TABLE FOR TWO小暮真久氏×チャリティ・プラットフォーム佐藤大吾氏×ETIC.宮城治男氏「社会起業はとにかく面白い」 

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児島:パネリストの皆様をご紹介いたします。「TABLE FOR TWO International」事務局長の小暮真久さん、「チャリティ・プラットフォーム」理事長の佐藤大吾さん、「ETIC.」代表理事の宮城治男さんです。ファシリテーターは私、グロービス・グループ代表室長の児島が務めさせていただきます。

このセッションには「社会起業家」という言葉に強い関心を持っている方が集まられていると思います。今後社会起業家としてキャリアを歩まれることを考えたことのある方は、どれくらいいらっしゃいますか(会場ほとんど挙手)。ああ、ほとんどですね。今日はこうした方々が聴いておられることを念頭に、話を進めていきます。

まずパネリストの方々に、自己紹介をお願いしたいと思います。まずは宮城さんからお願いします。宮城さんは、「日本にベンチャースピリットを」という想いとともに、インターンシップなど起業家を養成するための様々な仕掛けを16年間続けてこられました。また社会起業というテーマにもいち早く取り組み、今メディアで注目を集めている病児保育のNPO法人「フローレンス」の駒崎弘樹代表など多くの社会起業家を育て、日本の社会起業シーンを見守ってきました。いわば社会起業家の“お父さん”のような存在です。

社会起業家の養成機関「ETIC.」

宮城:よろしくお願いします。ETICの宮城と申します。ETICとは、“Entrepreneurial Training for Innovative Communities”の頭文字をとったもので、次世代を担う若者への機会提供を通じて、起業家型リーダーを輩出し、社会にイノベーションを生み出すことをミッションとして掲げています。まずは簡単に概要をご紹介させてください。

1993年に早稲田大の学生団体としてスタートし、2000年に法人化しました。これまでにインターンシッププログラムに学生2000人以上、企業650社が参加し、200人以上の起業家を輩出してきました。規模としては、年間予算が1億5千万、25名ほどのスタッフで活動しています。事業の柱は大きく3つ。インキュベーション事業、起業家型リーダー育成事業、そしてコミュニティ展開事業です。

「インキュベーション事業」は、社会の課題に挑む20〜30代の若い人たちを対象に、そのスタートアップのチャレンジを応援する事業です。2001年にソーシャルベンチャーセンターを設立して、この活動を始めました。02年にはNECとの共同で、社会起業家塾をスタートしました。これまで30数組の起業家を、この塾から輩出しています。2年目の03年以降、この塾を卒業した人は全員継続して事業を行っています。

次に「起業家型リーダー育成事業」ですが、インターンシップによって、ベンチャー企業のイノベーションの現場に若者を送り込み、次世代リーダーとなる人を育てる事業です。若者たちは、それぞれ半年〜1年ほどの長期に渡るプロジェクトを、ベンチャー企業と一緒に手掛けていきます。これまでに2300人がこのインターンシップ制度を利用しています。そのうち150人が、経験を活かして創業しました。

例えばソーシャル・ネットワーク・サービスのミクシィ創業期に送り込んだインターン生は、ミクシィの成長と共に役員に昇格し、その後独立して、NPOなど社会的な活動を支援するオンラインサイトを立ち上げました。彼は社会起業家として、次のステップを歩み始めています。

「インキュベーション事業」と「起業家型リーダー育成事業」を全国に横展開していくため、コミュニティ展開事業を行っています。ETICが東京でやってきたことを、地域で活用していただいている組織が、現在30ぐらいあります。その中で15地域ぐらいが、インターンシップを事業化しています。さらにその中で10地域ぐらいが専業として自立しています。地域の産業でイノベーションを起こしていく。新しいチャレンジの場に若者を送り込んで、次世代の育成と地域の活性化が循環する仕組みをつくる。これを日本全国で起こそうとしているところです。

NPO版帝国データバンク「チャリティ・プラットフォーム」

児島:それでは続いて佐藤さん、よろしくお願いします。佐藤さんは、大阪大在学中に3つのベンチャーを立ち上げられた生粋の起業家です。2000年には政治に関心を持つ学生を秘書として議員事務所へ派遣するNPO法人「ドットジェイピー」も設立、NPO法人運営の面白さと難しさを肌身で感じてこられています。現在は「日本に新しい寄付文化を」との想いのもと、全国5千〜6千ものNPO法人に直接ヒアリング調査をし、企業とNPO、個人とNPOの新たな架け橋をつくろうと、奔走されています。

