日本が直面する戦略・組織課題(1)  

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事業環境の変化が要請する戦略の再構築

今回はまず、日本企業が直面する課題の本質について考えてみたい。

「失われた20年」。この言葉に忸怩たる思いを持つ方も多いだろう。この停滞から脱却し、将来の成長と競争力強化に向けた戦略をどれだけの人が明確に描き、また確信を持てているだろうか。多くの経営者、経営幹部の方々と対話し、またアクションラーニングの場で経営課題に取り組む中で感じるのは、目の前の課題には一生懸命取り組んでいるものの、本質的課題の解決につながっていないケースが少なくないことである。その背景には世の中の大きな変化の中で、我々は今、どこにいて、何が問題なのかを俯瞰できていないからだ。では、我々を取り巻く世の中、ビジネス環境の変化を、大きな視点、長い時間軸から見ていこう。

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課題としてまず挙げられるのは、国内需要の長期的な減少トレンドだ。これは人口の量的な減少だけでなく、多くの分野で人々が「欲しいものがない」と感じる「欲求の減退」に象徴的に表れている。顧客が当たり前と思って諦めている不満や潜在的な欲求に応える新たな価値を生み出すことができれば成長できる余地はあるはずだ。しかし、既存の製品、サービスの改善競争、値下げ競争に明け暮れ、売上げ数量の減少、単価の下落の中でもがき続けている企業も多い。

世界に目を向けると、先進国は日本と同じく需要の減退に直面している一方、アジアをはじめとする新興国では経済が急成長の中にある。アフリカなどこれから発展の余地がある地域もまだまだ残っており、大きな成長機会が存在し、多くの日本企業がそこを目指し一層のグローバル化を進めようとしている。しかし、中には高い競争力、シェアを獲得している例もあるが、新興国市場で苦戦している企業も多い。液晶テレビやDVDプレーヤーなど、世界で初めて商品化し、初期には世界市場で圧倒的シェアを獲得したものの、ほんの数年で急激にシェアを落としてしまうケースもよく見られる。そんな中、技術力を誇るものづくり企業は、強経営の未来をつくる戦略的HRマネジメントみが活かせる高付加価値、高価格市場にフォーカスする戦略をとりがちだ。しかし現実は「あと5年は、中国企業にはこのスペックは造れない」と言っていたはずの製品が、2~3年でキャッチアップされていく。自国内市場のボリュームゾーンを押さえた地元企業が、最新の生産設備や技術者の引き抜きに投資し、急速に差を縮めていく。冷静に考えれば予想できるはずだが、こうした失敗は後を絶たない。これはさらに、M&Aによる日本企業の経営権の獲得といった動きにつながってくる。

情報技術の進化も重要だ。特にネットワーク化・Web化によって企業と顧客、企業間の関係が変わる中、新しい事業モデルが次々と生み出され、一気に世界中に広がるようになってきている。ただし、こうした変化をリードできている日本企業は少ない。日本企業が強みを持つ「ものづくり」の領域も決して安泰ではない。情報技術の進化は、製品・サービスのデジタル化を促進し、製品に組み込まれたソフトウエアがさまざまな公差調整をリアルタイムで行うようになると、ハード面での「精緻なものづくり」の必要性が低下していく。もしくは高度な開発・製造技術力が必要なモノの世界でも、製造ノウハウがアルゴリズム(定式化された手順)として製造装置に組み込まれるようになると、最新の製造設備を買えば、誰でもキーをひねるだけでそれなりの品質のものが造れてしまうといったことが起きている。こうした変化は、業界の在り方、事業の形そのものを変えていく。代表例が「モジュール化」「オープン化」の進展だ。製品やサービスを構成する要素がいくつかのまとまり(モジュール)に分解、パッケージ化される。そしてモジュールをつなぐインターフェイスが広く業界内で標準化されることで、特定のモジュール部分にフォーカスした企業や、モジュールを組み合わせて完成品を作るビジネスに世界中の企業があっという間に参入し、国境を越えた幅広い分業と熾烈な競争が同時に進む。結果として隆盛になったのが、アメリカの情報産業とアジアの製造専門企業の組み合わせに代表される、いわゆる「国際斜形分業」だ。こうした事業モデルの中で、製品・サービスの普及、機能品質の進化、価格低下の3つが同時に、爆発的なスピードで進む。デジタル家電分野に代表されるように、こうした戦いの中で、統合的なものづくり力の優位性が急速に形骸化し、厳しい立場に置かれている日本企業も少なくない。

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日本企業に共通する3つの重要課題

このようなビジネス環境の変化に対し、日本企業が取り組むべき課題は何だろうか。具体的な課題と取るべき戦略は、それぞれの事業の特性、企業の特徴によって異なるが、共通する重要な課題は以下の3点といえよう。

第1の課題は「事業経済性の変革」だ。多くの企業で「新興国企業は当社のコストの半分であり勝負にならないため、高付加価値にフォーカスする」といった話を聞く。しかし、上述のようにこの戦略も長くは持たない。売上高利益率、資産収益率の抜本的な改善を図る必要があるが、通常考えられるコスト削減策は既にかなり実施されており、「今あるコストをどう削るか?」という発想では不十分だ。売上げ・コストの構造を根底から変えるにはどうするかを考え、実行しなければならない。第2の課題は「イノベーションの加速」だ。既存の製品・サービスへの需要が増えないのであれば、新たな価値を産み出さなければならない。また、環境が異なる市場、これまでの成功モデルが通用しない環境では、日本や先進国では当たり前の前提を取り払って考える必要がある。いずれの場合も、目の前の顧客の声、要望に寄り添うことはもちろん、顧客自身も明確に認識していないが確かに必要とされる、社会的ニーズを洞察し、形にしていくことが必要だ。そして、その価値の創出を阻むコスト、資源等の制約を、新たな視点から、また原理原則に立ち戻り考え抜くことで、価値創出の新たな業務プロセスを生み出す、仕事の仕方を変えることが求められる。そして、そのサイクルを、競合企業にキャッチアップされるよりも早く回し続けなければならない。

「事業経済性の変革」と「イノベーションの加速」を同時に行う、またそれをグローバル、かつオープンな環境で進めていくことは、結果的に「バリューチェーンの再構築」という第3の課題を引き起こす。最終顧客に至る業界全体の活動領域の中で、最も価値を生み出す部分、かつ自社の強みを生かせる範囲を選択する必要がある。しかし、こうした戦略をとれている日本企業はまだまだ少ない。技術・ノウハウがあるのに「わが社は川下事業は得意でない」といった先入観で付加価値が低い川上部門にとどまっていたり、「川下に出れば、より高い付加価値が取れるのでは」と安易に考え、十分なノウハウがないまま川下に出て失敗するという例が極めて多い。M&A、アウトソース、アライアンスなど、事業領域の絞り込みや拡張・補完の方法はいろいろあるはずだが、どれも既存の事業や人に大きな影響を与えるため、ドラスティックな構造転換に躊躇する企業は多い。お気づきのように、これらの課題は、実はどれも目新しいものではない。多くの経営者、経営幹部も課題を認識し、戦略の転換、再構築を試みているはずだ。しかしながら、大きな方向性、進むべき方向性が分かっていても実行できていない。なぜなのか。ここに戦略的課題と同様に、もしくはそれ以上に重要かつ深刻な、日本企業が解決すべき組織課題が存在する。

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労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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