吉野家の敵はすき家にあらず、むしろ日高屋か? 

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人手不足の広がりや企業業績の改善で賃上げの動きが広まり、現金給与総額が伸びているそうだ。一方、物価上昇などによって昨年対比の実質賃金は2.5%減となり、リーマン・ショックに次ぐ状況だという。そんなサラリーマンの寂しい懐を反映して伸びているのが、外食チェーンが展開する「ちょい呑み」だ。中でも、吉野家の「吉呑み」が話題だが、その成功のヒミツは何なのだろうか。

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手軽なメニューと価格が魅力な「吉呑み」

吉野家は「吉呑み」を今年4月から本格展開開始。300店以上に導入した。その結果、大型店では夜間の売り上げが3割上昇し、小型店も含めた全体でも1割増えたという(日経MJ10月12日号より)。その成功のヒミツは、何と言っても気軽に「ちょい呑み」できるメニューとその価格だろう。代表的なものを挙げると、牛煮込み350円、牛すい350円、牛カルビ皿490円、子持ちししゃも350円 、焼いか300円、枝豆150円、冷奴150円などなど。吉野家らしいメニューから居酒屋のお馴染み小鉢メニューが手ごろな価格で取り揃えられている。

「吉呑み」に見る「整合性」

成功のヒミツはそれだけではない。飲食店にとっては店内空間も商品のうちである。製品特性分析でいえば、「呑める」という中核価値に対して、「手頃で豊富なメニュー」はそれを実現する実態価値にあたる。さらに「呑みやすい雰囲気」という店内空間は付随機能だ。

吉野家は吉呑みの時間帯になると店内の照明を暗くするなど、店の雰囲気も可能な限り変えて酒を飲みやすい雰囲気作りに配慮するという。ターゲットも重要だ。主要顧客層はランチの主要顧客層である40~50代の会社員ということで、本業の顧客を昼に、夜にと来店させ、囲い込み購入頻度を高めさせていることがわかる。つまり、メニューや店舗形態というProductの魅力と懐に優しいPriceが、吉野家ロイヤル顧客の中年サラリーマンというターゲットに見事に整合しているわけだ。

ライバル「すき家」、低迷のワケ

吉野家の好調とは裏腹に「ちょい呑み」に進出しながら業績を伸ばせていないのが、牛丼業界のライバルであるすき家だ。9月から東京都・神奈川県の店舗で展開を始めたが、想定ほど伸びてないという。

その理由は明白だ。すき家が行っているのは単純な「瓶ビールの値下げ」である。通常のメニューにビールを特価で提供し、飲んでもらおうという考えだ。しかし、同店の利用顧客はファミリーも多い。吉野家の展開と比べると、「ビールを安く提供する」というProductとPriceによる提供価値がターゲットと整合していない。本業の牛丼では、牛丼のトッピングのバリエーションという新たなProductの魅力で、サラリーマンというコアな牛丼ファンから、ファミリーにターゲットを拡大し、その展開の整合性で吉野家を上回る業績を誇ったすき家。しかし、こと「ちょい呑み」に関しての整合性は吉野家に軍配が上がっている。

さらに「業界定義」を変えて進化を目指す日高屋

同業牛丼チェーンの「ちょい呑み」進出の失策を尻目に業績を伸ばす勢いの吉野家だが、「フードチェーンのちょい呑み」という業界定義で考えると先行者にして強大な競合がいる。日高屋である。

ラーメン店「日高屋」を運営する「ハイデイ日高」は2015年3~5月期に過去営業最高益をたたき出すなど好調だが、その業績を後押ししているのが「ちょい呑み」なのだ。ラーメン・中華が本業の同チェーンがちょい呑み需要に本格的に体躯しはじめたのは、昨年頃から。生ビール310円に併せて、メンマ110円、餃子210円、そら豆170円などという、ちょい呑みにピッタリな定番商品で「ちょっと飲んで1000円以内」という魅力で人気を得た。

さらにレモンサワーや緑茶ハイ、ホッピーなどにまでドリンクメニューを拡充させ、酒に併せて本業であるニラレバ炒め、しょうが焼きなどのメニューも490円程度で提供。ガッツリ飲み・食いでも1500円程度という魅力まで打ち出している。こうなると、もう「ちょい呑み」の範疇ではない。「ガッツリ呑み」という業界定義が必要だ。

吉野家と日高屋の未来

では、吉野家は今後、「吉呑み」を「ちょい呑み」から「ガッツリ呑み」にまで拡大して、日高屋に対抗していくのだろうか。それは吉野家と日高屋の厨房の構造を比べてみれば、無理なことは明かだ。酒のバリエーションはともかく、吉野家に日高屋ほどのメニューの拡大は望めない。「ガッツリ呑み」までは踏み込めず、あくまで客単価1000円程度の「ちょい呑み」需要をすくい取っていくことで拡大していくと思われる。

一方、日高屋は、創業者である神田正会長の言葉として「駅前の吉野家とマクドナルドの間に出店するのが一番もうかる」という同社の出店方針を伝えている(産経ニュース「経済インサイド」6月12日の記事より)。では、日高屋からは吉野家に「ちょい呑み全面戦争」を仕掛けていくのだろうか。しかし、これも筆者として考えにくいと思っている。せっかく日高屋は豊富なメニューとそれを実現する厨房という資産を持っているのだから、有効活用して客単価を1500円に定めて「ガッツリシフト」していくのではないか。会長の言葉も記事が6月のものであることを考えると、「吉呑み」が軌道に乗るか見極めがついていない時点の発言であると思われる。つまり、両者は微妙なラインで棲み分けをしていくと考えられる。

吉野家や日高屋が打ち壊す業界

2015年8月期のデータによれば、外食全業態のうちほとんどが前年同月比10%程度のプラスなのに対し、居酒屋は逆に10%近いマイナスだ。代表的な総合居酒屋チェーンであるワタミは、本年3月期に100店を閉鎖したのに続き、来年3月期も85店を追加的に閉鎖するなど発表し不調が際立っている。

吉野家や日高屋は昼に稼ぐ本業を持っている。つまり、夜のオンリーの居酒屋とはバリューチェーンが異なる。昼夜二毛作ゆえに、コスト効率が良い。その低コスト構造を活かした価格や、本業メニューとの連携などが「ちょい呑み」「ガッツリ呑み」の魅力を産み出している。それに対し、メニューに特徴がなくコスト高が料金に跳ね返ってしまう総合居酒屋チェーンが対抗することは、今のままでは難しいだろう。

飲酒人口減少に加え、飲酒嗜好のない者も増えた。飲み会は費用面だけでなく、人と人の付き合い方の変化などで減少している。そうしたマクロ環境の変化を背景とした、新たな消費者ニーズの発生。それをどのようにうまくとらえるのかで、生き残りの成否とその方法論に差異が出てくる。今後の吉野家、すき家、日高屋と、居酒屋業界の動きに注目してみたい。

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