長谷川閑史氏×小林喜光氏×島田精一氏「次代に引き継ぎ、変革し、新たに創るもの-II」 

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いまだ新たな秩序体制の見えぬ世界(長谷川)

長谷川:ただいまご紹介いただきました長谷川でございます。今回、私は堀さんから「ぜひG1サミットというものに来て話をして欲しい」と言われまして、一体どんな方々がいらっしゃるのだろうと思いながらやって参りました。「これからの日本を担う若手ばかりです」とのことでしたので、そんなところに年寄りが行って何をお話しするかとも思いましたが、「とにかく言いたいことを好きなだけ言ってください」と言われまして参上した次第です。

で、今朝東京を発ったのですが、この雪にも関わらず車で参りましたのが大失敗でございました。9時に到着する予定だったところが着いたのは2時半となってしまい、ずいぶんご心配をかけてしまいました。進行に穴を開けなくて良かったと安心しています。実は女房も一緒に来ておりまして、「(講演を)聞きに来るか?」と聞いたら「こんな素晴らしいリゾートホテルで良いお店がたくさんあるからそっちをぶらぶらしている」と(会場笑)。「あなたの話を聞いても仕方がない」と言われてしまいまして(会場笑)。皆さんにはそのような失望を抱かせないよう、出来るだけ頑張りたいと思っております。

さて、本日は「次代に引き継ぎ、変革し、新たに創るもの-II」というテーマでお話をさせていただくにあたって、サブタイトルを加えさせていただきました。ご存知の方も多いと思いますが、ある著名なタイトルをもじって、「さあ、これから日本の“不都合な真実”について語ろう」と、少々ひねくれたサブタイトルになっております。これはどういうことか。まずは日本で「失われた20年」と呼ばれる時期が過ぎていたあいだ、世界がどのように変化していったのかというところからスタートさせていただきたいと思います。

1989年の11月に東西冷戦体制の象徴であったベルリンの壁が崩壊しました。第二次大戦に勝利した大国が世界を管理するというヤルタ体制および冷戦構造の終焉とともに迎えた一極体制によって、世界の安定と平和がより進むのではないかと当時は期待された向きもあった訳です。しかし、実際には逆のことが起きました。混乱の時代です。新たな秩序を模索しながらも、なかなかそれが確立出来ない。そういった状況のまま二十余年が過ぎてしまっているというのが現実であります。我々がこのあいだに抱いた、「これから本当の民主主義時代が来て世界は平和になる。世界に繁栄がもたらされる」という期待は、残念ながら今のところまったく実現しておりません。

一方、日本政府はどうでしたでしょうか。冷戦構造の崩壊以後、加速度的に変化する時代の流れを的確に把握して果断な改革に取り組んできたのかというと、こちらも疑問が浮かぶ訳であります。残念ながらその実態は失われた20年と言われるまま、まったくの停滞を続けていたというのが偽らざるところであると。ただ、それはなにも政府だけの責任ではありません。我々産業界または企業人の責任も大であります。同様に、この国で起こるすべてのことついては、国民もきちんと責任を担わなければいけない。私はそう考えております。

この二十余年をもう少し詳しく振り返ってみましょう。89年、ベルリンの壁が崩壊するとともに冷戦構造が終わりました。そのときアメリカは…、実現出来たかどうかは別にして、90年7月に行われたヒューストンサミットで4つの提言をしています。第一に、国境を持たず自由に競争する経済主義を標榜していく。第二に、人権を尊重する民主主義を標榜していく。第三に、武力で国境を侵犯してはならないというルールを世界に打ち立てていく。第四に、新たに環境問題を重視していく。この4つを掲げた訳であります。それが実現出来たかどうかは別ですが、少なくともアメリカのリーダーたちは冷戦構造の崩壊を大きな転機と捉えていました。そしてポスト冷戦の体制をどのように捉えて再構築していけば良いのかを、このヒューストンサミットという機会を通じて打ち出していった訳であります。

残念ながらその頃の日本は未だバブル崩壊前でありましたので、そういった動きは見られませんでした。微塵の危機感もなかったと表現すると言い過ぎかもしれませんが、しかしある一局面においてはそのように言われても仕方がない部分はあったのではないでしょうか。実態としてダイナミックなパラダイムシフトが世界ではすでにはじまっていたからこそ、表面では1991年12月に旧ソヴィエト連邦の体制も崩壊していった訳です。

私は引用があまり得意ではないのですが、ここでフランスのジャンマリ・ゲーノという政治学者が自著『民主主義の終わり』で述べていることを少しご紹介させてください。同書には「民主主義は国家を基盤にした制度だが、国家が形骸化し、やがて消滅してしまったらどうなるのだろうか」とあります。あたかも日本国の行く末を暗示しているような感覚さえ致します。彼は「人間の活動に空間の制約がなくなり、人と経済の移動性が地理的な囚わりを吹き飛ばすとき、すべてが変わる」とも述べています。国境を越えた経済外交が進展している現代世界の姿を言い当てていると言ってもよろしいのではないかと思います。

21世紀はグローバリゼーションが席巻する時代とも言われております。アメリカ型の新自由主義はやがて市場原理主義、あるいは金融資本主義とも称される秩序なき経済にまで行き着いてしまいました。その結果、一国の経済破綻が瞬時に世界へと波及していくような時代になりました。多くの国家は高い代償を払ってそのことを学びました。「未だ十分に学んではいない」という声もありますが、いずれにせよ日本でのバブル崩壊はもちろん、アジアにおける金融危機もしかり、です。先進国の象徴でもありますアメリカ自身、リーマンショックによって金融機関の連鎖破綻を発生させる状態にまで至りました。その後もヨーロッパではアイルランドやギリシアで危機が起こり、それがラテン系のヨーロッパ諸国にも波及して未だに回復の目処が立っていないと。そんな風に厳しい状況に直面している国家はたくさんある訳です。

その一方で、いわゆるBRICsと言われているエマージングカントリーはどうでしょうか。今年のダボスで私が感じたのは、インドや中国のプレゼンスが従来ほど大きくなかったという点でした。本会場にはダボスでお会いした方がたくさんいらっしゃいますし、それぞれお感じになったことは違うかもしれません。ダボスではむしろアメリカの楽観的な見通し…、敢えてそのように言ったのかもしれませんが、経済回復に対する楽観的な見通しといったものが語られていました。そしてヨーロッパについては、各首脳のキーノートスピーチから“まだら模様”の現状あるいは将来の見通しといったものを私は感じとっております。また、新興国からは本当のトップがほとんど来ていないという事実もありました。実際にそこまで思ったのかどうかは分かりませんが、「もう今さらダボスに行ってどうこうしなければ認めて貰えずに困るという訳ではない」と思っているような、私個人としてはそのような印象を持っております。

そして、資本の自由化に伴って巨額の資金移動が瞬時に起こる点、金融政策の自由化がもたらす作用と反作用、そして為替の安定化。このような、バランスをとるのがまことに難しい三つの課題に対してこれといった解を見出せないまま、成長過程にある新興国と行き詰った先進国とのあいだで利害がぶつかり合っている。それが世界の現状であります。たとえば人民元の大幅な切り上げを実行しない中国に圧力をかける西側諸国と、アメリカの大幅な金融緩和に対して大いなる警鐘を鳴らしている中国。現在はそういった対立の構図が経済的相互依存関係の裏でも起こりつつあるという、極めて複雑な状況になってきています。結局のところ、ポストリーマンショックとなる新秩序体制をどのようにつくっていけば良いのかについて、各国が未だにはっきりとした答えを出せていない状況にあるといえるでしょう。

ストラクチュアルベースからコンセンサスベースのインターナショナリズムへ(長谷川)

