クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン社長 清水昇氏 「変化の時代の企業経営〜時代の先を読む事業戦略・組織づくり」(講演) 

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スピーカー:クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社
代表取締役社長清水昇氏

現在、製薬業界は事業環境の大きな変化に直面している。メーカーは開発した薬剤の特許が失効すると、数カ月で後発医薬品にシェアを奪われて売上が大幅減となる。一方で、開発費は膨れ上がるばかりで、大きな利益を生む大型新薬を出し続けることは容易ではない。こうした傾向を受けて世界の製薬メーカーは、診療所で扱える一般的な薬剤から、利益幅がより大きい専門的な薬剤へと開発をシフトし始めた。さらに人員のスリム化による人件費削減にも取り組み始めている。その一つがMR(MedicalRepresentatives:医薬情報担当者)のアウトソーシングである。欧米ではすでに10〜25%が外部のMRと言われるが、日本での普及率はまだ業界全体の3.5%程度、今後の成長が予測されている。この時流をいち早く把握し、MRのアウトソーシングで日本国内最大手となったのがクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンである。

同社は証券会社や自動車、不動産など他業界の営業経験者を採用して製薬営業のプロフェッショナルに育て上げ、現在はほとんどの大手・中堅会社からからコントラクトMR(ContractMR。以下CMR)の業務を受託している。社長の清水昇氏は、日本のMRアウトソーシング市場はじきにアメリカ並みの8%に達するという見通しを持つ。加えて同社は、MSL(MedicalScienceLiaison:メディカル・サイエンス・リエゾン)という、学会でオピニオン・リーダーとなる学者と提携して新薬を広めるサービスを展開したり、市販後の調査や製品開発分野のアウトソーシングも徐々に受託を広げたりしている。将来的には、開発、薬事、マーケティング、営業、PMS(市販後の調査)という、製薬メーカーのビジネスシステムの包括的な受託を目指すという。

同社の着実な成長の歩みを牽引してきた経験を踏まえ、業界の時流を見抜く力、戦略実行の方法、アイデア導入のタイミング、そしてリーダーとして組織を活性させる仕事の方法を清水氏が語った。

強いプレッシャーと状況変化にさらされる製薬業界

清水昇氏(以下、敬称略):こんばんは。清水です。本日は私どもの会社についてご紹介しますが、グロービスで学んでいる皆様は経営や変革といったことについていろいろとご質問があろうかと思います。ですからできるだけご質問にお答えする時間を長くとりたいと思います。

まず、クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンについて、少しご紹介させてください。弊社を一言で表現すると、アウトソーシングカンパニーです。ヘルスケア業界の中で、特に製薬企業におけるさまざまなビジネスシステムのアウトソーシングを受託しております。その前に製薬業界のビジネスの現状から少し解説させてください。

現在、製薬業界は強いプレッシャー下にあります。日本市場とグローバル市場のいずれにおいても、いくつかの大きな状況変化が起こっています。まず一つめに、R&Dの生産性の低下があげられます。一昔前は一つの薬剤を製品開発するのに10年100億円と言われていました。しかし現在は、世界規模でメガヒットするような製品開発をするには、場合によっては15年、コストも7500億円と非常にお金と時間がかかるようになっています。そのため、大当たりするような薬がなかなか出なくなっています。さらに、利益の源である特許も時間が経つにつれ次々と切れ、ジェネリック品にシェアを奪われます。ジェネリック品とは、最近の日本でも名前が浸透してきましたが、後発医薬品のことです。薬品の化学式などは一緒なので薬効は同じですが、値段が安い。特許が切れるとそのような製品がどんどん増えてきて、シェアを大幅に浸食していくようになるのです。

二つめの変化として、営業とマーケティングの生産性の低下があります。最近では新薬に政府や保険機関から承認を得るのが以前ほどには簡単ではなくなりました。つまり薬は効き目以外にも、入院コスト、死亡率、あるいは再発率といったさまざまな指標によって社会負担コストを総合的に判断され、価値が慎重にはかられるようになっているのです。ヨーロッパなどでは新薬の価値を認めさせるため、治験の段階から「社会コストが下がる」とか、「患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)に改善が見られた」といったデータを集めるほどです。後ほど述べるように、さらに薬剤意志決定者の変化も加わり、この点で営業やマーケティングの生産性は低下してきていると言えましょう。

