ティナ・シーリグ 『20歳のときに知っておきたかったこと』著者が語る 

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ティナ・シーリグ氏は、米スタンフォード大アントレプレナーセンターのエクゼクティブディレクターで、「起業家養成講座」「イノベーション」などのクラスを担当する名物教員。著書『20歳のときに知っておきたかったこと』が昨年ベストセラーとなり、日本での知名度が急上昇した。

その型破りな授業は、全米でも高く評価されている。「手元にある5ドルを2時間でできる限り増やすこと」と言った課題を学生に次々に与え、課題を解決していく中で、起業家精神やクリエイティビティを醸成していくといった仕立てだ。

経歴からしてユニーク。スタンフォード大医学部で神経科学の博士号を取得後、ビジネス界に転身。戦略コンサルタントや起業など様々な経験を積んでいる。

講演では、実証実験の成果やビデオ素材などを巧みに使いながら、スタンフォード大の授業さながらにオーディエンスを巻き込み、「常識に挑戦する」「問題を組み替える」といった「クリエイティビティを高める9つの要素」を紹介した。

「最大の過ちはクリエイティブなアイデアを阻害することです。アイデアがなければ、どれほど時間やエネルギーをかけてもイノベーションは起こりません」と説く。

さらに続く対談、質疑応答のセッションでは、自身のクリエイティビティを育んだ子ども時代の思い出や、人生観についても触れ、「私たちが生きる世界には数えきれないほどの不確実性がある。答えがないことを怖いと感じるかもしれない。『自分自身の冒険映画をつくっているようなものだ』と楽しむことが重要」と熱く語った。

ティナ氏は言う。「若い方々自身が未来そのもの。社会はみなさん次第でいかようにも変わります。その社会がどういったカルチャーになるのか。その社会のなかにある企業カルチャーがどのように変化していくのか——。それはすべてみなさん次第であり、一人ひとりが未来のリーダーなんです。それを忘れないでください」。

混迷深き、寄る辺なき時代。見通しが立たず、個々人がそれぞれに人生を切り拓いていくことが求められる今、「一人ひとりに起業家精神を」というティナ氏のメッセージは、力強く響く。

人生とは自分自身の冒険映画を創るようなもの

中村知哉・グロービス経営大学院副研究科長:本当にありがとうございました。我々グロービス経営大学院は、「社会に創造(イノベーション)をもたらすリーダーを育てたい」と考えていますので、クリエイティビティというテーマは、本当にぴったりのトピックでした。

ここからは対談のセッションにうつります。まずティナさんご自身のバックグラウンドについて伺いたい。幼少期、思春期と、どのような子どもでしたか?

シーリグ:とにかくエネルギッシュだったと思います。いつでもどこでも刺激を求めているような子どもでした。科学がお気に入りで、特に実験が大好き。親から貰ったもののなかで、顕微鏡を一番大切にしていたぐらいです。庭で拾ったものを、かたっぱしから顕微鏡でのぞいたりしていました。

私はとてもラッキーだったと思います。私の家庭…、特に父は非常に好奇心が強い人で、なんでも探求してみようという人でした。たとえば、私がチューブの歯磨き粉の蓋を開けたまま放っておいたとしますよね。すると父親は「だらしがない」と私たち兄弟を並ばせて叱るのですが、「今からうそ発見器のテストをする」と言って脈まで測るんです。そして興味深そうに質問を始めるんですね。「名前は?誕生日は?好きな色は?…じゃあ歯磨き粉の蓋をそのままにしておいた人は?」って(会場笑)。もちろん半分ジョークでしたが、そんな風にして、私たちに色々なことを教えてくれる父でした。

中村:お父様自身がすぐれた観察者であり、指導者だったのですね。

シーリグ:その通りです。常に山ほどの質問を投げかけてくるような人でしたから、私自身、授業で使っている問いかけの方法を父から学んだと思っています。

中村:顕微鏡や実験に対する興味が、神経科学分野の博士課程に進むという道に繋がっていったのですか?