そのなかで国際秩序をディスカッションしながらリードしていく方法としては、大きく分けて二つのアプローチがあると考えています。ストラクチュアルベースのインターナショナリズムと、コンセンサンスベースのインターナショナリズムです。ストラクチュアルベースのインターナショナリズムは国連やWHOといった組織・機構を内包するものであります。そこにはいわゆる議決権が存在しますから、その意味ではレジティマシー(正統性)があると言えばある。ただ、いかんせんそれらは第二次大戦後に出来たものです。そうなると国連安全保障理事会の常任理事国ポストひとつとっても、未だにWW2直後の戦勝国代表が拒否権を持ってリードしている。そんな、いささか無理のある状態になっている訳です。国際機関の多くが同様の状態に陥ってはいますが、それならどう変えていくかということについて論議はされても、結論がなかなか出てきておりません。

その一方、国際秩序を担う意味でもうひとつ、コンセンサスベースのインターナショナリズムというフォーマットがあります、たとえばWEF、あるいはG8やG20といった協議体ですね。こちらはこちらで決議はすれども一切の強制力がない状態になっている。また、こういったフォーマットでは十分にカバー出来ていないエマージングカントリーもある訳ですね。そのような状況で、新しい秩序体制の構築については未だに模索途中と言っても間違いではないと思います。

ここで、麻生元総理が言われた「不安定の弧」というものを少し拡大して考えてみましょう。チュニジアの政権崩壊に端を発したアラブ諸国の混乱というものを、皆さまはまさに今、固唾を呑んで見守っています。エジプトもどうやらムバラクさんが退陣することになったようですが、首相への全権委譲を民衆は受け入れるのか。未だ定かではない状況のようです。当然、ムスリム諸国への波及も懸念されております。ムスリムの国々ではいわゆる先進民主主義国の基準からすれば、透明性と言いますか、レジティマシーという点で異なる部分がある訳です。もちろんそれはそれで秩序もこれまでは維持されてきたのですが、それは相当強いコントロールないし圧制のもので維持されてきたものであります。極めて富が偏在した状態で、一部の人たちに握られているという状況ですね。こういった状況では一旦事が起るとかなりことになりかねない。

もちろん現在、「不安定の弧」が東アジアあるいは極東アジアまで来て大変なことになっているという意味ではありません。ただ、程度は若干低いものの日本の周辺におきましても、あるいは東南アジア諸国と中国のあいだにおきましても、中国の台頭とともに色々な摩擦が生じてきている訳です。これらについてもどうやって解決していくのか、なかなか答えが見出せていない。非常に厄介な問題になっている訳であります。

ここで、先ほどのサブタイトルにつけた不都合な真実という部分に戻りましょう。何年か前、ゴア元副大統領が出演していた『An Inconvenient Truth』という映画が大変な話題を呼びました。気候変動…、つまり‘global warming’がこれだけ進んでいるにも関わらず、誰も本気で取り組もうとしないと。それが不都合な真実という形で映画になった訳です。しかしながら私は不都合な真実というものは決して地球温暖化の問題だけではないと考えております。その他さまざまなに存在する不都合な真実について、実は正面からきちんと議論されていない。問題が国民に正面から開示されていない。そういう問題がほかにもたくさんあるのではないかということです。

ですから我々はもっとこれらの問題について正直に語り、どう解決していくかという提案を行う必要があります。そしてカウンタープロポーザルを受け、本当のコンセンサスを形成しつつ取り組んでいかなければ大変なことになる。そういう風に感じている次第であります。そのなかには政治家にリーダーシップをとっていただくことで解決につながる課題もたくさんあるでしょう。しかし先ほど申しあげたように産業人も政治に文句を言うだけでなく、自らが出来ることは自らがやって、一歩でも二歩でも先へ進む必要があります。そうしない限り、真のコンセンサス形成とベクトルの収束は出来ないと思うからです。

たとえば日本では少子高齢化の問題がありますよね。人口統計という、かなり正確性が高いと言われている統計を見てみればそれが分かります。日本の人口は、約9000万人弱の状態から50年をかけて2005年までに1億2800万人へと増えました。しかしそこから50年をかけてまた元に戻るというという予測がなされています。こういったローラーコースターのような人口推移を見せる国はこれまで世界の歴史にありませんでした。今後100年ぐらいを見ても出てこないのではないかと言われています。ただ、このような状況にどう対応していくかという議論自体は色々とありこそすれ、「これをやったら良い」というコンセンサスが未だに出来あがっていない。

これは私見ですが、少子化対策の最適解といってもやはり色々とやってみないことにはわからない部分が多いと思っています。フランスやスウェーデンの例などさまざまな対策はありますが、そのなかには日本に合うものがあるのかもしれません。ですから少なくとも諸外国を例にとり、試験的にやってみる。効果を計るのに5〜10年を要するので難しい問題ではありますが、しかしそのなかから日本の実情にあって効果が出そうなものに絞っていくと。そういったトライアルは必要でしょう。また、そういった対策を通して現在の人口1億2800万を、たとえば1億1000万ぐらいで底にしていく。そこから横ばいもしくは微増とすることを目指して、今後20〜30年かけてやっていきましょうと。そんなビジョンがどうしても必要ではないかと思っています。しかし、そのビジョンすらまったく掲げられておりません。

人口に関連してもうひとつ、皆さまよくご存知のグラフでお示しをしてみましょう。それは経済成長にも大きく影響してくる問題です。人によっては「人口増加があればそのあと必ず人口減少のトレンドにはなるから、この過渡期さえうまくマネージするメカニズムさえつくればいいではないか」といったことを言う人もいます。しかし私としてはそれがにわかに信じ難い。「日本のハイテクで人口減少社会を乗り切れる」と言う人もいますね。ロボット産業の研究開発を加速させて介護ロボットをはじめお散歩ロボットやお話ロボットといったものをつくっていけば、高齢化と人口減少を乗り切ることが出来るのではないかと。そんな話もあります。しかし私はビジネスマンですから、こういった複雑な問題をひとつの解決策ですべて処理出来ることはないと思っております。恐らくは複数の対策をバランスさせながら実行することによってのみ解決をすると。そのなかからより効果の大きいものに集中をしていく。そんな戦略をとらざるを得ないのではないかと思っています。

累積債務解消の方法論は三つしかない(長谷川)

次に、日本が抱えるもうひとつの不都合な真実についてお話をしたいと思います。数値の詳細についてどこまでが真実なのかは分かりませんが、日本人の収入に対する納税の割合はだいたい4割だという風に私は聞いております。ところが受益をしております福祉や公共サービスを金額換算すると収入の5割ぐらいに相当しているという。ではその差10%をどこかで埋めるということで、税金か赤字国債で埋めるということになる訳であります。このこと自体が真実なのかどうか。こちらの会場には政治家の方もたくさんいらしていますし、あとでまたお話を聞くのを楽しみにしていますが、これは恐らく当たらずとも遠からずといった傾向なのではないかなと思います。

それならば真実を国民に知らせて、「皆さまは現在こういった状況で、負担以上の受益をしています。ですから負担に見合う受益に少しずつ変えていくことが国家にとっては不可欠であります」と言わなければいけません。それが負担増なのか、受益減なのか、あるいはその両方でバランスをとりながらやるといったものなのか。いずれにせよその三つしかない訳ですが、そういった話が必要になってくるという訳であります。

累積債務の問題につきましても同様です。私が政治家ではないので物事を単純化し過ぎて考えているのかもしれませんが、先般、ダボスでデーヴィッド・キャメロン英首相の話を聞く機会もありました。彼は去年11月にソウルで行われたG20でも同じような話をしていたと、友人のある経済人から聞いています。それは累積債務を解消していこうとするなら、その解決方法は三つしかないというものですね。ひとつは経済成長をさせる。二つ目は歳出をカットする。そして三つ目が歳入を増やすということです。もちろん経済が成長すれば歳入は増える訳ですが、現状の日本ではそれでも足りない。それならば新たな税の引き上げも考えざるを得ないと、そんな風に思っています。