佐藤:チャリティ・プラットフォームの佐藤です。まだ設立3年目に入ったところで、ETICさんに比べると生まれたてで、よちよち歩きのNPOです。私は、かれこれ12年間、ベンチャーとNPOの経営という、二足のわらじでやってきています。営利の世界の経営者と、非営利の世界の経営者の両方を兼務してきました。今は時間の99%をチャリティ・プラットフォームの経営に割いています。

非営利事業を志している方が多いとのことで、一言申し上げます。正直、ビジネスとして捉えたら、極めて難しい分野です。同時にみんなが「難しい」というので、返ってやりがいにつながる部分もあります。「みんなができないんだったら、僕がやってやろう」という気持ちになるジャンルです。

チャリティ・プラットフォームの事業内容を一言で表現すると、「NPOを応援するNPO」です。従って、現場を持っていません。世の中には、貧困地帯を援助するために井戸を掘っているNPOや、介護を支援しているNPOなど、現場で活動している様々なNPOがありますが、我々は現場で活動するのではなく、NPOを主に財政面から支援するNPOです。

「チャリティ・プラットフォーム」という名前の通り、「日本における寄付文化の創造」をミッションに掲げています。その手段として3つの柱があります。日本で最も信頼性の高いNPOデータをまとめ、信頼性の高いNPOの情報を公開すること。会員サービスを通じて、社会貢献と企業・NPOを結ぶこと。企業とNPOが相互にwin-winとなる社会貢献の関係構築を提案することです。

規模のことを最初に話します。私は「村上ファンド」で有名な村上世彰さんと、10年来のお付き合いがあります。村上さんは私が経営する営利企業には興味を示さず、むしろNPO活動のほうに関心を持たれました。そしてNPOについて色々情報交換をしているうちに、「NPOを支援する仕組みがこの国にないよね。だからそれをやるのは面白いね」という話になり、2004年から構想を持ちました。

幸運に恵まれ、村上さんが立ち上げを支援し、資金を拠出して下さったおかげで、設立当初から10億円の資本金がありました。そこからさらに、約2億円の寄付を集めることができました。ですから現在は、合計12億円くらいの規模です。

チャリティ・プラットフォームにお金が入ってくる仕組みは、いくつかあります。

一つは、「チャリティーというのは、確かに社会基盤として重要だよね」と共感して下さる企業と個人の方々から、寄付を頂いています。我々の知名度と実績が高まれば、寄付金額は増えていくと予測していますが、今のところは営業を掛けてお願いに回るしかありません。とにかく「まだ生まれたばかりで実績はありません。一口夢に乗ってもらえませんか」といった具合にやってきました。

我々が初めに接触するお客様は、NPOです。NPOがお客様なので、本音を言うとNPOからお金を頂きたい。「受益者負担」の発想でいくとそうなります。しかし、社会起業の分野では、必ずしもサービスの受益者からお金をもらえるとは限らないわけです。それこそホームレス支援をやっている方は、ホームレスの方からお金をもらうわけにはいかなので、別の人からいただく。これが寄付にあたります。寄付の大きなプレーヤーは企業です。企業の力を借りて、社会貢献するNPOを支えていくのが、私たちの基本的なモデルです。

例えば店舗に募金箱を置いていただいたり、商品を買うと一部が寄付に回ったりと、様々な仕組みや仕掛けを色々な企業にご提案していきながら、あるいは企業からのご相談にお答えする形で、寄付金を集めています。

また、いま流行りのコーズ・リレーテッド・マーケティング(Cause Related Marketing)などの分野でコンサルティングサービスを提供していて、この報酬が収入の大きな柱になっています。企業の戦略の延長上にある提案をして、「こういう風に社会貢献の戦略を立てましょう」とコンサルティングを行うわけですから、極めて民間のコンサルティング会社に近い側面も持っています。

