政治が良くなる訳がない。政党というのは国民の政治意思決定に直接関わる存在です。日本のように官尊民卑という政治文化が残っているのだとすれば、その政治文化そのものを変えていこうと。これが政党の役割です。

日本の政治政策にイノベーションがないのは、硬直してしまった公務員制度に原因がある(渡辺)

アジェンダは政党の魂です。ところが民主党のアジェンダがこれまたいい加減。ここに政治不信の根源があります。ですから我々は政界再編を目指しています。のちほどパネルでお話出来ればさらに詳しく私たちの戦略をお話します。とにかく官僚統制中央集権というシステムを変えることが大事です。官僚そのものは国家経営に必要です。我々は公務員そのものを否定している訳ではまったくありません。ただ、地域主権と脱官僚というのは表裏一体の話です。日本の政治政策にイノベーションを起こせなくなってしまったのは、硬直してしまった公務員制度に原因があります。年功序列という身分制に各省縦割りという身分制。だから若手官僚が大胆なイノベーション・政策を持ってきても、「あ、これは先輩の天下りポストがなくなっちゃうからだめ」と言ってNGになる。こんな話がしょっちゅうある訳です。それならば極めて当たり前のことですが、国民との約束でアジェンダを掲げる。そして官僚を選びながら、官僚のつくった落とし穴に落ちないようにしながら、それを実現していく。これで、出来ます。

私たちの対立軸は小さな政府であり、地域が主役です。そして民間主導の成長路線。これが我々のアジェンダであります。ここが、大きな政府で官僚主導の増税路線を採る自民党および民主党と明確に違います。ですからぜひ自民党と民主党は大連立をやって欲しいと思います。そうすればみんなの党は第3極から第2極に格上げになって(会場笑)、日本の政界再編にとってはるかにプラスとなります。もちろん、残念ながらそう簡単にはいかない状況ですが。たとえば地域主権戦略というのはシンプルです。消費税の税収全額を地方の財源にしてしまおうと。実はこれ、私が自民党にいたころ、自民党のなかでも議論していたことのあるアイディアでした。ただ、自民党がこちら(官僚主導増税路線)のほうにぶれちゃった。ですから私が自民党を離れただけで、私自身は何も変わっておりません。当時とまったく同じ考え方をしています。

たとえば、我々は「地域主権基本法」とも言うべきものを提案致します。これは、権限、財源、人間のセットで地域主権を進めて参るというものです。その核になるのが消費税。この法案のなかに詳しいプログラムを書きたいと思っていますが、たとえば関西広域連合のようなものがあればこれはもう道州制特区と考えて、消費税の税率決定権をお渡ししてしまうというようなことを考えています。「それなら社会保障はどうするのだ?」。簡単なことです。社会保障を守るには経済成長。これしかありません。成長しないから借金が増え、社会保障が危うくなりかけているというだけのことです。

平成のはじめぐらいには税収がおよそ60兆円ありました。今は40兆円。20年間成長していない訳ですから。それならば先進国並みの4%成長を達成すればどうなるか。これはもう明らかな事実ですが、増税なしに財政を再建出来ます。4%成長を実現すれば、早ければおよそ5年でプライマリーバランスは黒字に転換致します。竹中平蔵さんがおられた小泉内閣発足当初、プライマリー赤字は26兆円でありました。今は23兆円ぐらいです。しかし、小泉政権が終わるときには約6兆円にまで減っていました。残念ながらデフレからは脱却出来ませんでしたが。デフレから脱却し、名目4%の成長を達成すれば5年でプライマリーバランスを黒字化出来ます。10年後に名目2%の成長であれば、消費税は15%必要になります。同3%なら消費税は10%。それなら同4%だったら? 消費税は5%で済む。これは誰あろう政府の試算ですよ。我々が勝手に言っているのではありません。政府の試算ですが報告書に載せていないだけです。都合の悪いことは書かない。それなのに「社会保障はどうするんですか?」って…。どうして所得再分配を消費税でやるのでしょうか? 所得の再分配なら所得税だけでやればいい。

そのために私たちは「社会保障口座」というものをつくろうと考えています。そしてかつての民主党と同じように歳入庁をつくろうと。そういう政策を掲げています。納税者番号というのは社会保障を受ける権利とワンセットにしてしまおうということです。旧社会保険庁…、現在の日本年金機構をそっくりそのまま国税庁に持ってこようという話ではまったくありません。早い話が、日本年金機構における徴収部門のITシステムを国税のシステムに統合するというだけの話です。日本年金機構の人間を国税庁にくっつけるなんていう話ではありません。このような歳入庁をつくったうえで社会保障個人口座をつくっておけば、お好みメニュー…、自分で選ぶことの出来る社会保障も可能になるということです。これも我々が自民党時代から考えていたことです。

自民党は今、そういうこともまったく言わなくなってしまいました。結局のところ、こういった日本の国家統治・国家経営について、誰が最終的に責任を持ってやるのか。最後はここです。リスクをとり、国民からだめ出しも受けるが、信任も受ける、そういう人たちがやるしかない。ですから我々は当たり前のことをやろうと言っているに過ぎません。

私は日本という国が、たとえば30年後50年後にアメリカ51番目の州になって良いとはまったく思っていません。中国に貢物を持っていく国にして良いとも思っていません。日本の死せる人々の思い…、先祖の思いを、いかに現在の日本人、そしてこれから生まれてくる日本人たちに伝えていくか。私たちは、日本の醇風美俗を守っていきたい。その点において、みんなの党は明らかに保守という立場に立っています。そして、国家の役割は非常事態のときに現れます。真価を問われるのは非常事態においてなんです。「自衛隊は危険なところには行かせません」という憲法も変えていく必要があります。時間が参りましたので、残りのお話はまたパネルディスカッションのほうでさせていただきたいと思います。ご清聴まことにありがとうございました(会場拍手)。

2011年ダボス会議の3つのポイントは、慎重な楽観主義、中国に対する圧力、リーダー力(竹中)

竹中:みなさんこんにちは、竹中平蔵です。まずは改めてこのような機会をつくってくださいましたみなさん、本当にありがとうございます。これほどの錚々たるメンバー…、こちらにお集まりくださった素晴らしいみなさんに心から敬意を表したいと思います。さて、ただ今渡辺代表が大変な熱弁をふるってくださいました。本日こちらに集まっておられる方々のお考えとみんなの党が考えている政策のあいだには非常に高い親和性があると私も思いますし、いちいち頷きながら聞かせていただきました。私としてはまずこの場にて、これからご登壇されるパネリストの方々による議論のプラットフォームになるような問題提起をさせていただければと思っております。

手短にいきますが、まずは先般…、2週間前にダボス会議がありまして、菅総理もお見えになりました。ですから冒頭はダボス会議における全体的なトーンをご報告します。「そういう世界のなかに日本はいるんだ」というひとつのプラットフォームにさせていただきたいと思っています。もちろんG1サミットというのはもう日本版ダボスですよね。私としてはぜひ今後、ダボスを上回るような内容にしていっていただきたいと思う訳でありますが。で、ダボスでは1月末に各国の首脳やリーダーが集まるものですから、世界経済の動向を観測するためのいわば定点観測をすることが出来ます。ですからそこでの様子を私なりに強引ではありますが、3点に要約させていただきます。

ひとつ目は、予想以上に全体のトーンが楽観的だったということなんです。最後に行われた「Global Economic Outlook」のセッションでは、毎年、『The Financial Times』の副編集長であるMartin Wolfという…、なかなかシニカルなエコノミストですが、その方が総括を行います。彼の総括におけるキーワードは‘cautious optimism’というものでした。慎重な楽観主義。楽観主義の背景は、たとえば「アメリカ経済が去年は2%成長ぐらいだったのが今年は3%成長になりそうだ」、あるいは「ヨーロッパの経済は昨年1%弱だったのが今年は2%半ばぐらいの成長になりそうだ」というものです。成長率が高まるというのが一番大きな要因だと思います。当然、直近ではエジプトの問題等々、たくさんの問題があるから‘cautious’ではなければいけない。しかし全体のトーンとしては上向くというお話です。

ただし、日本は違う訳です。2010年の経済成長率はまだ発表されておりませんが、恐らく3%ぐらいの成長率となります。去年は3%で、今年の政府経済見通しは年度ベースですが1.5%ですから、世界のトーンが少し上向くなかで日本の成長率は下がります。2010年の成長率について言えば、アメリカは2%強、ヨーロッパが2%弱ですから、なんと日米欧で比べると日本の成長率が一番高かったということになる。多くの人々が持つ感覚とまったく違いますね。

