ワタミ・渡邉美樹氏×グリー・田中良和氏×経営共創基盤・冨山和彦氏「この国を次代につなぐ“世代の責任”とは」 

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「周りのお店を潰すような出店をして何が嬉しいのか」(渡邉)

岡島:皆さまよろしくお願い致します。この第3部全体会ではこれまでのディスカッションである程度、出揃ってきたアジェンダを踏まえつつ、“腕力ある”リーダーお三方に、リアルなビジネスにおいて「このように変革を実行し、新たに創っている」といったお話を存分にお伺いしたいと思います。そのなかで2020年に日本が生き残り、さらにはグローバルに存在感を示していくための取り組み、あるいはイニシアティブのとり方も探っていければと考えております。2020年に日本が元気であるために我々は何ができるかを考え行動する、というのがこのG1サミットの発足趣旨と伺っています。その2020年に向けて我々は何をしていくべきか。日本が世界のなかで力強いイニシアティブをとっていくため、ビジネスリーダーに課された使命とは何か。我々は今、何をどうすべきなのか。今日はお三方にぜひビジネスリーダーとしてどんな風に考えていらっしゃるかというところを伺っていければと思っています。併せて、ご来場の皆さまからもさまざまなご質問やご意見を募りながら進めていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお付き合いください。

さて、先ほどのディスカッションで武田薬品工業の長谷川閑史社長から“不都合な真実”というお話がありました。まさにご指摘の通りで、1950年から2050年に渡る日本の人口推移を見ていくと、恐ろしいほど労働人口が減少していくことが分かります。そのような状況のなかでも私たちは稼いでいかなければいけない。そこでまずは渡邉さんにお伺いします。内需縮小という形で母国市場の顧客数や購買力が減少していくことは、いわば不可避である“不都合な真実”だと思います。しかしそこを逆手にとって各種ビジネスを創出していくためのカギというか、どのようにピンチをチャンスに変えていらっしゃるのか、その辺からお伺いしたいと思っております。いかがでしょうか。

渡邉:渡邉でございます。私はG1サミットには初めて来たのですが、ネクタイをするものだと思っておりまして。皆さんを拝見しているとなんだか遊びに来ているような…(笑)、嘘です(会場笑)。かえってこのような堅苦しい格好でご無礼いたしまして、まずはお詫び申しあげます。

で、内需縮小というお話ですが、私の会社は恐らく日本の人口推移に影響される典型的な業種にいると思っております。外食産業で事業をはじめたのは27年前になりますが、当時はまさに右肩上がりでした。初めて銀行に融資を申し込んだときも、創業した頃は対前年比103%、あるいは105%といった売上予測を書いて事業計画書を提出していたんです。でも、今は同95%と書きます。ずっと下がっていくのだと。実際のところ居酒屋市場はピーク時に約2兆円と言われていましたが現在は1兆2000億円ということで、もう半分近くにまで落ちてきています。そのなかで我々が何をしているかというと、当然、二つのことをやっている訳です。ひとつは国内で今後伸びていく事業に着手するということ。それが介護付有料老人ホーム事業であり、高齢者の方々向けの宅配事業ですね。これから伸びていくマーケットに出て行って手を打ちましょうということです。もうひとつは、国内で居酒屋がだめなら海外に行こうということで、現在は国内より海外での出店に力を入れております。毎年一カ国は出していきましょうということで、今年はマレーシアでさらに後半はフィリピン、そして来年は韓国と、順番に出店していく予定です。ですからワタミは縮小していくマーケットに対して積極的に自らを変化させ、対応している会社だと思っています。

こういう経営をしていると皆さまに「うまい経営をしていますね」と言われます。しかしすごいことをしているとは私自身、毛頭思っていません。居酒屋が溢れかえっている以上、そこで戦ってもお客さまに喜んで貰える訳ではないですから。たとえば3年ほど前にある地方で出店したのですが、地域の方は喜んでくださいませんでした。何故なら私たちの出店により、もともとある地場のお店が潰れてしまう可能性があるからです。周りのお店を潰すような出店をして何が嬉しいのかと。私としては「お店を出してくれてありがとう」と喜ばれることで初めて事業の甲斐が生まれると信じています。

市場が縮小したり拡大したりするなかで我々が考えなければいけないのは、そこにどれだけお客さまの“ありがとう”があるかということです。ですから費用のかかる老人ホームを安くして、ご飯に困っている人には500円でお弁当を配る。このほうがはるかに喜んで貰えるんですよ。私がやっていることはマーケットへの対応ではなく、そこにある“ありがとう”を集めていきましょうということなんですね。それが結果的にマーケットに順応していると解釈されているのだと考えております。

岡島:ありがとうございます。宅配事業などは、今お話いただいたことの結果として、中高年の方々の力強い雇用創出にも繋がっていくと思いますが、その辺についてはどのようにお考えですか?

渡邉:雇用について言えば、私はとりたてて「たくさん雇用しなければ」と考えて経営している訳ではないんです。私が大事にしているのは「人間の幸せとは何かという価値観」のほう。人間は、お金、地位、あるいは名誉…、そんなもののために一生懸命生きているのではないと。大きな夢を描き、その夢に向かって一歩ずつ進んでいくプロセスのなかで“ありがとう”を集めていく。汗をかいて得たお金は尊いと思うし、だから、汗をかくような仕事をやろうと。それが居酒屋であり、介護事業であり、宅配事業であり、あるいは農業といったものになる訳です。そのなかで、私はいつまでも働いていて貰いたいと思っているんですね。高齢者の方々にとっても、人に必要とされること、人に喜ばれること、そして社会のなかで自分のアイデンティティを確認出来ることはとても大事なことですから。私が現在の宅配事業に燃えているのは、元気な高齢者の方がお弁当をつくり、それを元気な高齢者の方が配り、そしてそれをあまり元気でない高齢者の方が食べるというビジネスモデルだったからです。これを構築していたときは震えましたね。「これだ。これこそ皆を幸せに出来る事業なんだ」と。そんな気持ちでやらせていただいているという経緯があります。

岡島:しかも高齢者の方々が配ることでお話し相手にもなれますよね。

渡邉:そうなんです。もうすごいですよ。人ひとりが1日に15〜20軒しか配達しないのですが、それで問題ないんです。皆、「お金はそんなにたくさんいらない」と仰っていまして、一日に15〜20軒ほど廻るとすると…、月に3〜4万円程度でしょうか。もうお孫さんのお小遣いしか稼げません。地域にもよりますが、本気で配ったら1時間半ぐらいで終わるのに、実は4時間もかかっているんです。配達先の一軒一軒でゆっくりお茶を飲んでいるから(会場笑)。すごいでしょう? お弁当を配っているのではないということです。「今日も元気ですか?」と声を掛けているんです。それで一日一言も喋らなかった高齢者の方が喋るんですよ。こうなるともうお弁当を待つのではなく、配達の人を待つようになります。もうこれ以上のものはないぐらい素晴らしい事業モデルですよ。しかも一人ひとりが事業主という実感を持ってくださっている。色々な面で人に雇われるお歳ではないですし。だって60歳を過ぎて人に「ああでもないこうでもない」なんて言われたくないでしょう?

