企業スポーツからスポーツ企業へ 

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「企業スポーツ」から「スポーツ企業」へ

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小林:電通のサッカー事業局で国際サッカービジネスを担当しています。ちょうど1週間前にサッカーのヨーロッパ選手権に出かけ、ブラジルのリオデジャネイロで7月2日に行われた南米最高峰の国際大会「コパ・リベルタドーレス」を観て、昨日成田空港から直行でここへ来ました。コパの決勝戦は10万人収容のマラカナンスタジアムがサポーターで埋め尽くされ、その熱気とエネルギーたるや凄いもので、感激しました。熱気と言えば、昨晩のあすか会議も、マラカナンスタジアム並みに盛り上がっていて、「こっちも負けていないな」と思いました(会場笑)。

スポーツというのは、人類の最も偉大な発明ではないかと思います。芸術やアートもありますが、スポーツの方が、より人間の生存欲求というか、生身の命と直結しているので、ビジネスとしてのポテンシャルがあると思うのです。しかし日本の状況を見ると、どうもスポーツビジネスは立ち遅れているのではないでしょうか。

今日のテーマは「企業スポーツ」ではなく、「スポーツ企業」となっていますが、ここに日本固有の課題が浮き彫りになっています。一つは、いままで日本のスポーツというものは、「企業スポーツ」として、親会社の庇護の下に、丸抱えで、甘えの構造に包まれていたのです。もう一つは、「スポーツにはアマチュアリズムが大事だ」という考えが支配していたことです。アマチュアリズムというと聞こえはいいですが、要は、利権構造のような、不透明なものにくるまれていたということです。

そういう中で、日本のスポーツビジネスの創造と変革を進めていくためには、「起業家」の視点が必要ではないでしょうか。今日パネリストにお招きしている方は、もともとスポーツをやっていた方ではありません。起業家として実績を作って成功されてきたお2人です。あえてそういう方をお招きしたのは、企業を経営した経験をお持ちの方こそが、今、プロスポーツビジネスに求められていると考えたのです。では、まずお2人、簡単に自己紹介をお願いします。

育児サービスからスポーツビジネスの世界へ挑戦

5462 水澤 佳寿子氏

水澤:女性ですが、年は隠していません(会場笑)。45歳です。23歳の時に事業を興して、企業の販売促進の企画会社「ワーキンググループ・コティ(現コティ)」を始めました。その間に3人の子供を育てたのですがその経験を生かして約15年前、保育、育児サービスに進出しました。保育所など運営する施設は全国で70カ所にまで広がりまして、例えば文科省と契約して「霞ヶ関保育所」を作ったり、JR西日本と組んで“エキナカ託児所”を運営したりもしました。

その間、年間220回くらい飛行機に乗る生活。半年に2回くらい空港で倒れて、入院先の病室で役員会議をやる、みたいな状況でした。この事業は、2桁成長がはっきりと見えていましたが、自分の体がどうなるか不安になって、ビジネスを営業譲渡しました。40歳になって、「一度自分の生き方をリセットしたい」と感じたんです。

約1カ月半ぐらいゆっくり休んでいるなかで、「自分は何をしたいか」と自問したとき、「地元北海道をどうにかしたい」という気持ちが湧いてきました。地元には当時J2の「コンサドーレ札幌」というプロサッカーチームがありました。創業10年、売上高13億、累積赤字が23億、ここ数年は毎年1億円赤字という会社です。そのコンサドーレから、「営業だけでもやってほしい」と声をかけられ、遊んでいると錆ついてしまうと思い、スポーツには興味はなかったんですが、入らせてもらいました。

プロスポーツはよく、「優勝すると経済効果が大きい」などと言われますが、地元にチームがあることだけで、地域に貢献ができる。スポーツそのものが、人に元気を与えるという面があって、地域おこしにぴったりのコンテンツということに気づいたんです。

3人の子供たちは今、上が21歳、真ん中が18歳、下の子は17歳。ここ数年思春期を迎えています。子供たちにぜひ身につけて欲しい力が、自分で考えた言葉なんですが、“耐力”です。耐久力の“耐”と“力”の耐力。これは教えても身に付くものではなくて、自らが獲得していく力なんです。

