IPOの先に何が見えるのか 

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株式公開の意義を、各社はどう捉えているのか。また、それを受け入れる市場側は、振興企業に何を期待するのか--。ここ数年の間にIPOを経験した3社の代表が赤裸々に告白。投資ファンド側の視点からはまた、ペンタックス内紛劇の真相も語られるなど、企業が株式公開により「社会の公器」となる影響について深い議論が展開された。SILC 2007 autumn初日3番目のセッションより、詳報する(文中敬称略)。

「資金調達ではなく、社員の意識変革や、対外的な信用力の拡大を目指した」(坂本氏)

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仮屋薗:このセッションではIPO(新規株式公開)の是非について、実際に上場を果たした企業、機関投資家など、多面的な視点から議論をいただきます。まず東京一番フーズの坂本さんから、IPOの目的について上場経緯を振り返りながら共有ください。

坂本:東京一番フーズは、フグ料理を専門に出す「とらふぐ亭」ほか、50店舗を直営で展開しています。株式は2006年12月21日に東証マザーズに公開しました。当初、同年6月の公開を目指していたのですが、新興市場に不祥事などがあった関係で延期となり、年末ギリギリの上場となりました。IPO前の準備は本当に大変で、私も社員もヘトヘトになりました。上場により、いわゆる社会の公器となったことで、法令遵守・内部統制をはじめ、あらゆる意味で厳しい監視下に置かれることにはなりましたが、そのおかげで会社としての足元が固まったという実感があります。

IPOは創業時、まだ1店舗しかないころから考えていました。外食産業での公開企業は今でも100社程度、当時はもっと少なく、税理士からは「飲食店が上場なんて無理」と言われていました。難しい挑戦であることは分かっていましたが、社内ではいつも「上場するんだ」と言っていましたね。「無理」と言われることに挑むことで、社員や会社、自分自身が成長するという期待があったのです。また、IPOというステージに進んだ後、どんな世界が目前に広がるのか?という、純粋な好奇心もありました。

仮屋薗:資本政策はどのように組まれたのでしょうか。そもそも資金需要は大きかったのですか。

坂本:いえ。当社の場合、特に資金需要があったわけではないのです。新しいチェーンを作るなどとなれば、もちろん多額の資金が必要となりますが、「とらふぐ亭」を基軸とする現ビジネスモデルを続けるうえで必要な運転資金は、現金商売を営んでいるので、十分にまわっていました。IPOを目指した理由はむしろ、対外的な信用の獲得、それにより優秀な人材を確保したり、取引先との交渉を優位に進めたり、といったところにありました。

資本政策という意味では、大きな意図を持って社員に対し、株式を分散させました。もともと株式は私が100%保有していたのですが、これを全社員にも配分したのです。外食産業においてストックオプションに対する社員の見識や要求はさほど強くありません。しかし私は、社員に株式を保有させることで経営者感覚を持ってもらいたいと考えたのです。

“料飲おたく”、“サービスおたく”的に顧客満足を追求することは、もちろん大切です。しかし、時には全体を俯瞰する経営者の視点で自分たちの仕事を考えてもらいたい。日々、株価を意識することで業績や対外的な会社への評価の意味を理解してほしい。IPOに向けた資本政策の意図は私たちの場合、資金獲得ではなく、総合的な人材育成にありました。

仮屋薗:社員の意識変革を促したいという思いが強かったのですね。ngi groupの西川さんは何を目的としてIPOを目指されたのですか。経緯を含め、お話しください。

西川:創業から8年を経た2006年7月にネットエイジグループ(2007年7月に再編、現在はngi group)を東証マザーズにIPOしました。創業当初よりグロービス・キャピタル・パートナーズの投資を受けており、ファシリテーターの仮屋薗さんには今も社外取締役を務めていただいています。

私たちは坂本さんとは逆で、最初からIPOを目指していたわけではありません。1998年の創業時は、米国シリコンバレーでITベンチャーの大きなうねりが起こっており、私も「黙って見ていられない」という気持ちに突き動かされ、友人・知人に出資をお願いし、貯金をはたき、資本金1500万円で会社をスタートしました。浅い事業計画を携え、資本市場の何たるかも知らず、今から考えると冷や汗が出るような起業でした。そんななか、グロービスをはじめとするベンチャーキャピタルから資金を得た時点で、自然とIPOが運命づけられたというわけです。

