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地域を活かすビジネス

投稿日:2007/11/22更新日:2019/04/09

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「ビジネスチャンスは地域にこそある」。SILC 2007 autumn2日目の分科会「地域を活かすビジネス」では、地域に固有の資源を活用しながら新しい価値を創出してきたパネリストが、その魅力を多面的に語った(文中敬称略)。

「インフラの質と量など、格差の生じるところにビジネスチャンスはある」(小口氏)

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小口:地域を活性化する方策はいろいろあると思います。今日は、このうちビジネスを通して地域活性化を実現しておられる三人の方に、お話を聞きたいと思います。

前座として、私の最近の動きをご紹介しましょう。

私は今、和歌山県活性化プロジェクトに携わっています。和歌山県の一人当たり県民所得は、日本で最低水準ですが、県民の純資産は日本最高クラスです。これは、徳川時代の紀洲国の蓄積があるからなのです。それに眺めると地域経済を盛り上げる要素も、多数あります。たとえば、世界で三本の指に入るサーフィンの名所や、電動ノコギリを使ったチェンソーアートのチャンピオンがいたり、高野山はじめ山岳修行の場など、和歌山には実際に足を踏み入れてみないと分からないことが随分とあるのです。

和歌山は首都圏などから見ると、アクセスが良くありません。ですから、何かを仕掛けないとヒトは呼べないのです。いわゆる市民マラソンをやろうとなりますと、既に日本全国で山ほど行われています。これらの大会では、一定時間内に走りきれないランナーは足切りされています。ここでちょっと考えると、時間無制限マラソンを計画すれば、逆に競争力が出てくるはずです。アマチュアランナーは完走したい気持ちが強いからです。車道がそうは混雑しない和歌山ならできると考え、動き出したら1万人以上、集客できる見通しになりました。ところが、残念ながら、それだけのヒトを泊めるインフラがないことに気づいてしまったわけですが、休眠中の温泉旅館などを復活させればいけるはずなので、3年後ぐらいには実現したいと計画中です。

眠っている資源と現実の姿にギャップがあるのですが、そのギャップを埋めることを考える、つまり資源の有効活用を目指していけば、地域を活かすビジネスにまでつながるのです。今日のパネリストお三方は、こうしたギャップを逆に活かしてビジネスを進めている方々です。

いま日本は、明治以来続いてきた中央集権から地方分権の時代に向かおうとしており、中央統制というシステムが崩壊して、自律というか放任のフェーズにきつつあります。たとえば刑務所のような官業としてやっていた公共サービスが民間に開放されたり、民間企業でみても大手が地方に生産を委託するようなことが上手く機能しなくなっています。しかし地域的に考えると、地元での雇用機会を作り出すことが必要なのです。そこに、ベンチャー企業が出てくるチャンスがあるのです。

個人の家計でみても、右肩上がりの経済では当然のように思われていた「安定的に収入がある」ということが当たり前ではなくなっています。そして、格差社会と言われるように、格差が目立つようになりました。インフラストラクチャーの質・量、人口、人材、提供できるサービスなど、様々な面で差が出ています。こうした差を埋めることが、ビジネスチャンスになるのです。

では、それを実際にビジネスに置き換えるとどうなっていくのか、お三方がどう埋めてきたかをお聞きしましょう。まず、オイシックスの高島さん。高島さんは、野菜など農産物産地の農家と都会の消費者をダイレクトにつなぐ役割を果たしています。具体的な内容を聞かせてください。

高島:私たちはネットを通じて地域の新鮮な食材を、都会のお客様に届ける仕事をしています。都会の消費者に目が向いた、地域活性化とは逆のビジネスのように見えますが、仕入れは地域に密着してやっています。ですから今日は産地側にたって話したいと思います。

この事業は7年前に立ち上げました。有機野菜、特別栽培野菜、地元の肉・魚、無添加の加工食品などを届けています。お客様は、小さな子供を持つ30歳代のお母さんが多く、5割が首都圏、関西、名古屋を入れると9割が都市型の消費者です。地域振興を目指してスタートしたわけではなく、都会へ良いものを届けたいと思ったら、良い生産者は地域にいた。それが自然と地域活性化につながってきたという感じです。

売り上げは現在45億円。80万人の人がネットで私どものホームページにアクセスしており、3万人程度が実際に利用されています。

「人材ビジネスで勝ち残る術は、業界特化か地域密着にすること」(佐藤氏)

