まあリーダーがそう言うなら・・・ -機長症候群 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

問題です

以下のA課長の問題は何か。

A課長はある企業の広告を担当している。部下のB君とC君、そしてA課長の上司のDマーケティング部長の4人で、ある商品のプロモーションについて話し合いをしていた。

A: 「やはりこの商品は差別化された機能をドーンと目立つように打ち出すべきだと思います。小さくて持ち運びがしやすいというメリットを、なるべく情感に訴えかける表現で顧客に伝えましょう。そうすれば、きっと注目を浴びるはずです」

B: 「僕もA課長に同感です。ターゲットはいわゆるF1層(注:20‐34歳の女性層)の女性が中心ですから、そのアプローチがいいでしょうね。とにかく彼女たちの共感を得ないと」

C: 「僕も同じ考えです。F1層に知名度や好感度の高い女性タレントの○○なんて使うといいと思います。イメージぴったりですし、いまが旬のわりに、まだ若くてギャラもそんなに高くないから、狙い目じゃあないでしょうか」

B: 「ユーザーイメージにも近いし、いいね。僕もファンなんだ」

A: 「○○は確かにイメージ合うし、好感度も高いね。じゃあ、その線を軸に進めましょうか。他に広告イメージに合う候補はいるかな?」

D: 「おいおい、ちょっと待ってくれ。昨今の不況の折、まずタレントを使うという前提で話を進めるのは感心しないな」

A: 「はあ、でも・・・」

D: 「そもそも、F1層向けの商品だから情感に訴えてというのも、発想が紋切りじゃないのかね。今回の新商品は、これまでにないくらいに機能的な差別化が出来ているんだ。もっとそこをストレートに打ち出していけば十分じゃないのか?」

A: 「そうはおっしゃいますが、有名タレントを起用した途端に爆発的に売れ始めた『△△』のような例もありますし」

D: 「A課長、それはその通りだが、『△△』の時は、使ったタレントが知名度も好感度ナンバー1だったのだから、そのくらいの効果は当然出るよ。もともと想定していた広告投資も大きかったからな。ずいぶん広告にはお金を使ったよ。今回のケースとは一緒にできない。個別に考えていかないと」

A: 「それにしても、『△△』の時は10倍の売上増ですよ!」

D: 「いや、僕の長年の経験でいえば、やはりこういうケースでは、奇をてらうより、もっと機能面を前面に打ち出すことだ。そうすれば大当たりは仮にしなくても、大コケすることもない。『△△』の時は、我われマーケティング部の立場上も、大きな勝負が必要だったからね」

A: 「でも・・・…」

D: 「A課長、今回は値段も手ごろだし、モノは悪くないんだから、広告で冒険する必要もないさ。君は広告担当だからどうしても広告にこだわるけど、もっと全体を見る必要があるよ。ここは地道にいこう。まあ、僕の経験を信じてくれ。最終的に責任をとるのは僕なんだし、ここであまり揉めるほどのことじゃないさ」

A、,B、,C: 「(まあ、これまでにも結果を出してきた部長がそう言うなら仕方ないか・・・)」

数カ月後、件の新商品が発売になったが、売れ行きは芳しいものではなかった。

19348310ff28d8badc458f5d6efc5781 e1422005048972

解答です

今回の落とし穴は、「機長症候群」です。リーダーの言うことに押し切られて議論や反論を止めてしまい、好ましくない結果を招いてしまうような場合に使います。もともと、飛行機の機長が間違った判断をしたにもかかわらず、それをサポートする副操縦士らが機長の誤った考えを翻意させることができず、結果として墜落事故に至ってしまったというケースからこの名がつけられています。

冒頭のケースでは、A課長のみならず、B君、C君もD部長の言うことに納得したというわけではなく、むしろまだ反論がある感じです。しかし、結局、上司であるD部長に押し切られるような形で、彼の案を飲むことになってしまいました。良い結果が伴えばそれでもよかったのですが、今回は、D部長の案を飲んだことを悔やむことになってしまったようです。

では、今回の3人、特に一番D部長に対して一番ものが言える立場のA課長は、なぜ最後まで食い下がらなかったのでしょうか?

もちろん、D部長の強引さなども要因として考えられます。「どうせ意思決定権もあるD部長と争っても勝てないのなら、無理に口論する必要もない」という考え方です。それはそれで、組織の力学としてはありうる話です。

しかし、強制力が働くためにリーダーの言うことに従わざるを得ないことが「機長症候群」の本質ではありません。より重要なポイントは、リーダーが優秀な場合、往々にして、フォロワーが自律的に考えたり、リーダーと議論することをしなくなり、結果として、盲目的にリーダーに追従した形になってしまいがちなことです。それが「機長症候群」の問題の本質でもあり、難しさでもあります。

今回のケースでも、最終的にA課長らが押し切られてしまった重要な原因として、D部長がそれまでに結果を出してきた、すなわちD部長が優れたマーケターだという事実があります。優秀で結果を残してきた人の言葉に対しては、人は批判力を失ってしまうのです。

事実、ある調査によると、(結果を残してきた)優秀なリーダーだけではなく、斯界の権威や第一人者の指示に対しても、人は自分自身で意思決定することを放棄しやすいことが示されています。

人は往々にして、自分の影響力を過大/過小に評価します。これはどちらも望ましい結果をもたらしません。「機長症候群」は、自分の影響力を過小に評価する場合のケースといえます。

日本人は謙譲の美徳があるせいか、しばしば自分の実力を控えめに考える人が少なくないように感じます。対人コミュニケーションや仕事にあたる際の態度として「謙虚」であることは悪いことではないのですが、自分の影響度を過剰に小さく見積もってしまう「過小評価」は、それとは異なる問題であり、クリアすべき課題です。

「できるリーダー」と周りから言われる方の中には、どんどん自分でアイデアを出し、ガンガン意思決定を進める方も少なくないでしょう。しかし、彼/彼女が優秀であればあるほど、そうしたスタイルは、実は部下を「考えない」方向へと向かわせ、スポイルしている可能性があるのです。

特に会社において上司は、権威と同時に権限を持つ立場の人間です。「機長症候群」がもともと生じやすい素地があるわけです。そうしたことを理解した上で、自分の影響力を正しく把握し、権威は保ちつつも、フォロワーを思考停止に追い込まないコミュニケーションスタイルが求められているのです。

なお、これは、リーダーに意思決定することを止めよといっているわけではありません。ある程度エンパワメントをしたとしても、重要な問題に関して最終的な意思決定をするのはやはりリーダーであるべきです。

ポイントは、それを強引に1人で決めるのではなく、皆に考えてもらってアイデアを出してもらって彼らの自律性を高め、かつ最善の意思決定に結び付けていくマインドとスタイルを持つことです。同時にフォロワーとしては、「どれだけ優秀な人間でも間違いはある」ということを意識し、「おかしい」と思ったらしっかり議論する勇気を持つことが望まれるのです。

名言

PAGE
TOP