そこで私はいくつか申しあげてみたいことがあります。まずは経済成長の実現について。こちらについては民主党が昨年6月に閣議決定を通して経済成長における7つのビジョンといいますか、柱を打ち出されました。振り返ってみれば自民党政権時代もほぼ毎年、1度ぐらいは新しい経済成長戦略が打ち出されていた状況ではありましたが。問題は、とにかくそれをいかに実行へ移していくかに尽きると思います。

しかし現代、これだけ多様化した国民のニーズを考えれば、世の中すべてを満足させる答えはありません。ですから痛みを伴う人にも必ず、「あなたが少し我慢していただくことで全体がこうやって良くなります。あなたの子どもたち、あるいはあなたの親たちはこんな風に良くなります」と。そう言って理解を求める必要があると思うのですが、その論議はほとんどなされていませんね。

たとえば歳出の削減についてよく言われるのが、無駄の排除。私はこの「無駄」という言い方自体を止めたほうが良いと思います。政府の歳出のなかで無駄というと、まったく不要という感覚を持ってしまうからです。もちろん、たとえば政治家の方がばらまきしたいとか、官僚の方が省益のために予算を増やしたいとか、色々とお考えになることはあるかもしれません。しかし無駄と分かってやるような人が本当にいらっしゃるとは、私は思えません。むしろビジネスマンの考え方からすれば、重要なのは政策に伴う予算に優先順位をつけていくということですよね。そして優先順位の比較的低いほうから、それによって痛みを伴う人に理解を求めながらカットしていく。そういう形でまずは説明をしていただかないといけません。あたかも無駄が何十兆もあるような幻想を未だにばらまき続けておられる方もいらっしゃるように見受けられます。しかしそれは国民に対して不正直だと思います。ぜひ、もう少し真面目にと言いますか、真正面から取り組んでいただくことをお願いしたいと思います。

それから歳入の安定化と増加につきまして。安定化についてですが、やはり経済成長と併せ、直接税と間接税の比率を見直すことが求められているのではないかと思います。直接税と異なり、間接税は比較的ですが景気変動に左右されにくいという性格を持っているためです。先進諸国と比較しても、日本は直接税の比率が圧倒的に高い国ですよね。やはりそこは是正していく必要があるのではないかと思っています。

また、税収の増加については経済成長と同時に、恐らくは消費税の段階的な導入というものが避けられないと思っています。これについては民主党政権で6月を目処に、税と社会福祉の一体改革に関する具体案をご提案されるということですのでそれを待ちたいと思います。この点については、どれほど本気でおやりになるか、そしてどのタイミングでおやりになるかにもよりますが、少し懸念していることもあります。

たとえば、前々から言われております納税者あるいは社会保障番号ですね。現在、国民総背番号についてはようやく方針が掲げられました。2015年1月から本格実施ということですね。で、これは民主党の消費税案がどうなるかによりますが、仮にそこで低所得社者への還付もひとつの組み合わせとしてお考えになっているのであれば、納税者番号が実施されていない限り出来ません。従って、2015年1月までは消費税を引き上げることも出来ないということになる訳ですね。ですからその辺の整合性をどう考えておられるかというのは、私のようなど素人が考えても疑問に思うぐらいですから、その辺についてもきちんと説明をしていただく必要があると思います。

そして最後にもうひとつお話ししたい不都合な真実があります。特に政治家の皆さんにお願いしたいのは、一票の格差の是正であります。法の下の平等が保証されている国民のあいだに1対5という一票の重み格差があります。しかしそれが、申し訳ないのですが立法府の怠慢によって一向に是正されない。司法の弱腰もあって、明確な違憲判決も出ていません。このような法治国家があるのでありましょうか。条例は地方でも出来ますが、立法の権利を持っているのは国会議員だけであります。ならば国会議員の皆さんが自らの襟を正し、国民に対して不平等不公平を強いているというこの問題について正面から取り組まなくて、誰が取り組むのでありましょうか。この一票の問題が是正されていないことが根底にもなって、日本が抱える大きな問題のひとつが生まれてしまっているのだと、私は考えています。

一票の格差では、残念ながら地方に重みがあります。現在は東京でも年配者が増えていますが、どちらかといえば地方のほうが年配の方は多いですよね。そして地方には第一次産業に従事している方が多い。そうすると、第一次産業あるいは高齢者の方々の声がより大きく反映され、都市部に住んでいる若い人たち、あるいは第二次産業・第三次産業に従事する人たちの声が不当に低く抑えられてしまう。現実にこういう問題となって表れてきている訳です。年金問題ひとつとってもそうでしょう。都市部に住む若い人たちの国民年金支払い率が六十数パーセントになっているとか、色々と話を聞きますね。こういった問題については本質的にどの党であっても反対しようがない訳です。個々の政治家は自分の選挙区がこうなったら困るというのがあるのかもしれません。しかし党となれば反対をすること自体が国民に対する裏切りです。何故出来ないのかということをもう少し考えていただきたいと思います。

私はその原因のひとつに、政治家が目指すべき国の姿をしっかり示すことが出来ていないということがあるのではないかと思っています。政権と、そしてせめて政権を担おうとする野党第一党ぐらいは、自分たちが目指す国の姿をきちんと国民に示すべきだと思います。もちろん自民党は党是を持っておられますし、50何年前に出来た党是について改定を検討しておられるということも聞きます。しかし民主党は前幹事長や官房長官がいみじくも認められましたように、それすらない。そういう政党であります。そのような状態で政党に集う人たちの意思を統一し、自分たちのやりたい、あるいは国民に公約した政策の実行に一致団結して取り組めるとは、私にはとても思えません。そういう基本的課題をないがしろにしながら、いくら個々の政治家が努力をしても、いくら国民あるいは有権者に訴えかけても、本質的な問題解決は出来ないと思います。

従ってこの機会に…、もう終了というのが出ていますが(会場笑)、ぜひそういうことをお考えいただきたいと思っております。それが、本日申しあげました不都合な真実と、それに正面から取り組むべき時期に来ているというお話の骨子であります。どうもありがとうございました(会場拍手)。

アジェンダ、イニシアティブに加え、ケーパビリティの議論を(御立)

パネリスト:
株式会社三菱ケミカルホールディングス 代表取締役社長 小林喜光氏
独立行政法人住宅金融支援機構 理事長 島田精一氏
武田薬品工業株式会社 代表取締役社長 長谷川閑史氏

御立:長谷川さん、どうもありがとうございました。ではここからさらにお二方をお招きしまして、計4名でパネルディスカッションに移りたいと思います。

まずディスカッションを行う前に、会場の皆さまへ三つほど質問をさせてください。一問目のキーワードは「何を変えるのか」ということです。変革というと言葉はきれいですが、具体的に、日本とか日本社会とか日本経済の何を変革するのかという課題、ないしアジェンダですよね。ここで、「一体何を変えるのかということを三つ挙げろと問われれば、自分は非常にクリアに分かっている」という風に思われている方、どれほどいらっしゃいますでしょうか。…約2割ぐらいですかね。ありがとうございます。さすがに政治家の方は皆さん手を挙げるということがよく分かりました(会場笑)。

では二問目に参りましょう。こんどはイニシアティブについてです。こちらについては先ほどのセッションでも、竹中(平蔵 慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)さんをはじめ、皆さんが言及していらっしゃいました。「では具体的に何をするのか」ということです。課題があるのはあるとして、そこに対して何をやるのか。イニシアティブもしくはアクションですね。ここでは主語が日本や日本経済ではなく自分になります。ですから、自分が関わって一体何が出来るかということ。ここで、「自分としてこういう思いを具体的に持っている」という方はどれぐらいいらっしゃいますか。9割ほど手が挙がりました。ありがとうございました。