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小口:キャリアバンクの佐藤さんは、北海道最大の人材会社を経営しています。それだけでなく、札幌証券取引所のアンビシャスという、東京でいえば東証マザースに相当する市場に子会社のエコミックを上場させたり、サッカーのコンサドーレ札幌の創業も手掛けたり、北海道という資源を縦横無尽に活用している方です。来年のサミット(世界8カ国首脳会議)の会場になるザ・ウィンザーホテル洞爺をサービスの質で世界一流に引き上げたのも佐藤さんなのです。キャリアバンクのお話から、始めてください。

佐藤:キャリアバンクというのは、人材紹介を主業務とする会社です。共通の市場から人材を仕入れて共通の企業に売り込む人材紹介は、仕入れ力のあるところが勝ち残れる、そして高い利益率を得られるビジネスです。

キャリアバンクの特徴は、大手企業が比較的弱い地方の市場を活用する、地域特化型ということです。人材ビジネスで勝ち残る方法は、例えば医療など特定の業界に強いか、地域に密着するしかありません。ただ、私たちが業界に特化しようとしても、グッドウィル、パソナ、テンプスタッフなど業界上位の企業には勝てないのもまた事実です。

例えば、あなたが転職したいと思ったとき、100社にも登録しないでしょう。したがって上位の会社がシェアをとりつづける。リクルートエージェントやインテリジェンスに扱いが集中します。人材紹介もそうなのです。日本全体のマーケットが拡大するほど、上位のシェアが上がっていくという不思議なビジネスなのです。

ですから、私は地域特化型でやっているのです。北海道にさえ来てくれればリクルートにもパソナにも負けませんよ、という世界が作れました。労働市場は金融市場にも似ていると言われます。しかし、金融市場には都市銀行のほか、地方銀行、信用金庫など数多くありますが、労働市場には地方銀行や信用金庫的な存在はなく、都市銀行に相当する全国をネットワークする大企業が人材サービスを提供しています。ところが、市場の特質に目を向けると、産業構造や賃金、労働条件などが地域ごとに大きく異なり、そこに(全国規模の大手数社と)差異化する余地があるのです。大手は、地域差に配慮したキメ細かな対応は出来づらいからです。

札幌証券取引所にアンビシャスという、新興企業が上場できる市場が2000年に立ち上がり、私は、その上場支援組織アンビシャスクラブの会長を務めています。今、日本には、カネを持っている人がたくさんいます。NTTのような大型株は買わないが、皆さんが経営しているような新分野で急成長している会社の株は買いたいという人も、結構います。私もそうなので、アンビシャスがそういう市場でありたい、と思っています。

ここにおられる皆さんをもってしても、東京証券取引所という巨大市場に影響を及ぼすのは難しいと思います。しかし、北海道の証券取引所ではある程度までは可能です。東京ではできないことが、地域では可能です。その意味から、地域は捨てたものではない、と申し上げたいと思います。

エコミックは小規模企業ですが、アンビシャスに株式を上場しました。資金調達という狙いより、信用をつけるために上場したのです。いま日本では広く知られていない会社、すなわちベンチャー企業などが、一見で企業に飛び込んで仕事をとるという構造にはなっていません。ですから生き残り、成長するためには、大手の資本を入れるか、上場して信用をつけて営業スピードを上げるしかありません。エコミックは創業10年になります。売り上げは、前期は3億円にも達していませんが、(2006年4月の上場以来、急成長を遂げており)今期は4億円近くまで拡大する見通しです。

「地域間の情報格差を活かして次に来る流行の“預言者”になる」(小岸氏)

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小口:ディアーズ・ブレインの小岸さんは、リクルートが発行している結婚情報誌「ゼクシィ」の出身で、今は地域ごとの特性を活かしたゲストハウス型ウェディング施設の運営を主にしていらっしゃいます。結婚式のやり方は、地方ごとに違うのですが、共通のところを上手に引き出し、それをベースに地域に合った結婚式を提案しています。また、沖縄で全国からカップルを誘致し年間1万組に結婚式をさせるというプロジェクトを県とともにスタートさせられ、既に年間7000組を超えるカップルが結婚式を挙げるところまでになったそうです。式に参列するために人が集まり、沖縄の地域振興につながっています。

