和郷園・木内博一氏×農林水産省・末松広行氏「日本の農業はまだまだ捨てたもんじゃない!」 

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先進国と比べ圧倒的に少ない日本の自給率(松本)

松本:セッションのモデレーターを務めさせていただきます、日本アグリマネジメントの松本です。簡単に自己紹介致しますと、日本アグリマネジメントは傘下に農業生産法人を持ち、現在、北海道、大分、佐賀の3カ所に、合計50ha弱(東京ドーム10個分)の農地を持っています。トマト、ピーマン、さつまいも、玉ねぎ、じゃがいも、スイートコーンなど8品目の生産をしています。

東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)を辞めたのが1999年でして、辞めるときから農林水産業が頭の中にありました。会社を立ち上げたのは3年前になります。こうやって前に座っていますが、まだまだこの世界に足を突っ込んだばかりという感じです。

最近農業が脚光を浴びつつあります。10年前にこのような農業セッションの分科会があったとして、今日お越しになっていらっしゃるような錚々たる方々が果たしてこの会場にいたのかと考えると、やや隔世の感がありますよね。今日は楽しく農業の問題について語っていただきたいと思います。

パネリストは、行政の立場からずっと農業に携わってこられた農政のプロフェッショナル、末松広行さん。農業者として農業に従事し、新しい農業のあり方を実践、提言なさっている木内博一さんのお二人です。それぞれの道のプロの方々から、日本の現在の農業について、本質的に何が一番大きな問題なのかということについて、お話をいただきます。また、日本の農業をこれからどうやって変えていくのか、あるいは変えなくていいのか。どうやって力を付けていくのか。具体的なご提言をいただきたいと思っています。

まず簡単にですけれども、私自身が農業に参入するにあたり考えた問題意識をご紹介しますので、日本の農業の現状をご理解いただければと思います。

まずは食料自給率についてお話します。いろんなグラフがあるんですが、よく言及されているのがカロリーベースをもとにしたものです。食料自給率がカロリーベースで現在40%。これを切ったら危ないと言われているんですが、「本当に危ないの?」と疑問に思っています。1972年は57%でしたが、1977年の時点でもうすでに53%に落ちています。食料自給率が減っているのは、今に始まったことではないんですね。4割を切るとすごく危なくて、5割を切っても大丈夫なのか。

もう一つ例を上げると、子どもの頃シンガポールにいたことがありますが、あの国は、食料自給率がほとんどないですが、食文化が豊かです。そう考えると、自給率という数字をそんなに気にする必要があるのかなという気もするわけですね。ただまあ、主要先進国の食料自給率をカロリーベースで並べると、圧倒的に日本は少ないのは確かです。

元々銀行員だった私が農業に注目したきっかけは、実は2001年の9.11アメリカ同時多発テロ事件なんです。このときに、いつでもお金に変えることができると思っていた米国債が取引できなくなった。ニューヨークでは株すら取引できなかった。国債や株はやっぱり単なる紙なんじゃないか、食えないじゃないか。最終的には自分を守ってくれないと思ったときに、資源が重要だと気付きました。あの頃から実物資産の値段が、鉱物資源を中心にすごく上がりましたよね。特に「食料安全保障」という考え方からすると、これからは日本の農業を強くしなければいけないんじゃないかという思いから、こちらの世界に入ってきたわけです。

今世界の人口は猛烈に増えています。もし日本の国力が弱くなって、新興国が出てくると、為替が円安になってしまう恐れもあります。輸出国は同じ値段で出しているつもりなのに、我々が仕入れる側になると、円安で高くなってしまう。長期的に見ると、食べるものに関してはきちんと安定して、自国で供給できる状況が必要なのではないか。食料自給率に関しては、こういったことが私の問題意識です。

次に農業の担い手という観点からすると、重要な指標は農家戸数と規模なんです。小さい農家は恐ろしい勢いで減ってきています。一方で、政策的な後押しがあったにもかかわらず、大規模な農家はほとんど増えていない。農業就業人口を見ても、農業者人口が確実に減ってきました。1959年に1700万人だったのが、2002年では850万人です。半減しました。今後さらに急激に減ることが予想されています。

さらに産業別の就業者数を見ると、一次産業はすごく少ないんですよね。日本は成熟した社会になるにつれて、三次産業の従事者が増えるというのは分かるんですけれども、では三次産業は何かといえば、いま人手不足だと言われているのは、介護の世界だったりします。介護サービスは大事な産業ですが、老人たちが持っている富を、介護サービスという媒介を通して、孫の世代に渡していく。そこでは何も生産していないんじゃないかという思いが私の頭の中にあって、そんなに儲からないけれども、何がしかプラスするようなものを、日本の中に作らなくてはいけないんじゃないかと考えます。

一次産業の農業は、何もないところに種をまいて水をやると、キャッシュが生まれるということをからすると、そんなに大きなインパクトは日本の経済の中にないのかもしれないけれども、非常に重要じゃないかと思っています。

ほかにも、耕作放棄地や食糧自給率、あるいは担い手不足という問題がメディアにもよく出てきます。その辺についてこれからお二方に、掘り下げて語っていただきたいと思っているところです。それでは末松さんのほうからお願いします。

世界中がこれからの食料について中長期的な不安を持っている(末松)

末松:今農業はにわかに脚光を浴び始めていて、色々な論調や意見が出てきています。だけどその中には、「何を今更」というものがいっぱいあるんですね。

例えばカロリーベースの自給率には欠陥があるということをさも新しい発見として批判する人とかが出てきたりしています。実際には自給率の話というのは、こういう経緯なんです。「食料の自給率を国際比較できるようにすべきだ」という声が、国民から起こってきた。具体的には、消費者団体であったり、国会であったりの議論で、「食料自給率をきちんと計算して示すべきだ」と。それまではどういうものがあったかというと、穀物の在庫のデータを各農業国は持っていました。すなわち在庫率ですね。それから穀物自給率があります。それだと日本は27%とかになります。