シーリグ:私は人の行動に興味があったので最初は心理学を勉強しました。次に脳について勉強するようになったんです。素晴らしい経験でした。神経科学にワクワクしたのは、人間の行動と科学がそこで繋がっていたからです。

脳について勉強したのは学部生の頃でした。それから神経科学でPh.D.を取得しましたが、博士号を取得する段になって初めて、「脳の機能はまだまだ解明されていない」ということに気が付きました。「そのことを最初に言ってくれていたら私の時間はずいぶん節約出来たのに!」とは思いましたが(会場笑)。

科学者の世界には、一つの絶対正しい答えというものがない。そのようなフロンティアに立っているのであれば、不確実性という発想に慣れなければいけません。他の人たちが得た結果にも改めて挑戦する必要があります。先行研究は間違っていないかもしれませんが、もしかしたら最良のソリューションではないかもしれない。結局、私は科学者であるということから、どうしてもクリエイティブにならざるを得なかったということです。

中村:「不確実性(Uncertainty)」というキーワードについては著書でも触れられていますが、もしかしたら学生時代にさまざまな不確実性を見ていたからこそ、物事を違った視点で見るといった力が養われていったのかもしれませんね。

シーリグ:私たちが生きる世界には数えきれないほどの不確実性があります。重要なのは、不確実であることを心配したり不安がったりするのではなく、楽しむこと。「答えがあるべきなのにそれが分からない」ということは、若い頃はとりわけ怖いと感じるものです。私は「それで良いのだ」と思っています。「これは旅のようなものだ。自分自身の冒険映画をつくっているようなものだ」とね。毎日選択を繰り返して面白いソリューションに行き着けば良い。そう考えられるようになれば、物事もまったく違って見えてくると思います。やはり心構えが大切になるのではないでしょうか。

「出会いを大切に」の本義

中村:そういえば著書に興味深い表現がありました。「一度快適な道(comfortpath)を外れたとき、人は多くのものに出会う。それによって別の道に繋がっていく」という一節です。人生に対してそのように感じられるようになったご経験などがあればお聞かせ願えますか?

シーリグ:著書のなかで私が一番好きな話は、食料品店でとある男性とお話をしたという出来事です。「レモネードはどうやってつくるのですか?」というたわいもない会話から、長期的な人間関係が生まれたというストーリーです。会話ということ一つとってみても、どういった会話をするとどういったことに繋がるか、本当に分からないものなんですよね。素晴らしいことです!

私は、世界中の人とお会いすることで、いつでもワクワクしていられます。数日前も講演をさせていただいたとき、ある若者が私のところへやってきて「お手伝いしたい。東京ならどこでもご案内出来ますよ」と申し出てくれました。そこで昨日、その若者に東京を一日案内して貰ったんです。今では彼も友人の一人だと思っています。彼が勇気を出して「ハロー」と言ってくれたから、新しいドアが開いたんです。

中村:そのような出会いは自然に生まれてくるものなのでしょうか。長期的な人間関係を築くことが出来るような人と出会うための、心構えのようなものがあれば、ぜひ伺ってみたいです。

シーリグ:たとえばここにいらっしゃる方々がインタラクションを起こすことで、どれだけ多くのアイデアが生まれ、どれほど面白い人間関係が生まれていくものなのか。それを考えるだけで興奮しませんか?数カ月前、マイクロソフトのスティーブ・バルマー(CEO)氏とお話しをする機会があったのですが、彼はビル・ゲイツ氏と出会った当時、彼と同じ大学の寄宿舎に住んでいました。同室だったそうです。

「そのときに話をしていなかったら現在の関係は生まれていない」と言います。特に学校にいるときの出会いはとても大切です。みなさんも出来るだけ多くの人と知り合ってください。出会いこそが、あなたの人生に大きな影響を与えます。

中村:ありがとうございます。グロービスでは教育理念の一つとして人的ネットワークの構築を挙げています。英語によるMBAプログラムも2009年に開始しましたので、英語MBAプログラムを受講される方にはぜひ国籍や文化が異なる方たちとネットワーキングしていただきたいと思っています。

シーリグ:素晴らしいことですね。ただ私自身は、“ネットワーキング”という言葉が好きではありません。ネットワーキングという言葉は、なんだか短期的で、その場その場の機会に便乗するだけのような印象を受けます。他人を助けたい、他者とつながりたいといった純粋な願いとは違うような気がするんです。自分の得になる付き合いだけを選ぶ感じがします。

