日本のダイバーシティ・マネジメントはどうなっている? 

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90年代にバブル経済の崩壊を迎えた日本は、失われた20年を経てもなお、いまだに国際競争力を十分取り戻したとは言い難い。そんな日本に2012年4月、OECD(経済協力開発機構)は「日本再生のための政策」と銘打った提言を行った。ここで指摘された重要課題の中には、閉鎖的な日本市場(日本の産業内貿易、ならびに外国人労働者比率が低い)労働市場における所得格差(正社員と非正規労働者の二極化)、労働市場における男女格差(女性の労働力率や賃金が低い)、幸福度の低さ(特に主観的な生活満足度とワーク・ライフ・バランスがOECD平均より大幅に低い)がある。これら日本再生の阻害要因はいずれも、日本および日本企業におけるダイバーシティ実現度の低さに関連が深い。

■少子高齢化、市場のグローバル化 etc.女性登用は急務だが…
また、日本が抱える大きな社会問題の一つに少子高齢化の進行がある。人口構成が逆ピラミッドを描く中、労働力人口は減少を続け、2025年には団塊の世代が後期高齢者となり大介護時代がやってくる。こうした中で、戦力として労働市場への本格参入を期待されるのは、教育水準の高さは男性と同等にもかかわらず十分に活用されていない女性ということになる。一方の出生率は2012年で1.41といまだに低い状態にあり、女性の労働力率も高い米、英、仏などの出生率(1.9~2.1)との差を縮められない。何かを抜本的に変えない限り、この問題は解決しないのだ。

一方、市場経済はグローバル化の一途をたどる。もはや新興国は安価な労働力を求めて生産拠点を移すだけの場所ではなく、重要なビジネス市場にもなった。世界中のグローバル企業が新興国へ進出し現地市場と人材を奪い合う中で、日本企業が現地の人々を惹きつけるためにも、多様な人材を受け入れ生かすダイバーシティ・マネジメントの発想は必須だ。しかしながら、多くの日本企業においては日本人女性の活用すらもいまだ十分にできていない。

女性を本格的に労働市場に取り入れようとする動きは、今に始まったことではない。1986年に男女雇用機会均等法が施行された後も、1992年の育児休業法、2003年の次世代育成支援対策推進法、2007年の男女雇用機会均等法の改正(間接差別の禁止、セクハラの防止の措置義務等)等々が導入され、企業でも制度改正や女性社員を対象とした試みを行ってきた。

大学卒業から企業で役員になるまでの女性比率

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今では育児休暇などの制度は多くの企業で整備され、マッキンゼー&カンパニーの調査(2011年)では、大学を卒業する全学生のうち女性は49%、そのうち企業に就職する女性は全体の45%と半分近い水準を保っている。2013年には、大学卒女性の就職内定率が男性を上回るようにもなった(厚生労働省・文部科学省「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」2013年2月1日現在。学卒男性81.3%、大学卒女性82.0%)。ところが、入社時45%であった女性比率は中間管理職となる頃には11%に減り(欧米先進国では30~40%)、役員クラスに至ってはたった1%台(欧米先進国では15~35%)にまで減少する。就業者全体の女性比率は4割であるものの、いまだに女性が十分戦力化されていない。

また、育児休業制度は整備されても、女性社員が第1子出産後も仕事を続ける率はいまだ4割に満たない。筆者が企業人事の方々に女性社員の動向を聞くと、「女性社員自身が、昇進しなくてよい、子供ができたら続けられないと考えている節がある」という回答が寄せられる。これらの現象は一体なぜ起こっているのだろうか?

■企業と人事部が向き合う課題とは?
2012年に経済産業省が産学の有識者を招聘して開いた「企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会」では、問題の根源を以下のように分析している。すべての遠因となるものは、いまだ根強く残る固定的性別役割分担意識、つまり「家庭における家事・育児の責任は女性にあり、男性は家庭外で働くもの」という固定概念にある。それにより、日本企業は「専業主婦を持つ日本人男性がフルタイムの正社員として勤務する」というモノ・カルチャー(単一的文化)の中で、「長時間残業や全国転勤は当然。年功序列で終身雇用される」という雇用慣行や人事制度構築を続けてきた。しかし、こうした固定概念が根底に残る上に多少育児支援制度などを充実させたところで職場の実態は変わらない。「恒常的な長時間労働」「画一的な人事管理」の問題が足を引っ張るために、女性社員は「キャリアの先行き不透明感からの意欲低下」になり、ライフイベントを機に退職したり、昇進を望まなくなる。こうした問題に企業、そして人事部はどう対処すべきなのだろうか。