一方で経済のことを考えたり、成長戦略的に考えると、産業規模が重要なので農業産出額で見るべきだ、ということになります。農林水産省もこういう考え方で、金額ベースでの自給率を「総合自給率」という名前で示していたりしました。
ただ、これだと為替の変動があるので、農業の実力とその数字の動きが全然連動していないという問題があります。そして、カロリーベースでの自給率を作れという声が出てきました。30年前ぐらいに、農林省の農業経済担当者が研究してそれを作った。かつFAO(国際連合食糧農業機関)のデータなどを使うと、国際比較もできるんだということになったんです。

しかし、当時の官僚はこの数値を法律上の目標にすることには反対だったんです。それは昨今食料自給率の話をするときに出てくるんですが、カロリーベースでみると、野菜の生産で自給率はほとんど上がらない、花産業は重要な産業ですが、数値にはまったく反映されません。

ただ、いま私は食料自給率担当の課長もしていて、自給率向上のキャンペーンなどをしているんです(会場笑)。今どう思っているかというと、この数値は、日本で農業を盛んにしたり、日本で作る農産物が増えるよう取り組む、という意味においては、すごく効果のある概念だと思っています。

もう少し詳しく説明します。今後の日本の食料を考えたときに、農地、人、技術のうち何が必要か。いま65歳以上の農業人口の割合が高く、技術の継承問題が一番の課題になっています。それも先端的な技術ではなくて、65歳以上の方が持っている暗黙知をどう継承できるかという点がかなり大きな問題なんです。そういうものをセットにして考えることが、「食料安全保障」なんです。だから、このような危機を認識して「食料自給率を上げよう」という活動が、農地、人、技術を大切にしていき、食料安保全体を考えることにつながっていくのであればよいのだと思うのです。

もう一つ言いたいことは、世界の食料事情です。去年の秋ぐらいに経済が一転して、もう食料危機は去ったとされているんですが、専門家の間ではそうではないと言われています。株価でも石油価格でも、一度上昇した価格が暴落して2008年の水準より下がったんですが、食料は昨秋に大豊作で、経済危機が起こったにも関わらず、2年前の価格の1.5倍〜2倍で高止まりしているんです。世界中がこれからの食料について中長期的な不安を持っているということが、この価格の状況になっているんじゃないかなと思います。

それから、規模拡大の話がありました。日本の農業は規模拡大していくべきだということで、そういう政策をしてきたつもりなんですが、それが政治的には「小農切り捨て」という見方をされることになって、選挙でもそれが影響していると言われます。実際はどうか。戦後しばらくの間は、農地を1ヘクタール持っていれば、地主でなくても子どもを大学に出せると言われたように、豊かな農家でした。今は1ヘクタール持っていても、米作りであれば年間100万円も収入がないという状況になっています。じゃあどのくらいあればいいかというと、状況は農業の種類によっていろいろですが、例えば20ヘクタール耕作されておられる方は、今でも子どもを大学に出せるような収入を上げることができるとおっしゃっています。

じゃあ労働時間はどれくらいかというと、昔の1ヘクタール耕していたのと同じぐらいの労働時間で、20ヘクタールを耕せるような方々が多くいらっしゃいます。じゃあみんな20ヘクタールの農地を持てばいいんじゃないかということになります。基本的には役所もそう考えるようなところもあったのですが、考えてみて下さい。20ヘクタールの農地を待つということは、日本の限られた国土の中で、それまで20軒あった農家が1軒になってしまうということです。工場のように20倍の規模の耕作地を並べて作るようなことはできません。廃業される19軒が全部引っ越すか、その19軒にほかの働き口を見つけることが必要になります。引っ越してしまえば当然地域社会も成り立ちません。その辺りがこれからの農業政策を考えるとき、非常に大切なポイントになっています。効率化をどんどん進めていくことはできるかもしれませんが、淘汰されていく部分にどういう配慮ができるかということが、いま問われているような気がします。

松本:有り難うございます。いま末松さんのほうから農家の収支の話などがあって、ある程度の規模がある農家はしっかり稼げているというお話もありました。その一方で、零細農家はなかなか難しいというお話でした。木内さんのところは随分長く、経営的にも充実した農業をやっていらっしゃるわけですけれど、農業者の目から見て日本の農業に対して、あるいは「農業再生」と言われることに対する率直なお気持ちを聞かせ願えますか。

農業と一口にいっても、その生産物は様々、現在の自給率、経営状態も様々(木内)

木内:農業に長年従事しているものとしてとても強く感じることがあります。日本は、実は世界一、農業をやるのに恵まれているということです。単純な原理です。春夏秋冬がある、つまり四季がはっきりしていることです。

農業というものは、作物をつくるところで窒素、リン酸、カリという3大要素が必要です。これを自然に自給できる。自然環境の中で自給できる国というのは、日本ぐらいしかありません。春に芽を出して、夏に茂って、そして秋に実がなり、冬に枯れる。枯れた植物性の物質が、また次の芽を出すための肥料に変わる。この循環を自然の摂理で持っているのは、日本だけなんですね。そのほかに農業で大事なファクターは、太陽と水です。これが他の諸外国に比べて、極めて安価で有効に確保できる。

耕種と畜産の結合した「有(⇒耕?)畜複合」と言う農業形態が、最近環境に優しいともてはやされています。しかし、昔の農家では当たり前の光景だったわけです。庭先養豚、つまり農家の庭先には豚が2、3頭いる。庭先養鶏、鶏もいる。さらに農耕用の牛もいる。牛・豚・鶏の三つとも飼っているわけです。そして、田んぼを耕す。冬には山かきといって、山の落ち葉などを回収する。

我々が約15年前に始めた和郷園は、まさにそういった「自然循環型農業」を理念としてやってきました。我々は特別、新しいことをやっているわけではなくて、昔からあるものを近代的にちょっと小奇麗にやっただけなんです。我々の原点というのは、基本的に自然の摂理というか、日本が持っているもの、環境に対して、極めてシンプルに取り組んでいるだけなんです。

