JBpress・川嶋諭編集長×アルファブロガー・徳力基彦氏×週刊ダイヤモンド・藤井一副編集長「21世紀型メディアをつくる!」 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

メディア崩壊——。そんな見出しが躍る雑誌を見かけることが多くなった。不景気による広告収入の減少や、ネット化の中による読者の紙離れ。逆風の中歩む既存メディアは、新しいビジネスモデルを創れず苦しむ。一方でツイッターなどソーシャルメディアの登場は、新たなメディアの在り方さえ感じさせる。これからメディアはどこへ向かい、権力監視と世論形成の機能を担う大文字の「ジャーナリズム」は、ネット環境下でどのような形で花開くのか。

日経ビジネスで20年以上記者を務め、オンラインメディア「JBpress」を立ち上げた川嶋諭氏は「メディアがネット社会に対応して、質の高いコンテンツを供給していかなければ、日本人の知的レベルが落ちる」と国民の資産としてのコンテンツの価値を指摘し、「既存メディアは権力監視という機能を持つが、メディアの監視はオンラインメディアが担うべき。既存メディアからこぼれおちる情報もすくいあげる必要がある」と話した。

アルファブロガーでネットマーケティング会社の代表も務める徳力基彦氏は「日本は1日のニュースに一喜一憂する。ニュースの裏側を知ろうとしない」といびつな日本のメディア環境を指摘。「ツイッターやブログなど新たなプラットフォームが生まれ、メディアに対してカウンターの意見が言えるようになった。マスメディアとソーシャルメディアのうねりが重なり合って、より理性的で、より建設的な議論の流れが創られる可能性は高い」と既存メディアの一定の役割を認めながら、ソーシャルメディアも含めた新しいエコシステムが生まれることに期待を寄せる。

週刊ダイヤモンドの藤井一副編集長は「情報を得て、仮説を立て、検証し、取材を重ねてそれを修正し、記事を書くプロフェッショナル」とプロフェッショナルとしてのジャーナリストの価値を強調。「朝日新聞や週刊ダイヤモンドがツイッターやブログで情報発信するよりも、取材の一連のプロセスにツイッタ—やブログを利用することが一番近道」とあくまで既存メディアを中心としたジャーナリズムのあり方を主張した。

様々なパラダイムシフトが押し寄せ、歴史的転換点を迎えているメディア業界。混迷深まる中、明日の健全なジャーナリズムを担おうとするパネリストの気概に、新たな時代の胎動を感じた。

新時代のメディアを志向するパネリストたち

川上:いろいろな方から「今の日本のメディアは問題だ」という指摘を受けていて、私もメディア出身者として、一度しっかり議論したいと思っていました。今回こういう機会を頂いたので、活発に議論していきましょう。早速、パネリストの方から自己紹介がてら、これまでどんなことをしてきたかお話をいただきます。

川嶋:私はもともと「日経ビジネス」などを発行している日経BP社という会社にいました。そこで川上君と一緒に働いたことがあります。元々は「日経メカニカル」という機械系の雑誌からスタートしたんですけれども、その後、日経ビジネスの記者などを20年余りやっていました。

そのころはまだ日本のメディアも元気でした。日経ビジネスもほかの雑誌の先手を打って紙からネットへ変えようという先進的な動きがあり、幾人かで「日経ビジネスオンライン」を立ち上げました。景気の良い時期だったので、採算は初年度でほぼトントン、2年目は十分利益の出る媒体になり、成功を遂げました。

そんな折に、紙媒体に戻らなければならない状況になったのですが、「オンラインビジネスをもっとやってみたい」という気持ちが強くなったときだったので、思い切って日経ビジネスを飛び出して、2年前に日本ビジネスプレスを設立。そして1年半前に「JBpress」というウェブ媒体を立ち上げました。日経ビジネスで行っていたことに加えて、長年メディアに携わってきた中で、何か足りないものがあると感じたことを実現するのが立ち上げの趣旨です。

徳力:私はメディアのプロでも何でもないので、プロに挟まれてとても緊張しています。もともとNTTで法人営業やIRに携わっていましたが、いろいろあって勢いで会社を飛び出しました。その後、コンサルティングファームを経て、アリエル・ネットワークというソフトウェア会社に転職して、マーケティングを担当しました。マーケティングの経験もないのに、10人しかいないベンチャー企業でマーケティングを担ったので、めちゃくちゃ苦労しました。

