だからそこに関して反対しているわけではない -同意されている前提への反論 

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問題です

以下のBさんの考え方の問題点は何か。

A: 「僕は夫婦別姓選択制に賛成だな」
B: 「なぜ?」
A: 「世の中には、自分の姓を残したいのにそれができない女性がたくさんいる。それは大きな問題だ」
B: 「確かに事実はそうだ。たしか比率で言うと、事実婚を除いた場合、夫の姓を選ぶ夫婦の比率はほとんど100%だったかな」
A: 「およそ98%だ。21世紀にもなって、この数字の偏りはやはり無視できないだろう。女性の方に負担がかかり過ぎている」
B: 「しかし、現在の法律では、どちらの姓を選ぶかは夫婦に委ねられているのだから、決して法の下での男女平等に反してはいないと思うよ」
A: 「だから、その点に関して問題だと言っているわけではいないよ」
B: 「えっ。そう言っているように聞こえたけど…」

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解答です

今回の落とし穴は、「同意されている前提への反論」です。これは、相手が特段反対していない前提に対してその前提が暗黙的であり明示的に示されてはいないために、それが主張の重要な根拠だと思い込んで、そこに反論したりすることです。前回の「論点のすり替え」と内容的に似ていて重なり感のある落とし穴であり、どちらも往々にして議論がかみ合わない、という状況をもたらします(ただし、必要以上に区別に拘る必要はありません)。

今回のケースでは、もともとA氏の主張は、「女性の方に負荷がかかりすぎるから、夫婦別姓を選択できるようにすべきだ」というものです。それに対してB氏は、「現在の法律では、どちらの姓を選ぶかは夫婦に委ねられているのだから、決して法の下の男女平等に反してはいない」と答えています。一見、議論が噛み合っているように見えますが、本当にそうでしょうか。

よくよく見てみると、A氏は別に、「法律が男女を差別している」などということは言っていません。A氏が拘っているのは、あくまで結果として現状の夫婦同姓の仕組みが女性に負担になっているということです。つまり、「現在の法律では、どちらの姓を選ぶかは夫婦に委ねられているのだから、法の下の男女平等は形式的には守られている」ということについては、A氏もB氏同様、合意しているのです。

A氏はその上で、社会的な慣習などによって結局は男性側の姓を選ぶ女性が多く、それを緩和するために夫婦別姓を選択肢として認めたらいいのでは、と主張しているのが今回の構図です。B氏はそこを勘違いしてしまいました。

こうした事例は意外に少なくありません。たとえば、C氏「働きたいのに働けない人が多いのは問題だ」という発言に対して、D氏「働きたくない人もいるからな」と答えるようなシーンです。このケースでは、C氏も、D氏の「働きたくない人もいるからな」と言う発言に対しては別に反対はしないでしょう。C氏が問題にしているのは、あくまで「(働きたくない人は別にして)働きたいのに働けない人が多いのは問題だ」ということなのです。

こうした議論のベースとなっている前提は、十分に議論する時間があり議論が深まれば、自ずと明らかになり、噛み合ってくることが多いものです。しかし、昨今のビジネス環境下では、十分な時間や議論の深さがいつも担保されるとは限りません。常に論点を明確にし、相手がどのような前提で議論しているか意識したいものです。

ところで、今回のテーマからは逸れてしまいますが、冒頭ケースのB氏の「現在の法律では、どちらの姓を選ぶかは夫婦に委ねられているのだから、決して法の下での男女平等に反してはいない」という反論は、別の意味でも反論になっていません。なぜなら、夫婦別姓選択制を導入したところで、法の下での男女平等に反することにはならないからです。

もし明確に反論したいのであれば、社会的混乱や事務手続き変更のコストなどのデメリットが、諸々のメリットを上回りそうだという説得力のある論理展開がここでは必要なのです。

注:今回の事例における主張はあくまでコラム用に書いたものであり、筆者の個人的意見を示すものではありません。

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