コンサドーレは当時、J2に甘んじていたので、サポーターのみなさんから「勝つ気あるのか」なんていうやじが飛ぶわけです。でも彼らは「負けよう」と思ってやっているわけではない。一生懸命努力しているんだけど報われない。努力していても、勝つ事もあれば負ける事もあるということを、子供たちに教えるために、スポーツは絶好のものではないかと。応援するだけでもいいんです。スポーツに親しむところから、そういった耐力が育まれるのではないかと考えました。

そんなときに、ちょうどバスケットボールの世界から声がかかって、2006年4月、バスケットボールチーム「レラカムイ北海道」を運営する「ファンタジア・エンターテインメント」という会社を作りました。

経営のプロとしてスポーツの世界に

5463 島田 亨氏

島田:1965年、東京都文京区の茗荷谷で生まれました。高校に入ったくらいとのときに親父が失踪してしまいまして、非常に苦しい家庭環境を経験しました。その経験もあって、おぼろげながらですけれども、高校2年生ぐらいの時から、「自分で食っていかなくてはいけない。いつかは商売しよう」と考えていました。

最初に入った会社がリクルートです。2年半いましたが、そのときにめぐり合ったUSENの宇野(康秀・代表取締役社長)さんと、インテリジェンスの鎌田(和彦・代表取締役兼社長執行役員)さんなど同年代4人で、インテリジェンスという会社を立ち上げました。2000年に株式を公開した1年後、退任しました。株式も手放し、直接の縁はなくなりましたが、別に仲違いしたわけではありません。そもそも、「インテリジェンスをステップにして、次のステージでまた会おうよ」なんてみんなで言っていたわけです。

「まったくこれまでの自分と違う人生を考えてみよう」ということで辞めました。ただ、その間1年だけ「日光堂」(現BMB)というカラオケメーカーの副社長になったことがあります。通信カラオケ「UGA」などで知られる有名メーカーです。当時は創業30年の会社でしたが、専務も取締役もハチトラ(8トラック)に積んだカラオケを売って、毎週コインを回収するところから叩き上げで来た人たちでしたから、その中で経営に携わることは非常にいい経験になりました。

その後、4年間くらいある種フリーターのようなものをやりました。かっこよく言うと個人投資家です。その間、若い経営者といろいろ会社を創りました。昨年ジャスダックへ上場した電子決済サービス会社「ウェブマネー」、その次はWEB求人情報の会社、モツ鍋屋、カレーショップのチェーン、建築資材のリサイクルプラントの製造会社など、ベンチャーだけ通算で25社くらい関わりました。

3つ目くらいに投資した会社の株主として経営に参画していたとき、楽天から買収の話があり、三木谷(浩史・会長兼社長)さんとのお付き合いが始まったのです。そして2004年の夏が過ぎたところだったと思います。夜11時ごろ、三木谷さんから電話がかかってきました。単刀直入な方で、「久しぶりですね、島田さん。ところで野球をやりませんか」と。草野球のお誘いかと思ったら、プロ野球経営の話でした(会場笑)。

5分でわかる、スポーツビジネス概論

小林:なんだかこのまま「起業家」のセッションに切り替えて話を聞きたい気もしますが、スポーツの話に戻していきます。恐らく聴衆の皆さんのほとんどは、スポーツビジネスにそれほど造詣が深いわけではないと思います。そこで、「5分でわかるスポーツビジネス」というスライドを作ったので、見てください。

スポーツビジネス業界のキー・プレイヤー

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スポーツビジネスのキープレイヤーは、まず選手がいて、チームがあって、チームが所属する団体がある。その周辺に、スポーツ施設とか、トレーニング・育成機関というビジネスがある。またスポーツ用品メーカー、スポンサー、メディア、それをコーディネートしてビジネスにしていく私のようなエージェントがいる。これらのプレーヤーが、顧客の「観たい」とか「したい」というニーズに答えていく。これが、おおまかなスポーツビジネス業界の構造です。

スポーツチームの収益源は何かといいますと、実は多岐にわたっているのです。一つは観戦チケットです。買い手は個人と法人。サッカーのヨーロッパ選手権なんかでは、法人向けに、駐車場や食事なども含んだ「ホスピタリティーチケット」が非常に大きな商売になっています。

スポンサーシップ。これはチームとかリーグにスポンサーをつける。次に放映権。スポーツの中継を放送局に売る。これも、FIFA(国際サッカー連盟)とかUEFA(欧州サッカー連盟)とか国際的な組織になりますと、放送エリアが世界220カ国にもなりますから、莫大な収益源になります。それから、ライセンシング。チームのキャラクターを使用する権利、肖像権とかそういったものです。

