レアルとアヤックスの共通項は何か。プラットフォームビジネスを考える 

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前回に引き続きレアルとアヤックスの対比を行ないながら、「顧客はだれか」を意識することからさらに一歩進み、両クラブの「顧客を増やす仕組み」について考えてみたい。

ニューヨーク・ヤンキースとレアルはどちらの収入が大きいか

ところで読者には、メジャーリーグのファンも多いと思う。ダルビッシュ有選手の活躍はもちろん、イチロー選手や、松井秀喜選手など、多くの選手の動向から目が離せない。

アメリカの経済誌「フォーブス」によると、そのなかでも最も裕福な球団はニューヨーク・ヤンキースで売上高は4億3900万ドルである。メジャー選手の高額な年俸や移籍金のニュースは、日本でもすっかりおなじみのものとなった。

では、世界のサッカークラブで最も豊かだといわれるレアルの収入は、ヤンキースより大きいだろうか、小さいだろうか?

答えは、レアルのほうが大きく、売上高はドルに換算して約6億9500万ドル(「フォーブス」調べ)。約1.6倍もの規模になる。これだけ巨大な規模の収入を得るために、レアルはどうやって顧客を増やしていったのだろうか。

「No.1」の称号が収入増加のサイクルを回す

レアルのビジネスモデルの肝は、「世界中のファンを魅了するために、スター選手を獲得しNo.1の称号を得ることにある」と前回書いた。世界中から注目を浴びれば浴びるほど、クラブ収入が増加するサイクルである。

収入の多くを占める1つが放映権料。彼らが積極的に投資し獲得したスター選手が活躍すると、ファンからの注目度が増す。そしてそのファンにアプローチできることにさらなるメリットを見出す企業が番組スポンサーにつく。番組スポンサー料が上がるので、その結果リーグやクラブが手にする放映権料も上昇するのである。

また、スター選手が揃い、その結果チームの成績が向上すると、マーケティング収入の1つであるクラブスポンサー料も増加する。スター選手やクラブのイメージとともに企業ブランドイメージを向上させ、そのブランドイメージを多くのファンの中に構築することができると考える企業が増えるからである。

円グラフを見ていただくと、レアルの売上高が入場料、放映権料、スポンサー料や広告料から成るマーケティング収入の3本柱によって成り立っていることが分かる。あわせて、マーケティング収入の占める割合が急速に伸びていることも理解できるだろう。

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レアルの顧客の増やし方

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年次報告書「Real Madrid 2010-2011annual report」によると、レアルは約40社とのスポンサー契約や広告契約を結び、5200万ユーロの収入を得ている。さらに、ライセンス契約企業なども含めると340以上もの企業と取引をし、2億4000万ユーロの収入を得ているのである。

多くの企業がレアルとパートナーシップを組むことに価値を見出せば見出すほど、クラブへの収入は増加する。そこで得た資金を元に、多くのスター選手や監督、スタッフをさらに獲得できる。その結果、一層多くのファンがレアルの試合をさらに楽しむ。レアルに注目するファンが増えれば、企業にとってもレアルとのパートナーシップにさらなる価値が生まれる。

このようにレアルは、世界一の数を誇る2億2800万人のレアルファン(2006年ハーバード大学の調査より)と、そのファンにマーケティングバリューを見出すアウディやコカ・コーラのような企業とを結びつけ、両者に提供できる価値を向上させ続けることで、さらにファンや企業の数を増やしているのである。

アヤックスが結びつける若手選手とビッグクラブ

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では、前回レアルと共に取り上げたアヤックスはどうだろう。

アヤックスは、スター選手獲得に奔走するビッグクラブの需要を狙うべく、若くて無名の選手を育て上げることに注力している。その育成機関として、彼らは世界屈指といわれるアヤックスアカデミーを持っている。

プロとして活躍する選手を多く輩出するためには、素質があり、かつ人間性にも優れたプロの卵をアヤックスアカデミーに集めなければならない。そのためには、アヤックスアカデミーがビッグクラブで活躍するための登竜門として認識される必要がある。

その点で、アーセナルに移籍して活躍したデニス・ベルカンプや、バルセロナなどで一緒にプレーした双子のデブール兄弟、パトリック・クライファートなど歴代の名選手を送り出した実績があり、現在もスナイデル(インテル)、クラレンス・セードルフ(ACミラン)、マールテン・ステケレンブルク(ASローマ)、ラファエル・ファンデルファールト(トッテナム)など、著名な選手が活躍していることは、アヤックスアカデミーにとって申し分ない実績である。

アカデミーを卒業した選手が活躍をすればするほど、より多くのビッグクラブからの期待がアヤックスに集められる。より多くのビッグクラブが、アヤックスアカデミー出身の選手を獲得するようになればなるほど、若手選手にとってアヤックスアカデミーがビッグクラブでの活躍の足がかりと認識される。そして、多くの優秀な若手選手がアカデミーに集まるため、さらに多くのビッグクラブの目を引くこととなる。

このようにアヤックスも、アカデミーを通して、若手選手とビッグクラブを結びつけることで顧客を増やしながら、自らの利益モデルを構築しているのである。

プラットフォーム化したビジネスとは何か

このように、レアルもアヤックスも、様々なグループが結びつく場としての存在価値を創りだすことで、顧客を増やしている。つまり、両クラブが「プラットフォーム」化しているといえる。