その観点からすると、戦後一貫して農業は産業化を進めてきた。そしてその過程で、大きな矛盾や困難を抱えてしまったという点をまずは押さえておきたいと思います。

続いて農業再生というテーマなんですけれども、農業は広範囲だということを把握しないといけない。農業と一口にいっても、その生産物は様々、現在の自給率、経営状態も様々です。まずは畜産という農業。それから畑作による野菜の農業。そして水田や小麦といった穀物という農業。大別して三つあるんですね。

その中で特に畜産というのは、戦後どんどん専門性、分業化を追求していきました。例えば採卵という卵の生産。日本の供給率は、100%以上です。大手の企業は、名前を挙げれば、イセファームさん、アキタさんの2社なんですけれども、両社とも米国にどんどん進出しています。中国にも出ています。彼らいわく、米国で稼いだお金を日本で損しているそうなんですね。農業といえども、国際産業として大成功しているケースもあるわけです。

また養豚もそうです。養豚も国内ではかなり装置化されていまして、供給量が極めて多い。豚肉の値段が余りにも下がるから、在庫を政府のほうで抱えて、そして市場のバランスを取っているんですね。

では酪農はどうかというと、実は環境汚染で困るぐらい牛乳が生産されているんですよ。牛乳を排水口にどんどん捨てる。排水口に捨てると環境汚染になるので、今はまとめて海外からエサを買って、24時間搾乳して、そして絞った牛乳を産業廃棄物業者にお金を払って処理してもらっている(会場笑)。本当にこんなことをやっているんですね。

そして牛肉はどちらかというと、日本の場合にはプレミアム志向ですよね。和牛は量産よりも、ハイクオリティを求める方向に行っている。日本の技術のイノベーションが、トップブランドまで押し上げた。

畜産だけを見ても、こんなに違うわけです。

野菜になったら、時間がないので言い切れないぐらい違うんです。一言で表すと、トマトを作っている農家と、ニンジンを作っている農家は、建設業者に置き換えると、ペンキ屋さんと電気屋さんぐらい違うんですね。それぞれが持っている道具を見てもらえば分かりますけれども、共通しているのはトラックだけです。

それから穀物ですね。これは日本の場合には、伝統的な米に尽きますね。農業=米と言ってもいいぐらい。または農政=米だったわけですね。ここは世界トップクラスのイノベーションがされています。作物というのは、だいたい呼吸器系を二つ持っています。根は酸素を吸って、二酸化炭素を出している。土より上は光合成ですから、二酸化炭素を吸って、酸素を出している。そういう意味で、作物というのは単体循環しているわけです。

そういうバランスシートの中で、一番の問題は連作なんです。野菜というのは、だいたい連作をする、つまり毎年同じ畑に同じものを作ると、どんなに人間が知恵を加えていっても、駄目になってきます。収穫量が減ってくるわけです。米が優れているのは、毎年同じ田んぼに同じ米を作っても、自然の要件が一定であれば、同じ量を収穫できるんです。

農業と聞くとみなさんは漠然と一つの塊をイメージしてしまうかもしれませんが、現場からすればこれだけの違いがある。農業再生、あるいは経済的な自立ということで言えば、経営的に今のままだと難しいから、補助金、いわゆる下駄を履かせたほうがいいだろうなという作物もある。しかし、規制を取り払ってあげて、自由にやらせたほうがいだろうというものもあるんです。

松本:この間、打ち合わせをしたときには、「松本さん、農業再生ってどういう意味?カボチャを再生しなくていいじゃないの。大根は要るからね」みたいな話をされていましたが(会場笑)、要するにそれぐらい農業再生と一括りにできるものではなく、幅が広いということですよね。家電業界で言えば、精密機械みたいなものと白物家電をいっしょくたに議論するなというお話です。

幅が広いテーマなので、少しスコープを絞り込んで話を進めていきます。日本の農業が抱えていて、解決していかなければならない本質的な問題について、キーワードがあるとすれば教えていただけますか。

農家と組んでうまくやったところが成功する(末松)

末松:私は農業参入する企業の方と、よくお会いするんですね。だいたい勉強会などを開くと、10社ぐらいの方がいらっしゃって、どういった農業を始めるのか聞きます。しかし何年か経って、消えていく企業が多いわけです。消える直前の企業の方とお話をしていて分かってきたことは、農業というものの持つ「深さ」と「足りなさ」を理解して参入する、またはどううまく農家と協働するかということが大切だと思います。非常に単純化してキーワード的に言うと、「農家と組んでうまくやったところが成功する」。

どういうことかというと、長年にわたって農業を営んできて培った暗黙知の蓄積は、後から新たな技術でそれを改めて別のアプローチで作り出そうとしても、なかなかできないところがあります。しかしその一方、販売や全体的な作付体系といった市場と連動したものというのは、まだまだ改善の余地があり、企業の知恵やノウハウが生きる部分がある。

暗黙知や農家が蓄積している知恵という財産と、企業の、あるいはビジネスの知恵を使ってこれからもっと発展していかなければいけない部分。両方あるんです。その二つが化学反応を起こせば、かなりの確率でうまくいく。ここにいらっしゃる木内さんは、農業の側から出発して、ビジネスの知見も利用して、発展していく場を、実際に体感されている。松本さんはビジネスの出身で、地元の農家の方々と一緒にやっている。まさにお二人がこの場に登壇されているということが、その証明です。

ではビジネスの知恵を使ってこれから発展していく余地には何があるか。まず一つは単純なんですけれど市場だと思います。今までの農業というのは農林水産省を含めて、消費者・市場を盲信していて、市場にいい物を出せば勝手に評価してもらって、高く売れると思っていました。しかし市場は需給で決まりますから、たまたまみんなが作るときに出せば値段は下がってしまいます。

様々な工夫をしてプレミアムをつけた農作物は、やはりマーケティングをして売り込んだり、チャネルも直接契約するなど多様化を進めていくといったことが大切です。ビジネスのノウハウが必要なのです。また農業に関心のある人をグリップするという意味でも、農家をやっていた親の後を継ぐ、または隣のおじさんの所に弟子入りするといったやり方ではもう先細っていくことが明らかです。やはり企業経営という形態をとって、就職するという形がこれからの農業には非常に大切だと考えています。

