逢坂誠二衆議院議員×星野リゾート代表取締役・星野佳路氏×ジェイ・ウィル・パートナーズ・佐藤雅典社長「地域から考える日本の再生」 

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そもそも、なぜいま日本の再生は「地域」からなのか (上山)

上山:今日のテーマは「これからの地域経営」ですが、私は副題の「地域から考える日本の再生」も大事だと思っています。昨日のセッションでは竹中平蔵(慶應義塾大学教授)さんと前原大臣から、「日本の進路」という問題提起があり、さらに竹中さんからは、どこから変えていくのか、いうなれば、ボーリングのどのピンに玉を最初に当てるのかをはっきりさせよう、というお話がありました。私は「地域改革」「地域の再生」こそが最初のピンではないかと考えています。それを念頭に置いて、今日のセッションを始めさせていただきます。

さて、「地域再生」や「村おこし」といった言葉自体は、ずいぶん一般化したと思います。しかし、なぜ今こういうことを議論しなくてはいけないのか、なぜ地域再生が大事なのか。今日はまず私から問題提起させていただきます。次に、我々4人は実際に各自さまざまな場所で、いろいろな活動をしてきています。それを具体的にご紹介します。

後半は、制度や法律面、お金や人といった、地域再生をするうえでのいろいろな障害について、明るい愚痴を言いたいと思います。その後、そうした問題をどのようにして解決するのかを、考えたいと思います。なお、逢坂さんには、政府が何をしていくのか、お話をいただきます。もちろん我々自身が何をすべきかも考えます。

はじめに、なぜ地域や地方が、日本全体を考えるうえで重要なのか。三つの観点からお話しいたします。まず一つ目は、日本の右肩上がりの単純な成長、あるいは欧米に追いつこう、といった流れが終わってしまったことです。輸出依存の経済に限界が出てきた。そうなると、内需、各地域の実態に合わせた経済戦略が、必要になってくる。たとえば、大阪という大都会と北海道のニセコ町が抱えている課題や実態、住民が求めているニーズは、まったく違う。日本国内を一緒くたにする政策には無理がある。「日本」という言葉を、頭の中で一旦は砕いてみるということが必要になってくる。

二つ目は古い日本を壊そうというときに、何を壊さなくてはいけないのかです。「縦割り」という言葉があります。政府、特に省庁があって、業界があって、その下に各種団体があるという構造です。これは成長追求、欧米に追いつくためには極めて効率的な構造で、おそらく1980年ぐらいまでは、よく機能していた。ところが最近は、ない方がマシという実態です。さらに縦割りに加えて護送船団方式という問題が、日本の閉塞感をさらに強めている。

縦が問題であれば横にすればいいのです。横とは何かというと、これが「地域」という軸です。逢坂さんはニセコの町長を務められたわけですが、自治体では犬猫の処分の話から都市計画まで、あらゆる問題が出てくる。まさに横の世界です。目の前の住民のニーズを把握し、横軸の目線で経営していく。この目線は霞ヶ関の官僚からは出てこないものです。内閣総理大臣を除けばその他はすべて縦割りになっているからです。

三つ目は古い日本を壊すというとき、実際にどこから突破するのかです。政権交代は重要な突破口の一つだと思います。しかし私個人の意見ですが、もはや日本国政府という古いトラックの運転手を変えただけではダメです。トラックじゃなくて、これからは小さな一人乗り用の車をたくさん走らせるほうがよい。メインフレームからクライアントサーバー方式に変える。

古いトラックを解体して何を運転するのか。全国には1800の横の組織を経営している首長たちがいます。これこそが改革の担い手です。なかには、橋下徹・大阪府知事とか東国原英夫・宮崎県知事など、とても元気な首長がいて、日本全体のあり方を地域で実験している。こうした実験を各地で繰り返していけば新しい日本の姿が見えてくる。

都会と地方では、抱えている状況がかなり違います。私自身もそうですが、東京に住んでいると、何となくシャッターが下りた店舗が並ぶ通りの姿などを地方の悩みと捉えてしまいがちです。でも実際は各地でまったく状況が違う。ですから今日のセッションでは、あえて「地方」という言葉は使わないで、「地域」という言葉で議論をしたい。「日本」という大きい単位が、いわば総本社だと思いますが、総本社でもなく、各省庁という事業本部でもなく、支店というと少し語弊がありますけれども、地域本部としての自治体という単位をベースに、日本の改革を考えてみたいと思います。

前置きが長くなりましたが、さっそくパネリストの皆さんそれぞれに、どの地域でどのようなことをやってきたのかお話しいただければと思います。

地域ブランドに頼るのではなく、自分が強くなるという逆転の発想を(星野)

星野:こんにちは。私は実は大学までずっとスポーツをしてきて、その後、軽井沢で家業の星野温泉旅館を継ぎました。家業を引き継いだのが1991年です。それから2001年までずっと、軽井沢だけで単体の事業をしていました。当時の星野温泉旅館は、軽井沢のブランド力に依存していたんですね。ですから、軽井沢への観光客が増えると我々の集客も増えて、観光客が減ると我々の集客も減る。浅間山が噴火すると業績が低迷し、しばらくするとまた戻ってくるという状況でした。

あるとき軽井沢のブランド力を調査したところ、実は1970年くらいがピークで、80年代、90年代と縮小していることがわかりました。私は90年代に経営してきたので、大変な危機感を持っていたのです。これは地域のブランド再生にあたるということで、町にもずいぶんアプローチしましたし、軽井沢の魅力を増やそうと努力もしてきました。しかし、地域全体で何かをやるというのは、利害関係が非常に複雑で合意が取れず難しい。それで結局、軽井沢に留まっているのは危険であるという結論に達して、外に出て運営していくことになりました。

軽井沢を何とかしようと努力していた期間が5、6年あります。さまざまな論文を出したり、提案したりと、いろいろなことをしてみました。その時に感じたのは、地域を良くしていくことで自分がその恩恵を受けようという発想自体をやめたほうがいい、ということです。志が高くない人たちがたくさん集まって、何かをしても地域が元気になるということはないんじゃないか。それよりも、僕自身が強くなる。自分で自分の顧客を探して、自分で連れてきて自分でその人たちをリピート客にするんだという、逆転の発想をし始めました。軽井沢なんていうブランドには一切頼らないという発想をしないと、自分自身も安心できません。僕のような発想の事業者が軽井沢の中でたとえば5、10、20と増えれば、自然に軽井沢が活性化するんじゃないかと。そういう割り切りをしたんですね。

