参議院議員・川口より子氏 —いま世界で通じるリーダーシップの形とは 

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存在感はスキルではなく実体

「そもそも存在感というのは、スキルではなく、より本質的な実体(substance)」と、川口氏は持論を呈する。

外交の世界で言えば、どこの国の誰と会合を持ち、何を取り決めしたか、というような波打ち際の事柄を越え、日本という国が総体として魅力的なものとして見られているかということ。それが存在感というものであり、国であれ、人であれ、「それは、決して小手先のスキルで形成できるものではなく、全身全霊で作り上げていくもの」というのが、川口氏の考えだ。

例えば温暖化対策を中心とした環境保全の分野において、日本は世界を牽引するリーダーシップを取り、明白な存在感を示してきた。1994年に日本が議長国を担い、議決に至った京都議定書(正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」)は、その象徴的なものだ。

議決当時より、世界最大の温室効果ガス排出国である米国が離脱するなど物議を醸しはしたが、その後、「“山が動き出した”というような感触は持っている」と、川口氏は話す。一つには、温暖化による影響が(因果関係が明示できるかは、ともかくとして)世界各所で観測され始めたこと、そして、もう一つには民間レベルでは排出権取引が始まるなど解決に向けた具体的な動きが取られつつあることが、「世界を確実に変え始めている」と、川口氏は言う。実際、2008年に日本が議長国となって行われるG8サミット(主要8カ国首脳会議)には米国、中国、インド、EU(欧州連合)など、温暖化対策の主体となるべき国が全て参加して、今後の取り組みについての報告が行われる予定だ。

実績・尊敬・大義・知恵・献身が存在感を形成する

徐々に世界的な動きを見せつつある環境保全分野において、環境大臣として、日本が存在感を形成する一助を果たした経緯を振り返り、川口氏は、存在感の構成要素として「実績」、「尊敬」、「大義」、「知恵」、「献身」の5つを挙げる。

第一に、当たり前のことではあるが、何らか成し遂げたという「実績」抜きに他者から存在意義を認められることは難しい。温暖化対策を例に言えば、日本には高度な省エネルギー技術がある。1970年代の石油ショック後、日本企業は原油の供給が低減することを見据え、省エネルギーに熱心に取り組み、政府もまた、これを助成してきた。そのことが結果として、二酸化炭素の排出量削減につながり、経済の伸長と環境配慮を一定レベルで果たしたものとして、世界から評価されるに至った。

加えて「尊敬」を得ているということ。実績だけを持って、ただ「頑張った」と強調したところで、尊敬の念を得られていなければ、他者の理解は期待できない。「尊敬を形づくるのは、ある種の国の“格”のようなもの。それは経済的な優位だけではなく、文化や人道的な問題に対する関心など、総合的に積層した、国全体としての魅力」(川口氏)。こうした尊敬の念を得て初めて、「日本の言うことであれば聞こう」と他者をして思わせられると、川口氏は言及している。これは無論、個人や企業などについても同様のことが言える。

また、「大義」があるか否か、ということ。「何を行うにしても、その最終的な目的が非常に崇高なものであるかという点が、他者から存在感を持って受け止められる大切な要素となる」と、川口氏。例えば京都議定書議決の際、日本が、「議長国として何とか議論をまとめなければならないから」、「資源が減ると日本として困るから」といったエゴに翻弄されていたとしたら、複数の国の利害を集約することは適わなかったはずである。「人類全体の生存基盤としての地球を何とかして守っていこう。温暖化が伸展すれば、我々の子孫の生活が根底から覆される。だから今、対策を打たなければいけない」ということを世界の人々に思い起こさせながら主張するから、議論をまとめあげることができた。
「目的の階層を上げ、高次元の言葉に翻訳して伝える力が存在感を形成する」と、川口氏は強く訴える。

そして、理想を語るだけではなく、具体的な「知恵」を出せること。とりわけ多くの利害がぶつかり合う場面で、一つの意見に固執したり、単に頭を下げてまわるだけではなく、「皆が納得できる折衷ポイントを打ち出せるかどうかが、リーダーの素養であり、存在感の一部」と、川口氏は言う。「京都議定書議決の際には、日本として『ここは、どうしても譲れない』というポイントについて主張を続けたところ、英国の環境相が夜に部下を一人だけ連れて現れ、『○○という工夫をすれば、EUも日本も飲める主張となるのではないか』という提案をしてくれた」(川口氏)。主張だけを続け、他方が諦めるのを待つのではなく、相手の立場からも妥結策を検討する。ただ闇雲に頑張るだけではなく、そうしたクリエイティビティを発揮できることが、存在感の形成につながると川口氏は考え、自らもそれを体現してきた。