このビジネスと農家の融合は、いま各地で始まっていることではありますが、まだまだいろんな工夫の余地があるでしょう。

松本:有り難うございます。手前味噌ですが、我々は農業がまったくど素人だったものですから、何をやったかというと、トマト部長とピーマン部長とサツマイモ部長というのがいるんです。これは全部地元の農産物作りの上手な方。サツマイモ部長は、誕生日を迎えたので78歳になりました。トマト部長も61歳の年配の方です。要するに地元の天候や気候など、いろんなことを肌で知っていらっしゃる方をお招きして、ただし経営は渡しませんが、生産部門においては絶対的な信頼を置いて、この方々と一緒に生産計画を立てたり、予算組みをさせていただいているところです。

一方で企業経営的な観点から出来ることもやっています。例えばピーマン農家だと、夏場の収穫のときだけ人手が要るんです。しかしそれでは、なかなか安定した雇用には繋がらないので、我々は冬から春にかけてトマトを作って、夏から秋にピーマンをつくることによって、毎月の作業量を平準化しようとしています。できる限り通年雇用を生むために活動しています。全体としての各月の作業時間を極力平準化することによって、通年の雇用を増やしていくようにしています。

次に木内さんのほうからいかがですか。今の日本の抱える農業の問題点はこれだ、ということを。いろいろあるんでしょけれど、これだというものをお話ください。

農業の投資するプラットフォームは非常に耐用年数が長い(木内)

木内:例えば農業というものは、他の産業と会計基準を変えればいいと思うんです。農業はインフラ産業です。だから従来の会計基準で考えると、儲からない、利回りが悪いという話になるんですけれども、実は農業の投資するプラットフォームは非常に耐用年数が長い。我々の一番古いプラットフォーム、つまり農地は、たぶん100年ぐらい前のものだってあるわけです。そういった古いものでも、十分に使えるわけです。機能します。

しかし他の工業の場合は、その製品の流行り廃りがどんどん変化していく。だから、早めにプラットフォームを償却していかなければいけません。その点で農業には、特殊な部分があるんですね。長期のスパンで考えれば、極めて有効な産業ではないでしょうか。

大手の商社、例えば三菱商事さんだって、小岩井牧場を持っているじゃないですか。あれはずっと運営しています。多角経営する中で牧場をずっと持っているということは、細かいことは分かりませんけれども、おそらくいい利回りだからでしょう。

それから、農業ブームというのは、農村ではまったく起きていないんです(会場笑)。農業ブームというのは、都市で起きています。私が思うに都会の人たちが、言い方が失礼ですが、今までの拝金主義的な価値観から、やはりもっと人間として奥深いものに魅力を感じるようになったのではないか。そうすると人間は動物ですから、自然回帰に近い産業ということで、農業に興味が持たれていると思っています。

松本さんがおっしゃる解決しなければいけない問題については、「トマトを何とかしろ」と言われればアイデアが浮かぶんですが……(会場笑)。けれども農業全般で言われてしまうと、どうも皆さんに説明のしようがないというのが正直なところです。

松本:有り難うございます。続けて末松さん、お願いします。

農業が持つ多面的な機能を考えなければならない(末松)

末松:農業について考えるときに、その多面的な機能に目を向ける必要があると思います。真っ先に思い浮かぶのは、人々のエネルギー源としての食料。これが重要だというのは当たり前です。それには、ちゃんと対価もあるわけですね。

次にいつも安定的に供給する、安全なものを提供する機能です。世界の状況を見ていると、安定的に食料を食べ続けていくことも若干、心配になってきている。先程木内さんから水田の話がありましたけれども、水田ではない農業が世界では一般的であって、そこでつくれなくなったら文明も引っ越すということを昔はやっていたわけです。

しかし今は人口が増大してそれもできなくなってきて、やはり心配になっているわけです。輸出規制もからんできます。よく言われる話ですね。戦争や世界的な不作などいざというときに輸出規制をされるのはしかたない。但しそのようなことはめったにないとよく言われますが、実はいざというときでなくても、輸出規制をされているんです。どういうことかというと、輸出国内でパンの値段が高くなったとすると、輸出を止めればパンの値段は安くなる。経済的にいえば、小麦を日本などに高い値段で売ったほうが儲かるんだけれども、都市住民などが食料価格が上がることに対して不満を持ちますから政情不安にならないように、政府としてパンの値段を上げないために物価対策として止めることもある。そういうことを考えると、輸入しているものの多いことの脆弱性を、これから考えていかなければならない。

農業には耕作や生産の他にも機能があります。端的にいえば、景色ですよね。新幹線に乗ったときに窓があって、外の綺麗な景色を見るのがいい。富士山だけは農業がなくてもきっと綺麗ですけれど、裾野に広がる水田やお茶畑というのは、農業がなかったら見られません。それが日本の景色を作っています。そういうものを、我々はタダで享受している。

このような多面的な機能を有している農業に対して外国はどのような対応をとってきたかという話ですが、ここは国際交渉をしていかなければならない中で考えていただきたいと思います。昔のヨーロッパは、関税障壁をつくって国内相場は高くしていた。例えば小麦の国際相場が100円の時に価格支持政策を採用して200円の国内価格を守ってきたといった具合です。そうすると例えば売り上げが1000万円の農家があったとして500万円ぐらいの所得が得られますということとなります。でもこれをやめたわけですね。

どうやめたかというと、価格支持をやめて、国内相場を国際相場と同じぐらいの価格にした。上の例ですと、200円から100円ということです。そうすると売り上げが500万円になりますから、何もしなければ所得はゼロになりますけれど、その分だけ直接支払いをすることにしたということです。

よくEPA(経済連携協定)やWTO(世界貿易機関)の議論をするときに、気を付けなければならないのは、最初に関税を下げればいいというのは間違いなんです。関税がない国とは、EPA交渉をしたいという気持ちになりません。関税は、カードにしておくというのがすごく大切です。

ヨーロッパというのは、いつもWTOなど最終局面で、米国に付いて日本を裏切るように映ります。なぜそういうことができるかというと、関税障壁はまだあるからです。その一方、直接支払いなどの備えもできています。いざというときには、下げられるカードをたくさん持っているということが大切なわけです。