それ以降、全国で21の施設を運営していますけれども、行く先々で必ず、この地域をどうすればいいのかという課題に巻き込まれます。先日も、新たな施設の運営を受託した関係で、県知事にお会いしたのですが、県の観光はこれからどうすればよいのか、観光資源をどのようにアピールしていけば良いのか、といった話になりました。しかし、僕はそういう話には深入りできない、ということを申し上げています。自分の施設を強くする。自分の施設の競争力だけをまず考える。そういう施設が集まると、おのずと地域が強くなるんじゃないか。そういうふうに考えて、全国21拠点でやっているところです。

地方再生は「やれることの発見」の連続です(佐藤)

佐藤:星野さんとは企業再生等でいろいろと仕事をご一緒しています。星野さんがやっておられるのはホスピタリティ、まあホテルであり旅館としての業ですね。我々の仕事はあくまでも、投資家の方のお金をお預かりして、それを適正に運用するという形でのファンド運営なので、同じ対象であっても、多分に考え方が違う。すなわち、我々の資金は有限です。それから当然ながら、全部が成功すれば理想ですけれども、そうならない場合があり、それでも全体としては一定の利益を投資家の方にお返ししないといけない。その意味で、我々が行っているのは制限ある中での再生です。

制約のあるお金を預かっているところにおいても、地域をどうするんだという相談をよく受けます。限られた状況の中で地域全体を元気にするというのは、正直なところ極めて難しいことです。これはまた後で、問題点の解決として申し上げたいと思いますけれども、民間資金の限界として、ある意味で面的再生というものについてはそぐわないことがあります。あるいは、まったく違う形の資金を集めないと、おそらくその地域の方の要望には、応えられないでしょう。

地方再生、地方の活性化、あるいは今日のテーマである地方の経営という観点で我々が取り組んでいる案件は、放っておくとダメになってしまう。ダメというのは、すなわち倒産してしまうということです。我々は比較的そのギリギリの状態の会社をお預かりすることがあるんですが、まず第一にそこに何とか適切な資金を提供して、必要であれば経営者を入れ替えて、雇用を維持するということを考えます。

実は先般、全国に25拠点ぐらいある老人介護施設を運営している会社の再生をさせていただきました。もともとは新興の上場不動産会社が事業を拡充しようと考えて、本業ではない老人介護施設の運営を手がけたのですが、立ち行かなくなったということでご相談を受けました。まずもって喫緊の課題は、老人介護施設の再生であろうということで、私どもが引き受けました。

私は老人介護について、経営したこともなければお手伝いをしたこともありませんでした。ですからとにかく内容をきちんと精査して、早くその専門の会社に無事に1500人の入居者を今の状態のまま引き渡すことが第一である、と考えました。それで最終的には、一部上場企業にそのまま引き継いでいただきました。

こうしたことから、私は地方の企業を活性化させて云々ということは、そんな簡単な話ではないと思っています。他のセッションでは、「日本の船はもう沈んでいる」、「残された時間は少ない」、「国債が暴落する」など、ある意味で地域とはかけ離れた上位概念の話で、悲観論が続いています。しかしその渦中において、せめてできることというのは、地方の雇用を守る、とにかく今現在あるものを守る、ということではないでしょうか。増やすのは今あるものを守ってからと考えて、何とか下支えをしたいという思いでやらせていただいています。

創業して7年経ちます。現在進行中のものも含めて80社ほどの再生をさせていただいています。その経験から言いますと、地方・中堅・中小というと、ダメ・ダメ・ダメの3連続のように言われることがありますが、私はまったく逆で、やり残していること、やれることは、まだまだたくさんあると思います。もっとたくさんのプレーヤーに入ってきてほしいと思っています。過去7年間の経験ではっきりしたのは、ダメの連続ではなくて、やれることの発見の連続だということです。

再生の出発点は「何をするか」よりも「どうなりたいか」を考えること(逢坂)

逢坂:最初に上山さんがおっしゃった、なぜいま地域なんだという話に若干、付け加えたいと思います。1800年代にすでに、たとえばフランスの政治家・トクヴィル、あるいはイギリスの法律家・政治家のブライスといった人物が、民主主義の原点は自治にあるということを言っています。特にトクヴィルは、地域の自治がしっかりしていなければ、国家全体の民主主義はしっかりしないと言っています。あるいはブライスは、民主主義の源泉は自治であるということを言っているわけです。その意味で世界中の国を見てみると、自治がしっかりしていない国が、国家として最終的にうまくいっているということは、あまりないんですね。ですから地域というのは、やはり非常に大事だと思います。

それからもう一つ、現代は人、物、金、情報が国境を越えてシームレスに動いています。グローバル化というふうに言われるわけですが、物事がグローバルに動けば動くほど、実はローカルが大事になるというパラドックスがあるということを、15年ぐらい前にジョン・ネイスビッツが、『大逆転潮流(グローバル・パラドックス)』という本の中で書いています。私はそれをまさに実感しています。人々の動きが広い範囲になればなるほど、実は小さなエリアでの活動が重要になってくる。そういう意味での時代の要請もあって、やはりいま地域なんだろうと思っています。

さらにもう一つ、先ほど佐藤さんから話が出たように、「日本の国全体が危ないんじゃないか」とか、「国債が暴落するんじゃないか」、「金利が一気に上がるんじゃないか」というふうに言われていますが、国が転覆しようが、無くなろうがどうしようが、実は地域というのは残るんですね。無政府状態になったとしても、人がいるところには必ずある種の社会は出来上がるわけです。だからどんな状況になろうと、地域とか自治というものは、生き残っていかざるを得ないのです。存在するということですね。そういう意味において、自治・地域というものを大事に考えていくということは、今の時代の動きに非常に合っていると思います。

