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AI経済の衝撃に備えよ ―大連サマーダボス2015報告

投稿日:2015/09/24更新日:2019/04/09

まずは3つの質問から。

(1)あなたの子供が犯罪を犯し、裁判を受けることになった。裁判官を選べるとしたら、人間とAI(人工知能)のどっちを選ぶ?

(2)あなたは不治の病であると診断された。人間の医師は治療法Aを、AIドクターは治療法Bを勧めた。どっちを選ぶ?

(3)あなたの国が戦争に巻き込まれた。ヒューマンソルジャーに守られたい?それともAIソルジャーに任せたい?

これらは、9月9~11日にかけ中国・大連で開催されたWorld Economic Forum(WEF、世界経済フォーラム)の「Annual Meeting of the New Champions 2015」(通称、サマーダボス)のセッションで、会場の聴衆に投げかけられたものだ。

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「What If: Machines Outsmart Us All?」セッションの様子

ちなみに、即席の挙手アンケートの結果は、

(1)人間の裁判官が大多数

(2)AIドクターが大多数

(3)AIソルジャーが大多数

だった。あなたの感覚ではどうだろうか。

筆者はこの質問が投げかけられたセッション「What If: Machines Outsmart Us All?」(もしAIやロボットが人間より賢くなったら?)を含めて、大連現地で主要なセッションを聴講した。中国での開催であること(大連と天津で年替りなので都市の威信をかけて盛り上げる)​に加え、天津爆発事故、上海株暴落を機とする世界同時株安など「チャイナリスク」がメディアを騒がせていたこともあって、「中国経済の行方」「中国と世界の関係」という視点が多くのセッションでハイライトされていた。ここでは、そうしたチャイナファクターをひとまず横に置き、サマーダボスに集まった世界のトップリーダーたちが、中長期的にどのようなテーマについて関心を寄せているのかを3つの視点で切り取ってみたい。​

視点1: 「AI経済」に対して個人、企業、社会はどう向き合うべきか?

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AI、ロボットが重要テーマとなった

冒頭で紹介した「What If: Machines Outsmart Us All?」は、初日の朝一番のセッションであり、AIやロボットは今回のサマーダボス全体を通して最も強調されたテーマである。様々なセッションでの発言や見方を筆者なりに集約すると以下のようになる。

―― AIは既に単機能ごとでは人間よりも優れている。ただし、AIが人類の知能を総合的に超える「シンギュラリティ」がいつ頃起こるのか、起こった後にどうなるのかは、まだ、よく分かっていない。2035年か、2045年か、もっと先か。

―― プラスの可能性としては、AIが様々な面で人を支援することによって、生産性を上げ、経済を活性化させ、多くの社会問題を解決する。ヒューマン・エラーの防止、​人の学習支援、医療の高度化、ビジネスでの活用、等々。

―― マイナスの可能性としては、人の雇用を奪う(雇用破壊)、プライバシーを含めてAIに人が管理されかねない、安価かつ無人の大量殺戮ロボットが開発されれば人間社会は大混乱に陥る、自律的に人を殺害するロボットが開発されれば人類の終焉につながりかねない、等々。

―― 特にAI兵器については、早急に国際条約を作り、無制限の開発競争に歯止めをかけるべき。国連では委員会を立ち上げて議論を始めている。

―― 5~10年のスパンでゲームチェンジャーとなり得るものは、自動運転車による産業革新、言語解析技術の応用、医療分野の劇的な発展。

―― 人の代わりにAIやロボットが労働してくれれば、人は働かず、遊んでいれば良くなるのではないか。そのような状態は人間社会として正しいと言えるか。生きがい、労働観、人と社会の関係性などが大きく変わるとすれば、ハードランディングや社会的混乱を避けるための​「マイグレーション・プラン」(移行計画)が必要なのではないか。

まずは、軍事利用に関する国際的ルール作りが優先課題としてクローズアップされていくことになりそうだ。

視点2: インターネットの持続的発展のための「ガバナンス」は?

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アリババの創業者、ジャック・マー氏

「Future-Proofing the Internet Economy」(インターネット経済の持続的発展のために)というセッションでは、中国最大のネット企業であるアリババ創業者、ジャック・マー氏が登壇。​会場は聴衆で超満員となった。

ファシリテーターを務めたのは、インターネット・ガバナンス(インターネットを運営するためのルールや仕組み作り)で中心的な役割を担っているICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)の代表CEOであるファディ・チェハディ氏だ。チェハディ氏は、冒頭、次のように問題提起。世界の共通インフラとなったインターネットの持続的発展に危機感を示した。