最大の強みは、3万6千団体あると言われているこの国のNPO法人の、大規模なところから順番に約15%、数にすると5千〜6千団体の経営者の方々に直接お会いして、ヒアリングしたデータを持っていることです。寄付していただく企業や個人にご迷惑をお掛けしないよう、アカウンタビリティを果たしくれるかどうか、コミュニケーションを円滑に取れるかどうかなど、20項目ぐらいのポイントをチェックしています。

さながら“上場基準”のようなものをつくって、企業に紹介できるレベルのNPOなのか判断するわけです。イメージとすれば、NPO版の帝国データバンク。与信調査をできる状態になっています。そこが今のところ大きなウリになっているのかなと思います。それをクリアしたNPOは、現在までに131団体あり、まずはこの131団体を集中的に支援するというところから始めています。

途上国と先進国を20円でつなぐ「TABLE FOR TWO」

児島:では次に実際に現場を持って活動されている小暮さん、お願いします。小暮さんは、マッキンゼー・アンド・カンパニー、松竹と、キャリアを歩まれてきましたが、大きく車線変更をして、社会起業の道に進まれました。TABLE FOR TWOの活動を紹介した著作は、今、あちこちの書店でベストセラー入りしていて、注目を集めている社会起業家の一人です。

小暮:TABLE FOR TWOの事務局長をしています小暮です。この中で先ほど紹介頂いた、僕の本を読んでくださった方はいらっしゃいますか。『“想い”と“頭脳”で稼ぐ 社会起業・実戦ガイド 「20円」で世界をつなぐ仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)という著書です。本の表紙には私がどアップで写っています。「目立ちたがり屋だなあ」と冷やかされるのですが、別に自分の顔をアピールしたかったわけではありません。裏表紙と合わせて見ると、アフリカの子どもと食卓を囲んでいる写真になっているのです。TABLE FOR TWOの活動を象徴するこの写真をどうしても使いたかったので、表裏で1枚の写真として見られるようにしました。

いま私がしている活動というのは、本のタイトル通り、「20円で世界をつなぐ」という仕事です。日本のような先進国とアフリカ諸国のような開発途上国。この2つをつなぐ仕事をしています。どのようにつなぐのかというと、企業の社員食堂が主な舞台です。

社員食堂に、「TABLE FOR TWO」のロゴがついたメニューがあります。それは食堂によくある定食のようなメニューですが、普段皆さんが召し上がっているものより2割くらいカロリーが控えられていて、かつ栄養バランスが取れています。さらにこの食事の価格には、寄付金が20円加算されています。この寄付金はTABLE FOR TWOを介して、アフリカの小学校の給食費に充てられます。

この20円には大きな意味があります。貨幣価値の低いアフリカに持っていくと、温かい学校給食が1食買える値段なのです。日本では、「メタボリックシンドローム」という言葉をよく聞きますよね。食べ過ぎが原因でなる合併症です。少しだけ食べる量を抑えて、その分をアフリカに届けると、1食分生まれる仕組みなのです。義務感から行う寄付とは違い、自分自身も健康になれるメリットがあります。

世界には約67億人の人々がいると言われていますが、そのうちの10億人は、飢餓や栄養不良に苦しんでいます。その一方で、私たち日本人を含めて同じくらいの人口が、食べ過ぎによって病気を患っています。

なぜ飽食の国と飢餓の国があるのか。日本は、食料の6割を海外から輸入しています。それはアフリカも同じで、国内で生産する食料だけでは足りません。各国は、“グローバル・フード・マーケット”から食べ物を買っているわけです。すると、お金がある国は競り落とせますが、お金がない国は競り落とせないことになります。食料の配分がいびつな形になっている。それを私たちは何とか正していきたいという想いで活動しています。

社員食堂だけではなく、レストランやカフェなど、とにかく「食」があるところであれば、どこでもこの活動にご協力いただくことができます。それこそ自宅でご協力くださっているお爺さん、お婆さんもいらっしゃいます。

日本だけでこの活動をしていても意味がなくて、米国やヨーロッパなど他の先進国にも広げていかないと、食料の配分の不均衡は是正されません。ですからこの活動を、世界に広げていこうとしています。今年5月、米国でもTABLE FOR TWOのプログラムを開始することができました。インドでも11月頃をめどに本格展開しようと計画を立てています。