相当に特徴的ですね。普通はこういう質問を致しますと最初の質問については「ええ格好しい」を含めて7割ぐらいは手が挙がり(会場笑)、次が3割ぐらいになるのですが、逆というところが面白い。何をやるかは分からないけどやる気があるぞという(会場笑)。可能であればこの二つは揃えていくと良いかなと思います。で、三つ目がケイパビリティであります。これは結構忘れられがちなところですね。「やる気があって何をやるかも分かるものの、やる能力がない」と。私などはしょっちゅう自分自身で感じていますので、このパネルディスカッションでもモデレーターというよりは学ぶ立場でいきたいと思っておりました。この点について皆さまにお伺いしたいのは、「自分がやりたいと思っていることについて必要な能力がある」ということです。どれぐらいいらっしゃいますか? 胸を張って挙げてください。ありがとうございます。二問目では9割がたと申しあげましたが、そのまた9割がたという感じでしょうか。かなり高い。

今年のG1サミットにおけるパネルディスカッションのテーマは最初が政治で次に産業界ということになっていまして、腕力派のリーダー3名にご登壇いただきまして…、あ、すみません、知性派のリーダーということで(会場笑)、ストレートトークをしてくださる御三方にお集まりいただいています。この手のディスカッションに参加するとご登壇者様からは、そのお話の内容だけでなく「あ、こういった人となりで、こんな力をこの人は持っているんだな」というものを感じとることが出来ます。で、そこからある種“盗む”ことで、受け取る側のケイパビリティも必ず向上すると私は思っております。

先ほど長谷川さんからはアジェンダのような形で本当にストレートなお話をいただきました。ありがとうございます。ですからそこに続くパネルへの期待感としては、「こういうことを変えるべきなのではないか」というアジェンダ、「具体的にこうやっていく」というイニシアティブ、そして最後に「それをやっていくための能力はどうすれば上がるのか」というケイパビリティ…、出来ればこの三つに少しずつ触れていければと思っている次第であります。

さて、G1のGは‘Globe’、‘Global’と‘Generation’から来ているそうであります。これは世界のアジェンダについて世代を超えてきちんと語っていこうということですよね。で、御三方で共通しているのは日本を相対的に見ていらっしゃる方々という点でもあります。小林さんも最近は日本経済新聞に色々出ていたのでご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。技術系出身で、日本人としては珍しくイスラエルやイタリアの大学へ留学していらした方です。「よくこんな伝統的大企業で社長がずばずばと構造的な改革をするなあ」とご本人にお伺いすると、とぼけた感じでかわされるという、そういう方でいらっしゃいます。

相対的という意味では島田さんも同じでありまして、イタリアに留学されておりました。一時期はメキシコにも駐在していまして、実は私も同時期にメキシコにおりました。それで、島田さんはかの地で、195日間、商売相手に濡れ衣を着せられてメキシコの留置所にぶち込まれるという経験をなさっております。当時のメキシコ日本人会では「どの刑務所に入ったかが3日以内に分からないと生きて帰れるかどうか分からない」という話がありまして、我々も一生懸命居場所を探した覚えがあります。そういった経験も踏まえられて非常に日本を相対的に見ていらっしゃる方です。そして三井物産からユニシスを経まして、今は独法化、すなわち国の機能を独立行政法人にするという仕事を敢えて引き受けていらっしゃるという状況であります。

そして長谷川さん。ご紹介するまでもありませんが、実は以前、国交省の関係で少しだけ、長谷川さんの下で仕事をさせていただいたことがあります。そのときに「今の長谷川さんをつくったのは何ですか?」とお伺いしたら、さらっと二つのことを仰っていました。ひとつは若いときに組合をやっていらして、そこで経営を相対的に見ることが出来たということです。また、長谷川さんは「当時はエリートなら行かない場所だった」とご本人は謙遜していらっしゃいますが、アメリカの製薬会社を買収して現地で経営をされていました。そこでやはり日本を相対的に見ていたというようなことを仰っておられました。この相対感と腕力を我々がどうやって引き継いでいけるかが鍵になるかと思います。

非連続のイノベーションによりサステナビリティの確保を(小林)

さて、前置きが長くなりましたが、おひとり5分程度、最初のアジェンダないしイニシアティブ、どちらでも結構ですのでお話をいただきたいと思います。長谷川さんからは先ほど高齢化の問題を挙げていただきました。もっと言えば人口減少の問題であり、それについて日本自身は色々言うけれどもコンセンサスが出来ていないと。国民の受益の問題についても同様です。皆が目を背けていることはいくつもあって、それをやろうじゃないかというアジェンダの設定をしていただいたと考えております。そこで御三方それぞれ、どういうアジェンダを考えておられるか。次の世代に向けて、「ひょっとするとこんなことをやったらいいのではないか?」という具体案を含めてご意見を頂戴したいと思います。では小林さんからお願い出来ますでしょうか。

小林:自分が出来る範囲で努力をすれば何らかの結果が出るだろうという意味でアジェンダを挙げますと、やはりサステナビリティとイノベーション。この二つになります。サステナビリティというのは、先ほど長谷川さんのお話でもありました不都合な真実と同じですね。これは決して‘global warming’だけではありません。資源もほとんど枯渇する。石油にいたっては本当にリーズナブルなコストで使えるのはどう考えてもあと50年です。核分裂のウランもあと100〜200年分しかありません。また、現在70億近い人口が2050年に90億となった時点で、そのおよそ40%が水に悩むだろうとされています。そんな風に地球がどん詰まりに来ているなか、どのようにサステナブルな地球と人類の状況をつくり得るのか。これはイノベーションとも密接に絡むのですが、人口数億の先進諸国以外にも、さらにその10倍以上となる人口があっという間に同じ方向で加速度的にエネルギーを使うと。それはもう尋常な話ではない訳です。

そんな風にCO2が少し増えるといったレベルではなくもっと激しい波がくるなか、人類はこんなにのんびりしていて良いのかと。もちろん、それに対する政治や国際的なさまざまなレギュレーションはあります。ただ…、これは夢なのですが、サステナビリティをつくることが出来るのはイノベーションしかないと思っているんですね。テクノロジーはすでに発達し過ぎていて、新しいものを開発出来る確率が非常に下がっています。しかしそのなかでも非連続なイノベーションをどうやって起こすか。そういうところがポイントになるのかなと思っております。

島田:私は日本にとって一番重要な問題が、今小林さんが言われたような資源や環境に関する問題であるとともに、喫緊では少子高齢化対策と言いますか、少子高齢化の現象をどのように受け止めていくのかということにもあると思っています。今、日本の人口が1億2600万〜1億2700万人ですよね。もうすでに人口減少の状態入っています。人口が減少すればGDPがどんどん下がっていくというのは当然の構図です。で、明治のはじめには3500万人だった人口が2000年のはじめにはその4倍近くになった。そしてこれからは減少していく。そういう状況は誰が考えてもネガティブになるし、将来に向けた悲観材料にもなります。

そのなかで日本はどのような立ち位置としていくか。私はイタリアに8年ほどおりました間、ルネサンス以降のイタリア史などを少し勉強したことがあるので、その歴史にヒントを求めたいと思っています。ここではルネッサンス当時のフィレンツェを例にとりたいのですが、15〜16世紀のルネサンス時代はちょうどヨーロッパでペストが流行っていた時期でもあり、人口は激減していたんですね。フィレンツェの街でも7万人のうち3万人近くが死んだと言われています。これはヨーロッパ各地で起きていた現象でして、病気によって人口減少となっていた訳です。