本当にここでクビを切られたら自分の人生が終わるかもしれないというタイミングで、たまたまブログを書き始めました。ブログによっていろいろな人との出会いがあったり、仕事の考え方ががらりと変わり、何とか生き残ることができました。その関係で、ブログみたいなもの、今はソーシャルメディアという用語で括られますが、個人でもメディアを持てる時代になったことを、身をもって実感しました。

ブログを書いていたおかげで、コラム執筆の仕事が舞い込んだり、本を出せるようになりました。それまで私のイメージでは、メディアというものはメディア企業に入った人たちがやるもので、一般人でそういうことができるとしたら、社長になってから引退して著書を出すというイメージしかありませんでした。自分のような経験がほとんどない人間が、メディアに登場できることにはまって、ブログにかなり傾倒しました。

メディアの素人ながら、メディアとは何だろうということを模索していって、今はブログを使ったマーケティングを行う会社で代表を務めています。この会社にも実は、最初はブロガーの1人として手伝い、なぜか社長になったという、数奇な人生です。今日はメディアのディスカッションなので、私自身は皆さんの話を聞けることを楽しみにしています。どちらかというとメディアの素人代表、ソーシャルメディア側の利用者代表として、議論に参加できればと思っています。

藤井:私は1987年にダイヤモンド社に入社しました。11カ月だけ書店営業、取次営業を経験しましたが、それ以外は「週刊ダイヤモンド」の編集に携わっています。週刊ダイヤモンドは日経ビジネスの競合雑誌でもありますが、ちょっと違う点があります。日経ビジネスは非常に予約購読が強く、自宅に届けてもらって読む雑誌ですが、週刊ダイヤモンドはそこまで予約が強くなく、会社に届けてもらって、会社の皆さんで回覧して読む雑誌なんです。

回覧率が非常に高いので、12万部しか売れてないんですが、実質的には30万から40万人ぐらいに読まれている雑誌であろうと思っています。そこで入社以来23年間、いろいろな業種を担当してきました、中でも通信回りと金融回りが長いです。今年の1月に、ツイッター特集を担当しました。この特集の反響が大きく、今回も呼んでいただいたという経緯です。

川上:藤井さんは最近転機があったんですよね。

藤井:ちょっと事情がありまして、会社を退社することになりました。まだ転職先が決まってないので、今日この後、身の振り方についていい話があれば、是非教えていただきたいと思います(会場笑)。

川上:なぜ我々がメディアに関する話をしなければいけないか。メディアは何がどう問題なのか、問題意識についてまず伺いたいと思います。

藤井:問題はこのセッションのタイトルに象徴されていますよね。「21世紀型メディアをつくろう!メディア再生で僕たちができること」となっています。これは「メディアの本来の役割がどういうことか」ということに関わっている。簡単に言うと、メディアが、より良い社会を実現するためにどうあるべきか。それがいま問われていると思います。このテーマ設定をしなければならないということ自体が、既存のメディアがその役割を果たしておらず、一方でソーシャルメディアのような存在に、期待が集まっていることの証左でしょう。

川上:今のメディアがきちっと役割を果たせていないという問題意識ですね。この点でメディアからはちょっと離れている徳力さんに伺いたい。マーケティングサイドから見ていて、やはりそういう不安が一般の人たちにあるのでしょうか。

ソーシャルメディアはマスメディアを置き換える存在ではない(徳力)

徳力:マスメディアに対する不満はあるものの、個人的には、ソーシャルメディアはマスメディアを置き換えるほどの存在ではないと思います。やはりソーシャルメディア上での議論は、マスメディアに対するリアクションであることがほとんどです。ただ、今まではマスメディアからしか情報を受け取る手段がなかったので、それをただ信じるしかなかった。今は、インターネット上で、掲示板やブログなどソーシャルメディア的なもので、カウンターとしての意見が見えるようになった。「マスメディアが言っていることが本当なのか」という疑念が生まれているのは事実でしょう。