ビジネスモデルという観点からすると、20円のうちの一部、20%を運営費として頂いていますが、計算すれば分かるように非常に薄利です。いわゆる限界利益率は非常に低いです。これでは1000社くらい協力企業を獲得しないと、事業を継続していけません。現在は、レストランチェーンやコンビニとのコラボレーションなどもう少し収益率の高いモデルをつくろうと模索をしています。

社会起業家が乗り超える壁

児島:私はTABLE FOR TWOの事務所に伺ったことがあって、乃木坂という都心に事務所を構えているのですが、部屋の中はとてもシンプルです。いい場所を確保して営業基盤を整えながらも、資産は持たないという方向で活動していらっしゃいます。先程1000社ぐらいの企業に協力していただかないと成長しないとおっしゃっていましたが、伸びはすごいですよね。昨年の暮れで、累計で給食の提供が34万食だったものが、半年経った今年6月10日現在で103万食となっています。急激に伸びているわけですが、どれくらいの時期に、安定走行に切り替わるというイメージを持っていらっしゃるのですか。

小暮:何とか来年、単年黒字化を達成したいと思っています。そのときに社員食堂モデルだけでブレークイーブンまで行くのは難しくて、先程言ったように、他の利益率の高いモデルを織り交ぜていかないと、単年での黒字化は厳しいと考えています。

児島:佐藤さんのモデルではいつ頃、自分の思い描くところに持っていけそうですか。

佐藤:ブレークイーブンのポイントは、固定費の積み上げで見ています。7千万〜1億円ぐらいあれば、ずっと続けていけます。NPOリサーチの仕事が非常に重かったのですが、これがもう終わったので、固定費は今ぐっと下がってきています。強調しておきたいのは、収益をイーブン以上にするというのは当たり前であるということ。株式会社だろうとNPOだろうと、しっかりと売上げを確保しないと潰れます。しかしNPOにとってもっとも重要なのは、どれだけの人をハッピーにするかであって、私どもは人数目標を設定しています。

米国には大富豪が巨額の資金を寄付する文化があり、税制も全く違うのであまり参考にならないのですが、例えば比較的制度が似通っていて、日本より進んでいる英国の例を見ると、彼らは、「雇用者のうち、15%をNPOセクターの従業員にします」といった数値目標を掲げています。

今メルクマールにしているのは、支えてくださっている会員の数。そしてもう一つは、ボランティアの数です。10万人を超える会員を持っているNPOは、私の知る限り日本で一つくらいしかありません。ほとんどのNPOは10人、100人規模です。これでは社会的活動は広がっていかない。例えば楽天さんは大きな会社ですが、メールアドレスを5千万件持っているそうです。私は一つの目安として、100万人を目標にしています。少なくとも人口の1%の会員を抱えることができれば、世の中にちょっとはインパクトを与えるような変革が起きていくのではないかと思っています。

児島:今日は社会起業を目指している方が大変多く集まっているようなので、どんなステップを踏んでいけばいいのか、具体的なイメージを持っていただけるような質問を多くしようと思っています。小暮さんの中では、「すでにひとつの壁を越えた」という感覚をお持ちですか。 それともまだ大きな壁があるのでしょうか。

小暮:最初1年ぐらいのフェーズは、誰にも知られてない状況。砂漠に水をまくようなものでした。自分が何者なのか、NPOとは何なのか、TABLE FOR TWOは信頼できる存在だということを説明しなければいけない。だから、企業に対して私どもの提案の導入をお願いする前に、私自身が決して怪しい人間ではないことを分かってもらうことから始めるということです。個人的には一番辛い時期でした。

ラッキーだったのは、ちょうど1年が過ぎた頃に、いわゆる「メタボ検診」という、企業に社員の健康管理強化を求める法が施行されました。これがブレークポイントになったんですね。実は企業が取れるメタボ対策の選択肢は限られていて、例えば福利厚生でスポーツジムと契約して、社員に通うことを促しても、ジムに行けないほど忙しいからメタボになってしまうわけです。

その中で私たちの活動を、メディアが大きく取り上げてくれました。これが第2フェーズと言っていいでしょう。その時期を境に、ぐっと参加企業数が伸びています。それまではどちらかといえば、社会貢献のプログラムのうちの一つとして採用されていました。それが、健康に対するプログラムとしても取り入れていただけるようになったんです。

