京都吉兆・徳岡邦夫氏×農水省・増井国光氏×太極舎・岡部泉氏「日本文化とクール・ジャパン-Ⅰ 〜日本の食文化で世界市場を開拓する」 

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海外での日本食の地位はこれほどまでに高い(楠本)

楠本:皆さま、本日はよろしくお願い致します。本セッションでは日本の食または食文化を軸にしながら、日本の文化やクール・ジャパンといったものの可能性についてご一緒に考えていきたいと思っています。G1サミットではこれまでもさまざまな形で日本の美意識などについて、議論する場を設けておりました。今回もその流れのなかで、日本文化の経済的側面にも注意を払いながら、今後の日本をもっと元気にしていく突破口を見出せるように話を進めていきたいと思っております。今日はその道の代表的な方々にお集まりいただいていますので、ぜひ熱い議論にしていきましょう。

冒頭に、徳岡さんと岡部さんからお話をいただきたいと思っております。三ツ星シェフの徳岡さんは申し上げるまでもなく、京都吉兆嵐山本店の代表であります。そして日本を代表するデザイナーのお一人である岡部さんは、日本の審美眼をさまざまな形で打ち出しておられます。

実は今から3年前、徳岡さん、岡部さん、そして私の3人で、アメリカのナパバレーにあるThe Culinary Institute of America(CIA)といういわば“食の経営大学院”で、日本料理に関するプレゼンを行ったことがあります。当時はボランティア参加のような状況であったために、組織立ったプレゼンを行えず少々残念だったのですが、“食のハーバード”と呼ばれるCIAで、日本の食文化に対する大変強い関心を聴衆から感じとることが出来たのは大きな収穫でした。そして昨年11月、CIAに赴き、世界最大級の国際料理会議である“Worlds of Flavor”において、改めて日本食に特化したプレゼンを行いました。この会議は日本人トップシェフ40人が勢ぞろいし、世界に向けてプレゼンを行ったという意味で、日本の料理界においても画期的な出来事ではないかと思っています。最後は総勢700人の観衆によるスタンディングオベーションで、5分間も拍手が鳴りやまない状態でした。

現在、日本の食は海外においてこれほど高い評価を受けているということなのだと思います。今まさにその最前線で活躍されている徳岡さんから、まずは活動の内容や今後の展開などについてお話しいただきたいと思っております。徳岡さん、よろしくお願いします。

日本料理は、農業と一体になって世界マーケットを開拓すべき(徳岡)

徳岡:徳岡と申します。よろしくお願い致します。世界では今、日本料理が本当に高い評価を受けていると強く感じています。私自身、数々のイベントや各国の団体、個人の方から、ケータリングの希望を頂き、お伺いするケースが大変増えてきました。もちろんCIAでもスタンディングオベーションのなかで大成功を収めたという感覚があります。ただ、私個人としては少々“やり残した感”があったという気持ちも拭えません。

私自身は料理屋を営み、厨房で料理をつくり、さまざまなことをしています。それはとりもなおさず『吉兆』という料理屋をなんとかしたい、という気持ちから生まれてくるものです。しかし、料理のクオリティを上げるための源泉といいますか、元となる食材を求めて生産者の現場に足を運ぶと、ある種の違和感を持ってしまうんですね。それは、一次産業の方による真剣な取り組みが「報われていない」と強く感じるからです。逆に言えば“こずるい人”がお金儲けをしてしまっている…という感じです。お金儲けをしている人がすべてこずるいというわけではまったくないのですが。そういう現場の状況を目にして、「何か違う」と。私は、一次産業に従事する方が仕事の方向性や表現の仕方を少し変えるだけで、もっと報われるようになるのではないかと思っています。そんな思いから、プライベートでいろいろと活動をしています。

私は一次産業の方々の取り組みを、海外のさまざまなイベント等でなんとか伝えていきたいと思っています。そしてそれが還元され、農業の現場にいる人達が裕福というか、豊かになるようにしたいのです。経済的なものだけではなくメンタル面での自信にも繋げられたらいいなと思っています。ですから、料理を提供する立場から何とか農業と一体になって世界マーケットを開拓する動きを起こしていきたい、という気持ちがあります。しかしそれがなかなかうまくいかないジレンマを抱えながら、日々活動しています。

楠本:徳岡さんはお会いしたときからずっと“一次生産者へのリスペクト”というお話をされていました。実はCIAのイベントでも、「農家とシェフの二人三脚でプレゼンを出来ないか」、といった提案をしたのですが、なかなか通らなかったということがありました。ちなみに、せっかくですので吉兆さん、特に徳岡さんが世界のさまざまな場所で活躍されている事例もご紹介いただけないでしょうか。ジェームズ・ビアード・ハウスの件ですとか。

徳岡:世界各地のイベントに招待されて、料理をすることは多いですね。ジェームズ・ビアードは“アメリカにおける美食の父”と言われている人です。彼が生前住んでいた自邸は現在、彼の名を冠した財団の運営で「ジェームズ・ビアード・ハウス」として開放され、そこで料理のイベント等が行われています。で、ある時そこからお呼びがかかり、「日本料理のうま味、健康、美容といった切り口から何か出来ないか」と言われました。そこで、ハウスに伺って料理をつくったことがあります。はじめはこの方のことを全然知らなくて一度お断りしたのですが、実は選ばれること自体が大変名誉なことで、断ったら失礼にあたる、ということがわかりまして……(笑)、お伺いしました。

