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立教大学大学院教授・青木輝夫氏 —「顧客」をよく知ることが マーケティングの本質

投稿日:2007/03/29更新日:2019/04/09

松林:本日のゲストは、元・ローソン取締役で現在は立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の教授でいらっしゃる青木輝夫さんにお越しいただいております。
青木さんには以前、監訳本『顧客知経営革命』の紹介で、当番組に登場いただいたことがあります。カスタマーインテリジェンスつまり顧客知、お客さんのことを良く知ることについて書いてある本でしたね。

青木:ものを売る立場では、商品やサービスの宣伝をメインに考えるため、そのような視点で書かれている本が多いと思います。ですが、今後の企業経営はプロダクトセントリック(商品を中心に物事を考えるというやり方)からカスタマーセントリック(いかにお客様を良く知って対応していくか)に転換しなければなりません。経営者や企業理念にはそのような視点のものが多いのですが、現場までそれが実行できているかというと、色々課題がありできないケースが多いのが実情。そんな中、それを実践しているアメリカのスーパーマーケットの経営者がいて、その人が同時にコンサルティングの仕事もやっているのを知り、是非とも紹介したいと思い、監訳に当たった次第です。

スタジオジブリの映画プロモーションで「メディア」力を発揮したローソン

松林:青木さんはローソン取締役、ローソンカード社長を経られて、現在は立教大学ビジネススクールで教鞭を取られています。マーケティング、特に顧客との関係を教えられているのですよね。

青木:「マーケティングエッセンシャル」という講座を持っていまして、基本的には顧客関係をいかに考えるかについて教えています。マーケティングの先人が行き着いたツールを用いての分析も交えながら授業を進めています。

松林:顧客関係と言えば、日本では「お客様は神様です」、「顧客第一主義」という考え方があるはずなのに、商品のことばかり見てしまうのはどうしてなのでしょうか?

青木:会社というのはいろんな利害関係者の集団です。バランスシートや損益計算書といった“モノをベースとした資産”と、企業理念や従業員の叡智などの“見えざる資産”があります。そういう中で、本質的に経営から現場までお客様にフォーカスした組織ができてない企業が多いと思います。

松林:最近のお客さんには、新しいものができたらそちらを向いてしまう、同じものをつかっているとすぐ飽きてしまう、という傾向があると思います。消費者の浮気性が、顧客関係の難しさを増幅させているとも言えるのでしょうか?

青木:確かに、商品は一般に普及してしまうと、ブランドによる差別化ができにくくなります。その理由の一つに、変化のスピードが速くなったことが挙げられるでしょう。
例えば、従来は物を売るにしても地域によって情報格差があったのが、日米同時発売のように情報が均等に行き渡り、競合も早く参入してくるようになりました。こうなると、なかなか差別化しにくくなります。マーケティングではブランド格差がなくなる方向になり、企業経営の面ではロイヤルカスタマーをいかに作っていくかが課題になると思います。

松林:最近、雑誌「Cancam」専属モデルのエビちゃん(蛯原友里)が人気ですが、コモディティ化していってしまいそうな雑誌が、専属モデルを採用することで、上手く特徴を出していると思いました。

青木:どの企業にとっても、特色をどう出して差別化するかが課題です。一方で、経済の法則からいくと完全競争になると収益がゼロになってしまうので、そうならないようにどうバランスを取るかがポイントだと思いますね。

松林:ローソンは、チケット関係、いわばサービスの面にも力を入れている点が面白いと思います。

青木:経済がソフト化してくると、全体の消費の中で、モノの部分の伸びが鈍ってサービスの部分が増えてくるという現象があります。実際、2003年度は家計支出が最終で275兆円と2000年に比べて下がっていますが、その内訳ではサービスの構成比が高まったそうです。

その一例として、スタジオジブリの映画「千と千尋の神隠し」が挙げられます。ローソンは、当時としては珍しくチケット先行予約を行い、32万枚販売しました。スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは元々コンビニエンスストアが大嫌いでしたが、それを機にコンビニにも目を向けてくれたのです。その後も共同で様々な取り組みを行い、観客動員数が日本でナンバーワンの約2300万人、売上も300億円を超えるものになりました。DVDもローソンで扱い、値引きをしなくても売れました。その後完成したジブリ美術館のチケットが買えるのも、ローソンだけです。

