日本では新奇的に扱われる「アベノミクス」、じつは「世界標準ノミクス」だった!?(2) 財政政策編 

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末席研究員は、「アベノミクス」に関して、週刊ヨミヨミこども新聞の記者の取材を受けている。読者であるこどもたちにもわかりやすい政治と経済の解説を求められるというムチャぶりに、必死に対応中だ。例のごとく末席は、あらゆる「需要」に応えなければならない。それが麹町経済研究所の基本方針だからだ。

記者は、はやく(2)財政政策の話を聞こうと、(1)金融政策についての最後の質問をした。
「あのー、素朴な質問なんですが、なぜ金融緩和政策で、株の値が上がって、円が安くなるんでしょうか」

記者の素朴な質問は思いのほか堪えるな・・・、こどもに株高と円安のメカニズムを理解してもらうなんて、どうすればいいのだろう。末席は途方に暮れながら口を開く。

「みかん箱にみかんが入っているとして、みかんのかず(数量)が増えると、箱は重くなってハカリの目方は上がりますよね。みかんはおカネで、株価は目方だと思ってください」

そんなに単純なことなのか、と記者はびっくりしている。末席はそれを気にする余裕もなく続ける。

「で、みかんが多くなると、みかん一個あたりの『ありがたみ』が薄れますよね。みかんのありがたみが、おカネ(通貨)の価値だと思ってください。少なければ高くなるし、多ければ低く(安く)なります」

まあ、たしかにそうだけど、経済は難解で知られる現象だし、話はそんなに単純でもないだろう、きっと追加の但し書きがあるはずだ。記者はいぶかしがって、追加の説明を待っている。

「説明は、以上です!」

えっ・・・!しばらくの沈黙ののちに記者は確認のために聞いてみる。

「それで本当に終わりなんですか・・・」
「はい。意外に思われるかもしれませんが、貨幣数量理論的にいえば、ざっくりそういうことなんです」*1

「その理論は、現実に合ってるんですか?」
「まあまあイイ線行ってるな、というのが世界中の著名な経済学者たちの意見でしょうね」

記者は度肝を抜かれた様子だが、たしかにそう考えると、首相の話とマーケット動向にはある一定の整合性もあるようにも見える。
「なんかこう、ずいぶん機械的なものなんですね」

「もちろん一致するにはタイムラグがあったりもしますが、株や為替のマーケットはいまや瞬時に情報を折り込みますからね。因果関係を視るにしても都合がいいのです」
「つまり、マーケットの反応は正直であると」
「そうでしょうね、マーケットは『日本昔ばなし』に出てくるおじいさんとおばあさんくらい正直者だと思います」

どの昔ばなしを参照しているのかソースを出しなさい、もしかして「笠地蔵」か、まさか「カチカチ山」ではあるまい、とオトナ気なく詰め寄りそうになるのをこらえながら、記者は応じる。

「そんなホノボノしているイメージはないんですが・・・。ただ、マーケットの反応は信用に値しそうだというのはわかりました」
記者は平常心を取り戻して続ける。

「でも、それで済んだら、あとの2本の矢は要らないですよね」

末席は待ってましたとばかりに、それに応える。

*1: 貨幣数量理論(quantity theory of money)におけるMとPの関係より。貨幣数量理論は、流通している貨幣の総量とその流通速度が物価の水準を決めるという、新古典派経済学の主要をなす理論で、貨幣ストックをM、流通速度をV、価格をP、生産量をYとすると、MV=PYというモデルが成り立つとする仮説。詳しくは、第5回「じつは、一粒で日本経済の三大症状に効く妙薬がある!?」を参照

おカネの循環の”弾み車”としての財政政策

「そうですね、不況が軽傷であれば、矢は一本で足りる。それで不況は昔ばなしとなる。しかし、そうはいかないのではないか、というわけで、2本目が必要になってくる、と首相は主張しているわけです」

「にほんめで不況を昔ばなしに。まさに、にほん昔ばなし・・・って、オイ!」
記者は取材先相手なのにもかかわらず、おもわずノリツッコミをしてしまった。反射的に出てしまうところをみると、ダジャレは嫌いらしい。