その流れで別の機会にはニューヨークのある企業に呼ばれて、「うま味」に関するプレゼンと食事会をいたしました。実はそのとき、『ニューヨーク・タイムズ』で大変著名なフードライターの方も会場にいらしたそうなのです。ただ、その方は食事会に招かれてもまず行くことがなく、たまに足を運んでも最後までいないことで有名だったそうです。でもそのときは最後までいらしたので、アメリカの皆さんはずいぶん驚いていました。僕は何も知らなかったので、ただのおばちゃんにしか見えず(笑)、「ああ…、そうだったんですか……」という感じでしたが。

楠本:ありがとうございました。前段でお話しされていた「農家をどういう風に盛りあげていくか」ということについては、後ほど改めて議論のテーマにしたいと思います。では続いて岡部さん、よろしくお願いします。

日本の「食」には、文化として、教育として受け継ぐべきものがある(岡部)

岡部:こんにちは、岡部です。よろしくお願いします。私は子どもの頃から日本オタクといいますか日本大好き人間で、名刺に「日本贔屓」と書きたいというぐらいの人間です。海外に出たいともまったく思わなくて、日本のことを勉強するだけで精一杯というか、まだまだすべきことがたくさんあると思っています。その意味で、他のデザイナーさんとは少し違う、引きこもり型デザイナーです(会場笑)。

私自身は、今世界は、「日本って、ちょっとすごいんじゃない?」と、食を含めた日本文化に大変注目してくれている、という印象を持っています。先日の“Worlds of Flavor”でもそうでした。私はCIAでも日本の美意識をテーマにした講演を行ったことがあるのですが、会場には日本のことを実によく勉強されているアメリカの方がいらっしゃいました。もっともCIAには、特にレベルの高い方が集まっているというのはありますが。

そのときの講演では、日本の美意識はどこから来ていて、日本人はかつてどのような生活をしていたか、といった話をしていました。すると聴衆の一人から、「二十四節気について教えてください」と英語で聞かれました。今、日本人の中できちんと説明出来る方がどれだけいらっしゃるでしょうか。「二十四節気って何?」という若い方もいると思います。実際、その講演を聞いてくれていた日本の女の子には、あとから、「二十四節気という言葉を初めて聞きました」と言われました。日本では、料理人が四季を追いかけて料理をつくっていて、「日本では四季の移ろいが大切」と言ったところで、実際にはどれだけの日本人が今も四季に対して敏感に心を反応させているのか、疑問に思うこともあります。

そろそろ春になりますが、そのときの私たちの気持ちはどうでしょうか。もしかしたら「忙しい」という方もいるかもしれません。なにかこう「勝たなければいけない」という現代生活に身を置いていると、勝つことよりも大事なことを忘れてしまってはいないか、そんな気持ちになります。このままでは日本の精神性というものが少しずつ失われていくのではないかな、と。これが、いま私が最も危惧していることです。

そうすると何が起きてくるでしょうか。自分たちの軸足がどこにあったのかが、分からなくなってきます。会社、家庭、学校…、それぞれのシーンで、何を軸にして、次のビジネスモデルやライフスタイルをつくっていけば良いのかが分かりにくくなっていくでしょう。特に「食」は毎日のことであり、人の体を作っているものです。ですからまずは「食」から見直していかないといけないのではないかなと思い、本日も参加しております。

「日本の食」といっても、いまの日本では、世界各国のあらゆる料理を口にすることができます。しかもどのジャンルであっても、日本人シェフは皆、研究熱心です。フレンチもイタリアンも、世界から学んだ料理で本当に高い水準を保っています。よくよく考えると、これは日本人の特性です。研究熱心で、実に繊細、美意識も高い。これこそが日本人の特性と考えてもよいのではないかと思っています。

ところが、こうした特性が育んできた日本の伝統を次の世代に引き継ごうというとき、実は私たち自身の“伝統の体感”が希薄になっていることに気づきます。たとえば、やがて子供たちがやがて「どうしてお箸を使わないといけないの? スプーンでいいじゃない」と質問をしてくる気がしています。「お箸」の元を辿ると、「一方の端は神様が使い、もう一方を人が使う」、つまり神様と人との共食があります。神様と一緒にご飯を食べている、ということです。八百万の神を尊敬してきた日本人の佇まいが、箸を使うこと一つにも表れている。これはいわば日本人の根っこの部分です。さらに、神様や人に感謝することに加え、物にも感謝する。「これはもったいないから、ずっと使い続けよう」と考える。実はこうした精神構造が日本人の根底に流れているからこそ、箸を使うたびに「いただきます」や「ごちそうさま」を言うのだろうと思います。では、私たちはそれを子どもの世代に伝えられるのでしょうか。こうした意味があやふやになってしまっているので、親も自信を持って伝えられません。それでも私は、日本の食文化には、教育として語ることの出来る要素がたくさんあると思っています。その要素をもう少し深く掘り下げたり、簡単なキーワードにしてみたりと、親が子どもに伝えるための分かりやすい日本食や日本文化の普及活動の必要性も感じています。