三つ目には、コンプライアンス(法令遵守)に対する規制または指導が強くなっていることです。一般企業同様、製薬業界でも法令遵守の姿勢が非常に強く求められてきています。たとえば「オフラベルユース」という、本来、患者に必要な量を大きく超えて使わせてしまうケースです。以前、アメリカではこうした行為が発覚して二千数百億円といった高額の罰金を科せられた企業もありました。生命に関する業界ということもあり、これまで以上に法令遵守を非常に強く求められているのです。

このようなさまざまな状況変化によって、製薬企業の収益は不安定になってきています。とりわけジェネリック品が出てくると一気に売上が下がるので、舵とりが一層難しくなってきているといえます。

ジェネリック発売後3カ月でシェア9割を奪われる中で利益を上げるには

ではR&Dの生産性の低下を製薬企業の売上傾向を通して見てみましょう。まず、グローバル市場における売上高は右肩上がりで順調に伸びてきており、なかでも成長率は世界最大の製薬市場である北米、つまりアメリカの成長傾向と非常に高い相関性を見せています。一方、世界第2位の市場は日本ですが、こちらは世界市場の成長トレンドと殆ど相関性のない推移を見せています。また、中国市場は急激に大きくなってきていて、2009年では世界第7位ぐらいでしたが、2013年頃には第3位にまであがってくると思われます。

売上高が伸びる一方で、成長率は少しずつ低下してきています。これはアメリカ市場でのジェネリック品の浸透によるものです。米国のジェネリック品浸透率は7割で、たとえばある製品の特許が切れると、そのわずか3カ月後にジェネリック品のシェアが9割に達するという状況です。これはアメリカ市場において一剤で1000億円を儲けている企業があったとすると、特許が切れた3カ月後に、売上が100億円まで落ちるということを意味します。これほど激しい変化が起きると、普通の企業なら倒産しかねません。もちろん今は多くの企業が大合併をしており、売上も何兆円に達していますから1000〜2000億円の売上が見込まれる薬一つが特許切れを起こしたからといって屋台骨が直ちに揺らぐわけではありません。ですが、収益にとてつもないインパクトがあるのは間違いありません。

新製品の発売3カ月後に9割のシェアを取られるとして、皆さんは打つ手を考えられますか?米国ではいろいろ考えた挙句、「これはお手上げ」という結論に至りました。もう何をやっても無駄だということで、新薬開発に大きく舵を切りました。しかしながら新薬開発にも莫大なお金がかかります。そのために企業合併によって母体を大きくして、開発資金や研究者を確保しようという方向に動いているのです。

一方で、今まではジェネリック品に関して、「自分たちの商売を侵食してくるのだからとんでもない」という認識をしていたブランドメーカーの中には、発想を転換する企業も出てきました。そもそもジェネリック品は品質や供給に不安を抱えているのですが、ブランドメーカーはその点で信用力があります。そこで逆に積極的にジェネリックの領域に出ていくブランドメーカーが出てきました。「どうせジェネリックに喰われてしまう市場なら、自分たちでとってしまおう」という戦略です。

他方、ジェネリック品との競争にさらされないニッチ市場への参入を図る企業も増えています。たとえば一剤で500億円前後という比較的小さな市場で圧倒的なシェアをとる。するとジェネリック品メーカーも、「市場が小さいから入っても仕方がない」と、参入してこないことがあるのです。そうした場合は、特許が切れても安定してシェアを維持することができます。このようなニッチ市場を他社に先駆けて見つけ、圧倒的No.1を保ち続ける。そんな戦略を採る企業も出てきました。

このように後発医薬品が力を持ちはじめたことによって、ブランドメーカーの戦略もさまざまな形で変化してきました。合併で母体を大きくして備える、ブランドジェネリックを売り出す、あるいはニッチプレイヤーに変わるなど。いくつかの戦略転換によって、変革が求められる時代になってきているということです。

より収益率の高い薬品へのシフト

2009年売上高を見ると、1ドル100円換算で2兆円を超えるある大手製薬メーカーがあります。しかしこの会社では2010〜2017年にアメリカで特許が失効した場合、売上高の50%強がリスクにさらされてしまいます。つまり新たに薬を開発できずにジェネリック品と競争した場合には、売上高の50%強の9割が浸食されてしまうということです。これは大変な事態です。企業としてはこの事態に備えて、何らかの手を打たないといけません。