つまり、こういうことです。私たちの目の前の経済はそんなに悪くない。実際、麻生内閣、鳩山内閣、そして菅内閣と、かなり大きな財政の措置をとっていますので目の前でそれほど困っている訳ではありません。失業率も高まってきつつありますが、実は雇用調整助成金で何百万人もの雇用を今はなんとかつないでいる状況になっています。しかし、将来に対する期待が極めて低い。それを象徴するように、去年、日本の株価は3%下がりました。日本より成長率が低かったアメリカの株は11%上がっています。この将来に対する期待をいかに変えていくかということが、私たちの非常に大きな課題ということであろうかと思います。いずれにしても、‘cautious optimism’であったということが1点目。

2点目として、中国に対する風あたりが予想以上に強かったということを私は感じました。これは当然、中国の存在感が高まっていることの裏返しです。今年、世界経済は4%から4%強の成長をする。そのうちのなんと半分はインドと中国の成長によってもたらされる。新興国の成長は世界の成長において四分の三を占めます。日米欧を合わせても、世界の経済成長におけるウェイトは四分の一ぐらい。それだけ中国の成長が顕著で存在感が無視出来ないということです。しかしその中国が、たとえばWTOドーハラウンドの妥結に向けてどういった努力をしてくれているのか。元安誘導への批判も非常に強かったと言えます。先だって行われた胡錦濤さんとオバマさんとの対談でも元安誘導は問題になりました。両国首脳のあいだで為替レートが議論されるというのは相当異例なことだと思う訳です。ワシントンD.C.にあるピーターソン国際経済研究所(PIIE)というシンクタンク…、私もそこで研究をしていた訳ですけれども、そこの所長であるC. Fred Bergstenは、中国による現下の元安誘導について「戦後最大の保護貿易である」という言い方をして批判をしています。中国の存在感は今後さらに高まりますが、そのなかでアメリカと中国を中心とした一種の覇権争いのようなものが当面に渡って続いていく。そういうことを予感させたと思います。これが2点目です。

そして3点目。私としては、改めてリーダー力の時代が来ていると感じました。今年もたくさんの首脳がダボス会議に登場しましてそれぞれに素晴らしいスピーチをされましたが、なかでも一番印象的だったのが英・キャメロン首相の演説です。彼は書いてきた原稿をあまり読まずに「皆の質問を受けます」ということで、胸元にピンマイクを付けて壇上を歩き廻るんですね。司会者も置かずに「はい、あなた。次は、はい、あなた」という風に、もう颯爽と質問を受ける。当然ダボス会議の参加者ですから、皆、なかなか厳しい質問をします。たとえばある人は「イギリスはヨーロッパが重要だと言っているのにどうしてユーロに入らないんだ」という質問をしました。すると彼は、「私はユーロの成功を最も喜んでいる人間のひとりです。ユーロにはさらに頑張って貰いたい。しかしイギリスが金融の機能を持っているということとイギリスの経済規模を考えると、当面はユーロとポンドが並走しているほうがお互いのためであるように思っている」と、非常にチアフルに答える。説明自体にどれほどの説得力があるかはともかくとして、非常に快活で、行動するリーダーというものを演出していました。

菅総理が登場されたのはその翌日です。私も大変関心を持って拝見していました。これは色々なところで発言させていただいていますが、私としては菅総理の発言は素晴らしかったと感じています。もちろん皆さんのご準備とご協力の成果ではありますが、菅さんは、「はじめてダボスに来たが、そのことを自分は大変光栄に思っている」といったお話からはじめました。で、「自分は東京工業大学で応用物理学を勉強して…」と続ける。そこで聴衆も「お、応用物理を勉強した首相なのか」と。そして「弁理士になって特許の仕事をしていたが、そのなかで色々な問題を感じたことで、小さな政党に入り政治のキャリアをはじめることになった。そして今、最大与党の党首となり総理という重責を担っている」と続けます。やはり“最小不幸社会”という言葉を使っておられましたが、「自分はこういう思いで総理をやりたいんだ」と仰っていました。

これはダボスにおける政治トップのスピーチとしてはひとつのパターンではあります。その意味でも大変印象的でした。「非常にいいスピーチだった」と、周りの皆さんも仰っていました。まあ、一部には「国債の格付けについて何も言及しないのはけしからん」といった安っぽい批判をしているメディアもありましたが、私としてはそういうことではまったくなかったと思っています。ただし、ああいったスピーチは最初であったから良かった訳で、2回目以降はやはりキャメロン首相のようにやらなければいけない。ある人にそう言いましたところ、「2回目はあるのか?」と質問されましたが(会場笑)。そこはぜひ頑張っていただきたいと思う訳であります。

いずれにせよ、‘cautious optimism’、中国に対する圧力、そしてリーダー力。そういったキーワードをひとつの背景にして議論を重ねていただきたいと思います。G1サミットの精神は「批判ではなくて建設的に提案をしよう」ということでありまして、これは本当に重要だと思います。渡辺代表も私も閣内で仕事をして総理を支えました。世耕さんは安倍さんの補佐官でいらした訳ですし、福山さんはまさに今、大変な思いで菅さんを支えていらっしゃるのだと思います。ですから「自分がもし福山さんの立場だったら、あるいは福山さんをサポートする立場だったら一体どうするかなあ」ということを少し念頭に置いたうえで、どういう問題点があるのか。そしてどういうことが必要なのか。そんな問題提起をさせていただきたいと思います。

日本の経済政策について三つの問題点と、それぞれに対する三つの処方箋(竹中)

具体的には日本の経済政策について三つの問題点と、それぞれに対する三つの処方箋のようなものぜひお伝えしたいと思っています。ひとつ目は内閣の政策全体として枠組みがよく分からないということ。ここが最大の問題ではないかと思います。この前、内閣改造をやりましたよね。その前の内閣は4カ月ぐらいしかもっていない訳です。どうしてこれほど短期間で内閣改造をするのかという問題はさておくとして、内閣改造のときに総理が掲げられた問題はふたつありました。なんのために内閣を改造するのか、です。ひとつはTPPをやるためであり、ひとつは税と社会保障の一体改革…、もっと具体的に言えば消費税の引き上げに備えた議論をするためです。TPPも消費税の引き上げも、少なくとも表面的には民主党のマニフェストに一言も書かれておりません。ではマニフェストに書かれていないことが内閣改造における二つの目玉なのかと。いつからそうなったのかという問題があるわけです。

この枠組みに関して言うと、やはりマニフェストが今にして思えば色々な問題を抱えていました。特別会計にまわす歳出を削って17兆円を捻り出し、それでさまざまな政策をやるということだった訳ですが、フローベースでは1.7兆円しか削ることが出来ていません。この点について、この会場にもお見えになっている平将明(衆議院議員)先生は以前から「フローベースで10分の1しか出来ない」と指摘しておられましたね。その通りになりました。形のうえではおよそ3兆円を削ったことになりますが、あれは日本鉄道建設公団の利益剰余金…、いわゆる埋蔵金を持ってきて基金に入れたものです。ですからやはり1.7兆円。17兆円の10分の1しか達成出来ていないということです。これはもうマニフェストの枠組みが、破綻してしまっている。ところが、それだからマニフェストを見直すと言うと、「それならもう一回総選挙をやれ」ということになります。それで非常に曖昧な形になり、見直すような、見直さないような…、そんな形になってしまっています。その結果として、何が問題で何をやろうとしているのかがまったく分からないまま、急にTPPと消費税という話が出てきてしまった。

実は民主党が総選挙で勝利した直後、私は民主党のある幹部の方に申しあげたことがあります。「あのマニフェストは絶対に実現出来ません。それが良いこととは言いませんが、他の国を見ても選挙の公約と実際にやったことが違うケースはたくさんあります。だから修正してください」と。たとえばアメリカでも何人かの大統領は選挙で掲げたこととまったく違うことをやっています。そういうことは選挙ですから、ある程度ではありますが、その後の政策をきちんとやれば結果として許されるわけです。ただし、それは選挙が終わったあとにすぐストラテジーミーティングを開き、「これは先延ばしにして、当面はこれをやります」といった形で新たに宣言する。これは選挙の直後にやっていたら私は許されたと思うのですが、それをやらないで今もずるずる来ているものですから、「マニフェストはなんだったんだ」ということになる。マニフェスト選挙というものを日本で提唱された慶応大学の曽根泰教先生は、内心忸怩たる思いがあるという言い方をされていました。やはりこの見直しをどこかで行い、枠組みを明確にされる必要があるのではないかと思います。どういうタイミングでやるかというのはかなり高度な政治判断になりますが、これはなさったほうが良いです。出来ないことは、「すみませんでした」と言いますが、「しかしこれはきちんとやります」という形に持っていくほうがいい。これが一点目です。