ただ、当時のフィレンツェは経済も文化も学問も非常に栄えていた都市でもありました。何故か。まず、当時はたまたまギリシアがイスラムに攻められていた時代で、ギリシアの学者たちがフィレンツェに逃げてきていたんですね。その学者たちがプラトンやアリストテレスといったギリシアの学問をイタリアで広めていきました。そこで哲学から自然科学に至るまで、学問をするという風土が出来ていった。当時フィレンツェのスポンサーというか当主であったメディチ家もそれを非常に応援していました。

で、メディチ家はもともと製薬のようなことしていたファミリーだったのですが、次第に東西貿易において金融業でも成功するようになっていき、さらには毛織物業なども発展させていきました。その結果、当時農業中心であった経済体制を大きく変化させていった。今で言えば第二次産業・第三次産業を中心の経済に据えて付加価値を高めて、富を増やしていったということです。

日本も同様に少子高齢化が避けられない事実だとすれば、さまざまな対応策を重ね合わせるというような形でやっていくしかないと思っています。少子化対策という点で諸外国を見ると、フランスなど色々な国が過去にトライしてしますし、実際にフランスは成功していますよね。しかし日本の場合、それだけでは不十分です。日本の経済全体を、さらに付加価値の高い創造的な産業を中心としたものに変えていく。労働集約的な産業はやはり新興国その他に生産拠点を移転するといった対策をとらざるを得ないと思っています。で、そこからさらにどうするかという細かい課題については私なりに色々と考えもございますが、とりあえずは以上で問題提起とさせていただきたいと思います。

長谷川:アジェンダとは少し違うのかもしれませんが、私の場合は極めて単純です。国家のお話であれば、先ほど申しあげましたようにやはり国政を担う人たちが30年後にどういった国を目指すのだということを国民にきちんと伝えること。「我々の政党は」と、まず明らかにすることです。会社であれば恐らく10年後ぐらいでしょう。我が身は3〜4日ぐらいだと思いますが(会場笑)。冗談はさておき、それと現状とのギャップをきちんと詰めて、ギャップをどうやって埋めていくのかを描く。いわゆるロードマップやアクションプランをつくることです。同時に我々が望む姿を達成するにはどういった組織力が必要なのか、どういった人材がいるか。これについてもロードマップに沿って育成していく形になりますね。これがないと常にその場その場の現象でブレていきますので。

人間が一番陥り易い罠は、あまり重大ではないけれども喫緊の課題ばかりにフォーカスして、エネルギーや人材を注いでしまうことです。しかし、「今すぐやらなくても済むけれども重大だ」という問題について、きちんとやっていく企業や組織、あるいは国家こそサステナビリティがあるということです。そういった点を含めて、まずは自分たちのビジョンを明確にしていく。それが第一ではないかと思っています。

中長期の視野からイノベーションを創出(島田)

御立:ありがとうございました。イニシアティブに関して二つの切り口がありました。まず長谷川さんが仰っていた「ビジョンをはっきりさせる」という点ですね。30年後にこんな国にしたいと。これはどちらかと言えば「思い」の部分も含めて描くということだと思います。そこから逆算してロードマップを描き、足りない能力なりリソースをどうやって手にしていくのか。これがひとつの考え方ですね。企業人にとっては非常に分かりやすいものでもありました。

もうひとつは、小林さんや島田さんの仰っていた非連続なイノベーションというものですね。思いはあるのだけれどもその行き先では思ってもみないことが起こるから、それを創発させたら良いのではないかという考え方です。フィレンツェで言えばオスマントルコによって東ローマ帝国が崩壊した。そのことで自分たちの先輩文化であるギリシア文化が思ってもみない形で入ってきて、それがルネサンスになったと。異質を取り込めば、思ってもみないことが起こるのではないかと。この二つは二律背反ではなく組み合わせもあり得ることだとは思いますが、小林さん、非連続なイノベーションを起こしていくためにはどういった点が最も重要になるとお考えですか?

小林:それが分かれば(会場笑)…、先ほど長谷川さんのお話にもありましたが、企業人はどちらかというと長期的なものをまず描きます。これ、だいたい最近の企業さんは皆、やっていますよね。2025年になるのか30年になるのか50年になるのかは別にして。で、それは「こうありたい」という姿でもありますが、基準は「世界がどうなるのか」です。それに対して自分はどう対応していくのか。そこから逆算して3カ年計画なり5カ年計画をたてていきますし、これがベースになると思います。ただ、これだけだと最終ソリューションにはならない。そこで都合良くイノベーションと言ってしまえばすべて済んでしまいますから。何もしなくたって「何かイノベーションがあればいい」と。これは一種の逃げに使われてしまう部分も若干あるような気がします。ですからそこから逃げず、どうやってイノベーティブなことを仕掛けていくのか。

こうなると一般的には「産学官で連携しよう」とか、「自分の力はどうせ弱いのだから異分子を入れて活性化しよう」とか、こういった流れになります。ですから、へんてこなことを考えて、へんてこなことをやるやつをもっと許しましょうと。そういう組織でありたいし、自分自身も常にそのぐらいのフレキシビリティを持たなければいけないと思っています。私はここに年齢も関係ないと思うんですよね。少子高齢化の少子のほうは問題ですが、高齢化“対策”というのもどうなのか…。色々な経験を経て体力さえきちんと保ち、80まで生きていたら能力はますます磨かれていくと思っています。イノベーションを目指すのであれば、私としてはもう少し高齢者の方を使ったほうが良いのではないかと思います。非常にネガティブで皮肉な言い方にも聞こえてしまいますが。

御立:使えるものは使い切っていくと(会場笑)。それで思ってもみないものが出るのではないかということですね。島田さんはいかがでしょうか。島田さんはたしか1980年代の終わりぐらいに三井物産という口銭商売の会社で資源に投資をするという乱暴なことをずっとおやりになっていたのですが(笑)。ああいったことは何故出来るのでしょうか。やはり変な人だったのでしょうか。

島田:その…、ちょっと変な人だったと思いますね(笑)。私が四十数年か勤めた三井物産は、1980年代ぐらいにはイラン・ジャパン・ペトロケミカル・カンパニー(IJPC)という会社を持っていたんですね。当時はイランで事業をしていた三井物産を中心にやっていたのですが、これが大失敗をした。数千億円のロスを出し、もう会社がおかしくなって「これからどうなるんだ」という時期がありました。私はたまたまその事務局長として後始末のようなことをしたのですが、そのときに「だめになったものの後始末をやっているだけでは三井物産が発展しない」と。仮にIJPCがうまく終息出来ても、そのあと何も残らないのではないかという危機感を持しました。

当時の私はメキシコで195日間監獄に入ってからすぐにハーバードで半年ぐらい留学をして、そして日本に帰ってきたばかりの経営企画室長という状態だったのですが、「会社を変えてみたい」とか「組織を変えてみたい」という思いが非常に強かった。それで当時の社長や会長に「このままで三井物産は潰れてしまいますよ」と言いました。今までのように商社あるいは卸業のあいだに入っている中間業は、機能なき中間者排除に遭うと。特に当時はITが盛んになっていましたから、当然のことながらその情報もぜんぶ共有出来る訳ですし。とにかく非常に強い危機感を持ってやりましたね。

で、それならどうすれば三井物産が中長期的に発展出来るかというと、自分自身が事業主体に入っていかないといけない。ただ、そうは言うものの鉄鋼にはすでに新日本製鐵さんがいる。化学は三菱化学さんがいる。で、薬剤は武田薬品工業さんがいるということで(会場笑)、いくらかお金があっても新しく入っていくことは出来ない。ではどこに投資をして事業収益を得るように出来るのかというのを、当時、一生懸命考えていました。

