欧米で主流の人事政策「タレント・マネジメント」って何? 

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「ウォー・フォー・タレント」の時代背景の中で欧米企業の人事政策の主流となってきたのが、「タレント・マネジメント」という考え方だ。企業に必要な人材一人ひとりの能力を把握し、それを生かすべく効果的かつ統合的にマネジメントしていこうというものだ。上記のように有能な人材(タレント) の需給は世界的に逼迫しており、彼らを自社につなぎとめ持てる力を最大限に発揮してもらえるよう、採用や配置、評価、報酬等の人材マネジメントプロセスを改善し、多様な働き方ができる環境を整えることを目指している。

スイスに本社を置く総合人材サービス企業のアデコでも、キーポジションにおける離職率が高いことへの危機感から2000年代半ばにタレント・マネジメントを導入したという。以前はポジションに空きができたら後任者は外部から調達することを基本としていたが、その姿勢が「内部の人材を信用していない」シグナルとして受け止められ、有能な内部人材の流出を助長している面があった。タレント・マネジメントによって内部人材を生かす方針に転換してからは、人事部門が世界中の社内タレントプールの中から適切な候補者をノミネートし、事業側の責任者と協議の上でその人にふさわしい活躍の機会を提供することとした。その結果、キーポジションの離職率が大幅に低下するという成果につながっている。

タレント・マネジメントは、もともとGEに代表されるようなグローバル企業において、有能な人材を発掘し優れたリーダーを作るための「リーダーシップ開発」に主眼があったが、近年では選抜された一部のエリート人材だけを対象としたものだけではなく、より裾野を広げ、従業員一人ひとりの強みと可能性に注目し、適材適所の組み合わせや職場風土づくりや組織の一体感の醸成といった側面までを含んだ取り組みへと進化してきている。

日本の現状~人材マネジメントのスタンスの変化はこれから

このように「タレント・マネジメント」という考え方は、海外では主流となってきている。「内部人材を重視し、適材適所の配置を通じて育成を図っていく」と言えば、日本企業でも従来行われてきたことのように思えるが、実際のところ日本では「まだこれから」ではないだろうか。日本企業における人材マネジメントのスタンスの変遷を振り返ってみると、その違いが明確になるように思う。

戦後から長い間、日本企業の人事部門の重要機能は労使関係のマネジメントであり、1980年代まで人事部の仕事は「人事労務管理」と一般的に呼ばれていた。右肩上がりの経済成長の下、市場は拡大を続け、豊富な労働力の供給が期待できたため、人事で重視されたのは「平等主義」だった。その主眼は「より多くの労働力(Labor)を企業目的のために動員する」管理にあったといえよう。しかし90年代初めにバブルが崩壊し、経済が停滞しコストプレッシャーが高まる中で重視されるようになったのは「合理主義」だ。経営資源の一つとしての人材(Resource)をいかに効率的に活用するかが問われ、人事の仕事は欧米流に「人的資源管理」(HRM:Human Resource Management)と呼ばれるようになった。さらに90年代後半以降、「成果主義」の傾向が色濃くなる中、ヒトは単なる消耗資源ではなく、いかに投資し価値創造に結びつけるかが大事だという発想から、「人財」=資本(Capital) と見立てた「人的資本管理」(HCM:Human Capital Management)という呼び方が出てきた。このような変遷をたどってきた人材マネジメントの次の潮流として、自社の組織パフォーマンスに大きな影響を与える有能な人材(Talent)の力を最大化させようという「タレント・マネジメント」を位置づけることができるだろう。

そこで重視されるスタンスは、前回の「ダイバーシティ・マネジメント」でも触れたように、多様な個々への対応を尊重する「多様主義」といってもよい。日本企業における内部人材への機会付与を通じた育成の営みは、従来から行われていたこととはいえ、ダイバーシティが当たり前の欧米のグローバル企業における「タレント・マネジメント」と比べるとある意味「周回遅れ」なのかもしれない。

図表2 日本企業における人材マネジメントのスタンス(n=198)

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資料出所 : リクルートワークス研究所「人材マネジメント調査2011」「人材マネジメント調査2005」 [注] 2011年の集計結果を基に作成しているが、右表の「A計」「B計」「平均値」(ポイントを平均した数値で、 大きいほどBに近い回答が多い)では2005年の集計結果を( )内に示した。

[図表2]は、リクルートワークス研究所が定期的に実施している「人材マネジメント調査」の2011年版の集計結果の中から、人材マネジメントのスタンスに関連する幾つかの項目をピックアップしたものだ。ほぼ同じ質問に対する2005年版の報告と比較してみても、回答の傾向が劇的に変化した項目は認められない。

1. 部調達より内部発掘重視 
「新しい業務が発生した場合にどこから人材を調達するか」を問う質問に対し、8割以上が「まず、内部から発掘することを検討する」と回答している。2005年との比較でも、その傾向はむしろ強まっているように見える。

2. リテンションの心配はない 
「残ってほしい人材が辞めてしまう頻度」を問う質問に対し、5割以上が「辞めることはほとんどない」と回答している。外部流出への危機感を感じている度合いは、2005年との比較においても大きく高まっているようには見えない。

3. OFF-JTよりもOJT重視
人材育成の方策には、大別して以下の二つがある。
・職場での仕事を通じた育成であるOJT (On the Job Training)
・職場を離れての研修等を通じての育成であるOFF-JT (OFF the Job Training)
「社員の能力開発の重点は、OJTにあるか、それともOFF-JTにあるか」を問う質問に対し、「OJTが中心」との回答が7割近くに上っている。2005年との比較ではやや低下傾向にあるものの、OJTが能力開発の主流であることに変わりはない。

4. 能力開発は本社人事主導
「能力開発の諸施策の実施主体はどこか」を問う質問に対し、5割以上が「本社人事部主導」と回答している。個々人に合わせて「現場主導で」諸施策の実施を進める度合いが高まっている傾向は認められない。有能な人材(タレント)の奪い合いとつなぎ留めに腐心している世界の状況とは対照的に、日本企業の大勢は内部発掘重視、OJT重視、人事主導の能力開発であり、タレントのリテンションのため現場ライン主導の個別主義に大きくシフトする段階には至っていない。

とはいえ、今後の少子高齢化、生産年齢人口の減少、労働力不足時代に備え、より多様な人々がそれぞれに尊重され、持てる力を発揮できるよう、現場で個々人の成長が可能な環境整備が望まれる。そうした流れの中で、現場でのOJTの重要性は高まることはあっても低下することはないだろう。実際、「我が社はOJTを基本として、人材育成に積極的に取り組んでいます」という謳い文句を目にすることは珍しくない。だが、そのOJTが、経済が低迷していた過去20年の間にすっかり機能不全を起こしてしまったとも言われる。マイナス成長の環境下、採用が抑制されてきた結果、後輩指導の機会に乏しいまま育成スキルのない管理職が増えてしまったこと、育成にふさわしいチャレンジングな場を共有することが難しくなってしまったことがその要因として挙げられる。では、どのようにしたらOJTを機能させられるのだろうか。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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