では具体的に何をしているのでしょうか。第一に製薬メーカーは、新薬パイプラインを「プライマリーケア」から「スペシャリティケア」へとシフトさせています。プライマリーケアとは簡単に言うと診療所でも扱える薬、スペシャリティケアは専門病院で専門医に処方してもらう薬のことです。2001年の薬剤上位200品目では、プライマリーケアが約70%、スペシャリティケアはおよそ30%でした。ところが2008年には両者の割合が半々になります。さらに、現在承認を得るために治験を行っている開発品目は、スペシャリティケアの比率が5割以上に増えています。数年でこれらの薬は世に出ますので、今後はスペシャリティケアが多くなると予測されます。ちなみに、さきほどお話ししたニッチ市場を狙うことでなるべくジェネリック品との競合を避けるという動きも、こうした傾向が背景にあります。専門領域の薬は大抵薬価が高く、収益性が高いためです。

北米およびヨーロッパ市場では、プライマリーケアの市場は下がる一方です。他方スペシャリティケアは、2007年の北米市場でおよそ15%、ヨーロッパで10%近い伸び率を示しています。市場のパイが広くプロモーションしやすいプライマリーケアですが、ジェネリック品との競争が激しくなってきているため、なるべく競合が現れないスペシャリティケアにシフトしているのです。

従来の営業は、コストと人員配置の無駄遣い

次に、営業とマーケティングの生産性の低下について見ていきましょう。これまでは薬剤の選択をする意思決定者は医師でした。しかし現在欧米では、意思決定者、もしくは意思決定者に影響を及ぼす人達が大きく変わってきています。

欧米における2008年の医科向け薬剤決定者の判断への影響に関するある調査結果では、医師および医療機関が意思決定に参加しているのは35%。一方で、患者が15%、保険機関などの支払い側が35%となっています。アメリカでは民間の保険機関も医療費支払いの審査を行っていますから、判断に影響を及ぼすのです。さらに薬局が5%、政府機関などが10%となります。

ところが同年の販売経費の薬剤決定者ごとの使用状況を見てみますと、多くのメーカーは医療機関に84%を使い、他の意思決定者には残りの15%前後しか割いていません。つまり、薬剤決定に影響を及ぼす人々の割合と実際に販売経費を使っている対象の割合にズレがあるのです。さらに人員配置を見てみると、全体の93%が医療機関に配置されています。医療機関による意思決定は全体のわずか35%であるにもかかわらず、お金や人の配分は35%を遥かに超えている。明らかにギャップが起きていますよね。

ではこうして多くの割合で配分されたお金や人員が効率的に機能しているかといえば、残念ながら厳しいものになっています。医師に対して行われたある調査によると、製薬会社のMR(MedicalRepresentatives:医薬情報担当者)と積極的に会ってくれる医師は全体の56%にとどまりました。逆に言えば44%の医師はメーカーの営業関係者には会いたくないと思っているということです。会ってくれる医師にしても、2分以上時間を割く人はわずか24%。つまり76%の医師は「MRとの面会に2分以上の時間を使えない」と考えているわけです。

これらの状況を見る限り、薬剤決定者に対する人やお金の使い方は改善の余地があり、より割合の整合性を取らないといけないということがわかります。実際に米国では2005年に10万人超だったMRはどんどん減り、2015年には7万人前後になると予測されています。数が減る理由の一つとして、現在は保険機関で「こういう年齢の患者さんにはこの薬剤を」「この症状に対してはこういった治療しか認めない」などと決まっている場合が多いということがあります。そのような状況では医師のところへ通っても薬品の売上には結びつきません。こうして製薬企業は医師に多くの営業要員を配置するよりも、他のところへ回したほうが良いのではないかと考えるようになったのです。

必要な時、必要なだけプロフェッショナル営業を雇うという新しい方法

一方で、開発品目がスペシャリティへ移行すれば、専門製品のプロモーションに力を入れる必要が出てきます。日本よりも先にこのような状況になった欧米では、メーカーは専門部隊を自前で養成することにかなり慎重でした。

ふつう、メーカーの売上傾向は新製品が出ると一気に上がり、特許が切れると一気に下がるという波があります。そのため新製品が出たときにはプロモーション要員を増やす必要がありますが、ピークに合わせて営業人員を十分に配置してしまうと、売上が一気に減ったときにリストラの恐れがあります。米国でもリストラは大変で、クビを切るのであれば多額のお金を渡さなければいけません。もちろんヨーロッパでも労働者保護が厳しいので、簡単にはリストラはできません。そのため売上の波がある状況では、売上の乱高下に合わせてすべて自社でMRを抱え込むことは企業にとって大変な負担になってしまいます。

