五輪ボランティアスタッフに学ぶ、従業員満足度と顧客満足度の連係 

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※2013/7/23にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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夏本番。夏というと、世界の2大スポーツイベントであるFIFAワールドカップやオリンピック(夏季)で繰り広げられた名シーンを思い出す。10年以上さかのぼるが、シドニーの地で颯爽と1位でオリンピックパークの中をかけ抜けゴールのあるスタジアム・オーストラリアを目指す高橋尚子選手を偶然目にした。偶然というのは、オリンピックを観戦していたのではなく、当時ボランティアとしてシドニーオリンピックに参加していたからだ。

実はオリンピックを陰で支えるボランティアの数は大変多く、シドニーオリンピックには5万人、前回のロンドンオリンピックでは6~7万人が参加したという。そのボランティアスタッフは夏の日差しの強い中、神経を使う仕事につきながらも、誰しもが自分の仕事に誇りを持ち、楽しんでいるように見えた。きっと読者の中にも、オリンピックやワールドカップなどで誇らしげに働くボランティアに遭遇した経験を持つ人もいるだろう。

今年のコラムでは、「顧客満足度」とそれを生み出す「従業員満足度」の2つのテーマについて書いているが、顧客満足度につながる「適切なサービスクオリティを生み出すような高いモチベーションを持ち続ける従業員」をどのように育てるべきかについて、オリンピックでのボランティアマネジメントのあり方は示唆を与えてくれるところがある。

もちろんボランティアとフルタイムスタッフとでは異なる部分もあるが、今回は両者に共通する部分について書きたい。

それは、顧客の期待やサービス提供するスタッフによってサービスの内容が変わってしまう可能性がある(変動性)ということだ。

24万人の応募から7万人が選ばれていたロンドンオリンピック

さて、一度オリンピックのボランティアのマネジメントに話を戻そう。

オリンピックでのボランティアの役割は、輸送や医療関係、技術・情報関連サポート、会場案内や通訳など多岐にわたるが、2012年のロンドンオリンピックでは、24万人の応募から7万人のボランティアが選ばれたようだ。採用方法は大会ごとに異なると思うが、まずは応募フォームを入力後、電話などでのインタビューを経て、選ばれている場合が多いようだ。

シドニーオリンピックにおける海外からのボランティア参加者の中には、自らシドニーの事務局に電話し自己アピールをしてボランティアのポジションを得たという人も少なからずいた。もちろん、ボランティアなので海外からの渡航費や宿泊費は個人負担である。それにもかかわらず、ボランティアという形でもかまわないからオリンピックを一緒に作りたいという熱い思いを持つ人が集まっていた。

数万人のボランティアがシステマティックに動く驚異!

晴れてボランティアとして参加できることが決まり現地入りすると、IDパスやユニフォーム、ガイドブックパッケージなどが渡される。そしてここからがすごい。

数万人のボランティアが、短期間でシステマティックにトレーニングを受けていくのである。役割によってトレーニング内容の差こそあるが、基本的にはオリンピックの歴史やスピリッツなどの一般知識や担当業務別のトレーニングを受ける。業務内容によっては実地トレーニングを受ける場合もある。これほどの人数規模で丁寧なトレーニング受講体制を整えていることは、驚嘆に値する。

このトレーニングを受けると、ボランティアたちの気分はさらに高まり、ボランティア活動における自らの使命を感じ始める人が多い。なぜならば、トレーニングでは「ボランティアなしにはオリンピックは始まらない」という主旨の感謝が終始伝えられ、ボランティアスタッフは組織委員会やトレーニングスタッフからの「レコグニション(認知)」を絶えず得ることになるからである。知識やスキル、マナーなどについての理解を深めることも重要だが、なによりもこのトレーニングを通じて「誇り」を感じ取るのである。

五輪ボランティアの報酬は、選手、スタッフ、観客からの「感謝」

ボランティアには、渡航費も宿泊代ももちろん金銭的報酬も渡されない。市内からオリンピック会場までの交通費(無料パス)と食事の補助、そしてユニフォームのみが渡されるが、ボランティアにとってはこれだけで十分なのである。なぜなら、そこに集まるボランティアが求めているのは金銭的報酬ではなく、自らの「心理的報酬」と周囲から与えられる「評価」がその報酬だからである。オリンピックという舞台に関われる幸せ。選手・スタッフ・観客をサポートすることに意義を見出し、そして感謝されること、オリンピックの一部であることを心から喜ぶ。それがボランティアにとっては、金銭に代わる、絶大なる「報酬」なのである。