マスメディアが鳩山さんを叩くと、鳩山さんは交代してしまう。マスメディアの影響力は、今も日本では変わっていませんね。一方で、アメリカではオバマ大統領がインターネットをうまく使って選挙に勝ちました。マスメディアももちろん押さえたけれど、ソーシャルメディアも非常に重視して、理念を伝えた。マスからのトップダウンとネットからのボトムアップと双方を押さえたわけです。日本でも、トップダウンとボトムアップの双方からうねりが重なり合って、建設的、理性的な議論の流れがつくられる可能性はあると思います。

藤井:ある種のチェック機能が働いているだけで、かなり大きいと思います。マスメディアからインタビューを受けた人が、ツイッターで「俺はこんなことは言っていない」と発言できてしまうわけです。そういうことが起こると、やはり我々も気を抜くとまずいという話にはなります。これが非常に大きい。

徳力:GM(ゼネラル・モーターズ)の社長がブログをやっている理由を、「記者に対する教育だ」と言っていたんです。アメリカではGMは悪役として叩かれやすいんですね。GMの燃費の悪さを恣意的に強調するメディアがあって、それに対してブログで反論できるようになったので、記者がいい緊張感を持つようになったらしいのです。今まで私たちは反論の手段を持っていませんでしたが、メディアに対してネット上で「炎上」することで、意見が見えるような事例がたしかに出てきています。

川上:マスメディアとソーシャルメディアという言葉が出てきていますが、こちらはそれに関連したスライドです。別の会合で出したものですが、ここではソーシャルメディアの代わりにマイクロメディアという呼び方をしています。もともとマスメディアしかなかったわけですが、それに対してパーソナルメディアやマイクロメディアが出てきた。あるいはそれが集合化した形のミドルメディアがインターネットの中に出てきていて、いろんな意味でパワーを持ち始めている。

徳力さん言われたように大きなアジェンダセッティングとしての機能はありませんが、マスメディアが何か言ったことに対して、チェックしたり、反論したり、「炎上」させるといったように、カウンターパートとしての機能を持ち始めている。新しいメディアが出てくることによって、我々は何をどのように変えていかなければならないのか、お聞きしたいと思います。

マスメディアに対するチェック機能をオンラインメディアが果たしていく(川嶋)

川嶋:その前にチェック機能という話で、一つ例を紹介させてください。JBpressで一番読まれた記事は、非常に小さな記事でした。それは北海道夕張市の村上智彦医師の「なぜ私は救急患者の受け入れを拒否したのか」という記事です。自殺を図ったある男性を、救急車で村上先生のいる病院に搬送したいという要請があったのですが、村上先生が断り、男性患者が死亡したという話です。

報道は村上先生に対する批判一色となったのですが、その反論を村上先生に書いてもらいました。病院には村上先生1人しかいない。しかも予算が足りないので、緊急病院の施設もない。そんな状況で自殺を図り、助かる見込みもない人を受け入れたら、ほかの患者を診られなくなるという実情を書いてもらったところ、読者から圧倒的な支持を得ました。メディアに対するチェック機能というのは、ツイッターなどに限りません。私たちのような読者に非常に近いオンラインメディアが、そういう機能を果たしていくべきだと思います。

川上君の質問に答えると、既存のメディアからは、抜け落ちる情報がいっぱいあるということを認識しないといけない。紙媒体の場合でいえば、読売新聞が1000万部、朝日新聞が800万部、日本経済新聞が300万部発行しています。非常に巨大なメディアですが、すべての紙面がガチガチに固まってしまっている。ここで抜け落ちる情報がいっぱいあると思うんですね。それが日本のメディアの大きな問題でしょう。JBpressは既存のメディアが光を当てない点に焦点を当てています。「世界」「地方」「日本の再生」です。

一例として世界の例を上げます。本当に日本のメディアは海外の情報をきちっと伝えているのかどうか。これは日経ビジネスの時代にも非常に疑問に感じて、日経ビジネスオンラインで実験的にBusiness Weekの翻訳を始めてみたら、紙媒体よりも格段に読まれる。