よく「日本の農業の関税が高いからEPAが結べない」と言われますが、それは間違いです。日本の高い関税を下げようと交渉に来るわけです。いざというときに下げられる、高い関税を持っておく。そしてここぞというときにそのカードを切るという準備こそが大切で、そこを間違えると、何の得にもなりません。

直接支払いはなぜメリットがあるかということですが、消費者は200円のものが100円で買えるようになって、企業は国産原料を使ってもいい製品が作れるようになる。農業者も価格競争力が付いて、輸出がしやすくなる。マクロでもいろんなことがある。

ではなぜ今までできなかったかというと、これは財政支出の問題であります。要は社会経済的にみると良いこともありますが、財布は別です。得するのは消費者で、損するのが政府だということなので、今までできなかったわけです。

さらに私は最近思うんですが、社会保障費の関係で、農業などを考えればいいと思っています。我が国の財政危機の主要な要因というのは、社会保障費が増えていることです。この10年くらいで社会保障費は14.8兆円から21.8兆円に増えました。生活保護費も9000億円増えています。国の財政というのは、この社会保障費が増えるのを何かで補うために、公共事業を減らし、科学技術の振興経費も伸ばせず、農業の予算はどんどん減らしていくということだったわけです。

でも考えてみると、生活保護費というのは本当に増やさなければいけないのか。個別の困った方への支援は必要だと思いますが困った人が出ないことによって増えないのには文句を言う人はいないと思います。社会保障費を増やすために、いろんな予算を減らすのではなく、社会保障費を増やさないために、他の予算や他の政策を充実させるというのが、本筋ではないかと思います。これは政治のこれからの課題でしょうが、是非考えていただきたいです。

また、今までは農業に補助するというと全部に補助するんですが、そうではなくて多面的機能に補助するということが大切なんじゃないか。そういう意味では、生産費と所得の間を補助するのではなく、そこに必要な機能があれば補助することが必要でしょう。国土保全とか景観の維持など社会に与えるプラスの機能に対して、支払いを行う。農家だから農業だから支援するというようなことは、これからはやめたい。例えば農家だけではなく、棚田を保全するNPOにも支援をしたいんです。

戦後日本の産業が発展するにあたって、田舎にある雇用の調整能力、バッファーが非常に必要なものだったと思います。今はそれがカラカラになっていますけれども、もう一度、多面的機能を守るとともに、そういう成長期の人材供給機能のようなものを持たせることも大切でしょう。

松本:有り難うございます。巷でよく言われるような問題が、沢山織り込まれていましたね。自給率の問題がよく取り沙汰され、農業がいかに遅れているかという扱いを受けますけれど、では食料安全保障、耕作放棄地の問題をどう解決するのか、景色も含めた日本の風土をどう守るのか、といったときに、これを農業というくくりだけでなんとかしようとするとなかなか辛い。ソロバンをはじくと、やはり合わないんですね。

農業を守ると言う時に、耕作をするということだけを守るのではなくて、農業が持つ多面的な機能を守らなければならないというのは、私は賛成です。そして社会保障費の削減。これもまったくその通りだと思います。ウチなんか20代の青年は年収180万円ぐらいなんですけれども、平気でセルシオに乗っているんですよね。21歳から83歳まで、ウチの社員にいるんですけど、一番いい車に乗ってくるのは、21歳の青年でセルシオに乗っているんです。

なぜかというと、世帯収入が豊かなんです。安い給料でも自立して、平均並みの生活ができるということを確保してあげさえすれば、何もセーフティーネットで弱者を保護してあげなければならないという枠組みの中で、守らなくてもいいんじゃないか。この社会みんながみんなイチローや松井にはなれないわけです。知的なホワイトカラーの仕事もこの国には重要ですが、そうはなれない、ならなかった方々が、誇りを持って生きていけるようなコミュニティーを残す、造っていく。これもとても重要なことです。その受け皿として、農業は非常に大きな役割を果たすんじゃないでしょうか。

木内さんのところは耕作放棄地だったり、農業に適さない土地については、新たな活用を模索されていらっしゃるようだし、まさにそういう意味では地域のネットワークやリソースをうまく使うことによって、社会保障費の削減のようなことを実践されているわけですよね。

農産物を市場解放すべき(木内)

木内:民主党の直接支払いの政策というのは「バラマキ」と批判されていますが、農業以外の方も農業者もよく分かっていないと思うんです。私は最近、日本の農業を良くするためには、WTOで農産物を市場解放すべきだと主張しています。具体的に、WTOの際に問題になっているのは、米と一番関税が高いコンニャクとデンプン類。この三つだけなんです。よく笑い話で言うんですけれど、近所の消費者団体に感化されて、ネギを造っている農家のおばさんが、「WTO反対!」と東京に行って言うわけです。そしておばさんに「なぜネギを作っていて、WTO に反対なの?」と聞くと、「いやあ、中国から安いネギが入ってきては大変だ」と答えるので、「だって、今でもネギに関税なんか掛かってないよ」と指摘する(会場笑)。実はこういう話なんです。

だからWTOは、農産物を市場解放すべきなんです。その中で直接支払いというのも、厳密に言うと米に対して支払うわけです。米にしか焦点を当てていません。ここで言いたいのは、直接支払いするのであれば、その仕組みと何を目的にしているのかということを、明確に政府は言っていいと思うんです。末松さんは立場上、言えないと思いますが(会場笑)。

WTO問題がいろんな工業とか農業の足かせになっているというのは、私は極めて不愉快です。むしろ農産物も開放してもらえれば、我々は実は香港にも会社があるので、香港にどんどん輸出しています。むこうも牛肉がダメだとかいろんな規制があるんですが、これも全部取り払ってもらえれば、もっともっと100倍も売れます。だからそういう議論をしっかり、農業ブームを糧にしてやってほしい。