「官サービスの問題はカネの出所と受益者が異なる点にある」(渡邉)

岡島:官がやっていた福祉をサービス事業として代行し、展開していくことで“ありがとう”を集め、お金も稼いでいかれると。

渡邉:官が生活のインフラサービスのようなことをやってうまくいった試しはありませんが、それがどうして我々ならうまくいくのか。一言で表現すると「欲(自分がそうしたいという気持ち)」を使っているからです。配達する側は3〜4万円は貰える訳ですよね。お金を稼ぐ中で今度は皆さま事業主ですから、私用で払ったガソリン代も経費で落とそうとなどと考える方もいるかもしれません。もちろん「そういうのはだめですよ」と伝えてはいますが、「このガソリンはこの一滴からは個人利用ですね」とは言えません。ここで官が行えば税金で補うという考えになりますが、我々は働いて下さる方の欲を・・・、利用しているというと語弊がありますね。自分がそうしたいという気持ちで働いていただいているということです。

岡島:そこにひとつのカギがありそうですね。需要の縮小を逆手にとっていくビジネスでは、人の欲をうまく使い、かつ消費者となる方々がお財布の紐をゆるめてくださるような何らかの理由を見出していくという。

渡邉:そういうことをやっています。私は介護事業をこの7年のあいだ、本当に命がけでやってきましたが、やはり官はだめだと本気で思います。あ、ごめんなさい、今日は官僚の方もいらしているんですよね(会場笑)。G1サミット初参加なものですから少し間違うかもしれないです(笑)。

岡島:大丈夫です(笑)。ぜひ率直に議論していただきたいと思います。そうしていただくことで、明日明後日の分科会・全体会で深堀していただくべきテーマが浮かびあがってくるのではないかと思いますので。

渡邉:来年はもう少し上手に喋りますが、今年はご容赦ください(笑)。で、どうして官がだめなのか。まず、おじいちゃんおばあちゃんたちにご飯を食べていただき、お風呂に入っていただく。これを官でやるとなるとお金は国から貰うことになりますが、それはサービスの受益者とお金を払う人が異なってしまうという意味なんですね。そんな状況になるとサービスを提供する側は「どうやってラクにご飯を食べさせるか」、「どうやってラクをしてお風呂に入れるか」と考えを巡らせはじめます。人間っていうのはそういうものですから。しかし本来は「この方からお金をいただくんだ」というほうにサービスを提供するべきなんです。だから官がやっているもので民間が出来るものは、基本的にすべて民間にやらせたほうが良いと私は思っています。そのなかで人の損得勘定や欲と上手に向き合っていくべきということですね。もちろん損得勘定や欲だけになってしまうと物事はうまくいきません。そこに愛や理念といったものがなければ絶対に成功しませんから。

岡島:ありがとうございます。では次に田中さんにお伺いしたいのですが、本会場にお集まりの皆さまも、Twitter、Facebook、ブログ…、色々なITサービスを使っていらっしゃると思います。田中さんは渡邉さんとは全く異なる事業領域で戦っていらっしゃるわけですが、そこでお伺いしたいのが、ITサービスという領域で本当に内需の創造をしていけるのかという点です。この辺はどのようにお考えですか? 現在どういった取り組みをされているかを絡めながら、ぜひその点をお聞かせください

田中:僕はまだまだ分かっていないところもありますが、人口が減少していくなかでの議論では、「人口がゼロになるのなら需要もへったくれもないので無理ですよね」というのがまず土台にあると思います。ただ、全くのゼロではないなかで出来ることがあるかと言えば、需要を組み替える、あるいは新しいニーズを生み出すことで需要は創出可能だと思います。そういった意味で我々は現在、ソーシャルメディアやソーシャルゲームという新しいサービスで新しいニーズをつくっている訳です。設立してまだ5年ぐらいの会社ですが、従業員は現在300人ほどで、売上がおよそ600億、営業利益がおよそ300億という事業になっています。現在、GREEのユーザーはおよそ2383万人で、日本の総人口から考えれば、かなり多いですよね。そういう意味でニッチではなくメジャーな事業になってきたのかなと、自分としては思っています。当社はよく携帯ゲームの会社と言われますし、実際にそれは間違いないのですが、よく見ていただきたいのは年齢構成のところ。30代以上のユーザーが全体の47%にも及んでいます。ちなみにこの1〜2年間でユーザー数が最も伸びているのは40代以上ですね。お金を一番払っていただいているのも40代以上。客単価も同様です。つまり、我々のビジネスはもう30〜40代以上がメインターゲットなんです。正直、若年層というか10〜20代があまり収益に貢献していない事業モデルというのが我々の現状です。ですからよく我々の会社をして“若者食い”という方がいらっしゃいますが、どちらかというと私が33歳ということもあり、“おじさん向け”の感覚でいます。若い人向けではありません。しかも会員数が増えていけばいくほどユーザーの年齢分布はさらに日本の人口ピラミッドと等しい形になっていきます。それならば好む好まざるに関わらず、30代以上向けのビジネスをやる以外に成長は望めないという前提があるんですね。日本で成長する、成長させるビジネスをするということはそういうことなのかなと思いながらやっているところです。

岡島:今回お集まりになった方々と同じような年齢層の人たちに、いかに財布を開かせるかというイメージでしょうか。

田中:そうですね。これはチャレンジではなくて、現実問題として既に起きている動きですし。

「日本における本質的な問題の過半は根底に既得権益が存在する」(冨山)

岡島:ありがとうございます。では冨山さん。経営共創基盤では私のボスではあるのですが(笑)、今日は色々と突っ込んでお伺いしたいと思っています。冨山さんは成長企業や再生中の企業の支援をされており、産業再生機構のご経験を含めて非常にたくさんの企業を見ていらっしゃるかと思います。その観点から、内需拡大の議論に関するご意見について、まずお聞かせいただけますでしょうか。

冨山:内需拡大や成長の理論というのはマクロ政策として議論されるものですが、マクロとミクロがそこで繋がるかどうかが政策としては大変難しいところで、えてして繋がらないんですね。現実問題として、政府はむしろ繋がらないような政策をやってしまうことが多い。で、まず渡邉さんの何がすごいかというと、あのシーズをあっという間に、あれだけ大きくしてしまったことなんですよね。同じことを政府がやろうとするとモデルケースがどうのとかいう話をあちこちでした末に「やりましょう」とは言うのですが、実際に出来た試しがありません。では渡邉さんがそれを出来たのは何故か。ワタミスピリット、アニマルスピリットがあれだけのものにしたのだと思っています。で、問題はその過程で毎回発生することなのですが…、恐らく田中さんもそのうち出くわしますが、必ず既得権益とぶつかるようになります。必ず。日本における本質的な問題のほとんどは、これまでの40〜50年のあいだに出来上がってきた既得権益を持つ人々と、それにぶつかってしまう人々との戦いなんです。産業再生機構の戦いも99%はそれでした。民主も自民も関係なく、成長を邪魔する者というのは既得権益を持っているんですよ。テレビで改革的なことを口にしている政治家でも、いざ自分の選挙区で既得権益に関わる問題に我々が手を突っ込むと、豹変します。テレビで話している姿を信用してはだめです(笑)。もう本当に、完全に変わります。「え? 『ビートたけしのTVタックル』では違うこと言ってたじゃない」って(会場笑)。とにかくほとんどの場合、マクロとミクロを繋げようというときにどうやって既得権益とぶつかり合い、渡り合っていくかという問題が出てきます。これは、決してクリーンな戦いになりません。渡邉さんがときどき週刊誌で叩かれているのは「きっとそれがあるんだろうなあ」と。私もたまにやられますから(笑)。思いあたるふしというか、こちらにまったく悪意はないのですが、完璧に地雷を踏んでしまいましたから(会場笑)。そこが政治的にも本当にリアルな戦いになります。さきほどのセッションで、(内閣官房副長官の)福山哲郎さんが「既得権益に手を突っ込むと批判される」と仰っていましたが、その通りです。逆に言えばご質問にあった内需の議論ということで日本経済のポテンシャルを考えるなら、私はまだポテンシャルはあると思っています。それは国内にもあるし、海外から需要をとってくるという意味でもあります。海外へ打って出て行く選択肢も当然あるでしょう。ただいずれにせよ、とにかく既得権益とガチンコで戦う覚悟を我々の世代が持たないといけない。くどいようですがそれをやろうとすると相当ダーティーな争いに巻き込まれます。そこから逃げずに汚い戦いであってもやり抜かないと、恐らく日本は変化しない。田中さんにも念のためご忠告しておきますが、もう少しメジャーになったらやられます。必ずやられますよ。実際、ひとつ前の世代はやられていましたよね。それがひとつのテーマになるだろうということです。