「それが、(2)の財政政策なんですね。(1)の金融政策よりも踏み込んだ対応です」
末席は記者のノリツッコミを気にせずに、どんどん説明を続ける。
「(1)は、どちらかというとオトナな対応なんですよ。マイルドに背中を後押しするような手法です。『おカネ借りやすくするから、借りたい人はどんどん借りれますよ』という感じです。
ただ、『そういわれても、ちょっとコワイ・・・』という人が多数だとしたら、どうすればいいのでしょうか。水飲み場まで連れて行くことはできても、水を飲みたくなければ、飲まないわけです」

少し離れたところで涼しげにミネラルウォーターを飲んでいるマネジャーを尻目に末席は解説する。

「それで(2)をやる、と。財政政策というのはザックリ言うとどんなイメージなんですか?」
記者はすでに末席の咀嚼感に依存をしはじめている。

「そうですね。『じゃあ、しょうがない、ワシがカネ渡すから、発注どおり、やったって!』ということです」

インチキっぽい方言がチョイチョイ出てくるのはなぜだろう、と気になりながら記者は応じる。

「なるほど。みんながコワイというなら、じゃあ国がおカネを率先して使います、ということですね。でも、どう違うんですか」
「景気に関していえば、使う人はどちらでもいいんです、個人・会社だろうが、国だろうが。なので、民間で使う人が少ないなら、国が進んで使う、ということです」*2
「なるほど。でも、いっぱい使っちゃったら良くないんじゃ・・・。あとで怒られてもアレだし・・・」
「そこは議論がまた分かれるところなんですよね。『将来返さなきゃいけないから少ないほうがいいよ』『いやいやいま復活させないと将来も危ないよ』といった感じです」

ウーン・・・。記者は唸り声をあげて考え込んでいる。末席はかまわず続ける。

「まあ、経済が復活しないことには、税収も結局、増えませんからね。不況のときには(2)はやるべきだと思います」*3
記者はそれに反応した。
「でも、バラマキすぎるのもアレなんじゃないですか・・・」

末席も即応する。
「ええ。ただ、バラまかないことには、はじまらないのも事実なんですよ。で、バラマキの方法にはざっくり二通りあって、(a)直接給付(含む減税)と(b)公共事業です。(a)直接給付はわかりやすいですよね。ただ、それを実際に使ってくれるかわからないところが歯痒い。とくに(1)金融政策が十分でなくデフレのままだと、使われないで貯金されるほうが多いでしょうね」*4
「だから、(1)金融政策が順番的にまず必要なんですね!」

「そうです。それで、(b)公共事業のほうは、国が実際に直接使うことで国民におカネを渡す、というイメージです。入った給料を使おうかな、という人も増えてくれば、近隣の人にもジワジワ行き渡るのです*5。ただやはり、デフレ下では、給料が増えても貯金にまわされやすい」
「うーん。でも、直接給付よりは、やっぱり国が公共事業いっぱいやるっていうのはちょっと抵抗があるんですが・・・」
「気持ちはわかりますよ。ただ、少なくとも一回はおカネが実際に使われるわけです*6。さらにいえば、そもそも国ってなんのためにあるんでしょうかね」

*2: 政府による有効需要の創出。これが、いわゆる「財政政策」「財政出動」が景気対策として提案される理由で、体系的にこの必要性を説いた中心人物がJ・M・ケインズ
*3: いわゆるケインズ政策。cf. 『雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉〈下〉』 (J・M・ケインズ著、岩波文庫)
*4: デフレ下においては、名目金利が十分に低くなっても、流動性選好(おカネをいつでも流動的に動かせるという利便性を好むこと)によりタンスなどにそのまま貯金として死蔵されやすくなってしまう
*5: cf.乗数効果。これが上手くまわると(国が)使ったおカネ以上の有効需要が創出される。波及効果とも
*6: 実際に使われる回数を「貨幣の流通速度」と言ったりもする。これが高いと短期間で乗数効果があらわれる

国が復興・経済対策にコミットしないのは憲法違反?!