チーム経営というのは、このような多岐にわたる収益源をいかにうまく組み合わせて、ポートフォリオを組んでいくか、ということです。以上、スポーツビジネスの概要を説明させていただきました。さて、具体的にどんなビジネスをやられているか、水澤さんからお話を伺っていきたいと思います。

チームは最下位、観客動員数は1位

水澤:バスケは世界的に見ると、競技人口が一番多いスポーツで、4億人います。実はサッカーの2億4千万人よりも多いんです。そしてIOC(国際オリンピック委員会)に加盟している国よりも、FIBA(国際バスケットボール連盟)の方が多く、まさに競技人口からいえば、世界のトップスポーツなんです。

現在、日本のプロバスケットリーグは、二つの団体に分かれています。レラカムイの所属するJBL(日本バスケットリーグ)と、先にプロ化したbjリーグです。JBLは、トヨタ自動車やパナソニックなどの、実業団チームが中心となって2007年、8チームからスタートしました。「レラカムイ」というチーム名は451通の公募で選ばれました。アイヌ語で「風の神」という名前です。

バスケは野球やサッカーと比べて観客席と圧倒的に近いところが醍醐味。選手が飛び込んできたり、コートを外れて飛んできたボールを触り、投げ返すこともできる。そういう臨場感やスピード感があって、ゲーム後には選手達とハイタッチもできるのです。

初年度は試行錯誤の繰り返しでしたが、なんとかリーグトップの観客を集めることができました。収容能力が3500人と小さいアリーナで、「立ち見」がホームゲーム16試合中5試合あり、平均で3000人が動員できました。後半11連敗したのですが、それでも観客は減っていない。選手とのふれあい、照明や音響を使った派手な選手紹介、チアリーダーの華やかさなど、負けても十分納得してもらえる、エンターテインメント空間を創るようにしているんです。

JBL観客動員実績07-08シーズン

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バスケの試合をご覧になったことがない人が大半。応援もできません。それでも観客のみなさんに、ゲームに参加してもらう一体感を味わってほしくて、マーチャンダイジングのスタッフに「ブーインググッズを作ってください」と指示しました。音を出すのは誰でもできるからです。相手チームのフリースローのときに、「ブーッ」とやってもらいます。

野球やサッカーと違って、バスケがエンターテイメントを演出しやすいのは、試合中に6回休憩があるからです。さらにタイムアウトの時間もありますから、1試合中に何度もチアガールのパフォーマンスなどで会場を盛り上げることができます。

収益を生むビジネスモデルを創る

これまでのスポーツビジネスを見ていますと、そのスポーツのエリートプレーヤーが引退してマネジメントをやっているケースが多い。「チームを強くしたい」という気持ちで大きく、収益を出そうという点では、何か忘れていることがあるような気がします。

私たちは、そこそこ可能性のあるチームをつくって、それを一生懸命売っていこうと思いました。また、当然経営なので、原価つまり選手関係費用は押さえるようにしました。「スポーツだから」と構えるのではなくて、普通のビジネスと同じで、チームは製造するところ、私たちはそれを売っていく部署として、考えています。実際に聞いてみると、選手も年俸のことより、「お客さんのたくさんいるチームにいたい」と言います。良い選手を集めるためにも、「売る」ことが大切なのです。

我々のビジネスモデルには、4本の柱があります。一つは、スポンサーシップや法人営業。二つ目が興行収入。次がマーチャンダイジング、いわゆる応援グッズですね。そしてこれは独自な取り組みですが、選手やチアリーダーなど人材の育成です。チアリーダーというと“添え物”のように思われがちですが、ちゃんとした商品にしてしまおうと力を入れてきました。実際に2006年の4月、創業当時はチアリーダー育成の収入で売上を作っていました。子供を対象にした養成スクールというのを始めていて、4つの会場で4歳から15歳の女の子をのべ500人集めて、チアのダンス教室をやったりしています。