そして本題の私が何をしてきたかですけれども、北海道のスキーリゾートとして有名なニセコという町で町長をやり、その前は町役場の職員でした。そしていまは政治家をやっていますが、本音でいうと、私は公務員が大嫌いです。なぜ嫌いかといえば、ほとんど仕事をしていないからです。公務員になる人の気が知れません。やっているふりをしていますけれども、本当に仕事をしているのかと思うことが多い。全然仕事していないですよ。それから政治家も嫌いです。胡散臭いからです。なぜ胡散臭いか。実は政治が扱う課題というのは、論理や理屈で割り切る問題ではないからです。判断の根拠がはっきりしない、だけれども決断しなければいけないというものが、政治が扱う一つの大きな分野なんです。その意味ではどんな結果を出すにせよ、政治というのは批判されるし、ある種の胡散臭さがつきまといます。裏返していうならば、判断の論拠が明確なものは、何も政治家がやる必要がないんですね。それは公務員がきちんと答えを出していけばいいわけです。ところが日本の公務員はそれすらもやっていない。まあ世界中どこでもそうかもしれませんけれども、事実や論拠をしっかり揃えて判断できていないのが、公務員の現状です。

しかしながら、公務員や政治家が社会の中で担わなければならない役割というのは、非常に大きいと思っています。そしてそこをきちんとやりさえすれば、地域も国家もきっとうまくいくだろうとも思っています。だから、私はニセコでは具体的なことはあまりしていませんけれども、議論できる土壌をつくること、考えるきっかけをつくることに、最も力を入れました。その一つが、徹底した情報公開です。話し合いをして物事を決めていくということは、悪いことではない。それが実は、地域を再生していく一番の出発点なんだと思います。ただどこからか誰かを呼んできて、何かを教えてくださいでは、実は地域は良くなりません。たとえば製造業などの企業を誘致して、そこである種の経済活動が起こったからといって、地域は本質的には良くならないのです。そうではなくて自分たちが、この地域を本来どうしたいんだということを、まず考えられるかどうか、それが出発点だと思っています。その意味では、考えたり行動したりするためのインフラをつくったことが、私のニセコでの仕事でした。

それからもう一つ、地域を再生するためには、地域がどうなりたいか、どうあるべきかという目標設定をするということが欠かせません。これはたぶん政治、あるいは行政、市町村レベルでいうならば市長や町長や村長といった人たちが、大きな目標設定をすることが地域によっては大事だと思っています。ニセコにおいては、「小さい、美しい、優しい」でした。つまり、町が小さいことは何も悪くないですよ、人口が増えないことは何も悪くないですよ、美しい、こういう町にしましょうね、優しい、こういう町にしましょうね——そういう目標設定をするということです。そして次に、ではそのためには何をすべきか、ということを考える。こういう手順です。

全国の地域づくりを見ていると、「どうなりたいか」というのがそもそもないんですよ。どうなりたいかということが抜けていて、何をするかという話が先に来るんですね。企業を誘致するか、あるいは人が集まる施設をつくろうか、お金が動く何かの仕組みをつくろうか、ということを先に議論しているんです。しかし、地域が本来どうあらねばならないかという、一番根本的なところの目標設定なしにやっているので、非常に残念に思います。

だからその意味において私はニセコでは、具体的なことよりも、大きな目標を掲げることと、考えたり、自分の力で何かしたりするためのインフラを整備しました。その結果として、非常にうまい具合に、ずっと続いていた人口減少が止まったのです。あるいは新たに労働の範囲が拡大していった町として全国のベスト5に入ったりしました。ちょっと禅問答のような話になりましたが、とりあえずそんなところです。

地域にお金が入って来なくなった四つの原因(上山)

上山:複雑なテーマなので、何回か順番に発言していただきながら徐々に解きほぐしていきたいと思います。今までの話からは、実はいい企業ほど特定の地域にはあまりこだわらないということがわかりました。別セッションで三木谷(浩史・楽天株式会社 代表取締役会長兼社長)さんから、「日本、日本という必要はあまりないのではないか」という問題提起がありましたね。星野さんの話にもこれと少し共通する部分がありました。軽井沢の町がどうこうという以前に、自分の企業が強くならなくてはいけない。佐藤さんの話も同様で、地域以前に、その会社をとにかくどうするのか。地元の人に助けてもらうということよりも、会社をなんとか再生できる人に来てやってもらう。こうした経済の世界の原則は、とても分かりやすいですね。

その一方で、逢坂さんの先ほどの言葉で印象的だったのが、「国がなくなっても地域は残る」ということです。人はそこに住み続ける。ここにもう一つ大事な要素がある。住みたいところに住むということが私はとても大事なことだと思う。プライドを持ってそこに住む。特に「そこに住みたいのに住めなくなって、よそに行かなくてはいけない」という悲しい状況を防ぐのが大事だと思うのです。

地域の状況が今どうなっているのか。私自身がこれまで全国いろんなところを歩き、何が問題で、何が地域格差という言葉に結びつくのか考えてきました。それをご紹介し、その問題が地元の企業を強くすることとどう関係するのか議論したいと思います。

「地域の疲弊」という言葉をよく聞きます。シャッター通りや休耕田などがテレビに映る。そうなった原因を私は「四点セット」と呼んでいます。一つは国からの補助金が激減したこと。二つ目は公共事業が半減したこと。三つ目には企業に誘致があまりできなくなったこと。これは有力企業が中国などに投資を移したためです。四つ目が米など農産物の値段の下落です。最後のよりどころの米作も収益が上がらなくなった。これらのせいで従来入っていたはずのお金が地域に入ってこなくなった。

地方と中央の間の「仕送り論」というのがあります。今までは地方から農産物と優秀な子供たちを都会に出して、彼らがトヨタやソニーに勤め税金を払って、それが補助金になって地元に戻ってきた。この循環で世の中がうまく回っていた。しかし、この四つも機能しなくなってきた。そこで次にはどうするのかというわけです。