もう一つは多面的機能。末松さんがおっしゃることに私も同感です。そしてもっと言えば、農村の耕作放棄地や高齢者の問題は、中山間地農業にほぼ集約できると考えたほうがいいんです。我々のような千葉の平地の産業化された農業は、もう放っておいてくれと言っているんです。補助金の予算が減っているのであれば、中山間地に集中的に出したらいいんじゃないか。

ただそのときに農業者に出すのではなくて、例えば建設業者であったり。または多面的機能ですから、景観と水の確保にかかわることなので、土産物屋を経営している商店に出してもいいんじゃないかと。店番は母ちゃんでいいし、山掃除は父ちゃんと、こういう仕組みができるわけですから。そういう意味では、農業問題に限った中山間地対策ということではなくて、もう少し幅広い視野で中山間地対策をやったらいいと思います。

もう一つ。私がアイデアを出しているんです。小さな政府という議論もあるし、公務員の方々が30万人いるわけですよね。これを減らそうと言われてもみんな家庭があるわけですから、そう簡単にはいかないでしょう。昔から「村を変えるのは、よそ者かバカ者」と言われています。だから村にいま必要なのは、よそ者かバカ者なんですよ。だから東京のど真ん中で国家公務員を10年経験した人が、起業する仕組みを作ればいい。日本の国土は8割が山だから、山掃除の会社です。それを特殊法人にすればいい。

なぜかといえば、農地もそうですが山の所有者の税金はタダ同然ですから。代々、相続税がほぼ掛からないので、ずっと持っていくわけです。これが日本の戦略的な国土開発の足かせになっているわけです。だから、山掃除を義務づけるべきです。そして山の所有者は50%自己負担、残りの50%は国が助成金を出せばいいんですよ。その代わり毎年、山掃除をする。

そうすると日本は今、資源不足といっていますけれども、山にものすごい資源がありますし、山を綺麗にすることによって、水が綺麗になる。水が綺麗になることによって、町が綺麗になる。町が綺麗になることによって、民度が上がる。民度が上がることによって、治安が良くなって、アジアをはじめとした世界各国から本社が日本に来る。観光客も来る。山掃除をすれば、いいことだらけじゃないか。そこに公務員の雇用対策を絡めれば一石二鳥です。

だいたい公務員を10万人そこに振り分けると、1社に若者からお爺さんまで揃う。山掃除というのはお爺さんがノウハウを持っているわけですから、若者と一緒に働く。1社で10人くらいの雇用を生むと、約100万人の雇用が生まれる。これぐらいの大胆な政策を、農業をツールにしてやってみてもいいんじゃないかと思っています。

松本:有り難うございます。すごい雇用創出の大きな話になっていますけど(笑)、耕作放棄地というのは大きな問題です。私も大分県で20ヘクタールの畑を運営しているんですが、優良な土地の取り合いなんですよね。例えば「ウチの畑の前の農地が空くから借りないか?」と言われ、出向くわけですよ。「明日にも契約書を持っていくと、東京の人間はこういう紙に判を押させないと気が済まないのかと怒られそうだから」とちょっと時間をおくと、あさってには近隣のたばこ農家に持っていかれちゃうんです。「約束したじゃないですか」と質しても、「ごめんね」と日本酒の一升瓶を持って来て終わりなんですよ。一升瓶はお詫びしたりお礼するときにお金代わりで流通していますけれども、耕作放棄地の問題は、巷では荒れ果てていると言われているようですが、いいところにはみんなツバを付け合って、飛び付くんですよね。

耕作放棄がなぜ起こるかというと、やはり人口が減って食い扶持が減っていますよね。高齢化によって、沢山食べなくなりますよね。当たり前のことといえば、当たり前のことなんですよね。しかも生産性が上がっている。それを農業で再生するということは、非常に難しいです。僕は2000年代の前半に投資顧問の会社の経営に参画していたとき、ある政党にパワーポイントをお持ちしました。何を訴えたかというと、「山の水を良くしないと、農業が良くなるわけがないじゃないですか」と。そして日本の水産業も基本的には工業化が進んでいて、養殖が盛んですから、山から流れて来る、養分をたくさんふくんだ水はとても重要です。

山を変えないことには何も変わらないわけです。農林水産業といっているものの、その一番上流の山を変えないと話にならない。その受益者は誰かというと、農業だけじゃないんですよね。農林水産業で見ても、林業が良くなれば農業がよくなって、農業が良くなると水産業が良くなるはずだというチェーンの中で、農林水産省だけが考えるのではなくて、もうちょっと横断的に、大きな枠組みの中で考えていく必要があるんじゃないかという気がします。

最後に、これからの日本の農業をどうしていくべきか。ではここにいる我々は、何をしていくべきかというお話を、一言ずつをいただければと思います。

日本の農業というものの幅の広さと懐の深さはとてつもない(末松)

末松:行政の立場からずっと携わってきてつくづく感じることがあります。日本の農業というものの幅の広さと懐の深さはとてつもない。日本の農業の生産力も、国際的にみると、同じ面積あたりでできるのは、カロリーベースでイギリスの4倍、アメリカの10倍、オーストラリアの100倍になります。日本の農業にはそういう力強さがあるんです。

一方、耕作放棄の話もそうですが、農地によって生産性が高いところと低いところがあります。やるべきことは二つです。生産性が高くて、さらに発展できるところは、どんどん企業に入っていただいて、強い農業をつくっていただくことが大切です。もう一つは、生産性は低いけれども、それを綺麗な形で保っておいたほうがいいということについては、国民的なコンセンサスをどうつくるかということだと思います。

その二つをいつも混同して、「農業に補助は要るか要らないか」と議論している。それは要るところもあるし、要らないところもあるんですね。「もっと規制を緩和すれば農業は強くなるはずだ。だから補助しちゃいけない」というような、短絡的な議論ではないと思います。

「我々に出来ること」という点でいえば、ビジネスとして発展するべき余地がすごくある。その部分の進め方というのは、いろんな事例が出てきて本当にびっくりするんですが、先進的な取り組みをどんどんと横にうまく広げていくというのが、やっていただきたいことです。そのうまくいった事例を、今度はその地元の農家の人たちに味わっていただいて、「良かったな」と思ってもらうようなことをしていくのが大切だと思います。