あともうひとつ。渡邉さんが先ほど仰っていた健全な意味での欲といった要素と繋がることですが、私たちは現在、バス会社を3社買収して再生しているところです。地方の会社ですが、地方のバスというのは、一般のイメージとしては、もう絵に描いたような衰退産業で、赤字産業です。ところがその一方で、実は地方は高齢化が進んでいるから猛烈な勢いで免許返上が起きているんですね。車を運転するのも危ないという状況が生まれてきていて、こうなると大量の“交通弱者”がこれからの10年で出てくることになります。そのとき、バスに戻るしかないんですよ。他に選択肢がないから。そのときに交通需要をどうやって取り込むか。渡邉さんと同様のアプローチかもしれませんが、そこにビジネスチャンスが存在するんですね。でもこういったことをどんどん進めていこうとすると、これまた地域ごとに出来上がっている既得権益と衝突します。で、やはり地域の新聞で色々と書かれたりします。地域というのは旧来からの既得権益と政治がものすごく強固に結びついている世界なんです。それは他セッションで問題になっていた「一票の格差問題」の背景にもなっていますが、地方ほど中央からお金が行っているから官と民、もしくは政治と産業が結びつきやすいという訳です。しかしそれを超えていったところには需要もチャンスもきちんとあります。たとえば茨城でもバス会社をひとつやっていますが、茨城空港と上海空港のあいだには中国の春秋航空の飛行機が就航しているんですね。で、茨城で中国人観光客を降ろすと我々のバスがすぐにその人たちを乗せて日本一周のゴールデンツアーに出る。もうすべてのバスが満杯です。こういうことがすごくやりやすくなったのには背景がありまして、昨年、前原(誠司・外務大臣)さんが、国交省の成長戦略をやってくれたおかげで色々なことがやりやすくなったんです。ただ、それもJAL問題も含めて既得権益との戦いがたくさんありました。色々と言われている前原さんですが、あの件に関しては本当に頑張ってくれたと思っています。そんな風にとにかく最後はいつも既得権益との戦いというところに戻ってくることが多いですね。今日は政治家の方や官僚の方もたくさんいらしていますが、そこを頑張っていただきたいということをお伝えしたいです。民間にはアニマルスピリットを持っている人がたくさんいますから、内需は自然につくっていけると私は思っています。

「マクロとミクロ、官と民の連携で、課題先進国としての日本モデルを創出する」(岡島)

岡島:マクロとミクロをうまく繋ぎ、官と民で連携しながら民のアニマルスピリットを発揮出来るような機会をつくっていくということですね。そこで「課題先進国」として日本モデルのようなものを構築出来れば、これから高齢化社会を迎える海外にそのモデルを輸出していくことも可能である気がします。

もう少し内需について伺いたい所ではあるのですが、先ほどから出ているグローバリゼーションをどうするかというお話も重要ですので、そちらへと話を移していきたいと思います。渡邉さんの会社は現在、海外展開が大変好調と伺いました。これを成功させる秘訣のようなものをご教授いただきたいと思っております。製造業では海外進出が成功しているケースが多いものの、日本のサービス業が海外に出て行くというのは非常に難しいのではないかと個人的には思っています。もしかしたら色々と失敗をご経験されていたのかもしれませんが、可能であれば差し支えない範囲で、そういった部分などもお聞かせいただけないでしょうか。

渡邉:これは10年かかりました。もともとは日本の居酒屋でアルバイトをしていた中国人が「これから中国で居酒屋をやりたいんだ」と言ってきたことからはじまったんです。当時の彼は上海でユニクロの洋服をつくって成功し、500人からの社員を抱えている社長だったのですが、「フランチャイズをやる気はないし、社員としてならやらせてあげるよ」と言ったら、うちの会社に弟子入りしたんですよ。僕より、せいぜい3つか4つ下の、会社社長をしている男がです。それが皿洗いからスタートして1年間。「あ、彼なら大丈夫だな」ということではじめたのが1999年です。彼が言うには我々のビジネスモデルや業態戦略は中国でもほとんど通用するものだろう、ということでしたので。ただひとつ、彼の話によると中国人は会社でキャリアアップするのであり、会社に従属するのではないと言うんです。アルバイトから社員にステップアップしたあと、違う居酒屋チェーンに入り、そのあとさらに別のチェーンでエリアマネージャーになり、最後はファミリーレストランの部長になるという具合ですね。「中国人はそれだけは変えられないから、ワタミの理念教育はやめてくれ」と言う。それで私も「そんなものかなあ」と思い、彼に全権を与えることにしました。それで4〜5年は我慢しましたかね。でも、そのうち「もう我慢ならん」と(会場笑)。「こんなのは俺の会社じゃない」って。理念もへったくれもなく会社を利用しているだけなんですよ。会社に愛情もなければその結果としてお客さまへの愛情もない。だからあるとき、1000人ぐらいの中国人社員を全員集めて「もう辞めて欲しい」と言いました。「何のために居酒屋をやっているんだ」と。「お客さまに出会いや安らぎを提供し、素晴らしい思い出に関わり…、自分はそれが嬉しくてしょうがないからやっている。でもあなたたちは自分の金のことばかりだ」と啖呵をきりました。そうしたら半分ほどそうしたら半分ほど会社を去っていきました。でもね、そこからなんですよ。そこからこつこつと汗をかいて仕事をするようになった。結論としては、今はすごく良い会社になっています。つまり、どこの国籍だからどうだとか、そういうものはないんですよ。大切なのは自分の会社のアイデンティティやDNAをしっかりとぶち込んでいけるかです。それが出来れば事業は成功すると私は思っています。今も3カ月に一度は向こうに行って話をしています。何のためにワタミをやっているのか、これから自分たちは何をしたいのか。もう徹底的に話します。最初の頃は皆、もうどこかに寄りかかって聞いているような状態でしたが、今は涙を流して聞いています。結局、事業の成功に不可欠なのはそれだったんだなと思います。

岡島:伺ったお話ですと、ワタミ創業時にアルバイトだった方々が何名か、今は伝道師のような役割を担って各国で理念の浸透を図っているとのことですが。

渡邉:そうです。先ほどお話しした中国人社長の後任は高円寺1号店のアルバイトです。彼が向こうに行って伝えているんですよ。

岡島:英語のコミュニケーションですか?

渡邉:英語も広東語も何も出来ないです。でも伝わる。私が思うのは「言葉は後から付いてくる。思いは後から付いてこない」ということです。だからまず強い想い。うちの創業に関わった人間を全部で7人、向こうに送り込んでいます。そのなかにマレーシアの女性もいるんですよ。彼女は10年ほど前に僕の本を読んで感動して日本まで訪ねてきた。そういった人間が、今は伝道師として海外ですべての出店地域を廻っています。そこで「ワタミはこういうためにあります。我々の思う幸せとはこういうことです。それを最大公約数として思っていなければ仲間ではないんですよ」という話をずっとしています。本当にありがたいことだと思いますよね。

岡島:日本人でなくとも同じ想いを共有出来るというか、そういう人を選んでいるということですね。

渡邉:そうです。だから私は新卒社員にも「うちの会社は誰にとってもいい会社ではない」と言います。だから“間違って入社”するのだけは勘弁してねと。

岡島:今は現地の方々が、自ら渡邉さんの著書の翻訳もしていらっしゃると伺いました。

渡邉:理念集ですね。400ページぐらいの分厚い本です。「携帯電話を忘れてもこの理念集だけは持ち歩け」と言っています。それを出店しているすべての国で翻訳しています。これは社員が自発的にやっていることで、もう本当に仲間ですよね。国籍とか…、そういうものは本当に関係ないんだと思います。

「世界的普遍性を持ち得る企業は固有の理念が強烈に刷り込まれている」(冨山)

岡島:外国の方の採用に関するお話を伺えましたが、併せましてグローバルに事業展開していくうえで重要なポイントになる人材という観点でのお話を、今度は冨山さん、お聞かせいただけないでしょうか。