今はその次のフェーズに進みつつあると思っています。以前はそもそもTABLE FOR TWOを知らないケースがほとんどでしたが、今は知っていても、取り入れていただけない理由があるケースが多いです。その分、ハードな交渉をしたり、知恵を絞る必要があります。

児島:元々学生団体だったETICさんは、1993年に設立以来、どのようにして高い壁を越えてきたのでしょうか。

宮城:毎日が壁にぶち当たっていたという感じです。その一方でスタート以来、身の丈に合った事業を展開してきたので、そこまで無理をするということはありませんでした

あえて壁ということで言えば、元々学生団体だったのでボランティア組織だったんですね。ボランティア組織を昇華させて、企業の方から会費をいただきつつ、事業化をしていこうと腹をくくったのが1996年のことでした。あえて言えば、これが大きな壁だったと思います。

今感じているのは、これまでのノウハウを日本全国に拡げていく横展開のスピードでしょうか。先ほど言ったように、30程度の地域に広がっていますが、それを江戸時代の藩の数、300ぐらいまで増やせるような基盤やモデルを確立することが、大きな課題です。

社会起業的キャリアのススメ

児島:宮城さんは事業を始めて16年になりますよね。ここからまだまだ、越えていかなければいけない壁があるということで、大変な長い道のりでもあるし、簡単ではないという事が皆さんお分かりいただけるかと思います。なぜこの道に踏み込んで、ここまで続けてこられたんですか。

宮城::小さいころから衣食に満ち足りた有り難い環境で育ってきましたが、日本社会というのは一方で、チャレンジする人たちの足を引っ張るような側面もあると思います。その閉塞した空気を変えたいという、漠然とした想いをずっと持ち続けてきました。そのために何ができるかを、ずっと考えている中で、社会起業というテーマにも出会いました。

社会起業の面白さというのは、まだ誰も形にしていない領域に入ってチャレンジしていくところにあります。それは道なき道を進むことです。先が見えません。それでも打ち込めるだけの覚悟を持って取り組めば、第一人者になれます。私は学生時代にサークル活動を始めただけで、この分野では第一人者になってしまったわけです。そうすると色々な場や勉強会にも声を掛けていただけるようになるし、縁が広がっていくんです。

自分の利益のみにこだわっていては拓けてこないものが、いろいろな方々のご協力をいただくことが出来る。そして、「空気を変える」みたいな掴み所のないテーマに対して、社会を巻き込み、短期間で、大きな影響を与えていくことが出来る。非営利で中立なスタンスで、大きなテーマに挑んでいくのは、とてもエキサイティングです。

児島:同じ質問を佐藤さんにもしたいと思います。何が面白くてNPO活動を続けているのでしょうか。

佐藤:NPO法人は3万6千団体あります。法律ができてわずか10年ですから、一気に増えたと思われるかもしれませんが、株式会社は100万社あると言われていますので、それと比較するとまだまだ数が少ない。従って、必然的にNPOは目立つわけで、やりがいを感じやすい環境に身を置くことができます。変わった分野でチャレンジを始めるからこそ、こうして今日のように、意見を言う機会も与えてもらえます。

私は5〜6千人のNPO経営者にお会いしました。私もNPO経営者に、今のご質問のように、「なんでやっているんですか」と聞くんですが、きれいなビジネスモデルを描いて始めた人は皆無です。そうではなくて、自分が当事者として非常に困った環境に置かれた方が多い。例えば、自分の子どもが障害を持って生まれてきた。行政と交渉しても全く埒が明かない。自分で何とかしようと立ち上がって、ふと周りを見渡すと、同じように困っているお母さん方がたくさんいて、一緒に団体をつくった。そういう経緯がほとんどです。

収支計画を書いたこともなければ、事業計画を書いたこともない。プレゼンテーション資料も、優れたものではありません。しかし、魂とかハートとか共感はすごくあるんですよ。企業や政府では解決できない社会問題があるから、NPOが生まれる。設立される数が多いから注目されていませんが、残念なことに志半ばで断念してしまう団体が多いんですね。事業の継続性が確立できないので、特に男性はやめてしまう。NPOセクターにおいては、「男性の寿退社」という言葉がメジャーになっています。家族を食わせていけないから結婚を機に企業に就職してしまうわけです。

