SILC 2006 autumnレポート  高齢化社会のビジネスチャンス 

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急速に拡大する市場「シニア層」との括りに限界も

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坂野 「高齢化社会のビジネスチャンス」をテーマにパネルディスカッションを進めていく。まずは個々に自己紹介とシニアビジネス全般について。

私自身は「団塊の世代」と「新人類」の間、いわば端境期に生まれた。1980年に入社したフジテレビでは、団塊世代の勢いと人数に圧倒されつつも、彼らからは色々と教わった。

(1996年に当初はザ・クイックの社名で起業した)「ノンストレス」では、ストレス解消に特化したサービスを提供している。例えばネイル、手を触られることでストレスは和らぐものだ。また(アンチエイジングではなく)「エイジング・マネジメント」を呼びかけ、「ゆっくり歳を取ること」を提案している。

シニアマーケティングにも関心はある。しかし50歳以上は何々と、ひと括りに分類することには違和感を持っている。

山崎 現在7兆円規模と言われる介護マーケットは、まだ成長途上にある。政府試算では、介護保険を使わないサービスに限っても2015年には5.8兆円規模に伸長するという。

介護ビジネスを展開する「アミカ」では、「アユート(伊:ヘルプの意)」と呼ぶサービスを提供している。これは例えば、話し相手になる、ペットの散歩をする、冠婚葬祭の付き添いをする、といった、介護保険を使わないヘルプである。

また、介護に関するコンテンツをウェブや無料誌などのメディアを使って提供するのが、「たのしにあ」だ。例えば、ヘルパーが欲しいと思っても探し方が分からないことが多い。「ケアマネジャー」「訪問介護」「訪問看護」など呼称も業務内容も提供者によって多岐に及ぶからだ。ほかにも「老人ホームの入居金は?」「車椅子でも参加できる旅行は?」「訪問サービスのある歯科医は?」と、知りたい情報は多い。巨大な金額のセグメントで、こういう情報をきちんと整理するサービスや会社が必要だと思った。

この業界にいる者ならではの気づきもある。例えば、有料老人ホームでは、豪華な食事が必ずしも喜ばれるとは限らない。普通のゴハンでも、皆と食べる方が美味しい。また、高価なデザートよりも、安いおやつに袋とリボンを添えたら喜ばれた。孫が遊びに来たらおみやげにと包んで渡せるからだ。

中川 葬儀をプロデュースする「アーバンフューネスコーポレーション」を営んでいる。(2002年の起業前から)既存の葬儀のあり方には違和感を覚えていた。せっかく故人の死を悼む人々が一同に会し、100万円単位のお金を使うのに、亡くなった人物を象徴するものが、遺影と看板しかない。それでは故人や遺族ではなく、僧侶のために葬式を上げているようなものと思った。
自分がシニア産業にいるという自覚はあまりない。顧客層は年代では括れず、広範に及ぶからだ。とはいえ喪主の大半は40歳代以上、私の親の世代を相手にすることも多い。(理屈を優先に考えるより)実際に体を動かして他人の3倍は働く姿勢が、顧客の心をつかむ源泉になると信じてやっている。

坂野 顧客となるシニア層に対するときの態度について、お聞きしたい。相手は年長者、いかにも「宝の山」という感じに、こちらの欲気を見せると引かれてしまう。

山崎 そもそも「シニア層」という括り方に疑問がある。大企業の多くが、シニア層を対象とする事業開発室などを持つが、それらは果たして機能するのか。顧客をセグメントするのは、あくまで行動パターンであって年齢だけでは難しいと思う。

シニア限定のサービスにせず、自分達の既存ビジネスへの「プラスα」として考える方が良い。例えば、高齢者向けの住居への満足度はなぜ低いか。それは、家具の角やガラス器をなくし、見かけの悪いプラスティック製品ばかりを使う介護業者のせいではないのか。介護先進国の北欧では、ガラスなどを身の回りに置くことで、むしろ緊張感を持たせている。シニア層にとって「介護」が人生の全てにならないよう、「(人生の中に)介護もある」程度の付き合い方を提案するのが適正ではないか。

中川 確かに「シニア」という言葉を使われて嬉しいシニア層は少ない。50歳代にもなると、「これだけは譲れない」という範囲が広がり、わがままにもなってくる。言葉の使い方には留意している。

サービス業に新奇性は必要なし従業員の評価・教育がカギ

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山崎 顧客の多くが「人生の先輩」だ。葬式も介護も、(提供者側が)実際にサービスとして経験したことのない部分が多いため、顧客が何を欲しているのか、想像が難しい面もある。

例えば以前、介護を受ける人にアンケート調査をしたことがある。調査前は彼らがヘルパーに要求するのは「料理上手」「話し上手」といったことと思っていたが結果は違った。9割が「明るさ」「元気さ」を求めていたのだ。五体不満足で余生を意識する人達からは、スキルよりも、元気さなど心の部分の要件が強く求められていた。