小岸:ブライダル業界ではテイクアンドギヴ・ニーズ、ベストブライダルが大手です。彼らは東京を中心に攻め、その後、地方のマーケットに展開するスタイルをとっています。他方、私たちは、まず栃木に4店、そして茨城に2店、さらにずっと飛んで佐賀、大分へと店を出しました。そして今年9月には台湾に出て行きました。出店戦略は「わけがわからない」とよく言われますが、地域に出てそこに根ざしていくビジネススタイルです。私たちは「地域を活かす」、つまり地域経済の活性化を目指すというより、「地域が持つ潜在力によって生かさせていただいている」という感覚でビジネスをしています。

地域に関心を持ったのは、当初、存続の危機に瀕していたゼクシィの建て直しを任されたときでした。関西版のスタートに関わり、その後、東京に出てから気づいたのですが、東京とほかの地域では(ウェディング関連の)情報の伝わり方に時間差があるのです。いわゆる“情報格差”です。

当時は1年半ぐらいのスピード感覚の差があると感じました。そのあと九州に行ったら情報が2年遅れていることが分かりました。そこで「タイムスリップして未来から過去を見るような感じなので、こりゃあ、僕、預言者になれるぞ」と思ったのです。東京さえ見ていればその他の地域で次に来るウェディングの流行が予測できるわけですから、「この感覚で情報提供をすれば先手がとれて勝てる。時間を空けてズルズル出さないで、一気に全国で創刊すればいい」と、全国400〜500の結婚式場を調べ上げ、「ゼクシィ全国制覇プロジェクト」を加速させました。ウェディング業界では当時、ローカルからの動きはあまり見られず、他方、東京からの企業進出もまだまだ様子見。地方にこそ、チャンスがあると思いました。

2001年に(ディアーズ・ブレインの前身となるマネジメントウィザードを)起業。ローカルを強くしようという意識で(投資ファンドの)リップルウッド・ホールディングスと一緒に宮崎・シーガイアのウェディング事業の再建に取り組みました。そんなとき、(グロービスの)堀(義人)さんから、出身の「茨城県水戸市にある(ウェディング施設運営)会社が危ない。手伝ってもらえないか?」と頼まれ、人生で初めて水戸に行ってみたら、面白い。マーケットの大きな可能性を感じたのです。堀さんとの会話に引きこまれて社外取締役として入ったあと、社長を引き受けて、その後(当事はウェディング関連企業のコンサルティングを主業務としていた)自分の会社と(05年7月には)合体させてしまうほどになってしまったのです。それでまた、新たなウェディング施設の場所探しに、人生初の栃木県宇都宮市へ。ここもたまらなく面白い街なのです。東京への憧れ感がある一方、ネットなどで情報格差は縮まっています。それで3カ所一気に出店しました。そのときに地域にウェディングの式場を作ることによる、地域経済への波及効果も肌で感じたのです。時間を同じくして2004年5月から、沖縄でのリゾートウェディングの拡大に取り組むことになります。

リゾートウェディングというのは、以前(私がゼクシィの編集に携わっていた当時)は、軽井沢がメッカ的存在でした。日本人の飽きっぽい性質から鑑みても、私は軽井沢以外に、もう幾つかリゾートウェディングのエリアがあっても良いのではないかと考えました。そこでまず札幌のとあるエリアに交渉に行ったのですが、まるで相手にされず追い返されました。悔しい気持ちを抱え、その足で地元向けに結婚式をやっている函館の聖マリア教会に行き、「ここに新しいリゾートウエディングエリアを作って、札幌マーケットを驚かせてみたいですね」と訴えたところ、幸いにも賛同を得ることができました。それで(ゼクシィ誌上に)函館ウェディング特集を組んだところ、なんと600組のカップルが結婚式を挙げに来たのです。

「たかがひとつの情報誌にマーケットを創ることができるのか。それにともなって観光客を拡大できるのだったら、いっそのことエリアごと開発してしまおう」と、今度は那須塩原に行きました。すると、「温泉地の顧客の平均年齢が上がってきている」というのです。「ウェディングで平均年齢を下げましょう」とホテルサンバレー那須の当時の総支配人の佐々木さんが協力体制を敷いたところ、わずか1年で(那須の有力施設の一つである)そのホテルサンバレー那須に650組が挙式のため訪れるようになりました。その頃から周辺にチャペルが次々とでき、エリア全体で2300組が挙式をするところまで膨らんだのです。しかしその後、「チャペルさえ作ればウェディングが獲得できるんだ」ということで、地域のペンションまでもがチャペルを併設するようになり、結果としてエリア全体のクオリティが落ちました。年間の挙式数が1300組程度まで下落し、ビジネスとして永続させるには、グランドデザインが必要と思い知った次第です。