仮屋薗:「IPOすべきか否か」という観点で、迷いはなかったのでしょうか。

西川:確かにありました。当時、マザーズ、ナスダック、ジャスダックといった新興市場が相次いで立ち上がり、その影響で、1990年代後半から2000年にかけて、IPOに走る起業家が増えていました。「あいつがやるなら私も」という勢いだけで目指した人も多かったように思います。この異常なIPOバブルの渦に巻き込まれて自分が正気を保てるのか、正直、怖かったです。もちろん、公開後に実態が追いついて、堅実に成長した企業もありましたが、当時は危機感のほうが大きかったように記憶しています。

仮屋薗:スパークスは、機関投資家という立場ながら、持ち株会社のスパークス・グループがジャスダック証券取引所に上場しています(上場は2001年12月、当時の社名はスパークス・アセット・マネジメント投信)。投資顧問・資産運用を主業とする会社そのものを(投資対象となる)市場に公開した目的はどこにあったのでしょうか。

宮坂:1989年に弊社グループ代表の阿部修平が創業した時(創業時の社名はスパークス投資顧問)はバブル経済のピークで、運用会社として最悪の創業タイミングと言われました。金融機関は信用・信頼が大切ですが、バブル崩壊とともに保有株式の価値が下がり続けるなかで、創業者の阿部にとってはこの信用・信頼をどう構築するかが課題でした。スパークス・グループは「世界で最も信頼尊敬されるインベストメントカンパニーになる」ことをミッションとして掲げていますが、これを達成する手段としてIPOを活用したわけです。加えて創業者に子供のないこともあり、グループを外部株主の公器とし、公開会社として成長義務を自らに課すことで会社の継続を図ろうと考えたという面もあります。

仮屋薗:信用・信頼の獲得という目的はIPOによって果たせたのでしょうか。

宮坂:達成できたと考えています。その証左として、IPO直前にはグループ全体で2000億円だった預かり資産は、公開後わずか5~6年で10倍の2兆円を超えるに至りました。これはIPOによって得た信頼の賜物です。

仮屋薗:坂本さんも、IPOの狙いの一つとして信用力の獲得という言葉を使われました。

坂本:そうですね。私たちの商いでは、お客様や取引先といったステークホルダーからの信用が日々の収益に大きな影響を及ぼします。実際、上場後には仕入れ単価のコストダウンが得られましたし、銀行内部での格付けが上がり、借り入れのレートが下がったとも聞いています。実際に大きな借入をしたわけではないのですが。

「我こそはという起業家の雄叫びを市場は待ち望んでいる」(西川氏)

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仮屋薗:西川さんは先ほど、ベンチャーキャピタルの資金投入がIPOに牽引するドライバーとなったと言われました。ご自身として、「行くぞ」と思うに至った理由は何だったのでしょう。

西川:上場審査で必ず聞かれる質問があるのですが、それは「あなたの会社はなぜ上場するのか」というシンプルかつ本質的な問いかけです。これに対し、私は「会社を強くしたいから」と答えました。IPOの狙いとして信用力や資金や人材などがありますが、全ては「会社が強くなること」に収斂するものと理解しています。先ほど坂本さんが「IPOの目的は資金ではなかった」と言われました。IPOによって得ようとする資源の中身は業種・業界によって差異はあれ、「足りない資源を市場から調達して会社を強くしたい」という思いは同じだったのではないでしょうか。

ただ、私自身は資金ニーズのない会社はIPOの必要はないと思っています。その理由は、資本市場の原理・原則にあります。

起業から上場に至る経験を通じ、私は、資本主義社会において「我こそは」と手を上げる者には挑戦権が与えられるという普遍の原理を見ました。例えば楽天の三木谷(浩史・代表取締役会長兼社長)さんはIPOにより490億円の資金を市場から調達しました。今では信じられないことですが、当時の楽天の売上高は確か4億円、利益は数千万円という規模でした。しかし、彼は数百億のカネを使うに足る事業を展開するという自身の器や肝の大きさを示してみせた。そして市場は、それに応えました。

「我こそは」という起業家の雄叫びに対し、「この男には1000万円やらせてみよう」「この人には10億円」「この人には100億円」という資金を用意して市場は待機しています。従って、(起業家側にとっての)上場メリットはいろいろありますが、(市場の原理から考えると)社会の公器であるカネを使い、もっと会社を大きくするというビジョンがあってこそのIPOと、私は思うのです。そうやって社会の待望する起業家を世に輩出することがIPOの役割なのではないでしょうか。

