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その初期設定はどういう効果をもたらす? -デフォルト設定の罠

投稿日:2010/09/29更新日:2019/08/14

問題です

ある有料会員サイトの設計にあたって、担当者はこう考えていた。

「さて、これで大体のデザインは決まったな。あとはメルマガ受信の意向の設定と、サービス利用継続の意向に関する設定だな。メルマガはこの情報洪水の中、やはりたくさんメールが送られてくることを嫌うお客さんも多いだろうから、『希望する』と『希望しない』のどちらかをしっかりチェックしてもらうようにしよう。サービス継続も同じでいいかな。『自動継続を希望する』と『自動継続を希望しない』のどちらかにチェックしてもらう形にしよう」

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解答です

今回の落とし穴は、「デフォルト設定の罠」です。正式な用語ではありませんが、ここではこう呼びます。これは、デフォルト設定(初期設定)に引っ張られて、必ずしも望ましくない行動をとってしまうというものです。逆の立場から言えば、もっと効果的なデフォルト設定があるのに、それを見過ごしてしまうことも、別の意味で落とし穴にはまったと言えるでしょう。

デフォルト設定がなぜ重要になるかと言うと、まず、人間には、「現状維持を好む」という性質があるからです。言い方を変えると、毎回毎回、新しい意思決定をし、変化にさらされるのを嫌う人が多いのです。「もう面倒だからいつもと同じでいいよ」という心理と言えます。

たとえば学食のメニューの数が急に増えたからと言って、それを毎回眺めて比較しようという学生は少数派で、結局はいつもの定番メニューを選ぶ人が多いことが知られています(面白いことに、メニュー数がある一定の数を超えると、この傾向はさらに強まります)。もっと卑近な例では、テレビのチャンネルの選択があります。もちろん、中にはテレビ番組欄とにらめっこをしながらこまめにチャンネルを変える人もいるでしょうが、一方で、見たい番組が終わった後、漫然とそのチャンネルをつけっぱなしにしている人は、さらに多くの数に上るでしょう。

さらに、人間が陥りやすい心理バイアスとして、「アンカリング」と呼ばれるものがあります。これは、最初に提示された条件や数字に引っ張られて判断をしてしまう人間の心理的傾向を指します。

たとえば、スロバキア共和国という国の人口を推定してもらう実験を例に挙げてみます。国名は知っていても、必ずしも日本とはなじみの深い国ではありませんから、詳細を知っている人はごく少数派でしょう。

Aのグループには、まず「スロバキアの人口は100万人より多いと思うか」と聞きます。一方で、Bのグループには、まず「スロバキアの人口は1500万人より多いと思うか」と聞きます。その後、それぞれのグループにスロバキアの人口を推定してもらいます。

こうした実験では、ほぼ確実に、Bのグループの方が大きな数字を推定してしまう傾向があることが知られています。つまり、最終的な質問である「スロバキアの人口は何人と思うか」が同じであったとしても、その前にある数字を印象付けられてしまうと、人間はどうしてもその数字に引っ張られてしまうのです。このケースでは、Aグループの人々は200万人から400万人程度と答える人が多いのに対し、Bグループでは600万人から1200万人程度と答える人が多くを占めます(ちなみに、スロバキアの実際の人口は、現在およそ540万人となっています)。

デフォルト設定に関係してくる心理バイアス、心理的傾向は他にもありますが、特にこの2つは現実的に影響度が大きく、かつビジネスの現場でも現われるケースが多いので、まずはしっかり認識しておいてください。

さて、冒頭のシーンに戻りましょう。この担当者の考え方はどこがよくなかったのでしょう?メルマガに関する判断などを見る限り、非常に良心的に物事を考えるタイプの人と想像できます。それ自体は望ましいことですが、一方で、ビジネスパーソンである以上、ある程度のビジネスセンスは欠かせません。今回のケースであれば、メルマガの受信の希望については(影響度は比較的軽微と考えられ、かつ特定電子メール法も施行されているので)、最初からどちらかを選んでもらうような設定でもいいかもしれませんが、サービスの継続利用は事業の収益性に大きく影響しますから、安易に同じような選択制にするのではなく、もう一捻りほしいところです。皆さんならどんなデフォルト設定とするでしょうか?

このケースであれば、おそらく、サービスの自動継続をするしないを選択してもらうのではなく、デフォルトの設定を、たとえば「更新時期より1カ月前から更新時までに、サービス利用停止の連絡がない場合は、自動的に延長するものとします」とし、その上で、「サービス延長を希望しない方は、ご連絡ください」とするのが、収益性の向上につながるでしょう。事実、雑誌の定期購読などでは、こうした方法が多用されています。

ただし、昨今は、CSR(企業の社会的責任)、コンプライアンスが強く求められていますので、上記のメッセージはしっかり分かりやすい場所に、連絡アドレスも含めて明確に書くことが必要でしょう。世の中には、サービスを打ち切るための方法を知るのに、サイト中を探し回らなければならないようなものも存在しますが、ここまでいくと逆効果です。コンプライアンスを意識し、ブランドイメージや中長期的な顧客満足度なども勘案した上で、収益性を高めるデフォルト設定を考えることが必要と言えるでしょう。

なお、余談ではありますが、筆者が個人的に変えたほうがいいと思う国家的なデフォルト設定は、最高裁裁判官の国民審査です。衆院選挙と同時に行われるこの審査では、「×」のみが「罷免」票としてカウントされ、チェック欄を空欄のままにしておくことは「罷免すべきではない(すなわち「信任票」)」と判断されます。これがもし、「○」が半数以上つかなかったら罷免、とルールを変えれば、最高裁裁判官の行動やPR活動も大きく変わるはずです(ちなみに、この最高裁裁判官の国民審査では、名簿の右に行くほど「×」をつけられる率が高くなることが知られており、そのため、名簿は「あいうえお順」ではなく、くじ引きで決めるようになっています。ここにもデフォルト設定の影響が見てとれます)。

デフォルト設定は、無意識に人の行動を左右する、極めて重要な設定です。さきほどは、設定側(特に企業側)の立場から、いかにこれと付き合うべきかについて書きましたが、逆に、消費者などの被設定側の立場から言えば、まさにデフォルト設定の罠に落ちて、無駄にお金を使ったり、好ましくない方向に誘導されていないかを冷静に見極める判断力を持っておきたいものです。

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