今後の展開としては、ゲームやチアリーディングのコンテンツを携帯などに流す権利をどんどん売っていくビジネスにしていこうと思っています。それから、スポーツはフランチャイズなんです。同じリーグで北海道に参入する競争相手がいない一方で、他の商売と違って、“支店”が出せない。北海道だけでは、バスケは7億が天井と見ています。だから、よそに出て行くしかない。中国、アメリカも視野に事業を考えていかなくてはなりません。

私たちは「バスケを通じて、北海道から日本を元気にする」という企業理念を掲げています。また北海道には全国で、1,2を争うバスケ競技人口がおり、北海道を日本、アジアにアピールしていくツールとしても、レラカムイは使えるのではないかと考えています。北海道では札幌などを除けば、駅前に人が歩いていません。本州から置いてけぼりを食っている感があります。津軽海峡を越えて外貨(本土のお金)を稼ぐのも大切ですが、「北海道で待っていて、みんなにお金を落としてもらう仕組み」の方が面白い。市場としては「アジア」が魅力です。

中国では、姚明という選手が、アメリカのプロバスケットで活躍してから、バスケは大人気。北海道というのは、アジア、東南アジアの中で非常に人気がある観光スポットなわけです。観光の資源として、バスケ興行が活用できるのではないか、と考えています。

今まで、「スポーツはもうからない、赤字が当たり前」と言われてきました。保育もそうですが、儲かりにくいマーケットに入っていくのが好きなのかもしれません(会場笑)。スポーツもビジネスモデル次第では収益を出せると確信しています。

日本のスポーツビジネスの可能性は大きい

5464 小林 住彦氏

小林:それでは、島田さん、ご説明お願いします。

島田:スポーツはビジネスになのか、という問いですが、明らかに巨大なビジネスです。日本のポテンシャルも高い。実際に、日本とアメリカで、GDPのうちスポーツビジネスの占める割合を比べると、ものすごい開きがあります。米の投資会社が、日本のスポーツはポテンシャルがあると見て、5000億とか1兆円のファンドを組もうとしたという話も聞いたことがあります。

なぜ遅れているのか。スポーツにおける最大の商品は、試合そのものです。そして単独の球団だけでは試合ができない。つまり、本来は「日本プロ野球株式会社」みたいなものがあって、仙台や北海道などにその構成要素がある、というシステムが望ましいわけです。リーグ全体で考えないと、1シーズン通してどう魅力的な試合を創って行くか、という商品開発が実現できない。残念なことに日本では、組織がそういったビジネス展開できる体制になっていない。それが遅れの最大の要因です。というわけで、今は球団単体で出来るビジネスの限界に挑戦しています。

プロ野球におけるお客様とは誰か

野球だからといって特別なことはしていません。まず、「お客様とはだれか」という因数分解からはじめました。野球におけるビジネスは具体的にいうと、六つあります。スポンサー、チケット、放映権、ファンクラブなどに入会していただいているコアなファンの方々へのサービス提供、球場におけるコンセッション(売店販売など)、そしてマーチャンダイジングです。

スポンサーは法人企業が顧客です。全国的な企業もあれば、地元のローカルな企業もあり、求めているものはそれぞれ違います。全国的な企業が求めているのは、(楽天というチームが)、いかに全国区のメディアに露出できるかということと、いかに商品や会社にいいイメージを作ってくれるかです。ですから、野村(克也・楽天イーグルス監督)さんに毎晩11時のスポーツニュースで、“ボヤキ”で出てもらう。マー君(田中将大・楽天イーグルス投手)をクローズアップしてもらうというのは、非常に大切なことです。一方ローカル企業は、「私たちは楽天イーグルスを応援しています」ということで、ロゴマークなどを使って、セールスのキャンペーンを行ったりする。

スタジアムでは誰がお客さんか。今までの野球でいくと、いわゆる“お父さん”でした。私たちは「地域における野球ビジネスのターゲットはファミリーであり、女性である」というマーケティング戦略のもと、球場づくりをしています。託児所や授乳室を設置したり、INAXさんにスポンサーになってもらってトイレを全面的に改装、スタッフが15分おきにトイレを清掃しています。

女性の方が気軽に来られるような仕掛けもこらしています。デーゲームは午後1時に始まりますが、2時間前の11時にはスタジアムや周辺で女性専門のイベントを開きます。地元の有名人やラジオパソナリティーに出てもらい、スイーツを用意して女性の方に楽しんで頂くのです。間に、野球を面白く見ていただくための簡単な講義を入れたりする。

