SBIホールディングス代表・北尾吉孝氏 —強い企業から 強くて尊敬される企業へ 

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企業の価値は顧客価値・株主価値・人材価値の総和によって表される

「1990年前後より、企業は株主のみに直接的な責任を負うとする米国的な価値観が流れ込み、旧来の日本的価値観が動揺した」——。

北尾氏は、バブル崩壊後の大企業の経営破綻と米国流コーポレートガバナンスの流入、その後の不祥事など処々の混乱は全くの無縁ではないと分析し、「企業とは何を目指すべきものなのか、その存在意義の定義が今、改めて問われている」と、自説を展開する。

いわく、「80年代以前には渋沢栄一翁の『右手に算盤、左手に論語』しかり、松下幸之助氏の水道哲学しかり、経営の底辺に商行為を正当な方向に導く、倫理・道徳、社会貢献の概念があった」。しかし、「株式の時価総額こそが企業価値そのものであるという米国流の考え方が定着したことで、これら倫理観が軽視されるようになってしまった」(北尾氏)。

その典型例が前出のライブドアである。株式分割で一時的に時価総額を高めて事業規模の拡大にのみ進む新興企業の登場に、「以前の提案は少し違っていたように思うに至った」と、北尾氏は率直な反省の弁を述べる。「以前の提案」とは北尾氏が1997年に出版した自著『「価値創造」の経営』で打ち出した企業価値の定義である。
同著の中で北尾氏は、売上高や経常利益に変わって重視すべき経営指標の一つとして、株式の時価総額と負債時価総額の総和による企業価値の概念を紹介。これが端緒となって、同種のコンセプトで書かれた書籍が書店を席巻し、世に広まるに至った。

しかし北尾氏は、400を超える企業に投資するなかでその経験から時価総額偏重に疑問を抱き、「『「価値創造」の経営』に書いたメッセージは、本当に正しかったのか」と自問。その結果として、「中長期的な観点で見た場合、企業価値は顧客価値、株主価値、人材価値の総和によって測られるべきである」という、新たな定義にたどり着いたという。

即ち、良い人材が集まれば良い製品・サービスが生まれ、良い製品・サービスを提供すれば顧客は購買・リピートし、顧客が満足して売り上げ・利益が伸びれば株価は上がり、業績の向上は更に良い製品・サービスを生むインセンティブとして働くという、好循環が企業を永続的に成長させるとの考え方である。

顧客至上主義・企業文化の構築・事業の拡大が、企業価値を向上に導く

サービスを使う顧客、株主、サービスを生み出す社員、この三者がいずれも大きな満足度を示す企業が「強い企業」であると定義されるとして、では三者の満足度を高め、企業価値を最大化するにはどうしたら良いのだろうか。北尾氏はそのヒントとして以下3つのポイントを挙げる。

第一に「顧客至上主義を徹底する」こと。ブログやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の登場によってインターネット利活用の裾野が広がった。個人が幅広く情報収集し、また自ら発信する素地が整ったことから、「今や顧客の声を聞かずに作った商品やサービスは受け入れられない」と、北尾氏は警鐘を鳴らす。

第二のポイントは「企業文化を作る」こと。北尾氏は企業文化を「ヒト・モノ・カネ・情報に次ぐ、第5の経営資源」と位置づけ、自らもSBIホールディングスの設立時、真っ先に企業文化の基盤となる理念を打ち上げた。それが、官僚主義的な発想に陥らないための「1.起業家精神を持ち続ける」、時代の流れに乗り遅れないための「2.スピード重視」、過去の成功体験だけにとらわれない「3.イノベーション」、時代に合った創意工夫を続ける「4.自己進化の継続」の大きく四つだ。

そして、企業価値を高める第三のポイントとして北尾氏が挙げたのが「事業の拡大」である。

多様化する顧客ニーズに企業が1社で応じるのは困難。そこで「M&Aやジョイントベンチャー(JV)で事業を拡大することの重要性が高まっている」と、北尾氏は言う。「海外で成功している商品・サービスを早くから掘り起こし、日本にローカライズする。ゼロから開発に取り組まずに済むという意味合いでは、“タイムマシン経営”とも言える」(北尾氏)。

ただ、この場合、M&Aは例えそれが友好的なものであっても結果を成功に導くのは難しい。「2社の企業文化を融合できなければ、その価値は、1+1が2以下になることもある」からである。このためSBIホールディングスでは「ほとんどをJV方式で進めている」(北尾氏)という。

生態系の構築が勝ち残りの源泉にビジネスの勝敗は「仕組み」が分ける

企業の強さについて語る際、北尾氏が一貫して強調するのは「競合他社との戦いに勝ち抜くために何より大切なのは“仕組みの差別化”である」ということだ。

北尾氏はSBIホールディングスを設立する前から常に、仕組みの差別化によって競合他社を圧倒することを念頭に置いてきた。

その象徴がイー・トレード証券(現、SBIイー・トレード証券)である。北尾氏はイー・トレード社を設立し、その傘下にイー・トレード証券を含む複数の企業を組織。同証券が単体で安定した業績を確保できるまで、収益力が高いグループ企業で連結業績をカバーする仕組みを採用した。

これによりイー・トレード証券はオンライン証券会社としては後発だったが、当初から安価な手数料を売り物に業界参入を果たす。そして国内最大の口座数を持つオンライン証券会社になった。

その北尾氏が現在、ネット時代において圧倒的な競争優位性を実現するための基本条件、仕組みと考えているのが、先にあげたM&AやJVによる事業の拡大と、こうして拡大する事業群をまとめる「企業生態系の構築」である。企業の生態系とは、「互いに作用しあう組織や個々の基盤によって支えられた経済共同体のこと。個々に連環する、しないに関わらず事業規模を先ず追求した先にあるコングロマリット(複合企業体)とは根本的に考え方を異にする。

「個々の事業が有機的に結びつきながら、単独企業では為し得ないシナジーを創出し、相互進化を遂げる」。北尾氏は、「全体は部分の総和より大きくなる」「全体には部分には見られない新しい性質がある」という複雑系の命題を引きながら、新しい企業、新しい組織の在り方を示唆した。

強い企業から強くて尊敬される企業に戦略的投資としての社会貢献活動

バブル崩壊後の混乱を経て、北尾氏がこれからの成長企業に不可欠の考え方として示すスローガンがある。それが講演のタイトルともなった「強い企業から、強くて尊敬される企業へ」というメッセージである。

北尾氏は「企業はその私益と公益のために継続する」と言い切り、SBIホールディングスでも地域社会への貢献を経営方針の一つとして明確に打ち出している。

その考えの根底にあるのは、利潤追求と、社会的な貢献は両立可能なものであるという強い信念である。

例えば、意識の高い人材は社会貢献に熱心な企業に就職して活躍することを望む。また例えば消費者は、環境配慮のされた商品を選択して購入する。或いはSRI(社会的責任投資)の浸透によってCSR活動に積極的な企業の株は市場で高く評価される。これらは即ち、先に上げた企業の価値を表す、顧客価値・株主価値・人材価値を引き上げるものであると、北尾氏は言う。

「社会貢献活動は企業価値の向上につながる戦略的投資である」と、北尾氏。従って、「企業は、社会があって初めて事業を続けられるのだという社会性を認識し、社会的信用を獲得するべく励み、最終的には『社徳』を高めていかなければならない」と述べ、講演を締め括った。

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