そういうことから考えると、もはやNPOが潰れていくこと自体が社会問題ではないか。そう思っているわけです。私自身、12年間のNPO経営の経験を経て、この問題を切実に感じていたので、NPOを財政的に助けていけるNPOを設立したわけです。そこが当事者としての、そもそもの動機です。

児島:小暮さんにも同じ質問をさせていただきます。マッキンゼー・アンド・カンパニー、松竹といった優良企業に勤務されてきたのに、何が面白いと感じてNPO活動をしているのでしょうか。

小暮:マッキンゼーはコンサルティング会社ですが、辞める間際にすごくお世話になった社長から、「あなた実業をやっていないでしょ」と言われました。「確かに人へのアドバイスしかしていない」と、実業の世界へ飛び込んだんですが、そこでもなぜか燃えるような感覚が得られない。

そこで自分自身をじっくり振り返る時間を作ったんです。そして、「ありがとう」と人から感謝されるとき、鳥肌が立つほど感動することに気付きました。それをどうすれば自分の仕事で確立できるだろうかと考えたときに、社会性と事業性の双方を兼ね備えた仕事が合っているのではないかと感じたんです。

実際にNPOで活動をしてみて、もちろん辛いこともたくさんありますが、日々楽しく過ごしています。この活動には、誰かに必ず喜ばれるゴールがあります。かつ手伝ってくれている大学生や社会人ボランティアと、自分の価値観をシェアできます。こういうダイナミズムは、他のどんな仕事でも得られないと感じています。本当にやりがいのある仕事です。

社会起業家は世界を変えられるか

児島:対処すべき問題があって、皆さんそれぞれ、活動を始めたわけですが、その活動によって日本をまたは、世界を変えられるでしょうか。

佐藤:「変えられると信じてやっている」というのが本音です。行政では賄い切れない分野があるし、企業ではやり切れない分野があって、そこを市民自らが解決する。その形がNPOであると思います。しかしこのセクターが、米国や英国と比較すると、あまりにも小さ過ぎる。人材がいない。私の恩師は「役所を辞めて民間企業に移る場合は『飛び込む』というが、企業を辞めてNPOに移るのは『飛び降りる』だよね」とよく言います(会場笑)。今後は増えるとは思いますが、NPOでの経験が企業で活かされ、企業での経験がNPOで活かされるケースは現状、とても少ないです。リボルビング・ドア(回転扉)になってないんです。

例えばチャリティ・プラットフォームのスタッフ20人は、ほとんどが企業からの転職組なので、目標やKPIの設定ということに抵抗感がない。一方で私がお会いしてきたNPOの中には、来年の事業計画がそもそもなかったり、KPIや収入を上げる方法などについて口にすると、逆に叱責を受けるケースも少なくないんです。

NPOは志が極めて高い。これは疑いようがない。一方で、ビジネスマンとしてのスキルやグロービス経営大学院で学ぶようなスキルは、身に着けていない人が多い。志とスキルが接点を持てば、大きな変化が訪れると思います。メーカーにおける新技術の素材がNPOの当事者の想いで、皆さんのように経営を学んでいる方々がCEOやCOOとして助ける立場だと想像していただけると分かりやすいかもしれません。これは非常にいいマッチングなんです。

児島:宮城さんは日本全国の地域をご覧になっていますが、NPOが持っているもの、持っていないものは、佐藤さんが今おっしゃったものと同じだとお考えですか。

宮城:そうですね、そこはまったく同感です。ただ私はもう少し楽観的です。日本人はもともと社会起業家的なマインドを持っている人の割合が多い。自分の人生の価値観と仕事を重ね合わせる国民性だと感じています。「社会起業」という言葉を出すと、「そもそも会社は社会に貢献してこそ存在できるんだ」と中小企業の経営者の方々から叱られることがあります。つまり、地域や社会のために何か役割を果たすことに対して、すごく生きがいを感じる方が多いんです。2代目の跡継ぎ社長とかは特にその傾向が強くて、地域にいかに貢献するかということを真面目に考えている経営者が多い。そして小暮さんのようなきれいなキャリアを描いてきた方々の中でも、最近は何か地域に、社会に貢献したいということで相談に来られることがすごく多くなってきています。今はまだあまり表に出てきていませんが、こうした変化が顕在化するのは、そう遠くないと感じています。