楠本:ありがとうございます。日本食は、本当に海外からリスペクトされているというか、期待されていますね。日本食ならではの健康志向や美意識が評価されているのだと思います。加えて、日本の美意識には繊細な“ずらし”であるとか、気持ちのゆらぎを感じ取って表現する“感性”が入る。日本人はその意味で圧倒的に豊かな感性を持っている、これは私が申し上げるまでもないと思います。そういえば「世界一予約が取れないレストラン」と言われていた『エル・ブジ』のフェラン・アドリア料理長は、日本食の大ファンだそうです。彼が「日本食は素晴らしい」と言ってくれたおかげで、ヨーロッパでの日本食人気が高まったという話を聞いたことがあります。それほど大きな可能性を秘めた文化なのだと思います。

海外の日本食ブームの恩恵を日本が受けるための3つの課題(増井)

楠本:しかし一方では徳岡さんからご提起いただいたように、作り手側が非常に疲弊しているという問題もあります。また、海外で日本食ビジネスが成功しているのかといえば、世界で2万5000店あると言われる日本食レストランのうち、日本人経営の店舗はわずか10%にすぎません。わかりやすくいえば、大半は外国人の経営者に味をコピーされて“おいしいとこ取り”をされた結果、中途半端な日本食が広がってしまっているという現実もあります。次はそのあたりの現状を、JETROでフランスへの赴任経験もある農水省の増井さんに伺ってみたいと思います。増井さん、お願い致します。

増井:よろしくお願い致します。今日はクール・ジャパンのセッションですので、海外における日本食の可能性と課題について、自身の経験も交えつつ3点ほどコメントさせていただきたいと思っております。

1点目は世界における日本食ブームの実像について。先ほど楠本さんからもありましたように、5年前のおおざっぱな推計で海外には約2万5000店の日本食レストランがあると言われています。5年前のデータですから、恐らくはもう相当増えて倍ぐらいになっているかもしれません。ただ、問題はその中身と内訳です。日本食が磨かれて進化しているのであれば大歓迎です。ニューヨークにある一流の寿司屋や、先ほどのCIAの料理人達はまったく問題ありません。問題は、それ以外の大多数となっている非日本人が経営しているコピー店舗です。実際のところ、これは功罪両面あると思っています。良い面は、日本食というものをある程度欧米人に広めてくれた点です。もともとヨーロッパの人は生魚を食べません。しかしそこで、非日本人が魚を切り、寿司の形にして、安く提供したことによって、かなりの人が魚食文化や生食文化に慣れてきました。このように裾野を広げてくれたメリットは大きいと思います。

一方の課題としては、それらのコピー店舗が出す日本食が外国人、特に欧米人に日本料理のスタンダードであると勘違いされてしまうことです。パリ駐在時に聞いた極端な例ですが、あるフランス人が中国人の経営している店で日本酒や寿司に親しんでいたそうです。そこにたまたま日本人の友人が、日本人が経営している寿司屋に連れて行き日本酒を一緒に飲んだところ、「こんな水っぽいお酒は日本酒じゃない」と怒られたと言うのです。それまで彼が何を飲んでいたかというと、実は中国の店で日本酒と称して、アルコール度数40度ぐらいの強烈な中国酒を出されていたそうです。だから本物の日本酒が水っぽいと突き返された。そういう話はたくさんあります。

なぜこうしたことが非常に困るかというと、フランスは世界中から年間およそ7500万人(2005年データ)の観光客が来る世界一の観光都市であるためです。美食の国ということで、訪れた観光客は当然、食に期待しており、日本料理も食べます。ところがパリでは、日本人が経営しているお店は少なくなっています。折からの不況で駐在事務所が次々とパリから撤退し、ロンドンやデュッセルドルフに集約されていきました。すると、ただでさえ経営が難しいきちんとした日本料理屋は駐在の日本人が減ったために売上が減り、さらに安い非日本人経営のお店が一気に増えた影響で、次々に潰れていくわけです。このような状況下では、せっかく広がった日本食文化の流行の土台の上に、日本人として次に何を新たな日本食として提案し、いかにして日本がお金を稼ぐのかを考える必要があります。今は残念ながらまったく日本人の利益になっていません。お金が日本に還元されず、日本食ブームにおける果実のすべてが非日本人に流れていくという構図です。これをどう解決していくかは、大きな課題だと思います。

各地の食文化の程度に合わせて横連携したPRを(増井)

増井:2点目は国内の課題です。「足元は大丈夫ですか?」ということです。日本食がこれだけ世界中に広がっていくと、外国人の中には、「やはり本場で食べたい」ということで、日本に来る人が増えます。ところが我々日本人自身は、本当に日本食文化をきちんと理解し、守り、さらに発展させるような取り組みをしているのでしょうか。先ほどまさに岡部さんが指摘されていた、子どもたちにきちんと伝承しているのかという問題意識にも通じます。寿司は「寿司の形をした魚が海を泳いでいるもの」と子どもが思っていたという、ありえないような、しかし本当の話があるわけですよね。

そこで一つ参考として申しあげたいのはフランスの例です。2002年にフランスの農業省が「フランス食文化を振興させるためにどうあるべきか」という報告書をまとめました。なぜそのような報告書をまとめたかといえば、実は当時、フランスがワイン市場において、チリ、オーストラリア、カリフォルニアを始めとする他国のワインに負けていたためです。これは、フランス人技術者がヘッドハンティングされたという裏の事情に加え、フランスワインは高い、もしくはフランス料理はエリート主義で傲慢というイメージを持たれていたことが大きかったようです。比較すると、イタリア料理はとてもフレンドリーなイメージですよね。実際、イタリア料理に押されてしまい、フランス料理はいまひとつ盛りあがっていませんでした。そこで、フランスの農業省がワインを含めたフランス食文化を海外へPRするうえで何をするべきか、という対策をまとめました。対策には4項目あり、そのうち3つは海外戦略関連でした。ところが残りの一つは、「まず取り組むべきこと」として、フランス国内において、国民にフランス食文化を浸透させ、根付かせるというものだったのです。フランスも当時は、若者のワイン離れ、あるいはファーストフードに押されてフランス料理が国民に食べてもらえないという現実を抱えていました。まずは国内からしっかりと改善していく必要があるのではないかという問題意識の表われです。このように、足元をおろそかにしないというのは非常に大切な視点になると私は思っています。

