じつは、金利はゼロでも高すぎる!? -金融政策の限界 

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「財政政策は、どんなに賢い人がやってもバラマキには違いないし*1、その発注が不公平に繋がるかもしれないし*2、ということで金融政策をチョイスしてみることにしましたが」

経済学部に進学するケンジは、前回まで学んだことをアタマのなかで整理しながら言う。

「その金融政策は、みんなに平等におカネを借りやすくする環境を作って、可能性がありそうなチャレンジャーにおカネを借りて使ってもらって、経済を活性化するという目的でやるんだということはわかりましたが、現実的にはちょっとヨワいところもあるということでしたが」

えらく吸収力があるな、この新しい大学一年生は。ガイド役を務める末席研究員は、好ましく頷きながらケンジのまとめを聞いている。

ケンジは、まとめの最後に質問をする。
「で、そのヨワイところってどこなんでしょうか?」

末席は、疑問を持つ学生というものは、いつの時代でも独特のいいオーラを放つものなんだろうな、と推測しながら答える。
「そうですね。端的に言えば、基本姿勢として、借り手を待つしかない、ってことですね」

「たしかに。強制しているわけではない以上、みんなが借りたくないと思っているのなら、それもしょうがないですよね、自由な意志によるのですから」
自由が好きなケンジは、それもやむなし、と思っているが、どこか歯がゆそうにもしている。

それを見かねた叔父の嶋野主任研究員がフォローに入る。
「不景気が続くと、いかに自信家であっても、尻込みしてしまうこともあるからね。たいていはそこそこ下がると、資金需要は湧いて出てくるものなのだが」

末席も嶋野の言をフォローする。
「たとえば、米国の政策金利は一時8%(1990年)でしたが、1%(2003年)にまで低くし、それが奏功して、その後5%程度(2006年)に戻しました」

「おー、すごいですね、金融政策が効いたんですね」
ケンジは現実が教科書どおりに動いていることに、素直に感動している。

嶋野は、なぜか照れくさそうにそれに応える。
「まあ、時間はけっこうかかったりするんだけどね」

そうそう、と頷きながら、末席も補足する。
「いつもこうなればいいんですが、ただ、なかなかそうならない場合ももちろんあります。2007年の終わりから、米国の政策金利は0.25%にしているのですが、以来、ずっとこの水準です」

「うーん。なかなか一筋縄ではいかないムズカシイものなんですね、経済というものは・・・」
ケンジは唸りながら感想を漏らす。

その感想を受けて、嶋野は比較論的な説明を試みる。
「金利を低くしたとしても、やはり景気がキビシい時には、なかなか借りてくれないかもしれない。借りるのは個人の自由だから、使わないからといっても、これは政府*3が強制できない。この面でいえば、金融政策よりも、実際に確実に1回使われる財政政策には、力強さがある」

末席は論点を移しながら続ける。
「金融政策には、ほかの弱点もあります。民間がやるにしては儲けが薄そうだけど社会的にはとても重要な事業は、やはり民間ではなかなか選択されにくいため、そのあたりは財政政策でやるほうが得策です。また…」

末席は金融政策に絞った難点に言及する。
「金融緩和でおカネを出し過ぎると、物価*4が思いのほか上がってしまうかもしれない*5」

よし、計算通り、とばかりに、嶋野はその難点を財政政策のそれと比較し総括する。
「財政政策における将来の税金増が主な副作用だとすれば、金融政策の副作用はインフレだと言える」

うーん、わかったような、わからないような、という苦悶の表情を浮かべるケンジに、末席は容赦なくこのラウンドの最重要質問を投げかける。
「では、政策金利を0近くまで下げても、景気に元気が戻らないことがまれにあることはさっき確認しましたよね、さーて、そのときにはどうする、ケンジくん」

「さぁ・・・。でも、金融政策は経済学的にかなりスマートな方法だとして、でもやっぱり万能でもないんだなっていうことは、なんとなくわかったけど・・・」
ケンジは、答えになっていないが、そう言うのが精一杯だというふうに答える。

末席は、無理もないよ、と目の端でいたわりつつ、答えを発表する。
「ひとつは、前出の財政政策を積極的に実行することです」

嶋野が捕捉をする。
「金利がゼロでも借り手がいないとなったら、不公平に繋がるかもしれないけれどやっぱり実行力を伴う財政政策をガツンとやるべきで、そうやって景気を刺激することが呼び水になって、民間の事業も活気づいてくる、という方法論がある」

「やっぱり、財政政策が景気対策として必要な局面もあるんですね」
ケンジは再確認するように言った。

「もうひとつは、」
末席は、ニヤリとして、いかにもひとが悪そうなふうを装って続ける。
「もっと金利を下げることです」

えっ、だって金利はもうゼロなんですよね、それともマイナスに出来るってこと・・・。でも、金利がマイナスって聞いたことないよ!という表情のケンジを見て、からかいがいがあるなぁ、とご満悦になる末席であった。

*1:ムダに使われる可能性と、将来の税収を現在使ってしまう、という懸念が指摘される。詳しくは第20回を参照
*2:用途に恣意性が生まれる、あるいは汚職に繋がるという懸念が指摘される。詳しくは第20回を参照
*3:行政府と中央銀行をまとめて「広義の政府」ということがある
*4:一般物価のこと
*5:いわゆるインフレーションのこと。(一般)物価、インフレに関してはデフレ編やアベノミクス編で既出だが、ケンジくんのために以降の回であらためて解説予定

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