じつは、不況の克服は意外とカンタン!? ―ケインズからの回答1 

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「自由主義経済って、理想的に上手くまわればスゴイけど*1、なかなかいつもそうなるわけではなくて、場合によっては取引が滞って、それが最悪の場合は不況や恐慌に繋がってしまう*2、ということはよくわかりましたが」

前回までの嶋野主任研究員たちの説明を手際良くまとめるように、大学生のケンジは続ける。
「それを解決しようと、セイの法則を実現するための『強制的な全量買い』を行うにあたって、自由主義を捨てちゃって、共産主義になった国があって*3、それで大恐慌を乗り切れたのはよかったとしても、なんだかやり方が極端な気もするのですが・・・」
前回の内容を300字程度でまとめきった甥の理解度に満足しながらも、嶋野は試すように言ってみる。
「みんなが平等に幸せになれるのであれば、まあそれもいいんじゃないか。なんていったって、大不況に怯える必要がなかったんだから」

「うーん、でも、その代償で自由がなくなるのはイタい気が・・・。服も好きなのを買えないんじゃ、僕はあんまり幸せじゃないかも・・・」

そうつぶやくケンジを目の当たりにした叔父の嶋野は、慌ててフォローを試みる。
「幸せって、人によって違うものだからね、マルクス主義に共感できたとしても、なにも無理に共産主義国を建国しなくてもいいんだよ、ケンジは・・・」

なぜ、ケンジくんがマルクス主義者になって革命を起こす設定にしてしまっているのだろうか。末席は嶋野のフォローの方向性にダメ出しをしながら応える。
「思想と現実に引き裂かれる青年・・・って、そんな一昔前の左翼系文学じゃあるまいし*4、なんでそんな葛藤を勝手に押し付けてるんですか!
ケンジくんは、自由主義は好きだけど、そのデメリットを解消するのに共産主義しか選択肢がないの?と素朴に思っているだけだと思うんですが」
理解が得られたケンジは、少し安堵しながら状況を見守っている。嶋野はそれを受けて続ける。
「なんだ、そうか、むりやり2択の問題にしなくてもいいのなら、別のもある」

甥がわかりやすいようにと気を使っていたつもりの嶋野は、「で、あれば」というふうに続ける。
「セイの法則は、自由にまかせておくだけだと、うまくいかないことも出てくる。その対処法のひとつは共産主義の『オトナ買い』だとして、それもちょっと極端だしイヤだというのなら、『自由にまかせていては売れ残ってしまいやすい部分』を誰かが(たとえば政府が)買ってあげればいい」

やっとひとつ前進したな、時間がかかったけど、という思いをおくびにも出さずに末席は承けて答える。
「そうですね。自由市場での取引で残った分をどうするか。それが上手いことなんとかできれば、自由主義は不況を引き起こさないかもしれない」

ケンジは怪訝そうな顔で疑問を呈す。
「でも、残った分は、市場で安くなることで、取引されるんですよね、自由主義的には。安くなるまで待たなくてもいいんですか?」

末席は待ってましたとばかりに応える。
「そこなんですよね。『残り物だから今よりももっと安くなるだろう』と待っている人が多くなると、取引が滞りやすくなる*5。それよりは、頃合いをみて、多少目をつぶってでも残り物を買ってあげる人がいれば、全体の取引は調子を落とさず、その結果、不況は遠のくかもしれない」
ケンジはめずらしく食い下がる。
「でも、それって、『不用なものでも高く買う』ってことですよね。それはそれで、不公平な気も・・・」

末席は根気強く応える。
「そうかもしれませんね。自由主義陣営、とくに古典派は、そのような感想を持つと思います。有用なものをいっしょうけんめい作ってがんばっている人はそれだとかわいそうだし、不用なものが淘汰されずに作られ続けるのも問題だ、と。たしかに頷けるところ大だと思います。ただ、それを徹底しすぎると、今度は取引が停滞するリスクも上がる。プライスがじゅうぶん下がったとしても、『まだまだ下がるんじゃないか』(予期)と思える状況では、『もうちょっと様子を見ようかな』と、なりやすいでしょう」

ケンジは眉間にしわを寄せて訊ねる。
「うーん、悩ましい・・・。じゃあ、どのくらいのさじ加減だったらいいっていうんだよ・・・」

末席は真剣に考えているケンジを好感して応じる
「まあ、適量であれば、ということですよね」

それじゃあ、答えになってないよ!と口に出すのは思いとどまったケンジだが、顔にはそれが出てしまっている。それを見た嶋野が慌ててフォローする。
「自由市場にまかせておくといいものと、イマイチなものがあるんだよ。自由市場がイマイチ不得意な部分を重点的に手当して*6、あとは自由に、というさじ加減はありうる」
「自由市場を圧迫せず、さらに自由市場の不得意なところをフォローすることで、自由市場の不安(≒予期)を払拭して、市場のパフォーマンスの向上に貢献しようというわけですね」
末席も追加の説明をしながら相槌をうちつつ嶋野に結論をゆだねる。

「そして、経済が好調のときはより自由(な競争環境の方向)に、逆に不調のときであれば手当を手厚めに。ケインズはざっくりこういうバランス(適量感)を考えていた*7。でも、それで不況が本当になくなるかどうかは、いまでも議論が分かれるところではある」
「なんだか、古典派は『お父さん』、ケインズ派は『お母さん』みたいな感じだな・・・。今度こそ本当に不況が終わればいいんだけど・・・」
そう感想を漏らすケンジを、末席と嶋野は微笑ましく眺めた。

※次回、「ケインズからの回答2」に続きます。

*1: いわゆるセイの法則が成り立っている状態。詳しくは第17回を参照
*2: セイの法則は現実的にはなかなか成り立ちにくい。詳しくは第17回を参照
*3: 共産主義による計画経済下では、みんなで計画的に生産されたものは、みんなのおカネで買い上げる。詳しくは第17回を参照
*4: たとえば、プロレタリア文学などがある。ちなみに日本のプロレタリア文学では『蟹工船』(小林多喜二・著)などが有名
*5: 価格の単純な高低だけではなく、「予期」(≒今後の動向の予想を織り込むこと)のおよぼす影響はかなり大きく、また複雑であることがわかってきている。行動経済学、経済物理学などを参照
*6: たとえば大規模なインフラ整備や医療・福祉関連といった社会保障などはその典型
*7: いわゆる「逆循環的」な施策(雨が降ったら傘を貸す)が、公的機関の役割と考えていた。ちなみに民間セクターの力学では、雨が降ったら傘を高く売るのが合理的であり、これを「順循環的」な施策という。cf.『スティグリッツ早稲田大学講義録グローバリゼーション再考』藪下史郎、荒木一法著)

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