森永乳業「ピノ」の新製品で学ぶ、課題の解決策と4Pの整合性 

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コンビニエンスストアのアイス棚の定番、森永乳業の「ピノ」。誰もが一度は食べたことがあるだろう。そこに5月半ばから見慣れない金色のpinoロゴと果実がデザインされた、何やら高級感漂うパッケージのピノが登場しはじめた。1976年発売の定番商品に何が起きているのか、森永乳業広報部へのメール取材内容を元に考察してみた。

今回の新商品は「ピノ ルージュベリー」というらしい。製品特徴は、まずパッケージの商品写真でもわかる通り、通常のピノが黒色のチョコレートコーティングであることに対し、「ラズベリーパウダーを混ぜ込み色鮮やかで華やかな香りが立つラズベリーチョコでコーティング」している点にあるという。そしてその中味もバニラアイスではなく、「カシス、ラズベリー果汁、ブルーベリー果肉をバランスよく配合した、果肉の食感が楽しめる濃厚でなめらかなベリージェラート」であるといい、実際に食べてみると、甘酸っぱいジェラート感が確かに感じられるオトナな味わいになっていた。

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「ピノ」のターゲットとその課題

現在、ピノを購入しているメインターゲットとはどのような層なのであろうか。小箱の中にひと口サイズの6粒のアイスが入っていて、それを可愛らしくピックで食べる姿は10代~20代の女性を何となくイメージする。しかし、森永乳業によると、『世代によって喫食シーンは人それぞれであり、良い意味でオールマイティアイス』との前提付きではあるが『1990年代から若年層を狙ったマス広告、プロモーションを行っていたため、現在の30代が比較的好意度が高い傾向にある』という。つまり90年代にメインターゲットだった層がそのまま上がったカタチであることがわかる。

メインターゲットだった若年層の年齢がそのまま上昇する現象は、若年人口が減少しつつモノを買わない傾向が顕著な昨今、あらゆる業種で散見される。ターゲット選定条件の「6R」から考えれば「規模(Realistic Scale)」の大きい層が取れていれば問題がないとも言えるが、ことアイスに関しては年齢が上がれば体型維持や肥満防止を考えて喫食回数が減少することも考えられるだろう。

また、若年層に関しては「6R」では仲間内への口コミ喧伝や、流行の証として他の世代がフォロアー的にマネをして取り込めるという「波及効果(Ripple Effect)」という観点から、「優先順位(Rank)」の高いターゲット層であることがわかる。その意味において、今回の「ピノ ルージュベリー」はブランドの若返りを図りつつ、本来の中心層である20代を中心とした若年ターゲットの取り込みを狙った商品であると言えるだろう。

競合環境から見た課題とは?

ピノには他にも大きな課題が競合環境においてあるようだ。1976年の登場時には、その独特の形状で注目を集めた。その後も92年には「バニラ」「アーモンド味」「チョコ」の3種類の味が楽しめるアソートパックを発売し、ファミリーユースにも対応。2004年の期間限定フレーバー品「ピノ いちご」を皮切りに限定商品を定期的に投入したり、森永ミルクキャラメル、DARSミルクチョコ等とのコラボを実現したりと、様々な工夫がなされてきた。

しかし、競合環境を見ると、「ハーゲンダッツ」に代表されるような高級感を訴求した商品が数多く登場し、一方で「ガリガリ君」のような低価格で元気感溢れるポジションを確立している商品もある。その中で、「ピノ」を比較のテーブルに上げてみると、『ひと口サイズという機能価値くらいで、突出したポジション(提供価値)が弱い』という課題を森永乳業は見出している。

特に現在のメインターゲットである30代と、これから取り込みを図りたい20代にとっては『昔から知っていて、1度は食べたことがある一方で、進化する競合商品、多様化する顧客自身の価値観、アイスの喫食シーンの拡大によって、どんどん昔からあるピノが空気的な存在になってしまい、あえて購入するきっかけ、登場シーンがない』という危機感があったという。そのため、ピノとしての機能価値をさらに高めつつ、情緒価値を軸にマインドシェアを高めることが重要であると判断された。

情緒的な価値を高める下支えとしての、新たな機能的価値

森永乳業では今回の「ピノ ルージュベリー」に「大人の女性に向けた、一瞬でココロがきらめくような贅沢感を感じられるひと口タイプのご褒美アイス」というポジションを与えている。ピノは発売以来39年が経過している立派なロングセラー、成熟期の商品だが、当連載第1回で述べたように、プロダクトライフサイクル(PLC)が成熟期に差し掛かった商品ほど、製品特性モデルで考えれば「付随機能」に勝負のポイントが移行していく。そして、その付随機能は得てして「機能的価値」はそのステージでは既に開発し尽くしており、「情緒的な価値」を明確に訴求することがキモだったりするのである。

ピノの場合は、先に述べたポジションがそれにあたるだろう。その実現のために、機能的な工夫も十分されている。森永乳業によると、『今回は贅沢感のある果実の味わい、香りの余韻を重視するために、敢えて乳成分はほぼ使用していない』(通常の種類別は“アイスクリーム”であるが、今回は“氷菓”)と言う。他にも単に果汁を混ぜるだけでは濃厚ジューシー感は出ないので果肉を混ぜ込む等でバランスの良い設計にしたり、乳成分を使わなくてもなめらかな食感になるよう配合を工夫したり、コーティングチョコとアイスが分離せず同時に溶けるように工夫したりとその努力は枚挙にいとまがない。

つまり、今回の「ピノ ルージュベリー」は情緒的価値である付随機能を実現するために、多数の機能的形態価値が支えているのである。情緒的価値を付加しようとすると、単純に広告ビジュアルイメージやネーミングなどプロモーション要素で解決しようとする例が散見されるが、この例のように実際は「4Pの整合性」で考えれば、製品(Product)も新たに設計しなおし、それによって新たなポジショニングが可能となり、狙ったターゲットに刺さるコミュニケーションキーワードが実現できるものなのである。

価格(Price)とポジショニングの整合性

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前項で述べた通り、ターゲットと情緒的なポジショニング、製品(Product)の機能的側面と、コミュニケーション(Promotion)キーワードがバッチリ整合していることがわかったが、価格(Price)のポジションも精緻に設計されている。通常の「ピノ」は税抜き希望小売価格130円なのに対し、この「ピノ ルージュベリー」は150円とちょっとお高い。しかし、それは「贅沢感・ご褒美感」というポジションとの整合で許容される範囲であるだろう。いや、製品づくりの苦労からすればむしろ安いかも知れない。しかし、森永乳業のアイスに関しては「高すぎない」という価格ポジションが重要なのだ。

他メーカーに関しては「ハーゲンダッツ」をはじめとして、プレミアムアイスのカテゴリー商品を多くの場合持っている。しかし、森永乳業の3大スターは「パルム」「ピノ」「MOW」であり、市場からは「価格の割には非常にオイシイ」という評価を得ている。それというのも、同社がプレミアムアイスに手を出さず、レギュラーカテゴリーでひたすら品質を上げる戦略を取っているため、自社カテゴリー間のカニバリゼーション(共食い)を起こす懸念がないためである。そのため、「ピノ ルージュベリー」も「ちょっとお高い」ぐらいが適度なプライシングとして整合しているのである。

まず、「課題は何か?」を考え、そしてその解決を考える際にはターゲットとポジショニングを考えた上で、4Pを立案し、各々の「整合性」を図る。森永乳業の新製品「ピノ ルージュベリー」は、マーケティング計画立案のお手本の一つの事例と言ってもいいだろう。

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