決して特別なことをしているわけではなくて、自分たちのお客様は誰か、そのお客様のニーズはどんなものか、それに対して何を提供していったらいいのかと考えた結果です。普通のビジネスでは当たり前のことことをやってきた感覚。プロ野球はそれができていなかったのかな、と思います。

商圏がはっきりとしたビジネス

先ほど水澤さんがおっしゃたように、プロスポーツのビジネスはフランチャイズが認められています。商圏の輪郭がはっきりしているわけです。一部ジャイアンツや千葉ロッテマリーンズなどはっきりしていないところもありますが。大体全試合の半分がフランチャイズでの主催試合。仙台は経済圏150万人です。その商圏を持っているところで、その1%くらいが球場に来てくれれば、観客動員が15000人になります。これを1.1%にすることができれば、16500人になるのです。

この比率が高いのは、約1.3%のソフトバンクホークスです。ここまでの数字にするのにかなり時間をかけていて、九州全国からバスツアーで球場にやって来られる仕組みにしているのです。自治体との協力も進んでいて、交通網の整備、駐車場所も確保しています。残念ながら仙台は、東北全域から観客を集めるには至っていないのが現実です。

非日常の“場作り”でリピーターを増やす

また、一度来て頂いたお客様をいかにリテンションするかも大切です。ベンチマークとしているのは、吉本新喜劇ディズニーランドと。吉本は、どれくらいの商圏からきているかというと、半径5キロとかがいいところだと思います。交通の便では片道30分くらい。その人達が、1回来ておしまいでは続かないでしょう。いかに繰り返し来て頂くかが、ポイントです。吉本の劇場をよく見ていると、決まった席で、いつも決まったおばあちゃんが観劇していて、いつも決まったシーンで笑う。

こうして繰り返しお客様に来ていただくためには、魅力的なコンテンツというだけでなく、その世界観を刷り込んでいく“場作り”をしていくことが重要です。それに、いち早く気づいたのが、ウォルトディズニーでした。ディズニーが世界中で愛されているのは、ミッキーマウスや人魚姫などの人気キャラクターがいたからではなく、コンテンツが素晴らしいと同時に、ディズニーワールドやディズニーランドというリアルな場を創り、非日常的でファンタジックな世界を、来場者の身体に刷り込んでいけたからです。

アメリカの球場に行きます。球場に近づくと、何が起こるのでしょう。まず、飾りの色がみえます。赤、青、黄色・・・、ちょっとワクワクし始めます。少しすると、こんどは音が聞こえてくる。カキッというバッティングの音やイベントのざわめきです。さらにワクワクする。もっと近づくと、匂いがし始めます。ホットドッグだったり、ポップコーンだったり。日本だったら、焼き鳥やたこ焼きでしょうか。気分が最高潮に盛り上がって、「入りたい!」と思ったときに、そこに柵があるわけです。「これから先は非日常の世界です。お金を払わなくてはいけませんよ。入れば、もっと楽しいことが待っていますよ」と。

エンターテインメントというのは、人間の五感を刺激しながら、そういう場作りをしていくことが非常に大切なんです。県立宮城球場を見比べてください。最初に30億円を投資して最低限の改装をした姿です。1年目に興行をやってみて、アメリカへ5泊6日の弾丸ツアーで球場を見に行って、「まだまだ足りない」と感じ、2年目にかけて、さらに追加で40億円かけました。これだけ場作りは必要なのです。

KPIの設定で、チームは変わる

スポーツビジネスは企業活動そのものです。チームはまさに工場。いかに原価を安く仕入れて、効率的な生産ラインで、高いクオリティーをアウトプットするか。科学的なアプローチが必要です。北海道日本ハム(以下、日ハム)は、投手防御率がリーグの上位、一方チーム打撃はそれほど高くありません。なぜ継続して強いかというと、日ハムは、チームを強くするためのKPIを設定しています。例えば打率という面で考えましょう。06年に優勝した日ハムは2割6分8厘ぐらいで、パ・リーグ6位だったうちが2割5分5厘ですから、約1分差があるわけです。1分差とは、100打席でヒットが1本多いかどうか。この平均打率を1分上げるために、何億円も払って選手を取っていたのが、これまでの日本の野球でした。