そして3点目は、官側の縦割り問題の解決です。在外公館や官公庁の出先機関は、それぞれが独自にPRしていて、まったく横連携が取れていません。たとえば一時期、パリでは若者の間でラーメンが流行していた時期がありました。フランス人はもともと行列に並んでまで食べるということを絶対にしない国民ですが、ラーメン屋だけは例外的に若者が行列をつくっていたのです。とんかつも流行っていましたね。恐らく漫画の影響だと思います。漫画でラーメンをすすっている若者が格好いい、ということでラーメン屋には若者が並んでいました。そういう状況で、観光庁の出先機関である日本政府観光局(JNTO)という組織が「VISIT JAPAN」キャンペーンでパンフレットをつくってPRしていました。そのパンフレットには懐石料理の写真がどかんと載っていたり(会場笑)、舞妓さんが映っていたりと、とにかく相当にズレているわけです。現地における日本食文化の程度に合わせて戦略的に横連携を行い、もう少しきちんとPR手段を考えなければなりません。これは我々役所側の問題でもあるのですが、そのあたりも今回、クール・ジャパンを考えるうえでひとつの大きな課題になると思います。以上、日本食ブームの現実、国内の食文化育成、そして海外におけるPR組織の課題という3点でした。

楠本:ありがとうございました。海外でどのように本物を伝えていくか、ということと同時に、国内での作り手をどう育てていくか。そして、横連携の課題ですね。お伺いして、海外展開を考えるうえでは何らかの戦略的ヘッドクォーター(本部)が必要なのではないかと思いました。

「クール・ジャパン」とは海外で「日本代表」として戦うこと(楠本)

楠本:ではここで、クール・ジャパンの有識者会議で議論されている骨子、あるいはコンセプトのような部分を少しお話ししたいと思います。クール・ジャパンは、経済産業省の文化産業立国を目指す政策コンセプトで、このコンセプトの下に、日本の文化を通じて日本の良さを国内外に発信する取り組みが推進されています。その産業の一つに食分野があります。食という生活文化産業を普及させるためには、当然、市場原理の中でマーケットシェアを何%とるかといった指標も重要であると思います。しかしその一方で、誰に、どのように伝えて、どこから共感共鳴が生まれ、その結果としてどのように生活文化がシェアされていくのか、という見方や発想も大切だと思っております。つまり、一方的に何かを伝えるのではなく、相手からも同様にいただきながら、寄せては返す波のように伝播させていく、そのようなアプローチが必要になります。そのうえで、「外」に向かっては「繋ぐ」ことが重要です。つまり先ほど申し上げたように、ストーリーや文脈を広げて伝えていくということです。徳岡さんのご活躍が象徴的ですが、非常に多くの方々の共感共鳴を繋いでいらっしゃると思います。一方、「内」においては「結んで」いくことが必要となります。食育でいえば、「食」を通じて、「日本国民はこうだね」ということをもう一度見直していくことではないでしょうか。

ここで「結ぶ」ということに対して、二つの観点から考えてみます。ひとつは「地域ブランドを結ぶ」という考え方です。たとえばフランスは、皆さんご存知のように、フランスというひとつの国としてのブランドが認知されています。そして同時に、ボルドー、ブルゴーニュ、プロバンス、といった地域もそれぞれひとつのブランドとして世界で非常に高い認知度を持っています。「シャンパーニュ地方で取れたものでないとシャンパンと呼んではいけない」などというのは、非常に象徴的です。これからは日本もそういった地域ブランドを結んでいくということが必要になってくるでしょう。ひょっとしたら47都道府県は海外から見るとあまりに多すぎて、各都道府県が伝えたいことがそのまま伝わらないという場合もあり得るのではないかと思います。もちろん、隣の市町村同士で海苔の佃煮のブランド化合戦をして、別ブランドで戦っていくということは当然あると思います。どの業界でも競合はありますから、これは“内”においては当然のことです。

ただ、外においては簡単にいうと「長嶋ジャパン」をつくらないといけません。つまり“内”ではプロ野球で戦っていても、外に向かうには日本代表にならないといけないわけです。農業、食品加工、外食、外食でもたとえば居酒屋とレストランチェーンなど、海外ではまだそれぞれの分野で連携はなされていないように感じます。外食チェーンと一流シェフの店が特段コラボレーションをしているわけでもありません。国内リーグではそれで問題ないですし、サプライチェーンの発想で考えれば当然、「食品メーカーが外食の分野に入るのか?」という抵抗があるでしょう。しかし外においては、こうしたさまざまな形態の「食」をすべて繋いでいこうという発想がクール・ジャパンなのです。伝統から革新へと繋ぎながら、文化、アート、カルチャー、暮らし、健康、そして一番重要な農業、各分野をまとめて一つのプラットフォームをつくる努力が必要ではないかということです。

有識者会議では産業の目標規模として、あと10年のあいだに2〜3兆円を海外で創出するということですが、増井さん、いかがでしょう。今、海外への輸出金額は5000億円ぐらいでしょうか。言ってしまえば戦略的な取り組みなしで5000億円規模が輸出されている状況下で、その4〜6倍を目標設定にしているのが経済産業省の数字です。このあたりについて、何かコメントはございますか?