仮屋薗:IPOに至る目的を、それぞれに話していただきましたが、逆にIPOによるデメリットもしくはコストをどのように考えればいいでしょうか。株式公開をすると、機関投資家・個人投資家などステークホルダーの多様性が増すわけですが・・・。

坂本:上場前に、何社もの機関投資家のところを回って、出店計画や収益予測について公約するのですが、その約束に対して非常に厳しいプレッシャーがかかります。無事にIPOを達成し、さて終わりかと思うと、実はこれがずっと続くのです。四半期毎に機関投資家に会い続けなければならない。証券会社などから聞かされて知ってはいたものの、1回、2回ではなくて、公開の際にした約束が実行できているかを常に問われ続ける厳しさというのは、体験して初めて身に沁みました。

特に悩んだのは、事業拡大のブレーキをどう踏むかという点。IPO前は事業環境の変化などに即応して、すぐブレーキをかけられましたが、公開後は公約未達の恐れを感じてなかなかブレーキを踏めなくなりました。例えば、年間16店の出店を約束しましたが、不動産価格の高騰を受け、時期をずらしての出店の方がよいのではと検討しました。しかし、公開会社は「期を越えて目標達成すればいい」とはいかず、「約束を守るために出店しよう」となる。ただ、安易な妥協で目先の数字だけを達成すると、次期の収益悪化につながってしまう。このブレーキを踏むか走るかという判断が難しくなりました。

仮屋薗:西川さんはどうですか。

西川:やはり業績予測に対する絶対的な達成を求められるようになったという感触を抱いています。下方修正は絶対に許されない。現実としてはあるのですが、少なくとも達成する意欲は見せなければいけない。そのプレッシャーはあります。

ただ、機関投資家はプロですので、「相手の判断に任せればよい」というような多少の安心感も一方にはあります。その意味で、私がより強くプレッシャーを感じるのは個人株主に対してですね。株主総会などで高齢の株主さんの“虎の子”を預かっている、という事実を目に当たりにする時など、責任の重さを改めて痛感します。このプレッシャーは精神的には重たくのしかかり、私自身の意識変化を否応なく求められました。

仮屋薗:公開後は投資家への配慮が求められるわけですが、ステークホルダーが多様化するなか、株主、社員、顧客、これら3者の優先順位をどう考えておられますか。

坂本:当社の場合、お客様と個人投資家が一致しているケースが結構あります。私は現場(店舗)に出ることが多いのですが、突然、お客様から「あんた!」と呼ばれて何かと思えば「おたくの株価、下がってるよね」なんて叱られたりする。そんなときには、「説明責任を果たさなければ」と身が引き締まる半面、「IR(投資家向け広報)に時間を取られるようになってしまったな」などと思うことは、正直、あります。

西川:株主、社員、顧客の3者の優先順位でいえば、僕は社員が満足することがスタートだと思っています。社員が満足していれば商品にせよサービスにせよ良いものを提供するから顧客が満足する。すると、収益は自然と向上し、それが株主に波及するという順番です。投資家への説明責任という点では、慣例や思い込みでは説明にならず、何らかの合理的な説明をしなければならない。実は、未公開時代は勘を頼りに突き進んで、それが当たったということも多かった。しかし上場すると、意思決定の裏づけを求められるため、結果としてスピードが落ちたり、納得を得られず「イケる」と感じた施策を実行できないという場面も起きてきます。

「行き過ぎた株主提案ではなく中長期的成長を共に目指す株主でありたい」(宮坂氏)

仮屋薗:上場後、投資家への配慮から経営判断に微妙な変化が生じているのですね。では逆に、投資家はどのような視点で企業を見ているのでしょう。宮坂さんにお聞きしますが、機関投資家とは、どのような性格の投資家なのでしょうか。

宮坂:私はスパークス・グループ内のスパークス・キャピタル・パートナーズ(以下SCP)の代表を務めており、日本株式集中投資戦略、バリュー・クリエーション投資戦略、未公開株式投資戦略という3つの戦略に関与して価値創造活動を行う部隊を率いています。いずれの投資戦略も一般的な投資理論とは全く逆で、投資ポートフォリオに含める企業数を少数に保つことを特徴としています。少数投資はボラティリティ(価格変動率)が大きく、個々の株価がファンドのパフォーマンスにストレートに影響を及ぼすという意味で、通常は採らない戦略ですが、スパークスでは敢えて実行しています。短期的な株価変動に一喜一憂することなく、投資先企業の経営者と一緒になって中長期的な企業価値創造に向けた取り組みをすることを前提とした投資戦略なのです。ファンドへの投資家サイドも、この戦略に理解を示していただける機関にだけご出資いただき、約2000億円のファンドを組成しています。

