グローバル化のために人事課に期待される役割とは -グローバル化と人事システム(4) 

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変わるもの、変わらないもの~立ち位置の確認

(1)2つの事例に見るハイブリッド化
海外へ進出するということは、現地企業とも本国企業とも異なる形態、運営が必要になる。ハイブリッド型と呼んでもよい。では、どのようにハイブリッドになるかを検討する。

【事例1】重工業メーカーの事例~想定どおりに対応できること、できないこと
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A氏は入社以来、経理一筋で仕事をしてきて、最初の海外経験が中東への赴任であった。ミッションは日系企業として初めて現地の税務調査を受け、税務申告をすること。

A氏が担当者として、相手国の税務担当者と交渉する役割を担った。同社としても初めての経験であったし、相手国でも最初の日系企業の税務調査であったので、手探りの状態から話し合いを重ね調査を進めた。結果として、追徴課税も支払うことになったが、その後国税担当者と良好な関係ができたという。

さらに、A氏は南米でも特別な経験をしている。本社を3年間休職し、50年ほど前に買収した子会社にナンバーツーとして赴任した。本社の指示は子会社を売却することであった。その理由は現地経済の激しい変動に翻弄され、赤字続きだったからである。

ただし、現地従業員に対しては再建しにきたという説明をしていたので、一生懸命頑張るように奨励するという相矛盾する行動を取らざるを得なかった。精神的にかなりつらい時間を過ごすことになった。

ところが、経済が上向き、それに伴い黒字が出るようになった。A氏が帰任した翌年には「現地からの撤退を撤回する」という意思決定がされた。その後の業績はますます好調となり、現在は海外子会社で最も利益を上げている。

【事例2】食品メーカーの事例~人が育つ舞台装置
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技術者として入社したB氏は、買収したブラジルの工場の再建のため20代で赴任した。生産するのは同社の主力製品であったが、B氏自身はそれまで研究開発を担当しており、生産についての経験はまったくなかった。しかも、買収を契機に従業員を雇い直したので、生産ノウハウを聴くこともできなかった。

そこで、本社から資料を取り寄せ徹底して読み込み、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、生産を始めた。月曜日から金曜日までは工場に寝泊まりし、週末に自宅に戻るという生活だ。従業員とのやり取りはポルトガル語で、プライベートの時間は語学のために使った。着任してから学んだが3カ月で日常生活には困らなくなったという。

5年間をかけ再建に成功すると、帰国し主力工場に係長として赴任した。同社では通常、3年サイクルで職場が異動するので、ブラジル赴任は例外的に長かったことになる。

(2)海外子会社の自律性とガバナンス
本社の戦略を実行するのが海外子会社の基本的ミッションである。したがって、本社がいかにガバナンスを効かせるかが施策や制度を設計する上でのポイントとなるし、そもそもどのような人材を派遣するかを決定するための判断基準となる。

しかし、どんなに事前に計画し準備しても、海外子会社の自律性に任せなければならない部分はある。日常的に顔を合わせている担当者の能力や個性に対応を任せることとなるが、その裁量権をどこまでの範囲にするかが課題となる。先の2つの事例は会社にとって、例外的な出来事への対応であった。このような場合であれば、現地の裁量権を大きくすべきであろう。

同時にこれらの場合は、人事制度については、新しくするよりも例外的処理とすべきであろう。対象者が少数であり、同じような事案が繰り返されるとは想定し難いからである。さらに、重工業メーカーの事例のように、本社でも想定外の事態は起こり得る。この意味でも事前に制度を作り込み、方針を決定する際には一定の「遊び」を担保して、調整を前提に置いたほうがよい。海外への進出にはいろいろな目的があり、人事制度はあくまでも目的を達成するための手段でしかない。さらに、海外進出は全社的目的を達成するためと考えると、海外進出の目的も変更すべきこともある。あるいは、海外での再建経験が人材を育てることは間違いないであろうが、あくまでも経験するための舞台であり、育つかどうかは本人次第である。