まずは日本食独自の物流ネットワークと棚の確保が不可欠(増井)

増井:経済産業省でつくられたのは、結構意欲的な数字だと思います。ただ重要なのは、どこで稼いでいくかということを要素分解し、きちんとそれぞれカテゴリごとに工程表なり道筋を考えていくことです。それなしでは恐らく実際に数字は積みあがってはこないのではないかと思います。非常に現実的な話をすると、先ほどフランスのお話が出ましたが、フランスという国のブランドは本当に各国の皆さんよくご存知です。場合よってはシャンパーニュ地方とか、日本人は地域名までよく知っています。では「日本」という国のブランドはどうでしょうか。日本は果たして海外でどれぐらいのブランドで認識されているのか、ということです。極端な話、ヨーロッパでも特に一般中間層の人たちは、「日本は中国の中にある」「アジアにあるけど、どこなのかよく分からない」とか、それぐらいの認識だと思ったほうがいいと思います。実際にそうですし。

また、日本のわさびや醤油はたしかに向こうのスーパーにも並んではいますが、それらのほとんどがスペインやアメリカの企業によって製造されています。エスビー食品のわさびやキッコーマンの醤油もあるにはありますが、それらは日本人の物流ネットワークというよりも、華僑系のネットワークで入って来ています。しかもアジアエスニックの大きな棚にぽつぽつ置いてある、という状態です。こういう状態で、「日本製」「ジャパン」というブランドが現地の人にあまり認識されていないのは、ある意味当然ではないかと思っています。ですから物流で独自のネットワークを構築し、独自のカテゴリで棚場をつくる、そこをしっかり押さえたうえでPRしないといけません。とりわけこれから狙っていくのがマス、つまり中間層の人たちであれば、この部分を押さえないとなおさら難しいと思います。2〜3兆円という数字を稼ぐためには、物流体制と棚場の確保、あるいは先ほど話しに出ていた産業の横連携によるネットワークが不可欠になると思います。

楠本:ありがとうございます。ではここで、先ほどお話しした「寄せては返す波のように伝えていく」という部分を見ていきましょう。岡部さん、お願い致します。

今必要なのは、情報のプラットフォーム、支援、伝えるメディア(岡部)

岡部:まずはこの絵から、我々は、「今、自分たちに『あるもの』と『ないもの』は何か」をきちんと把握していくべきだと思っております。日本食が伝わっていくイメージとして、リンク型あるいはサイクル型の絵を描かないといけないのではないかと思いまして、右の緑の木が日本の木、もう一方を世界の木としました。私たちの国は大変緑が豊かな国だとされていますよね。ですので、下には我々の文化、伝統、歴史、あるいは精神性のようなものが土壌としてあるとします。それを吸い上げて食文化の木が成長しているイメージを描きます。その木には、一次産業の実りが生っています。そして鳥は料理人としていますが、この鳥がいて、さらにその周りにはまたディレクションする企画の人がいて、それを運ぶメディアとしてのトンボもいます。我々はこれだけのものを持っているのに、うまく伝えることが出来ず、そして個々に動いているのです。ですからまずこの上部分にある雲の中へ、なんとか知恵やノウハウを結集させていくことが重要です。このプラットフォームのようなところに集めて、マネジメント的な情報を共有し、皆が得られるようにする。現在はこの雲のように集約するプラットフォームがないので、何よりその仕組みづくりが必要ではないかと思うのです。

次に、その前にいるのは大鷲…、日本で一番大きな鳥です。これはインフルエンサーを表しています。CIAのイベントも、インフルエンサーとしての役割を担っていたと思っていますが、日本ではなかなか知ることが出来ません。つまりメディアも我々が“持っていないもの”の一つです。さらに、世界の木に添え木のように植え付けられている日本の木の枝が描かれています。これは、仮に『ジャパン・タウン』という名前だとします。これは、世界で「日本食ってこういうものです」という使者の役割を果たします。こうした木の枝を植え付けるぐらいでないと、日本食は理解してもらえないのではないかと。そこからまた情報がプラットフォームに戻ってきます。そのようなサイクルを持った図式です。それで世界から木の葉が日本に戻ってきていますが、それは観光客や、日本料理を学びたい海外の人の方のための就学システムなどです。こうしたものがぐるぐると回りながら、そしてレストランのオーナーやシェフが世界で活躍して、日本の加工品や農産物を日本の文化を伝播させていく、という図式です。

我々が今持っていないものをまとめてみましょう。まずは、雲。プラットフォームになる雲がない。伝達機能としてのメディアもない。あとはこうした活動に対する支援、恵みの雨がありません。あるものは、我々の土壌で生まれた技術、産物、料理のノウハウです。ただ、実はそういった“あるもの”も、あまりにも放ったらかしにしているとだんだん枯れていってしまいます。そして、すでに枯れはじめているのではないかという懸念が、増井さんの「足元は大丈夫ですか」という話に繋がっているのだと思います。