10年前は企業の農業参入というと、絶対にダメだと言われていたのが、ここまで変わったということで、今までなかったビジネスのチャンスが、国内にもできたということです。当然、そのノウハウをそのまま海外に持っていくことで、海外でのビジネスチャンスにもなると思います。

松本:有り難うございます。最近でいうと都市部から農業を体験しに来るとか、あるいは農業も守らなければならないからお手伝いにということで、木内さんのところにも沢山人がお越しになっていますよね。そういう中で、木内さんがこれから農業をどうしなければならないと思っているのか、あるいは今ある農業ブームの中で、違和感を覚えていらっしゃるようなところもあれば、最後に一言、締めとしていただきたいと思います。

世界最大級の東京農業祭を開催すべき(木内)

木内:今の農業が産業として収益が中々上げられないというのは、一言でいえば農産物が安いんです。我々のように加工をしたりいろんなことをやっても、農産物は採算割れしています。これは事実です。日本の農産物の生産額は約8兆円、輸入が約6兆円、合わせて14兆円ぐらいのものなのに、消費者がお金を払っているのが85兆円です。間にいるのはJAと、市場と、中卸しと、スーパーマーケットと、外食産業ですから。川上・川中・川下の全てがヒーヒー言っていますよね。アルバイトを使って、経営がやっと持つかという状態で、決して取りすぎではないんですよ。実は一番得しているのは、「消費者」です。結果的に消費者が最大の受益者になっています。これを標準と思ってしまう、間違った食育がいま危険だと思っているんです。

フランスには「マルシェ」という市場のスタイルがあります。フランスにもスーパーマーケットがあるわけですが、なぜマルシェが根付くのか。これは食育がしっかりしているということなんです。例えばパリの農業祭。毎年2月に約2、3週間、パリのど真ん中に牧場が来る。リンゴや何から、農産物が集まるわけです。それを都会の人たち、100万人以上が見に行くんです。これにならって、世界最大級の東京農業祭を開催したらいいと、私は言っているんです。日本の場合は1カ月間やったらいい。おそらく経済効果として1000億円ぐらいいくんじゃないかと思います。パリと同じように、農場の人がブースを持って、子どもでもわかるように、細かくその農場の取り組みや作業形態を話すんです。これを毎年毎年、続けるんです。それによって、未来の消費者が、1回は安いスーパーマーケットで買うけど、1回はマルシェで買いましょうということになる。こういう緩やかな食育と価値観が埋め込まれていくわけです。

日本にマルシェだけ持ってきてそのままやっても、これは無理です。都会の消費者たちは、マルシェのほうが面白そうだと言って行くでしょうが、その後すぐ頭に浮かぶのは、「直接農家が持ち込んでいるんだから、スーパーより安いでしょうね」という発想ですよ。今でさえ壊れている価格を、どんどん壊してしまうわけです。だから、それをもう1回仕切り直すために、アジアや世界各国から見に来るような、大規模な東京農業祭を開催すべきです。それというのも、日本の農業の技術は圧倒的に世界一だからです。もはや砂漠のど真ん中でも、生野菜サラダを提供できるぐらいに、日本の農業はイノベーションを遂げています。この部分はむしろ、他の産業の方々とどんどんジョイントして、もっとスキルアップするべきだと思います。そういう意味で、日本の農業の技術的なポテンシャルはかなり高いんです。

これからは日本は資源大国になると思います。水ですよ。水を中心としたビジネススキームであったり、水を中心とした外交であったり、水を戦略に持った経済ビジョンをつくっていけば、かなり有効なビジネスを展開できると思います。その中の代表的なものの中に、農業があると思います。

農家の人たちというのは、寒い中でも作業したり、決まった休みがなかったりということで、可哀想だとか大変だとか、よく視察に来る方が言うんですけれども、これは自分が選んで基本的に好きだからやっているんです。あまりそういうイメージをクローズアップして、農業保護するという考え方は、有効じゃないなと思っています。

松本:有り難うございます。農業再生というテーマでお送りして参りましたが、元気のいい人がいらっしゃるものですから、再生しなくていいんじゃないかというムードになっています。このままどうぞ頑張ってくださいと言いたくなる部分もありましたが、巷でよく言われる農業の問題について、深刻な問題もあれば、解決策がしっかり見ているものある。また、みんながみんな苦労しているわけではなくて、やりようによって上手にやれている人がいるというのがこの世界で、非常に元気づけられました。

そして日本は、本当に水が豊かですよね。ピーマンの畑2000平米に1日どれだけ水を撒くかというと、3トンまきます。砂漠になってしまった国で、これから作物を植えようとしても、植えられません。その前に飲ませてくれよっていう話ですから。それを考えると、我が国は非常に豊かです。日本の農業というのは、もしかするとこれから輸出産業としてますます活力が出てくるのかなという気がします。

そういう意味では皆さん、ひょっとすると期待外れだったかもしれません。日本の農業は壊滅的で大変だという話を聞こうと思っていた方には、ちょっと拍子抜けだったのでしょうが、これからQ&Aに入っていきます。

農業と食育、医療費の意外な関係

会場:2点、質問させてください。一つ目は食育です。私の友人が毎年、2月頃にアメリカの農務省が主催しているカンファレンスに出ています。医療費が毎年毎年、アメリカも上がってきているので、肉を食べすぎてはいけないということで、これからは野菜や果物をつくるということに対して、補助金を中長期的に出していく。それによって医療費を抑えたいという話があったそうです。アメリカで本当にそんなことができるのかという気がしましたが、日本の食育において中長期的に何か策があればお伺いしたいと思います。

もう一つも同じカンファレンスの中で出た話です。1960年に世界の人口は30億人、2000年に60億人ということで、人口が2倍になった。農地はこの40年間で、2割ぐらいしか増えていない。そのカンファレンスで、土地の改良を行う中で非常に大事なリンとカリウムは、アメリカの2社がグローバルなシェアを70%から80%取っている、という話がありました。食べ物が入らないということよりも、ひょっとしたら土地を改良することが止められたら、大変じゃないかと思いました。この2点について、ご意見があれば是非伺いたいと思います。