そこで私はたまたま経営企画室長でしたが、その下には今学者になっている寺島実郎さんとか、今はゆうちょ銀行の社長になっている井澤吉幸さんもいましたね。そういう連中と徹底的に考えた結果、「日本は資源、エネルギーがない。それなら商社が外へ出て行って交渉して、それを日本や世界へ供給すれば事業者利益を得ることが出来るのではないか」という結論に至りました。また、当時はまさにIT革命のはじまりのころでしたから、これから情報産業で会社をつくろうということも考えました。通信や放送といった分野で事業を展開しようと。あとはサービス産業ですね。その3分野に投資をしたら良いのではないかということで、中長期の基本戦略として経営幹部に提案書を出した訳です。

そのときに一番考えたことは、資源に対する投資は収益に結びつくまで最低10年近くかかると。しかし会社である以上は目の前の利益もあげていかなければ配当も出せません。ですから、短期利益と将来に向けた中長期利益をどうやってバランスさせていくのかということを色々と考えました。時間軸で投資計画を立てるとか、当時はもう大変な議論のなかでチャレンジしていきました。結果的にはこの4〜5年、資源は大変値上がりしていますから良い方向にはなっていますね。ただよく考えると、現在の状況は、20年ぐらい前にサハリンやカタールにエネルギーの投資をしたのが大きかったのかなと、私としては考えています。

御立:ありがとうございます。ビジョンアプローチと非連続の繋がりに関して言えば、世界との比較感を持ってビジョンをつくらないといけないという側面がありますよね。それで、そんな風に考えて長い時間軸で見ると、新たなリスクテイクの場所は意外にあったりすると、そういう話が出てきております。長谷川さん、このあたり、ビジョンアプローチとイノベーションをどのように結びつけていくかというところを含め、お考えを少しお聞かせいただけないでしょうか。

非連続のイノベーション促進には4つのポイントがある(長谷川)

長谷川:残り時間あと10分と出ていますので(笑)簡単に。製薬企業の経験から申しあげますと、非連続なイノベーションを促進するのには多分、4つくらいのポイントがある。薬屋で言いますと、たとえばアメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)が過去10年間に承認した薬では、革新的なものの6割以上がバイオテックあるいはアカデミアのオリジンになります。したがって、たとえ売上が6〜7兆円で研究開発費が7000〜8000億円といった規模の企業でも、すべての研究開発を自前で行いながら成長を持続させることは出来ません。ですから研究開発の部分にきちんと目を向けてアライアンスを組む、あるいはネットワークをつくっておくことが大切になります。逆に言えば保険をかけておくということがまずひとつあります。

二番目は分かっていてもなかなか出来ないことなのですが、権限を与えること。特にイノベーティブな研究成果というのは、だいたいにおいて小さな研究グループにすべての権限を与えたところから出てきています。医薬品で言いますと100人から150人…、せいぜい200人ぐらい。そのぐらいのグループにすべての権限と責任を与える。大企業にはなかなか出来ないことなのですが、これをやらないといけません。

で、三番目はダイバーシティの状態を実現させなければいけないという点です。薬の世界では特に顕著なのかもしれませんが、欧米人はターゲットファインディング…、ターゲットを見つけるのが上手で、日本人はそのターゲットを薬に仕上げるのが非常に上手であると、私はしみじみ感じています。ですからお互いの得意分野をうまく組み合わせてダイバーシティの状態からイノベーションを起こす。創造性を刺激していくことが大事になると考えています。

それから四番目。これが一番難しいのですが、リスクテイキングのマインドセットとリスクアセスメントの能力をつけること。私の経験からいきますと、残念ながらこの両面について、国際的にみても日本人は最も不得意であると思います。ですから自分たちにリスクテイキングとリスクアセスメントの力が低いのだと自覚しつつ、意識してそれを身に付けられるようなカルチャーに変えていかなければいけません。あるいは苦手な部分について、グローバルのオペレーションのなかでそのようなマインドセットのあるところへ思い切って任せると。そういうことをやらないとうまくいかないのではないかと思っています。

御立:ありがとうございました。ネットワーク、オープンイノベーション、小さなチームに任せること、ダイバーシティ、それからリスクテイキングとリスクアセスメント。かなり本質的な議論ですね。日本企業全体のバランスシートでは預金が200兆円もあって、一部上場企業だけでも70兆円。これは昨今の日本企業がどんどんリスクをとらない体質に変化しているということです。ですから非常に深い問題提起でしたが、さらっと仰っていただけました。あと「何か得意なやつがいるなら任せても良いじゃないか」という点ですね。日本人にこだわる必要はないと。これはダイバーシティにも絡むところかと思っています。ただ、現状では下手をすると「日本は大事だ。良いものは残そう」ということが逃げ道になり、殻に閉じこもるような話にもなりかねない。そんなケースも時にはあると思います。本当は世界中で問題だらけなわけですから、それに参画して互いに得意なことを組み合わせて問題解決にあたるという姿勢でないと、本当の意味で安全保障にはならないと思いますので。

そこで次の質問に移りたいのですが、ずばり、外とどう付き合っていくか。簡単なようでこれが意外と難しい。単純なことで言うと、会社を国際化しようとすると英語という壁が現れます。私自身も会社の経営会議で苦労することがあります。色々なチャレンジはあると思いますが、次世代に向けて、本当の意味でグローバル化するためには外とどのように付き合っていくべきか。こちらについて一言ずついただけないでしょうか。

小林:やはりイベントに臆することなく参加出来る心ですよね。で、ツールとしてはやはり英語でしょうか。しかも英語圏ではない方々の英語と、英語圏でばりばりやる人たちが使う英語というものでは状況も違いますので。やはり英語圏の国に5〜10年ぐらい滞在したことがないとだめなのではないでしょうか。イスラエルやイタリアへ行ったというぐらいではどうにもならんというのを、私自身も正直な思いとして持っています。

島田:私自身も17年間ほど海外で生活しましたし、なるべく若いうちに英語圏でもどこへでも海外に出て、よく言われるような学生同士の裸の付き合いのようなことをやるのが良いのではないかと思います。日本はなんだかんだ言っても島国で単一言語および単一民族に近い状況ですから。「沈黙は金だ」とか「和が大事だ」とか、同じ価値観でいれば良いのだという考え方が、なんとなく日本の文化にはありますよね。しかし異なる考えや文化を本当に認めながら同じ目線でディベートするという経験は、やはり若いうちに積むことです。このあいだもハーバードMBAの学部長が来て「日本の留学者がものすごく少なくなっている」なんてことを言っていましたが、やはりそういうのはまずいと思います。

長谷川:やはり英語はある程度自信を持って喋ることが出来るレベルでないと、ビジネスでは少し難しいのかなと思います。あとはエゴを捨てること。オープンかつ自由な心で色々な意見を聞いていくということです。社長であれば、会社にとってベストインタレストな判断をすることが最も重要な仕事である訳ですよね。ですから色々な提案や意見に向き合った際、それが外国人の意見であれ学生の意見であれ、純粋に会社としてベストであるかを判断し、受け入れる。「俺は社長を何年もやっているのだから、こいつにこんなことは言われたくない」とか、そういうエゴを捨てるということです。なんと言うのか…、そういう淡々とした気持ちでやるということと、英語。その二つなのかなと思います。