楠本:ありがとうございます。岡部さんからのお話は、なんらかのプラットフォームが必要であるということですね。先ほど僕は「ヘッドクォーター(本部)」という言い方をしましたが、ヘッドクォーターあるいはプラットフォームが必要であるということですね。そしてその役割は、海外に向けていかにして本物感を伝えていくか、ということにあると思います。これは、増井さんからありました物流体制と棚場の確保といったビジネス上のサポートにもつながると思います。さらに国内でどのように食文化を守り、育んでいくのか、さらに“つくる人材”を育て、どのようにビジネスとして成立する体制づくりをしていくかということ。加えてインフルエンサー、伝達機能、広報の役割の重要性ですね。そういったあたりの話が出たのかなという気がしております。特に徳岡さんのテーマとしては、国内での育成になるのでしょうか。

発信する前に、地域の一次産業で知恵を出し合う学びの場を(徳岡)

徳岡:そうですね。つまり農家がきちんと潤うようにということですが、もちろん農家も意識を変えなくてはいけないと思っています。ただ、他の課題についても言えることですが、理論ではなく、具体的な案が必要です。特にインフルエンサーの存在は欠かせません。知ってもらわないことには何事も始まりませんから。たとえば私の友人のトップシェフ、この人たちはすごく大きなインフルエンサーになると思いますし、アメリカならばハリウッドスター等もインフルエンサーになりえると思います。彼らに食を含めた日本各地の素晴らしい文化紹介する機会をつくったらどうか、と思っているところです。各地ですでに下地がありますから、経済産業省が受け皿となってコンクールを行ったり、一定のコンクール期間のなかで優秀なところには資金を出したりするのも良いと思います。

さらに、こうした催しをどこで行うかもポイントですよね。たとえば、発信力が強いという意味ではニューヨークです。その場合はニューヨーク市長をはじめ、ハリウッドスター、さまざまなインフルエンサーに日本を紹介してもらう。もちろんそのときは日本の立場から日本をアピールすることが重要です。あちら側の意向で「こういうことが知りたい」という内容を満たすのではなく、「日本はこうなんだ」と、きちんとアピール出来るところを持つことです。こうしたきっかけがあれば、農家だけではなく漁師も含めた地方の一次産業全体で知恵を出し合う習慣がつくと思います。また、一次産業に従事する方の意識を変える必要もあります。この意味では教育が重要です。地場をもう一度復活させるために、地域ぐるみで一次産業から学者まで、いろいろな人が混在する教育の場をつくらなくてはいけないのでは、と考えております。

楠本:ありがとうございます。教育の場が必要ということですね。食の分野は、たとえば種なども含めて、なし崩し的に海外へ出て行ってしまっては困るものがたくさんあると思っています。ですからそれらをいかにして守り、どのように育んでいくかも一つのテーマになりますし、それがあることで、海外から日本食について学びたい人たちが来るようになるでしょう。「外から来てもらいながらも、自分たちも外に出ていく」という循環のテーマについても、ご指摘いただいたのかなと思っております。

さて、会場には食関連のプロの方もいらっしゃっていますので、ここからはぜひ皆さまからもお話をいただきたいと思っております。

日本の中に「食のメッカ」のような場所をつくる(会場)

会場:私は伊勢から来たのですが、最近は伊勢神宮への参拝が大変なブームになっております。ブームの理由は置いておきまして、神社を参拝する本来の意義は、自然の恵みや「食べる」ということへの感謝の気持ちが込められたものですよね。そこで思ったのですが、一次生産者の現状が非常に厳しいことなので、報われるような仕組みづくりを進める一方で、提案の一つとして丁寧につくっていただいた農産品を伊勢にご奉納していただくというのはどうでしょうか。そうしていただくことで、日本人の食文化にまつわる心の風景をもう一度見つめなおせるような気がしております。

徳岡:素晴らしいと思います。ただ、実際に切羽詰まっている農家の方は多くて、まずはお金を得られる仕組みをつくらないと、次の世代がどんどん農業から離れてしまうのです。ですから、奉納を含めることの精神的な効用は必要だと思いますが、それをビジネスといいますか、お金に換えていけるかといいますと、少し難しいところがありまして。

会場(続き):食材を探しておられる方々も、併せて伊勢に来ていただくというのは、いかがでしょうか? そのまま伊勢を会場にしてしまうのも面白いのではないかと思っていますので、もしご興味がありましたらぜひ。

徳岡:分かりました(笑)。私も知っている生産者もそれほど多くはないのですが、ちょっと話し合ってみたいですね。

楠本:伊勢にある種の“メッカ”をつくるという発想ですか?

会場(続き):そうです。大勢の方々に関心を持っていただく効果もあります。

楠本:具体的に伊勢というのは今まで発想にありませんでしたが、メッカづくりというのは面白いですね。

徳岡:海外の観光客にとっても良いですよね。日本文化に見出す神秘性というのは、非常に魅力的に映ると思いますから。

農業に興味ある若い人へのキャリアの提案(会場)

楠本:ありがとうございます。では続いて有識者会議で議論している内容をさらにご紹介していきましょう。プラットフォーム、ヘッドクォーター、マッチングの場所…、いろいろな言い方があるかと思いますが、3つぐらいに集約されるのかなという話を昨日はしておりました。