末松:食育については、1980年頃にアメリカが日本の食を真似ようということで、マクガバン報告(1977年)というものを出したことがありました。そういう意味では、日本の食生活はアメリカに比べていい。ただ、理想的だと言われていた1980年ごろに比べて、日本も脂の摂取量が増えている。それに伴って、成人病が増えている。その相関は、非常に見事に表れています。

食事を昔に戻せというのは、何かアナクロで私たちは言わないんですけれど、その価値というのはすごくあると思います。アメリカがそのとき、今と同じようなことを言いました。途上国では飢餓によって、栄養問題が起こって大変だと。先進国のアメリカは飽食によって健康問題が起こり、医療費が度を超している。こんなバカなことはやめようということは、30年ぐらい前にも言っていましたが、今も改めてそういう認識をしているということだと思います。

日本はアメリカに比べると、かなりいいんです。だからアメリカでは先進国でありながらいい食生活で長寿を保っている日本がもてはやされたわけです。日本食ブームもはじまりました。私たちは脂の消費が増えていて危ないと言いますが、アメリカに比べれば相当いい状況です。それでも着実にアメリカ型に向かっていて、その進行が止まっていないという心配があります。そこを変えていくということは、先程の医療費の話などで非常に大きな影響があると思います。

食料自給率の話とは論理的には関係ありませんが、日本型の食生活に戻っていくことによって、日本のものを食べることも増えるということで、これから効果があるんじゃないか。いま栄養士の人たちが、正しい食生活をしましょうと啓蒙しています。そうすると、日本の農業も良くなるという宣伝をしてくれています。こういうことを共に進めていければいいんじゃないかと思います。

木内:リンというのは、鳥のフンなんです。リン鉱石は、コウモリのフンなどが堆積した山です。日本は畜産も大変盛んで、畜産の糞尿が土壌汚染をしているというぐらい余っています。ここも先程言ったように、農業が分業化したことによって弊害が起きているんです。ここの交通整理をすれば、日本の肥料は自給できるんです。

我々はバイオエネルギープランということで、実はゴミ屋さんもやっているんですね。要は都会のスーパーマーケットから食品残飯がバンバン来るわけです。そしてこれを有料でもらうわけです。そこからエネルギーを取り出して、液体肥料を作って、畑に入れていくということをしています。その中で足りないのは、リンだけなんですね。リンは卵の養鶏場と組んで、我々は100ヘクタールぐらい自給できるようになっています。

これはウチのプラントが小さいから100ヘクタールなんですけれど、大きいプラントを造れば全面的に自給できます。技術的にも可能です。

会場:北海道でベンチャーキャピタリストをやっているものです。北海道の話をしたいと思います。北海道の食料自給率は200%で、いま北海道の農政に提言しているのは、エネルギー自給率を100%に上げると、自動的に食料自給率は上がりますが、それにもうちょっと生産性を上げる云々、先程の直接補償の話などが入ってくると、もっと農業の生産高が上がってくるでしょう。これを400%まで上げて、北海道の農業を輸出産業に変えようという話を地元ではしています。北海道の農業と観光はある意味でセットですが、これと食品製造業を合わせて3兆2000億円〜3兆5000億円ぐらいになります。これが北海道の一番の基幹産業です。

当社はベンチャーキャピタルだけでは難しくて、自社だけで500ヘクタールのワイナリーを持っています。その隣町には日本で一番大きな1800ヘクタール、3000頭の牧場が町営であって、この民間移行計画を当社で作らせていただいています。ほかに水産業の応援もしています。

その中で一つ問題になっているのは、実は就農の部分で、何とか企業型の農業が北海道でもっとうまくいくようになってほしいと思っています。僕らはベンチャーキャピタルですが、その事業をやったことのない人に1億円を投資することはあり得ないわけです。しかし農業の世界ではそれが起きています。悪しき制度もあって、借金を抱えて農業がうまくいかなくなってしまった人たちも沢山いるんです。ちゃんとした農家でしっかりとした就農の仕組みを作って、最初サラリーマンで農家をやって、その後、独立したい人は自分で農家をやればいいし、サラリーマンで農家を続けるのもいいし、そういう形にできないのかと思っています。その辺りで、何かアイデアはないでしょうか。

松本:私のところで今やっているのは、今どこの行政に行ってもだいたい2年間ぐらい新規就農のプログラムがあるんですね。だいたい補助金の月額が15万円です。でも2年間でいきなり放り出されても、貯金を食いつぶすわけです。そして何をするかというと、ウチが3年間お預かりしましょうと。2年勉強した人を、サラリーマンで3年間雇いますよと。この人たちに、1年間はまず学んだことをきちんと実践してみてください。2年目は、こうやったらもっといいじゃないかということを、いくつか提案してやってみてください。3年目はそれを我が社のナレッジにして、卒業していってください。その間は安定した給与保障がありますから、その間にライフプランを考えて蓄えを作って、それから出ていきましょう。

そうしないと何が起こるかというと、2年で放り出されると貯金を食いつぶすんですね。100馬力のトラクターを買うと1200万円。これでは北海道で大農場やろうと思っても、無理じゃないか。九州に行ってハウスを建てて付加価値の高いものをやろうと思っても、1000平米のハウスで1000万円。結局どこにいっても、1000万円は必ず掛かるんです。1000万円では食えないんですね。

だからウチで3年間お預かりして、独立したければそのまま独立してくださいという制度を、これは中刷り広告でリクルートさんの3年限定社員を見ながら、「いただき」と思って入れた制度なんですけれども、いま我が社でも20代30代の男性がそれぞれいます。

木内:もう終わりなので一言。北海道のどさんこ館を東京に造っていて、東京の人々に大人気ですよね。これを、中国やシンガポールやオーストラリアなど、海外にも造るべきです。これが公益資本主義であり、農商工連携です。農家ばかりに焦点を当てないで、ラーメンのプロやタレのプロ、流通のプロと組んで、トヨタ方式でトヨタが行ったら、デンソーも来るのと同じように、北海道からアジアに行ってやったらどうかと思います。

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