長時間労働ストップ!どうすれば多様な働き方が実現する? 

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女性の活躍推進とともに多く語られるものとして、働き方やワーク・ライフ・バランスの問題がある。ややもすると時短勤務や業務の軽減のみが話題となるが、その本質には業務改革と生産性向上がある。

2010年まで東レ経営研究所の社長を務めた佐々木常夫氏(現特別顧問)は、東レ入社同期の中で最速で取締役になりながら、実は病身の妻の看護と自閉症の長男をはじめとする3人の子育てのため、毎日定時に帰り家事一切を行っていた。この事実は、その著書を通じ人々に驚きを与えた。限られた時間の中で仕事をする必要に迫られた佐々木氏の目には、日本企業における働き方にかなり無駄が見えるという。恒常化した残業や、夜の付き合いをせずとも成果を出し、昇進できると証明した佐々木氏の業務効率化の姿勢は、男女を問わずこれから大介護時代を迎えるわれわれに新しいワーク・ライフ・バランスのヒントをくれる。

生産性向上といえば、アパレルのネット通販企業スタートトゥデイ社の取り組みは興味深い。希望する社員に6時間勤務を認め、9時に出社すれば15時に帰れることとしたのだ(労働基準法では、1日の労働時間が6時間までであれば休憩を挟む必要はない)。どうしたら労働時間を25%削減しても同じ成果が出せるのかを考えた社員は、会議は従来1時間掛けていたのを45分で終える、資料も要点をまとめて短くする、要件はメールよりも口頭で済ますなど、数々の具体的な取り組みを行った。結果、1日の業務時間の平均が9時間代から7時間代に短縮され、1時間当たり売上高は25%増えた。残業が減った分残業代も減り、財務面でのメリットも出た。この取り組みが優れている点は、子育て中の女性だけではなく、社員全員を対象としたところにある。15時に帰れば、男性も家事・育児に参加できるし、家庭を持たない社員のクオリティ・オブ・ライフも向上する。米国でワーク・ライフ・バランス施策が定着した背景には、その制度を子育て女性に限らず多くの社員に共通したものに変えた点にある。人事担当者には、このことをよく理解いただきたい。

■ITを活用すれば働き方の多様化が可能に
働き方の改革のため、ITを駆使することも有効だ。世界最大の一般消費財メーカーのP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)では、「デジタリゼーション」と銘打って、世界規模で業務効率化とワーク・ライフ・バランス向上に努めている。一方で2012年から「フレックス@ワーク」という制度を世界同時に導入し、社員本人が「いつ・どれくらい・どこで働くのか」を決め、自身に合った働き方をできるようにした。当然、在宅勤務をする社員も増えるが、社員全員のパソコンにWEB会議システムをインストールしているので、どこからでも国内外の社員と会議ができる。出張に行かずとも業務が進むのでコストや時間の削減にもなり、育児中の社員も働きやすくなった。これが成り立つためには、高い自律心と多様性と成果創出の共存を是とする組織文化、そして明確な評価基準が必要となる。

■職務内容と評価基準の明確化
在宅勤務が増えれば、他者の目の及ばないところで働く機会も増える。当然サボタージュの心配も生じるが、P&Gの社員はこれまでと遜色ない働き方をしているという。その背景にあるのが、職務内容と評価基準の明確さである。ミッションと評価基準がしっかりしていれば、その基準に満たないものは評価されないし、サボればその分パフォーマンスは落ちる。ゆえに在宅勤務でも手を抜くことはないという。

一方、前述の「企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会」の調査からは、いまだ多くの日本企業で職務内容が不明確なまま業績評価が行われている様子が伺える。評価基準が曖昧なままに、どれだけの時間を会社に投入したかが重視されるとなると、限られた時間の中で生産性高く仕事しようとするモチベーションは萎える。どんな業務をどの程度行うことがミッションなのか、評価の基準は何なのか。評価者・被評価者間で明確に擦り合わせることが必須だ。

■男女の区別なく育成機会の提供を
筆者は女性の活躍推進の相談を受ける際、女性社員に対する教育が足りないのではと進言することがある。「いや、うちは男女の差別なく同じ研修の機会を与えています」という答えが返ってくることが多いが、実はそれでは足りないのだ。多くの日本企業には、「オールドボーイズ・ネットワーク」と呼ばれる、職場でマジョリティーを占める男性同士で形成された親密なコミュニティーが存在する。残業後の酒席や週末のゴルフ、タバコ部屋等で交わされる上司や先輩との対話など、非公式な日常のやり取りから、ビジネスにおける肝やクライアントへの接し方、組織内での振る舞い方などを男性社員は学んでいく。残念ながらそうした機会の少ない女性には、戦略論、プレゼンテーションスキル、リーダーシップ、パワーと影響力などを学ぶ機会を意図的に提供することが必要だろう。

一方で、女性社員を過剰に擁護することはお勧めできない。「女性では大変だろうから」と困難な業務をアサインしなかったり業務量を軽くするなどの行為は、女性社員の成長の芽を摘むことになりかねない。男女の別なく、成長のための難しい業務経験の機会は提供してしかるべきであり、むしろそういう機会にオールドボーイズ・ネットワークで教えているようなことを女性にもコーチングしていくことが望まれる。

■試行錯誤を是とし、変えないものを明確に
人事担当者と話していて時折気になるのは、どうも「失敗しない制度づくり」にこだわっているように見える点だ。しかし、初めから完璧を求めるとかえって何もできない。それよりも、試行錯誤を是とする姿勢のほうが得られるものは大きい。女性活躍推進で先を行くベネッセホールディングスは、1980年代半ばから90年代半ばにかけ、早々に出産後の女性社員に最長3年間の離職や休職を認める制度を導入した。しかし、3年間仕事を離れた女性社員の復職率が低いことから、95年には1年程度の休職へと短縮している。時短勤務も、時短勤務者の増加に合わせ短縮時間にある程度制限をかけたり、取得期間を伸ばしたりと、実情に合わせ微修正を続け、有用性の高い運用をしている。

また、多様性は重要だが、何でもありという意味でないことは忘れてはいけない。例えば、ボストン・コンサルティング・グループが世界共通で重要視しているポリシーに「Unity from Diversity(多様性からの連帯)」というものがある。多様な人を採用し、それが連携することで価値創造をしようという意味である。しかし多様なら誰でも採用されるのかといえば、それは違う。能力レベルでの厳密な採用基準があり、多様性を尊ぶ文化にフィットしていなければ採用されない。つまり、ある一定の基準がある上での、多様性の歓迎なのだ。その基準は、企業によって理念への共鳴があってもよいし、何かの技能の高さとしてもよいだろう。組織内で多様性を生かしてもらうためには、逆に「どんな人にバスに乗ってもらうのか」を吟味する必要性がある。その重要な役割を果たすのが、人事部なのだ。

そのためにも、人事部自体が自社におけるダイバーシティの必要性をしっかりと腹落ちしていなければならない。自らが納得していないことで他者を説得できない。トップが言っているからというだけでは、意味あるダイバーシティ・マネジメントはできないだろう。自らの組織の理念やバリュー、中長期ビジョン、戦略、競争優位の源泉などをしっかりと理解することから、真のダイバーシティ・マネジメントは始まる。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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