そこで1990年代になると、自社では売上ピークとボトムの半分前後の営業人員を抱え、足りない部分はアウトソーシングする流れが出てきました。これが弊社の業務の一つであるCSO(ContractSalesOrganization:医薬品販売業務受託機関)のはじまりです。2000年頃には、売上ピークとボトムの半分の営業人員を抱えることすら無駄が出る状況になったため、売上のボトムに合わせて自社雇用するようになっていきました。その結果として、欧米の大手製薬メーカーでは営業人員の15〜20%はアウトソースし、売上変動に柔軟に対応する方法が常識となりました。

他には、大学で薬学を研究していた先生方が独立して設立するバイオベンチャーも営業をアウトソーシングすることがあります。こうした会社は薬を開発するのは得意でも、製品の認可、マーケティング、あるいは販売は経験がないためです。以前は、そういったバイオベンチャーは大手製薬企業へライセンスアウトする戦略をとっていたのですが、のちほど説明するように、最近では製品の権利を残したまま我々のような企業にすべてアウトソーシング出来るので、営業に限らず創薬以降のフェーズすべてを外に出す形が増えてきました。

この他にも、たとえば循環器系の薬に特化していたメーカーががん領域で良い薬を見つけたので、そのプロモーションをすべて外部の専門部隊に依頼するといったケースもあります。たまたま今、がん領域で良い薬を開発出来たとしても、次の製品が出るのは7年後という場合、当初の4年は利益をあげることが出来ても、数年後に一旦休むことになります。そのような状況で自前の営業部隊をつくるのは控え、外注するという具合です。

ここまで来ると営業人員を売上変動に対応してぎりぎりまで減らすという次元からさらに進んで、戦略的アウトソーシングの領域に入ります。自社の製品のパイプラインをよく考え、組織として自社で対応するか、あるいはCSOを使うのかという選択をメーカーが行うようになるのです。売上ボトムに対応できる最少の営業人員数をさらに減らす企業も現れました。こうして2009年では、CSO企業に属するCMRがメーカーに占める割合は、アメリカ8%、ドイツ15%、イギリス25%、フランス14%、日本3.5%という水準にまで上昇しました。

日本でも急速に伸びるMRのアウトソーシング

では次に、日本の製薬業界について見ていきましょう。国内製薬業界の売上高は、順調とは言えないにせよ、おしなべて右肩上がりで、最近少しフラットになってきたかなというところです。しかし、薬価改定によって対前年度伸び率は2年に一度下がっております。薬価改定は、厚生労働省が2年に一度市場に出回っている薬の価格をすべて調べ、薬価よりも市場価格のほうが安い場合は一定のルールで薬価も下げるというものです。これまで国内メーカーは国内市場で十分な利益を出していましたが、薬価改定で下がる一方となると、新薬開発には莫大な費用がかかりますから、製品によっては非常に採算が悪いという事態が起きることが考えられます。これからは国内メーカーといえども、海外を含めてどう展開していくかを考えていくようでないと採算がとれないのです。

日本でも増大する医療コストを抑えるためにジェネリック品の使用は推進されています。老齢人口比率が高くなり、老齢人口そのものも増えるので、このまま放っておくと国民医療費はどんどん上がっていきます。老齢者は若い人に比べると、3倍ぐらいの医療コストがかかります。そこで薬価を抑えるために長く売られている製品の価格を下げ、かつジェネリック品を出していこうという政策がとられているのです。つい先日、ある大手コンサルティング会社の方に日本市場におけるジェネリック品についての見解を伺いましたが、これからは日本も製薬全体の30%程度までジェネリック品が増えると予測されています。経済モデルで考えて30%ぐらいであれば薬局などの利益が最大化出来るためです。今後日本でもジェネリック品との競合は激しさを増すために、製薬メーカーも欧米で現在起こっていることをよく見たうえで対応を考えざるを得ない時代になるのです。