沖縄にもこの頃、一度行きました。しかし当時は関係者にリゾートウェディングの概念を提案すると、「それには県の補助がでるんですか」と皆が言うような状態でした。こんな状況では仕事はできないと、撤退しました。しかしその後、2001年9月11日のニューヨークでのテロ事件があって沖縄への観光客がグッと減ります。そこで(「危機感の高まっている今が機」と考えて)再度、沖縄リゾートウェディング構想を申し入れたのです。

2002年から財団法人・沖縄観光コンベンションビューローにおいて、リゾートウェディングプロジェクト総合プロデューサーの任に就き、リゾートウェディング拡大のグランドデザインを描きました。そして、「1万組のカップルを結婚式に誘致すれば、1組が最低20〜30人の参列者を連れてくる。そうすれば、沖縄を訪れる観光客が20万〜30万人増える計算です」と、説明をしてまわりました。沖縄ではその頃、修学旅行の誘致が(観光収入の再興策として)重要視されていましたが、学生はお金を落としません。ですが結婚式に来る大人はお金を使ってくれます。1組が100万〜150万円の費用をかけるとして、1万組を誘致すれば100億〜150億円が地域に落ちます。その上この人たちは旅行者としてリピーターになってくれるでしょう。さらに言えば、新たな産業が立ち上がり、地域の雇用も創出できるはずです。

2003年頃から本格的に動き出し、現段階で7000組超が挙式を上げ、経済波及効果も100億円を超えるところまできました。最近では、地域の文化を高めるのにもウェディングが使えるという意識が育っています。

「煩雑な流通経路を解きほぐし、産地と生活者を直接に結びなおす」(高島氏)

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小口:高島さんの業界は、仕入れがキーですね。言うのは簡単ですが、農協という伝統的な巨大組織が農業・農家を縛り、集荷・出荷を押さえている。そんな牙城を、どうやって打ち破っていったのですか。

高島:確かに立ち上げのときは産地開拓に苦労しました。起業前の私は、戦略コンサルタントをしていたので、モノを買うのに苦労するという経験はありませんでした。有機野菜の農家を訪問して「おたくのトマトをインターネットで売りたい」といったところ、「何を言っているかわからないから帰ってくれ」と、ほとんど門前払い。昼間から長い時間一緒に酒を飲んで、インターネットの将来性などを熱く語り、理解されたのではなく同情されて、取引が始まった感じです(会場笑)。農家は、農協に頼っていれば自動的に売れるのに、新しい名も知れない企業と付き合うのは面倒くさいと思っていたようです。

そんな農家がついてきてくれた理由は、インターネットを介して消費者の声が直接聞けたからでしょう。日本は流通経路が長い。農家―農協―青果市場―仲卸一青果店へと農産物が流れていくうちに、消費者の生の声が届かなくなり、情報の断絶が生じます。生産者と消費者の情報ギャップが大きい、食べる人と作る人との間に情報が流れていないということは、やってみて初めてわかりました。

オイシックスが仕入れをしている農家は、その大半が自身の作る作物に一方ならぬこだわりを持っています。皆、「うちのトマトが日本一だ」と思っているのです。彼らに「ほかの農家が作っているトマトを買ったことがあるか?」「スーパーで買ったことあるか?」と訊ねると、「ない」という答えが返ってくる。「ではなぜ日本一と分かるのか?」というと、「頑張っているのだから、おいしいに決まっている」と。

そんなロジックで動いていた彼らが、インターネットを通じて初めて、「うちの子供が初めてトマトを食べてくれた」といったお客様の生を聞くようになります。彼らにとっては生まれて初めての消費者の本音の意見、努力を外側から評価される瞬間なわけです。

「丹精込めた野菜なのだから、おいしくないわけはない」と考える生産者と、お客様の味覚の間にギャップが生じることもあります。最初は、職人気質から、「味の分からないやつらは放っておけばいい」というような反応を見せていた生産者も、お客様の声を繰り返し聞くうちに、少しずつマーケティング思考を持ち始めます。「収穫タイミングを変えてみよう」とか、「肥料を変えてみよう」とか、消費者の評価を探る姿勢が生まれたのです。

