キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

「2030」の肝、ダイバーシティ・マネジメントって何?

投稿日:2015/04/29更新日:2021/10/26

2013年4月19日、政権に返り咲いた自民党の安倍首相が成長戦略の第1弾を発表した。その柱の一つが「女性」の活躍であり、この取り組みこそが「『成長戦略』の中核を成す」とした。先立つ2012年10月、経済同友会の長谷川閑史代表理事も、経営者の行動宣言の1つとして「2020年までに女性役員の登用も視野に入れ、『女性管理職30%以上』の目標を企業が率先し達成するために努力する」と明言している。これも企業がグローバル競争に勝ち抜くための重要な方策であり、ダイバーシティ促進に不可欠なものだ。

さて、これを聞いた日本の企業組織の人事担当者の反応はいかなるものだったろう。筆者が聞く限りではあるが、「今度こそ…」という強い期待感を持つ人と、「どうせまた…」と過去の経緯を思い出しため息を漏らす人とに二分されたようであった。今、なぜ女性の活躍推進を国を挙げて叫ばねばならないのだろうか。そもそも、ダイバーシティ・マネジメントの本質とは何なのだろうか。企業の人事部はこの問題にどう取り組んできて、これから何をするべきなのだろうか。今回は「ダイバーシティ・マネジメント」について、特に日本における女性活躍推進の問題に軸足を置きながら考えたい。

■ダイバーシティ・マネジメントとは

まず、言葉の定義から整理してみよう。ダイバーシティは「多様性」と訳される。個人の持つあらゆる属性がこのダイバーシティの範疇に入ってくる。ダイバーシティは大きく分けて2つに分類される。1つは「表層的なダイバーシティ」だ。例えば性別、年齢、人種など一目で分かりやすいものである。そしてもう一方は「深層的なダイバーシティ」である。例えば性質、習慣、考え方、趣味、経験、スキルなどの内面的なものだ。ダイバーシティと聞いてすぐに思い浮かぶのは前者かもしれないが、本質的な問題として表層と深層、両方のダイバーシティを理解することが求められる。

では、このダイバーシティという考え方はどこから来たのだろうか。米国は建国に至る歴史から分かるように、世界のさまざまな地域から移住したさまざまな人種や民族から構成されている。ゆえに、労働社会において長きにわたりさまざまな人材の問題と向き合い続けてきた。その米国において、ダイバーシティの問題は大きく3つのフェーズに分けて捉えられている。

図表1 米国におけるダイバーシティ問題の三つのフェーズ

4197

[注]谷口真美『組織におけるダイバシティ・マネジメント』(日本労働研究雑誌、2008年)を参照し作成。

まずは1960年代からの公民権法の流れをくみ、70年代まで続く「差別撤廃」の時代である。政策的に人種、性別、宗教などの点でこれまで不利益を被ってきた人々を積極的に採用したり、昇進させたりというアファーマティブ・アクション(差別是正措置)が多くとられた。やがて80年代に入ると、マイノリティー層を「仕方なく採用する」のではなく、それぞれに価値を発揮してもらおうという「多様性重視」の時代へと移行した。その頃から市場経済は広がり、マイノリティー層も購買力を高め、ビジネスの国際化も広がり始めた。市場へのアクセスという意味でも、多様な人々が組織にいる正当性が広く認知されるようになったのである。

■90年代から「マネジメント・ダイバーシティ」のフェーズへ

1987年、興味深い報告書が発表された。「Workforce 2000」という、来るべき時代の労働市場を予測したものである。ここで述べられたのは以下の点だ。

  • 世界経済の発達の中、米国製造業の世界シェアは下がり、サービス業が台頭する
  • サービス産業における新たな仕事は、今以上の高いスキルや知能が求められる
  • 今後13年間の労働力への新規参入者のうち、白人男性はわずか15%となり、これまでに不利な条件にある人が増える

こうした社会的背景の中、1990年代からは多様性が競争優位の源泉になるとする「マネジメント・ダイバーシティ」という3つ目のフェーズが始まる。実際に主要産業は2次から3次へと移り、ITを使ったコミュニケーションが増加、仕事はチームで行われ組織のフラット化が進んだ。このような組織には、かつての男性的な「強い指示型リーダーシップ」よりも、参加を促し、情報と権限を共有し、密なコミュニケーションを図るリーダーシップスタイルが求められた。それに適する特質を持つのが女性である。こうした社会の要請もあり、米国社会における女性人材の活躍推進は加速した。出産や育児というライフイベントを持つ女性の労働市場本格進出に伴い、ワーク・「ファミリー」・バランスに対するニーズも高まった。当初、子育て中の女性に対する優遇施策が取り入れられたが、やがてそれに不満を持つ多様な社員も活用できるよう、ワーク・「ライフ」・バランス施策へと変化していった。

90年代、ミシガン大学の研究者テイラー・コックスとステイシー・ブレイクは、ダイバーシティが企業の競争優位を生み出す領域として以下の6つを示した。

  1. コスト
  2. 資源獲得
  3. マーケティング
  4. 創造性
  5. 問題解決
  6. システムのフレキシビリティ

差別撤廃や倫理観の問題とは別の観点として、多様性を巧みに取り入れマネージすることが競争優位を生むのだという、攻めの発想への転換を示したのである。これが本来の「マネージング・ダイバーシティ」(文化背景の異なる人々を雇用し、効果的に活用することに関わる問題や活動の管理)の意味するところである。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

次回へ続く)

新着記事

新着動画コース

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース

オンライン学習サービス部門 20代〜30代ビジネスパーソン334名を対象とした調査の結果 4部門で高評価達成!

7日間の無料体験を試してみよう

無料会員登録

期間内に自動更新を停止いただければ、料金は一切かかりません。