なぜ紙では読まれないかというと、情報が遅いし、載せられるコンテンツが非常に少ないので選ばなければならないからです。ネットでは、日本にはない情報で、かつ日本人のためになる記事をすぐに出せる。我々はいまイギリスの「Financial Times」の記事2本と「Economist」の記事を1本出していますけれども、「翻訳しているだけじゃないか」と指摘されることが多々あります。

しかし私は、決してそうではないと思っています。私も海外の取材経験がありますが、そこでの仕事の実態は、恥ずかしながら現地の記事をまとめて日本に配信するだけでした。あまり日本の海外特派員の能力は高くありません。むしろ海外の情報をそのまま翻訳して伝えたほうがいい。

例えばギリシャの通貨危機など大きな出来事について、日本の新聞が報道する半年以上前に海外のメディアが伝えていることが多い。しかし、日本の新聞では大きく取り扱われることはない。実際にJBpressで記事配信を1年半していて、いかに日本の大きなメディアが、きちんと海外にアンテナを張っていないかということを、何度も実感してきました。

JBpressでは、海外の金融危機などに関して、国内の専門記者に書いてもらっていたんですけれども、その分野をリストラしようとしています。Financial TimesやEconomistの国際金融や世界経済の話に比べて、残念ながら日本人の分析力は遅いし弱い。海外の記事をそのままきちっと翻訳して出したほうがいい。繰り返しますが、これは紙では絶対できない。遅れてしまうし、少なくとも紙に印刷したら1週間や10日掛かってしまいます。

一方に流れがちなメディアの風潮をソーシャルメディアが変える(徳力)

川上:有難うございます。分析力という話が出たので、ここでメディアの役割を整理してみたいと思います。一般的には、新聞も雑誌も役割が一緒だと思われているかもしれませんが、メディア業界の中での認識はそうではないんです。日本とアメリカのメディア、特に皆さんが関心をお持ちのビジネスメディアを見たときに、ストレートニュース中心の経済紙の発行部数は実は日本のほうが多いんです。日本経済新聞の300万部に対して、「Wall Street Journal」は180万部で、ウェブサイトの購読者100万人を合わせても総購読者数280万人ぐらい。

一方でニュースを解釈してコメントするメディアだと、Business Weekが91万部です。これに対して日経ビジネスが30万部で、週刊ダイヤモンドが12万部。だいたい3倍ぐらいの市場規模の差があります。さらに分析というような深堀りするようなメディアとなると、「Harvard Business Review」が25万部あるんですが、ダイヤモンド社が出している日本版は2万部しかないんですね。10倍のギャップが生まれてしまう。

この異様なニュース偏重が、日本のメディア状況の特徴です。川嶋さんのほうから、日本のメディアには分析する力が弱い、という話がありましたが、それはメディアの側の問題でそうなっているのか、それとも読者がそういうものを求めていないからなのか。ちょっと私にはよく分かりませんが、いずれにせよ深く分析した情報に関するマーケットがない、ということが日本の特徴なんですね。

徳力:日本は構造がいびつで、1日のニュースに一喜一憂するような構造になっていると思います。マスメディアが出来事だけを伝えていて、読者がその影響を強く受けて動いてしまっているんです。その裏側を知ろうとしている人たちが非常に少ない。

先週、サッカー評論家のセルジオ越後さんとスポーツジャーナリストの中西哲生さんと対談させていただくという非常に稀有な機会をいただいて、日本戦の後で総括のような雑談をしました。

岡田武史監督は、現地入りしてから、戦術を変えているわけです。これはもう完全にギャンブルで、本来なら守備的な戦術でいくのなら、そのための選手を選んでなくてはいけなかったはず。たまたま、うまくはまって勝ったわけです。けれども、ニュースで見てしまうと、「岡ちゃん最高!続投!」となる。だから今、日本全国が岡田監督の采配が良かったと言っているわけです。でも冷静に考えると、その前2年間のチームづくりを完全に否定してひっくり返したわけで、たまたまギャンブルに勝っただけなんですね。

本来メディアが正しく伝えてバランスを取るべきところですが、日本は分析が抜けている。それが怖い。せっかくカウンターとしてのメディアを持てるようになったのだから、一方に走りがちな風潮を抑制するような機能を担ってほしいですね。