「インターネットの技術/ロジカル部分は​よく統制されている。しかし、社会・経済面のガバナンスはほとんど効いていない。自由なイノベーションを阻害しないという絶対条件付きで、信頼できる誰かがしっかりと管理すべきフェーズに入っている」

インターネット・ガバナンスは、商用利用が始まった1980年代後半から大きなテーマだった。米国でネットバブルが拡大した1990年代後半には「米国政府が主体となって介入し、課税するのでは?」という観測が流れ、ネット・コミュニティーの大反発を買ったこともある。ICANNは、IPアドレスやドメイン名の割り当てを主務として行う民間非営利団体だが、米商務省の管轄下に置かれていることを特定政府の影響を受けていると嫌気する声がネット・コミュニティーには根強くある。チェハディ氏の問題提起は、自らのICANNのあり方や正当性を含めての問いかけだ。

これに対して、ジャック・マー氏は「eWTO」(世界貿易機関のサイバー部門)の提案で応じた。

「20年前にインターネット・ガバナンスに関して心配していたことは実際には起きなかった。しかし、20年前に心配していなかったことが今起きている。将来を見通すことは難しいが、セキュリティー、プライバシー、知的財産、貿易ルールなどを含めた新しい形での統治が必要だ。インターネットは、多様な動物がいる動物園のようなもの。マルチ・ステークホルダーによるガバナンスが必要であり、経済界が主体となり、各国政府によって支援される、そんなeWTO体制を構築すべきである。過去20年のインターネットは先進国や大企業のためのものだったが、これからの20年は発展途上国や中小企業、女性や若者のためのものであってほしい」

パネルディスカッションでは、米IT企業(グーグル、アマゾン、マイクロソフトなど)が​“シリコンバレー企業”と一括りにされ、影の統制者になりかねないという懸念、いかなる政府による統制も受けないオープン・イノベーションを基本とした統治へと変革が必要だという強い意見も表明された。

利用者の視点では、日々、当たり前のように使っているインターネットだが、持続的に発展させていくための仕組みに関する議論が白熱している。

視点3: 「第4次産業革命」は世界をどう変えるか?

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WEF創設者のクラウス・シュワブ氏

もう1つ注目すべきセッションとして、「Navigating the Next Industrial Revolution」(次の産業革命に向けて)をピックアップしたい。WEF創設者であるクラウス・シュワブ氏が「革命は既に始まっている。最も重要なテーマである」として、自らモデレーターを買って出るほどに熱を入れたセッションである。

AIやロボット、医療・バイオなどの新技術、3Dプリンターなどによる製造革新、uberのような新ビジネスモデルなど、様々な技術イノベーションが折り重なるようにして、ビジネスや社会、人の生活、働き方、学び方までを含めた創造的破壊、あるいは、破壊的イノベーションが凄まじいスピードとスケールで起こる、というのが「第4次産業革命」のイメージのようである。

WEFの最新調査リポート「Technology Tipping Points and Societal Impact」(技術的大転換点と社会的影響)では、800人のIT業界の経営者や技術者へのアンケートを実施。これから起こり得るメガトレンドとして、(1)人とインターネット、(2)いつでもどこでも、(3)IoT(モノのインターネット)、(4)AIとビッグデータ、(5)シェア経済と信用分散、(6)もの作りのデジタル化――の6つを挙げ、それらの技術分野の多くで相転移が起こるタイミングを「2025年」と予言している。

2025年と言えば今から10年後ではあるが、変化は既に始まっている。社会的インパクトも非常に大きく、しかもプラスとマイナスの両側面がある。現時点で予見、理解できていないことも多い――。パネルディスカッションでは議論を深め、シュワブ氏はこう締めくくった。

「第4次産業革命は、我々にとんでもなく良い機会をもたらすだろう。だが一方で、我々が意図しない副作用も伴いそうだということを忘れてはいけない。そうしたリスクを、誰が、どのようにコントロールしていくかが重要な課題になってくるだろう」

◇     ◇     ◇

以上、サマーダボス2015を提示された3つの視点から振り返ってみた。「AI経済」とも言うべき新たな時代が到来した時、企業、社会、国家のあり方は明らかに変わっていくだろう。その現実に真正面から向き合い、その時代に人間はどう生きるべきかについて問い直すことが不可避である――。​今回のサマーダボスは、そのことについてグローバル・リーダーが語り始めたマイルストーンとなるかもしれない。

【番外編】サマーダボス2015における日本勢の活躍

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グロービス経営大学院学長の堀義人(中央)は、「The Transformation of the Workplace」に登壇

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福岡市長の高島宗一郎氏(右奥)は、「The Transformation of Manufacturing」に登壇

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9月10日(木)の夜には民間有志21社による「ジャパンナイト」が開催。サマーダボスに参加するグローバル・リーダー約800名が来場

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