松林:コンビニ嫌いだった鈴木氏が、「コンビニはメディアだ、使わない手はない、すごいな」と仰ったそうですね。
以前とあるコンビニの店長と話した時、現在はコンビニを使うのは20-40代の若者が多いが、少子高齢化に伴って今後はシニア世代にいかに来店してもらうかが課題だと聞きました。

青木:ここ1、2年で日本の人口は減り、人口構成が変わってきます。60歳以上の人口は2000年に3000万人、2010年に4000万人と比率が急速に高まっており、しかもお金に余裕のある方が多いです。コンビニに限らず、多くの企業が高齢者を取り込むための知恵を絞らなければなりません。
そこで、ローソンの戦略としては、税込み105円で商品を展開する「ローソンストア100」、女性をターゲットとした「ナチュナルローソン」という業態を作って、お客様を呼び込んでいます。女性が好むような商品は高齢者にも優しいと考え、それらの構成比を高める戦略を取っています。

コンビニの差別化ポイントはサービス“人”のスキル向上が重要

松林:アメリカ人の友人が日本に来ると、アメリカにもコンビニエンスストアが欲しいと口々に言います。海外にはなかなかないという意味では、日本のコンビニはすごいですね。

青木:この業界のリーダーはセブンイレブンで、第一号店は東京の豊洲に1974年5月に開店しました。コンビニの原点をたどるとアメリカですが、日本とは生業や形態がかなり違います。
アメリカではセルフサービスのガソリンスタンドが多く、コンビニにガソリン代を払いに行き、ついでにタバコやガムを買うという使われ方が多いです。
一方、日本ではお惣菜やお弁当を買ってきて家で食べる“中食”の需要の伸びとともに、コンビニ業界も拡大しました。コンビニが伸びた中心的要因、コアコンピタンスは中食であり、非常に重要な機能だと思います。
日本では、レジの横に売っているおまんじゅうや鶏のから揚げといったファストフード商材は利益率が非常に高いので、いかにこの構成比を高く売るかが重要となります。一定の時間が経つと捨てなければならないというルールがあり、廃棄によるロスも高いため、いかにタイムリーに売るかもポイントになります。おでんやからあげなどは冬の方が売れるので、夏場に強いファストフード商材の開発が課題でもあります。通年で買ってもらえるような商品開発をするのが、ポイントの一つでしょう。

松林:消費者はいいものをできるだけ安く買おうとしますから、販売する側の押さえるべきポイントは価格、品質、品揃え、サービスの4点になると思います。ところで、コンビニではあまり値下げはやらないですよね?

青木:新しく出店する場合はロケーションが大事なのですが、既にある店舗をいかに運営するかということになると、仰るとおり、価格、品質、品揃え、サービスがポイントだと思います。しかし、小売業全般に言えることですが、4つとも良くすることは、経営の資源をどこに集中させるかがわからなくなりますから、できません。例えばウォルマートでも、廉価と品揃えの点では圧倒的に強いですが、品質とサービスはそれなりの水準にしています。
コンビニというと、価格は定価に近く、品揃えについてもワンストップショッピングのニーズはある程度は満たせる内容です。ですが、一番の差別化ポイントは、サービスだと考えています。また、品質、特に安心安全という点も非常に重要になっています。トレーサビリティといって産地の明示が重視されるのがよい例です。

松林:サービスは重要ですね。知人がコンビニの店長をやっているのですが、競合店は入れ替わりが激しいのですが、彼の店はすごく流行っているそうです。というのも、彼が重視しているのはサービスでして、高齢者で動きのゆっくりした方が来られたら店員がそのペースに合わせるのです。そうしているうちに、散歩の途中に来てくれるお客が増えて……。お客さんにペースを合わせることがいかに大切かを知りました。

青木:コンビニに限らず、サービスは人が介在して提供するものです。他の条件が同じであれば、お客様は当然、サービスレベルが高いところへ行きます。例えば顔を覚えてくれている人、いつも買っているブランドのタバコを取ってくれる人、というように。
逆にクレームの80%もサービス、人との接点で起こってきます。最後に商品を渡してありがとうございましたと言うプロセスで問題があると、他が全部良くてもお客様は「二度とこの店に行きたくない」と思ってしまいます。人のスキルをいかに高めるかということが重要ですね。

ブログなどでクチコミが強くなり企業が消費者の意見を聞く時代に

青木:最近はインターネットのブログなど、経験したことを簡単に情報発信ができる環境があります。消費者側にとって、プロモーションという行為はコミュニケーションであり双方向になります。最近の言葉で言うと、CGM(consumergeneratedmedia)つまり消費者が情報を発信することになるのです。

