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部分の和は全体? -合成の誤謬

投稿日:2010/09/15更新日:2019/08/14

問題です

以下の状況の問題点は何でしょうか

消費者Aさん: 「当面、給与が上がりそうな見込みはない。だから、極力、無駄なコストはカットしよう。買い物は基本的に100円ショップやディスカウントストアでしかしないようにしよう」

消費者Bさん: 「経済が好転する気配はないわねえ。やはり遊行費などは切り詰めて、極力質素な生活をするしかないのかしら」

経営者Cさん: 「この経済環境下、贅沢は敵だ。徹底した経費削減をしよう。まず、冗費は切り詰めて、従業員の給与についても賃下げの交渉をしよう」

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解答です

今回の落とし穴は、「合成の誤謬」です。これは、個々の単位で見たときには合理的な行動であっても、世の中の人々全員が同じような行動をとってしまうと、全体としてはさらに悪い状況がもたらされてしまうというものです。経済学などで初歩的な誤謬として紹介されています。

なお、「合成の誤謬」は、形式論理学や、複雑系の科学などでも用いられる用語ですが、それぞれやや異なった意味合いで用いられています。本来は、そうした差異についてもご説明したいところですが、混乱を避けるために、本稿では、最も多用されていると思われる意味合い——ミクロレベルでは合理的な行動も、それが集まったマクロのレベルでは好ましくない結果をもたらす——について説明したいと思います。

さて、今回はAさん、Bさん、Cさんの3人の考え方を紹介しました。それぞれ、個別に見れば合理的な行動ですが、仮に、日本中の消費者や経営者がこの3人と同様の考え方をしたらどうなるでしょうか。おそらく、企業のほとんどは、売上げ減少に苦しむことになるでしょう。必然的に、さらにCさんのような考え方をする経営者が増え、賃金を下げたり、設備投資を抑えたりせざるを得なくなります。そうなると消費者の購買力はさらに下がりますし、ますます多くの人が不景気を予測し、消費や設備投資を押さえることになってしまうでしょう。こうしてデフレスパイラルが加速し、経済はどんどん縮小してしまうのです。

経済学の教科書によく載っている別の例としては、「皆が所得に対する貯蓄率を高めると、全体の貯蓄額が減る」というものがあります。詳細な説明は省きますが、要は、皆が消費しなくなる結果、経済が縮小し、最終的にはマクロレベルでの貯蓄額を減らすというものです。

これらはやや専門的な経済学の議論ですが、より身近な例としては以下のようなものが挙げられます。

・エアコンをガンガン効かせて快適な環境にする

・ゴミを所定外の場所に捨てることで手間を省く

・交通ルールを破って近道をする

・公共物(公園の植物など)を家に持ち帰って心の潤いとする

こうした行動は、1、2人だけがやっている分には大きな問題ではないでしょうし、ミクロ的には望ましい結果が生まれるかもしれませんが、皆がやり始めると望ましくない結果や場合によっては大混乱をもたらすことは、容易に想像がつきます。たとえばエアコンをつけっぱなしにしておくなどは、当人には快適な生活や職場環境をもたらすかもしれませんが、皆がこれをすると、石油など資源の枯渇を早めますし、温暖化やヒートアイランド効果で、ますます住みにくい環境をもたらしてしまうでしょう。

では、こうした合成の誤謬はどうしたら避けられるのでしょう。実は、個人の善意に任せている限り、合成の誤謬はなかなか回避できない、という点をまず理解する必要があります。

ゲーム理論に「囚人のジレンマ」という有名な考え方があるのですが、それと似たような要素があるのです。全員が協調すれば最善の結果をもたらすことができることは分かっていても、「自分だけがそれをやったら馬鹿を見る」「誰かは自分勝手な行動をとるだろう」という思いがあると、望ましい協調の姿は頭では描けても、結局は実行には至らないのです。

こうした状況を打破する一番手っ取り早い方法は、「合成の誤謬」が起こることを理解、予測した上で、それを避けるような強制力を働かせることです。たとえば国であれば法律を変えることで強制力を働かせ、協調を実現させることが理論的には可能です。たとえば、仮に、強制的に所得の一定比率以上は消費すべし、といった法律を導入できれば、消費は増え、経済が活性化する可能性は高いでしょう(ただし、そのためにクリアすべき課題は多いため、実際にこうした法律を施行するのは至難の業ですが)。

昨今難しいのは、経済がグローバル化した結果、「合成の誤謬」の可能性が世界レベルで広がっていることです。つまり、一国で合成の誤謬を回避できたとしても、グローバルには結局、合成の誤謬が起きてしまうという問題です。

全世界で強制力を働かせるのは極めて難しいことですから、結局、なし崩し的に個々が自分にとって最適の行動をし、グローバルマクロでみた場合、望ましい結果が生まれない、ということになりかねないのです。たとえば環境問題などは、先進国と新興国の利害が一致しないことから、そうした問題が起こりやすい領域と言えるでしょう。

こうした環境の中で、我々はどうすべきなのでしょうか。結論から言えば、まだ有効な解決策が出ていないというのが現状です。ただし、こうした理屈を知っているのと知らないのでは大きな違いです。合成の誤謬という難しい問題を認識しながらも、人々の英知を集め、合成の誤謬を避ける知恵が、今を生きる人類に求められているのです。

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