カネボウ化粧品社長・知識賢治氏 —私がいかに多くの人たちから学び、成長させられてきたか 

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人に学ぶ・書に学ぶ・実践に学ぶ

まず、私自身のプロフィールと経験について。鐘紡株式会社(後のカネボウ株式会社)に入社したとき、本社ではカタカナや英語の言葉ばかり使うので、まるで話が通じなかった。とにかく勉強しようと、年間100冊の本を読んだ。その後、新規ブランド「リサージ」を立ち上げた頃は、自分自身の目標について思い悩む。当時、グロービスで得た気づき、仕事観は大きい。そして将来のキャリア・プランを見出し、30代で事業上長、40代で社長になろうと。そのためには何をすべきか考えた。
会社がおかしい、と社員もが思い始めたのは2002年頃からだった。この時は、自分なりに“刀を抜く”、つまり出動に備えていた。社長就任が決まった日のエピソードがある。ある日、秘書から「(当時の)社長に会うように」と言われた。急なことだったが、赤絨毯の社長室に行くといきなり「今度、君に社長になってもらう」という。私はそれを引き受けた。後に聞いたのだが、「もしも、考えてから後日返答する」と言っていたら(社長就任の話は)やめようと思っていたそうだ。今の時代、何があるかわからない。心の準備、能力の準備は大切である。

「人に学ぶ」ことについて、私自身は人脈形成が苦手だと思う。初対面の人と打ち解けられず、グロービス講義後に続くディスカッションも苦手だった。そのかわり、「(人と関わる)深さ」を大事にしている。深い人脈形成のための、心がけが2点ある。まず、相手に学ばせて頂く姿勢、つまり話の内容から何かしらの気づきを見出すこと。例えば、誰かが“たいした事ない会だ”と評しても、(そういう先入観なしに)何事も一旦は受け入れて聴く姿勢が必要だ。もう1つは、ビジネスを超えた関係作りだ。これは長さや回数ではなく、深さの問題である。初対面の30分だけで、私の思いが通じた業界の大先輩もいる。

「書に学ぶ」ために、20代から30代前半までは濫読でよいと思う。私の書棚にも同じ本が2冊あったりする。たくさん読むことは、自分中の索引作りにつながる。私は、ペンを片手に読む習慣がある。ざっと俯瞰して大括りし、パラグラフを因数分解して文脈を読む。この、全体把握と分解の繰り返しにより、直観力が身についた。また、経営者の自伝を読むことで、経営の思想を学べる。行間から経営者の思いを感じ取ったり、色々な局面における彼らの伝え方や感じ方を得たりした。

「実践に学ぶ」こと、つまり再生の現場で学んだことは皆さんの関心のあるところだろう。
まず、マネジメントの本質は、矛盾と対峙し続けることだと、私は思う。情理と合理、短期と長期など。「(現在の)赤字部門は(撤退して)やめよう」「将来性を考えると価値はないのか」という矛盾や、「外部の人材に結果を出させる」「内部の社員に経験させたい」という板ばさみがあった。一体何が正しいのか、私はずっと考えた。情けないようだが、(悩み疲れて)寝ている時が一番幸せだった。しかし起きた途端、悩み事が磁石のように頭に吸い付いてくる。とにかくギリギリの状態で悩んでいたのだと思う。
大切にしたいことは「人の成長が企業の成長を支える」という思いだ。2年間、社員には(十分な)給与も、賞与も年金もあげられなかった。それでも社に残り、会社を良くしようとしてくれた社員に報いたい。1万人の従業員の生活を賭して、矛盾の結節点に独りで立ち、何が正しい判断かを極限まで悩み、考え続けながら、意思決定を行う日々である。
そして、学んだことは「割り切らない強靭な精神力」「1ミリ単位のバランス感覚」だ。割り切ってしまえば楽だが、絶妙なバランスが崩れてしまう。私が禁句としていることに「(再生)機構が言ってるから仕方ない」がある。これを社員に言ってしまうと、形だけ成しえても、結果は伴わない。逆に(再生機構側からの)冷酷な指示にも、できませんとは言わない。(社員と機構の)両者にハラ落ちさせることが大切だ。これはマネジメント・アートの領域かもしれない。そういう数々の決断を通し、直観力が磨かれたと思う。例えば企画書を俯瞰すると、そのプロジェクトの筋道が見通せるようなことである。