二点目は、政策を決定するプロセスを変えなければいけない。政治主導という言葉は正しいと思いますが、残念ながらそうなっていません。民主党は政権をとったとき、経済財政諮問会議をただちに実質廃止しています。今までやってきたことを全否定しようとしてしまった部分があるわけです。たとえば英国労働党のトニー・ブレアは、首相になる前まで保守党のサッチャーやメージャーをさんざんに批判していました。しかしいざ自分が首相になると、サッチャーがやった良いことをすべて取り入れて労働党のフレーバーを少々まぶし、それを自分がやったことのようにしてきました。ところが民主党は全否定してしまった。国家戦略局をつくるとは言っていましたが、これはまだ法律がなかなか通らないから実際には機能しません。それならば法律が通るまでは経済財政諮問会議を、だましだましでも使い、名前を変えてでもいいからそこを司令塔として使えば良かった。しかしそれもしないから、実は未だに司令塔が不在という状況になっているのだと思います。

私は少し心配していることがあります。現在、国家戦略局(現国家戦略室)には成長戦略のための会議があります。これは諮問会議に変わるような会議で、国家戦略局のなかで唯一、民間人が高い役割を果たすものだと私も若干期待していました。皆さん、あの会議は「新成長戦略実現会議」と、“新”という言葉がついているのをご存知でしょうか。私も「なぜ“新”が付いているんですか?」と聞いたのですが、それは昨年の6月22日に決めた「新成長戦略会議を実現することを目的とした会議」だからと言うんです。となると、昨年閣議決定されたものに入っていない議題は、建前上、その会議では対象外になってしまうと言うんですね。従って、TPPはそこで議論出来ないことになる訳で…、これは少し笑い話みたいなところがありますよね。やはり官僚が…、すみません、G1の会場にいらしてる良い官僚ではなく悪い官僚が(会場笑)、しっかりとタガをはめているということです。それでも、少なくとも総理が「やれ」と言えばなんでも出来ないことはありません。しかし少なくとも霞ヶ関がそれに応じてしまっている。こうなると、これはもう実質審議会と変わりません。政治主導と言いながら、その実、TPPの審議会、その成長戦略の審議会が存在し、そこにたまたま政治家が入っているという形になってしまっています。結局、政治家が忙しくなっただけです。

このようにして本来の資質とは違う政治主導になってしまっているのではないだろうかと危惧しています。一例として申しあげていますが、とにかく経済財政諮問会議というものは現在も法律上存在しているんです。 これは内閣府設置法において必ず設けなければいけない会議ですから、現在の状況はある種の法律違反です。ですからこれをアンブレラとして活用していただき、そこで徹底的に政治主導の議論を行い、総理が指示を出す。そうすれば総理のリーダーシップも見えるし議論の内容も明らかになります。これが今すぐ出来ることなのではないかと思っていますし、それをとっかかりにして政治のプロセスを本当の意味での政治主導にしていただきたいとも思っています。これが第二点です。

三点目は、現在、私が決定的に欠けていると思っている普通のマクロ経済運営です。日本の潜在成長力というのはそもそも何%なのか、これを上げる必要があるのかどうか…、上げる必要があるのなら成長戦略をとらなければいけません。潜在成長力がこれぐらいだとして、需給ギャップはこのぐらい…、需給ギャップがあるのなら短期的な財政政策で埋めなければいけません。そして需給ギャップを見ながら財政と金融の舵取りをどうするか。これらはすべて普通のマクロ経済運営ですが、実はこれが十分に行われていません。象徴的なのことですが、当初は経済財政政策担当大臣が置かれていませんでしたが、改造前の菅内閣で海江田万里さんが経済財政政策担当大臣となりました。そして今度は与謝野馨さんになっていると。申し訳ないのですが、与謝野さんの発言をすべて見てください。与謝野さんは財政の発言しかしていません。経済の発言はほとんどなさらない。ちなみに最近、霞ヶ関や永田町では、「与謝野というのは与党と野党のあいだで謝る人のことである」というふうによく言う人がいるんですね…、意外とウケなかったですれども…(会場笑)。

このマクロマネジメントをきちんと行うこと。渡辺代表が先ほど仰っていたことですが、「きちんとしたマクロマネジメントをやれば少なくとも基礎的財政赤字を消費税の引き上げなしでなくすことが出来る」というのはまことに正しいです。現実として2007年には基礎的財政赤字が約6兆円まで縮小していきました。消費税の引き上げなしに、最高で28兆円の状態から6兆円まで赤字を縮めたんです。その差22兆円は消費税に換算すると9%です。「財政再建の基本は経済を良くすることである」というのはマクロマネジメントの基本です。その基本を、申し訳ないけれども経済財政担当大臣がほとんど議論なさっていない、そのように議論しない方を任命してしまっている。正しいマクロマネジメントをやらなければ、いくら消費税を引き上げてもだめです。

象徴的な数字を申しあげます。1997年に橋本内閣のもとで消費税が3%から5%に引き上げられました。バブルのあと税収が下がっていたなかで、消費税を上げた97年は税収が増えました。その額は54兆円です。皆さん、消費税を上げて54兆円になったこの1997年以降、税収がこの54兆円を上回ったことは一度もないんです。分かりますか? 消費税をいくら上げたところで、マクロマネジメントによるデフレ解消をきちんとやらなければ税収は減るということです。消費税を上げても上げても、税収は減る。それで財政再建なんて出来るわけはありませんし、「一体消費税はどこまで上がるのか」という気持ちこそ国民の最大の不安になって消費や投資を抑えていく。まさに増税の泥沼に入っていきます。現在の非常に安易な増税路線をとっていると日本は本当に大変な泥沼へ入っていくことになります。残念ですが自民党もこのことを指摘しません。自民党も実はまだ“古い自民党”に支配されていますので…、こちらにいらっしゃる世耕さんは野党でしかも非主流派という大変な脇に置かれている方でして(会場笑)。民主党のほうは与謝野さんや柳沢(伯夫)さん…、要するに自公政権時代の低成長派あるいは財政再建至上主義派を取り込んでしまった訳です。ですからマクロマネジメントをきちんとやるということを皆さんが声高に主張しないと、本当に大変なことになってしまうというふうに思います。

TPPを実現すると日本の成長率は0.5〜0.6%高まる(竹中)

さあ、ここまで、フレームの見直し、プロセス、そしてマクロマネジメントのお話をさせていただきましたが、私としてはTPPに関してぜひ応援したいと思っています。実は私、TPPの話が菅さんからはじめて出てきたとき、かなり変な感じがしたんですね。民主党政権、特に菅さんたちはついこのあいだまで「小泉-竹中の行き過ぎた規制緩和」と言っておられましたから。この表現は菅内閣の閣議決定でも何回も出てきています。ところが今になって、「例外なき関税自由化」、そして「さまざまな規制緩和」と言う。急に言い出したから私はびっくりしたんです。なんというか、今までまったく勉強をしなかった人が急に「私は東大を受ける」と言っているようなものだと思ってですね(会場笑)。本当に出来るのかと少しばかり茶化したくなる気分にもなったのですが、結論から言うと菅さんの選択は正しいと私は思っています。TPPはやらなければいけないし、やれば効果がある。農業の反対等々と仰っている方もいますが、私は出来ると思っています。ぜひともTPPをひとつの突破口として、日本の政策体系を変える形にまで持っていっていただきたいと考えています。

TPPは2006年にシンガポールやブルネイといった小さな国がはじめた多国間経済連携協定で、まさに例外なき関税ゼロです。ですから私は個人的に「日本は現実の政策として出来ないだろう」と、実は思っていました。だからこそ「日米のFTAをやったらどうか」と考えていた。FTAなら少しは例外を認めますから。しかし、現実問題としてアメリカは二国間のFTAをもう出来ないような状況に追い込まれました。米韓の協定で非常に大きなトラブルが議会にありましたから、もう行政府としては二国間を出せないだろうということです。だからこそ2009年にオバマ大統領がTPPと言い出した。このことは、例外をつくるのはあまり良くないけれども、ベトナムであれアメリカであれ、やはりそれぞれの国が非常に大変な国内事情を抱えていますから、恐らくは例外措置をつくるであろうという示唆ではないかと。ある程度…、あまり大きくしてはいけないけれども、例外措置が生まれることを前提にするなら、日本も十分、これに参加出来るということだと思います。日本のFTAにおける平均的な貿易自由化率は85%です。85%あればFTAとしてWTOで認められますから、これまではそのぎりぎりのところでやってきた。ところがドーハラウンドの議論でこの自由化率85%の壁が94%ぐらいにまで引き上げられました。すると二国間FTAでも例外措置は一気に5〜6%まで縮めなければいけない。恐らくはそのような形でTPPが結ばれるのではないかと、私は思っています。

逆に言えば、そうなるように日本は早く参加をして、若干の例外を認められるようにしないといけない。アメリカだって今もピーナッツに140%、ついこのあいだまでは800%もの関税をピーナッツにかけていたんです。 繊維製品だって一部で30%ぐらいの関税を未だにかけています。ベトナムだって乗用車に恐らく60%ぐらいの関税をかけています。どこもそういう国内事情を抱えている訳であって、日本だけが大変という訳ではありません。そういう形でやれば唯一の選択肢はTPPであると…、これはもう二国間協定が無理だから。結果的にTPP参加は可能だと思うし、実際に日本も参加するとしてうまく10カ国で結べば、日米の貿易のウェイトは約7割になります。ですから、これは実質的に日米FTAと同じような効果になると考えて良いのではないでしょうか。これは日本にとって現実的な選択であるということです。