プラットフォーム化している状態とは、プラットフォームに参加する人が増えるにつれて、享受できる価値が向上するサイクルがつくられていることである。

そのサイクルを機能させるには、まずバイラル(口コミ)効果を狙った仕組みを作ることが重要である。口コミで、プラットフォームに参加する人の数を増やす仕組みである。

そして、もうひとつ重要なのは、粘着性を発揮する仕組みの構築である。参加した人々が他のプラットフォームにスイッチングすることを防ぎ、さらに利用頻度を増やす仕組み(粘着性)を築くことである。たとえば、アヤックスアカデミーでは、若手選手が無料でトレーニングを受けられるといわれているため、費用の心配がなくアカデミーに留まりやすい。

さらにアカデミーでは、サッカースキル以外にも、「フィジカル」や「コミュニケーション能力」「協調性」「洞察力」などサッカー選手に必要な幅広いトレーニングをアカデミー1カ所で受けることができる仕組みにしている。

これらは、若手選手の粘着性を高める仕組みの一例と言えよう。

このように口コミや粘着性が高まると、プラットフォームに参加する人が増える。そして享受できる価値が向上するサイクルが回りはじめ、「プラットフォーム化」していくのである。

プラットフォームビジネスの成否を分ける肝

アヤックスアカデミーでは、優秀な若手選手を多く集めるために、希望者をすべて受け入れているわけではない。彼らは、長く厳しいスカウティングプロセスの中で選んだ選手しか入れない仕組みをとっている。

実はここに、プラットフォームビジネスの肝が隠されている。

より多くの顧客を得るためには、プラットフォームに参加する人数を増やすことだけに奔走しがちだが、人々が集まるのはアカデミーというプラットフォームの「質」が担保されているという前提があってのこと。したがって、プラットフォーム自体の信頼性という質を失うことのないようにしておくことが重要になる。

もし、誰でもがトレーニングを受けられるアカデミーであれば、アカデミーの質が下がり、ビッグクラブからの信頼も薄くなってしまうわけである。これでは、プラットフォームビジネスが成立しないのである。

フェイスブックとグーグルのプラットフォーム戦略

ここまで、両クラブの「顧客を増やす仕組み」をみてきたが、この考え方は「プラットフォームビジネス」を応用した仕組みと言えよう。

このプラットフォームビジネスの成功例として有名なのはグーグル、アマゾン、フェイスブックなどである。

ナスダック市場に歴史的な上場を果たしたフェイスブックは、公開時の時価総額が1000億ドルを超えた。無料で登録でき、かつ友達同士での情報共有形式の自由度が高いことから、既存ユーザーが友人に登録を勧めることもあり、世界中で多くの人々が利用登録をするようになっている。

多くの人が登録すればするほど、友達を探しやすくなり、フェイスブック上で頻繁にメッセージの送受信をするようになるため、他のプラットフォームにスイッチしにくくなる。今や、フェイスブックの利用者は世界で9億人以上といわれている。

フェイスブックは2011年の収入37億1100万ドルの大部分を広告収入から得ているが、この利用者を集める仕組みこそが、ビジネスの肝になる。より多くの人が利用すれば、その利用者を対象にプロモーションする企業が増えるため、収入に結びつくのだ。

グーグルやアマゾンもまた、同じような仕組みを構築している。グーグルは、高度な検索機能、スケジューラー、Gmailなどの利用者を増やし、広告企業と結びつけている。アマゾンは、一般消費者とメーカーを結びつける場を提供している。

アマゾンでショッピングする利便性が上がれば、多くの人がアマゾンに集まる。多くの人が集まれば、メーカーにとっても販売チャンスが増える。従ってより多くのメーカーが販売を開始する。そして、多くのメーカー商品がアマゾンに集まれば、さらに多くの人々がアマゾンでのショッピングを楽しむことができるのだ。

ここまで見てきたように、プラットフォームを築く上で重要なのは

(1)ユーザーが増えれば増えるほど享受できるメリットが拡大し、口コミでさらにユーザーが増える仕組みをつくる
(2)ユーザーのスイッチングを防ぐような、プラットフォームへの粘着性を築く
(3)プラットフォームという「場」の質を担保する仕組みを構築する

ことである。

課金する相手は直接の顧客でなくとも良い

何も有名企業ばかりがこの考え方を取り入れているわけではない。みなさんの周りにも多く存在する。たとえば、ショッピングモール。アマゾンの仕組みと非常に似ているが、ショッピングモールにより多くのショップが入れば入るほど、集客力が増し、集客力が増せば増すほど多くのショップがテナントに入り、集客がアップする。そしてバラエティに富んだショップが入れば、人々はそのショッピングモールで一通りの買い物ができるので、他のモールに行く必要がない。このように、ショッピングモール自体がプラットフォーム化していることがわかる。

読者も、この考え方を参考にしながら、自社の顧客を増やしていく仕組みについて考えてみてほしい。

そして、もう1つ。アヤックスアカデミーやフェイスブックの事例のように必ずしも直接のサービス利用者(若手選手、ユーザー登録者)に課金をする必要がないことがわかったことと思う。自社の顧客が増えればそれに価値を見出す人が出てくる。そのようなグループを創りだすことにより、読者の会社の利益モデルも様々なパターンを見出すことができる可能性がある。自らがプラットフォームとなり、そしてそのプラットフォームの価値を認めるような新たな顧客を見出すことも、これからのビジネスモデルには必要になろう。

次回は、顧客を増やすマーケティングアプローチについて、日本のランニング市場を参考に考察を深めていきたい。
<今回のポイント>
◆自社と顧客がつながっていること自体に価値を感じる、第3のポテンシャル顧客の存在を考える
(新たな利益モデルの創出機会)
◆自社の顧客(+ポテンシャル顧客)を増やすためには、口コミ効果と粘着性が効果を発揮する
◆顧客数にばかり目を奪われず、ルールや規範などで「場」のクオリティをコントロールする

 

2012/5/29にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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