冨山: GEなんてその典型だと思いますが、世界的に成功しているグローバル企業というのは往々にして母国の匂いというか、“体臭”が強烈なんですよ。IBMはいかにもアメリカ東海岸で、アップルはいかにも西海岸。もう“体臭”むんむんです。それは渡邉さんのお話と通じるところがあって、恐らく世界的な普遍性を持ち得る企業というのは、むしろ固有の理念というかシェアードバリューが強烈に刷り込まれているところばかりです。逆に言えばグローバリゼーションの過程でだめになっていく会社はそこが無色透明になってしまうんですよね。どこの国だかよく分からないような会社になっちゃう。往々にしてグローバリゼーションはナショナリゼーションの対語であるかのような誤解がありますよね。しかし私は絶対に違うと思っています。これをシステムの理論で考えてみると、たとえば我々日本人が世界に誇っている品質管理というものがありますよね。いわゆるTQC(Total Quality Control)。これはもともと戦後にエドワーズ・デミング博士がSQC(Statistical Quality Control)という仕組みで日本に伝えたものを、石川馨先生はじめ当時の日本の最前線を走っていた人たちが換骨奪胎して作り上げたものです。日本的な仕組み…、たとえば統計学などを学んでない現場の人たちが自主的に取り組めるような仕組みに変えていった。これがのちに世界を席巻していくことになるのですが、ではそういうものがアメリカオリジンで出来たかというと、アメリカは絶対にSQCなんですよ。何故ならアメリカは階層型の社会モデルであって、「品質管理なんていうものはハーバードやスタンフォードを出たインテリだけが分かっていれば良い。現場の人間はその指示通りに働いていればいいんだ」という、基本的にモジュール化された構造になっていますから。

そんな風に、成功している会社というのは文化やDNAといった“縦糸”がきちんと紡がれているんです。その縦糸に「これを世界でやるんだ」という横糸が上手に絡み合い、きれいな織物に仕上がる。そういう会社は恐らく世界で成功している会社です。ところがその縦糸を抜くことがグローバリゼーションだと思っている人がいるんですよ。これは明らかに間違い。マッキンゼーなんてNYくさいしBCGはボストンくさいですよ。NYとボストンの違いはなんとも表現のしようがなくて…、私は後者が好きだったのでBCGに入社してしまいましたが(笑)。ですから渡邉さんのお話を伺っていて、「やはりそうだな」と思いましたね。そう考えてみると日本企業にとって大切になるのは、グローバリゼーションの過程においてそういったバリューに共感してくれる人をきちんと採用するという点です。たとえばアメリカ人にもワタミ、ひいては日本のバリューに共感する人はいます。たとえばミュージシャンの世界では、ジョン・レノンのような人がいたように、ね。もちろんヨーロッパにも中国にもいるでしょうし。

岡島:そういった日本のバリューに共感してくれる人というのはもしかしたら、いかにもといった感じの資本主義的な競争があまり好きではない人でしょうか。そしてそういう人はどの国にも一定数はいるということでしょうか。

冨山:そうかもしれないですね。たとえばアメリカ金融界のメインストリーマーで、目をつぶっていてもゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのトップになるような人を日本の金融会社が雇うのはやめたほうが良いと思います。

それから、バリューをどう形式知化していくかにもっともっと時間とエネルギーを使うべきですね。日本人同士ならそういったバリューは暗黙知で共有出来てしまいますが、それが通用しない世界へ打って出ていこうというのなら、言語化しなければならない。たとえばGEなんかはそこに莫大なお金とエネルギーをかけていますよ。日本の会社の次の挑戦は、バリューをどう形式知化していくかという点です。私はとある京都の会社でも役員をやっていますが、その会社もまさにこれからグローバリゼーションしていこうという段階なんです。そこで私が大切だと思っているのは、機能的な本社ということであればシンガポール等でも良いのですが、精神的な本社は絶対に京都ということです。京都のバリューからはじまった会社ですから。これは…実はオムロンという会社なのですが、ここは「企業は社会の公器」と言い切るところからはじまった会社なんですよ。ですからできるだけ世界中の社員にまずは京都まで来て貰うべきなんです。そこで会社がどんな風にはじまり、どんな世界観とともに立石一真という創業者がオムロンを創り上げていったのか。形式知化したバリューをしつこくしつこく、徹底的に言って聞かせないと、恐らくグローバリゼーションは成功しない。ひょっとしたらそれが日本企業のグローバリゼーションにおける落とし穴になるかもしれません。

岡島:田中さんはいかがでしょうか。グリーはどんどん海外に進出していこうというところかと思いますが、お二人のお話を聞かれて、「これからこういう風にやろう」とか「こういうところに気をつけよう」と思っていらっしゃる点はありますか?

田中:基本的には今仰っていただいた通りだなと思います。僕は日本生まれなので今さらアメリカナイズして勝てる筈はないですし。ただ、僕らの業界ではTwitterやFacebookが騒がれていますが、Twitterなんて恐らく社員200〜300人ぐらいの所帯なんですよ。Facebookも1000〜2000人。それで何億人もの人が利用するサービスを提供しています。そのぐらいの社員数でもあれぐらいのことが出来るということです。それならば、彼らが出来ないことで我々が出来ることは何があるのかは真剣に考えますが、むしろ「出来るんじゃないかな」というぐらいの勢いで気軽にやるほうが良いのかなとも感じます。正直なところ、彼らはそんなに考えていないと思います(会場笑)。Twitterが事前に研究し尽くしてから日本に入ってきているとはまったく思いません。「この辺ってアジアだろ?」ぐらいの感じではないでしょうか(会場笑)。それを日本人はありがたがって使っている訳ですから僕たちもあまり気にしないと。「世界は同じなんじゃないの?」という程度のノリでやれば出来るのではないかと思っています。

岡島:一方でアメリカの企業と戦おうと考えると、とにもかくにもスピード感が求められるように思えますが、その辺はどうお考えですか?

田中:実際のところ、大変ですよね。「シリコンバレーと戦う」と言っても、あちらは基本的にお金のかけ方が一桁違う。業界ひとつで競合が日本の10倍もいますので、やる気のある人間も10倍います。だからこそ、普通にやると勝てない勝負をどう戦っていくのか、非常に悩ましいところではあります。

岡島:あちらは「この指止まれ」と言えば、すぐに人材もお金も集まってくる世界ですし。

田中:ですから先ほどのお話にもありました通り、日本らしい何かを発見していくことで勝つしかないという結論に尽きると思います。ちなみに僕はゲーム会社をやりたくて今の会社を立ち上げた訳ではないのですが、ゲームビジネスというのは本当に良かったと思っています。日本のコンテンツ/IT/メディア産業のなかでも数少ない「お金が儲かるビジネス」ですし、かつグローバルでの成功事例もある日本初のIT業態ですから。グローバル化しやすい業態という意味では運が良かったなと思っています。

「痛みの再配分、不利益の再配分にいかに正対するか」(冨山)

岡島:ありがとうございます。ではお話の途中ではございますが、ここでいったん、会場の皆さまからもご質問を募りたいと思います。おひとりさま一問としつつ、先に何人かの方からまとめて質問を伺っておきましょう。

会場:製薬会社を経営しています。本質的な問題の99%が既得権益との戦いというお話がすごく心に響きました。そのお話の通り既得権益と戦うとして、当然ながら逃げない覚悟やブレない実行力は前提として必要かと思いますが、それ以外で「こうしたほうが良い」といった勘所があれば、ぜひお伺いしたいと思っています。

会場:米・法人金融日本法人の代表です。冨山さんも色々な会社のリーダーを新しく選んで育て、その人に託すということをやってこられたと思います。渡邉さんも現在は会長になられたということは、社長がいらして次の世代に託そうというところがあるのかなと。皆さまがお持ちになっている強い想いをどうしたらうまく引き継げるのか、その後は一体どうしていくべきなのか。100年続く企業にするためにはどうすべきか。そういった命題を満たすリーダーシップについてお伺いしたいと思っています。