読者も見たことがあるかもしれないが、オリンピック会場の電光掲示板にはボランティアをたたえる言葉が何度も表示される。開会式・閉会式でのスピーチでもボランティアへの感謝が繰り返し伝えられる。ボランティア活動の中で、よいサポートをすればするほど多くの観客から感謝され、会場や食堂なので出会う多くのスタッフから、常に感謝の意が伝えられる。

この感謝の言葉が伝えられる時こそ――そのボランティアの担当がいかに体力勝負の職務であったとしても――それだけで一気に疲れも吹き飛ぶ瞬間なのである。つまり、自分が貢献することに対して直接反応を受けられると同時に、周囲からレコグニションされる機会が十分すぎるほど用意されているのが、「オリンピック」という巨大なスポーツの祭典なのである。

東京ディズニーリゾートの360度評価は五輪に通じる

自分の仕事に誇りを持ち、担当部署で最大限の貢献をしようとするオリンピックボランティアの姿からは、「従業員満足度向上における重要なファクター」について多くの学びを得られる。

まず、誰でも簡単にボランティアになれるわけではなく、確固たる採用基準をもってしてボランティアを選抜していること。そして、十分なトレーニングをシステマティックに行い、ボランティアマネジャー、顧客、そしてボランティア同士も含め360度から賞賛がしっかり伝えられ、認知されるようになっていること。

360度からの認知というプログラムとして有名なものでは、東京ディズニーリゾートで実施されている“ファイブスタープログラム”がある。よいパフォーマンスのスタッフ(キャスト)には、上司からカードが手渡され、そのカードとオリジナル記念品が交換できたり、パーティーに参加できたりするというプログラムである。また、キャスト同士がお互いの素晴らしい対応を認め、讃え合いメッセージを送る制度もある。

従業員満足度の向上が、ちゃんと顧客満足度につながっているか?

オリンピックでのボランティアマネジメントに見る「採用選抜」「育成」「従業員への報酬と認知」などは、従業員満足度を上げるために必要な社内サービスの質を向上させる上でカギとなるものだ。もちろんこれらは従業員満足度をあげる方法のすべてではない。職場の環境整備や職務設計、サービス提供をサポートするツールの開発なども重要なので、これらについては次回解説したい。

ここで大事なことを1つ。従業員満足度を高めるために重要なことは、給与条件をよくしたり飲み会などを開催したりすることだけではないということである。

もちろんこれらの施策でも一時的に従業員の満足度を上げることはできるかもしれないが、重要なのはその従業員満足度が従業員ロイヤルティにつながり、そしてその従業員ロイヤルティが顧客に最高のサービス提供をすることに役立っているかどうかである。従業員満足度やロイヤルティを上げることだけが目的ではなく、それが顧客の満足度を上げる行動につながっているかどうかこそが、問われているのである。

さらに従業員が能力を発揮できる状態にするには、スタッフ1人1人の頑張りなど不確定要素の高いものに依存しないように「仕組み化」することも重要である。

オリンピックボランティアのマネジメントに関しては、ボランティアが最高のパフォーマンスを出せるように、その採用方法、トレーニング方法、レコグニション(賞賛認知)の「仕組み」が導入されている。だからこそ、経験のあるなしにかかわらずあれだけの人数のボランティアが最高のパフォーマンスを出せるのである。もちろん「仕組み化」には、その職場の環境整備や職務の設計、サポート体制、サービス提供時に使用するツールの整備なども含まれるがそれについては次回以降に触れたい。

個人の頑張りだけに、会社が依存していないか?

極々普通の人が、一定のパフォーマンスを残すことができるような「仕組み」はあるか。個々人の頑張りだけを頼りにしてはいないか。ただただ「頑張れ」と言い続けていないか。会社としてサポート体制をどう仕組み化しているのか。もう一度じっくり自社内の様子を眺めてみるところからはじめてみてほしい。

<今回のポイント>
◆従業員満足度を高めるためには、トレーニングや報酬や評価・認知などによって、社内サービスの質を向上させることが重要
◆従業員満足度を高める施策を取るときは、顧客満足度を高めるための従業員の能力向上につながっているかどうかを確かめなければならない
◆能力のある人だけがパフォーマンスを出すのではなく、多くの人が一定のパフォーマンスを出せるようにトレーニング、職場環境、仕事のやり方などを「仕組み化」することがカギとなる(次回でもさらに説明)

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