御立:ありがとうございます。では最後にもうひとつだけ質問をさせていただき、そのあとQ&Aに入りたいと思います。先ほども少し問題提起をさせていただきましたが、やはり日本が根無し草になるような国際化やグローバル化ではなく何かを残したいという思いはあります。もちろんその一方で、開いていかないと競争も出来ないし我々の存在価値もなくなってしまう。つまりこれ、ジレンマなのですね。ただ、明日も登壇される松岡(正剛 編集工学研究所所長)さんが仰っているのは、実のところ日本人は有史以来、すでに和魂漢才だったり和魂洋才だったりしていると。コンセプトは他所から持ってきてもいつのまにか編集して日本化するわけです。そのなかで実は渡来人や帰化人といったお雇い外国人も一緒にチームで働いてくれて、終わってみれば日本的なるものが新しく少しずつ進化していると。そういうことを松岡さんも仰っていました。ですからここでは、色々とオープンなチームをつくるときに「日本としてここら辺は残したい」とか、「ここを残せばより良いものになる」といったものがあればお伺いしたいと思っておりました。言語化するのが難しい部分かもしれませんが敢えてお伺い致します。日本の大事なところ。こちらはいかがでしょうか。

小林:やはり思い遣りやおもてなしの心でしょうか。あと、食文化は本当にどんなものも受け入れ、結果的にオリジナルとしていますよね。世界のどこへ行ってもこれほどおいしくモデファイ出来る国はないと思います。そういったセンチメントというかちょっとした微妙さ。そこが本当に優れていると思います。

島田:同じようなことですが、海外で生活していると日本の良さを感じることが多々あります。たとえばこのあいだもヨーロッパへ10日ほど行ってきたのですが、日本に帰ってくると空がすごく青くて「いいなあ」なんて改めて思う訳です。気候も非常にモデレートで、なんと申しますか…、しっとりとしたところがある。ぎすぎすしておらず、白黒に割り切れないような曖昧さも日本の良さであり文化だと私は思っています。私も欧米で色々と商談のネゴをしていればどうしても白黒をつけないといけないときはありますし、そこはそこで徹底的にやり合います。ただ、そういうときにもやはり「自分が日本人だなあ」と思うのは、ディベートに勝っても時おり虚しい気がしたりするんですよね(会場笑)。まあそんなところだと思います。

長谷川:三つ。ひとつ目は選ぶよりは育てる点。で、二つ目は中長期的に物事を見て持続的にやっていける部分です。技術開発、事業運営、投資…、なんにせよ少し中長期的な観点から考えていくことが出来ますよね。それから三つ目は…、忘れちゃいました(会場笑)。二つということで。

御立:コンサルタントはよく三つ(のポイント)と言いながらよく三つ目を忘れるので、それがうつったのかと思って(会場笑)少し嬉しく感じたのですが、ありがとうございます。それではお待たせ致しました。フロアの皆さんからご質問等を募っていきたいと思います。

労働力輸入は諸外国から先進事例の導入を(長谷川)

会場::パネルでは労働力の減少がひとつの問題として挙げられていたと思います。一方で、異質なものを取り込むことでイノベーションが生まれるというお話もありました。その意味で私が日常的に考えておりますのは、労働力輸入についてです。外国人労働者の問題はどのように考えたら良いのか。比較的にですが短期で労働力を増やすことも出来ますし、また、滞在人口の増加という点で考えれば内需拡大にも寄与する面があるように思います。ただ、もちろんその一方で社会的コストや日本語の問題はどうするのかといった問いは生まれる訳です。ですので、このあたりのメリットやデメリットについて皆さまのお考えはお聞かせいただければと思っておりました。

御立:労働力輸入というか、移民。このあたりのお考えですね。

長谷川:思い出しました、先ほどの(日本の良さに関する)三つ目はチームスピリットでした(会場笑)。で、当然ですがこれだけ急激に人口が減少する状況で、かつこれだけ円高であれば外国人労働者を受け入れるのは当然だと思います。これについても諸外国はやはり色々なことを試して成功したり失敗したりしていますので、色々とそこから学べるところはあると思います。

これは一例ですが、たとえばオーストラリアやカナダがやっている高度頭脳労働者や高度技能労働者の優先的な受け入れですね。肉体労働者は受け入れるとしても単身で期間を決めるというやり方です。それを非常に分かりやすい形でそれぞれの政府がやっている。政府の専用ページにアクセスすれば、経済移民をしたい人はチェックボックスなどでさまざまな条件の照らし合わせが出来るんです。学歴がどのぐらいとか、どういう技術があるのかとか。たとえばその合計が70点以上なら「あなたはもうモデファイされていますよ」と。余計な摩擦を避けながら選別をしているという点で非常に賢いやり方だと思います。

ちなみに私はカナダ大使のジョナサン・フリードさんとよく話をするのですが、カナダは移民大国なんですね。で、移民反対の根拠としてよく出てくるのが「犯罪が増える」という指摘です。その点についてはフリードさんによると、少なくともカナダについてはそういう事実はないということを過去10年以上にわたってずっと見てきているそうです。そこで日本はどうかというと、たとえば日系ブラジル人を無制限に受け入れて学校の用意も何もしない訳です。すると子どもたちが何もすることもなくなってしまいますよね。あるいは非正規雇用者を景気が悪くなったらと突然解雇してしまい、何も面倒を看ないと。こういう状況をつくっておいてその人たちが何か犯罪を起こしたら「犯罪が増える」と言っている訳です。こういう悪循環をつくっていることに対しても、やはり先進国がどういう風にしているかというのを学ぶべきだと思います。

島田:私は特に20代〜30代はヨーロッパで過ごしていたのですが、当時はドイツやフランスへの移民がどんどん増加しており、その頃はうまくやっているという状況でしたね。ただ、それから20年〜30年後はドイツにトルコ移民が入り過ぎ、今はそれが2世3世になって色々と治安の問題あるいは社会的問題になっているという状態ではあります。フランスも多少そういう傾向がありますね。しかし長谷川さんが仰っているようにカナダやオーストラリアのようにほぼ成功している例もある訳です。日本は今後20〜30年、いくら少子高齢化対策をしても人口…、特に15〜65歳の労働人口が減ることは間違いありません。そのなかでも日本がそれなりに生産をしていくのだということであれば、たとえば特別な技能を持った人などを優先して入れていくということは積極的にやる必要があるのではないかと思っています。

小林:現場の場合と研究開発で相当に状況は違うと思いますが、新聞などを読んでいますと大学院もドクターなどはむしろ外国人のほうが多くなっているという状況がありますよね。実は三菱化学も90年代後半から2000年にかけて欧米の研究者を20人ほど呼んでいるんです。ただ、結果としてはほとんどお辞めになりました。MITからプロフェッサーを招いて社長の4倍の給料を出したりしていたのですが…。結果としては本人もそれほどの成功認識を持たずお辞めになる。それを考えるとやはり単純な条件とかそういったもの以外にも、たとえば畳の生活ですとか、その辺の違いがかなりあるような気が致しました。

我々としては今になって開国と言っている訳ではなく、前々からやっているんですよ。そのうえで「よほど文化に馴染んだ方でないとなかなか難しいのかな」という部分を感じるようになっています。ここについては本質的に考えなければといけないと思っています。我々ケミカルプラントの現場にいますと、だんだん日本人の現場力が弱ってきていると感じておりますし、逆にアジアの同胞に来ていただいて緊張感ある場をつくるのは大切だと思っていますので。

長谷川:ちなみに一点。これも不都合な真実のひとつですが、このあいだ北大の先生に話を聞きましたら、北海道の農業は中国の研修生がいなくてはもう成り立たない状況になっているそうなんですね。名寄市では農業労働者の七割は中国人研修生で成り立っていると。こういうことも現実にはある訳です。

御立:タレントの輸入、お金持ちの優遇、それから単純労働力の輸入…、いくつかあるわけですが、1番目について反論する方はほとんどいないんですよね。一方で移民全体の議論はタブーになっている。ただ、気が付けば研修生という名目の労働力輸入はすでにありますし、我々もコンビニに行けばすぐ分かる。気が付けばすでに違うことは起きているわけですね。