だいいち、これをやれば効果がある。内閣府の試算もすでに出ていて、その内容に関しては農水省も認めています。結論から言うと、TPPを実現すると日本の成長率は0.5〜0.6%高まります。しかもこれは将来、APECにおけるFTAのきっかけになります。APECで中国まで含め…、まあ中国がどういう態度をとるかというのは難しいところですが、本当に中国まで含めて太平洋全体のFTAになれば、日本の成長率はなんと1.3%高まります。潜在成長率が1%から1.5%と言われているとき、まさにグローバル化に対応してTPPをやることで成長率を画期的に引き上げることが出来る。ここでデフレを解消し、名目成長率を4.5%ぐらいにすれば…、本当に財政再建出来ます。無理な消費税引き上げなしに。従ってこのTPPを実現することは極めて重要です。

唯一出てくる反論は、農業です。農水省はこれまたとんでもない試算を出している。TPPで米農家が打撃を受け、数兆円におよぶ生産高の減少があるという数字を出しています。しかし実はこれ、大変なトリックがあります。「国内品の価格が高く、海外品の価格は低い。その価格差が原因だ」と言っているのですが、そこで取りあげられている海外の価格が実は10年前のものです。なんでこんなものを持ってくるのかと聞いたら、「予算をたくさんとるために持ってきたんだ」という風に言っていましたけれども(会場笑)。しかし皆さんご承知だと思いますが、世界の一次産品価格は現在ものすごい勢いで上昇している訳です。そもそも国内と海外の価格差はどんどん縮まっているし、もし円が今後安くなればますます競争力は高まります。そして何より、「国内の生産価格が高い」と言いますが、零細農家と大規模化された農家ではコストは数倍異なります。だから集約化すればやっていけます。逆に言えば、これは日本農業をきちんとしたものにする大変なチャンスということです。皆さん、農水省は一般会計だけで年間およそ2.2兆円の予算を使っているんですよ? 他の産業をカバーする経済産業省の一般会計予算なんて3000億円ぐらいです。5〜6%である農業人口のために、経済産業省の7倍にあたる予算を農水省は使っています。それでいて、「まだ価格競争力が持てない、まだ保護が必要だ」と言う。これはもう根本的に変えなければいけないし、変えるチャンスです。世界の一次産品価格が上がっているという状況は、日本の農業が実は競争力を高めるチャンスでもあるということをぜひ申しあげておきたいと思います。

私たちの社会は「フォロワーシップ」が十分だったろうか(竹中)

そろそろ時間がなくなってきましたので、最後に私も含めて「こういうことをやってはどうか」という、マインドセットを含めた問題提起を簡単にさせていただきたいと思います。最近、早稲田大学の友成真一教授がお書きになった本で、大変気に入っているタイトルがありまして、『問題は「タコつぼ」ではなく「タコ」だった!?』というものです(会場笑)。政策は重要です。制度は重要です。税率も重要です。これらは変えていかなければいけない。しかしそのなかでも私たち一人ひとりが行動を起こさなければいけないんです。これはまさにG1サミットをやっている堀さんの思いでもあると考えています。私たちに出来ることはある。そういう意味で、「自分たちが何か運動をはじめよう」というときに使うイニシアティブという言葉をぜひキーワードにしたいと思っています。さまざまな形で私たち自身がイニシアティブを持つことをはじめましょう。

実は日本にも橋本内閣時代に行われ、世界的に広く知られることとなった「橋本イニシアティブ」というものがあります。これは橋本さんが言い出したもので、「日本の経験を生かして世界の寄生虫を駆除しよう」というイニシアティブでした。最初は誰も理解してくれなかったのですが、1998年のバーミンガムサミットでこの橋本イニシアティブが共同コミュニケのなかに入った。そして日本の官民が協力し、タイとアフリカにパラサイトコントロールセンターをつくって非常に大きな成果を挙げました。日本がやったことをきちんと世界に伝えたこのイニシアティブによって、世界で多くの人たちが助かった。このように私たち自身が出来ることはたくさんあるのではないかと思います。

もうひとつ。冒頭でリーダー力の時代ということを掲げましたけれども、リーダーシップという言葉には対語があって、それはフォロワーシップということだと思います。選ばれたリーダーはリーダーとしての役割を果たさなければいけません。しかし選んだ側は、自分が選んだ以上はその人を支えなければいけない。これがフォロワーシップであると考えています。ここ数年、リーダーに物足りなさがあったことは事実かもしれません。しかし私たち社会全体のフォロワーシップは十分であったのか。特にマスメディアの対応を含め、フォロワーシップに関しては大いなる反省が必要であろうかと、私は思っています。

そして最後になりますが、私たちの目の前には今、非常に多くの間違った考えがあります。G1サミットに集まった人たちは、まさに全員がインテレクチュアルなリーダーとして、そのような間違った考えを正していきましょう。間違った考えの典型は「消費税を引き上げないとだめだ」というものです。ついでに言うと、「失われた20年」という表現も私は間違った考え方からきていると思っています。私はよく「失われた20年ではない。失われた12年と、下げ止まった5年と、最も失われた3年がある」という言い方するのですが。そういうことも含めて、問題の前提をぜひ見直していこうではありませんか。私たちが出来ることは現実にたくさんあると思います。ぜひこれから2日間の議論で、皆さん自身を知的に、そして‘provoke’して、新しい行動の原動力にしていただきたいと思っています。このような機会を与えていただきまして、ありがとうございました。(会場拍手)

60年にわたる予定調和的な自民党政権から、今は「過渡期」にある(福山)

パネルディスカッション:
竹中平蔵 慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長
福山哲郎 参議院議員 内閣官房副長官
渡辺喜美 衆議院議員 みんなの党代表

世耕:それではパネルディスカッションに移ります。まず福山さん、お二人の講演を受けてお話し下さい。

福山:今年に入って菅政権としてのターゲットを「税と社会保障の一体改革」と「経済開国」の二つに絞りました。国民が将来に安心感を持てないという現実がある中で、年始から、この二つに絞るということを決めて動き出しました。確かにマニフェストに関する枠組みの議論はあるかもしれません。しかし、税制改革や社会保障改革を行うと、マニフェストのなかでも明示をしています。TPPについても、日米の2国間連携協定をやりたいということも書かせていただいています。ただ、政治は生ものであり生き物ですので、現実に日本が世界に置かれた立場と流れのなかで、このターゲットを設定し、我々としては与野党での協議を呼びかけながら進めたいと思っています。

外交のことも少し申しあげます。外交というものは、国力に合った進め方しか出来ない。これは前原外務大臣(開催当時)も言われています。この国力というのは総合的な国力であって、経済力、人口、技術力。併せて、重要なのはグローバルアーキテクチャに対してどういう構想力を持つかということです。

一昨年、鳩山さんがCO2排出量25%削減という話をしたことで、色々と国内での批判はありました。しかしコペンハーゲン合意に向かって非常に大きなアジェンダ設定を行い、ある種のアクセルを踏んだということは国際社会のなかで定説になっています。また、そのなかで、「中国とアメリカを含めた排出量の多い国を巻き込まなければいけない」という発言は、世界の共有認識になっています。その結果として先日のカンクン会議では、はじめて米中が入った形で合意が出来ました。これには法的拘束力がありませんから、京都議定書に比べればまだまだ実現したもののレベルが低いということにはなるかもしれません。しかし外交というものは相対的であり、時間がかかります。自分たちがやりたいことを主張してすぐ、そのまま出来るものでもありません。もちろん竹中先生が言われたように、長年自民党政権がやってこられた、ODAを含む人的または技術的な支援は大変高い評価を得ています。国際社会の中で相対的に見ても、やはり日本は国際的な約束を守る国であると。アジアの成長に大変コミットしてきたことについて再評価の機運が高まっていることも事実です。そういった状況なかで、いかにTPP、あるいはAPECで菅総理が言われた将来のアジア太平洋自由貿易圏をどのようにつくっていくかということを我々は考えていきます。

併せて、中長期的に、グローバルアーキテクチャをどうするかという観点では、我々としてはある種のモメンタムを国際的につくることで、国連の機能を少し変えていきたいと考えております。何故か。世界中に紛争が起こっていますよね。今、世界中に脅威が存在する訳です。ただ、この脅威は今までのような主権国家同士の争いだけではありません。そこに対して日本は技術やアイディア、そして今までと同様の人的な貢献など、さまざまなアプローチで貢献出来るチャンスがある。そういったことを総合的に考えていくなかで日本の国力をどうプレゼンしていくべきか考えています。その一環として、菅総理も国会日程にもかかわらず無理をしてダボスに行かせていただきました。