一つは「ビジネス・プロデュースのサポート」です。これは先ほど増井さんが仰っていた物流体制の構築や棚場確保とともに、恐らく最も重要となるところであり、岡部さんが描いた“恵みの雨”の部分ですね。どのようなところに適切な資源ないしお金を投入し、一つの統合型のモデルとして展開させていくか、これは大きなテーマです。そして、次が「コミュニケーション」です。インフルエンサーという言葉も出ましたが、どんな風に伝え、繋げていくかということです。外に出るときは一致団結するためのモチベーションの上げ方なども含めて、どのようなコミュニケーションをしていくかということです。そして3つ目の議論として、たとえばグロービスで「食のMBA」のようなコースができるとよいのではないかと。一次産業の実習、店舗実習、食品加工の実習、そして海外のマーケティングやブランディングも含めたビジネスの経営理論。この4つを循環させるような知の場所をつくっていくべきではないかという話も出ています。

松本泰幸氏(株式会社日本アグリマネジメント社長):おはようございます。私は北海道で農業をやっていますが、農家がやはりいろいろなことを知らないという問題があると思っております。たとえば、農家が気になるお金の話というのは、売上、JAからいろいろなものを引かれた手取りであり、市場のせり値だけなのです。しかしそこから先、消費者に自分たちの作ったものがいくらで売られているのか知らないことが多いのです。ですから私は、外に向けて一致団結する前に、国内でそういう情報を交換できるような交流の場があればいいなと思っていました。そのため先ほどのパネルのお話は私にとって非常に納得感がありました。

私からの提案ですが、「儲かる仕組み」と言っても、今から農家教育するのは大変です。うちも24歳の若手がいる一方で、最高齢の社員は84歳で、教育するのもなかなかしんどい。やはり外の知も必要ではないかと思います。事業戦略、販売戦略、あるいはパッケージングをどうするのかというときに、「ちょっとパワーポイントでまとめておいて」と、当社の75歳のおばあちゃんに言ってもつくれませんので。ですから、農業に興味のある方には、よくあるような収穫体験プラスαと言う程度のイベントではなく、種まきをから始めて草刈り、そして収穫までやっていただく。そのあいだに、ある程度素養のある方だったらマーケティングや事業計画書づくりのお手伝いをしていただくわけです。できれば、都会と農村を結ぶ若い方々の間にこういうキャリアを歩む方が出てくるといいなと思っております。

海外の展示会場では、商品と買い手にズレがあることが多い(増井)

松本:あと、海外の展示会に出て行くとき、現地の状況を詳しく教えていただけない場合があります。僕らも最近はよく海外のフェアに行くのですが、どんなところに行って、誰がターゲットで、どういう人にどういう食べ方で、どのぐらいの価格帯で出せばいいのか、ということが明確に書かかれていません。これではやはり農家の人々もなかなか参加しづらいでしょうし、このために会社によっては、フェアへの参加が観光旅行プラスαのようになってしまうことがあります。そのあたりを、増井さんとしては率直にどうお考えですか?

増井:私もJETROのパリで展示会をしていた立場なので、仰っていることが非常によく分かります。実は、展示会の予算というのは国の予算なので公募しないといけません。我々から企業を選べないのです。我々としても本当は「フランスで今、こういう日本食が流行っているから、このメーカーなら当たるんじゃないか?」といったようなことを毎回感じてはいるのですが。結局、参加企業募集の際に手を挙げてきた人たちを連れていくしかない、という事情があります。そうすると、現地の日本食市場と出展者の商品ラインナップがズレる、ということが多くなります。そして、展示会には開催国だけではなくさまざまな国からバイヤーが来ます。パリで食の展示会をしていますと、中東やインドのバイヤーも来ています。つまり、売りに来る人たちはフランス市場を狙っているのに、商談相手は実は全く違う国ということがあります。このようにあちこちがズレていて、なかなか戦略的にならないという現実があります。ですから公募のあり方なども、海外の展示会の場合は抜本的なところにメスを入れていかないといけないのではないかと思っています。

松本:公募の条件に詳しい説明があると、手を挙げにくくなるものだと思います。ですから実際の公募時に「このような感じ」というのをもう少し詳しく添えていただくと、マーケットとのズレも少なくなってくるのではないかと思います。

楠本:徳岡さんはいかがでしょうか。

徳岡:レストラン経営という目で見ますと、海外で出店するには飛行機代等が結構大きくなりますので、技術を海外に持って行って、あちらの企業と一緒にやってしまうというのはどうでしょうか。そうすれば、さきほどの岡部さんの「ジャパン・タウン」のようなものが出来ていくのではないかと思いました。そのなかで、日本の「本物」というようなものをきちんと作り上げて見せ、インフルエンサーにしっかりと伝える。こうしたアピールの積み重ねが、場合によっては「今度は日本に観光で訪れてみよう」という形にも繋がるのではないかと思います。

楠本:ありがとうございます。他の方はいかがでしょうか。

大切なのは、現地の文化に融合したものを提供すること(会場)

茂木潤一氏(キッコーマン株式会社):海外に出店する際の問題意識として、流行としての一時的な日本食ブームは嫌だなと思っております。先ほどのお話にあったように、日本の調味料がオリエンタルのカテゴリに入っているというのも、結局は現地の日用品、デイリーに入っていけていないからということだと思います。つまり、我々の食文化を理解してもらいながらも、結局は各地の文化と融合して、現地の人に口にしてもらうことが非常に大事なのではないかと思います。たとえばニューヨークの天丼はとても甘いです。そのため、今から日本で一番美味しいと言われる天丼をニューヨークに持っていっても、売れないわけです。よって、現地の人に食べてもらうために、どのぐらいの味までは理解してもらうのか、といった調整が必要になります。そのあたりを調整する感覚というか、按配がありましたら教えていただけないでしょうか。