ちなみに私どもの会社でも、来年採用する予定の新卒のうち半数近くが中国人です。それも留学生ではなく向こうからの直接採用。採用の内定を出した人材は、それこそ半年で仕事に使える日本語能力をゼロからつくってきますよ。そういう人たちがごろごろいるわけです。そういう状況を見るにつけ、我々は出来上がった経営者だけでなく中堅や若手を含めたタレント輸入の議論をもっと真剣にやらないといけないのではないかという気が致します。はい。では次のご質問を募りたいと思います。いかがでしょうか。

企業が国を選ぶ時代に(小林)

会場:慶應大学の國領(二郎 慶應義塾大学総合政策学部教授)でございます。現在の学生たちにあたる世代は、まさに人材として国際競争にさらされながら、その一方で少子高齢社会を支えるようにとも言われ、ついでに子どもをつくれとも言われる(会場笑)。ですから私としては就職の背後にあるキャリアパスのようなものを若者たちに見せていきたいと考えているのですが、それをどのようにつくっていけば良いのか。本当に悩ましいところだと感じております。ある意味で今の就活は、沈みゆくタイタニックの一等船室を奪い合っているような(会場笑)、そんな感覚すらあります。ですからそんな馬鹿馬鹿しいことをするのなら「今のうちに海外体験を積んでおけ」ということで、新たに奨学金制度を設けて送り出すといったこともはじめています。しかしそのさらに先、帰国後の留学経験を生かしたキャリアパスを提示出来ているかというと、これもまた出来ていないと。そこでは結局のところ、戦後日本の雇用に関する仕組みが壁になっているという気がしています。新卒一括採用や終身雇用、あるいはそれに基いたさまざまな慣習…、色々と壊れかかっているような気もするのですが、抜本的なところで未だに変わっていないのではないかと感じています。

もうひとつ気になっているのは、日本の雇用に関する抜本的な課題についてです。1000万単位で労働力人口が減る状況なら、たとえば計画的に2000万〜3000万におよぶ移民を本当に受け入れるのなら良いのですが、それが出来ないときにどうするのか。たとえば女性の就業やテレワークについて、これまでは企業のほうもPR…、というとやや語弊もありますが、パッチワーク的でシンボリックな対応に終始していたような気がします。しかしそれでは今後、量的にとても間に合いません。また、恐らくは海外から来る方が日本文化に慣れて欲しいといったレベルでも済まないと。日本の企業文化や慣行といったものをそろそろ抜本的に変えていかないと、長期的にはもたないのではないかと私としては危惧しています。この点についてはいかがお考えでしょうか。

御立:まず、30万人から35万人分しか大卒の職がないというのはこの20年間変わっておりません。でも、60万人もの大卒者をつくってしまっているわけですよね。そういった人たちすべてに大卒の夢を見せるのは止めたほうが良いのではないかと。そういう視点を含めて、それならたとえばギャップイヤーでもつくって留学し、帰ってきてから本当に活用してくれるのかと。異質の体験をした人間をきちんと活用出来るのかというのが一つ目。

二点目は、たとえば色々な形で女性活用などと言ってはいるけれども、実際のところはどうなのかという点。まったく違ったキャリアスタイルを持っている人たちや異質の働き方をしている人たちを許容してでも、本当に日本企業は変わっていく気があるのですかと。移民の問題等色々ありますが、敢えてこの二つにまとめさせてください。この点については、皆さまいかがでしょうか。

長谷川:國領先生からいみじくも「今の就職活動は沈みゆくタイタニックの一等船室を奪い合っている」というご指摘がありました。ちなみに私は「日本国民が沈みゆくタイタニックで『飯がまずい』と文句を言っている」と思っています(会場笑)。どちらも似たようなものではありますが。

まあそういう皮肉はさておき、まず異質体験者のご指摘ついて、まったく異存はありません。で、武田薬品で日々頭を悩ませているのは、日本本社をどうやってグローバライズしていくかということです。それにはやはり異質な人材を採るしかない。ですから外国人の比率をどんどん増やしています。また、定期採用というのはMR(医薬情報担当者)の方以外はまったくしていません。ボストン、シンガポール、中国、韓国、インド…、すべて直接採用に行きますし、インターンシップもやっています。もちろん留学生の採用を含めまして、すべて通年採用でやっていますね。恐らく学生さんが行きたいと仰っている大企業のほとんどは、遅かれ早かれ同じように…、いま変わっていないとすれば今後変わると思います。ですから「留学をしたら損をする」とか、そういうのはまったく関係ありません。むしろ社内の人事担当者などは「ボストンであれだけ素晴らしい人材を採用出来るなんて知らなかった」と。「これなら日本で採用する必要はありませんね」なんて言っています。ただ、その対象はほとんど日本人であって、なかには中国人とか韓国人の留学生もいるという状況であります。

従って、現在、私どもは売上の7割ぐらいがすでに海外でのものですが、とにかく外国の優秀な人たちに日本本社へ来て貰い、そこでデベロップメントステップというか、能力開発を行ったのち、またどこかに帰って貰うと。「本当にグローバル企業になるのであれば、そういった機能を持つことが本社の役割になる。だからそれを5年以内になんとか実現しよう」と社員にも言っているところです。そんなチェンジマネジメントを色々とやっていますね。ここは本当に根深くてなかなか変わらないのが悩みではありますが、なんとかしてそんな風に企業カルチャーを変えていきたいと思っております。

最後にひとつだけ。あまり文句ばかり言っても仕方がないので、私は母校の早稲田で今年の10月からクラスを持つことにしました。半年に渡って1時間半の授業を13コマ、すべて英語で行います。そこで、企業はどういった人材を求めているのか、どのように意思決定をしているのか、どういった形のグローバリゼーションを考えているのか…、そういうことについてひとつひとつお話をします。海外子会社のCEOが来日したら、その方にもコマを持たせようと思っています。そういう形でプロアクティブに働くことを考えていまして、私としてはもっと多くの企業にそういったことをやって欲しいと思っています。

小林:極端なことを言えば、企業が国を選ぶ時代が来たのかなと。各産業によって事情が違うとは思いますが、当グループはそのように考えていきます。ある事業はシンガポールに本社を置いて、ある事業は日本に置いておくと。その辺の住み分けがはじまっているのではないでしょうか。で、学生さんの就職については通年採用を含めて対象を新卒以内プラス3年にするとか、そういう形で動いていますね。いずれにせよ、これからは日本人が国を選び、いわば“和僑”のような形で進んでいけばいい。企業もそのような流れに対応して構造全体を変えていけば良いと思います。最終的にお金は日本に持って帰るようにしますが、作業そのものを日本のテリトリーに置く必要はまったくない訳です。一部では明らかにそういった時代が来ていると思っております。

御立:ありがとうございます。そろそろ時間が迫って参りました。今の議論を踏まえてお話ししますと、実はパーセプション・ギャップというか…、企業がやりはじめていることと学生さんが思っていることに大きなギャップがあるように思います。そして、恐らくは政治家の方々が認識されている状況とも相当なギャップがあると思いますので、これをなくしていくだけでも状況は相当に変わるのではないかと。

ですからG1のような場でもあることですし、今回のアジェンダやイニシアティブに関しては、このあと公式スケジュール外の時間も含めて「これはどうなんだ」というようなことを突きつけ合うのが良いのではないかと思うわけであります。そこでパーセプション・ギャップがなくなっていくだけでも物事が半歩ぐらい進むのではないか。G1には、政界、学校、NPO/NGOと、色々な分野の方がいらっしゃいます。ぜひ今後とも皆さまから活発なご批判ご指摘をいただきながら、まったく違う視点から見て「あ、こういうことなんだ」ということを勉強出来たらと思います。今回は長時間、本当にありがとうございました。壇上の御三方にどうぞ大きな拍手をお願い致します。(会場拍手)

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