川上:日本のメディアに分析力がないと言われると、私なんかはしょげてしまいますが、現実問題としてそういう部分は否めないと思います。なぜそうなってくるのかということを話すと議論が尽きないので、むしろその状況を踏まえたうえで、私たちはどうすればいいのかという話に振っていきたいと思っています。藤井さんはいまツイッターに関心を持っていらっしゃるそうですが、ツイッターやソーシャルメディアというものが、こうした状況を変えていく方法になりうるのかということに関して、どう考えていらっしゃるんですか。

ジャーナリストの取材サイクルにソーシャルメディアを組み込む(藤井)

藤井:我々ジャーナリストは、情報を得て、仮説を立て、検証し、取材を重ねて、それを修正し、記事を書くプロフェッショナルです。このサイクルがきっちりできる人が減ってきていることが、まず問題としてあります。

もう一つの問題点は、ソーシャルメディアという新しい情報ソースが確立されてきているのに、優秀なプロフェッショナルほど、ソーシャルメディアへのリテラシーが低い。逆に仮説検証のサイクルが弱い人ほど、ソーシャルメディアへの関心も意識も高い。ちぐはぐな逆相関関係があります。もちろん個人によるので、決めつけるわけではないですが、一般的にそういう傾向です。

ツイッター を含めたソーシャルメディアの可能性を考えてみると、既存のメディアがそれらを取り入れて活動するというのが一番早いかなと思います。これは朝日新聞や週刊ダイヤモンドが、ツイッターやブログを利用して情報発信していくというよりは、情報、仮説、検証、取材、修正というプロセスにソーシャルメディアを取り入れて、既存メディア自体が成長して役割を果たしていくのが、一番近道じゃないかなという気がしているんです。

川上:新しいメディアを報道機関の中に組み込んでいくとしたら、どんなことができるのか。メディアの中には、取材・編集・配信という三つの大きなバリューチェーンがあります。例えば取材のところでもっと当事者の人たちに参加してもらうとか、あるいは問題意識の高いユーザーと一緒に編集するとか、そういったことを加えていくと、もっと面白い報道ができるということでしょうか。実際にそうしたことをやってみた人はいるんでしょうか。

徳力:実際の現場はそうなってきているという感じはするんです。これまではマスメディアしかなかったんですね。マスメディアに取り上げてもらおうと思ったら、記者と知り合いになるか、記者が注目するくらい話題にならなければならなかった。今はそれが繋がっているんです。だからブログや「2ちゃんねる」で話題になったものを、ニュースサイトが取り上げ、それをまた雑誌が取り上げ、新聞やテレビも取り上げるというケースが、現実にはめちゃくちゃたくさんあります。例えば青森県八戸市議会の「美人過ぎる市議(藤川ゆりさん)」は2ちゃんねる発です。それから企業や有名人が問題発言ややらせ問題で糾弾されるケースも、ほとんどがネット発でマスメディアに伝播していっています。だから構造的には、先ほど藤井さんがおっしゃったプロセスになっている。

ところが日本のメディアはネット発ということを明示せずに紹介することが多いので、ネット発で伝播した文脈が消えて、マスメディアが盛り上げたかのように見えてしまっているケースが多いように思います。。やっぱり日本の場合は、堀江貴文さんが衝撃的すぎたんじゃないでしょうか。ネットとメディアの融合が、ネットがメディアを呑み込むんだという文脈で使われてしまった。だから現場ではネットとメディアはすでに融合しているにもかかわらず、その間に横たわる精神的な壁みたいなものは大きい。特にマスメディアの人がネットに対して持っている敵対心はすごい気がしますね。

藤井:ソーシャルメディアで話題になっているネタを、そのまま雑誌やテレビや新聞で紹介するやり方もあるんですが、じっくり観察していると、ブログにしてもツイッターにしても“予言”があるんです。私が常々部下に言っているのは、すごく良いといわれている会社を良いと書く、あるいは評判の悪い会社を悪く書くほどつまらないことをはない。どうせやるんだったら逆張りをやれと。もちろん確実な裏付けがなければいけないのですが、逆張りのほうが絶対に面白い。ツイッターやブログには逆張りのネタがとても多く転がっています。

