フローレンス代表理事・駒崎弘樹氏 −社会起業家という生き方(対談レポート) 

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自分たちが必要とされない社会を創る

田久保:でも今は36名の社員を抱えるリーダーですね。グロービスに通う皆さまのなかでも、ゆくゆくは人を引っ張る立場になりたいと思っている方は多いと思います。駒崎さんご自身はどういうリーダーになりたいと思っていらっしゃいますか?あるいはどういうリーダーたらんとされているのか。まだお若いし、将来なりたいリーダー像はどんなものでしょうか。

駒崎:僕は皆をカリスマ的に引っ張ってきたタイプではないような気がします。皆に生かされてきたというか、色々助けて貰って何とか山を登ってきた感じです。そもそも保育士でも看護師でも医師でもないし、あらゆる意味で素人だったんですよね。たまたま経営をやっていましたが、それも2年だけ。それでも病児保育という専門性の強い分野でやってこられたのは、お医者さん、保育士の方々、看護師の方々、そういうプロフェッショナルな方々の助けがあったからだと思います。僕はリーダー像を思い描いて頑張るというより、こういう世の中になったらいいなと思って、ビジョンになんとか辿りつこうとするなかで、なんとなくリーダーの立場になっていたんじゃないかと思います。

田久保:そこが本当に印象的ですね。よく大学院の入試で、「どういうリーダーになりたいですか」と聞くのですが、「こういうリーダーになりたい」という見方もあれば、そもそも「こういうビジョンを達成するために自分は何をすべきだろうと考えていたら、結果としてリーダーになっていた」と言う方もいます。若くして日本でも最も有名なソーシャルアントレプレナーのひとりとなった今、この事業が一段落した次は何をやりたいと思っておられますか。病児保育とかワークライフバランスがいずれは一段落、あるいは一段落しなくても、いずれ次の世代に任せて、次なる野望が芽生えてくるような気がしますが。

駒崎:僕はこの団体を個人事業にしたくないんです。NPOはだいたい創業者がずっと居続けて、その人とともに団体の生命が終えるのが普通だと思いますが、僕がいなくなってもフローレンスは人々を助け続ける団体いて欲しい。そういう意味では次世代に譲っていきたいから、代表がいなくても組織が回る仕組み、中間マネージャーを育てたりすることは続けてきたいと思います。いつかは社員から次の代表を出したいですね。

それから団体の目標は「子育てと仕事の両立が当たり前という社会」の実現ですが、いつか色んな人たちの努力でそれが実現したとしたら、それでこの団体の使命は終わるんじゃないでしょうか。NPOというのは、自己滅却に向けて進んでいるんじゃないかと思います。そこは企業と違うところですね。企業は株主に対して利益を最大化させ続ける使命があると思いますが、NPOは逆で、自分たちが必要とされない社会をいかに作るか、という自己矛盾を抱えた存在なんじゃないかと。

田久保:お話を伺ってすごく感じたのが、言葉の使い方が凄く上手ですよね。インパクトのある言葉をお使いになるなと。「相互貢献型」、「保険モデル」、「NPOの利益は酸素なんです」などなど。スピーカーとしてソーシャルプロモーションをやろうとすれば、言葉の使い方やメッセージ性はとても大事です。駒崎さんはどうやって言葉を磨かれているんですか。

駒崎:意識しているということはそれほどないんですが、ただITベンチャーからNPOの世界に来たときに苦労したのは、確かに言葉の問題でした。あるプレゼンで、「ビジネスモデルはこうです」と話をしたとき、相手の方に、「君が頭が良いのは分かったが君を支援したいと思わなかった」と言われたんです。結局、ビジネス的に「いかに正しいか」とか「いかに優れているか」とか、ファンドに対するプレゼンみたいになっていたんですね。

でもNPOは、商店街の方、お医者さん、官僚、政治家、色んな人を巻き込まなきゃいけない。そこではビジネス世界の言葉に普遍性はないんです。ロジックが正しくても、人はロジックでは動かないので。伝わる言葉を吐かないと誰も動いてくれません。そういう点は今でも試行錯誤中です。NPOに来てからそういう面は本当に勉強出来たと思います。今まではビジネス用語の一言語しかしゃべれなかったんですが、政治家には政治家言語があり、町には町の言語がある。多層的に世界があって、それらを僕らは繋いでいかなきゃいけないんです。そのために言葉をいくつも持たなきゃいけない、というのは強く感じます。

田久保:言葉をいくつも持たなきゃいけない、というのは大事ですね。それにしても、恐らくその言葉を生み出すものの原点には、やはり「想い」がありますよね。そしてその想いもうまく伝わらなかったりしてめげそうになったり、色々あるとは思います。そんなときに駒崎さんを支えるものというのは、どんなものがあるんですか?