学生の可能性を引き出す問いかけの術

中村:次にスタンフォードのクラスについてお聞かせください。講義で実施されている数々のプロジェクトには本当に大きな感銘を受けています。たとえば「innovationtournament」は、各チームに5ドルを提供し、学生たちが18時間以内にその5ドルを元手に幾らまで増やせるかを競うという試みですよね。こういった課題のアイデアはどのような視点から生まれてくるのでしょうか。

シーリグ:学生には、私自身がどうすれば良いのか分からないことを課題に出すことにしています(会場笑)。当然ながら、これまで出題したことのある課題も出しません。私自身が驚きを得たいからです。ですから、学生たちが「こんなの無理だろう」と感じるぐらい、少々クレイジーなことを思いついているということですね。

学生たちにアドバイスを求められても、「みなさんで考えてください」と言うことになります。それが楽しいんです。学生も色々と考えを巡らせ、ついには不可能だと思っていたことも可能にしていくようになります。そのような経験を通し、彼らは学びを得ていくのです。「一見不可能なものでも、可能にできる」と認識するようになることは大変重要なことです。

中村:クライアントや学生が何か新しい視点を持てるようにするために、私たちは何をどのように伝えていったら良いのでしょうか。

シーリグ:とりたてて難しいことをする訳ではありません。「これは一つのものの見方ですね。ところで、別の見方はありますか?」という問いかけをすれば良いのです。教育者である私たちに求められているのは、そのような設問の投げ方です。学生を勇気づけて励まし、いくつもの答えが出てくるような問いかけをすることです。

「停滞」から、「チャンス」のマインドセットへ

中村:今回、日本に来てみて、率直にどのような印象を持たれましたか?

シーリグ:本当に素敵です!お目にかかったすべての方に魅力を感じました。誰もが温かく歓迎してくださる社会ですね。私自身もさまざまな洞察を得ることが出来ました。今回改めて感じたのは、「最良の学びとは実際に足を運んでみること」ということです。

日本については書籍を通して知っていた事もありますし、日本の映画だって見ています。Wikipediaで知ることも出来ますよね(会場笑)。しかしながら、やはり足を運ばないと分からないものです。私が日本に来て肌で感じたのは、信じられないほど豊かな文化と歴史があるということです。これは本当に貴重なことですよ。それによって現在起こっていることもすべて説明出来るからです。

この点はカリフォルニアやシリコンバレーのようにすべてが新しい土地とはまったく違いますね。逆に言えば、伝統がないのであれば、そこに足を引っ張られるということもないということになります。伝統というものは、素晴らしいリソースでありながら、一方では、阻害の要因にもなってしまうという両方の側面を持っているのだと感じました。

中村:おっしゃる通り、日本には二面性があると思います。伝統的に豊かな文化を持っている一方、イノベーションに向けた障壁も高い。日本経済を見てみると、90年代にバブル経済が崩壊してからおよそ20年も低迷したままです。日本企業では新しいビジネスをどのように構築していくのか、あるいは起業家精神をどのように育成していくなど色々な課題が山積みです。短い時間ではありますが、その辺について何かアドバイスをいただけますでしょうか。

シーリグ:出ましたね!ちょっと言わせて下さい。日本でお会いする方は、どなたも、「日本は今低迷しているんです」と言います。「低迷」という言葉をあまりにも耳にするために、「自分たちには何も出来ない」と悲観的になっているのではないでしょうか。メディアや世間が「停滞している」と20年間言い続けているのならば、日本の若い人たちは生まれたときから停滞という言葉しか聞いてないということになりますよね。それは彼らのマインドセットに大変なインパクトをもたらすと思います。「結局、自分たちは停滞した環境のなかで育ってきたし、何も出来ない」と無力感が募る気がします。

あまり低迷とか停滞という話をせず、チャンスの話をしたほうが良いと思いませんか?問題があるということはチャンスがあるということです。周りを見渡せば、知的でクリエイティブな方はたくさんいらっしゃいます。実のところ、新しいことをはじめられるかどうかはみなさん次第なんですよ。

