グローバル化のための前提条件 -グローバル化と人事システム(3) 

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異文化理解、そしてナショナル・インタレストへ対応するには何が必要だろうか。社内に目を向けると、その解決がいかに難しいかすぐに気づく。そこで以下の対応策を提案したい。

グローバル人材を育成するための対応策

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(1)硬直的な採用制度からの脱却
日本では伝統的な企業を中心に、採用は1年の決まった時期に大量に行われる。採用基準も潜在的な能力重視で、別の表現をすれば、仕事ができるかどうかを直接判断しているわけではない。しかも、新卒を中心に採用するので、同じような生活環境、価値観の中で育った人間が大半を占める。したがって、視点を共有して的確に環境を判断できる場合は一枚岩となって強固な行動を取ることができるが、多様な視点からの検討が必要な場合には、適切な判断が下せない恐れがある。

とすれば、均一的な人材を採用し続けるということはシステムの環境適応力を低下させることになりかねない。均一な環境で育った人間は違いを理解しようとするのではなく、否定あるいは排除する傾向を持つからだ。

他方、多様な人材と最初から一緒に仕事するという環境を経験すれば、自ずと価値観の違いに気づき、理解しようと努力するであろう。

(2)評価項目の再検証
多様な人材の確保は理論的には肯定されるものの、その評価をどのようにするかという課題も生まれてくる。均一的な人材構成であれば、社風にも染めやすく、また評価基準もシンプルなもので済む。多様性を評価し、なおかつ結果を納得してもらうことは簡単なことではない。

なお、グローバル化を進める企業では、コミュニケーションする必要性から外国語のスキルが評価項目となる場合が多いが、ある商社マンは「当社では海外への派遣をする際、何よりも仕事ができるかどうかが基準となります。語学は教育すれば何とかなりますし、それでもダメであれば通訳を付ければよいだけですから」と語っていた。

少なくとも、グローバルに活躍する人材の評価の基本は、ビジネスに関連する能力自体に焦点を当てるべきだろう。

(3)配置の工夫
誰を海外に派遣するか検討するに当たって、最優先すべきは経営能力である。会社の方針を理解して、自律的に行動できる人材でなければならない。しかも、学習能力が高いことも期待される。現地では想定外の出来事への対応が珍しくなく、そのたびに学び、対応できる力が必要になるからである。

次に必要になることは異文化への適応能力である。異文化に適応できないことは、派遣された本人にとって不幸なことである。できるだけ事前に適切に選定し、そして現地でトラブルが生じたときにはすばやくサポートする必要がある。なお、言語、文化、政治経済についての事前研修が必要なことは言うまでもないが、異文化を理解できることと、異文化に適応できるかは別の話である。後者はまさに体をもって経験することであり、そこには生理的・情緒的な反応も含まれる。

また、グローバルな配置(異動)では、帰任後も海外経験を組織として活用する視点が重要だ。

さらに、人材配置でポイントとなることは、海外子会社の人材を本社へ異動・転籍させるケースだ。経営の中枢を担うのは本国の社員だけとは限らない。能力があれば、本社で活躍してもらうべきだし、まさにそのような異動がグローバルな視点を本社にもたらすことになる。まさに、ワールドワイドでのタレント・マネジメントであり、本国人中心主義からの脱皮である。

(4)海外における制度の調整/応用
人事制度を現地の文化、法律などに適応させるために修正する(ローカライズする)かどうかは、悩ましい問題である。

制度の対象層が多数派であれば、全社的に制度を調整すべきだし、少数派であれば個別対応すべきであろう。人事制度を設計することがマネジメントの目的ではない。人事制度とはあくまでも行動変容を促すものである。人事制度の整合性を保つことに固執して、最優先課題である行動変容を忘れていたのでは本末転倒である。他方、少数派に対しては、日常的なマネジメント行動で個別対応、つまり制度の運用の工夫で行動変容できると期待されるからである。

もちろん、最初から進出先の文化などを想定した人事制度を作ることは可能であろうが、そのための時間とコストを考えると、どの程度の効果を発揮できるか事前に勘案して意思決定すべきだ。数人の対象者のために、時間とコストを掛けていたのでは、その数人の利益貢献を考慮すると経済計算は成り立たないだろう。

制度による異文化対応のポイントの一つは「数」といえるし、そのこと自体、一般的な経営判断である。

例えば、日本に進出している米国系のコンピューター関連企業では、徹底した成果主義を採っている。ある年度に目標を達成できなければ、上司と改善策を話し合い次の年度での達成を目指す。しかし、不幸にしてそこでも達成できなかった場合は会社を去ることになる。開発など長期間の取り組みを必要とする仕事であってもルールは同じである。決まった年度に目標が達成できなければ会社に席はなくなる。日本的な経営に比べると、かなり過酷な条件のようにも見えるが、そこで働いている日本人社員も納得ずくのことだ。この企業は各国に拠点を持ちグローバル化を積極的に進めているので、世界で統一された人事制度を持っている。昇進昇格基準も一律で、昇進候補者は国を超えて招集され研修を受ける。日本をはじめ特定の国の文化に合わせることはしない。もちろん、法律等への対応問題は別である。

この事例から学べることは、人事制度をめぐるもう一つの視点である。つまり、現地社員の目線である。国内企業ではなく、外資系企業に仕事を求めるということは、それなりの理由があるからであり、語学は彼らにとってはクリアしなければならない壁にすぎない。あくまでも専門的なスキルの習得、年齢的に早い段階でのキャリアアップ、高給などを求めるからこそ、外資系企業に職を求めるのである。おそらく、このような事情はどこの国でも変わらないであろう。とすれば、現地社員の期待していることに応えられる人事制度の設計が望ましい。反面、既存の人事制度で対応できるのであれば変更は必要ないであろう。

本国と海外子会社との関係であれば、上記のような事例が参考になろう。しかし、多国籍の人材が国を越えて異動するようになると複雑になる。定年制の規制、企業年金、解雇条件などはその人材が籍を置く国の法律によって規制される。例えば、A国の子会社で優秀な人材を隣国のB国の経営幹部に異動させると、この人材の処遇はB国ではなくA国の法律を順守しなければならないというケースもある。

次回は、人事部に期待される役割について解説します。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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