農協は生産物の価値を重量のみで決めますが、私たちは質で評価します。生産者の努力を揺ぎなく評価する姿勢とお客様のダイレクトな反応の蓄積とが、産地との良い関係を徐々に構築してきました。

小口:産地における生産者と農協の関係は非常に強固です。農協以外の流通に関与することで、生産者が地域で浮いてしまうということはありませんでしたか。

高島:有機栽培をする人というのは、もともと多少は浮いています。もちろん最初は、(周囲から)心配もされたようです。しかし次第に、「○○さんのトマトでなければ食べられない」などという固定のお客様が付き、地域(生産地)どころか個人ブランドで売っていける“スター”になると、逆に羨ましがられるようになっているようです。

小口:そうした好循環が見られるようになると、(わざわざ営業してまわらなくても)産地から「オイシックスで売りたい」と言ってくるようになるのでしょうか。

高島:そうですね。3年ぐらい前から、生産者からの売り込み希望量が、消費者が必要とする量を超えるようになりました。今は、全国の生産者に出荷を待ってもらっている状態です。

小口:大都市と地方、あるいは生産者と消費者の間に生じる情報ギャップを埋めるところにビジネスチャンスがあったということですね。これは小岸さんのビジネスとも通じるところがありますね。

小岸:人口減少時代に入り、日本ではウェディングは衰退産業と見られています。(競争力を高めて)ゲストハウス1軒あたりの稼働率を上げていけばいいのでしょうが、マクロ的にみて市場規模が縮小していることは否めません。社員のモチベーションを維持するためには、ビジネスが加速していることを肌で感じさせ続けたい。そこで私は市場の捉え方そのものを考えなおしました。日本における「地域」を狙うだけではなく、アジアにおける「地域」に視点を転じたのです。今年7月に台湾に現地法人を立ち上げたのが、その一つの表れです。(市場調査のために台湾の)台北市に行ってみて、「宇都宮と似ている」と思いました。かつて私が東京のマーケットから宇都宮との情報格差を感じ、「これならいける」と確信を持ったのと同じ差異を日本のウェディング産業と台湾のそれの間に感じ取ったのです。

「海外では不可能な仕事をコストの安い国内の地域で請け負う」(佐藤氏)

小口:都市と地域の間には情報の格差だけではなく、賃金や物価など、カネの格差もあります。佐藤さんは、売り上げは都市部の平均的な賃金ベース、かかる費用は北海道の(都市部と比して)安い賃金ベースという、“おいしい”ビジネスをしていらっしゃいますね。

佐藤:エコミックは給与計算のアウトソーシングを請け負う会社です。これはデータさえ揃えば東京でなくてもできる業務なんです。しかし、そのことを大手企業はあまり強く認識していません。その意味では「逆・情報格差」があると言えるかもしれませんね。

北海道では、時給700円も払えばアルバイト、パートが採用できます。こうした(安くてキチンと仕事ができる)経営資源が地域にはあるのに、活用できている企業は少ない。そこを使ったのが私たちのビジネスです。

(グループ会社である) SATO社会保険労務士法人も、この格差を活かしています。2003年の法改正で、社会保険労務士や税理士の法人化が認められ、大きなビジネスチャンスが生まれました。SATO社会保険労務士法人は東京に営業事務所、札幌に本社機能と(情報を“生産”する)ファクトリー機能を置いて、社会保険や労働保険にかかる手続きを大企業から受注しています。

社労士の仕事は企業の労務管理のコンサルティングと、上記のような事務処理の手続き代行に大別されますが、この手続き業務を大規模に受託できる法人は、まだ少ないのです。そもそも法人がそれほど立ち上がっていないうえ、東京では事務所費などのコストが高すぎる。1万人規模の大企業から保険証の発行交付など、受けたくても受けられない実情があるのです。

ところが、当社は(東京と比べた安価な賃金で)職員を多数抱えており、安い地価で充分なファクトリースペースも備えているので、急な受注にも耐えられる。例えばコムスンが営業譲渡したジャパンケアサービスも私たちのお客様ですが、3000人分の新しい保険証の発行と7000人の給与計算を請け負ったばかりです。