会場:健康関連商品の通販サイトを運営しています。私も現在、既得権益の地雷を踏みながら(会場笑)、かれこれ5〜6年ほど戦っておりますが、まだまだぴくりとも動かないと感じられる部分が多々あります。これから日本が成長していこうとするならば、そのような既得権益をあちこちでベルリンの壁のように一気に崩していかなければいけない局面が来ると、私としては思っています。G1世代としてそれを動かすために、どういったきっかけを手にすれば良いのかという点をお伺いしたいと思いました。

会場:県知事です。企業再生に関して行政を担当している人間として質問をさせていただきたいと思いました。私は知事として、いわゆる既得権益保持者と言われる方々との接触もありますし、その方たちが何を考え、何を願っているかもある程度分かっているつもりです。このG1サミットは一方的な議論ではないほうが良いと思いますので、その観点を踏まえながら敢えて申しあげますと、再生自体は有難いことなのですが、既得権益と戦ってそれに勝ったとき、そこで何が生まれるのかという疑問があります。何故ならば既得権益が沈んだのち、地域の資本や地域で働く人が消え、そこに中央から新しい人が入ってくることよって地域のお金が中央に流れてしまっていった事例を私はしばしば目にしてきたためです。「だから規制しろ」とはまったく思いません。ただ、たとえば新しく地域に参入された大型店には少しでも結構だから県内の銀行に預金していただく、プライベートブランド製品の生産を一部、地場に置くなど、自分たちのビジネスが成功したあとにその地域がどうなっていくかについても、これからのリーダーは思いを馳せていただきたいと考えています。こういった見解についてお考えを聞かせていただければと思います。

岡島:皆さまありがとうございました。ではそれぞれご意見を伺っていきたいと思いますが、冨山さん、いかがでしょうか。

冨山:既得権益との戦いで特に難しいのは、日本の場合、極めて一部の権益者がでたらめな搾取をしてベンツを100台持っているといったような構造ではないということです。どちらかというと弱者に近い立ち位置の人たちが、ある種のラクが出来るような仕組みのなかで、じわじわゆっくり染み渡っていく構造なんです。世代間格差がその典型例ですね。たとえば世代間の問題で言えば、恐らく大企業に長年勤めて厚生年金と基礎年金と両方貰い、企業年金も貰える人たちというのは典型的な既得権益者です。「その人たちが何か悪いことをしたの?」というと、別に悪いことをした訳でも何でもありません。真面目に働いていらっしゃいます。ただ、現実的には日本航空がまさにこの典型でしたが、間違いなく若い世代から搾取しているんですよ、結果として。もちろん悪意があって生まれた権益ではないから、それを壊そうとすれば情において偲び難いことはたくさんあります。

それからもうひとつの問題が、既得権益者は少数ではないということ。既得権益を持っているというか、“関わっている”人たちは相当な数にのぼります。私たちもある面で既得権益に挑戦していますが、ある面では既得権を持っているなんていう場合がある。ひとりの人間に複数の顔があるんです。既得権益との戦いは単純な構図ではないので、それに関わる人たちのさまざまな利害関係の構図をどれだけ正確に理解しているのかというのが第一歩になると思っています。そうでないと、戦っている相手が誰なのか分からなくなってしまうから。

それから次のポイントですが、さはさりながら、日本航空のようになれば場合によっては全滅してしまう訳ですよ。それならば手前のところで、所得の分配なり再分配のメカニズムの不公正を正していくかということを、これは正面きって説得しなければいけない。それはつまり痛みの再配分であり、不利益の再配分をしなければいけないということなんです。で、不利益の再配分から逃げないのか、逃げるのか。当然、やらなきゃいけないところはやるんです。逃げてしまうと最後にカネボウや日本航空みたいになってしまう。この仕事は官僚や政治家がこれまで苦手としていたところですね。特に官僚は不得手ですよ。今までそこにコミットしてきていた訳ですから、やれと言うのが無理だと思います。ですからそれは政治家の仕事になると思いますし、僕らが入っていって実行していくことも同じです。当然、たとえば出入り業者など、企業には色々な人が関わります。たとえばバス会社なら地元の石油会社から買っていますよ。旅館なら地元の酒を買うでしょう。それを切っていくと地元の周りが潰れてしまうという問題が出てきます。ならばその問題にメスを入る時期が早ければ早いほど、壊す人生の数は少なくて済むというは現実があります。

となると、たとえば日本航空なら「今やっていることが10年前に出来ましたか?」という問いにリーダーは向き合わなければいけなくなる。ですからやるのなら早めに戦ったほうが良いのですが、あまり早く戦おうとすると危機感が醸成されていないので「まだまだいける」という思いが先に出てしまい、精神的に難しい戦いになるのが悩ましいところです。しかしそれでもリーダーはより早い段階でメスを入れてしまったほうが良いと思っています。

「政治と経済が本気で絡み合わねば既得権益は崩せない」(渡邉)

それからもうひとつ、この戦いはそれでも何人かの人生を壊すことになります。ですからそこに対しては何らかのペイメントが必要ですよ。なぜ産業再生機構がそれほど大きな社会的非難を世間から浴びずに済んだかと言ったら、なんだかんだいってお金を渡しているからです。辞めて貰わないといけない人、特に生活に困る人にはちゃんとお金を払っています。その元手は国の税金ですが。ただ、再生機構としてはいくつかの案件でがっちり儲けているのでトータルの収支はプラスにしています。ポイントは、そのときに広く浅く配るということをやるとめちゃくちゃにお金が出て行ってしまうんですね。そうすると、最後の選択は「誰が本当にかわいそうなんですか?」という議論になります。で、私が実際に近くでつぶさに見た印象としては、たとえば地方の百貨店なら一番騒ぐのはオーナー一家です。でも、ちっともかわいそうじゃありません。ちゃんとどこかに資産を隠していますから(会場笑)。本当にかわいそうなのはお店で働いているパートさんですよ。パートを続ける前提で家のローンを組んでいますから。声が大きいのはオーナーで政治家を支援しているのもオーナーですが、パートさんは声なき声になってしまうんです。結局、既得権に関わっている人のなかで本当に守るべきひとたちが誰か。そして血の涙を流してでもぶった切るべきは誰かというのが大事な問いということになります。そこをとにかく丁寧に正確にやっていくことが大事ですね。そのポイントを押さえてやってきたか否かで答えはまったく変わると思います。それがうまくいくと、今ばらまいているお金が10分の1ぐらいで済む筈です。そういったところをきちんと見ていけば、日本的既得権益との戦いだって乗り越えられると私は思っています。ただ、ここで大切になるのは粘り強さ。とにかく我慢強く。我々が地方に行くと、最初に必ず「こいつらはどうせすぐ帰るんだろう」という疑いの目で見られます。絶対に。やはり中央資本で来ていますから。でも、そこで「俺たちは100年ここにいるつもりだぞ」と。彼らは我々の言っていることとやっていることが一致しているかどうか、テストを続けるんですよ。何度かチェックポイントがあるんです。それを超えるとある段階で日本的な空気支配のゲームというのがはじまる。最初は当方0で向こうが100ですよね。ところが踏み絵をいくつか超えていくうちに少しずつ味方が増えていきます。で、政治でもそういうところがあると思いますが、それが49対51まではびくともしません。ところが50のイーブンになると空気が動き出します。そして当方が51になると一気に空気が変わるんですね。日本社会はある種、付和雷同なところがあるので、残りの49人も一斉に味方についてくれます。大変なのは自分が現在、30までいっているのか40までいっているのか…、なかなか分からないことですよね。そこはとにかく100年やるつもりで諦めずにやるしかないです。コツも近道もないと思っていますし、逆に腹を括るほうが早く動くような気がします。向こうは腹を括っているのかどうかのテストをしてきますから。そこで何らかの脅しすかしが入ったとき、少しでもそれに迎合するとこちらの底が読まれてしまうんです。