スタッフの中には、高校を出たばかりで(スキルが十分ではなく)、社会人としての挨拶もまだ満足にはできないというようなヘルパーもいる。そんな彼らを客先に出してよいのかと、実は社内でも激論があった。しかし実際に現場に出してみたところ、訪問先で彼らの評価は非常に高かった。「できないことは教えてあげる」「家が明るくなる」と、むしろ喜ばれている。我々が欲しい人材は20~30歳代、ジャニーズ系のかわいい男の子は間違いなく売れっ子であり、逆にベテランヘルパーは嫌われてしまったりする。

サービス業に、新奇性は必要ないのではと思う。当たり前のことを当たり前に、そして楽しくマネジメントすること、新しい事業を幾つも創造するより、きちんと顧客に喜ばれる(接客ができる)組織を作ることが、差異化要因になると私は、思う。

中川 確かに弊社でも、“20代歳のかわいい男の子”は、仏壇をよく売ってくる。また葬儀から数日後、落ち着いたころに話を聞くと、(派手で珍しい演出よりも)我々が一所懸命に努める姿に感謝されることが多い。演出過多にもなる新奇性より、その方が琴線に触れるようだ。

坂野 では、当たり前のことを当たり前にする、顧客から喜ばれるサービスを提供する組織とは、どのようにしたら作れるのか。

山崎 ブルーカラー系の従業員を、どうすればモチベートできるかは、真摯に考えるべき課題だ。彼らは真面目なのだが、社会的にはドロップアウトしていると言われざるを得ない側面も持っている。例えば、言いたいことを、うまく表現できない不器用さや、一般常識の欠落などだ。そんな彼らとは、マニュアル化した評価制度よりも、とことん話を聞く姿勢で向き合うのが良い。キーワードは「自己実現」。杓子定規にスキルだけで判断するのではなく、彼らが芯に持つ価値をきちんと理解し、評価することだ。

中川 私は常々、社員に対して「自分のためにやれ」と伝えている。30歳代の人間が、何の見返りも求めず他人のために奉仕するとは考えにくい。自己の成長と、顧客満足の間に接点を持たせたい。

また見積もり(葬儀の打合せ)の席では、とにかく「感じろ」と言う。お金の話は30分で終わらせ、残り1時間は故人の人生を感じることに費やす。遺族の雰囲気や家のインテリア、そうしたものからヒントを得て、故人がどういう人物で、どう見送るのがふさわしいかを感じる、ということだ。これを継続して行うことが、何よりの社員教育と信じている。

坂野 イメージ、コミュニケーション戦略について。

中川 これは年代よりも、性別の差異の方が大きい。例えば、女性は花できれいに飾ることを望むが、男性は大きな看板で立派にすることを好む、といった具合だ。

山崎 年代というより、世代の括りが大きい。例えばバブル期を体験した人は、本格志向だ。(彼らが顧客層になったとき)本格志向の「楽しさ」「豊かさ」を体験していない、今の若い社員には、何を求められているかが分からなくなるだろう。我が社の海外研修には、そういう若い社員の目線を上げようとする試みもある。

規模のメリットは必須要件ではない理念とリスク管理を重視せよ

会場 サービスの認知経路についてお聞きしたい。介護や葬儀は、当該の本人より周辺の親族などに決定権があるようだが。

中川 かつては互助会の積み立てがあり、それは生前予約に通じるものだったが、今は破綻しかけている。確かに(認知経路については)考えるべきだ。弊社の場合、問い合わせの9割は、本人からではなく周囲の人からある。検索サイトで(リスティング広告の)上位に表示されるよう、キーワードも工夫している。

山崎 顧客は、介護のことなど知らなくても生きていける。push型のマーケティングが必要だ。有料老人ホームは一般の住宅に比べ、はるかに短期間となる平均3カ月で購入が決定されるが、これもその一例と言える。また、介護業界は、検索サイトのキーワードが絞り込みにくい業界でもある。

会場 山崎氏はグッドウィル・グループ、中川氏はテイクアンドギヴ・ニーズでの経験がある。急成長を経て独立に至ったわけだが、前職のような拡大再生産は可能か。

山崎 折口氏の生き方も一つの形だが、自分の生き方は少し違う。大きさ、パワーというツールは、必須要件ではないと思う。経営理念とリスクマネジメントがあれば充分だと思う。

中川 葬儀という業種であること、後発であること、などから、少ない人数で、今のところは通用している。

会場 介護には医療が欠かせないが。

山崎 医療はオプションメリットと捉え、そこから利益を出そうとは思わない。ヘルパーのブルーカラーマネジメントと、医師のホワイトカラーマネジメントは異なるものだ。

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