日本におけるMRの数は現在、ブランドメーカー計で約5万3000人、前年比は2005年から2009年ぐらいまで1.5%前後の増でした。このうち外資メーカーは2%前後増、国内メーカーは1.1%前後増ですが、業界全体におけるMRの数は殆ど伸びなくなったといえます。医師100名に対する営業担当人員の数は、MRと卸の営業であるMS(MarketingSpecialist:マーケティング・スペシャリスト)を合わせて20人超。欧米ではこれが10人程度です。日本ではドクターの処方権がまだまだ強いという実情もありますが、いくつかの病院を経営している病院チェーンでは、事務方が薬剤の折衝を担当するケースも増えてきているので状況は徐々に変化していくと思われます。

一方、MRのアウトソーシング市場は急速に伸びています。今年は2000人を軽く超え、成長率は直近5年間で平均9%前後です。今後成長率は10%以上になると私は考えています。ただ、これだけ急成長していても浸透率は全体のわずか3.5%にすぎません。医療制度や事業環境が違うため、単純に欧米の浸透率と比較するつもりはありませんが、2015年頃にようやく日本国内でも恐らくアメリカ並みの8%ぐらいになるのではないかと考えています。

CMRの市場への浸透を促す要因は、やはり欧米と同様、メーカーのリスクヘッジであると思われます。特に日本では長期収載品の薬価が将来的にもどんどん下がるリスクがあるので、売上と利益が悪くなったとき、会社としてリストラを実施しないといけません。リストラは莫大なコストがかかりますし、早期退職プログラムなどを実施すると、企業によっては何年分もの割増金を払わないとならなくなります。そこで営業員の一部を外注することが検討されているのです。大規模な増員や欠員が生じた時、自社MRを採用して配置するのではなく、CMRによって補充していくことが広がってきています。

もうひとつの要因は薬剤の「スペシャリティケア」へのシフトでしょう。これから伸びていく製品はがん領域や中枢神経系といった専門領域です。スペシャリティケアに従来のMR組織で対応するのが難しくなり、アウトソーシングの需要が生まれると思われます。こうした流れに対応できるように我が社ではこうした製品向けに対応した部隊の展開も幅広く進めています。

クインタイルズの中核サービス「CMR」と「MSL」

さて、ここからは弊社の事業についてお話ししていきます。弊社のサービスで中核になるのは従来型の組織に対応した「CMR」です。北海道から沖縄まで日本全国での欠員補充の要望に対応し、併せてそのプロジェクトをマネジメントして営業品質を担保するものです。

また最近非常に需要の高い「MSL(MedicalScienceLiaison:メディカル・サイエンス・リエゾン)」(※リエゾンはフランス語で「橋渡し」の意)も手掛けています。日本における新薬のプロモーションは学会のガイドラインに乗って広まっていきます。「こういう治療にはこういう薬剤を使うと良い」といった指針が学会から出るのですが、それをつくるのは業界用語でKOL(KeyOpinionLeader:キー・オピニオン・リーダー)と呼ばれる教授や准教授です。そういった方々に新しい薬剤の情報提供を行い、サポートしていただく形をつくるのがMSLです。KOLの方々に新しい薬剤や治療のアドボケーター(製品およびその治療法の価値に共感し、積極的に適正使用・普及を促進するKOLDr)になっていただき、講演会での製品紹介や研究をしていただきます。こうした活動によって薬剤や治療方法を一気に浸透させるのです。

プロモーションの次段階としては、製品が学会ガイドラインに載ったら、実際に病院で製品採用してもらう必要があります。学会のガイドラインに載ったと言って喜んでいる間はありません。特許は4〜5年で切れるので、いかに早く採用してもらうかが鍵になります。この時もMSL部隊はKOLを通じて、一般病院や診療所に製品情報を広めていくのです。このような新しいマーケティング手法へのニーズが非常に高まっています。MSLは現在日本でも、10社ほどの製薬メーカーが自社内で取り組んでいます。MSLは対人関係をはじめとしたリレーションシップマネジメントが出来る人間である点も重要です。このような本来ならばメーカーの一部の人達しか出来なかったような仕事を、我々外部の会社が引き受けるようになってきているのです。

弊社のマーケティング・サービスには他にも、「SP(StrategicPlanning:ストラテジック・プラニング)」があります。これは製品の価値を最大化する戦略策定をするコンサルティングです。たとえば製薬メーカーが新薬を発売しようというとき、他のメーカーに権利を渡し一緒に売るのが良いのか、自社だけで売る方が相応しいのか、あるいはまるごと全部ライセンスアウトしてしまうべきなのか…。さまざまな方法を検討し、見極めたうえで、製品の価値を最大化出来る戦略をコンサルティングしています。