政権交代までの日本は60年にわたる自民党政権という状況において、ある種の予定調和ですとか、「まあこの程度だろう」といった考え方のままで物事を進めて来たと感じております。しかし政権交代のあと、我々はマニフェストによって物事を進めるようになりました。これはひとつの混迷がはじまったということです。混迷のはじまりなのですが、次に繋いでいかなければならない。私たちが今批判をされるのは分かります。既得権益に手を突っ込んでいますから。逆に、そこを期待しながら票を投じていただいた方からすれば「改革のスピードが遅い」となります。両方からご批判をいただいているのは重々承知しておりますが、ここを超えないことにはもうどうしようもない。時計の針を戻す訳にはいかない。その次のステージが、渡辺代表が言われているような再編なのか、世耕さんが仰っていただいているような二大政党における建設的な議論なのか。協力出来ることと出来ないことに関してお互いに住み分けをすることで、「出来ることは国益のためにやろう」という議論なのか。いずれにせよ、こういった住み分けをするためにはメディア自身の改革、さらには有権者と我々のコミュニケーションなど、色々なことを変えていかなければいけないし、そういう時代が来ていると私は考えています。今はそんな過渡期のただなかにあると思っています。

ですから、渡辺代表、世耕さん、竹中先生、そして私…、それぞれの立場は違いますが、このようにして一堂に会すること自体が、次なるステージのためにも重要であると思っております。目の前の政治で一喜一憂し、悲観ばかりしていても日本の政治は絶対に良くなりません。今まで50点だった子どもがたとえば70点だったとして、「お前、残りの30点が取れないのはだめじゃないか」と言ったら子どもは伸びるかどうかです。私は何も民主党を伸ばしてくれと言っているのではありません(会場笑)。日本は本当にグローバルのなかで戦わなければいけない状況になっています。そのときに民主党の利益ではなく国益を考えたとき、各々がどんなポジションで政治と向き合うのか。民主党も含め、今政治が問われているのはそういったことだと考えております。そんな気持ちで、今日このような場でお話をさせていただいたことに心から感謝を申しあげたいと思います。

世耕:福山さん、どうもありがとうございました。まあ、どうしても間近のテーマを議論すると単なる政策の議論になってしまいますが、福山さんのお話を聞いていて、「相当フラストレーションが溜まっているな」と(会場笑)。そこはちょっと置いておいて、ここでは少し長期的なお話をしていきたいなと思います。

いまの民主党はイノベーションどころか、霞が関が失った利権を取り戻させている(渡辺)

世耕:先ほど渡辺さんが基調講演で仰っていたこととして、私自身ずしりと受け止めたのは、渡辺さんが自民党を出て行った一番の理由が「この政党では政策のイノベーションを起こせないのだ」という点でした。そこでぜひ渡辺さんに、現在の民主党が政策イノベーションを出来ているのか否かを含めまして、どういった形で政策イノベーションを政治の世界で起こし、新しい体制を進めていけば良いのかと言う視点でお話をいただければと思います。

渡辺:はい。民主党では政策のイノベーションを起こせないといのはもう明らかになりました。竹中さんの頃からやってきた官僚利権構造の打破…、たとえば日本政策投資銀行の民営化とかですね。私はそれも安倍内閣で引き継ぎ、政府系金融機関をひとつに統合する法案などを出してきました。早い話が天下りポストをどんどん剥奪をするということです。天下りというものの背景には膨大な政府資産があるんです。日本は巨大な借金を抱えていますが、政府資産もやたらとでかい。大雑把に言うと借金が1000兆円で政府資産は700兆円。となると、赤字はネットで300兆円であって、GDP対比でおよそ6割。こういう勘定になります。この700兆円の資産のうち500兆円近くが金融資産です。この金融資産が天下りネットワークに流れ込んでいます。特別会計、独立行政法人、民間法人、特殊法人、政府系金融機関、等々…。このなかで「民間に出来ることは民間にやらせましょう。地方に出来ることは地方にやらせましょう」と。これが小さな政府ということです。大きくなり過ぎた政府資産を圧縮するという作業をやってきたわけです。自民党の時代に。それが、麻生内閣のときから逆回転をはじめました。それで、「自民党では出来ない」ということで出ていったんですね。

民主党が今やっているのは政策のイノベーションどころか、霞ヶ関がここ数年間で失った利権を次から次へと取り戻すという話にほかなりません。たとえば郵政民営化を逆回転させる。「国営化じゃない」と言い張りますが、四分社化の体制を、郵便会社とホールディングカンパニーとをくっつけて、そこに金融2部門をぶらさげるなんていうのはもう完璧に国有化です。それによって、また株の売却もストップをすると。これはまさに埋蔵金の埋め戻しに他ならない訳です。結局こういう官僚の利権を逆戻しにしておいて、しかもなんと驚くべきことに、資源エネルギー庁の長官がたった4カ月で東京電力に天下りですよ。自民党時代ですらこんなことはなかった話です。こういうとんでもないことが、現在の政権で行われました。日本の政策のイノベーションをだめにしたのは、まさに官が政を操り、そして霞ヶ関が地方を支配するという構図です。天下りネットワークを通じて民間をコントロールする。この官僚統制と中央集権。この原型が出来あがったのは1940年前後でありますが、こういう体制に対して根本的にメスを入れなければ日本の大転換なんて絶対に無理です。その無理なことが政権交代で出来るのではないかと思ったのにまったく出来ていない。それならいっそうのこと自民党と民主党が大連立を組んで大増税でもしてくれたら、そのほうがはるかにアンチテーゼとして国民運動が高まりを見せて良いのではないかと思います。

世耕:ありがとうございました。今、渡辺さんが指摘されたいわゆる天下りの問題ですね。私としても「たかが天下り、されど天下り」というかですね、「給料も退職金もたくさん貰って羨ましいな」ですとか、そういうレベルでの話ではないと。やはり政治が官主導の構造にしっかり切り込んでいけていないという、その最も象徴的な分野だと思っています。実際、一昨年の総選挙で自民党が政権から転落した原因としては色々なことが言われていますが、やはり天下りを止めることが出来なかったということに尽きていると私自身は思っています。そういう意味で、逆に民主党がそれをしっかりと根絶してくれるのであれば、そこはぜひ応援したいなという思いはありました。で、蓋を開けてみると渡辺さんがご指摘したようなことも少し起きてきている。この天下りという問題について、(福山氏挙手)あ、福山さんどうぞ。

福山:渡辺代表が言われたお話は象徴的なのですが、自民党政権下ではずっと斡旋というものをやられていました。役人が各天下り団体に斡旋をして、お互いがマッチングをするという話です。この斡旋を、政権交代してから全部なくしています。すると任期が来ればポストが空きますよね。たとえば独立行政法人で理事長ポストや理事のポストが空きます。そこで、それらのポストについては政権交代後にすぐ公募をはじめました。そのときに役人がどう言ってきたのかというと…、今日役人の方がいらっしゃいましたらすみません。「公募なんてしても人は来ません。無理です」と。さんざん言われました。でも、公募をはじめると案件によっては何百人も民間の方が応募してくださった。「給料が下がってもいいから公の場所で仕事をしたい」と言ってくれる方がたくさんいました。ですから現在、そういったところに対する斡旋は民間を含めてなくなりました。先ほどの東電に資源エネルギー庁長官が行ったという話では、私も怒りました。「これはなんなんだ」と。でも、それは自民党時代に、2年以内に民間企業へいくことを中止していたものですが、自民党自身がそれをとっぱらったのです。官僚も優秀な方はたくさんいらっしゃいます。ですから斡旋しなければ行けないような、官の圧力がなければ行けないような人間を行かせるのはやめろと。しかしその一方、「その実力が欲しい」と企業が思うような人材については、それは職業選択の自由ではないかと。それで東電に資源エネルギー庁の長官が行ったというのが今回の顛末です。私も「こんなに分かりやすいことをするな」と怒りましたが…。

世耕:分かりました。ではそこについても渡辺さんに少し伺ってみましょう。恐らくその制度設計をしたご本人として反論もおありになると思いますので。

渡辺:今のお話はですね、いかに現在の民主党政権が官僚の言いなりになっているかという、もう典型的な例ですね。まず今の福山さんの大欺瞞はですね、斡旋禁止とか言っておきながら、事実上の天下りを人事でやっている。これは古賀茂明さんが明らかにしたように、現職出向とか休職出向とか、要するに「独立行政法人や公益法人の官僚が民間企業にまで公務員の身分を持って行く場合は天下りじゃないんだ」って。なんなんだそれはっていうことですよ。しかも独立行政法人通則法の場合は、現職で人事にはめ込む場合、公募はやらないと決めちゃったわけです。