事務所などの必要経費と人件費、法人化による効率化など全て換算すると、私たちは個人の社労士と比べ、18倍程度のコスト競争力を有しているものと見積もっています。

小口:随分前のこととなりますが、IT企業の集積を札幌に作ろうという動きがありました。しかし、彼らは結局、東京に出ていき、最終的には潰れてしまった。通信コストは東京のほうが安い、交通の便が良い東京のほうが営業拠点としては適切など、その理由は幾つかありました。佐藤さんの会社が北海道に居ながらにして勝ち残っている理由は、情報格差や、賃金や事務所費などのコスト差以外にもあるように思えてなりません。

佐藤:情報通信産業のことはよく分かりませんが、それは私たちの仕事が事務系であることと何か関係があるかもしれません。ITにせよ、事務処理にせよ、行うのがデータ処理だけであれば、(賃金が安い)海外にアウトソースするのが一般的でしょう。しかし、私たちの仕事には物流が絡んでいます。例えば先に紹介した保険証7200枚を発行する作業ですが、これは日本でしかできません。年金手帳、雇用保険証、出勤簿など、物流が絡む仕事は、輸送インフラの整っている日本国内だからこそできることであって、いくら人件費が安くてもビジネスユースに耐える正確さ、スピード、価格を担保できない海外にアウトソースしづらい性質のものと思います。

会場:地域の賃金水準がもっと下がれば競争力はさらに高まるのではないでしょうか。住環境などを考えると、地域のほうが実質的な賃金水準は高いわけですから、下がる余地はあると思います。

佐藤:そうですね。確かに住居費の安さや人口対比で見た公共設備の充実度などを勘案すると、もっと価格差があってもいいかもしれません。私の会社では、給与計算のデータ打ち込みなど言葉や物流の壁の生じない仕事は次々と海外に出していこうと考えています。コストの安い地域でも、このように海外を利用し、東京との格差をさらに広げるというような発想が必要でしょう。

「農協は供給者側で需給調整する。それを我々はIT活用により需要側で行っている」(高島氏)

小口:物流の話が出ましたが、農協のシステムが機能していた理由の一つに、集荷量を規模化して卸に一括で流すことによるコストメリットがあったのではないかと思います。鮮度劣化を防ぐ技術も発達しています。オイシックスでは物流にかかる負担をどのように吸収しているのですか。

高島:物流コストは、商品そのものに消費者にとって納得感のある付加価値があれば吸収可能です。

農協は、生産者にカネを貸し、そのカネで種苗や肥料、耕作機械などを買わせることにより、生産者を囲い込んできました。その(簡単には農協から抜け出られない)構造のなかで、生産する農作物の質のいかんに関わらず、重量のみによって評価し、生産者の意欲を削いできた側面があると私は考えています。

しかし市場には、質の高い生産物に相応のコストを支払うお客様もいるのです。私たちは、インターネットを介してお客様に生産者の“物語”を伝えるなど、生産者の頑張りが報われるシステムを作り出そうと尽力してきました。

例えばオイシックスで買い物をすると、届いたその日には生産農家からのメッセージがお客様の手元に届きます。「ほうれん草を作った△△です。えぐみがないので、まずは生のまま塩で食べてみてください」といった具合です。このメッセージの効力は大変にパワフルなもので、生産者からのこうしたオススメレシピをお客様が実践する率は全体の8割にも上ります。こうしたメッセージが、「ほうれん草」という単なるモノに、それ以上の付加価値を持たせ、結果として高いリピート率を創出します。

小口:もう一つ、農協が担ってきた役割として、需給調整による価格コントロールがあります。採れすぎた農作物を廃棄させるなどして、値崩れを防いできたわけです。販売をオイシックスに任せ、もしも見込んだほど売れなかったら、生産者の生活は脅かされます。

高島:最初は私にもその問題の“解き方”は分かりませんでした。しかし今は、需給調整はインターネットだからこそできる、と胸を張って言えます。

例えば、生産者に「トマトを○トン買います」と約束したとします。お客様の反応を見ながら、「あれ?そこまで行かないかも?」と判断すると、ホームページ上の表示位置を目立つ場所へと変えるんです。スーパーの陳列棚の位置を瞬時に変えるようなものですね。しかも、この棚の位置はお客様一人ひとりの嗜好や購買性向に合わせて変更できる。お客様の過去の購買履歴などを元に、購買量の予測や在庫調整を行えるわけです。つまり、供給側で量や価格の調整をするのではなく、需要側を変えていく。この方法によってオイシックスでは商品のロス率を0.5%という非常に低い水準に保っています。

「地域ごとに異なるお客様のニーズに仕組みで応えられるようにするのが課題」(小岸氏)