他方、「HMS(HealthManagementService:ヘルス・マネジメント・サービス)」は臨床経験を持つ看護師の方々がクリニカル・エデュケーターとして現場で啓蒙活動を行うマーケティング・サービスです。新しい薬剤などに関して、病院や診療所に勤務するコメディカルと呼ばれる医療スタッフに対し、「この薬剤はこのようにご説明ください」、あるいは「こんな風に服薬するようご指導ください」など、いろいろなノウハウを指導するサービスです。

最後に「PMS(PostMarketingSurveillance:ポスト・マーケティング・サーベイランス)」というサービスもあります。これは市販後調査のことで、厚生労働省から薬剤の認可が下りた後、その薬剤が副作用などを起こしていないかどうかを調べるものです。これまではメーカーのMRがデータ収集していたのですが、最近では厚生労働省が市販後調査をより重視し、領域によっては全例報告を求めたりします。これではMRは通常活動を放り出してデータを集めなければ追いつかず、新規の顧客開拓が出来なくなるので我々がサポートするのです。

戦略実行のフレームワーク「7つのS」

このように、弊社では国内製薬業界において従来と異なるさまざまな新事業を展開しています。ここ数年は特にニーズが目覚ましく変わってきているので、我々としても迅速にこれまで述べてきた戦略を実行していく必要があると考えています。そこで事業を円滑に進めるために自社の体制を整え、相手先企業との関係においても役立つのが、戦略実行のフレームワークとなる「7つのS」です。ご存じの方も多いとは思いますが、これはかつて私が在籍していたマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱しているものです。

まず、組織というのは戦略(Strategy)に従います。そして、たとえばMSLの部隊をつくるという話があれば、そのときにどんな人材を選ぶのかというスタッフ(Staff)も重要なフレームになります。

次にスキル(Skill)。お客様である製薬メーカーにとって「あなた達のサービスは素晴らしい」と納得していただけるサービスでない限り、次のお呼びはかかりません。そのためにスタッフにどのようなスキルを持たせるのかを、デザインする必要があります。特に「KPI(KeyPerformanceIndicator)」、パフォーマンスを図る項目や指標とスキルをリンクさせなければいけません。たとえばMSLであれば製品発売前からお手伝いをするわけですから、売上という指標では測れません。では何をもってMSLのパフォーマンスを測るのかという時、KPIの設定自体がノウハウになってきます。そのうえで、メーカーと弊社でMSL部隊を出し合い、互いに設定したKPIに則ってチェックをした際、我々のMSLのほうが優れていると言わせるものを見せなければビジネスは続きません。ですから当然ながらスキルは非常に重要です。

また、そういった部隊が属する組織の構造(Structure)も大切です。それから運営システム(System)。売上に替わるMSLの評価システム、人事制度やキャリアパスについてもシステム化する必要があります。我が社のMSL部隊は非常に特殊な技能を持っていますので、メーカー内部の人材よりも優れた成績を上げることが多くあります。するとプロジェクト終了後にメーカー側から「うちに来ませんか」と声を掛けられ、放っておくとそのまま移ってしまいかねません。これでは我々のMSLは、いずれ全員刈り取られてしまいます。であれば、メーカーからのオファーが来ても我が社に残りたいと思ってもらえるような魅力的なキャリアパスを構築する必要があります。

6つめに、先方企業の組織風土(Style)に気を配ることも重要です。MSLのような部隊が社内であまりに重宝されると、既存のコアビジネスを担当しているMRが「自分たちは重要ではないのか?」と気分を害することもあります。それでコアビジネスがうまくいかなくなることもあるのです。ですから、スペシャリティとコアビジネスとのバランスをとるべきです。従業員にプライドを持たせながらバランスに配慮する、その意味で組織風土の尊重は非常に重要なフレームです。

最後に、こういったフレームのなかに共通の価値観(SharedValue)があります。我々は製薬メーカーの戦略的パートナーとなり、ひいては日本の医療や患者様に貢献していく、そうした価値観を持ったうえでビジネスをしなければいけません。自社だけが儲かればよいという考え方では長期的にはビジネスが失敗に終わります。以上に述べたような7Sを考慮することによって、組織づくりが成功していくのだと私は考えています。