岡島:ありがとうございます。では渡邉さん、既得権益との戦い方をお話しいただいたあと、リーダー論にも触れていただければと思います。渡邉さんは、ワタミにとっては“歩くDNA”とも称せられる存在かと思いますが、次のリーダーのリーダーシップについてどのようにお考えでしょうか。

渡邉:私は病院を経営していますが、病院にはたしかに既得権益がありますよね。また、農業もやっていますが、やはり農家の方々は既得権益を持っています。それに学校も経営していまして、私学の方々…、大きな意味で言うと公立の方々も既得権益者だと思っています。で、私は今まで、「病院ならば株式会社で経営したほうが良い。しっかり経営を持ち込むことによって医療費のパフォーマンスも上がってく」と主張していたのですが、実際に経営したら赤字の経営が黒字になりましたし、待遇も良くなりました。そういう事例をつくることが大切だと思います。農業であれば大規模にしなかったら勝てないから、実際に大規模農業の実績をつくっていきましょうと。ただ、学校も同様に「正しい競争に基づいた学校をしっかり構築していきましょう。子どもたちのために教育があるんでしょ?」というようなことを私が既得権益者に言うと、必ず厳しい意見が返ってくる。ただ、とにかく私は今まで成功事例というか、あるべき事例をつくろうと尽力してきました。「これなら必ず皆が気付くし、真似してくれるだろう。だからそれでいいんだ」という風に思ってきましたが、でも、やはりそれだけでは足りないでしょうね。そこはルールをつくることです。こちらにいらっしゃっている政治家の方々などが本気になってやっていかないと、既得権益というのは本質的には壊れていかない、官と民、政治と経済が本気で絡み合っていかないと、と、今は強く思っています。

岡島:本来は、既得権益を崩すような仕組みが必要ではないかということでしょうか。

渡邉:私は個で戦っていますが、今はそのように感じています。それからリーダー論についてですが、100年続く企業にするためには変えて良いことと変えてはいけないことを明確にする必要があると思っています。経営とは何かと言えば変化に対応することだという話になりますが、でも、その一方で、絶対に変えてはいけない部分もあります。100年経っても1000年経っても、です。聖書や論語を読んでもまったく古くはないですよね? 人間の本質に関わる部分に時間軸は関係しないし、そこはやはり変えてはいけない。それなら、そこを変えないためにどういった仕組みをつくるのかがポイントになると思っています。たとえば私の会社であれば、ビデオレターをつくっているんですね。これは創業者からのメッセージです。「私が直接話せなくなったときにはそれを見なさい」と。創業者にしか口に出来ない言葉ってありますから。ビデオ以外でもさまざまなモノやコトを通して伝えています。たとえば「創業祭」といって、年に一度は世界中の社員を一箇所に集めて「皆で祝おうよ」と。それから社員旅行も大事にしています。4300人の社員全員が順番に行きますから、毎週社員旅行という感じになります。もう社員旅行のためにあるような会社ですよね(会場笑)。それで、互いの家族のこととか、彼女とうまく行っているかどうか、とか、そういうことにまで関わりあう。「人と人との繋がりがだんだん疎になっているけれども、俺たちはお節介な会社なんだよ」と。そういうところも変えてはいけないよと書いて、ルール化しています。

「『No.1だった』と言われても『大英帝国はすごかった』ぐらいの印象しかない」(田中)

岡島:ありがとうございました。もう1点だけ伺ったのち、また質問を募りたいと思います。お伺いしたいのは我々G1世代のビジネスリーダーの世代の責任・使命とは何か、という点です。若い田中さんは私たちの世代…といってもかなりばらつきがありますが(会場笑)、ナナロク世代を含め、私たちの使命や責任、そして役割といったものについてどのように捕らえていらっしゃいますか?

田中:はい。今からお話しすることは冗談が半分ぐらい入っていますから、そういう前提で聞いていただきたいと思うのですが、僕は今33歳で、よく自分自身やうちの会社を見ていて思うことがあるんですね。それは現代の35歳以下の人たちは、物心がついてから「日本は景気が良い」という話を一度も体験したことがない世代です。そんな僕らからすると「日本企業は成長していた」とか「昔はNo.1だった」と言われても、「かつての大英帝国はすごかった」というぐらいの印象しかないんですよね(会場笑)。「あ…、そう…」みたいな(笑)。今、何が起きているかというと、僕ら35歳以下の人たちというのは頑張っても報われないことが当たり前。どうやって撤退戦をより全滅しないようにするかというゲームのなかで、被害を最小化することを使命として頑張ってきている世代だと思います。それが良いか悪いかはさておき、そういう時代環境のなかで生きていると思うんですよ。そのうえで、今回G1のお話をいただきましてふと最近、90歳で亡くなった僕のおじいさんのことを今思い出しました。で、しみじみと思い出したのですが、僕のおじいさんは建築事務所をかまえていて、バブルの頃は景気がすごく良かったというのはなんとなくは覚えています。それで事務所を3階建てのビルにしたりして。でも、景気が悪くなったら「いつか良くなるから」と信じてお金を借り続けて、そして景気も良くならず、亡くなってしまう頃には借金のみが残ったという、そういう感じなんです。そこでひとつ思ったのは、今の日本の縮図って、実は今からお話しするようなことなのかなと。たとえばおじいさんが僕に突然こう言うんです…、実際には言われていませんが。「良和、実は借金がある。お前が一生かけても返せない借金だ。本当に申し訳ないけどこれを返して欲しい」と言われて「ええ?!」みたいな。で、続きがあるんです。「実はね、おじいさんもうひとつ頼みがあるんだ。老後の資金もないからお前はこれから働いて稼いだ金をぜんぶ俺によこせ!」という風に言われる訳です。それで僕は「借金を返すか、老後の面倒を観るか、せめてどっちかにするもんじゃないかな」と。でも、さらに凄いことを言われます。「ところでお前、おじいさんはこんなでかいビルを建ててやった。お前はそこに住んだこともあるし、タクシーにも乗ったことがあるし、旅行もしたことがあるだろ? いい夢いっぱい見ただろ? だから俺は偉いだろ? 俺のことを敬え!」と。どうも釈然としませんが、とにかくがんがん主張してくるんです。挙句にですね、「俺は借金まみれで、しかもこれから家族の面倒を看て、しかも敬えとか言うし…、どうしたらいいのかなあ」と落ち込んでいたところに「なんでお前は最近元気がないんだ?」って、ふざけんなっていう(笑)。自分で借金残してそれを全部押し付けておいて「俺の若い頃はこうだ」って言われても、あなたは一体何を言ってるんだと(会場笑)。

これはすごく重要なことだと僕は思っています。今の状況に対してどういった認識をするかによって改善プランは変わると思いますが、認識が誤っていると改善しようがないということだと思うんですよ。ですから今僕に起きていることはそういうことなんだと認識しつつ(笑)、ただ悲観ばかりしていても仕方がないというのが今の気持ちです。

それともうひとつ。僕もたしかに「一票の不平等」は本当に問題だと思っていていますが、それについては裁判官を罷免しようとすれば出来る訳です。でも結果としてはマジョリティが「罷免したほうが良い」ということになっていないのが現実であって、それは多くの人が「仕方がないか」、「これでいいんじゃないか」と思っているからですよね。それなら変わらないのはある種当たり前だと思います。それで、僕は今「この国には危機や失敗といった要素が足りないんじゃないか?」と思っています。「いい感じで失敗しないかな」と、待っている感じですね。第二次世界大戦でどうやらこのまま負けるらしいという戦争で、勝っていただければそれはそれで良いのですが、もしかしたら負けて焼け野原になってしまうかもしれない。それなら焼け野原になってから自分の出番が来るかもしれないから、それまで待っていようというのが最近はあります。

岡島:危機がくるまで待っている。その間に着々と力を蓄えると。

田中:ここにいらっしゃる方で年齢的に上の方にはまず戦いに勝利すべく頑張っていただいて、まあ…、勝っていただいたら勝っていただいたで「ああ、良かったなあ」ということで僕はのうのうと暮らしていこうと思っています(会場笑)。で、負けそうというのならそういうことで「ここは生き延びておこうぜ」と。そういう感じの役割分担だと思っています(会場拍手)。