今後はどこから地域にお金が来るのか。高収益の企業ほどグローバル、つまり国内よりも外国に投資するようになっている。国内に残っているお金は個人金融資産の1500兆円だけです。負債もありますから、実際は1000兆円を下回ると思いますがとにかく都会の富裕層の個人のお金をどうやって地域に持ってくるのかです。あるいは都会の人材にいかに地方に来ていただくのかが課題となってくる。

そういう意味では、都会の富裕層のお金が地方に入ってくる装置として観光、旅館・ホテルは大切です。星野さんは、地域経済、旅館・ホテル業、あるいはその再生の関係について、どのようにご覧になっていますか。

補助金が続けば、市場原理に反し生き残る施設が増えるだけ(星野)

星野:難しい課題ですけれども、観光はたしかに地方に都会からお金を移していく機能を果たしています。世界の中での日本の観光の特徴をお話ししましょう。日本の国内観光市場は、実は22兆円くらいあります。いま海外からの観光客は年間700万〜800万人前後で約1.6兆円です。これを3倍にするというふうに、前原さんが話していましたので4.5兆、まあ5兆円ぐらいになりますよね。しかし、観光大国といわれる、5兆円規模、海外からの観光客が毎年3000万人近い海外からの観光客が訪れるインバウンド体制になったところで、国内の需要の21兆円は、まだ莫大な市場であるわけです。ですから、「東名大福」と呼んでいますが、日本の場合はどれだけ海外からの観光客を増やしたとしても、当面は東京・名古屋・大阪・福岡からの観光需要が、とても大きい。こうした人たちの需要を、いかに地方で取っていけるかが大事なんですね。

観光産業の需要は、自動車産業の半分ほどです。今の時代にこれだけの需要があるにもかかわらず、なぜ観光業界はやや疲弊した雰囲気になっているのでしょうか。実は私たちは需要不足で苦しんでいるわけではないのです。生産性が低くて苦しんでいる、つまり供給過剰の状態が、ずっと維持されているんです。それはなぜかというと、実は淘汰されるべき企業が、補助金によって淘汰されずに、に生き残っているからなのです。

たとえば我々は軽井沢で、温泉施設を経営していたんですけれども、施設の競合を調査すると、近隣の市町村が経営している温浴施設だということがわかります。自治体が経営している温浴施設が、私たちの競合なんですね。スキー場も同様です。私たちが圧倒的に集客して、広告予算を取ってブランドをつくっているのに、市町村が経営している第3セクターの3万人〜6万人くらい集まるスキー場がなぜか無数にあるんです。通常の会計のP/Lを出すと、大赤字で完全に淘汰されていいはずのものが、赤字の分だけなぜか補助金が入ってくるので、市場原理では淘汰されるはずの施設が生き残る。これは大きな問題だと思いますね。観光を元気にする、つまりいいサービスを安く提供して世界に誇れるレベルにできるはずなんだけれども、淘汰されるべきところが淘汰されないために、競争力がついてこない。地域再生という名のもとに、公的なお金が、組織を生き残らせるところまで拠出されているところが問題だと思います。

地域の人材不足を解消する新しい方法を提案します(佐藤)

佐藤:お金の問題に加え、我々の再生の場合においても、いわゆる「人の問題」があります。再生を始める前には当然のことながら地方の中堅企業の経営者とじっくり話をします。単にその経営者に力量がなかったからダメだったのかといえば、全てがそうとは限りません。経営者の叫びには大きなものがあります。過去いろいろなことをやってきましたが、優秀な経営者は、地方でマーケットがないからとか、あまりそういうことを口にしません。ただどうしても一つだけ解決できなかったのは、人がいなかったことだと言われます。すなわち選ぶ人材、選択肢がない中でも、マーケットは動いているわけですね。それはある意味、東京の大企業ならば場合によってはもっと活発に動いているかもしれないですけれども、経営者の共通認識として、原則としてマーケットはみんな平等であり、ただそこにおいて人材の選択肢がなかったら、計画を変えていかなければならないというのがあります。もし、人がいなければチェック機能がなくなり、ものを決める人が一人になる。ひいては失敗の確率が増すというわけです。

人材については、大都市集中が続いています。つい先月見た毎年出る就職希望のランキングによると、北海道から九州まで大学3年生3〜4000人に希望を取ったところ、上位100社のうち東京都が74社でした。ほとんどは大都市圏で、大阪や愛知を入れると94%です。今後30年、40年は働こうと思っている全国の学生は、東京の方を向いているんです。動物は顔が向いているほうにしか進みませんので、必ず何らかの手段をもってそちらに集まろうとする。この傾向を変えない限り、地方企業の事実的再生というのは非常に難しく、ものすごく後れを取った状態での経営になります。経営者全員がスーパーマンでありませんから。

皆さんや逢坂先生にもご意見をいただきたいんですけれども、徹底して地方へ人を戻す手法を取るべき時期に来ているのではないかと私は思っています。これも実は何十年も行われていることでもあります。40年ほど前の日本列島改造論から、総じて同じことが書かれてます。すなわち、策は全部、出尽くしているんです。問題は、やるかやらないか。やる場合には、いい意味でものすごい強制力をもったものにする必要があります。

ここで私はあえて皆さんと議論がしやすいように、大風呂敷を広げてみます。法人税減税の議論がされていますその善し悪しの判断はここではしませんが、仮に法人税減税で競争力が上がることを是としてみます。いま言ったようにほとんどの学生が行きたいと思っている会社が東京にあるわけですが、その会社の本社および事業所を地方に移転した場合には法人税を単純に減税するだけではなく、極端に言うと今後5年間の法人税はタダにしてみるのです。

大企業が地方に移って、6年目からは法人税の財源を地方に移すのです。5年目までは法人税が無料、各地域が6年目以降のルールを決めるようにします。そうなったら、どの地域も必死に考えて、今後何十年間のアイデアを持たない限り、大企業はその地域を移転先に選ばない。6年目以降、その地方はどういう税制をもって、どうお金を使って、どうやってそういう会社において、さらに経済を活性化させるかというアイデアの責任を、地方側に持たせるのです。法人税を5年間タダにするといったら、今の日本の高い法人税だったら、普通の経営者が移転を考えないはずがないと思います。