アメリカでも過去数年間、経済的に大変深刻な停滞に陥りました。でもアメリカの学生は常に景気後退とともに育ってきた訳ではなく、数多くのチャンスを感じながら育ってきたわけです。だから、自分たちの就職先がなくても、「まあいいじゃないか」と言える。仕事がないのであれば、親にも「仕事ないんだよ。自分の会社を始めるしかないじゃないか」と言えますよね。だから学生が立ち上げる会社が非常に増えていきました。彼らは経済的な停滞を自分たちのチャンスに変えたのです。景気後退とともに失敗も増えたと言われますが、実際のところそれは間違いで、起業数自体は増えているんです。

中村:そこもやはり心構え次第ということですね。

シーリグ:そうです。この会場にいるみなさんだけで、今夜中に20社ぐらいは起業出来ますよ。

中村:たしかに日本は、たとえばガールズファッションに代表されるようなコンテンツ力など、世界の最先端を行っています。

シーリグ:そうです。日本のガールズファッションはもう本当に信じられません。先日行ったのはなんという場所でしたっけ?そう、原宿!本当に素敵なところでした!

中村:海外の友人が日本に来ると、よく「原宿に連れて行ってくれ」と言われますね。ファッションのトレンド、携帯電話の新しい機能や使い方、あるいは世界中に溢れている漫画…、そういった分野でのチャンスはたくさんあるのだと私も感じます。ですからやはり私たち次第ということですね。心構えを変えることが出来るかどうか。特にグロービスで勉強している人たちは創造と変革について学んでいる訳ですから、日本社会を引っ張って行っていただきたいと思います。

シーリグ:もうひとつ大事なことがあります。それはロールモデルとなっている人々を大きく評価することです。シリコンバレーでもスタンフォードでも、ロールモデルとなった人々は、「こういう人たちがいて本当に良かった。素晴らしい!」と絶賛されています。成功した人たちのことを賛美するのは大切なことです。日本にもファッションや芸術の分野で成功者がたくさんいますよね。テクノロジーの分野も同様です。彼らを賛美し、「こんなに素晴らしい成功があるんだ」というお手本を皆で共有すべきだと思います。

中村:日本はこの経済状態で苦しんできた末、近年では「(グローバルに)競争していかなくては」というプレッシャーが掛かりはじめてきています。しかし、捉えようによっては、これは一つのチャンスだと思います。私が長くたしなむ合気道とシリングさんのご専門の神経科学の観点で少しお話をします。武道では乱取りという稽古があります。一度に数名の有段者を相手にするのです。この時、「競争」(相手を打ち負かそう)と考えているとこの稽古を乗り切ることはできません。ただし、「共創」(共に創る)と考えると、何とかこの稽古を乗り切ることができます。そして、「共創」と考える時の脳波は、瞑想している時のように安定していると言われています。この辺りに日本のこれから進むべき道のヒントがあるように思います。シリングさん、ご対談をありがとうございます。とても楽しかったです。では、ここからは会場の方々から質問を募りたいと思います。

失敗を恐れず、失敗から学ぶ

会場:著書ではリスクをとることの重要性についても言及されておりましたが、リスクと向き合うにあたってティナさんが大切とお考えになっている要素をお聞かせ下さい。

シーリグ:リスクをとるという行為は「馬鹿げたリスクに身を投じる」ことと同義ではありません。「もしかしたら自分が快適だと思う領域の外側にあるものであっても、責任をもって実行出来る行動を選ぶ」ということです。

たとえば誰かがエベレストに登るとしましょう。これは大きなリスクを伴う行動です。準備なしでそんなところに行きますか?きちんとトレーニングを受け、体調を万全にして、ガイドを雇い、そして装備も揃えますよね。すべての準備を可能な限り整えることで不要なリスクをなくし、実際の登山に臨む訳です。

それがアントレプレナーやベンチャーキャピタリストがすべきことです。彼らは自分たちが“リスクテイカー”だなんて思っていません。私がベンチャーキャピタリストに事業計画を発表するときも、彼らは最もリスクの低いプロジェクトに投資したがります。そのことを肝に銘じておく必要があります。リスクをとるということは、自分にとって快適な領域を膨らませるためのチャレンジを意味しているのです。大きなアイデアを持つということでもあります。しかし、だからと言って準備もなしに飛び込むということではありません。

会場:失敗に関するお話がありましたが、失敗というものについてもう少し踏み込んだお話を伺いたい。また、社会的なイノベーションや社会起業家に関するお考えもお聞かせください。