例えばトヨタにとってこの一年は試練の年となりましたが、今私調査をしているんですけれども、ネットにはトヨタがコケるなという予言がはっきりと出ていたんです。そういう情報に早い段階で気付いて、プロフェッショナルな検証をしたうえで、「トヨタ大丈夫か」という記事をかけるかどうか。ソーシャルメディアはそういう可能性を秘めています。

読者の求めるものだけを追求すれば、メディアはワイドショー化する(川嶋)

川上:実態としてはマスメディアからミドルメディア、場合によってはソーシャルメディアのところまで、エコシステムとして情報がグルグルと回っていると思います。しかしマスメディアの側の人たちが、精神的な線を引いてしまっているのが、問題になっているという話が出てきたかと思います。この状況に対して、川嶋さんはどう考えていらっしゃるんでしょうか。

川嶋:記者なんて活動しているように見えてそんなに大して動いていない。ソーシャルメディアから記者にネタが供給されれば、コンテンツを強くする意味では、非常にいいことだと思います。

川上:藤井さんが、逆張りの予言を読み取らなければならないという話をされましたが、川嶋さんはそういったスタンスをお持ちですか。

川嶋:メディアの責任は逆張りでも順張りでもなく、本当のことを伝えることです。大企業、国が間違いを犯していないか、チェックしなければならないわけです。「逆張りにしたら面白い」というのは売り方の話で、メディア人としては「本当に正しいかどうか」が基準になる。自分で信念を持って、情報を集めて、正しいと思ったときはそれをしっかりと伝えていく。そういう意味で、情報を集める手段としてツイッターなどいろいろなプラットフォームが出てくるのは本当に良いことで、これはメディアの質を高めるでしょう。一方で、読者が求めるものをつくろうとするとワイドショーになっていってしまう危険性がある。最大公約数の記事が増えてくる。

徳力:結局メディアって国民の鏡じゃないですか。メディアを批判するのは簡単なんだけど、僕らがそれを求めているところもあるわけで、視聴率とるために、ページビューとるために、芸能人並べた方がいいというのは、鶏と卵の関係なんです。

ここではメディアとは何かが問われているんじゃないでしょうか。メディアのビジネスを思いっきりシンプルに考えると、記事という製品をつくって、それを媒体という店頭に並べて、チャネルを通じて売るというような世界です。新聞記者の方と話をすると、記者の取材力、自分が記事を書くことこそが、新聞のコアだと思っている人がすごく多いんです。私は編集のほうにこそ価値があると思うんですね。一面を見たときに、何が重要か、パッと分かる。

インターネット上も同じです。コンテンツは溢れかえっているわけです。専門家が無料でブログを書いている。ですが普通の人はそんなに時間はないので、全部を読むことはできない。だから、インターネット上でも編集の価値がすごく高い。今僕らが何に頼っているか。「YAHOO!トピックス」ですよね。あれは完全にマスメディアです。それこそ最大公約数が求められるから、芸能人のネタとかみんなに分かるものしか店頭に並ばない。

川上:これからどうしていきたいか、最後に一言ずつ伺いたいと思います。

既存メディアはソーシャルメディアを味方につけろ(藤井)

藤井:先程の話の続きなんですけれども、逆張りという言葉が誤解を与えたかもしれないので、若干言い直すと、多様な視点を提供することが、真実を伝えるとともに、メディアの仕事じゃないかと思います。ある種のテーマスクラムのような問題が起こって、何か一つ興味の対象があると、みんなその方向に行く。誰も違った視点から話をしない。しかも延々とその話が繰り返される。そこが質の低下に繋がっていると思うし、だからこそ多様な視点を提供しなければならない。多様な視点を提供するうえで、既存メディアはソーシャルメディアを味方につけなければならない。

我々が雑誌の特集を組むにあたって、「これは売れないだろうな」というものがあるんですね。要するに多様な視点を提供しようとすると、変わったことをしなければならない。しかし、不況で広告が入らないし、雑誌が売れないと困るという感じで、冒険ができない。だからますます視点が同じになってくる。ここでも実は ツイッターが役に立っています。