組織の形態は“乗り物”でしかない

児島:まだまだお話をお伺いしたいのですが、ここで会場の方との質疑応答に入りたいと思います。

会場:企業のCSR担当で、障害者を支援する団体と一緒にプロジェクトに携わっています。障害者支援団体は、ほとんどが社会福祉法人ですが、NPO法人だと、コラボレーションがもっと効率的にできるのかなと思っています。もし支援されている団体の中で、社会福祉法人からNPOへ移行した例があれば、教えて下さい。

佐藤:お答えに入る前に、そもそも論をさせてください。NPO法人とか、株式会社とか、財団法人とか、去年の暮れから始まった一般社団法人とか、そういうものはすべて“乗り物”だと思っているんです。ただ法制面から、NPOと株式会社との違いを知っておくことも非常に重要です。

違いを二つ紹介します。一つは当然のことながら、NPO法人は株式を発行できないので、初期投資が必要な事業を起こしにくい。スモールビジネスでスタートせざるを得ません。もう一つは、NPO法人は寄付金が完全に無税であるということ。NPO法人で寄付金をどんどん集めたほうが、有利になります。

では、社会福祉法人をやめてNPOにするのがいいのかというと、実は関係ないです。社会福祉法人には特別な法律がありますから、行政からの関与の程度が大きいですが、そこを無視すればあまり変わりがない。むしろ公益認定を受けている社会福祉法人であれば、個人の寄付金も寄付者にとって優遇税制のメリットがあるので、社会福祉法人の方が良いとも言えます。これが法制面からのお答えです。

ただしもう一つ見逃せないのが、イメージです。NPO法人は小さく捉えられる。社会福祉法人のほうが大きく捉えられる。しかし社会福祉法人は歴史がある分、ご年配の方が多く、機動力があまりないようなイメージがあります。それをどう戦略に組み込むのかということで、乗り物を変えればいいと思います。

会場:グロービス経営大学院の「社会起業家クラブ」のメンバーです。この度ご縁があって、ETICさんのNEC起業塾のコンテストで、審査のお手伝いをしていく事になっています。佐藤さんはたくさんのNPO法人の経営者と接触してこられたわけですが、事業性という観点から見たときに、NPO法人が陥りがちな罠、乗り越えなければならない壁があれば教えてください。

佐藤:NPOを一様に捉えていると、分からなくなってしまいます。受益者は誰か。誰のために存在している団体なのか、はっきりさせることからスタートします。これは何を隠そう、我々自身が陥ってしまったことなので、万感を込めてお伝えしたい。チャリティ・プラットフォームは、「NPOを応援するNPO」と言いながら、企業からお金を頂くケースが多いので、企業のために存在するNPOのような見られ方をするし、場合によっては我々スタッフ自身が、企業のために仕事をしているような気分になりがちなんです。しかし企業のためになっても、NPOのためにならないのであれば、意味がありません。例えばフェア・トレードで、世界の貧困地域でコーヒー豆を作っていて、それを支援しているNPOがあったとします。それを僕らが企業に買ってもらうよう、繋いであげたとする。企業が喜んで「もっと売ってくれ」といい続けてそれに応え続けた結果、児童を働かせなければ生産が追いつかなくなってしまう……。こんなケースは本末転倒なわけです。誰のために存在するのか、それをクリアにし続けなければなりません。

後は事業モデルとして、誰からお金をいただくのか。これは受益者である困った人から直接頂いてもいい。公共サービスはまさにそうですね。アドボカシー、キャンペーン型のNPOでは、共感してくださる方から寄付をいただきます。NPOは社会問題を解決する担い手なので、最善の方法は、たくさんの人に知ってもらうことではないかと考えています。だから私は、薄く広くという小暮さんの事業モデルに共感します。たくさんの方からちょっとずつご支援をいただく。これがNPOには、最も適しているのではないかと思っています。