シーリグ:失敗を恐れる気持ちは人類共通ですが、世界のなかでも日本は特に「失敗が許されない」という大きなプレッシャーがある社会だと聞いています。これについては著書に載せたことを、少し言葉を変えたうえで改めてお話ししてみたいと思います。

みなさん赤ん坊のころに初めて歩いた瞬間がありましたよね。そのときは必ず転んでいたはずです。初めて自転車に乗ったときはどうでしたか?誰かが後ろで支えてくれていましたよね?それをやらない人なんていません。それなのに、どうして大人になって複雑なことをやろうというときになると、最初から失敗しないで実行することだけを求められなければならないのでしょうか。これは非常に重要なポイントです。

「失敗は良いことだ」と言われると誤解をしてしまいますが、「失敗しようと思ってやれ」という意味ではありませんし、誰もが成功するためにベストを尽くしているわけです。「失敗は良いことだ」という言葉の本当の意味は、失敗や挫折を経験してもそこから何か学べることが、必ずあるということです。

「失敗には二つの種類がある」ということを覚えておくと良いでしょう。一つは実行上の失敗。やるべきことをやらなかったという類の失敗ですね。「メールを送るべきときに送らなかった」「プロダクトをきちんと出さなかった」…、これは悪い失敗です。一方、良い失敗というのは、きちんとした実行を伴って何かを試したけれども、そもそものアイデアが成功に結びつかなかったというものです。

社会起業家に関する私の意見ですが、こちらはしばしば物議を醸すことがあります。この言葉が大嫌い。もう「税金を払う」という言葉と同じぐらい(会場笑)。なぜかというと、社会起業家という言葉を使う人が、起業家自体をまったく理解していない人たちばかりだからです。

私の考えでは、起業家とは「大きなチャンスを掴む人」のことです。もう少し噛み砕きましょう。「限られたリソースを使って何かを実行し、大きな貢献をする人のこと」でもあります。どうでしょう。誰の人生にも、どのような場面でも、起こり得ることではないですか。企業だけではなく、です。ですから私は、「私たちの誰もが起業家であるべきだ」と確信しています。それだけでも充分に社会的価値を生んでいるのに、なぜわざわざ“社会”
と付ける必要があるのでしょうか。

会場:著書のなかでガイ・カワサキ氏の「大きな問題を解決しようと考えている人は、最終的には利益をあげる。その逆はしかりではない」という一節を紹介されていましたが、この点について改めてティナさんのご見解をお聞かせいただけないでしょうか。

シーリグ:カワサキ氏は「お金を儲けるのではなく、まずは‘meaning’をつくるのだ」と言っているんですね。‘meaning’が第一義であり、次にくるのがお金儲け。そうすることで、企業は再び‘meaning’を得ることが出来ると考えているからです。それは同時に、「お金儲けからスタートすると、その両方を得ることが出来なくなってしまう」という学びでもあると、私自身も考えています。

誰でもクリエイティビティに磨きをかけられる

会場:クリエイティビティを高めることの出来る人とそうでない人との違いについて強い関心を持っております。両者の違いはどこから生まれてくるのでしょうか。

シーリグ:「他の人よりもクリエイティブな人というのは、一体どんな人なのか」という質問に置き換えても良いかと思います。たしかにご指摘の通りですね。次のように考えてみてください。たとえば数学が他の人よりも得意な方がいます。同様に、運動能力や音楽の才能が突出している方もいます。クリエイティビティもそれと同じだと、私は考えているんです。

ただ、大切なポイントは、「皆がベターになり得る」ということ。私はピアノ奏者ではありませんが、練習をすれば演奏力を高めることが出来ます。あるいは演奏能力自体は高められないとしても、もしかしたら音楽のことをより一層理解出来るようになり、リスナーとして鑑賞力が高まるかもしれません。同様に、アントレプレナーシップやクリエイティビティについても、誰もがなんらかレベルのスキルを持っているのではないでしょうか。そして練習することでそれがさらに磨かれていくということです。