例えば私は、電子書籍の特集を思い付きました。自分がこれをやりたいと強く思ったんですが、売れないだろうとも思った。そういうときにはブログやツイッター を見るんですね。電子書籍なんか興味を持たれないと思ったんですが、今年の1月、2月になってツイッター の話題を見るにつけて、絶対に売れると確信しました。そういう意味で保険が付けられる。要は多様な視点を提供するにあたって、マーケティングができる。ある程度これは売れるなというものに手を付けられる。だからまず、既存のメディアがソーシャルメディアを味方につけて活動していく。それによって変わっていくのではないかと思います。

川嶋:私は日本のメディア再編、メディア改革をネットで実現したい。JBpressというインフラは最高のものだと思っています。常にリニューアルして、日本の最高レベルに位置付けたい。まだネットメディアに手を付けてないところに格安でコンテンツを供給して、日本中を良いコンテンツで埋め尽くしていく。専門家の記者であり研究者であり、そういった人たちが徹底的に、コンテンツをネットに当てていくことで、日本人の知的サービスが向上するわけです。

いま中国語と英語で、巨大なコンテンツの蓄積合戦になっています。例えば1998年の金融危機を日本語で検索しても、いいコンテンツにはほとんどヒットしないんです。ところが英語で検索すると、ものすごく出てくる。これは何を意味するかというと、メディアがネット社会に対応していかないと、日本人の知的レベルがどんどん落ちるということなんですね。

英語圏は以前からの蓄積があって、中国は政府を挙げてやっているわけです。すべての新聞がネット上で無料で読める。皆さんが大事なことを調べられる環境を、コンテンツメーカーとしてつくっていかなければならない。私たちだけではできないことなので、国にも少しは手伝って貰いたい話ですけれども。講談社と提携して、実はダイヤモンド社さんも、「ダイヤモンドオンライン」がこの4月からJBpressのインフラで動くようになりました。文藝春秋社も我々を使っていただいています。

日本には優れたコンテンツが歴史ある出版社や新聞社に蓄積されています。これをネットで誰もが簡単に見られるようにすれば、そのメリットは非常に大きい。コンテンツ産業が所蔵しているアーカイブをネットに載せれば、誰でも膨大な情報にアクセスできる。これはすごく大事な話です。情報をネットに蓄積していく国と、そうでない国とでは、将来競争力に大きな差がつく可能性があります。

徳力:大賛成ですね。磯崎哲也さんという方が公認会計士の視点から非常に面白いブログを書いていました。こういう人が増えたら本当に日本のコンテンツの質が上がるから支援しようと思って会社を始めたんですね。ただ、広告収入などが苦しくてなかなか支援し切れていないという現実があります。メディアはいま、ビジネスケースとしてはとても難しい。チャネルのシフトが起きている。記事の書き手がプロだけだったのが、アマチュアも入ってきて混乱している。しかもリーマンショックで広告単価が下がっている。三つも四つもパラダイムシフトがぶつかってしまって、どうすればいいのか分からない状態なんです。

でもここで本当に考えなければならないのは、メディアの役割、ジャーナリストの役割は何かということ。良い記事を書いているのはなぜかといえば、やはりみんなに分かってもらいたいからです。できるだけ多くの人に知ってもらって、世の中を変えるためにやっていたはずなんだけれども、ビジネスモデルがそれと紐づいてしまっている。お金をいただいて読んでもらうものだから、ネットには載せられない。ここは非常に大きなギャップだと思うんです。

音楽も映像などの産業も全部そうです。日本はコンテンツに対する著作権意識がとても高いので、とりあえず守ろうとする。そうするとネットの質がどうしても低くなる。この悪循環なんですね。でも本来はテレビも視聴者は無料で見ていて、テレビ局は企業からお金をもらうことで成り立たせている。メディアの方々もとりあえずネットにいいコンテンツを出してしまって、後は会社としてビジネスモデルを考える。そういった分業の仕方があるはず。今のメディア業界のトップの方々の多くは、「お金を払ってもらわないと」という意識が強い。そこが問題だと思います。

編集者の存在は、コンテンツの質を担保するうえで非常に大きい(川嶋)

会場:私は年間100回ぐらいプレゼンテーションをする機会があります。ほかにはWebセミナーを開いたり、取材を受けたり、コラムや本を書いています。ところが、編集が入ると、どうしても記事の内容が薄まってします。出し手の理論に偏ってしまうと思います。メディアにおいて受け手の視点をどう考えていらっしゃるのか伺いたいと思います。