また東京を本社から地方に移した場合、言うまでもなく住宅費用も極端に下がります。今の大企業の従業員の人件費の設定は、約30年の住宅ローンに耐えられるというレベルになっています。住宅費用が下がることで人件費を下げることができ、内部留保が貯まることになるはずです。

いろいろな方にこれを話しました。全員に反対されました。すごく嫌なことなのだと思います。ただ、「日本は沈没する」とか、「国債が暴落する」という言葉が連呼されている中においては、ある意味でそれくらいの大転換をしなければならないでしょう。別に会社を潰せと言っているわけではなく、法人税を下げるという話なので、これくらいの思い切った判断がないと、なかなか難しいと思います。地方の再生も、今のままでは人がいないから局所で単独で戦うには限界があるのです。これが私の意見です。

「道州制」の日本における意義とは(上山)

上山:今の法人税の話は、やはり地域ごとに競争するというのがミソですね。そういう意味では、ここ数年、活発に議論されてきた「道州制」論にも通じるものがあります。あれは都道府県の合併や中央省庁の解体という意図があった。しかもいろんな人がいろんな解釈をしていて、形がはっきりしなかった。しかし、日本全体の閉塞感を打破しようというときに、道州制は欠かせないテーマです。

道州制の議論の意味は三つほどあります。一つは、巨大なものの改革は国鉄改革に学ぼうという単純な話です。大きすぎてどうにもならなくなったものは、小さく割ってしまえばいいじゃないか、というものです。行政もサービス産業ですから、各地域の競合状況に合わせた事業形態にすればいい。JR九州とJR北海道は補助金で補いながら、持続可能な経営に移していく。都市部は民間企業と競争をしてやっていく。貨物はまた別にする。これは非常に大きな改革だったと思います。道州制を求める声の背景の一つには、大きいものは分割民営化するという、生活の知恵があった。

もう一つは、とにかく縦割りや官僚がけしからん、あるいは中央省庁がすべて統制している戦時下経済の延長がいけないという考え方です。この仕組みを政治的に壊そうとしてもなかなかできない。それで、この際、地域という軸のほうから絡め取ってしまおうというものです。「道州制=構造改革の突破口」論という面があった。

三つ目は、外国を見たとき、EUは国境を潰してうまく行っている感じがする。アメリカは連邦制である、日本も全国一律にこだわる必要はないというものです。欧米崇拝的なところもありますけれども、モデルをちょっと変えてみたらどうかという素朴な議論です。道州制の話はいわば練習問題です。政権交代以降、あまり話題になっていないように思いますが、私は依然大きなテーマだと思う。

ちなみに「一国多制度」という考え方も大事です。基本的に我が国の仕組みは全国一律制です。しかも、遅れる人がいれば必ず助ける護送船団方式になっている。だからこれまで、地方も発展し、全国均一の日本ができてきた。しかし、この際日本を一回、バラしてみたらどうか、という議論が出てきている。

これからの日本の地域に必要なのは「多様性」と「国際競争力」(逢坂)

逢坂:今の上山さんのお話に「一国多制度」という言葉が出てきました。これから日本の地域を考える上でのキーワードは、やはり「多様性」だと思います。人口360万を超える横浜市から、人口170人の青ヶ島村まで面倒をみるのが、日本の現実ですね。そこをある一定の人口規模や、あるいはある一定の面積で括ってみたところで、均質な自治にはならないわけですね。だからどうやってそこに多様性を持たせるかということが、これからの大きな課題だと思います。

日本のように、国があって都道府県があって市町村があって、国土のすべてに基礎自治体がジクソーパズルのピースのようにはまっている国というのは、実は珍しいのです。しかもどこを切り取っても3層になっている国もあまりありません。場所によっては5層だったり6層だったり、あるいは2層だったりする国もあるわけです。そういうことを考えていくと、これからの国家の体制のあり方というのは、従来の概念をとり払ってやっていかなければならないと思っています。

それからもう一つのポイントは、「広域ブロックとしての地域」。ただし、道州制という言葉がまさにそうなんですけれども、ちょっと呪文のような言葉に日本人は踊らされ過ぎですね。道州制っていったい何かという問いに答えられる人は、実は誰もいないはず。誰もいないのに、道州制が実現すれば国家が良くなると言っているのは、私に言わせると茶番でしかない。広域ブロックとしての地域とは、たとえば東北地方全体で社会インフラの整備を考えるといったことです。今は47の都道府県それぞれに空港が必要だとか、港が必要だといっていますから、社会インフラの規模がどうしてもバラバラになりがちです。そのため国際競争に勝てるような施設が、少ないわけですよ。国際競争力を持つインフラを実現するために、大きなブロックで経済を考えるということは、非常に意義があると思っています。

そういう観点から民主党政権では、上からの押し付けの道州制はやめて、地域自らが、ここは連合しなければならないというような、実際に必要がある場合については、大きな括りというものを認めてもいいのではないかと考えています。道州制の話をしますと時間が足りなくなりますので、このあたりにしておきたいと思います。

先ほど、観光の話で星野さんがおっしゃっていたことで、気になっていることがいくつかあります。一つは冒頭の発言と同じなんですが、必ずしも一つの企業だけでその地域をリードできるというものではないということですね。多様な企業があることが、その観光地の幅や深さをつくっているわけですが、多様な企業があればあるほど、その地域がどうあるべきかというコンセプトを明確にするということがなければ、ある一定のグレードをもった観光地にはなりません。こうしたことを、十分に考えておく必要があると思います。

それから二つ目に、呪文のような言葉に日本人は惑わされることが多いのですが、「観光協会」なるものの存在です。これがまったく機能していないんですね。公的なお金が入ったりしているので、あたかも機能しているかのようにみんなが思っているわけです。本当に地域のことを考えるのであれば、観光協会は全部解体して、もっと機能するものに変えたほうがいい。その時は公的なお金を使うのではなくて、観光協会を全部民営化するぐらいのことはやってもいいのではないかと思います。