株式市場を規模別にみると、時価総額ベースでは、市場全体の70%以上が時価総額約5000億円以上の大型株で占められているのに対し、企業数では逆に、全体のの90%以上を時価総額約1600億円以下の中小型株が占めています。つまり、機関投資家から見た投資対象企業の数でいうと圧倒的に中小型株なわけですが、当然全ての企業が投資対象にはなりえず、機関投資家から選ばれる勝ち組と選ばれない負け組に分かれることになります。また、機関投資家といっても一類型ではありません。短期の利益を目的とした典型的ヘッジファンドもいれば、我々のグループのような長期投資を志向した投資家もいる。個人投資家にもデイトレーダーから、この会社が好きだから持っているというサポーターまで幅広くいる。このように様々な思いのプレイヤーがいることによって、市場の流動性が支えられているのです。

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仮屋薗:機関投資家はあくまで市場のなかの1プレイヤーという立ち位置ですが、金融市場そのものは昨今どんな動き、変化がありますか。

宮坂:米国では、1980年代から1990年代を通して、年金資産が爆発的な増え方をしており、米・英・日本など主要5カ国の個人金融資産合計7700兆円でみると、年金資産がその3分の1以上を占めるに至っています。年金は、個人から預かった資金を運用して、将来、増額してお返しすべき資金であり、厳しい受託者責任が問われるため、経験的に15%以上は利回りを要求される厳しい性格の資金です。この年金と中東などの政府系資金が急激に増え、高い利回りを求めて世界中を巡っているのです。

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仮屋薗:グローバルに資金が回遊するなかで、世界の投資家は日本市場をどう位置づけているのでしょうか。

宮坂:経済が下降しているといっても世界2、3位の安定した金融市場である日本市場は無視できません。日本市場にどう期待すべきかを注視している状態です。このチャートを見てください。

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現在、日本の株式市場では、銀行・系列企業などの株式持合による固定株が急激な勢いで放出され、1990年代半ばまでは50%程度であった浮動株の比率が急増し、現在は浮動株が80%以上を占めるに至りました。つまり、かつては固定株の株主さえみていれば、浮動株の株主のことは気にしなくてよいという風潮の時代であったのに対し、全上場会社の株式の大半は、我々のような高いリターンを求める機関投資家が保有する結果となったのです。

先ほどから西川さんや坂本さんが「公開すると説明が大変」と言っておられるのはこの影響です。機関投資家は、公開企業がどのように儲けるのか、どのようにリターンを上げるのかの説明を求めます。なぜなら、機関投資家自身も年金資金などから説明を求められるからです。先に「下方修正は厳禁」という話が出ましたが、たとえ上方修正であっても、我々は警戒しますね。そもそも、そうしばしば修正がある企業は信用できませんから。

仮屋薗:同じ投資家の立場から質問ですが、IPO化の一方で、最近では逆に非公開化・未公開化の動きもありますが、投資先の株価が下落してMBO(経営陣買収)やTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられたりすると、投資家としては損が確定してしまいます。この流れをどう見ていますか。

宮坂:自分たち自身も公開会社である機関投資家、という点で、我々は特殊な立場といえますね。自分たちならどうするかを考えながら経営者と話をしています。しかし、トレンドとして問題視はしていません。公開会社は厳しい義務を課されているため、何らかの事情で義務を果たせない会社が市場を退出するのはあるべき対応と思います。もちろん、目的次第で、高い価格で増資をしていきなり低い価格で非公開化するといった市場を利用した一種の犯罪は許せませんし、論外ですが。

仮屋薗:厳しい説明責任を求める機関投資家ですが、そもそも投資する際の判断基準として、投資先企業の特に「ヒト」をどう評価しますか。

宮坂:株主なんて関係ない、というような経営者の場合は、そもそも投資対象になりません。その意識を変えてまで投資しようとは思いませんから。我々は、経営者の資質、ビジネスを展開している市場の魅力度、それから戦略を総合的に判断して投資しています。