川嶋:出し手の理論に偏るというのは、古いメディアに対して言っているのではないかと思います。要するに、誌面が1ページしかないから、削られて自分の言いたいことを伝えられなくなってしまった。そういう意味だと思うんですけれども、ネットに出るような場合は、削らなくてもいいんです。

ただ受け手の視点とおっしゃったことはすごく大事で、我々もその視点から考えているんです。記者は自分の視点で書くんですね。ところがデスクや編集長の視点は常に読者の側にいて、記者が書いてきたことに対して、それは本当か、世情に合っているのか、売れるかどうかも含めて、読者にこれが本当に適したコンテンツなのかどうか判断しています。

それから事実をチェックする人がいないといけない。誰かがチェックして、間違いじゃないということを担保しない記事は非常に危ういんです。だから編集者の存在は、コンテンツの質を担保するうえで非常に大きい。

川上:ちょっと補足をすると、いま新聞社を中心に、編集の定義が変わりつつあります。いかに本質的なことを分かりやすく書くかということでなくて、いかに何の専門知識もない人にも読めるレベルの内容に落とすか、というところに編集の定義が劣化していっているんです。質問者の方の薄まるという認識はそこに原因があるのではないでしょうか。メディアの人たちは、本質をきちっと分かりやすく伝えるということをもっともっと磨いていかないといけない。

川嶋:ちょっと反論(会場笑)。自分で読んで、「いいものを書けた」と納得するのと、他の人が読んで良いコンテンツだと思うかどうかは別問題ですよね。今川上君が日本の編集者を馬鹿にしたけど(会場笑)、出来るだけ分かりやすく伝えようと、私たちはプロとしていつも心がけている。専門家は難しい漢字やカタカナを使いたがるんです。それを紐解いて分かりやすくする作業の過程で抜け落ちるものも出るかもしれない。でも受け手にとってはそちらの方がいいかもしれない。色々な人に伝えるという使命もあるわけですから。

徳力:いままでは雑誌で完結していたから、一つしかコンテンツが載せられなかった。多くの人に伝えるという使命と著者の本当に言いたいことというのが場合によってはトレードオフのような関係になっていたけれど、ネットは違います。インターネットのメディアはリンクしておけば、どんどん深い情報に入っていけるんです。

川嶋:おっしゃる通り。だからネット媒体では、記者が変わるんだと思います。今までは、100行にいいコンテンツをこめることが出来るというのがいい記者だったんです。ネットの場合だったら、専門家向けに別のコンテンツを用意しておけばいい。だからこれからの記者教育というものの、すごく変化していくと思います。

会場:韓国では、多くの読者を持つ個人ブログの著者が企業からお金をもらうという事態も発生しています。そういう観点から、個人メディア、ソーシャルメディアをマスメディアで取り扱う際に、心掛けなければならない点や、課題になっている点はありますか。

藤井:お金と言う点はピンとこないですが、当たり前のことですけれども、裏取りです。2ちゃんねるでは裏が取れません。ツイッターやブログは発言者に確認できます。そういう意味で、マスメディアとしては、誤報を流さないということです。

徳力:日本でもいまブログマーケティングバブルやツイッターマーケティングバブルが起こっています。ブログやツイッター に書いてもらうと、広く認知されるのではないかという話はあります。実際には影響力はマスメディアの足元にも及びません。これまではマスメディアに書いてもらうしか手段がなかったので、それ以外の選択肢が出てきたという意味では、個人のメディアが企業のメディアと同様に記事広告的なものを扱うということはあり得ると思うんです。

でも個人のメディアがマスメディアに勝てるかといえば、不可能でしょう。そこはライバルじゃなくて、マスメディアが取り込んでしまえばいいと思っているんです。人によっては一人で頑張るという人もいますが、ツイッターなどプラットフォームが増えている中で、発信する個人というのはどんどん増えていますから、コンテンツの情報元という意味での戦いは厳しい。

反対に情報を集積して、重要度順に並べて、さらにみんなが議論できる場所を創ることは重要です。それは個人で出来る領域ではないと思います。

名言

PAGE
TOP