それだけではないです。東電の一件は退官後4カ月で…、いわゆるこれは“裏下り”って民主党が言っていたやつですよ。つまり、前任者の副社長が去年の6月に辞めて後任が行く。で、「前任から呼ばれたから行きました」とかいう話に恐らくはなるのでしょうが、実際に人事当局が絡んでなかったらこんなこと出来る筈ない。だから私が制度設計したのは、こういう“裏下り”のようなものもきちんと摘発出来る体制です。すなわち再就職等監視委員会をつくり、そこで監視をすると。そういったものをまったくつくっていない。監視委員会のメンバーというのをつくらなければいけないのに、まったくつくってないんですよ。結局、脱官僚なんて言われなくなって久しいのですが、こんな民主党政権で本当に政治主導なんか出来るのか。私は出来る筈ないと思います。

世耕:今のお話に対しても福山さんは福山さんで反論があるかとは思いますし、天下りについては私もものすごく言いたいことがありつつ今は我慢していますが(会場笑)、いずれにせよ天下りひとつとってもこれだけこんがらがってしまう。お互いの立場がまったく違うということをまずご理解いただき、もしよろしければナイトキャップの時間に続きをですね…、この問題についてはかなり面白い議論が出来ると思いますので。ですから次は竹中さんにお伺いしたいと思います。竹中さんもまさに政治主導をどう実現していくかというところで戦ってこられた方ですから、その観点からコメントをいただきたいと思っています。

ねじれ国会対策に、イギリスの‘Salisbury Doctrine’を日本で採用してみませんか(竹中)

竹中:はい。ただ今の議論は本当に予算委員会のようになってきましたが(会場笑)、福山さんが言われたことですごく共感出来るのは、「何かやると必ず両方から批判される」というところです。これはすごくよく分かります。改革なんてやろうと思うと、一方からは「そんな改革は甘い」という風に言われますし、一方からは「そんなことをやったら大変なことになる」と…、「日本を潰す気か」と言われる訳です。しかし両方から反対論が出るときは恐らく正しいことをやっているということだと(会場笑)、思えば良いと私は思うんです。天下りの問題については私も言いたいことがありますし、恐らく今渡辺代表が言われたことに対する福山さんの反論もあるかと思います。

ただひとつだけ、福山さんね…、今日の福山さんの話を聞いていて何より思いが伝わってくるし、ダボスでの菅総理のお話を聞いてもその思いが伝わってくるし、頑張って欲しいと思うのですが、私としてはやはり目の前にある現実の政策がその思いとズレ過ぎていないだろうかと。恐らく多くの人が同じ感覚を持っていると思います。

たとえば天下りひとつとっても、私の知る限り、仙谷由人さんがこのあいだまとめた天下り禁止の公務員制度について、役人は喜んでいるように感じます。「これで役人は大変なことになる」という声は少なくとも私は聞かない。郵政についてもまさにそうですよね。郵政について特定局長さんは今回の政策を歓迎している。それはまあそうですよね。あれは亀井(静香:元内閣府特命担当大臣[金融担当大臣])さんがまとめたものですから歓迎しますよ。郵便局の特定局長さんというものすごい既得権益を持った人たちと戦って郵政民営化を実施した。その既得権益を守ってあげようというようなことになっているわけです。これは政治ですから、たとえば自治労や全国郵政特定局長会(現全国郵便局長会)といった支持者に対するに対する配慮などはどこかでするわけです。ただそれが、先ほど感じられた思いと違う形になっているように見えるということがあります。

こういった問題について一人ひとりが解決に向けた努力をしていかなければいけないというふうに思うわけですが、今日はひとつだけ…、政治の機能回復に向けてこの場で御三方にご提案したいことがあります。現在のねじれに対応するような選挙制度改革までやろうというと、これはもう憲法改正までいく可能性があります。ですから、現段階ではイギリスの‘Salisbury Doctrine’を日本で採用していただけないでしょうか。これは皆さんがやろうと思えば出来るんです。‘Salisbury Doctrine’というのはイギリスの上院と下院で結ばれている紳士協定です。どういう協定かというと、日本で言えば「参議院は直前の衆議院総選挙で勝った政党のマニフェスト主要項目に反対しない」というものです。イギリスも二院制ですからねじれはあり得る訳です。しかし、要するに日本で言うところの「衆議院の優越」を認め、参議院は第二院的に徹したうえで専門的な議論をする。そうすると直近の衆議院選挙でマニフェストに書かれたことは参議院でもきちんと通ることになりますから、国会が停滞するということはありません。現在のように変な駆け引きをしなくても良くなるわけですよ。私はこれを野党が言い出さなければいけないと思っています。参議院で多数を取っている自民党は特にそうです。そして与党にもこれを請けてもらい、そしてみんなの党からも支持をいただくと。これはすぐに出来ますよ。イギリスでもやっているんですから。そのようにして国会の機能を正常化することが、きちんとした政策議論をはじめる下地になるのではないでしょうか。

世耕:実際のところ、現在のねじれについては我々も深刻に考えています。たとえば今回の予算関連法案が否決されると民主党の子ども手当てが完全に終わってしまうことになる訳ですよね。これが本当に良いのだろうかということはまさに議論が必要であると。‘Salisbury Doctrine’でもやれる余地がたくさんあると思いますし、憲法改正までいなかくとも現段階で色々と解決出来る問題はあります。たとえば両院協議会。私もこのあいだはじめて出席したのですが、これもうはっきり言ってセレモニーになっています。ここに各党党首クラスが集まり、最終的に衆参で異なったときに話し合って妥協の道をつくる場にするというような方向も十分にあるだろうと思います。

福山:現在の選挙区制度にした際は両院協議会で協議したんですよね。衆参の結果が違っていましたから。我々も2007年に参議院で過半数をとってずいぶん乱暴なことをしたと私自身反省もしていますが、当時も国民生活に関連する法案についてはつなぎ法案をきちんと提示して、賛成しています。現在、国会で通る法律は、今は少なくなっていますが基本的にはだいたい年間100本ぐらい。このうち60〜70本は与野党合意で通しています。ですから国民にとって必要なものについては、互いに協議したうえできちんと通していくような風土をさらにつくっていくべきだと思います。

政治というものはある種、“妥協の芸術”という部分を持っています。与野党の協議で相違が生まれたときにどちらかが妥協し、一部折れたりするなかで積みあげていく修正作業はたくさんあります。世耕さんと私でやったこともたくさんありました。ただ、問題はどちらかが、「折れた」、「交代した」、「ブレた」といったことを言い出すと、そこに抵抗が出てくるということです。「そんなことをしたらまずいんじゃないか」と。それで互いに角を付き合わせたまま破裂してしまい、結果として国民が不利益を被るケースはたくさんあります。私が先ほど、「民主主義におけるある種のステージを一段上げなければならない」とか、「日本の政策決定のあり方について考えていかなければいけない」と申しあげたのは、その意味においてです。私たちが知恵を出しながら、あるいは竹中先生が提案してくださったようなことを議論しながら、進めていかなければいけない時代が来ていると思います。

不幸の原因を取り除くのが権力の役割であり、あとは自由にやってほしいのが「最小不幸社会」(福山)

竹中:それはもうぜひ実現してください。そしてもうひとつ。官邸にいらっしゃる福山さんにぜひ考えていただきたいことは、どんな政党の政権になっても私たちの社会基盤は自助自立であるということです。政府をどれほど小さくするか、あるいは大きくするかというところで差は出てくるでしょう。ただ、自助自立ということを抜きにしてしまうと民主主義社会そのものが非常に歪んでいくと私は思っています。これは麻生政権以来ですが、自助自立ということをリーダーが言わなくなってきてしまった。民主党もどちらかと言えば、今まで自助自立ということを非常に言いにくい立場にあったという印象があります。しかし自分で出来ることは自分でやりましょうという話を前提にしていかないと、本当の意味での福祉社会はできない。自立する人がいればいるほど、本当に自助自立出来ない人、あるいは本当に恵まれない人にきちんとした措置が出来るわけですから。そのマインドセットを入れていかないと…、経済が悪くなり、経済が悪いから社会不安になり、社会不安になるからポピュリズムになると。それで世界中でポピュリズム的政策となっていることが一番危ないと私は思っています。結果的に経済も良くならず‘social unrest’だけが高まる。この悪循環を断ち切ることが出来るのはやはりリーダーです。政治のリーダーが「出来ることと出来ないことがある」と言う。そんな自助自立を現在の与党がもう少し前面に出していただけると、現状も違ったものになるのではないかと私は思います。

福山:私は、現在の社会保障制度やセーフティネットは穴だらけだと思っています。だからこそ年収200万円以下の人が1000万人もいる社会になってきている。そういった環境で治安も含めたさまざまな問題が起こっているというのを、政治の場にいる人間は見なければいけない。それをきちんと整えたうえで、あとは皆が自由に自立していくというのは当然のことだと私も思います。