さらに「献身」。その好例として川口氏は、京都議定書に含める実施細目を決定した折に、オランダのヤン・プロンク環境相が議長として取った行動を示す。「各国の利害を調整するため、彼は世界中を飛び回り、とりまとめの努力をしてくれた。私の予定がつかない時など、成田でわずか2〜3時間の議論をするためだけに来て、休みなしにオランダに帰っていくようなこともあった」(川口氏)。そして、「議長として中立性と信頼を担保するため、“オランダとしては、○○して欲しい”というような主張は一切せず、自国の代表としては別な人を立てていた」(同)。国際会議などにおいては、そうした献身が最終的な結果につながり、時を経て、国の品格を高めていく。題目を語るだけではなく、具体的に知恵を出し、公正無私の行動をすることが他者の心を動かす存在感につながる。

「(理想論や反論だけを述べる)オピニオンリーダーはリーダーにあらず。調整力を持って他者を動かし、物事を実際に変化させられるのが真のリーダー」と、川口氏は経験を踏まえ、結んでいる。

常に世界を意識し、自らを評価せよ

では、「実績」、「尊敬」、「大義」、「知恵」、「献身」を備えた、国としての存在感を生み出す基盤はどこにあるのか。

川口氏は、「ヒト・モノ・カネの中でも、とりわけヒト」と、断言する。なぜなら、国家であれ、企業であれ、国際的な場で交渉をし、直接的なイメージ形成に寄与しているのは常にヒトだからである。

しかし、「残念ながら、日本は産業の国際競争力はあるが、ヒトの国際競争力は極めて低い」と、川口氏は警鐘を鳴らす。例えば、国際的な機関に人材を多く送り込み、発言力を高めたいと考えても、採用されるに足る優秀な人材が限られる。「こればかりは、親方日の丸で、ODA(政府開発援助)拠出金の額を笠に着たからといって適うものではない。やはり実力がなければ、国際機関では働かせてはもらえない」(川口氏)。

かつて日本人は(国際会議の場などで)静か(Silent)で、曖昧な笑みを浮かべ(Smiling)、時として眠りこけている(Sleeping)こともあるとして、その頭文字を取り、「3S」と揶揄されたこともあった。今は、政府役人がデスクを叩いて怒りをあらわにし、英語で直接交渉もするが、「もっと、そうした人が増えなければ、国としての存在感は高まらない」と、川口氏は言う。

国も企業もボーダレスになっているのだから、一人ひとりが自分自身の競争力を考えるとき、「グローバルスタンダードを基準に自らを評価してほしい」と、川口氏は切に訴えている。

では、川口氏自身は、いかにして自らの国際競争力を高めていったのか。その原点は高校時代の米国への留学経験にあるという。「留学先の家族が素晴らしい包容力を持った人々で、国籍が違っても、言葉が違っても、ヒトは皆、同じと思わせてくれた。それにより、異質なものに触れたからと、緊張することがなくなった。もちろん、16歳という若さと好奇心も異文化への垣根を低くした要素ではあったと思う」(川口氏)。

こうしたマインドセットに加え、国際社会で不可欠の、また最低限の、スキルとして川口氏が上げるのが「論理構成力」と「言語力」だ。「論理構成をきちんとしないと主張に力がなくなる。主張を裏付ける事実があるか、など、考えることで新しい視点に出会う。整理することで自分自身の思考が深まる」「日本語は曖昧な要素を残したままでも、“なんとなく”コミュニケーションが成立してしまうが、英語の場合、主語がIなのか、Weなのか、というところから、しっかりと考えなければ話し出すことすらできない」と、自らの体験を踏まえて語っている。

ただ、川口氏は同時に、「『小学校でも英語を教えるべきか』というような議論は、あまりにお粗末」とも話す。例えばスイスでタクシーに乗れば、運転手が公用語4カ国語に加え、東欧の言語など10カ国語近くを当たり前のように話す姿を目にする。ボーダレス化が急速に進む現代において、未だ英語ができるか否かというレベルで「国際派」「国内派」とヒトを線引きする姿はあまりに稚拙、というのが川口氏の意見だ。

「世界は日本だけではない。私たちは単一に存在するのではなく、様々な国や文化から相互に影響を受けることで存在している。だから、日本について考えるとき、近視眼的にならないでほしい。たとえ国内で起きている問題であっても、世界の中にある日本として、どう解決すべきかという視点で判断をしてほしい」。世界の中の日本という視点を当たり前のものとして身に着けない限り、ヒトも組織も国も、国際社会におけるリーダーシップは発揮し得ないというのが川口氏のメッセージだ。そのうえで、「世界から影響を受けるだけではなく、与える存在になっていかなければならない」と、エールを送り、講演を締め括った。

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