リーダーはリーダーしか育てられない?人事の役割とは? 

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OJTでのチャレンジ~リーダーがリーダーを育てる徒弟制アプローチ

リーダー育成において難しい点は、「リーダーはリーダーにしか育てられない」ことだとも言われる。第一線で成果を上げられる力のあるリーダーが育成のために時間を割くことなしに、意味のある育成はできない。リーダー自身が培ってきたリーダーシップの勘所は、言葉だけでは表現しきれない暗黙知の部分があるからでもある。

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例えば、経営者の意思決定は合理性だけでは説明できないことがある。すべてが合理的な分析の帰結だとしたら、ロジカル・シンキング(論理的問題解決の考え方) のトレーニングを積むのが意思決定力を習得する早道かもしれない。ところが実際の経営判断には分析というより直観的な側面がある。前述した野中氏の知識創造に関する主張のとおり、むしろ合理を超えたところに、競合とは異なる独自の戦い方を生む源泉がある。経営者だけが持つ暗黙知の一例だ。

こうした暗黙知は、職人技と同様にマニュアルでは伝えることができない。伝統工芸や芸能の世界において、師匠と弟子が寝食を共にしながら技能を継承しているように、企業経営のリーダーシップの奥義も一流のリーダーと共に同じ時間を共有することで初めて学べることがある。どのくらいの時間を掛け、どのくらいの深さで考え抜いているのか、何に優先順位を置いているのか、状況に応じ、それがどう変化するのか等、直接目の当たりにすることで師匠と弟子の彼我の差を強烈に感じ取る。リーダーシップ開発のための徒弟制アプローチといってもよいだろう。

ジャック・ウェルチと共にGEのリーダー育成に長年携わってきたラム・チャランは、著書『CEOを育てる』(ダイヤモンド社) の中で、リーダーの資質のある人材を早期に見極め、意図的にチャレンジングな機会を付与し、1対1でコーチングしていく徒弟制アプローチをより体系的に進めることが真の経営者を育成する上で有効だとしている。彼の提唱する徒弟制度モデルは、「コンセントリック・ラーニング」と「意識的練習」の二つの基本概念から構成されている。

有望なリーダー人材のキャリア形成を同心円状に拡張していこうとするのが「コンセントリック・ラーニング」の考え方だ。外側にいくにつれ仕事の領域と難易度が増していく。一番内側の円は、最初のマネジメント職で身に付けた基礎的な「コア能力」である。次の仕事がより広範で困難でも、リーダー自身に試練に見合う才能があれば、そのコア能力をうまく新しい状況に適用し、能力を拡大し、さらに広範で困難な仕事にも臨めるようになる。

そして、スポーツや芸術など人間のさまざまな偉業と同じで、リーダーシップも「長期にわたる意識的練習」の積み重ねで開発されるという。つまり、経営者に必要な能力は、反復と努力に加え、建設的で具体的なリアルタイムのフィードバック、それを受けて直そうとする意志の賜物として培われる。意識的練習が効果的なのは、実際に脳が情報を検索し処理する方法を変えるからである。自動的・直感的に特定した反応をするよう経路が刻まれる。それが、成功しているリーダーたちに見られる一流の判断力の根底をなしているのだ。

徒弟制アプローチの具体的な方法にはさまざまなバリエーションがある。育成対象者に先輩リーダーをメンターとして付け、相談できるようにする、トップとの車座対話の機会を定期的に設定する、一定期間社長秘書をさせる、トップ直轄の特命プロジェクトにアサインする等々、異動・配置を伴うフォーマリティの高い形から、研修やインフォーマルな方法もあるだろう。いずれにしてもポイントは、伝える側の師匠の意志と力量、学ぶ側の弟子の意欲と根気だ。

メンター制度や車座対話の機会が形式的に用意されていたとしても、師匠の本気度と弟子の学ぶ力がなければ、徒弟制は成り立たない。「おせっかいと思われようが、是が非でも自らが培ってきた経営の勘所を伝えておきたい」という強い気持ちが師匠の側には必要だろう。かといって黒帯レベルの暗黙知は手取り足取りの指導では伝わらない。わざと教えずに、あえて失敗させることもあるだろう。その一方、冷や汗をかく場面が続いても失敗から学ぶ気持ちを持ち続けること、何度ダメ出しされても諦めず意識的練習を繰り返し自分のものにしようという気概が弟子の側には不可欠だ。それが心底やりたいことであるなら、長期にわたる試練にも耐えられ得るはずだ。

人事部門は自らリスクをとることができるか

自社のリーダーシップ開発を強力に推進していく上で、人事部門の役割は大きい。育成対象となるリーダー人材を発掘し、ストレッチの経験の機会を与え、サポート体制を整備することは当然の役割だ。経営者に働き掛け、リーダー育成に本気で取り組むよう促し、徒弟制的にリーダーシップの勘所を伝授することに優先的に時間を割いてもらうことも必要だろう。また、配置や評価といった選別的な関与だけでなく、人事部門のスタッフ自らが研修やコーチング等を通じ支援的な形で関与していくことも期待される中で、育成対象者との信頼関係が重要になってくる。

例えば、リーダーシップ・プログラムの企画運営に際し、参加者から「あなたがた人事に、リーダーシップについてとやかく言われたくない」と言われたらどうだろう。言い換えれば、「参加者に負けないだけの本気度でその場に臨んでいるか」、つまり事務局の人事担当者の姿勢も問われるということだ。あえて失敗させるくらいの試練を与え、リーダー人材に成長を促すためには、人事も一緒にリスクをとって新たな試みにチャレンジしていくことが求められる。そのプロジェクトに自らも当事者としてコミットしている姿勢を示すことが、人事として発揮すべきリーダーシップだろう。

新商品を次々に生み出し続けることで成長していることで有名な米国のスリーエム。そのイノベーティブな組織の特徴の一つが、失敗を許容する文化だと言われている。とはいえ、どんな失敗でも許容されるわけではなく、許されるのはあくまで「善意の失敗」だ。つまり、攻めのチャレンジに伴う失敗は許容される。前述の「半沢直樹」の例で見たような減点主義の「守り」の門番的人事から脱却し、そうした「攻め」の組織文化を作っていく象徴的存在として、人事部門が自らリスクテイクしていくことが求められるのだ。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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