駒崎:僕はメンタルが弱くて(笑)。結構傷付きやすくて、ちょっと言われただけで寝る前に色々考えちゃったりするんです。でもそういったときに支えてくださる方々や、メンターみたいな人たちが僕にはいて、そういう人たちに話をします。それはビジネスメンターでなくてもいいんです。兄弟や彼女でもいいので、何か話すことでシェア出来る人たちがいれば、心の居場所が持てます。メンターに問題解決してもらう必要はないんです。話していくなかで、自分の考えが整理され、そのなかで解決の糸口が見つかる。そういった存在が大切だと思います。そう考えると、起業だから人脈が必要だとはよく言われることですが、僕はそれほど大切とは思いません。家族や友人とか、自分にとって大切な人たちを大切にし続けることで、それがビジネスにも生かされることがあるんじゃないかなって思います。

質疑応答次の世代に緑豊かなフロンティアを繋ぐ

会場:言葉の大切さというのを身に染みて感じているのですが、メンターに話をして整理していくという以外に、何か言葉の力を高めるためにしていることありますか。

駒崎:ご質問の趣旨に合うかどうか分かりませんが、僕は何かトレーニングをしたというより、事業を進めながら色んな人たちと喋っていって、向い傷を受けながら会得した部分が大きいと思います。たとえば政治家に対してはどれだけ票に繋がるかというポイントを押さえて話さないと何も成立しないような暗黙の構造があるし、官僚ならどれだけリスクが少ないかが話のフレームを決定付けます。そういうルールは教科書にある訳ではないから、まずは話してみて格闘してみて、やっと理解していく。ときには喧嘩したり朝まで飲んだりして、そうやって分かっていった感じですね。

会場:今後のフローレンスのプランについてお聞かせください。フローレンスのパンフレットには、「今後3〜5年が成長と組織化のフェーズ」とありました。NotforProfitを推進していくなかで、優秀な人材を集めて組織化していくためには働く人にフィーもきちんと払わなければいけないと思います。そのうえで付加価値の高い仕事もしながら問題解決も目指していくために、今後はどのようなプランをお持ちでいらっしゃいますか。

駒崎:まず病児保育に関しては、首都圏は直営で運営しながら、このモデルを全国に水平展開(スケールアウト)していきたいと考えています。今は経済産業省からお金をいただいて、それをモデル的に全国でやっているのですが、将来はボランタリーチェーンのようなソーシャルフランチャイズという形で広げていけたらと思っています。もちろん私たちも企業と同水準のしっかりとしたフィーが払えるということを目指していかなければいけないと思っていますから、社内では3年間の経営計画も策定しています。プロフィットを最大化する必要はないですが、しっかりと団体が再投資出来る程度の利益を得ていくための、戦略と経営計画を立てている状況です。

会場:事業のKSFになるのは恐らく、ベビーシッターさんの人材の確保とベビーシッティングの品質の確保だと思うのですが、その辺で何かご苦労している点があれば教えていただけますでしょうか。

駒崎:子供レスキュー隊員の確保というのは本当に大変です。それこそビラを1万枚撒いて電話が1本かかってくるかどうかというレベルですから。今は子供レスキュー隊員に二つの階層を作っています。ひとつは「地域レスキュー隊員」。登録性で、それほど時間に縛られたくないという方々向け。もうひとつは「病児保育ケアビルダー」です。これは病児保育で食べていきたいという方々向けです。ケアビルダーには出動があってもなくても月17万円を支払っています。正社員として雇いましたので出動がかなり容易になりました。

品質を担保するための教育も重要です。私たちは毎週2回、出動が無いときに本部に来て貰って会議をしています。「ケース会議」というのですが、現場であった課題などを細かくシェアして、「私はここでこういう風にしたけれど、あなたはどうしてる?」とか、ナレッジの共有で保育の質が底上げされる仕組みを作っています。

会場:病児保育を中央区と江東区で始め、そこから一気に12区へ広げられたようですが、その拡大を決心されたポイントがありましたらお聞かせください。あと、レスキュー隊員の出動について、何かクレームやトラブルに発展したケースなどが何かありましたら、ご参考まで教えていただきたい。