記者は「?」で頭のなかがいっぱいになっている。

「ぶっちゃけ、国民の幸せのためですよね、中世のような封建国家でない限りは*7。景気がよくなることは、国民を幸せにします。また、必要な公共事業(メンテナンス含む)をやらないと、国民の生命が脅かされますよね。国の借金があるからといって大震災の被災者支援に税金をあまり使わないとか、インフラが脆弱なままにして亡くなる方を出すとかいうのは、もはや国の義務違反なわけです、近現代国家であれば。それより、たとえばまず20兆~30兆円ぐらいを素早く使って状況回復を急いで、それで元気になった国民みんなで30年かけて返せばいいじゃないか、というのが血の通った人間の発想ではないでしょうか*8」

記者は末席の熱弁に気圧されたまま、質問を試みる。

「でも、そんな30兆円とか、一気に使って大丈夫なんですか。ギリシャみたいになってしまったら困ってしまう気が・・・」

「国債で賄ったとして、自国通貨建てで、多くが国内で消化されている状況であれば、ギリシャのようなことにはなりませんよ*9。震災復興に十分な予算をつけて素早く実行することは、もちろん被災者の方のためにもなりますし、ケインズが言うように巡り巡って日本の景気のためにもなるんです。なぜこれをやらないのか、その理由のほうが私にはわかりません」

常に制限される。まさに手足を縛られたような状態で、このような事態が起こりうることを、ユーロ通貨圏成立前に懸念する著名な学者も多くいたcf.「最適通貨圏」の前提への懸念

記者は勇気を出してカットインを試みる。

「でも、『十分にやってる』『でも効果でない』という言い訳はよく聞きます」

末席は熱弁を通り越して憤慨して言った。
「デフレだと財政政策をしても乗数効果が十分に効かないんですよ。その効果は円高を通じて海外にも逃げてしまう*10。効果は相殺され、そして借金だけが残る。まずデフレを止めないとだめなのです*11。これだけでも、デフレ脱却がいかに最重要かつ真っ先に取り組むべきイシューかということがわかるでしょう」

記者は、末席にクールダウンを促すように応じる。

「であれば、もはや国の義務たる出費であり、それが当該者と、結局は国民全員のためになる、と」

「そうですね。国の義務、それを定めたのが憲法です。それを全うできないというのであれば、はっきりいって、憲法違反となります」*12

そんな大げさな、、、慌てる記者は絶句したが、末席は所長の面影を思い出しながら、所長の決めゼリフを真似しながら言った。
「憲法第13条には、『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』とあります。そして、極論をするなら、憲法の最重要条文は、この第13条なんですよ。いわば現代の国家が存立する根拠と同義なのですから」*13
「という理由から、2本目の矢(2)財政政策はガツンとやるべき、その正統性の根拠は憲法第13条、と。」
記者は諦め気味に末席のコメントをまとめた。

「そして(2)を極力有効にするにも前段で(1)金融政策の成功は必須、ということなのですね」*14
記者の発言を受け、末席はようやく経済学者らしい面持ちを取り戻した。(つづく)

*7: 詳しくは第7回「じつは、経済学の目的は、資本主義革命の解明だった!?」参照
*8: 方法論の一例としては第5回「じつは、一粒で日本経済の三大症状に効く妙薬がある!?」を参照
*9: デフォルトが疑われると、国債の金利やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の上昇につながるが、事実として現状でマーケットは日本の財政破綻を織り込んでいない。ギリシャの場合は、債券の多くが海外で消化されており、自国の通貨建てでないため、独自の金融政策ができず、ギリシャが自力で対策を練ることが難しかった。また、財政政策に関しても、ユーロの加盟基準等があるため、機動的に行うことが非
*10: ノーベル賞学者マンデル・フレミングの「国際金融のトリレンマ」モデルなどを参照
*11: cf. 『まずデフレをとめよ』岩田規久男著、日本経済新聞社
*12: 基礎法学を参照。たとえばわかりやすい入門書に『キヨミズ准教授の法学入門』(木村草太著、星海社新書)がある
*13: 『痛快!憲法学』 『日本国憲法の問題点』 (ともに小室直樹著)など参照。経済学がらみで言えば、自由主義派の論者であっても「夜警国家論」(アダム・スミス)といった“国家の義務論”がある
*14: いわゆる日本の「リフレ派」と言われるエコノミストが財政政策に関して長年主張をしてきていることであり、ノーベル賞受賞者を含む世界的に著名な経済学者(ポール・クルーグマン氏、ジョゼフ・スティグリッツ氏、浜田宏一氏など多数)の見解とも合致するため、「アベノミクス」は経済学的に正しいという意味で、世界的な好感や評価につながっている。ちなみに海外の「アベノミクス」に批判的な意見は、自国の経済的な損得の観点によるもの、つまり「日本の円安が自国にとっての経済的脅威となる」といった認識を背景にしたものも多く、たとえばドイツ首相の「通貨安競争への懸念」発言などはこれに類する

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