子供は皆クリエイティブです。彼らはいつだってクリエイトしていますよね。ところが私たちの教育制度が彼らからクリエイティビティを奪ってしまうんです。たとえば自分の息子のことについて考えても、学校のシステマチックな教育システムによって、彼のクリエイティビティが閉ざされていく場面を何度も目にしてきました。彼は幼いころ、素晴らしい絵の才能があったんです。ところが教師が細かいことまで束縛するようになってからというもの、制限のある絵しか描けないようになってしまいました。これは悲しいことですよね。誰かがルールで縛りをかけることによって、「自分には出来ない」と諦めてしまう…、そんな経験、みなさんも少なからずあるのではないでしょうか。

会場:これまでスタンフォードだけでなく世界中で講演をされてきた結果として今の著書があると思うのですが、今後はクリエイティビティを高めていくために教育者としてどういったことをしていきたいとお考えになっていらっしゃいますか?また、「まだ誰にも話していないけれども、何か面白いことを考えている」といったことがありましたら教えていただきたいと思っています。

シーリグ:秘密を教えろと言うんですね(会場笑)。新しいことと言えば、私は現在、次の著書を執筆しています。『Ingenius』というタイトルです。とても書くのが難しいテーマですが、どんなツールによってクリエイティビティが解き放たれるのかをお伝えしたいと思っています。今日の講演もそのためのアイデアを試すひとつの実験です(笑)。

クリエイティビティを高めるということに関して、日々様々なギャップを感じています。どういったツールがそのギャップを埋めてクリエイティビティを高められるのか、毎日考えています。まだ書き上げてはいませんが、みなさんからのフィードバックをうけて完成した著書を読む瞬間が、何より私自身にとっても楽しみな時間になりそうです。

会場:起業家としてではなく組織のなかで働く人も多くいます。会社組織という環境のなかで部下にクリエイティビティを発揮させるにためには、上司としてどのように関わっていけばよろしいのかを教えていただきたい。

シーリグ:素晴らしい質問ですね。色々なことが出来ますよ。まずは部下を勇気づけながら、彼らがアイデアを出しやすい環境にしていくことです。彼らにこう話してください。「もし何らかのソリューションを積極的に目指して、その結果が不確実であったり失敗であったりしてもあなたが罰を負うことはないよ」と。また、異なる視点を持った多様な人を集めて問題にあたらせることも、一つの方法でしょう。部下に正しい答えが分からないような大きなチャレンジを与えるというのも良いですね。そして、面白いアイデアを持ってきた人にはきちんとreward(報奨金、ごほうび)を与えることも大切です。

他にも、クリエイティビティを高めるような空間にするという手段だってあります。オフィスに入ってきたときに彼らが「今までとは違う場所だな」と感じられるよう、空間づくりを心掛けるのはとても効果的だと思います。そのための空間デザインを部下とともに行うというアイデアもありますね。また、短い時間のなかで「innovationtournament」のようにチャレンジの機会を与えるのも良いですし…、本当にさまざまな手段があり得ると思っています。

今のご質問を別の文脈でもお話させて下さい。大企業ではルーティンワークしかしない人もいるという事実をどう考えるか、です。ルーティンワークばかりの仕事でどのようにクリエイティビティを高めていけば良いのか。私の考えでは、真のクリエイティビティはどのような仕事でも発揮されると確信しています。ルーティンワークであっても、それをもっと高効率にするとか、あるいはもっとエンパワーするにはどうすれば良いか…。そこで特に注意すべきことは、実はルーティンワークを担う人材もたくさんのアイデアを持っているかもしれないということです。ですから必ず社員一人ひとりにチャンスを与え、クリエイティビティを向上させるようにすれば事業全体が好転していくと思っています。

私はよく長距離のフライトで客室乗務員の方とお話をするのですが、そこで、「航空業界についてどう思いますか?」といった意見を伺うと、彼ら彼女らは誰よりもよく知っているんですね。どうすれば航空業界が良くなるのか分かっている。ところが誰も客室乗務員には意見を訊かないんです。本当は、社内のあらゆる人をエンパワーしてクリエイティブなソリューションを提示して貰うことが大切なんです。非常にユニークで効果的なアイデアが出てくること請け合いだと思います。

会場:本日のお話を伺いまして、先生ご自身のユーモア精神にとても大きな感銘を受けた次第です。アイデアやクリエイティブといったものとユーモアとのあいだには何らかの関係があるのでしょうか。また、役員室で誰もが渋い表情になって、「マーケティングのアイデアがいまいちなんだよな」という暗い会議が続いている場を、どうすればユーモラスに出来るのかといったアイデアもあればお聞かせ願えないでしょうか。