三つ目に、立ちいかなくなった施設をゾンビとして生き残らせるために、公的なお金が入っているというお話。まったく同感です。最後に話そうと思っているんですが、ガバメント(政府)とマーケット(市場)とコミュニティ(地域)、この三つの役割が日本では十分に議論されていないのです。本来は市場がやらなければならないのに政府がやったり、本当は市場がやってはいけないことなのに政府が手を出していなかったり、これは余程考えなければならない問題だと思います。

国の援助はいらない、ただ自由が欲しいだけです(星野)

上山:語れば語るほど様々な課題がどんどん湧いてくるわけですが、地域を元気にする、あるいは地域の企業を再生して、雇用の持続を可能にする、そのための民間の努力と言ったとき、政府や行政のあり方も含めて何が障害になるのでしょうか。ここで一度まとめたいと思います。

星野さんからは、とにかく企業が頑張ればいいんだけれども、役所の金、行政の金が生産性の低いセクターに補助金として行ってしまう、あるいは、やらなくてもいいのに役所が意味のない各種施設をつくって民業を圧迫する——悪意はないけれど役所が介入することの問題という話が出てきました。他になくしてほしい規制であるとか、逆に役所にこういうことをもっとやってほしいというようなことは、何かありますでしょうか。

星野:規制の話だったら2時間ぐらいかかりますけれども。前原誠司さんの話を聞いていただいて、皆さんの中である一定方向の理解があったと思うんですけれども、あれを裏返して考えてみます。前原さんはこう言ったんですね。「日本全国にある港湾の中で、国が競争力をつける部分に集中します」。「空港も98ある中で、日本のハブ空港になる部分に集中します」と。「これからは、選択と集中だ」と言ったんですよ。これはどういうことかというと、選択されない地域、集中されない地域がたくさん出てくるということです。

個人的には日本全国のことを考えれば、国に競争力をつけてほしいので、選択と集中は理解します。しかし僕が事業をしている地域というのは、ほとんど選択も集中もされない場所なんですね。いま前原さんたちにも話をしているのは、もう公共工事もいらないし、選択されないのもよくわかっているし、集中されないのもよくわかっている。その代わり、自由にしてくれということです。自由が欲しいのです。

「優先順位が低く世界のトップにはなれない地域には何も出ませんよ」と言われる地域にも、現在非常にうるさいルールだけはたくさんあるんです。たとえば観光の場合、「着地型観光」という、旅の目的地(到着地)が企画・集客する旅行が昔から叫ばれています。国内や外国から来たお客様に、釧路湿原に行ってもらって泊まってもらい、阿寒湖、知床に行ってもらってから帰ってもらおうとします。地域のバス会社もあればタクシー会社もあるし、宿もあれば、みんな知り合いなわけですよ。着地型観光をやる人たちがその地域にいるわけです。ところが実はこうした事業をするには、旅行業法の免許がいるという話になってくるわけです。現地では企画できないから、東京に戻って作り直さなければならないという法律になっているわけですね。

それからスキー場も同様です。指定されたゲレンデ以外の山は、国有林なのに入ってはいけない。ですからヘリコプタースキーを飛ばそうとしても、ちょうどよい地点に降りられる場所があるのに、小さなな木が数本生えているだけで、この木にダメージを与えてはいけないということで、その付近にはヘリコプターが降りられないというような話が、たいへん多くあるわけですよね。もし自由にやらせてもらえれば、我々は国から選択されない地域でも、十分に自分たちで客を集めることができるし、それだけの資源はあると思っています。

地域の自己責任で公共事業を担わせたら、無駄なものはできない(上山)

上山:最近、公共事業の選択と集中の話がよく出ますが、私は国にそもそも選択と集中をする能力があるのか疑問を持っています。私はたまたま新潟市の都市政策研究所長を務め、大阪府の改革にも携わっています。それで、大阪と新潟で港湾について研究する機会がありました。この経験を通してわかったのは、これからは日本海がとても大事だということです。国際コンテナは、津軽海峡、日本海を通って、釜山、上海に行っているからです。特に釜山とどのように繋げるのかが重要です。例えば北前船というのがありました。青森から順番に日本海の各町を通って、下関を回って大阪の米市場まで入ってくる。CO2問題も考慮すると、これからは新北前船のようなものが要る。あるいは、大陸との行き来でコストが安くて、毎日ピストン輸送できるフェリーの港が日本海側にたくさん必要になる。こうした考え方は選択と集中の俎上では出てこない。むしろ小さいものをもっと分散してつくる。これにはたいしてお金が掛かりません。

港湾をしっかりやると同時に、鉄道を整備することも大切になってきます。現在の鉄道網は日本海側から京都・大阪までの地域が、まだ空いている。表日本にかわってここにお金を投入して貨物輸送の鉄道を整備すれば、CO2が激減します。そして、鉄道で敦賀あたりから大阪まで運び、そこから先は新北前船となる。

この種の議論はしっかりとシミュレーションしないといけないわけですけれども、霞ヶ関に行くとまったく通用しないというか、土地勘がなくてイメージが湧かない。ところが各地域が活性化して元気になることが日本の自立だすれば、こうしたことが政策立案なのです。

空港問題も同じです。実はオールジャパン単位で選択と集中を考えるべき案件は、東京・大阪の国際空港の2,3個だけです。残りはそもそも国が考えるのが無理です。全国100もあるというが、地域に考えさせれば、もともとそんなに空港はつくらなかった。

地方側は自己責任で空港をつくりなさい、国から補助金は出ません、そのかわり全て自由ですよと言われれば、地域は無駄な公共事業なんかやらない。そういう意味でいうと、ものを考えるのに、適切な単位が「日本国」ではないという事業は多い。それぞれの分野から見ていくとどうでしょうか。観光は今の話だと、かなりローカルな感じですけれども、福祉や教育などいろいろ見ていくと、地域という単位で考えたほうがいいものがかなり多いんじゃないでしょうか。

逢坂:まったくその通りですね。ですから、たとえば福祉サービス、現物給付という言い方を我々はするんですけども、実際に体を使って人間がサービスを提供しなければならないものは、地域の判断で独自にグレードを決めてやったほうが絶対、効率的なんですよ。ただし全員に同じように、稚内に住んでいようが沖縄にいようが同じように配らなければいけないものについては、中央政府が一律の基準でやったほうが効率化するんです。その使い分けというのが、これからは必須でしょう。いま鳩山総理が、とにかく力を入れたいというのはそこなんですよ。それで社会を変えたいというわけです。