■トップのコミットメントと男性管理職層の意識改革が大切
ダイバーシティの導入に成功している企業に共通すること、それは組織のトップがこの問題に強くコミットしている点である。社内外に方針を強く発信し、社長の直下にダイバーシティ推進室を設置するなどの動きはよく知られるところである。しかし、そんなトップの配下の男性管理職に面従腹背といった姿勢が残っていることが少なくない。これを放置し、女性社員の側ばかりに働き掛けるため、結果が出ない女性活躍推進活動は多い。しかし、男性管理職が慣れ親しんだモノ・カルチャーから抜け出し、今までと違う考えや行動を取るためには相当な理由づけが必要だ。あらためて「変わらないことのデメリット」と「変わることのメリット」を強く認識してもらう必要がある。

■変わらないことのデメリット
いまだに、ダイバーシティ・マネジメントというとマイノリティーの保護的施策だという印象を持つ人が少なくない。しかし、激変する市場環境、熾烈な国際競争の中でどう自社がイノベートし生き残っていけるか、優秀な人材をプールできるか、という戦略的な発想がない限り、ダイバーシティ・マネジメントは実を結ばない。今般の女性の活躍推進施策は、「攻めのダイバーシティ・マネジメント」への試金石なのだ。これすらできない企業に、多様な価値観やニーズ、習慣、人材の渦巻く21世紀の競争を勝ち抜くことは難しい。この厳しさを再認識してもらう必要があるだろう。

さらに今後、ダイバーシティへの取り組みの「見える化」は一層厳しく進められる。前述のとおり、2020年までに指導的立場の女性を30%以上にするという目標値が内閣府や経済同友会から出された。これを受けた東京証券取引所は、2013年4月よりコーポレートガバナンス報告書に取締役会や監査役会の男女別構成人数、女性役員の数、登用への取り組み、管理職の男女比率などを記し公開するよう促している。既に海外では投資家が注目するEGS (環境・ガバナンス・社会)項目のうち、特に参照されるベスト5指標として、女性取締役比率(2位)、女性管理職比率(4位) が入っている。ダイバーシティ実現度が自社への投資判断の指標とされるのだ。旧来の日本的価値観では理解し難いことかもしれないが、これは多くのメリットがある。かつてダイバーシティ推進を始めた頃のIBMにも、取り組みに乗り気でない白人男性重役は多かった。その折にガースナーが取った施策は、各国IBMの重役に女性登用の目標数値とアクションプランを提出させ、その後半年ごとにCEO自らが経過をチェックするというものだった。重役たちの評価に取り組み結果が反映されるため、ダイバーシティ施策は実効性の伴うものになったという。トップの強い覚悟、および管理職の取り組み姿勢への徹底した管理が意識改革を促したのだ。今般の「見える化」をよき契機とし、日本企業も同様の取り組みをするのも有効だろう。

■変わることのメリット
一方、「変わることのメリット」への認知を深めてもらうことも必要だ。かつて日産自動車では、男性が主たる自動車の購買意思決定者だと捉えていた。しかし昨今、購買意思決定の60%には女性の意向が関わっていると認識し、これに対応するため女性を積極的に自動車開発プロジェクトに登用した。その一つ、新型車「ノート」は2012年9月に発売され、国内登録車販売ランキングで3位、発売5カ月の販売は前年同期比3倍のヒット商品となっている。パナソニックでは、自宅でエステができる「ナノケア」を女性チームで開発、累計で260万台以上を売るヒット商品となった。サントリーでは、30代女性チームが「のんある気分」を開発。ノンアルコール市場での出遅れを取り返し、予想の倍以上の売れ行きとなった。また、今では一般的となった「エキナカビジネス」の先駆け、JR東日本の「ecute (エキュート)」は、平成採用の女性社員を社長に登用し成功してきた事業である、男性の観点しかなかったところへ女性の観点が加わったことで、新たなビジネスチャンスが広がった好例といえよう。これらはほんの一例である。「自社には無理」と言って済ますか、多様なニーズに応えるヒット商品やサービスを開発し収益を上げるか。答えは自明であろう。

一方で、逆の意識改革も求められる。「女性に優しくしなくては」という過剰な配慮である。繰り返しとなるが、攻めのダイバーシティ・マネジメントは、マイノリティー保護政策とは異なる。後述するが「女性だから加減してやろう」という考えはかえって本人の成長を阻む。性別に関係なく、会社に価値を提供できる人材には等しく挑戦の機会が与えられるべきである。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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