岡島:ありがとうございます。冨山さん、世代の責任について、どうお考えですか。

「国レベルでの清算が我々世代の責任。そして若者を信じること」(冨山)

冨山:全体的なお話は田中さんがしてくれたので、私は先日『VOICE』の巻頭に書いたことをお話ししたいと思います。「今どきの若者論」というのがありますよね。やれ草食だなんだって。あれは私に言わせれば、今の政治構造のなかで若者が合理的になっているからこそ草食化しているんですよ。これだけの借金を背負わされ、年金も払わないといけない。で、政治は既得権益構造を切れない状況ですから、基本的に若者搾取構造になりますよね。そこで跳ね返って暴れると、それこそ逮捕されちゃいますから。ナナロク世代はそういうのを見てきているんです。だから草食化する。草食化というのは代謝を減らすことなんですよ。悪い環境なら代謝を減らしたほうが生き延びる可能性は絶対に高くなります。それ以外にあるとすれば…、これは女性に多いのですが、海外に出て外で戦うという選択肢ですね。このどちらかを選ぶのは、今の環境では生き物として極めて合理的な選択だと僕は思っています。未だに内向きとか何とか言われますが、それは環境適応であって、その環境をつくってきたのは上の世代ですよね。それを若者のせいにするのは大間違いだと思っています。今は留学しても得なことはほとんどないですよ。私もスタンフォードの同窓会長だし留学生が減ってしまうことは憂いています。でも冷静に考えると、よほど自分が能力的に恵まれていて、非常に頭が良いとか競争力があると勘違いしている人間を除いたら(会場笑)、無理して留学したって良いことはありません。むしろ下手をすると「平家、海軍、国際派」のレッテルを貼られて会社でいじめ倒される。へたに英語なんて出来るとね。現実に私たちの世代でも帰国者のほとんどはそういう目に遭ってきた訳ですから。そんな風に考えると、僕は若い世代のビヘイビアはまったく合理的だと思います。せいぜい逼塞して挫折しながら、今は力を蓄えておけばいいと私は思います。私自身は日本の若い人たちを完璧に信じているので。渡邉さんや私のように1960年前後生まれの世代はちょうど狭間なんですよね。上の団塊に挟まれている世代で、この会場にいらしている皆さまの多くも恐らく狭間の世代だと思います。我々には責任があります。それはさっき田中さんが仰っていたある種の破綻についてです。既得権益との戦いで一番大事なことを言い忘れていましたが、破綻こそ既得権益と戦う最大のチャンスです。ある種のカタストロフィが起きた瞬間に、皆、「仕方がないな」という気分になって既得権益を放棄するからです。幕末の士族階級もそういう意味で自らの権益を極めてスムーズに放棄しました。せいぜい西南戦争ですが、他国の階級闘争革命に比べたらたいしたことないです。そこは日本人の素晴らしさですよね。立派なんですよ。日本人というのは「手離さざるを得ない」と分かった瞬間、基本的には既得権益を放棄しているんです。それが日本の歴史です。そうすると何らかのカタストロフィが起きたとき、恐らくそういう心情に上の世代はなる筈です。過去の歴史を良い意味で繰り返していればですが。ですから私も何らかのカタストロフィがあって良いと思っています。極端な言い方になりますが、国債を刷ってしまえばいいんです。遠慮しないでどんどん刷る。格付けも徹底的に落ちたらいい(会場笑)。暴落するんだから借金も棒引きになりますよ。そこで日銀がマーケットからぜんぶ買い取る。そのぐらいのことを、腹を括って考えれば、実はあまり怖いことはないんですよね。そのときにややカタストロフィックな状況も生まれます。でもそれが経済的なものか、政治的なものか、社会的なものかは分かりませんが、少なくとも経済および金融の戦争状態であれば、今回のリーマンショックを見れば分かるように実はたいしたことないんですよ。何百万人死ぬ訳でもないんだから。するとその状況下で色々な軋轢やある種の闘争…、色々とどろどろした話が出てきて、ある種の清算をしていかなければいけないプロセスが出現すると思っています。その清算が私たちの世代に課された責任だと私は思っています。そこでカタストロフィから逃げず、それこそ企業再生みたいな清算を国レベルで行う。そうすると、ひょっとしたら既得権益とともに僕らはあの世へいかないといけなくなるかもしれないのですが、それでクリーンというかニュートラルな状態で田中さんたちの世代…、あるいは私の長男も田中さんに近い歳なので、彼らの世代に日本を引き渡せるのか、どうなのか。これが私たちの世代の責任のような気がしています。あと、これも『VOICE』に書きましたが、ひとつ思い出していただきたいのは、たとえば開国の問題も含めて国の形を議論するときには、必ず同じようなことが起きます。50年前、この国は産業政策において国論がふたつに割れていました。特定産業振興特別措置法問題ですね。これは何故起きたかというと、本田宗一郎さんが四輪に参入したいと言ったことがはじまりです。そのときに「資本集約しなければいけないのだからホンダみたいなわけの分からん会社は入れるな。ビッグ3に踏み潰される」と主張した人たちと、「そんなことはない。若いやつを信じようぜ」と主張した人たちの二つに分かれました。結果的には同法案は廃案になって、本田さんは四輪に参入した訳です。で、その後どうなったか。本田は10年後にマスキー法を世界で初めてクリアしました。その結果、それまでは「安かろう、悪かろう」という日本車のイメージがハイエンドなイメージに一転した。日本のビッグ3に踏み潰されるどころか日本車がアメリカを席巻する先鞭をつくるんです。ですからこの手の問いというのは最後の最後は日本人自身を、日本の若い人を信じるかどうかだと思っています。僕らの世代の責任は次の世代を信じきることだと思っています(会場拍手)。

「破綻や焼け野原になると弱い人から傷つく。それを忘れてはならない」(渡邉)

岡島:ありがとうございます。では渡邉さん。会長になられて、まさに世代の責任ということをお感じになりながら、100年続く会社をつくっていらっしゃると思うのですが、ビジネスリーダーとしての使命や役割という点についてのお考えをお聞かせ願えないでしょうか。

渡邉:今日この会場に来てG1の皆さんの名簿を拝見し、「ああ、日本の本当に中心になる我々の世代の方が集まっていらっしゃるなあ」と思ったのですが、実は、私は田中さんの仰っていた焼け野原や冨山さんが仰っていた破綻には反対なんです。たしかにそこまで行けば気が付くかもしれない。犠牲を払ってでも既得権益を手放しても、皆で力を合わせるというのは良いかもしれません。しかし破綻とか焼け野原という状態にまでなると、必ず弱い人が傷付くんですよ。我々は痛みません。ですから私はここにいらっしゃる皆さまが焼け野原にしないために、それこそ仕事とか会社とか、そういう話を抜きにして、一人の日本人として、どうしたら良いかを考えていって欲しいと思います。私としては、我々は大丈夫で弱い人から傷ついていく、ということを考えると、どうしても焼け野原とか破綻といった状態は想像したくないものですから。

岡島:破綻や焼け野原といった状態にならないようにするためには、消費意欲もある労働人口となる若い世代の人たちがもっと活躍の場を得る必要があると思いますが、渡邉さんとしてはどういったことが出来るとお感じになっていらっしゃいますか?