現在、我が社には1500人近いMRがおります。一方、製薬メーカー内のMRは最大の組織で2400人ほどです。MRの人員ランキングがあるとすれば、我々は現在中堅に位置しており、そろそろ上位ランキングにも顔を出そうかという規模です。今後の見通しとしては、2015年までにMRが3000人位に増えるだろうと思っています。欠員補充もまだまだ需要がありますし、いずれはさらにスペシャリティの人員需要、マーケティングやコンサルティングといった領域まで人員拡大していくことになるでしょう。

メーカーの利益と従業員のモチベーションを最大化するしくみ

一方で、メーカーでたとえばがん部隊に入っているMRの個々人は、我々第三者から見るとメーカーに対してあまり強烈な忠誠心を持っていないことが多いようです。会社に対してよりもむしろ治療に対して忠誠心を持っているんですね。そういうMRは新薬を売っているあいだはKOLの先生方ともお話が出来るので、楽しく仕事ができます。ところが製品がガイドラインから落ちてしまったり、競合他社の新薬にとって変わられてしまったりすると、病院の先生方からお声がかかりにくくなります。すると、大変知識レベルが高く、先生とのパイプも強い方々だけに、「つまらないな」と感じるようになります。このような時に他社から声を掛けられたりすると、すぐに移ってしまいます。つまり、自社で虎の子の優秀部隊をつくったとしても、製品が続かない場合は引き抜きリスクに遭うのです。

では逆に、それらの人材が残ってくれた場合にうまくいくかといえば、担当領域を変更する難しさという問題があります。たとえばがん領域のMRの人に「今度はプライマリーケアをやって欲しい」と話しても、「私はがんをやるために勉強してきたんです。プライマリーケアなんてやっていられません」ということになります。いわゆる“オーバースペック問題”です。ある領域の売上が下がっているにもかかわらず、優秀な人たちを必要以上にそこに張り付けざるを得なくなるのです。

ですから、製薬メーカーで専門領域や高度なスキルが求められる部隊をつくるときは、かなり慎重にならないといけません。つくったその先まできちんと考えないと、将来的に大変なことになってしまいます。そのようなときに弊社の営業部隊のアウトソーシングサービスを利用すれば、必要なときに必要な人材を使うことができます。こういった考え方は特にがん領域などでは有効ではないかと思っています。

このような事情もありまして、我々は現在、がん、中枢神経系、抗うつ薬、統合失調症といった専門領域を担当する部隊をつくっています。またMSLやHMSなどは殆どクインタイルズの独壇場として、市場を切り拓きながらサービスを提供しています。

最後に、我々の将来像についても少しお話しいたします。一般的な製薬メーカーのビジネスシステムは、「創薬/研究」「開発」「薬事」「マーケティング」「営業」、そして「PMS(市販後調査)」という一連の流れを持っています。我々は現時点では「営業」の受託をコア領域としておりますが、今後はそれ以外の領域のサービスも厚くしていきたいと思っています。これまでお話ししたマーケティング、PMSの他にも、開発分野でもCRO(ContractResearchOrganization:医薬品開発業務受託機関)というビジネスを展開しておりますので、包括的なサービス提供が可能になります。

将来的にはこうした一連のサービス受託も現実的なものとなってくるでしょう。たとえばメーカーが、ある疾患領域、あるいは特定の事業部をまるごとアウトソーシングするということが起こりえるということです。今も実際にそうしたサービスを弊社の海外オフィスでは提供しております。そして、製薬メーカーの将来像としてはバーチャル・カンパニーのような形も考えられます。もちろん肝心なところはメーカーが押さえますが、実行部隊はすべて外部委託してしまう。そしてメーカーは身軽な経営をするということが、将来は日本でも起こるのではないかと考えています。

そのような業態となったとき、では「メーカーの役割、持つべきものは何なのか」ということが今一度考えられることになると思います。私が思うに、それは潤沢な資金と“目利き”の要素を備えることだと思います。これからどの領域でビジネスが広がってくのか、たとえば既存薬に対して、「この領域ではこれまでと全く異なる治療が広がっていく」といった目利きの視点を持つこと。メーカーはそこさえ押さえておけば、実行部隊はアウトソーシングし、必要なときに必要な量を確保すればよいのです。

少々長くなりましたが我が社の紹介をさせていただきました。ご清聴ありがとうございます。

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