ここで注意しなければならないことは、「遊び」とは放任ではないということである。自らの立ち位置が明確であり、そこからの距離感を持つことが遊びである。つまり、文化をはじめ自国のアイデンティティをはっきりと意識し行動するということができて、初めて制度上の遊びが生まれるのである。そして、立ち位置を浸透する役割を担うのが人事部であるが、この点については次項で考察する。

人事部に期待される役割

グローバル展開を前提とした場合、経営の視点から態勢を整える必要がある。同時に、社員のキャリアという視点からのサポートも欠かせない。これまではどちらかというと前者が優先されていたが、タレント・マネジメントの視点からは後者が課題となろう。

(1)経営戦略の落とし込み~自らの立ち位置を明らかに
グローバルに限らず、人事制度の設計の基本は戦略を体現することである。その意味で経営戦略の内容や狙いだけではなく、背景を理解しておく必要がある。ただし、グローバル戦略は全社あるいはグループ戦略の一つであり、全体最適から整合性を取らなければならない。いくら要件を満たしている人材がいても、他の戦略を担当させるという判断も必要になろう。つまり、戦略の優先順位が考慮される。現実に、海外に派遣される場合、若手あるいは中堅が多いのはそのためであると考えられる。本社に関わる人事が優先されることは当然であろう。

経営戦略全体においてグローバル戦略は、一部分あるいは下位戦略であるために、戦略と整合した人事制度や施策を設計すればよいというわけにはいかない。そこで、グローバル戦略には人材のポートフォリオを人事部として持っておく必要がある。人材要件の適合度と戦略の優先順位を軸とした多様な人材のポートフォリオが考えられる。

(2)キャリア・ディベロップメント~人を育てる
海外へ派遣する人材は一定の能力を有しているし、だからこそ研修等に時間を掛ける。別の表現をすれば選抜人事であり、将来的には経営の中枢を担うことが期待されているケースが多い。他方で、海外事業のための人材は、会社人生のほとんどを外国で過ごすという制度を持っている企業組織もある。

両者に対しても、適切なサポートが必要になることは言うまでもない。

海外へ派遣する人材への段階別サポート

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将来の幹部候補であれば、海外でのビジネス経験はキャリアのステップの一つとなる。経営能力あるいは特定の優れた技術を持っていることを前提に、海外でビジネスを成功させることが求められ、その期待に応えることができる人材だからである。

海外の経験を生かすためには、赴任中のサポートはもちろん帰任後のカウンセリングが必要となる。どうしても、「担当者をどのように選抜・教育し派遣するか」ということにばかり注力しがちになるが、当の担当者はそこでキャリアが終わるわけではない。帰任してから、どのようなキャリアを歩むかということに丁寧なカウンセリングが必要になる。メンターを付けるという方法もあろう。いずれにしろ、帰任後のフォローアップはタレント・マネジメントとして欠かせない。

ある商社では、海外で貴重な経験をしてきた担当者が本社に戻った後、ラインのマネジャーとして活躍する機会が少ないという。海外での経験を組織として生かしきれず、本社内で昇進したマネジャーが中心的な役割を担い、海外経験者はスタッフやアドバイザー的なポジションに就くことが多いとのことだ。

また、基本的に海外でそのキャリアを全うする人材には、自身のキャリアを納得してもらうために、評価、報酬の工夫が必要であることはもちろん、長期にわたる赴任では、家族との関係、子どもの教育などワーク・ライフ・バランスに焦点を当てるべきであろう。ジェンダーの違いによるワーク・ライフ・バランスは議論になるが、海外への長期赴任者にとっても重大な課題となろう。

上記以外の領域として、海外子会社のガバナンスなど本社との関係をどのようにするかという課題もあるが、これは人事部単独で完結する問題ではない。ただし、人事部として優秀な人材の確保、世界規模で活躍する場を提供することに責務がある。そのためには事業部そして全社的視点からのアプローチが必要となる。この点については、本稿冒頭のDHL社の取り組みで見てきたとおりである。

次回からは、林恭子が「ダイバーシティマネジメント」について解説します。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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