私が思う使命は、「覚悟を決めること」だ。いつでも責任を取って腹を切れる覚悟があり、家族にも自分はいつクビになるか分からないと伝えてある。これは、経営者が持つべき最低限の覚悟である。

人を動かす力に、唯一解はないと思う。時と場合に応じ「強権発動で強制的に」「エンカレッジして自発的に」「あの人の言うことなら仕方ないと人間的魅力で」人を動かすことが求められる。

ビジネスの基本的知識・技術も大切であり、グロービスでの学びは役立った。例えばMBA、コンサル、会計士といった優秀な人の言葉を、社内の言葉に置き換えて社員に伝えること。逆に、社内の情理を、彼らの言葉に翻訳して伝えることである。
金では代替の利かない人が大事だ。お金でコンサルを雇うのではなく、「知力+志」の人。自分のキャリア・アップよりも、自らを捨ててやってくれる人たちである。カネボウにはそういう人がいた。

ターンアラウンドの要件は、3点ある。
第一は、スピードだ。中途半端な期間でなく、過去の膿出しと基本戦略の策定を3ヶ月で一気にやった。ブランド戦略、組織改革、人事制度改革、国際事業の再構築、決算期変更、取引条件の改定、社屋移転まで、短期間で密度濃くやった。Exitは1年後か2年後かわからないが、100メートル走のスピード感覚で走らなければならない。時間をかけると、精緻なプランを作っても、「できない理由」を必ず探してしまう。たとえ70点でも、これで間違いないなと確信を得たら、思い切ってスタートすることが大切だ。改革が遅れれば日々、タクシーメーターのように今日は3000万円、次の日は6000万円と赤字が増えていくんだぞと、部下にはマイナス感覚を伝えた。
第二は、ハンズオンのマネジメント・スタイルだ。カネボウは良くも悪くも歴史の長い会社であり、任せて育てることを美徳とする風土があった。しかし、丸投げと権限委譲は異なる。偉くなれば仕事をしないで、部下を育てずに丸投げをする。こういう風土と、私は戦った。例えば、社長提案の席で、上司が前振りだけを喋り、中身は部下が話す。こういう習慣を排除するために、意地悪なのだが上司自身の意見を言わせてみる。そうすると(不意を衝かれて)パニックだ。しかし、事業部長自身が問題意識を持ち、部下と同じ目線でPDCAサイクルの中にいることが大切なのだ。こういうサイクルが常に音を立てて回っているような部門を作って下さい、と私は部門長に言ってきた。そして私自身も、社長としてのToDoリストを作っている。週に1度、日付と部門、私なりの課題、期限をA4横の紙に書き出す作業である。
第三は、健全な危機意識の醸成だ。有事の状態を、平時においても保てるのが強い会社だと思う。

リーダーを志す人たちへのメッセージは、まず「心と能力を準備すること」だ。今現在、直面している職場の問題に取り組みながら、なおかつもう少し視野を高くしながら(会社全体を)自分ならこうすると考えてみることが求められる。
情緒的なことだが、ビジネス人生に訪れる「3本の糸」について(ある人に)教わった。不遇なときも、やるべきことをきちんとやって、3本の糸をつかんでおけばチャンスは必ず来る。使命感がないと糸は見えない、覚悟がないと怖くて糸はつかめない、準備がなければ糸をつかんでも失敗する。そういう場面が、仕事をしていると3回くらい訪れるのではないかと思う。

仕事は、社会への貢献という視点から捉えるべきであり、これは皆さんにぜひ伝えたい。何のために働くかといえば、世の中の役に立つためであり、ありがとうと言われるためである。こういったことにモチベートされる人材は、強くてブレない。そういう意味で、会社のビジョンと個人のやりたいこととのベクトル合わせは、重要なことだ。ある若い企業経営者の書籍を読んだが、時価総額や規模拡大の話ばかり、目の中に$マークがあるようだった。そうはなりたくない。
次の世代に何を残していくか、という視点も重要だ。そういう思いを込め、「今は苦しい、大変だ。しかし5年後、10年後の社員のために頑張ろう」と私は常々言っている。