総理の表現が必ずしも最適ではなかったのかもしれませんが、その点については恐らく誤解されている向きもあるのかなと感じています。菅総理の言う「最小不幸社会」とは、「自由であったり幸せであったりするということは権力が規定をするものではない」ということです。「あなたの自由はこれだ。あなたの幸せはこれだ。あなたはこういう生活をするべきだ」ということは権力が規定するものでないと。災害や病気…、そういった不幸の原因を取り除くのが権力の役割であり、政治の役割である。そこを最小にして、「あとは自由にやってください」と。誰もが自分の気持ちに応じて幸せをつくっていってくださいというのが、実は総理が仰っている「最小不幸社会」のあり方です。これはダボスで相当はっきり言われていました。ですからその辺については今の竹中先生のお話とそれほど違っているわけではないと私は思っています。

世耕:最小不幸社会と自助自立は本来同義のものであると…。

竹中:ひとつだけ。今日ここに集まっているG1メンバーは最も自立している方々ですよね。今年、全員増税になります。相続税がものすごく上がりますから。もちろん税収はどこかから調達しなければいけません。ただそこで自助自立を前面に出していかないと「取れるところから取る」という…、そういった非常に民主主義におけるひとつの恐ろしい落とし穴にはまるのではないかと私は懸念しています。私は敢えて申しあげたという意味ですので、福山さんの思いはよくわかりますし、ぜひ官邸のなかでもそういったコントロールしていっていただきたいと思っています。

福山:もちろんです。ただ私としては、その一方で法人税率の5%引き下げや中小企業の軽減税率の引き下げも取り組んでおり…、ぜひそういった点を含めてご理解をいただきたいと思っています。

世耕:本当はメディア論までいきたかったのですが時間も迫ってきましたので、最後にひとつ私から質問をさせていただいたあと、Q&Aの時間に移りたいと思います。恐らくこの会場におられる皆さんも思っておられることで、私も夕べから今朝にかけて10人ぐらいの方からいただいた問いですね。これを渡辺さんにも投げかけてみたいと思います。「もう政界再編すればいいじゃないか」と。「G1に来ているようなメンバーで新しい仕組みをつくってくれ」と私も言われましたが、渡辺さんは先ほど「腹案がある」という風に仰っていたと思います。その辺をぜひご紹介をいただけないでしょうか。

渡辺:腹案といいますか…、思い通りにいかないのが世の常でして(会場笑)、意図と結果が必ずしも一致しないのが人間の歴史です。一番手っ取り早く政界再編に向かうのは、小沢さんの問題で民主党が分裂することでしょう。どうして小沢さんに出て行って欲しいという風に言わないのか。まあ、この場をお借りして私からぜひ提案しておきますので総理とご相談してください。今の「出て行け」というのは時限的にということでしょ? 裁判が終わるまで出て行ってくれということ。そんな及び腰じゃだめなんですよ(会場笑)。とにかくもう全面対決だと。これをやったらいい。

ある方から聞きましたが、菅さんが以前…、10年前ぐらいでしょうか。若い代議士を集めて「政治の本質は何か知っているか?」と。「はい、なんでしょう?」と聞くと「野良犬の喧嘩だ」と言ったそうです。これでは余りにも悲しい。政治とは互いのアジェンダを実現するかどうかの真剣勝負でなければいけない訳ですよ。今、菅さんと小沢さんのアジェンダは明らかに違うのですから、これが一緒ということ自体がおかしい。菅さんがマニフェスト修正主義というのなら、それでやったら良いじゃないですか。小沢さんはマニフェスト厳守のグループでやったら良いではないですか。それで民主党が分裂すれば、当然その余波が自民党に及んでいきますから、恐らくは自民党も「谷垣(禎一:自由民主党総裁)さんじゃだめだ」ということになる。で、自民党も分裂をしていくんですね。そうすると、みんなの党にとっては得がたい機会になると(会場笑)。労せずして政界再編が出来る。これが一番の超特急シナリオです。

政治を変えていくリーダーを生むために、私たちができることは(会場)

世耕:分かりました。福山さんも私も今の言葉は重く受け止めておきたいと思います。(会場笑)。ではそろそろフロアのほうから質問を募りたいと思います。

御立尚資氏(ボストン・コンサルティング・グループ日本代表):シンプルな質問になりますが、まともな政治リーダーが生まれる仕組みをつくるために、我々を含めて何をすれば良いのかをお伺いしたいと思います。大変失礼な言い方になるかもしれませんが、準備を進め、満を持して、腰を据えて長期に取り組むという姿勢でないと政治が変わる気がしません。今の仕組みですとどうにもそうならないように感じてしまいます。政治を変えていくリーダーを生みだすために、私たち自身が何か努力出来ることとしてお考えになっていらっしゃることをお伺いしたいと思いました。

世耕:はい。では先ほど竹中先生がフォロワーシップということについてお話をしていましたが、その辺を含めて、いかがでしょうか。

竹中:私は長期的に見れば、やはり国民が直接リーダーを選ぶ制度のほうが民主主義として優れていると思いますので首相公選制に賛成です。ただ、これは簡単ではなく憲法マターになります。また、同じ制度のイギリスではサッチャーが11年間首相をやっているのに、日本では長くても小泉さんの5年5カ月ですよね。ですからそこは実のところ制度の問題ではなく、中身の運用と政治家の資質に関する問題ということになります。ですから、せめて政治家の資質を高めていこうというのであれば、まずはなんらかの形で討論の機会を増やしていくことだと思います。討論の機会を増やして「この人は大丈夫か」というチェックをしていくしかないと思います。私自身も自民党時代にはずいぶん反対もしたのですが、やはり派閥の談合だけで決めていくようなことが民主党でも行われている訳ですよね。そういう決定手法ではなく、ディスカッションを通じたオープンネスをもっと見せてくれと。これはマスコミが働きかけてつくるのかどうかは分かりませんが、政治のなかからもそのような動きが出して欲しいと思います。当面のところはそのぐらいしかないのではないでしょうか。いずれにせよ、長期的にはやはり首相公選制をぜひ目指して欲しいと思います。

福山:このご質問は本質的な問いですよね。私の立場から言えば政治は結果責任だということになります。一昨年の政権交代で私たちは4年の任期をいただいた訳ですから、参院選挙で我々が負けたのは厳しかったのですが、やはり4年間の結果で評価をしていただきたい。そのあと「もう一度自民党か」という議論もあるかもしれません。自民党さんにも改めて我々とは違うマニフェストをつくっていただき、もし次の4年間が自民党政権になったとすれば、そこは我々も臥薪嘗胆して次に向かっていきます。当然、そのあいだにも日本を良くするためには何を変えていくべきなのかという議論を党内できちんと行っていかなければいけません。これを言うと単純なマスコミ批判に聞こえてしまうので良くないのですが、なんでも批判されるような状況のなかでは、国民が日本の政治を変えていく圧倒的に立派なリーダーを育てようという気分になるとは思えないんですね。ですからやはり民主党としても、ある種の政権選択選挙を受けて、最低3年ぐらいは国民の皆さんに見ていただきたいと思っています。もちろん途中の批判はいくらでも受けます。私も官邸に入り、「ああ、自民党の総理や幹事長というのは何をやってもこれだけのネガティブな反応を受けていたんだ」とつくづく感じていますから。私たちは批判をいただくのも仕事ですが、やはり3年ぐらいはじっくりやらせていただきたいという考えを持っています。その結果をもって次の選挙でやり合うというようなことをしないと…、1年でリーダーを変えるというのは建設的ではありませんし、中長期的な日本の国益にも反すると思います。

渡辺:首相公選はたしかにベストですが、たしかに憲法改正という手続きが必要になります。我々は基本的に新しい憲法をつくるという立場ですが、これには相当な時間がかかってしまいます。今の選挙制度が政党中心主義になっているということは、総選挙というものは「どの政党の党首を次の総理大臣にするか」ということでもあります。それこそかつて言われていたマニフェスト選挙だったんです。我々はアジェンダと言っておりますが。ですから結局は、この政党中心主義のなかで党首を選ぶということをもっと進めていけばいいのだと思います。ですから選挙制度はもう比例制に特化した制度にしてしまったほうが早いと私は思います。参議院は衆議院に合併して一院制にするのがベストだと思いますが、これも憲法改正が必要ですから、今は参議院と衆議院の定数を大幅に削減しつつ比例に移行するよう選挙制度を見直していくと。

ここでぜひ皆さんにお願いしたいのは、政治を諦めないでいただきたいということです。もう今みたいにぐちゃぐちゃになると「やっぱり誰がやってもだめなんだ」と思いたくもなってしまいます。しかし、そういった隘路にはまってしまうと官僚ファシズムに陥ってしまう。日本ではヒトラー型の人間は出てきません。田母神俊雄さんも舛添(要一:新党改革代表)さんも60歳を越していますからヒトラーにはなりません(会場笑)。日本で一番まずいのは、試験選抜による官僚たちの独壇場になっていくことです。官僚は国民からだめだしをされませんので、無責任の体系が出来あがってしまい、“いつか来た道”を進むようになる。これが一番まずいです。ですから、政治を諦めずにどうするかを考える。皆さんの周りにも政治について志のある人たちがいると思います。そういう人を紹介(会場笑)していただいて…。