会場:私もグロービスで学び、その後マッキンゼーにいって、今はNPOでヘルスケア・リーダーを育てる活動をしているのですが、今後のことを考えていった時に、NPO法人というスタイルがいいのか、株式会社というスタイルがいいのか。非常に悩むところです。お三方がなさっていることは非常に社会的で、価値があることだと思うのですが、株式会社にしたほうがよりソーシャル・バリューが出せるのではないでしょうか。

小暮:私は佐藤さんが先程おっしゃっていた、「乗り物の違い」という表現が本当にしっくりきていて、中身によって形態を変えてはどうでしょうか。工場を建てなければならないなど巨額の初期投資が掛かる場合、NPOで資金調達することは不可能に近い。やはり株式市場から調達してこないといけないわけです。TABLE FOR TWOには、大きな事業資産は何もないんですね。人しかいない。事務所も賃借ですし。すると、どんなに大きく見積もっても、初期投資は1000万円も掛りません。創設メンバーの持ち寄りでやっていける範囲のものです。また株式会社でやる場合、社員たちがやりたいことでも、株主が反対するとできないので、構想が頓挫してしまうことがあります。NPOの場合は、その点、基本的に自分たちの事業に対する自由度が高いです。従って、おやりになりたい事業によって、組織の形態を決めたらいいのではないかと思います。

関わり方は様々でいい

児島:最後にお三方から社会起業を目指す方々に一言、期待すること、注意することなど、何でも構いませんのでお伺いできればと思います。

宮城:私は会社かNPOかどちらにしようか相談に来る人に対しては、迷わず、「それ会社でできないの?」と聞いてみます。NPOであるにはNPOでやる覚悟や必然性を明確に持っていないと、「良いことしている」という意識に甘えてしまう傾向が強い。社会起業は、裾野が広い概念だなと思っています。それぞれ各人が、社会や地域の問題の解決のために何ができるのか、思考し行動していくことが重要ではないでしょうか。そう考えてみると、会社員として仕事をしている方々も、自分の立ち位置で始められることがあるはずです。起業する際には、それなりの準備と必然性がいりますが、社会を良くしていくためのアクションは、それぞれ今出来ることから、気軽に始められたらどうでしょうか。その中で必然性が生じたときに、事業を起こす選択をすればいいのではないでしょうか。

佐藤:私どもがサポートしているNPOがたくさんありますので、ちょっとでもNPOなど非営利セクターに興味を持った方は、どんどんお越しいただきたいと思っています。いきなり職を投げ打つ必要はありません。どの分野にどんなNPOがあるのか、つまみ食いをしたい、マーケティング・リサーチをしたいという方は、1日インターンシップも受け付けています。

私どものホームページには、インターンの報告が掲載されています。当事者ではない第三者のレポートというものは、多くの人の共感を呼びやすいです。いろいろな人をNPOの世界に巻き込むために、そういう仕組みをつくっているので、是非ホームページにも遊びに来てください。

株式会社とNPOの違いについては、私は先程、法制度の違いがあるから調べたほうがいいと申し上げましたし、その考えは変わりませんが、現状としてほとんど違いはないです。今や資本金1円で株式会社がつくれるし、利益を分配しないことを定款に盛り込んで、社会起業を標榜する株式会社が増えてきましたから、もはやあまり変わらない部分もある。だから、どういうことに問題意識を持ってやるのかを自分に問い掛けながら、乗り物を選んでいかれるのがいいんじゃないでしょうか。民間がやる公の仕事というのは、非常に面白いですし、自分はもちろん、誰かを幸せにできる仕事だと思います。皆さんにも何らかの形でかかわってほしいです。

小暮:僕はたまたま社会事業を起こすという選択をしたのですが、皆さんもう社会人で家庭があったり、いろいろな事情があるでしょう。TABLE FOR TWOには社会人ボランティアとして、事務所に朝7時に来て、1時間議論して、その後会社に出社して、夜また事務所に来るというスタイルとっている方がいます。「この生活が楽しいし、仕事は仕事で続けたい」とおっしゃっています。22歳の学生で、熱い想いのままに飛び込むというのとは、やはり環境が違う。社会起業というのも一つの選択肢ではありますが、社会事業への関わり方は様々だということです。ご自身を取り巻く環境をよく考えていただければと思います。将来どこかでご一緒できたらうれしいです。

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