【対談】知識氏×グロービス経営大学院教員嶋田毅

嶋田:学ぶ上でキャアリアビジョンを明確に持っておくことはやはり重要ですか。
知識氏:目的を持って学ぶ上でキャリア・ビジョンを意識しておくことは重要だ。将来、自分が何をやりたいのか悩むのは、早ければ早いほどよいと思う。そういう意味では、今の大学教育にも問題があるかもしれない。

嶋田:書籍は多く読み、人脈は深くという。学びにおける両者のバランスをどのようにとられているか。
知識氏:私は引っ込み思案で、人前で話すのも本当は辛い方だ。(そういう性格のため)人との対話から得られる考え方や対話は深く、書物やITから得られる一次情報は浅く広く、というバランスになったのだろう。

嶋田:知識は比較的学びやすいと思うが、「志」はどのように学ばれたのか。
知識氏:志は人と議論してこそ、つかめるものだと感じた。例えば、経営者の本を読んで得たことを、(クラスで)ぶつけてみたりもした。

嶋田:書籍でも人でも、学ぶ際には、対象の「量」と「質」、そして本人の「学ぶ意欲」と「学ぶスキル」の掛け算で効いてくると思うが、学ぼうとする意欲や姿勢はどこからくるか。
知識氏:(原動力は)悩んでいたことだ。毎日一生懸命に仕事をしても、満たされない空虚感がある。この正体は何か、生きることは何かと思い悩み、(学ぶことで)何かを見出そうとしたのだろう。

嶋田:そこまで徹底して考え抜くことができるのはなぜか。
知識氏:セルフ・マネジメントが下手な面もあるかもしれない。悩みが頭にこびりつくのは確かに嫌なことだが、やがて耐性ができてそれが普通になる。そうして考え抜くことで、目の前の仕事のこと以上の、自分が大切にしたい本質が見えてくる。
また、考えることで、ある程度のシミュレーションができる。自分ならどうするかというケース・ワークだ。絶えず考える癖がついているのだろう。

嶋田:知識と実践についてアドバイスを。
知識氏:まず、学んだ知識と、実社会の実践にはギャップがあって当たり前という前提がある。そこをスタート点にして、両者をどうやって埋めていくかを考えるべきだ。
例えば、何かおかしい会社では、問題の本質自体は決して複雑なものではない。誰もが分かることである。しかし、そういうことを放っておくこと、解決しないことが問題なのだ。そんな時に、理論と実践は違うと悩んだり、あるいはなぜこんなこともできないと怒ったりしても意味がない。何がいけなくて、どう解決すべきで、二度と繰り返さないためには何をしたらいいのか、そういうことを考えるべきである。

嶋田:視点が高まると、見える世界も異なってくる。それを後進にどう伝えるか。
知識氏:意識的にしているのは、自分が意思決定する現場に、部下も同席させることだ。どういう材料で、どうロジックを組み立て、何にプライオリティをおいて決めているのか。形式知では伝えきれず、暗黙知をもって伝承されるものだ。もちろん科学的な手法も重要である。

会場:ターンアラウンドにおいて、ビジョンを理解できる人以外の、ボトムにいる人にはどう対処するか。切るとするなら、判断の軸は。
知識氏:基本的には、1人もそういうことをしないというポリシーだ。直接対話をし、心に響く言葉を使えるように心がけている。例えば、コンビニの化粧品は点数が多く、調べてみたら大赤字だった、しかし担当者は認めたがらない。そういう時、「皆が朝から晩まで一生懸命働いて、赤字を生んでいると考えると悲しいよ」と言いきかせたこともある。

会場:私自身30歳になったが、体力も落ちて、色々なバランスに悩みがある。
知識氏:30代の人には、倒れるまで働けと(檄を飛ばしている)。そうして初めて、捨てていい無駄と、捨ててはいけない無駄がわかってくる。どんな疲れても、何でも大いに吸収すべきだ。何年間かはそういう時期があってよいと思う。(言葉は強いが)血反吐を吐くまで働いた経験は、40代、50代になって効いてくる。

会場:再生の時、傍観者にどのように対応したか。
知識氏:彼らの数を数えていても仕方ない。とにかくやるべきことをやって、仲間を増やしていくことが肝要だ。

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