それって誘導していない? -充填された語 

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問題です

以下のAさんの問題は何か。

「衆院議員のAでございます。昨今、政治主導に対する不信をお持ちの方も多いかと思いますが、ちょっと待ってください。我われは皆さまに選挙で選ばれた国民の代表であり、選良です。それに対して、官僚はあくまで試験を通過しただけの官吏であり、国民の皆様に選ばれた選良ではありません。対比するまでもなく、国民に選ばれたわけではない官吏が政治の方向性を決定するような状況はやはりおかしいと言わざるを得ない——私はそう確信しています」

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解答です

今回の落とし穴は、「充填された語」です。「感情に充填された語」と呼ぶこともあります。英語では“loadedlanguage”もしくは“emotionallychargedwords”と言います。これは、用語の選択の段階でネガティブもしくはポジティブな印象を与える言葉を選び、主張そのものとは別の次元で聞き手の印象を操作しようというものです。意図的になされる場合もあれば、無意識になされる場合もあります。

冒頭のケースは、「充填された語」に満ちた典型例と言えます。A氏は衆院議員である自らのことを「選挙で選ばれた国民の代表」「選良」とポジティブな印象を与える言葉で表現する一方、官僚のことを「試験を通過しただけ」「国民の皆様に選ばれた選良ではない」「官吏」と一般的にはネガティブな印象を与える言葉で表現しています。最後の「おかしいと言わざるを得ない——私はそう確信しています」という表現も、「おかしいのです」と言えばすむところを、あえて大げさな表現で誇張しています。

Aさんの言っていること自体は、主張として特段間違っているわけではありませんが、聞き手の印象を操作することで、自分の主張の妥当性を増そうとしていることが見て取れます。これは、意図的に「充填された語」を用いた例と言えるでしょう。

しばしば忘れがちですが、どんな言葉もニュートラルではありません。そこには必ず特定のニュアンスが含まれるものであり、そこに「充填された語」活用の素地があります。たとえば、「官僚」という単純な言葉には、他にも以下のような言い方があります(厳密には必ずしも同じ語義ではありませんが、ここでは多少の差異は捨象します)。

・お役人
・役人
・官吏
・上級公務員
・ビューロクラット

人にもよるでしょうが、それぞれ受ける印象は異なるはずです。冒頭ケースのように、他の言葉と組み合わせることで、そうした印象操作をさらに増幅させることも可能なのです。

ところで、こうした議論からもわかるように、「充填された語」はレトリック(修辞法)の一種です。レトリックは、それを取り除くと論理構造がむき出しになってしまいます。そのため、しばしば、自分のむき出しの論理構造の貧困さを補うため、あるいは、議論において論理で負けそうな人が、相手を攻撃する場合などに「充填された語」が用いられることがあります。以下のようなケースです。

「新規事業というのは未知の大海に乗り出すようなものだ。未知の大海だから、どんなリスクや困難が待ち構えているかは誰にもわからない。そうしたリスクをとるべきではないと考えるのは、私だけではないはずだ。いや、むしろこう主張したい。なぜ、あえて未知の大海に乗り出そうとするのか、と」

ここから「充填された語」を取り除くと、結局、言っていることは「新規事業はリスクがあるから止めるほうがいいのではないか」ということです。これでは説得力がないため、「未知の大海」などの比喩を用いて聞き手の印象操作をしようとしているのです。

こうした印象操作に引っかからないコツは、論理構造をむき出しにすることです。上記の例であれば、「それは、要するに、新規事業はリスクがあるから止めるほうがいいということですね?」というように確認する、あるいは、「なぜそうお考えなのですか?」とさらに深く根拠を掘り下げるなどです。

レトリックは文章術の基本ですし、適切に用いれば説得の武器にもなりますが、往々にして本質を覆い隠してしまう両刃の剣ともなりえます。印象や感情に必要以上に流されることなく、主張の本質をしっかり見極めることが必要です。

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