しかし、野球というゲームは、3つのアウトをとられるまでに、いかにホーム踏ませるかが、カギなのです。そうすると、ヒットを増やすことばかりに力点を置くよりも、盗塁だったりフォアボールを選んだりすることにも力を注ぐべきでしょう。だからKPIの設定が非常に重要です。

これは人から学んだ話ですが、例えば盗塁の成功率は大体7割です。なかなかいい数字だなと思った方、センスがない。7割ということは、選手は確実に成功するときにしか走っていないということなんです。盗塁はクロスプレーになるので、怪我をするリスクが高い。失敗すると、ベンチにたどり着くまでの距離が長く、観客の目に長く晒されます。成功しても、ヒットを打った方が評価される。つまりハイリスク、ローリターンなわけです。

そこで成功率7割の選手に、「来年は成功率は5割越せばいい。5割を越せば、失敗した盗塁も成功した盗塁もぜんぶ成功とカウントしてボーナスあげる」と言う。10回走って7回成功していた選手が、20回走って少し成功率がおちたとしても、12、3回は成功する。そこに400万円のインセンティブをつけたとしても、ヒット5,6本分。安い買い物なわけです。いかにチームを科学的に強くしていくかというときに、KPIという視点は、非常に大切なんです。

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スポーツ企業経営の難しさとは

小林:スポーツ企業経営も普通の企業経営と近いものがあるなと感じました。とはいえ、スポーツ経営ならではの難しさというところもあると思うのですが。

水澤:まずは、商品が「ゲーム」というところ。ここのクオリティーを経営側ではコントロームできません。勝つか負けるか、やってみなければ分からない。でも、勝負で負けていても、経営面で勝つシステムをつくっていかないといけない。それが経営陣の仕事だと思っています。

小林:確かにメーカーでしたら、欠陥商品は弾いたりしますが、プロスポーツでは失敗した(負けた)製品でも、それをちゃんと売ることをしなくてはいけないというところが、スポーツの特性かなと思います。

島田:水澤さんの話とダブるんですが、(ファンの)期待値コントロールをしていかなくてはいけない面があります。勝っても負けても、シナリオを作っていくことである程度コントロールできます。さっき登壇する前に話したんですが、水澤さんのところでは、11連敗した時に、ファンに継続して応援しもらうシナリオを考えられ、成功されています。我々のチームでも、初年度に初戦は勝ったんですが、2戦目は0対26で負けました。そのとき私は逆に「チャンスだ」と思ったわけです。もう一つ。マスコミとの関係が大事です。認知度を高めて試合入場者を増やすためには、いかにマスコミでプロデュースしていってもらうかについて、長期、短期的に対策を考えていかなくてはいけないと思います。

スポーツは人を幸せにする

会場:アメリカン・フットボールのプロ化を夢見る者です。企業として成長していくために、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)という観点からどんな戦略をとってらっしゃるのか。

島田:経営としては、輪郭のはっきりした商圏があるのでしっかりCRMをやらなくてはいけないでしょう。うちでいうと、旧来どおりのファンクラブをやっているが、それとは別に「スアジアム・パスポートクラブ」というのをやっています。これはスタジアムに来た人じゃないと入れない。インターネットでは登録できないので、確実にスタジアムに来た人を無料で登録するようにし。簡単なカードを創ってポイントを付加したり、メルマガを送ったりしています。そうやって、スタジアムに来る人を、確実にデータベース化しています。

水澤:我々の商圏は200万を超えています。初年度のステップは、「北海道でバスケをやっている」ことを知ってもらうことでした。そのときに、データベース化するよりも、肌感覚を大事にして、来た人がどういう顔をして帰っていくかを見ています。今年2シーズン目になるので、いよいよデータベース化していく作業に入ろうと思っています。

小林:「地域に根ざした」というキーワードが2人のお話の中であった。CRMといってもデジタルなものというよりは、「生のリレーションを創る」というところもスポーツならではのキーワードなのかと思いました。

会場:お2人とも、競合がいないとおっしゃいましたが、私はそうは思わない。私の友人は、「(サッカーの)ベガルタ仙台」を応援していました。今は楽天の試合ばかり行っているといいます。違うプロスポーツとの競合戦略はどうお考えですか?