駒崎:後者のほうからいくと、クレームが付いて辞めさせたということはありませんが、クレームは残念ながらきます。それに関しては必ずフィードバックしています。利用者さんに「フィードバックシート」というのを渡して、毎回どうだったか、必ず分かるようにしています。あとは地区の広げかたですが、まずは小さく始めてみて、モデルがしっかり回るというのを2区で確かめてから広げた、ということですので、皆さんの事業とも共通点があるかもしれません。12区に広げられたのは、先ほどお話ししたケアビルダーの方々の存在も大きかったですね。フットワークが軽く、色々なところに出動していただけたりするので。

田久保:現場に行って困っていらっしゃる方々の話を聞き、次の方向性を定め、サービスを受けた方からフィードバックいただき、さらにそこから事業拡大のペースを推し量り……。そういう事業戦略のフェーズは駒崎さんがおひとりで考えていらっしゃるんですか?

駒崎:とんでもない(笑)。僕が1人で考えたとしても、仲間たちが、例えば今の段階で広げるのが無理であれば、「無理」と言ってきます。そういう議論の集合値として意志決定がなされます。僕はぜんぜん戦略家でもなければスーパーマンでもありませんから、それぞれのプロフェッショナルの方にいつも助けていただいています。

会場:NPOで実際にお話しをされる相手というのは色々な団体の方ですよね。そうすると、皆さまそれぞれの団体の理念や立場があると思うのですが、そういった方々を「変えようとするのか」、それとも「ご自身が変わろうとする」のか、それとも「やはり伝わらないところは伝わらないんだ」という思いで向かわれるのか、その辺の感覚を教えていただけないでしょうか。

駒崎:そうなんです。鋭いですね(笑)。確かに伝わらない人には伝わりません。たとえば以前、ある区役所の方に呼ばれたので伺ってみたら、「あなたたちは迷惑なんです」と仰る。理由を伺ったら、「あなた方が新聞に出ると新聞に私たちの区の文字が出るよね。そうするとうちの役所に電話が殺到するんだよ。その電話を受ける担当が僕なんだよ。だから僕の仕事が増えるの。君、分かってるの?」と、説教されました。それを聞いて、圧倒的な価値観の違いというものが世の中に存在するんだなと思いました。ただ、それでも言わないより言ったほうが多くの人にご理解いただけるとは思っています。だから無駄だと思うところでも言葉は発しています。がなり続けることが重要じゃないですかね。それは大海に小石を投げるような作業です。小石を投げて、小石を投げて、小さく波紋が広がっていく。それが少しずつ増えるとちょっとした波が起きて、その波がバタフライ効果で大きくなり、津波になって、そして地形まで変える。そういうことがあるんじゃないかと、僕は信じています。実証はされていませんが、僕はその作業を通して、信じるというほのかな希望を確信に変えていきたいなと思って、これからもがなり続けようかなと考えています。

会場:利益の追求という企業の倫理と、教育や福祉といった「利益が出ない」と言われている分野の間にすごく壁があって、それが社会起業を難しくしていると思います。駒崎さんは経営のことをお知りになっている状態で社会起業の世界に入られましたよね。逆に教育や福祉の分野の方々は、価格設定とか経営分野のことはあまり強くないという部分があるかと思います。そういった人々が経営の壁を乗り越えるときに、どういった勉強をして克服していけば良いのでしょうか。

駒崎:正にそこなんですよね。これからは好む好まざるに関わらず、小さな政府になっていきますから、政府が埋めていた穴を、「これからはあなた方がやってください」と言われたとき、NPOやソーシャルビジネスがその穴を埋めていかなければならない。それをしないと僕たちは穴にハマっていって出れなくなってしまう。そこで活躍できるNPOなどのプレイヤーはどんどん増えていかなければいけませんし、また、現在のNPOが経営力を高め、機動的を高め、多くの人を助けていくようになっていかなければいけません。

結局、立ちはだかるのは経営力の壁ですよね。そこについては、ぜひ皆さまのようなビジネスのプロの方々が、NPOセクターに何らかの形で関わっていただきたいと考えています。そこでNPOは学び、経営力が底上げされていくんです。ビジネスの“血”が非営利セクター、サードセクターにしっかり入り込んでいき、そこで化学変化を起こしてソーシャルビジネスが生み出されていくという流れが出来れば、穴だらけの荒野が広がっていても怖くないぞと。そして、次の世代に荒野ではない、緑豊かなフロンティアを託していけるのではないか、と思っています。

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