経営者の資質、という点で分かりやすく言うなら「嘘つきは嫌い」です。業績などが悪い時でもきちんと説明できる人を支持します。弊社グループの投資調査担当者は年間のべ4000回以上経営者とお会いしますが、これだけ頻繁に会っていると経営者のパターンも見えてきて、嘘をついているのはだいたい分かります。悪いこともきちんとお話ししてくださり、「こうサポートしてください」と正直に話していただければ投資家の立場としてできることもありますので、そういう正直な経営者の方を好みますね。

「ファンドは悪者ばかりではありません(笑)」(宮坂氏)

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仮屋薗:ファンドは企業の中長期的成長を促進できるのでしょうか。

宮坂:先にも申し上げたように、ファンドも多種多様です。純粋に株主の権利だけを主張する投資家もいますが、それはそれで必要悪であると私は思っています。今年の株主総会では株主提案が大量に出され、ほとんどが配当増額の要求だったと記憶していますが、我々とあと1社以外は全て否決されました。会社の経営陣のみならず、ファンド以外の株主もこれらファンドの提案を会社のためにならないといって受け入れなかったのです。

先に述べたとおり、1990年代半ばまでは株主のことはほとんど気にされませんでしたが、今、我々が必ず申しあげているのは、株主のこと「も」気にしてくださいということです。ただ企業価値は誰が作っているのかというと、従業員満足、それから顧客満足がなければ継続的な成長はありえないというのが我々の考え方です。

仮屋薗:真に成長するための二人三脚というわけですね。起業家の立場からみれば、良い投資家をつかまえるのも大事なポイントといえそうですね。起業家の立場を理解して、運命共同体となってくれる投資家はどのぐらいいるのでしょう。

宮坂:どのくらいかは分かりませんが、逆に、先の株主提案での要求は、これまで長い間企業が蓄積してきた現金をその瞬間に放出せよ、という無謀な要求でしたので、そんな案が通らなくてよかったと思っています。ただ、我々としては、彼らが騒いだおかげで株式市場がどういう論理で動くか、経営者は何を気にしながら経営すべきか、という株主の論理を、上場会社はもちろん、それ以外の会社にも意識させてくれましたので、その点は我々にとっては説明が楽になり、良かったですね。

仮屋薗:SCPでは具体的に、どのような株主提案をしているのですか?

宮坂:ぺンタックスの事例が報道されたのはご記憶に新しいと思います。新聞などでは我々スパークスと経営陣の対立として報じられましたが、実際はそんなことはありません。

ペンタックスには弊社グループの運用するファンドを通じて2年以上投資していましたが、過去の経営の失敗によって規模が伸びずに資金も含めた競争力不足に陥っていました。このままでは企業が長期的に存続することは難しいと考え、我々から様々な提案をしていましたが、当初、経営陣は独立路線を主張していました。しかし、2年間の間に経営陣の意識が変わりました。真実は報道とは異なり、HOYAとの合併は私たちからの提案ではなく、ペンタックスの経営陣自らが決めたことなのです。

ところが、これは報道の通り、社内で内紛が起きてしまいました。シニアマネジメントの決定に対して、ジュニアマネジメントが反乱し、新たな経営陣が立ち上がったのです。我々はペンタックスが生き残っていける策があるのかを新経営陣に尋ねましたが、彼らは無策でした。我々は、そういうスタンスは株式市場では認められませんということを時間をかけてお話ししました。善管注意義務という取締役として忘れてはならないルールについてご説明したのです。ペンタックスの一眼レフのレンズは他社のレンズでは代替できない、お客様のことを考えたらこの会社を潰すわけにはいかないのだ、と。約3カ月もの間話し合いをして、結果として新任の経営者が自ら辞職したのが顛末です。別に目立ちたくてやったわけではなく、筆頭株主として我々以外にこの会社の将来を考えられる者はいないという思いでやりました。