徳岡:もちろんそれはお客様の感動のためというか、喜んでいただくことを前提にしてやらないといけませんから、地域の方の好みを理解しながら、時には地域の食材も使いながらやります。日本料理の場合は、提案出来るものの幅が広いですよね。ビジュアル、香り、食感、味とそれぞれに特化したものがあるからです。だから、地域のものを採り入れたり、日本の本来のものを使ったり、さまざまな要素を組合せて比重を変えながら、地域にあったものをつくりあげていくしかないと思っています。

農作物に“ミシュラン”的な格付けを導入してはどうか(会場)

楠本:では、そろそろ時間も迫ってまいりましたので、最後に何人かまとめてコメントやご提案を承りたいと思います。いかがでしょうか。

会場:一般人の視点から質問をさせていただきたいのですが、私自身、料理教室が好きでよく行くのですが、海外から赴任されている方の料理教室があります。そこに行くと皆さんがそこで使われた食材や調味料を知ることが出来るので、それを後日インターネットで取り寄せたりして買っているんですね。昨年は、たまたま南アフリカで行われた会議に参加した際、『NOBUレストラン』がホテルに入っていて、そこで寿司クラスがあったので参加しました。ゆずを使ったのですが、他の国の方がすごく感動していました。「ゆずは素晴らしい。ちょっと入れるだけでこんなに味が変わるなんて」という話で大変盛り上りました。そんな風にして使い方が伝われば買おうという気になりやすいので、料理教室というのも有効なのではないかと思います。

高島宏平氏(オイシックス株式会社社長):インターネットで野菜を販売しておりますが、生産者の方と直接お会いする機会が非常に多いので、今回のお話は大変面白く聞かせていただきました。私からは提言とお願いが一つずつございます。まず、生産者と接していると、すごく良いものを作った結果としてリッチになる人と、そうならない人がいて、彼ら全員がどうすればリッチになるのかと考えたとき、たとえば一次産品の“ミシュラン”のような制度があったら良いのではないかと思いました。どんな生産者が良いものをつくってきたかが分かり、かつその人が経済的に報われるような制度になるのが良いと考えています。ぜひ検討いただきたいと思います。

もう一つ。クール・ジャパンは面白い取り組みなのですが、ビジネスモデルの観点で言うと、まずは具体的にどの国へ輸出していくかということになると思います。そう考えると農産物ならば、やはりアジアになるのかなと私は考えております。ただ現時点では、たとえば中国には、りんごとなしと米しか輸出できません。また非常に検疫が大変で、検疫を通しているうちに腐ってしまう、ということになりかねません。ですから、具体的にどこへ輸出するというプラットフォームをつくることも併せてご検討いただきたいと思っております。

「日本料理は海外で進化していただいて結構」というスタンスを(岡部)

岡部:本物の日本料理という言葉が何度か出ておりましたが、一番大切なのは「海外で進化していただいて結構」という考え方だと思っております。民族というのはとても大事で、「日本の醤油はこう使われているけれども、我々フランスでは違う使い方をする」というのなら、まったくそれで良いと思います。寿司にしても「本物を伝えないと」というところはあるかと思いますが、そもそもなぜその国に人がいるのかといえば、風土に根ざしているからですよね。ですから、「我々の民族は寿司というアイディアをこんな風に応用できる」ということを存分にやっていただければいいと思うし、実は日本もそうしてきたと思います。日本のようにもともとたくさんのものを持ち合わせていない国がなぜここまで魅力的な食文化を持つようになったかと言えば、応用力があり、なおかつ自分たちの体や自然、風土、風習に合う食文化を構築してきたからだと思います。他国の民族と文化を尊重することから、食文化は広がっていく。日本の食文化をどうして広めなくてはいけないかというのなら、「日本も自分たちの食文化を広めつつ、多くの食文化を吸収してきたたからだ」という答えになると思っておりますので、そこを根っこに持っていただけたらと思いました。

楠本:ありがとうございます。「料理教室をやったらどうか」というのはぜひ別のセッションでもご提案いただきたいと思います。また、農作物のミシュラン、輸出のためのプラットフォームについてのご指摘はまさにその通りだと思いました。先ほど「食のMBA」という話をしたのも、そうしたものがあることで、ランク付けが適正になされていくという思いがあったためです。その結果として生産者や料理人への新しいリスペクトが生まれていけばと願っております。さて、そろそろ時間一杯になってきましたが、最後に徳岡さん、何かありましたらお願い致します。

徳岡:とにかく行動を起こしたいと強く思っています。せっかくG1サミットにはここまで素晴らしいメンバーが集まっているわけですから、「今日は素晴らしいお話が出来ました」で終わるのではなく、絶対にアクションを起こしたいですよね。

楠本:スポーツで「アスリートソサエティ」というものが出来たのは本当に大きなことだと思います。何か行動に移していくということで、私たちも日本の食文化ソサエティのようなものがつくれないかと思っております。食品会社の方々をはじめ、さまざまなプロフェッショナルの方、また、ファンドの方々もここにはいらっしゃいます。志とお金と価値とモノ…、どうすればこれらを循環させることができるのか、皆で議論し続けられる場をつくるところから始めたいと思っております。皆さま、いかがでしょうか(会場拍手)。今日はまことにありがとうございました。

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