シーリグ:素敵な質問ですね。ユーモアはクリエイティビティにおいてどんな役割を果たすのかというご質問ですね。実際のところ、私は本日お話しした9つのコンセプトにもう一つ追加するとしたら、10番目には遊びの要素を入れます。遊びの精神はとても重要です。「そんなものは馬鹿げている」と思えるようなアイデアが、クリエイティビティを向上させることだってあります。皆が渋い顔をしている状態から、何か素晴らしいアイデアを思いつくなんていうことは考えられないですよね。ユーモアと遊び心は非常に大切だと、私自身も強く思っています。

ところで女性の方でどなたかご質問はありませんか?男性ばかりじゃないですか(会場笑)。

会場:私は現在、給与の面でも社会的な面でもとても安定した金融企業に務めております。職場はかなり快適な状況だと私自身も認識しておりまして、あまり変化に対する強い欲を持てないでいます。こういった状況にある場合はどのように考え方を変えていけば良いのでしょうか。

シーリグ:良い質問ですね。何故なら、皆、「現在は快適」だからです。しかし皆が同じであれば、すぐに誰かがベターなソリューションを見出し、それを提供していくでしょう。そこが重要なんです。現在の満足に浸っている状態のままで、「変わらないほうが良い」と言っていると、皆さんは世界が変わったときに体制を整えることが出来ていないということになってしまいます。ですから、クリエイティブでなくてもよいというケースはまったくありません。少なくともどこかのグループが未来のことを考え、何かこれまでと違ったことをするにはどうすればよいかと模索する必要があると思います。

現在したためている新刊にも載せる予定なのですが、アマゾンでインターナショナルビジネスのトップを務めている方とお話ししたときのことを例としてお伝えしたいと思います。彼に「アマゾンにおけるイノベーションの状況はいかがですか?」と伺ったところ、彼から返ってきた答えは非常に興味深いものでした。

皆さんも電子書籍リーダーの「Kindle」はご存知ですよね?印刷物の対極にあたる電子書籍リーダーをアマゾンが開発するなんていうことは、誰も想像していませんでした。つまり、これまでとはまったく異なるビジネスにアマゾンはチャレンジしていったのです。その点について伺うと、彼は、「一番大きなミステイクはexecution(実行)のミスではない。想像力が欠落することこそ最大のミスなんだ」と言っていました。

アイデアを持ち得ないことで、アマゾンは大変なチャンスを失っていたかもしれないからです。イマジネーションは絶対に持たなければいけません。安定的な会社でも例外なくイマジネーションを携えながら前進し、未来に備えなければいけないということです。

会場:「先例がないことをしてはいけない」と言われています。そのような状況で、どのようにすればクリエイティブになれるのでしょうか。

シーリグ:この会場にいらっしゃるたくさんの若い方々自身が未来そのものなんです。社会はみなさん次第でいかようにも変わります。その社会がどういったカルチャーになるのか。その社会のなかにある企業カルチャーがどのように変化していくのか。それはすべてみなさん次第であり、一人ひとりが未来のリーダーなんです。企業、ひいては社会の大原則をつくり、交流をするための環境をつくること。そしてクリエイティビティを刺激するような文化にしていくのだという気持ちを常に忘れないでいただきたい。現在置かれている環境が自分自身の考えに適していないのであれば、同僚と一緒に何か違うことを始めようというのも考え方の一つですね。もちろん、上司たちが全員リタイアするまで待っているというアイデアもありますが(会場笑)。

いずれにせよ、ご質問された方が陥っている問題は、日本で伺った大きなトピックのひとつだと思います。本当に息が詰まるような心地だろうと思います。しかし、結局はご質問された方が、自分で組織をつくる、変えることも出来るという意味で、みなさん次第なのではないでしょうか。ぜひ頑張ってください。幸運をお祈りしております。

中村:ありがとうございます。それでは時間もやってきたようですので、本日のご講演はこちらで締めさせていただきたいと思います。ティナさん、本日は素晴らしいご講演をしていただき本当にありがとうございました。皆様、最後にもう一度、盛大な拍手をお願い致します。

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