松林:クチコミの力がどんどん強くなってきて、マスメディアの力が全般的に弱まってきているのですね。

青木:商品を売るとかサービスを提供するというとどうしても、企業が広告宣伝を中心とした媒体で一方的に伝える場面が多かったのですが、消費者が何を言っているかをニュートラルな立場で聞きたい人もいるので、今後は消費者が発信する情報が重要になってくるのです。

コミュニケーションプロセスですと、従来は「AIDA:AttentionInterestDesireAction」と言われていましたが、最近は「AISAS:AttentionInterestSearchActionShare」とも言われるようになっています。消費者は興味を持ったらインターネットを使って自分で情報を取りに行く(Search)、自分の感じたことを他人と共有したいとSNSやブログに書き込む(Share)という行動をとるのです。消費者は企業の情報を一方的に聞くだけではなく、実際に経験した人からの情報も受け取るという、ある種の双方向の情報プロセスが重視されてくると思います。

企業の年間の広告費3〜4兆円であるのに対し、消費者の声を聞くためのマーケットリサーチの費用はこれまで約1,500億円と、圧倒的に少なかったのですが、大きく変わってきました。

Webサイトについても、個人で作るには従来はそれなりのスキルが必要であったけれど、コストも時間もかからないブログが登場し、企業が持っていた情報発信のための道具を消費者も手に入れたわけです。

消費者の言っていることに企業が耳を傾ける、消費者同士が情報交換をする——という風に、マーケティングのプロセスが変わってきているのではないかと思います。

意志決定の際に突き詰めて考えればリスクの取り方も違ってくる

松林:今までローソンを中心にCRMという活動をされてきて、マーケティングの知識以外で若い人たちにどんなことを伝えたいですか?

青木:シニアになると大抵、時間的に余裕ができてきて、いろんな活動をやりだします。その中の一つとして、私は自分が経験したことを伝えたいので、学校で教えるというか情報を共有することに取り組んでいます。

私は30代後半から20個くらいの新規事業に関わり、駄目になったものも多いけれど成功してIPOまでいったものもあります。そうした自分の経験を振り返り、やらないより失敗してもやった方が良いという考えを、僕自身の人生観として持っています。そして、そんな自分の経験を、学校のマーケティング講座で語っています。

「悔いのない人生を送る」という言葉がありますが、人生悔いていることの方が多いと思います。むしろ失敗した事業のほうが印象に残ります。何もやらないよりも失敗も含めてやった方が自分の人生を豊かにしてくれるのではないかと感じますね。やったことの成功率をいかに高めていくかを突き詰め、いろんなことに挑戦すれば、自然と自分らしい生き方ができてくると思います。

松林:ビジネススクールでは知識は増えていき、頭で色々考えられるようになります。考えることが大切だとわかる半面、考えすぎて動けなくなるというジレンマがあります。

青木:ほとんどの人は、自分の人生がどうなるのかは若いうちにはわからないと思います。いろんな経験をしているうちに、自分が向いていることや苦手なことがわかりますから、経験を通して自分なりの生き方を見つけていくことが大事なのです。学生にはいつも、「失敗しても殺されるようなことはないのでやった方がいい」と語りかけています。

ビジネススクールで教える時によく言っているのは、「とことん突き詰めて意思決定するのが大切だ」ということ。企業にいると、何か事業を行おうとする場合、管理する側が色々と厳しい、もっともらしい指摘をすることはあるでしょう。その際、突き詰めて考えておけば、そこで「自分も同じことを考えたけれど、それでも実行する」というように、最後の意思決定をする時のリスクのとり方が違ってきます。考える訓練をすることが重要です。ビジネススクールでは実践はできませんが、それは実務で経験を積むしかないです。

CRMで潜在的な購買商品を見出し多様化する顧客のニーズに応える

収録後、青木氏と聴講していたグロービスの受講生との間で活発な質疑応答がなされた。その一部を紹介する。

会場:サービスに直接触れる現場の従業員やアルバイトに「お客様を大事にする」という思考を浸透させるにはどうすればよいでしょうか?