上山:それは「地域主権が1丁目1番地」という、あの言葉に表われているんですか。

逢坂:そうです。実は私がその担当の総理補佐官なんです。

市町村には無理だからと任せなければ、いつになってもダメなままです(逢坂)

上山:ちなみに突っ込んでお聞きしてしまいますが、仕分けのときに分権仕分けみたいなことはできないんですか。これは地方に任せると。

逢坂:それはできると思いますね。もうすでに原口(一博)総務大臣が発表しています。特に国の出先機関の事務事業については、2カ月後ぐらいをめどに仕分けをやったほうがいいんじゃないかという話を、先週の各種委員会でも喋っています。枝野(幸男)行政刷新担当大臣とも、調整しているところです。

上山:分野別でもできないんですか。教育とか観光とかですね。

逢坂:それもやれると思います。

星野:地方分権を地域に任せるときに、都道府県に任せようとしているのか、市町村に任せようとしているのか、どちらのレベルですか。

逢坂:それは、それぞれの地域で選択をしていただいて構わないと思います。基本的には我々の考え方は市町村です。他の制度原理の観点でいうと、なるべく国民に近いところでやったほうがいいんですね。しかし先ほども言った通り、全国の基礎自治体の規模などにずいぶんと差がありますよね。ですから、基本的には市町村だけれども、都道府県と連携してやったほうがいいという場合には、それは地域でご判断くださいということです。

星野:なるほど。皆さんと一緒に地方分権と地域分権の話をすると、すごくいい概念だと思うんですよね。現場のことは現場で考えたほうがいいし、そうすれば無駄なことはしないだろうと思うんです。ただ私の経験の中では、市町村の役場というのは、今までそういう経営判断とか内容の判断をあまりしてこなかった組織だったんですよ。彼らは様々な利害関係の中にいて、自ら適切な判断をするのは難しいのではないかというのが、僕の最大の懸念です。やはり役場に優秀な人材を増やす事が先決だと思います。

各市町村、特に町村レベルの役場で分からないことも、県に行くと、ちゃんと法律や条例やルールを理解していて、アドバイスしてもらえる。またそれよりも国に行ったほうが、参考になる意見をくれるんですよ。ですから、理想論としては市町村に任せるというのはいいんですけれども、いきなりこれを任せると、僕は大混乱になると思っているんですね。

その最大の実験として、竹下内閣のときに、「ふるさと創生」というのがありましたよね。ふるさと創生で、1億円を全市町村に配って、自由に使わせた。そうしたらいったい何ができたかというと、金のこけしとか、豪華なトイレとか、温泉施設とか、訳の分からないものができてしまいました。あれをもし国がコントロールしていたら、そういう無駄なことはしなかったと思うんですね。

逢坂:実は私自身、嫌いだった政治家になったきっかけは、「ふるさと創生」だったんです。あの体験があったので、これは日本が大変なことになると。こんなことしていられない。公務員が嫌いだとか言っていられない。あれは私にしてみれば、壮大な社会実験だったのです。政策決定プロセスを公開させたわけです。ところがこれが最悪だったわけです。

星野:いきなり、地域主権だと言って財源を渡して、これからはあなたが自由に判断してくださいと言った途端に、「ふるさと創生」のような状態が永遠に続くんのではないでしょうか。全体的には市町村はそういうレベルじゃないかと僕は思っているんです。

逢坂:それは否定しないんですが、これは鶏が先か卵が先かというようなところがあって、やらせないとやはりできない。できないからと言ってやらせないでいれば、いつまで経ってもダメなのです。

それからもう一つ変わってきていることがあって、市町村が人材に目をつけ始めて、人材のトレーニングに相当投資をしています。私が政治の道の第一歩目、ニセコの町長になろうと思ったのも、人材に投資するためでした。3期、町長を務めた結果、あの小さな町の役所の職員が、大学の先生になって講義をしたりできるぐらいになるわけですよ。これは10年、15年やれば、ある一定程度は行くんですよ。だから、そんなに私は心配していません。

星野:お金を自由に使ってもらうのは10年、15年やってからでもいいんじゃないか、という議論になりますけれど。

日本は長年の設備投資の回収をすべき時期に来ている(佐藤)

上山:ちょっと会場の皆さんのご質問とかご意見もお聞きしたいと思います。特に地域で頑張っておられる方とか、いかがですか。

会場: 15年前から北海道に住んでいますが、仕事が東京でもあるので、毎週東京に通う生活をしています。両方を見比べると、北海道が典型的な地域かどうかは別として、特に札幌は北海道の中で一極集中みたいなところがあって、あまり偉そうなことは言えないなと思いながらも、やっぱり東京と比べたときに、北海道のほうがはるかに豊かなんですね。マスコミなんかでは「北海道は辛い」と言われるんですけれども、ウチの社員を見ていても、全然辛そうじゃない。生活のコストが全然違う。ちなみに僕の場合はどういう計算かというと、1回4万円として毎週往復しますと、1年で50回往復ですから200万円です。10年間で2,000万円。これで家のコストのバランスが取れるかどうか。余裕でできると思ったんですね。北海道のほうが安い。

そんなことを考えると、もっと人が来ていいのにどうして来ないんだろうと思います。僕みたいに、北海道に縁もゆかりもなかったのに来て住んでいて、北海道で生まれ育った人が出ていくというのは、ちょっと寂しいなと思います。自分が言うのもなんですが、そういう人たちが塊になって起爆剤としての機能を果たすと、ある程度のことはできるんじゃないか思います。

もう一つは、日本の社会に向かっていってもあまり常識が崩れないので、むしろ一気に海外に向かっていくことです。たとえば企業誘致を、中国の会社やシンガポールの会社にはたらきかけてみるというのがいいんじゃないか。そういうことを考えながら、こちらで過ごしています。

