その比較で決定していい? -選好逆転 

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問題です

以下のAさんの問題は何か。

Aさんは消費財メーカーのマーケター。現在、新商品のパッケージについて検討中である。

「今回の新商品サプリメントの『Z』は2つの差別化要素がある。アンチエイジングの効果が高い成分が多いことと、毛髪の成長を活性化するかもしれないと言われている成分が多いこと。どちらを前面に打ち出すべきかしら?2パターンのパッケージを(事前に加齢、毛髪の双方に悩みがあると応えた)想定ユーザー層に同時に見てもらった調査結果では、アンチエイジングの方を前面に出したパッケージの方が、55対45くらいで優位ってところかしら。個人的には、最初に別々に見た時には、毛髪の成長の活性化の可能性を前面に出しているパッケージの方がインパクトがあって良さそうに見えたんだけど、消費者がアンチエイジング前面の方が好みというのだから仕方がないわね。今回はアンチエイジングを前面に出すパッケージ案でいこう」

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解答です

今回の落とし穴は、「選好逆転」(厳密にいえば、「選好逆転の可能性の見落とし」)です。選好逆転とは、どの選択肢を選択するかが、その選択肢が提示された状況や順番などによって変化してしまう現象を言います。

選好逆転にはさまざまなパターンがありますが、よく知られているものとして、同時に提示するか、それとも別々に提示するかで、選好の結果が変わってくるという現象があります。

たとえばこんな実験結果が知られています。複数のサンプル集団に、3年契約の仕事の給与条件について、以下の2つの選択肢のうちの1つを見せます(数字は本コラム用に多少修正しています)。各サンプル集団は、極力似たような属性の集団とします。

パターン1:初年度給与800万円、2年度給与750万円、3年度給与700万円
パターン2:初年度給与700万円、2年度給与750万円、3年度給与800万円

パターン1だけを見せられたサンプル集団は、この選択肢を魅力的ではないと考えました。逆に、パターン2だけを見せられた各サンプル集団は、概ねこの選択肢を好意的に捉えました。「この条件で働いてみたいか?」との質問に対しては、パターン2だけを見せられたサンプル集団の方が、「働いてみたい」と答える比率が高いという結果となりました。

面白いのはこれからです。その後、各サンプル集団は、それぞれもう1つの選択肢を提示され、2つを比較した上でより好ましいと思う方を選ぶように指示されます。その結果、早い時期にキャッシュを得ることができるパターン1を選ぶ人間がほとんどとなったのです。

なぜこのようなことが起こるのでしょう?パターン1だけを見せられたとき、強烈に印象に残るのは、毎年給与が下がるという点でしょう。給与が毎年下がるというのは、通常はあまり好ましいことではありません。それゆえ、この選択肢単独では魅力的な選択に映らないのです。

しかし、パターン2と比較すると、額面の総額は同じで、しかも不確実性が低く時間的価値が高い初期の段階にキャッシュが手に入りますから、パターン1の方が実は有利な条件である(ファイナンスの言葉でいえば、NPVが高くなっている)ことに気がつくのです。

このようなことが起こる原因としては、「人は、同時に評価する方が、総合的により合理的な判断できる」という考え方や、「個別評価では、評価が難しいあるいは目につきにくい評価軸(先の実験例であれば不確実性や金銭の時間的価値の評価)を軽く見、評価がしやすい評価軸(給与が毎年上がるか下がるか)を重く見る」という考え方などが提示されています。

冒頭のケースに戻ると、Aさんは、2つのパッケージ案を同時に提示していることがうかがえます。しかし、現実問題として、通常、最終的に消費者が目にするのは1つのパッケージでしょう。しかも、「アンチエイジング」と「髪の成長に効果がある可能性あり」では、感じる効用のダイレクト感も違います。であれば、同時比較テストもさることながら、それぞれ片方を示したうえで、「買いたいと思うか?」などを質問するというテストも必要だったかもしれません。

商材にもよりますが、人間は瞬時の判断で購入の意思決定をすることが少なくありません。しかも、それは往々にして合理的にではなく、感覚的に行われます。世の中、常に時間をかけて合理的に判断する人ばかりではない、むしろそういう人間は稀であるという意識は持ってきたいものです。

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