島田:「プロ野球チームが他にいない」という意味で、競合はないと言いましたが、広義の競合という意味ではもちろんたくさんいまして。ベガルタ仙台もそうですが、実は我々のナイターの競合は居酒屋だったりします。そこにどう勝つかがポイントなのです。「ベガルタ仙台」とお客様を食い合っているのは、5%ぐらいです。そこをクローズアップするのではなく、bjリーグの『仙台89ERS』も含めたプロスポーツ3つで、プロスポーツを見に来るお客さん全体のベースを引き上げる、という方が得だと考えています。

水澤:うちの競合はアクション映画です。社員には、「『アクション映画行くそれともレラカムイ行く』とお客様は考えている。だから映画館よりも楽しいものを創ろう」と話しています。あと、「コバンザメ商法」と言いましょうか、観客数でいうと、日ハムさん4万人。コンサドーレが1万5千ぐらい、うちはたかだか3500なんですよ。だから、「この半年の(よその)スポーツチケットの半券をもってきたら、入場料を半額にしますよ」とかやっています。スポーツが好きな人は応援が慣れていますので、試合を盛り上げてもくれます。日ハムやコンサドーレに、甘えてくっついていっているようなものです。

小林:マーケティング戦略上、競合の定義は重要です。同じ業種の中で競合を定義しがちですけれども、JR東海にとっての競合はNTTだそうです。理由は「テレビ会議をやられると、新幹線のぞみに乗らなくなる」。非常に示唆があります。最後に一言ずつ。スポーツビジネスに関って、どんなところがよかったかと。

水澤:経営者は赤字だと「良かった」と言えないんです。初年度は計画当初から赤字なんですが、やっぱり黒字しないとつまんないですね。ただ将来的には1円でも多く地元に税金を払えるようにしたいと思います。黒字と税金、これが両立できたときは、「やってきて良かった」と思えるんじゃないかと、努力をしています。あとコントロールできない商品を扱う醍醐味は感じています。チャイルドケアのような、「ハコを作ったら売り上げ、利益が見えてくる」という商売をやっていた経験から言いますと、スポーツビジネスは難しいけど、こんなに面白いビジネスはないと思っています。生きているという実感があります。ただ、ストレスで10キロ太ったので自分がスポーツをしないと(会場笑)。

島田:スポーツというよりも、もう少し大きな括りでとらえていて、エンターテインメントだと思っています。エンターテイメントにとっての商品とは、“感動”であり、その感動にカネを払うのです。

感動とは何か。期待値があって、それを少し上回ったところが感動。下回ると、がっかり、です。そして期待値を大幅に上回ると、今度は感謝される。これは『牛角』の西山(知義・レックスホールディングス会長)さんが教えてくれたことです。いま、感動というのをいかにコントローラブルに作るかを考えています。イチロー選手がフェンスを乗り越えてホームラン性の打球をキャッチしてチームのピンチを救うなどは鳥肌もののスーパープレーで、もちろん感動を呼び起こしますが、これはアンコントローラブルなんですね。

コントローラブルな感動は創れます。例えばマー君が打者を打ち取ってダッグアウトに帰るとき、観客席のオジさんが「おめでとう」と声をかけてくる。マー君が、それに会釈をするだけでは、期待を上回っていない。どうせ気づいて手を振るならば、「ありがとう、また来てね。今度は子供も連れて来てよ」と声を掛けると、そのまま飲み屋で、「おれ今日マー君と話したんだよ」って言ってくれる。

スタッフも、お客様がトイレを探していたら、時間があれば連れていってあげる。すると、家に帰ると、「球場のお兄ちゃんでね、親切な人がいたよ」と話題にする。これもほのかな感動です。こういった工夫を365日ちょっとずつ積み重ねたきた会社と、なんにもしない会社では、1年後には大きな違いとなってきますよ。

感動したお客様からいただく「ありがとう」の言葉が、何よりうれしいです。

小林:冒頭に話したとおり、ブラジルから帰ってきたばかりなんですが、「ブラジル人は幸せな国民だ」と言われます。GDPでいえば低いんですが、なぜ幸せか。サッカーがあるからだと思います。スタジアムで大喜びする人、ブラジルが対外試合などで勝って飛び上るひとたちをみて、「スポーツには人を幸せにする力がある」と実感しました。スポーツビジネスを育て、企業として成立する形にしていくことが、日本の人々により多くの幸せを提供することになると確信しています。今日この会場に集まってくださったみなさんの中から、「スポーツビジネスを一緒にやっていこう」という人が現れることを願っています。

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