小口:そうしたIT絡みの仕組みというのは、地域の側ではなく、東京で、しかもある程度規模化したビジネスとして地域を束ねている側だからこそ、できることなのでしょうね。同じ文脈でお聞きしたいのですが、小岸さんは(ウェディングの)ビジネスのどの部分を(共通の)仕組みとして動かし、どの部分を個別のお客様や地域特性に対応するものとしてカスタマイズしているのですか、

小岸:婚礼に関わる風習というのは地域ごとに大きく異なります。例えば佐賀県の鳥栖市では結婚式の費用を前払いにしますが、同じ佐賀県でも佐賀市では後払いにするのが一般的です。それを解さずに、運営側の理で進めようとすると、「偉そうな会社が来た」と地元から爪弾きにされてしまいます。

参列者のおおよその数も地域ごとに異なります。例えば東京では1組あたり60〜70名というのが平均的であるのに対し、北関東、九州では100名程度。私たちが北関東の次に九州に出店したのには、実は、そんな(参列する人数が同程度であれば、オペレーションの仕組みを移植しやすいという)背景がありました。

風習は地域ごとに細かく異なるのですが、幸いにして「結婚式は2時間半から3時間のイベント」であり、参列者を迎え入れ、送り出すまでの“起承転結”さえ外さなければ感動を創り出せる、という大きな共通項があります。そして、その中に埋め込むコンテンツは東京を見てさえいれば、どこよりも早く、多彩に仕入れられます。あとはそれらを、どのように地域特性に合わせて組み合わせるか。ディアーズ・ブレインには100名のウェディングプランナーがいますが、そこは彼らの力量にかかっています。会社としてしなければいけないのは、コンテンツの“引き出し”と地域ごとの差異を、なるべく使い勝手のよいデータベースにしていくことと認識しています。

小口:プランナーの力量を揃えるのは大変でしょう。

小岸:そう、メチャクチャ大変です。(主業務をコンサルティングから施設運営に切り換えた2004年6月からの)1年目は、勢いで走り抜きました。当たり前ですが、2年目になって、気合いや勢いだけではダメと分かってくる。3年目の今は、「プロデューサーズカレッジ」と呼ぶ、プランナー同士が事例を発表し合うなどノウハウを共有するための学びの場を設置し、展開しています。相互に切磋琢磨しながら学び合い、お客様に提供できる価値の水準を上げていく。(高品質を属人的なものに留まらせてしまうのではなく)会社全体として高品質を維持するためには、この学び合いを永遠に繰り返し、ノウハウの拡大再生産を仕組み化していくほかないと思っています。

小口:話は飛びますが、佐藤さんからコンサドーレ札幌での経験をお話しいただけないでしょうか。スポーツビジネスというのは、日本では、まだ理解が少ないですが、地域と直結して、これだけ大きなビジネスになる可能性を秘めたものも少ないと私は考えています。

佐藤:そうですね。実は北海道は10年前までスポーツ不毛の地と言われていたのです。ご承知のとおり、大相撲に北海道場所というものはありませんし、野球も弱かった。ところが最近になって、日本ハムファイターズが本拠地を札幌に移して(2004年)成果を上げたり、高校野球で駒澤大学附属苫小牧高校が活躍したり、「どうして、こんな変化が起きたのか?」と私自身、不思議に思うくらいです。

コンサドーレ札幌がJリーグ(日本プロサッカーリーグ)に加盟した1998年当時は、地元有力企業に協賛を求めても、「スポーツといえば野球だろう」と力を貸してもらえませんでした。経営者は「地域をどう盛り上げるか」という以前に、「地域をどうビジネスに活かすか」という観点で取り組みますから、当然といえば当然です。

しかし、地域のサポーターが徐々に盛り上がってきました。コンサドーレ札幌や日本ハムファイターズの活躍なども奏功し、スポーツ観戦にお金を払うということが、地元で定着しつつあります。地域には、都市部に仕事を求めて出て行く人と、地元に残る人とがいますが、地元に残る人の地域への思いいれは、とりわけ深い。彼らの支持は熱く、長く続きます。ただ、純粋にビジネスとしては、まだまだ赤字で、行政などのテコ入れが必要な状態です。

小口:皆さんのお話を伺うほどに、東京にいるだけでは見えないことが沢山あることを改めて認識しました。今日の議論から、地域の資源を活かしながらビジネスを興す機会の一端を感じていただけたら幸いです。

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