渡邉:それは企業としては、農業にしても介護にしても、私は労働人口をどんどん増やそうとしています。それはやります。しかし、ある意味、やはり最後は政治の力が大きいのではないかと思いますね。雇用を生み出していこうと思ったらやりかたはいくらでもありますし、お金の使い道もいくらでもある。私は、そこだけは政治の力がとてつもなく大きいと思っています。

岡島:ありがとうございます。時間もだいぶ迫ってきましたが、あと1〜2問は御質問が伺えるかと思います。ぜひという方がいらっしゃいましたらお願い致します。

会場:衆議院議員です。今日は有用なセッション、ありがとうございました。実はさきほど知事からありましたご質問に対して、ぜひお答えをいただきたいと思っています。たしかに政治家は既得権益に対して非常に敏感になってしまう部分はあります。既得権益を打ち倒した人が中央の人である場合、その人が地域の発展に貢献をしないと地方で仕事をしている人たちの雇用を奪い、地方が疲弊をしてしまう。それで良いと割り切るのもひとつの考え方かとは思います。ただ、もし地域に発展の芽を残すという政策を採らなければいけないとき、既得権益の打破と地域での雇用確保をどのように両立していくのか。知事のご質問に対するお答えがまだ聞けていませんので、ぜひお伺いしたいと思っています。

会場:参議院議員です。田中さんの仰ることは、本当にそのとおりと、厳しく受け止めています。ですからこれはある種の弁解になりますが、一昨年の衆議院選挙では国民の皆さんが、今日皆さまが言われている危機意識を共有していたからこそ私たち民主党に一票を投じてくださったのだと思います。そのステップがまだ1年半しか経っていません。時間の問題ではないのですが、要は既得権益との戦いと、そこで落ちこぼれていく人たちとのあいだでどのようにバランスをとるかという、先ほど冨山さんが言われていた問題は僕らにとって常に背中合わせです。だからこそ、逆に私は…、これは悪口ではありません。世襲の議員ではない人間がたくさん出てきていることが重要だと思っています。既得権益に乗って出てきた訳ではないからです。二世の方はお父様やおじい様の持っている既得権益に乗って政治に出てきている。二世だからといって悪いとか、能力が低いとは思いませんが、問題は既得権益に乗っているかどうかです。だから渡辺喜美さんのような方は貴重なんですね。世襲であるかどうかも関係なくぶっ潰そうとしているからです。そこを国民の皆さんにしっかりと見届けていただけるかとか、選別していただけるかというのは、恐らくこれからのコミュニケーションの非常に重要な要素だと思います。大変刺激をいただいものですので二度目の発言をしてしまいました。失礼致しました(会場拍手)。

「支配階級構造の“上”を崩し、事業を土地に根付かせていく」(冨山)

冨山:たとえば産業再生機構は宮崎交通の再建を行いました。九州産業交通の再建を行いました。私たちは典型的な中央資本で、です。その結果として、少なくとも我々の手がけた事例については地域での雇用が増えています。その一方でぐちゃぐちゃになっていた既得権益の環境は整理しました。既得権益の上に乗っかっておいしい汁を吸っていたオーナーファミリーは、ひょっとしたらひどい目に遭ったかもしれない。でも、先ほどの議論と同様で、くどいようですが「その地域で本当にかわいそうなのは誰ですか?」ということです。少なくとも我々が刺されずに帰ってくることが出来たのは、申し訳ないけど、我々が地方における支配階級構造の“上”を刺しに行っているからです。ここは叩きましたよ。当然、怒る政治家は出てきます。後援会長なんだから。地方における議論では、えてしてその部分にすり替えがあります。たとえバス会社がそこで持続的に仕事をしていこうと思ったら、当たり前のことですが地域の住民やユーザーのサポートを得る必要があります。先ほどカタストロフィという話を大げさにしてしまいましたが、もし、その初期段階で戻ることが出来るのであれば、実は上のところだけを叩けるんです。これが本当にカタストロフィになってしまうと、渡邉さんの仰っていた通りで、本当に一番下にいるかわいそうな人たちが大変な目に遭います。僕らが一番気を付けていて、かつ実際に大変だったのはそこですよ。日本航空のリストラなんて痛くも痒くもありません。皆、エリートなんだから。あるいはバス会社でオーナーのクビを切るのも痛くも痒くもありません。所詮ブラックジャーナリズムが書くぐらいで、本当に刺しには来ませんから。でも、たとえば旅館の下働きをしているおじさんや仲居さんの解雇なら話は別です。彼らの人生だけでなく、たとえば仲居さんが仕送りをしているお子さんの進学問題だって絡んできて、めちゃくちゃに深刻な状態になるからです。そこでの本当の問いは、どうやったらその人たちを痛めずに、一方では既得権益をしゃぶっていて、実は人生が壊れないやつを狙いうちにするかということです。このゲームが恐らく戦いの本質で、それがきちんとやれるかやれないかいうことがご質問の本意であれば、私は「出来る」と答えます。必要なのは時間なんですよ。5年でも10年でも20年でも。そこに腰を据えてやる気なら出来るし、ビジネスとしても渡邉さんがやっておられたように、僕らもそうであるように、きちんとペイするんです。その地域で実際にバスを使ってくれる、介護を使ってくれる、あるいはお弁当を利用してくれるのはその地域に住んでいる皆さんです。お金を払っているのは彼らであって、使うか使わないから彼らの自由意志ですよね。彼らが支持してくれなかったらそもそも持続しません。もちろんお金に仕事だけをさせるということにこだわるのなら、ヒットアンドアウェイで帰ってしまったほうが良いでしょう。でも、先ほど渡邉さんが仰っていたように、本当に汗をかくことで収益を上げていこうという仕事に徹するならば、私は先ほどの知事のご質問に対する回答について本質的なブレはないと考えています。

岡島:先ほどからこのセッションの終了をつげる合図がずっと提示されていまして(笑)そろそろ終了をさせていただかなければなりません。冨山さんには今、お話いただきましたので、渡邉さんと田中さんに一言ずつお話をいただいて終わりにしたいと思います。最後に皆さんに伝えたいことを一言ずつお願い出来ますでしょうか。

渡邉:先ほどのご質問ですが、だからこそこちらにいらっしゃる経営者の方々が本気になって取り組む必要があるということだと思います。冨山さんもバス会社で地域起こしが出来る訳ですよね。中央から地方に出向いたからって何もないですよ。資金の移転だけ。そうではなく、そこで経営が行われることが大事なんです。経営というのはそこに持続可能なビジネスモデルをつくりあげることですよね。そしてそこに関わるすべての人が満足し、幸せになるような利益配分が出来る。そのために売上を高めて経費を削り、利益を分配する。これは非常に簡単なことです。その簡単なことが、今まで誠実になされていなかったんですよ。それから変化に対応していくということ。経済が右肩上がりなら誰でも経営出来るんです。でも、右肩下がりのなかで経営するのは本当に難しい。そのことが今、日本の政治家の方々に出来ていないということではないでしょうか。何故ならそういうDNAがないから。だからこそ、ここにいらっしゃる経営者の方々が本気になってこの国を支えようと思わないと、私は本当に、先ほどの言った破綻や焼け野原ということが現実化してしまうと思います。これだけ素晴らしい方が集まっているのだから、皆で頑張っていきましょうとお伝えしたいです(会場拍手)。

田中:僕も破滅を待っている訳ではないのですが(会場笑)、ただ結局、何かしらの方法論で気づけば良いと思うんです。気づかない人が最後に罰を受けるというか、責任をとるというのは、ある意味健全な社会のありさまだとも思うんですよね。今、僕の父親は60ぐらいですが、この前、「良和さあ、俺、最近年金貰おうと思っているんだけど、正直、俺が年金貰う20年ぐらい会社を頑張ってくれたら、そのあとどうなっても言いんだよね」って(会場笑)。要は既得権益の構造のなかで僕の父親も既得権益の甘い汁を吸っている訳なんですよね。で、そういう人たちは何を言っても気が付かない。「あ、この人は年金が半分になるか好きなパチンコが出来なくなるその日まで気が付かないんだろうなあ」と思いまして(笑)。

岡島:ありがとうございます。時間を超過してしまいまして申し訳ありません。このパネルはかなり過激な話題も出てまいりましたが、明日明後日の分科会・全体会の議論に繋がる材料と、非常に手触り感のある本質的な問いかけをたくさん生み出したセッションになったと思います。それでは最後に皆さんでパネリストの3名の方に大きな拍手をお願い致します。ありがとうございました(会場拍手)。

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