またケンウッドと一緒にして何がやりたいの、などという中傷も聞きますが、日本ビクターの再生にも関与しています。ビクターは歴史ある世界ブランドですが、長きにわたって赤字を垂れ流してきました。親会社である松下電器産業がいわば優しすぎたことが原因で、上場会社でありながら株主を省みない経営がなされ、その結果、経営危機に陥ってしまいました。弊社グループはファンドとしてケンウッドの筆頭株主になり、数年前に同社再建に関与しました。その経験から、今回は同業の日本ビクターに新規資金を投入して大株主となり、日本ビクターの経営を正常な状態に引き上げるために、ガバナンス、(ケンウッドの)河原(春郎)社長という優れたマネジメント、松下電器産業・大坪(文雄)社長の改革への固い意思という、三つの外部視点を持ち込みました。実は投資以降、株価が大幅に下がってしまったのでファンドとしてはバカモノと誹られていますが、内側では様々な改革が進んでいるのです。なかなか発表できず、市場にご理解いただけないこともあって苦労していますが、裏ではそういうことを考えています。皆さん、ファンドは悪者ではありません(笑)。

仮屋薗:ファンド批判の一部には逆被害者意識、いじめられっ子意識があるのかもしれませんね。それを払拭する説明コストをかけておられますが、その意味でもIPO時の一瞬だけ輝くのではなく、中長期的に良い投資だったといえる事例を教えてください。

宮坂:100%成功させることはできないので、一つの事例のなかにも成功・失敗が織り交ざっていますが、成功事例として確信を持っていえるのはファーストリテイリングのケースです。柳井(正・代表取締役会長兼社長)さんは、実はスパークス・グループの社外アドバイザーも務めていただいていますが、当社からの投資を通じて信頼関係を構築できた結果です。経営者を入れ換えたりといった厳しい決断もされましたが、強い確信とコミットメントを持って突き進まれた、株式市場からみて素晴らしい経営者といえるでしょう。

「上場後も社員をモチベートし続けることが不可欠」(仮屋薗氏)

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仮屋薗:ビクターにガバナンスを導入された話が出ましたが、社外役員導入などのガバナンス体制のあり方について、西川さんはどう考えておられますか。

西川:当社は、外部資本を受け入れた当初から社外取締役として仮屋薗さんに入っていただいたのを皮切りに、何人か入っていただき、現在、社外取締役の方が数が多い状況です。よって、お山の大将、ワンマンというわけには全くいかず、常に社外の方に説明しながら意思決定していますが、これは結果的に有効に働いていると思います。独善的になりがち、全能感を持ちがちなCEOがチェックを受ける仕組みは必要だと思います。当社は、社長以下役員の報酬も自分では決められません。逆にこのガバナンスの仕組みがない会社では、皆さんどうやって自分の給与を決めているんだろうなと思うくらいです(笑)。ガバナンスという意味では胸を張って「やっている」と言えますね。

仮屋薗:坂本さんは、100%株式を持つことで、かえってご自身が成長しなければという意識や自分を戒める意識をもってきたと伺いましたが。

坂本:今も私の持株比率は8割近いですが、私は企業の成長にあわせてガバナンスも変えるべきと思っています。我々が新興市場に出たのは次のステージを目指すためですが、これは大手企業と同じやり方ではいけないと思っています。よって、これからも大きなチャレンジが発生します。その、前例のない経営判断を求められる場面において、若干わがままでも、経営の「勘」も生かせる形で迅速な経営判断をすることが必要と考えて、持株比率を上げています。しかしこれがベストということではなく、企業のステージによって、持株比率もガバナンスの仕組みもどんどん変えていけばいいと思っています。

仮屋薗:IPOまでは大きな目標で社員が盛り上がるが、上場を果たした後に方向性を見失い、組織がモチベートダウンしてしまった、というような話をよく聞きます。皆さんの企業では同様のことは起きていますか。

西川:IPOが頂上ではありませんが、大きなイベントなのでIPOを達成した瞬間に気が抜けるというのは当社にもあったと思います。一方で、公開後に会社が大きく動くなか、新しい社員がたくさん入ってきました。特に、新卒採用は非常に活発になり、これまでにない大量の人数が入社したことによって、また社内が活気づきましたね。

坂本:私たちの会社の場合は、社員に株式を保有してもらったことが功を奏しました。IPO前から分かっているはずではありましたが、実際に新聞に株価が載り出すと、株価の上下に一喜一憂し始めたのです。ですので、経営者感覚を持ってくれるようになったことも相まって、モチベーションダウンというより、株価をどう上げようという前向きな流れにあります。もともと、IPOは「次のステージに行く」ための方法論でしたから、社内は「頑張ってそこに向かおうよ」という雰囲気になっています。また、当社も新しい人が入ることで、社内の中で活性化やよい意味での競争も起こっています。

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