話題のネット動画「ンダモシタン小林」は街を救えるか? 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

全国の各自治体がネット上で激しいPR合戦を繰り広げるようになって久しい。その原点は2011年に香川県が同県出身の俳優・要潤さんを起用して制作した「うどん県」だと思われるが、ここにまた、強いインパクトを持った動画が公開された。宮崎県小林市によるものだ。仕掛けはいかなるものか。また、その狙いは達成できるのだろうか。

衝撃的なオチの小林市紹介動画

YouTubeで動画が公開されたのは2015年8月26日。この原稿を執筆している9月2日現在で動画の再生回数は42万を越えている。「ンダモシタン小林」と題され、同市を訪れた1人の外国人男性の視点で美しい風景や街の魅力などを描いている。「日本一の星の下になぜかプラネタリウムまで・・・星、好きすぎだろ!」などとさりげない突っ込みで笑いを誘いつつ、衝撃のオチが待ち構えている。是非、一度見て欲しい。

態度変容モデルで検証する実施効果

動画は小林市への移住促進するPRの一貫として制作されているが、だとすれば、多くの人が楽しく見てくれればいいというものではない。その狙い通り移住希望者を集める効果が期待できるかが問われる。地方への移住を考えている人の気持ちを動かし行動に移させることができるかを「態度変容モデル」で考えてみよう。

態度変容モデルにはAIDMAやAMTUL、AISAS、SIPSなど様々なものがあるが、ここはオーソドックスにAIDMAを用いて、小林市という移住先候補を認知するところから、移住を決意するところまでを検証してみる。

まず、認知(Attention)は移住検討者に到達しなくては話にならないので、話題になる動画であることは必須だ。また、動画内容で同市の魅力を知らせることも欠かせないので、その点今回の動画は十分合格点だと言えるだろう。

次に、同市への移住に興味(Interest)を持たせるためには、もっと詳細な情報にアクセスさせる必要がある。そのために、YouTubeからは動画のオチに関連するサイトと、小林市のポータルサイトにリンクが張ってある。ポータルサイトでは、「移住・定住支援情報パンフレット」がPDFファイルでアップされており、より詳細な移住に関する情報が取得できる。そして、具体的に移住に対する欲求(Desire)が高まれば、「ふるさと回帰フェア2015(東京・大阪会場)」への出展情報が掲載されているので、会場に赴き市の担当職員と面談して具体的な移住プロセスを聞くことができる。

「人的販売」との連携

さて、AIDMAのA→I→Dまで見てきたが、正直なところ小林市の場合、ここから先は、同市職員による同市の移住者優遇政策などによる説得にかかっているといえるだろう。プロモーションには広告・広報・人的販売・販売促進の4つの手法があるが、ネットでの一連の取り組みは広報、イベントへの出展は販売促進に分類される。そして、職員の対応は人的販売にあたる。商品購入の場合でも、不動産や車など高額商品には直接人が説得・交渉する人的販売の比重が高くなる。人生の一大転機である移住という意思決定にも同様に人が動くのは欠かせない。つまり、AIDMAの検討期間であるMemoryの状態できちんとフォローし、最終的な意思決定(Action)をする背中の一押しは人が行うというわけだ。ということは、動画やサイトの役割はその手前まで、どこまで移住希望者の欲求を高めて市の担当者に引き合わせることができるかで成否が決まるということになる。

高知県の事例と比較してみる

地方自治体への移住促進のプロモーション動画といえば、2013年にスタートした高知県の「高知家」キャンペーンが例に挙げられる。推計人口が75万人を割り込んで、少子高齢化と過疎化による人口減少が進む高知県は、移住希望者を募る活動として同キャンペーンを展開した。その第一弾として、尾崎知事と同県出身の俳優・広末涼子さんが共演する「高知家 新スローガン発表記者会見」を公開した。その動画では、「高知県は、ひとつの大家族やき。高知家」というスローガンで同県への移住を呼びかけている。

個人的には、小林市の動画の方が土地の魅力を移住希望者に真摯に伝えようとしている感じがして好みだが、高知県の場合、Attention獲得としての動画以降の施策が出色なのだ。まず同キャンペーンのポータルサイトに「【移住】高知で暮らす。」というリンクがある。その先が、Interestとしての「高知家で暮らす」という移住者向けポータルとなっている。そこに移住までの流れや、移住者のインタビューなど詳細で興味を掻き立てられるコンテンツ、暮らしには欠かせない「住まいを探す」「職業を探す」などの情報が多数掲載されている。

さらに、Desireとしては、「移住を体験してみる」というリアルのキラーコンテンツがある。いきなり移住する決断は難しいもの。そのために、1泊2日~2泊3日の体験ツアーや、お試し物件や賃貸物件に数日~半年住んでみることもできる。その他、農業体験や週末のみのセカンドハウス的に利用できる施設の紹介など、とにかく「体験」させる施策が満載なのだ。

Desireの部分で移住希望者の不安を払拭し、Memoryとしてのフォロー活動を行う担い手としては、「移住・交流コンシェルジェ」という女性担当者がサイトで紹介されており、高知だけでなく東京・大阪にも相談窓口があるという。また、同じくフォロー活動としてはオーソドックスな手法ながらメールマガジンも発行されており、定期的に各種体験イベントや就労情報などを届け、移住意志を高める効果を図っている。ここまでくれば、あとは担当者の説得で背中を一押しすることと、移住希望者本人の決断次第といえるだろう。

ターゲットの態度変容を図るには、「途中で止まらないようにすること」が最も重要だ。最もダメなのが、面白いCMやネット動画でアテンションを取って終わりという、実はありがちなパターン。AIDMAなら最初のA(Attention)から、最後のA(Action)までターゲットの関心や意思決定レベルを高めながら、施策を繋げていくことが重要なのだ。

その意味では、ネット動画で大きな反響を呼んでいる小林市は、高知県の事例と比べても、まだまだ連携した施策を設計していく必要があるといえるだろう。移住者向け動画としては過去の例のないAttentionを獲得できていることは事実だ。それをうまく活かす施策を早急に展開してほしいものだ。

名言

PAGE
TOP