世耕:ちょっとですね(笑)、ここを紹介の場にしてしまうとですね(笑)。

渡辺:別にみんなの党だけではなくてですね(笑)。皆さんご自身でも結構です。「リスクをとってなんぼ」という、この覚悟の世界に入ってくるという人を、ぜひ応援をしてあげていただきたいと思います。

世耕:ありがとうございました。なお、自民党も一昨年大敗していますので空いている選挙区がたくさんございますから。では私もひとつコメントをさせていただきたいと思うのですが、実は今の日本は選挙が多過ぎます。平均すると衆議院選挙が2年半に1回、参議院選挙が3年に1回、そして統一地方選挙が4年に1回と。以前、マトリクスをつくって調べてみたことがあります。平成元年から昨年までの22年間で、選挙がない年が何年あったかと。もうほとんど毎年あります。ないのは5年だけで、それもばらばらにぽつぽつと。要するに我々は毎年何らかの重要な全国的選挙をやっていて、そのたびに総理大臣が責任を問われているという状況です。このところ短く止めている総理大臣を振り返ってみると分かりますよね。安倍さんは参議院選挙で負けたあとに辞めました。福田さんは近くやらなければいけないであろう衆議院選挙をやる自信がないので辞めました(会場笑)。麻生さんは本当に衆議院選挙で負けて辞めました。鳩山さんは「参議院選挙に負けるぞ」と言われて辞めました。そして、菅さんは参議院選挙に負けて足元がぐらぐらになっている。ぜんぶ選挙ですね。ですからここを直していくということで、憲法を改正して首相公選制のような形や一院制にしていくという方法もあります。

ただし、実はこれについてひとつ改善出来るポイントがあるんです。それは「衆議院の解散は参議院選挙と同時になるタイミングでやろう」という紳士協定を政治の世界で結ぶというものです。イギリスもこれに近いことをしていて、基本的に任期いっぱいまで、よほどのことがないかぎり解散はしないという形でやってきています。それを少しアレンジする。衆議院は3年に1回、必ず参議院選挙と同じタイミングでやろうと。そうすれば民意のねじれも起こりませんし、総理大臣も一度選挙で選ばれたら少なくとも3年間は続けることが出来るという仕組みをつくることが出来るのではないかと。私見になりますが、そのように申しあげておきたいと思います。では、他の方はいかがでしょうか。

どうすれば官僚と手を取り合いながら国益のために働くことができるのか(会場)

田口義隆氏(セイノーホールディングス株式会社 代表取締役社長)政治やシステムのお話とは別になりますが、どうすれば優秀な官僚の方々と手を取り合いながら国益のために働いていけるかという点についてぜひお聞かせいただきたいと思っております。基本的に官僚の皆さんは優秀な方々ばかりですから、「何かの仕組みがおかしいからその力が発揮出来ていないのではないか」と思えるときがあります。

世耕:ではまず渡辺さん、お願い致します。公務員制度改革のお話もあるかと思いますので。

渡辺:仰っていたような評価は非常に面白いと思うんですね。私としてはまず入り口で各省採用を止めさせるべきであると考えています。つまり、日の丸のゼッケンを背負って貰う。今は各省のゼッケンで採用して、人材育成に幹部登用、そして天下りと、自己完結的になっている訳です。この公務員制度をもとにした政策体系に予算がくっついてきますから、若手官僚がイノベーティブな政策を持ってきても潰されてしまう。そんな仕組みになっています。ですからそのゼッケンを外す。私が大臣のときには、内閣人事庁というものをつくってそこで採用する日の丸官僚制度にしようという提案を致しました。実はこれ、自民党内、政府内手続きも通って国会に出されたんです。残念ながら国会にて修正を施された。内閣人事庁では大き過ぎるから秘書室みたいに小さな人事局にしようと。要するに「日の丸官僚の“企画立案組”だけ人事庁採用にするとスーパーキャリアをつくるからだめだ」と、実は民主党筋から言われて断念した次第です。しかし、日本の優秀な官僚を育てるにはこういうことをやるしかないと思いますね。

現在はキャリア官僚を600人採用していますが、“企画立案組”と“執行組”と“専門組”…、この3種類に分けて、それぞれの試験区分においてどのルートからでも課長になれると。幹部にもなれます。中途採用もOKにします。要するに出入り自由ということですね。これは幹部が天下りをするためではありません。若手が民と官のあいだで自由に行ったり来たり出来るようにしようとういう意図であって、幹部は特別職にすればいいんです。幹部の任期は1年とか2年とか…、民間で言えば執行役員のようなものですよね。その任期が終わったときに優秀な人間が再任することもあれば、業績を残さない人間は課長級に降格だってありますよと。こういう制度が優秀な官僚を適切に使っていく人事制度になると思います。

福山:私はですね、基本的に日本の官僚は優秀で、政治家がしっかりと指示を出せば動いてくれるものだと思ってやっています。官邸には各役所からそれぞれ局長級の人などが来ます。皆、本当に優秀だと思います。ただし、それぞれの省庁に長年の伝統や風土があって、そこから逸脱出来ない人と、「逸脱して頑張ろう」という人が両方いるんですね。しかしそういった人たちは両方必要です。ですから渡辺代表の言われたオールジャパン採用かつ出入り自由というのもひとつの案だと思います。私としては一定の職位まで…、たとえば局長ぐらいまでのぼった途端に、「どこの省庁にいくか分からないよ」と。あとはそれぞれの省庁で国益のために仕事をしているかどうか、チェックするような機関が出来ればきちんと働いてくれると思っています。

ただ、基本的に官僚は安い給料で朝から晩まで働いてくれていますから、私はその能力については信頼をしたいと思います。実は指示を出す側に問題があると。政党や政治家がきちんと指示を出しているか。いい加減な指示を出しているかによって、彼らも判断すると思います。こんな人に仕えても仕方がないとか、こんな人のために一生懸命やっても仕方がないとか。「国益に反するから、ここはまあ、自分たちもおとなしくしていよう」と考える。つまり官僚制度の仕組みというより、政治と役人側とのコミュニケーションという問題が非常に多いと思っています。全体で言えば日本の官僚というのは総じて優秀であろうと。ただ、たしかに縦割りが少しきつい役所はいくつかありますね。省庁によっては親元しか見ていないところがありますので、そこは体質改善をしていくしかないと思っています。

竹中:お二方が仰っていたことに反論はまったくありません。同感です。ただひとつふたつ、具体例をあげて申しあげたいことがあります。果たして官僚は優秀か。ひとりずつを見ると優秀です。日銀の人と話をしていると、「本当に色々なことを考えていて優秀だなあ」と感じます。ただしひとつだけ不得手な分野があります。日銀の人間は金融政策が不得手である。財務省の人であれば財政政策が不得手であり、税制が不得手である。これは何を意味するのかというと、要するに政策というのは国民のためにやる筈なのですが、終身雇用である官僚制度のなかで自分たちの利権を持つようになってしまっているということです。ないしは自分たちで独特の美学を持ってしまっているということです。これをうまく使うのが政治主導ですね。

政治主導には二つのパターンがあると思っています。ひとつは田中角栄パターン。田中角栄さんははじめて大臣として大蔵省に行っとき、「私は君たちみたいに東大も出ていないし何も分からない。だから、大臣室を開いているのでいつでもなんでも言ってきてくれ」と言いました。「君たちの優秀なところをぜんぶ活用したい。その代わり、私は政治家で修羅場も経験している。だから最後は俺に決断させてくれ。決めたことにはぜんぶ自分で責任を持つ」と。これはひとつのパターンですよね。

もうひとつのパターンは官僚と対等以上にやり合えるような政策能力を持つことです。「これはおかしいのではないですか?」、「こうしたほうが良いのではないですか?」と言ってうまく使いこなす。両方に共通するのは、やはり霞ヶ関・永田町独特の風土を理解し、さらにそれを超える経験を持っているということです。ですから皆さんにはぜひ何らかの形で30〜40代ぐらいのときに…、もう手遅れの人もいるかもしれませんが(笑)、2年ぐらい霞ヶ関・永田町の風土にあたって欲しいと私は思っています。そうすると大臣として、その力を発揮出来る。本当の意味で役人の力をうまく引き出すことが出来るのではないかなと思います。

世耕:ありがとうございます。ここでお時間が来てしまいました。毎年、政治というのはG1サミットでも先頭のテーマにしていただいております。しかしそのぶん、必ずしも政治が毎年良くなっている訳ではないという点について、我々は責任を痛感しています。それだけにG1メンバーとしても改革の志を強くたずさえ、良い政治をつくっていくためにこれからも頑張っていきたいと思っています。ですから今後とも、皆さんどうぞよろしくお願い致します。本日は本当にありがとうございました(会場拍手)。

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