青木:サービス業の原点は、人が介在して行うものですから、従業員を大切にする文化が企業になければ従業員はお客様を大切にしません。パート、アルバイトを含めた従業員が大事だというメッセージを、経営的にいかに送るかが重要ではないかと思います。マーケティング用語では、インターナルマーケティングといいます。

会場:お客さんの顔の見方について聞かせてください。例えば、安全安心をとっても、お金がある時は安全な野菜を買っても、お財布が寂しい時は安売りの野菜を買うといったように、個々人にはいろんな側面があります。顧客に近づく方法論みたいなものがあれば教えてください。

青木:監訳書「顧客知経営革命」では、お客様の行動をもってお客様に近づこうという「ワントゥーワン顧客戦略」について書いています。

これを世界で唯一うまくやっているのはテスコという会社で、10年前に顧客データベースマーケティングを導入しました。お客様の買物行動(買い物かごの中身)を解析し、ライフスタイルによって分類したりしています。そうして分析した情報をもとに、お客様が買っていないけどおそらく買ってくれそうな商品のクーポン券を2枚、よく買ってくれる商品のクーポン券を2枚、年間計4回クーポン券を発行し、その償還率は35%にもなっています。

日本でCRMをうまくやっているのは、中部地方のスーパー、オギノが有名です。トップが自ら投資と経営体制含めて、TVのCMも一切やらず全てそこにカネを投入しているような、そこまで度胸を据えてこのやり方を信じている会社は、日本の小売業にはありません。

高齢化社会で今後強くなりそうなのは顧客の顔が見えている“地域一番店”

会場:10年後のフューチャーストアはどういったものになりますか?

青木:今ある業態の中では、スーパーマーケットの地域一番店のようなところがシェアを確保してくるのではないかと思います。理由は、カスタマーセントリックに移るときに、顔の見える経営をしているからです。大手小売業はそれができていません。

高齢者の在宅率の高さを考慮すると、これからは、近所の生鮮100円ショップ、宅配といった在宅利用者にとって利便性の高い業態が伸び、食料品店のマーケットがもっと小さくなると思います。実際に生協の宅配は週に1回、それも決まった時間と不便ではありますが、それでも伸びています。

会場:今日、インターネットを使えば自宅でゲームも旅行チケットも買えるようになりました。今後、コンビニのMMS(端末)はどういう方向に向かっていくのか教えてください。

青木:ローソンのMMSである「ロッピー」は、「ローソンオンラインショッピング」の略で、作った人はオンラインショッピングをする端末だと位置付けました。それが今は携帯電話でも同じことができるようになり、今後は手のひらにロッピーを持てる時代が来ると思います。本来、MMSはマーケティングの4Pの中のplace、すなわちお客様とのタッチポイントでなければなりません。ですから、企業側から色々な提案できるようになればいいですね。例えば、買った物でどういうレシピができるかを見せるような提案型に移行するべきだと考えていますが、実現するのはなかなか難しいです。

会場:今後、サービスや物流にITをもっと活用していくためには、どうすればよいでしょうか?

青木:正直、コンビニ以外は、POSを上手く利用できません。

コンビニでは、お客様は買った商品を30分以内に使うことが多く、コンビニに限り、POSで得られる結果情報が、原因情報とほぼ同じになるからです。例えば、電池が切れたから買いに行く、冷えていてすぐ飲める飲料を買いに行くという人が多いのが、コンビニの特徴です。

対して内食材提供業者のスーパーではどうかというと、魚にしてもそのままではなく料理の材料にするために買うので、POSデータのみではなくメニュー情報がわからないと、本質的な分析ができません。

機器ができることの本質的なものは、お客様との関係性です。これを実現するためには企業文化や理念が経営の様々なレイヤーで共有されていて、かつ現場で生きなければならないので、物を売る立場と経営を両立するのは難しいですね。

売り手に評価をフィードバックする場合、POS情報ではなくてお客様の直の声で提案することが必要です。

会場:どのようにファンを作り、コンビニ間の差別化を図っていくのか教えてください。

青木:2層で行わなければなりません。

1.商品戦略(スターブランド、プライベートブランドなど)
2.人が介在して行うサービス

ローソンカードについて、ファンづくりの実例をお話しします。カードの会員数は、一番多い店が約5000人、少ない店が約100人です。優秀な店のサービスをDVDにして見せているのですが、1年で100人の契約しか取れなかった店が2週間で200枚以上の契約を取り付けたこともあります。数字は一切言わずに、ビデオを見た感覚で、優秀な店とうちの店とは何が違うのかを考えさせるというようにしました。

フランチャイズ事業の一番の問題は、本部が提供するノウハウ、マニュアルと現場で分かっていることにギャップがあることです。現場でわかっていることをいかに共有して、いいものを実行する仕組みを作るか——が重要ですね。

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