上山:外国企業は札幌に好んで来たりしていますよね。東京にこだわらない企業を呼ぶというのは、一つの手だと思いますね。

会場:一番面白かったのは、佐藤さんの本社を地方に移す秘策です。ああいう話をもっとするべきではないかと思っています。このまま地方分権しても、人材的にも力の面でも駄目なので、それをどうしていくか、本当に考えなければなりません。先ほどの、法人税を5年間タダにするとか、そういう提言をもっとしたいと思っています。一つは、大学を東京からなくして地方に持っていくとか、そういう思い切ったことをやっていくとか。あるいは消費税も、東京だけ20%にして地方は5%とかゼロにするとかです。その前に東京集中がやっぱりいいという意見もあるでしょうし、一方でただあまりにもこれだけ集中すると生産性も良くないし、など、もっと大局的に日本をどうしていくかという話をしたほうがいいのではないでしょうか。現場では僕も町おこし、村おこしの活動に関わったり取材したりしていますけれども、今のような話はゴロゴロあります。根本的にドラスティックに何かを提案していくべきだと思います。

佐藤:有り難うございます。5年間法人税タダというとできない理由は山のようにあって、その中でもやっていかない限り世直しはできません。当然、それは1年、2年で済む話ではないですし、一極集中を30〜40年かけて東京に呼び込んだのであれば、戻すのにはやっぱりそのくらいの時間はかかるという覚悟が必要です。

先ほど、飛行場の話がありましたけれども、地方が必要に応じて決めるべきというのは、たしかにその通りだと思います。田中角栄氏の『列島改造論』を今更ながら読んでみると、そういうことが書いてあるんです。結果的には失敗しているんですけれども、でも日本はおそらく今の借金や税収からすると、明らかに私がよく投資している再生企業と同じ状態になっているんです。再生企業以下かもしれません。

しかし過去のことをあまり悔やんでもしょうがないわけです。私がいつも企業を見るときは、すでに設備投資をしてしまった後です。日本も同様で、戦後のグランドデザインによって出来上がった飛行場は98。ものの見事にありとあらゆるところに、高速道路を引きました。新幹線も引きました。おそらくこのぐらいの国の規模で、これだけのインフラが整備されている国は、全世界でも稀なんじゃないか。であれば、絶対に設備投資したものの活用、回収に入るべきなんですね。すなわちそれは、大都市圏にある大企業を、別の県に移すこと。『列島改造論』にはそれが書いてあるんですけれども、自動車道路が整備されたら、みんな東京に遊びに来ちゃったんですね。そして東京に住んで、そのまま住みついて地価はどんどん上がってきました。

田中角栄さんは、地方にも人を戻そうと言っていたのにできなかったのです。インフラはできている。設備投資を何十年もかけてしてきたので、回収に入る。でも先ほどの話のように、北海道にはなかなか人は来てくれない。そうであれば、ちょっと行き過ぎかもしれませんけれども、ものすごいインセンティブをつけて、地方移転をした人に対しては法人税を免除しますよというようなこと、反対の理由は沢山あることをやっていかない限り、日本という国のバランスシートのバランスは取れないでしょう。

アイデアは山ほどある、問題はいかに実現するか(上山)

上山:いい政策のアイデアって山ほどあるのです。国政だけじゃなくて地方についても名古屋・大阪の地下鉄を民営化しろとか、水道局を株式会社にするとこれだけキャッシュが出るとかいくらでもアイデアがある。そして各地域に行くと、ありとあらゆる政治家の人たちが、とても正しいことを言っている。だけど、やっぱり実現できないですね。

それは国、全国一律というその護送船団の枠組みから、針一つの穴でも出てはいけないという構図になっているからなのです。この21世紀の幕藩体制、共産主義体制を打破するにはどこから攻めればいいのか。江戸時代には、薩摩・長州が密貿易しながら小遣いを稼いで武器を買って、まさに薩長連合を結んで革命を起こしたわけです。それぐらいのエネルギーで、私は道州制とか一国多制度を議論しないといけないと思います。今の中央政府にお願いなんかしていてもダメですしね。政府に対する提言なんか私は自己満足でしかないように思います。

だから、具体的にどうすればいいのか。この中から5人ぐらい知事選挙に出て知事連合をつくるとか、あるいは民主党の中でも革命を起こしてもらいたい。そのときのテーゼに地域主義というのを、柱として掲げてもらう。現在は、親米・反米という軸ではなく、それから低福祉低負担、高福祉高負担という軸でもない。みんな中福祉中負担がいいと思っていますし、親米以外、あり得ません。そうすると残ってくる軸というのは、地域で自由にさせるかさせないか。これだと思うのです。

そういう意味では地域主義や一国多制度を前提にする政党をつくるぐらいの突破力がないとダメです。

会場:いくら国内の中で企業を右から左に動かす、人材を右から左に動かす、あるいは予算を右から左に動かすということをしても、パイが足りないと言っているときには解決しないと思います。一番大事なのは観光でやられているように、まさに地域という単位でいかに世界から金と人と企業を呼び込むかという話じゃないでしょうか。

そのために何をするかというHowは、私には分かりません。けれども、それをそれぞれの地域に考えさせて、うまくいけばどんどん伸びていくという成功例をつくることができるようにしていくという方向に考えないと、未来が描けないような気がしました。

上山:国内だけでは解けないかもしれないという意見ですね。では最後にもうお一人。

会場:いろんなアイデアばかりではダメだという話があったんですけれども、1980年代のアメリカの閉塞感の打破は、州知事が積極的に誘致をはたらきかけた結果でしたよね。あの行動力がどうしてこの国にないのかということを、本当に不思議に思っています。クリントン大統領だって何回も来て、繰り返し、繰り返し、誘致しました。アイデアに関しては、僕は佐藤さんの意見に全面的に賛成します。だけど個別的には人や物、金が来ない限り何もないわけで、そういったことを一人ひとりがやっていくしかないです。その中で政府がやるべきことは、やはりインセンティブづくりだと思います。補助金はもう出さないという時代になって、知事は自分たちでやらなければならなくなったので、インセンティブづくりをして、自然に人や物、金が流れる形をつくる必要がある。そのインセンティブづくりだけは、政府の役目なんじゃないかなと思います。

上山:今日は活発な議論をどうも有り難うございました。

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